翔子と雄二は気を持ち直すと、少し距離を取った。
存外に恥ずかしかったのかもしれない。
そして数瞬すると、翔子が明久に視線を向けて
「……吉井。一つ、質問していい?」
と問い掛けた。
「なにかな?」
明久が首を傾げると、翔子は自身の左目を指差しながら
「……その眼帯はどうしたの?」
と問い掛けた。
翔子の問い掛けを聞いて、明久の体がビクッと震えた。
「……私の記憶では、三年前には眼帯は着けてなかった。それに、吉井は帯刀許可証を渡されていた筈……刀はどうしたの?」
「帯刀許可証だと!?」
翔子の言葉を聞いて、雄二は驚愕した。
帯刀許可証
それは文字通り、平時に於いても刀を持つことを許可された者に渡される許可証である。
日本は昔から剣術が栄えており、それの保護を目的に発行されているが、所持しているのは十人にも満たないと言われている。
「……私が知っている限り、吉井は小学校六年生で免許皆伝を有し、蒼の剣聖という称号を得たと同時に政府から許可証を渡された……」
翔子の言葉を聞いて、雄二は驚愕した。
小学校六年生で免許皆伝し、更には帯刀許可証を渡された。
それはもはや、麒麟児と言っても差し支えないだろう。
「……私の誕生会の時、吉井は自分の刀を持ってきていたし眼帯は着けていなかった……」
翔子はそう言うと、明久の腰を指差して
「……でも、今の吉井は刀は無いし、眼帯を着けてる……何があったの?」
と問い掛けた。
翔子の問い掛けを聞いて、明久は俯いた。
その態度だけで、二人は何かあったらしいとは察した。
もしかしたら、聞くべきではないかもしれない。
だが、翔子は気になってしまった。
しかも、明久が住んでいたのはここから一時間以上離れている街だった筈
それなのに、明久はこの街に居る。
それも気になった理由だ。
どれほど経っただろうか。
それまで俯いていた明久は顔を上げると、辛そうな表情で
「一年前……僕は、人を殺したんだ……」
と呟くように告げた。
「……え?」
「な、なに……?」
予想外の言葉を聞いて、二人は思わず目を点にした。
「この目はその時に相手に斬られて、失明したんだ……あの子を守るために、僕は刀を握った……そして、相手を斬り殺してしまったんだ……」
明久はまるで、独白するように語り出した。
「刀を握ったこと自体に、僕は後悔は無いさ……だけど、今の僕は刀を握れないんだ……あの時を思い出してしまって、体が震えるんだ……」
「……PTSD」
「トラウマか……」
翔子と雄二の二人は、自分の体を抱いた明久を見て当たりを付けた。
今の明久は、人を殺したという罪の意識に縛られているのだと。
「今の僕じゃあ、刀を握れない僕じゃ、あの子の……謙信の傍に居れない……守るって誓ったのに、刀を握れないんじゃ意味ないし、居る価値が無い……だから、僕は……っ!」
涙ながらの明久の言葉を聞いて、二人は察した。
今の明久は非常に危ういと。
今の明久は綱渡りの状態で、一人で居る。
今の不安定な明久を支えるべき人物が居ないのだ。
もし、今の明久を一人のままにしたら、何が起きるか分からない。
矛盾した思いを抱き、それでも尚、明久は誰かのために戦うことを辞めなかった。今回の騒動で、見ず知らずの雄二を助けたのがその証拠である。
「帯刀許可証は、今の僕には不要だから、一時的に返却してあるよ……でも、正当防衛になったとは言っても、人を斬り殺した僕に、再び帯刀許可証を発行されることは無いかな……」
明久は泣きそうな表情でそう言うと、一旦目を閉じて
「こんな話をしてごめんね……もし、僕と縁を切りたいなら、それでも構わないよ……僕みたいな人殺し、会いたくないだろうしね……」
明久はそう言うと立ち上がって、部屋から出ようとした。
その時、そんな明久の腕を雄二が掴んだ。
「坂本くん?」
「なあ……俺達と友達にならないか?」
明久が視線を向けると、雄二はそう言った。
予想外の言葉だったらしく、明久は目を見開いて固まった。
「……吉井が優しいことは、十分に分かる」
「そんなお前だからこそ、俺達は友達になりたいんだ」
二人がそう言うと、明久は首を傾げて
「僕みたいな、人殺しでいいの?」
と問い掛けた。
すると、二人は頷いて
「……吉井だから良い」
「お前だから良いんだ」
と同時に言った。
二人の言葉を聞いて、明久は目を閉じると
「まさか、今の僕に友達が出来るなんて思わなかったなぁ……」
と呟くと、二人を見つめて
「それじゃあ、僕の名前は吉井明久……好きに呼んで」
と言った。
それは、事実上の認可だった。
明久の言葉を聞いて、二人は笑みを浮かべて
「……私の名前は霧島翔子。好きに呼んで……吉井」
「俺は坂本雄二だ。好きに呼びな、明久」
と改めて名乗ってから、明久の名前を呼んだ。
「うん、よろしくね。霧島さん、雄二」
明久は頷くと、それぞれ二人の名前を呼んだ。
これが、この三人の出会いの物語だった。
この出会いを期に、三人は遊んだり、一緒に勉強したりするようになっていったのである。
三人称sideEND
雄二side
とまあ、これが俺達の出会いだったんだ。
長々と付き合ってくれて、ありがとうな。
つか、改めて話すとヤッパリ恥ずかしいな……。
ま、俺達の出会いはここまでにすっか。
次からは、また本編らしいからな。
楽しみにしてくれや。
じゃあな、これからもこの作品をよろしく頼むぜ。