翌日
場所 Fクラス教室
「えー……点呼をとる前に、転校生を紹介します」
そう言ったのは、教卓の位置に立っているFクラス担任の福原慎だ。
「女の子ですか!?」
須川が手を挙げながら、先生に質問した。
「はい、女の子も居ますよ」
「ヒャッハァァァァァァァァァ!!」
先生の言葉に、全員狂ったように雄たけびを上げた。
窓が揺れるほどだった。
まあ、無理もないだろう。
このクラスは圧倒的に、潤いが足りない。
女子は実質、2名のみ。
ほとんどの男子は秀吉すら、女扱いするほどだった。(秀吉本人にとっては、重要課題)
「はいはい、静かに……それでは、入ってください」
先生は机を叩きながら注意してから、ドアの方に向かって声をかけた。
するとドアが開き、3人入ってきた。
「それでは、それぞれ自己紹介をお願いします」
福原先生が促すと、3人は頷いて
「私の名前は
「ヨロシクゥゥゥゥゥゥゥ!!」
幸村が名乗ると、男子達が歓喜の声を張り上げた。
真田幸村と名乗ったのは、膝辺りまで伸ばした薄紫のツインテールが特徴の女の子だ。
見た目はかわいい少女だが、その気配は凛と張っている。
「私の名前は
「うほっ! お嬢様キャラだ!」
「かわいいな」
数名の男子達が下心丸見えで、信玄を見つめていた。
武田信玄と名乗ったのは、薄紅色の髪に小柄な体が特徴の女の子だ。
手には<風林火山>と、書かれた扇子を持っている。
「俺は
最後に自己紹介したのは、ショートカットの黒髪に人当たりの良さそうな青年だった。
名前は武田信繁
その時
「男は去れ!!」
Fクラスの
その瞬間。
覇気と殺気で、空気が重くなった。
いや、支配されたと言っても、過言ではない。
その証拠に、Fクラスの
そして、覇気と殺気の発信源は……
「あなた達……」
「貴様ら……」
信玄と幸村の二人だった。
「今、兄上に去れと言いましたか?」
「今、信繁様に去れと言ったか?」
二人は、その体からは想像出来ないほどの覇気と殺気を放っていた。
Fクラスの中で、正気を保てていたのは
(な、なんつー覇気と殺気だ!)
かつて、悪鬼羅刹と呼ばれていた雄二だけだった。
(俺も、中学の頃に結構な修羅場を経験したが……この二人はトップクラスだ!)
雄二は、二人から放たれる気配だけで、二人の力量を察知した。
そして、それは
未だかつて、会ったこともないレベルだった。
所謂、達人レベル。
恐らく、素手の一撃でも大人を撃破できるだろう。
二人から放たれる気配と今の自分達の差は
巨人とアリだった。
その時だった。
「あー、待て待て。落ち着け」
その二人を信繁が宥めた。
「兄上」
「信繁さま」
「こいつらの気持ちも、分からんでもない。見てみろ。この教室、女が二人だけだ」
信繁はそう言いながら、指を動かした。
「二人? 三人じゃないのですか?」
「あー…あそこに居るのは、男だな」
信繁の言葉に、信玄が首を傾げたが、信繁が訂正した。
すると
「なんと! お主は、ワシが男じゃと分かるのか!?」
秀吉が嬉しそうに、問いかけた。
「ああ。骨格でわかる」
信繁が事も無げにそう言うと
「ありがとうなのじゃ!!」
秀吉が感激の涙を流しながら、信繁の手を握った。
それだけで分かったのか
「お前……苦労してんだな」
優しそうな表情で、秀吉に労わりの言葉をかけた。
その横では
「いいですか、あなた達」
「今回は信繁様がお許しくださったから、これで許すが………」
そこで二人は、息を合わせて
「次は無いと思いなさい」
「次は無いと思え」
静かに、しかし、はっきりと告げた。
すると
「マム・イエス・マム!!」
(凄ぇ……こいつらを完全に統率してやがる)
それを見ていた雄二は内心で、感心していた。
「それでは、席に座ってください。席は後ろの空いてるちゃぶ台に座ってください」
福原がそう告げると、三人は空いてるちゃぶ台に向かうが
「おや? 兄上、菊はどうしました?」
信繁の足元を見た信玄が、信繁に問いかけた。
「んぉ? あれ? どこに行った?」
信玄から指摘された信繁は周囲を見回すが、首をかしげた。
「先ほどまでは居たのですがね」
同じように周囲を見回した幸村も、首をかしげていた。
クラスは変わって、Aクラス
「というわけで、今日からAクラスに編入することになった」
「
