宇佐美がFクラス男子と姫路及び、島田を捕まえた頃
雄二と翔子の二人は、メリーゴーランドから降りて次のアトラクションへと向かっていた。
「さってと……次は何にすっかな」
雄二がマップを見ながらそう言うと、翔子が雄二の袖を引いて
「……お昼にしよう」
と提案しながら、持っていたバスケットを掲げた。
どうやら、作ってきたらしい。
「お? ……ああ、一時過ぎてたか。OK、食うか」
翔子の言葉を聞いて、雄二は腕時計を見てからそう言った。
どうやら、時間を把握してなかったらしい。
「……向こうに、丁度いい芝生がある」
「お、じゃあ行くか」
翔子が指差しながら言うと、雄二は頷いた。
そして、芝生にビニールシートを引くと、翔子は持っていたバスケットを開けた。
バスケットは中で三段構造になっていて、一段目はおにぎり、二段目はサラダ等、そして三段目は唐揚げや春巻き等が入っていた。
しかも、それら全ては食べやすいようにと一口サイズに作られていた。
それを見て、雄二は両手を合わせて
「いただきます」
「……ん。どうぞ」
雄二の言葉を聞いて、翔子は雄二へとバスケットを軽く押した。
まず雄二はおにぎりを取ると、咀嚼して飲み込んだ。
「……どう?」
「美味いぞ。また腕を上げたな、翔子」
雄二が誉めると、翔子は首を振って
「……まだ、修行中。吉井には遠く及ばない」
と答えた。
すると、雄二は苦笑いを浮かべて
「いやぁ、明久は別格だろ。あいつはほとんどプロだ」
と答えた。
以前、雄二と翔子の二人は明久が作った料理を食べたことがあったのだ。
二人は明久が作った料理を一口食べて、思わず
『明久。お前、どこかの料亭で働いてたのか?』
『……これは最早、プロの領域』
と問い掛けたのだ。
その問い掛けに対して、明久は
『働いてはいないよ。ただ、昔から料理を作るのが好きでね。暇を見ては台所に立って色々とやってたんだ』
と答えた。
二人は知らなかったが、この時に明久に料理を教えたのは、長年吉井家の台所を支えてきた女中さんだった。
その女中さんは、明久に料理に関するあらゆる技術を教え込み、明久はそれを習得。
そこから更に、我流昇華させていったのである。
そして、明久はそれら全てをノートに纏めてあり、その冊数は既に三十冊を超えている。
そして、明久は知らないのだが、そのノートを明恵が見ており、明恵は知り合いに居たプロの料理人数人にそのノートを見せた。
すると、その料理人達は口を揃えて
『これは素晴らしい』
『尊敬に値する』
『こんな調理法があったなんて……』
と言ったのだ。
中には、総料理長の座から退いて
『修行してくる』
と言って、どこかに旅立った料理人すら居たのだ。
料理人達の言葉を聞いて、明恵は思わず
『この子……料理人で一財産稼げそうね……』
と呆然と呟いたとか。
「……吉井に見せてもらったノートの技術を再現しようとしてるけど、中々上手くいかない」
「いやぁ、普通は無理だろ? 俺だって頑張ったが、全体の一割も行かないで諦めた位だ」
翔子の言葉を聞いて、雄二はそう言った。
二人からしてみたら、明久は既にプロの領域に差し掛かっており、到達するにはかなりの時間を要するだろう。
だが、翔子は少しずつとは言え明久の料理の技術を模倣している。
雄二は翔子のその努力に対して、心中で素直に賞賛した。
雄二は母親がまともに料理が作れなかったので、必要に迫られて料理を覚えた。
だから、料理に関してはそれなりに自信はあった。
だが、明久のノートを見たら、自分はまだまだだと思った。
ちなみに、雄二の母親の料理の技術に関しては、もはや推して知るべし。
材料の形が残っていればまだマシな方で、酷い時は謎の物体Xに成り代わる。
一回、母親が料理を作るのを見た事が有ったが、雄二としては、なぜそんな事態になるのか、サッパリと分からなかった。
そして、母親の料理を食べた場合、十中八九で気絶し、一番酷いと命に関わる。
最近、父親が母親の作った弁当を食べて意識を喪失。
しかも、心肺停止する事態に発展した。
その時は、たまたま近くで弁当を食べていた同僚がすぐさま救急車を呼び、一命は取り留めた。
だが、父親曰わく
『いやぁ……気が付いたら河原に居てな。河原の向こう岸に死んだ曾爺ちゃんが居てな。凄い慌てた様子で両手を振ってたな』
と語った。
それを聞いて、雄二は思わず
『それ。三途の川だったんじゃないか……?』
と呟いたのは、記憶に新しい。
「……ちなみに、今回はおにぎりはご飯を少し固めに炊いて、味付けはシンプルに塩味だけ。唐揚げは昨日の内に味付けして、今朝揚げた」
翔子の説明を聞いて、雄二は興味深い様子で頷き
「これの隠し味はなんだ? 一つはしょうがってのは分かるんだが……」
と唐揚げを指差した。
「……すりおろしたしょうがとリンゴ。リンゴを味付けに使ったことで、肉質が柔らかくなって、冷えてもジューシーに揚がるって書いてあった」
翔子の説明を聞いて、雄二は頷いてから
「その位だったら、俺にも出来そうだな……今度やってみるか」
と呟いた。
すると、翔子がポツリと
「……これはまだ、初級編。上にはもっと凄いのがあった」
「マジかよ……」
翔子の言葉を聞いて、雄二は思わず空を仰いだ。
明久の料理への探求心に驚いたのだ。
その後、二人はお弁当を食べ終わると、次のアトラクションへと向かった。