お昼をそれぞれ取った後、明久達は沖に出ていた。
乗っているのは、大型のクルーザーだった。
つまりは、クルージングだ。
なお、大半の面子は経験している。
この中で初めてなのは、木下姉弟と康太、雄二だった。
意外な話しだが、雄二は一回も乗ったことは無かった。
過去に翔子が何回か誘ったが、その頃は荒れていたので無視していた。
康太は空を飛んでいる鳥を写真に納めている。
彼ほどの技量ならば、素晴らしい写真になっているだろう。
ただし、彼が本気で写真撮影するのは、エロだけだろう。
それが、康太がムッツリーニと呼ばれる理由だから。
閑話休題
明久達はクルージングしながら、釣りもしていた。
聞いた話しでは、かなりの大物も釣れることがあるらしい。
その証拠に
「フィーーーーッシュ!」
「負けるかぁぁぁぁぁ!」
更に、船首では
「フハハハハハハ!
と
ぶっちゃけ言って、あまりのハイテンションに他の面子は引いている。
「とりあえず……落ち着くまで放置しましょう」
という謙信の提案に、残りの面子は頷いた。
なお、落ち着いたのは数分後だった。
「いやぁ、悪いな」
「なんか、こう……釣り師魂っていうの?」
「それに触発されてな」
苦笑いを浮かべながら謝罪してきた三人の頭には、見事なたんこぶが鎮座している。
三人が落ち着いた、もとい、三人を落ち着かせたのは、明恵である。
余りにもハイテンションかつ、五月蝿い三人に、明恵が静かにキレたのだ。
そして三人の背後に回ると、見事なジャーマン・スープレックスで黙らせたのだ。
なお、その直後のことを康太はこう語る。
『……犬神家が三つ』
と。
そして、三人が元に戻ったので、本来の予定が再開される。
「はいはーい! お馬鹿三人組も落ち着いた所で、シュノーケリングをするわよ!」
そう言ったのは、他ならぬ明恵である。
そんな明恵は、既にウェットスーツ姿だ。
「一応、皆のサイズに合わせたのを色事に用意してあるから、着替えてね?」
と明恵は、船室を指差した。
そんな明恵の言葉に従い、全員はウェットスーツに着替えた。
そして、先に明恵と明久が飛び込んだ。
二人は経験者であり、先に障害物が無いかを確認しに潜ったのだ。
少しすると二人が上がってきて、⚪が書かれたボードを掲げた。
このボードは、こういう時に使える優れものである。
マグネットを使って文字や記号を書いて、会話が出来ない水中や会話が難しくなる立ち泳ぎの時に使えるコミュニケーションが取れるのだ。
それを見て、先に謙信が
「では、お先に」
と短く言うと、飛び込んだ。
そして、浮かび上がって少し離れると、残っていた面子も次々と飛び込んだ。
明恵と明久は全員が飛び込んだのを確認すると、ジェスチャーで集まるように指事した。
そして、全員が近くに集まったのを確認すると、再びボードを掲げた。
そこに書いてあったのは、並び順だった。
一番前に明恵で、最後が明久。
そして二人で、他の面子を挟むように書いてある。
これで、万が一にでもはぐれるのを防ぐのだ。
それを全員が見て、その通りに並んだのを確認すると、先に明恵が潜った。
それに続くように次々と潜っていき、最後に明久が潜った。
そして見えたのは、幻想的な光景だった。
海水は透き通るようで、海底の珊瑚がよく見える。
よく見ると、海底には過去の大戦で沈んだらしい軍艦の残骸が見える。
そんな軍艦の残骸に、色とりどりの魚が住み着き、優雅に泳いでいる。
本土の海では、なかなか見れない光景だった。
ふと気付くと、明恵が手招きしている。
一旦呼吸してから再び潜り、明恵に近寄った。
すると明恵は、腰のポシェットの中から何かを取り出した。
どうやら、魚肉ソーセージらしい。
明恵は封を切ると、半分に折った。
そして、その半分を指で解すと、魚達が次々と集まってきた。
しかも、明恵が解した魚肉ソーセージを食べている。
その光景に、誰もが見いっていた。
そして半分あげると、上がってから残りの半分を近くの謙信に渡して、更にポシェットから新しい魚肉ソーセージを何本か出した。
明恵は同じようにすると、次々と渡した。
つまりは、自分であげてみなさい。
ということなのだろう。
それを理解した全員は三度潜ると、魚肉ソーセージを解し始めた。
その光景を、明久と明恵は少し離れた場所から見ていた。
全員嬉しそうに与えており、微笑ましい光景だった。
すると、明久が腰のポシェットから水中カメラを取り出してシャッターを押した。
そして数十分後、全員の姿は船上にあった。
そして、かなり興奮した様子で
「凄かったな!」
「貴重な体験出来たね!」
「あんな距離で、餌やりが出来るもんなんじゃな!」
と会話している。
どうやら、先程のシュノーケリングのことを思い出しているようだ。
「どう? 楽しかったかしら?」
と明恵が問い掛けると、優子が満面の笑みで
「凄い楽しかったです! あんな間近で、魚に餌やりが出来るなんて思いませんでした!」
と語った。
それを聞いて、明恵は頷くと
「それは良かったわ。この後だけど、そろそろコテージに向かうわよ? 時間も時間だし、今日は移動の疲れも有るだろうしね?」
と言った。
時間は、間も無く五時半頃だ。
大分太陽は傾き、海面がキラキラと輝いている。
そして、明恵の言う通りに、全員は疲れていた。
慣れない飛行機と舟に乗り、更には普段使わない筋肉も使った。
全身が重かった。
「それじゃあ、船長さん! お願いしますねぇ?」
明恵が頼むと、船長たる男性は無言で親指を立てた。
なお、この船長のモットーは《海の漢は不言実行》と《海の漢は、背中で語れ》だそうだ。
どうでもいいが。
彼の操舵により、クルーザーは静かに帰港したのだった。