そう言ったのは、高橋女史の隣に立っている眼鏡を掛けた気弱そうな男子だった。
髪は耳が見えるくらいで切りそろえられており、少し子供っぽい雰囲気だ。
「席は後ろの席を使用してください。それでは、HRを終えます」
高橋女史はそう言うと、教室を出て行った。
そして、颯馬が歩いていると
「颯馬、久しぶり」
「久しぶりですね」
明久と謙信が手を上げて挨拶した。
「久しぶりです。明久様。謙信様」
颯馬は深く頭を下げて挨拶した。
「様はやめてくれって、何回も言ってるのに……」
明久は様とつけられて、頬を掻いた。
すると
「吉井くんと上杉さんの知り合い?」
横に来ていた優子が、問い掛けた。
「うん。幼馴染みなんだ」
明久は微笑みながら言うが
「実家の天城家は先祖代々、上杉家と吉井家に仕えてきた家なんです」
「仕えてきたって……吉井くんと上杉さんの家って、もしかして、凄いの?」
颯馬の言葉を聞いた優子は、少し驚いていた。
「ううん。別に凄くはないよ」
「はい。少しばかり、歴史が長いだけです」
明久と謙信は苦笑いしながら、首を振った。
それを見ていた颯馬が、苦笑いしながら席に向かおうとしたら
「おや、颯馬。足元に居るのは、キクゴローでは?」
颯馬の足元を見た謙信が、指を差した。
「え?」
「うん?」
明久と颯馬が、謙信の指差した先に視線を向けた。
そこに居たのは
「猫?」
白と茶色の入り混じった斑模様の猫だった。
優子は猫を見て首を傾げた。
猫には首輪も付いているから、飼い猫というのは簡単に分かった。
だが、どうやって入ってきたのか?
優子は不思議に思った。
すると
明久が猫を両手で抱えて、顔の前に持ち上げた。
「ねぇ、菊五郎。もしかして、信玄と幸村。それに信繁の三人が来てるの?」
と、猫に問いかけた。
「吉井くん。なに猫に問いかけてるのよ? 猫が答えるわけが………」
優子が小ばかにしたように言った。
その時
「うん。来てるよ~」
間延びした声が響いた。
そして、優子は目を見開いて固まっていた。
それはなぜか?
理由は簡単だ。
目の前の猫が喋ったからだ。
「あ、やっぱりそうなんだ。でも、なんで?」
猫が喋っているのを、さも当たり前のように受け入れ、明久は問いを続けた。
「なんでもね~。明久が通ってる学校を知りたかったからなんだって~」
猫はヒゲと耳をピクピク動かしながら、答えている。
「そっか」
と、明久がうなずいた。
その時だった。
「猫が喋ったーーーー!?」
Aクラス内に、絶叫が轟いた。
なんと、窓が揺れたほどだ。
そして、声は明久に集中する形で叫ばれていた。
その結果
「おろぉ~~~~……」
「ウニャァァ~~……」
明久と猫、菊五郎は目を回していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はぁ………知猫……」
あれから、驚いていたAクラスの面子が落ち着くのを待ってから、謙信が説明した。
「そうです。知猫というのは、遥か以前からの知識を受け継いでいるんです」
「僕の知識は大体、軽く五百年分以上はあるね~」
謙信の説明に、菊五郎が補足を入れた。
「ご、五百年………」
「戦国時代もあるのか………」
優子は絶句していて、久保は興味深そうに見ている。
「あるよ~。当時の記憶も知識もね~」
と、菊五郎が答えると
「………それじゃあ、吉井の家は何時から存在してるの?」
翔子が気になったのか、問いかけた。
それを聞いた菊五郎は、しばらく思い出すように唸ると
「系列だけを見るなら、軽く八百年くらい昔から存在してるみたいだね~」
と、答えた。
「あ、そんなに古かったんだ。僕の家」
「うん。どうやら、かなりの豪族だったみたいだよ~」
明久が驚いていると、菊五郎は飄々と答えた。
「で、上杉家は吉井家とは懇意だったみたいだね~。何代にも渡って、将軍起用したみたい」
と菊五郎は言うと、後ろ足で顔の辺りをカカカっと掻いた。
「それじゃあ、そろそろ戻ったほうがいいよ。多分、探してるだろうから」
と明久が、菊五郎に戻るように促した。
「うん。そうする~。じゃあね~」
と菊五郎は、尻尾を揺らしながらAクラスを去った。
「……なんか……妖怪を見た気分ね………」
優子が呟くように言うと、明久たちを除いて、全員が頷いた。