桜舞う星~フィナーレ~   作:サマエル

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第四幕~フィナーレ~後編

それは、まるで身震いしそうなまでに強大な牙城だった。

空中戦艦ミカサ。

かつて二度に渡って帝都を守り、人々を救って来た物言わぬ英雄。

その伝説は、今や悪夢に変わろうとしていた。

能面のような恐ろしい顔を操縦部分に張り付け、無差別に帝都に砲撃を食らわす様に、誰もが恐怖し、絶望する。

しかし、彼らには希望が残されていた。

帝都に住む人間なら誰もが存在を知り、誰も正体が分からない勇者達。

その名………、

 

「「大神華撃団、参上!!」」

 

ミカサの激しい攻撃をかい潜り、接近した翔鯨丸から颯爽と舞い降りる一機の霊子甲冑。

白と緑の無骨な甲冑に白銀の二刀を構えるそれこそ、『双武』。

この帝都の未来を託された、二人の勇士が操る決戦兵器だった。

 

「よし、何とか艦矯部に辿り着けたな………。」

 

足に伝わる鋼鉄の感触をしっかりと踏み締め、大神一郎は呟いた。

金色の蒸気が立ち込めるミカサ艦矯部。

蒸気フィルターを三重に装備しているとはいえ、可能な限り急いで制圧に向かうに越した事はない。

ミカサの砲撃が続いている事もそうだが、大神にはもう一つ気掛かりな事があった。

 

「(みんな………、苦戦しなければいいが………。)」

 

ミカサ強襲と時を同じくして地上で猛威を振るう魔装機兵軍団。

事態を重く見た大神は、最も信頼のおける相棒を指揮官に立て、自分達以外の全員で地上部隊を組織。

地上の魔装機兵を可能な限り駆逐している間に、双武が単独でミカサ鎮圧に乗り出す事となった。

大神がこの世で最も愛する、パートナーと共に。

 

「紅蘭、大丈夫かい?」

 

ふと、大神は隣で操縦桿を握る婚約者を見た。

大神が選んだパートナー。

それは、李紅蘭だったのである。

 

「うん、ウチは平気や。せやけど………。」

 

力強い返事を返し、紅蘭は一瞬不安げな表情で尋ねた。

 

「大神はん………、ホンマに、ウチで良かったん?」

 

紅蘭が不安になるのには訳があった。

出撃前、大神達は米田とかえでの考案した作戦を聞かされ、同時にあるデータを見せられた。

蒸気演算機の算出した、大神の霊力と他の隊員の霊力の同調性を示すデータである。

双武はその高い戦闘力を保持するため、常に二人の霊力が綺麗にシンクロしなければならない。

双武起動に必要なシンクロ率は90%台。

その中で一人、100%を叩き出した者がいた。

巴里華撃団副隊長、ロベリア=カルリーニである。それ以外の隊員は、紅蘭が91%とギリギリ戦える数値を出した以外は全滅だ。

常識的に考えれば、紅蘭ですら大神と共に双武に乗るべきなのはロベリアだと考えるだろう。

現実に、一人を除いた全員はそうなると考えていた。

が、その一人、大神一郎はそれを拒否した。

そしてそのまま紅蘭を指名し、現在に至るのである。

 

「ロベリアはんはウチより霊力もある。双武の戦闘力も、その分より高い数値を出すはずや。それに………、」

 

「紅蘭。」

 

不安の根拠を立て並べる紅蘭を、不意に大神が止めた。

 

「シンクロ率云々は、問題じゃないんだ。俺はロベリアを信じている。だから地上部隊の隊長を任せたんだ。」

 

「え………?」

 

「紅蘭、君も知っているだろう?アイツの指揮能力は、巴里華撃団随一だって。」

 

その言葉に、紅蘭の脳内では数日前の戦いがフラッシュバックされた。

出入口を塞がれ、出撃不能に陥った自分達。

長安の操る幾多の侵略者を前に、捕らえられたジャック。

そんな絶望的な戦況を、巴里華撃団副隊長は事もなげに覆して見せた。

普段は一人闇に潜む一匹狼でありながら、大神に次いで仲間を把握しているロベリア。

確かに怨念蔓延る地上で戦うには、彼女の指揮能力は必須だろう。

 

「………せやったら、ウチは霊力が同調しとったからここにおるんか?」

 

それを理解すると同時に、紅蘭の胸には別の不安が過ぎった。

大神はロベリアの指揮能力を信じたから地上部隊の隊長を任せた。

ならば自分の立場はどうなるのだろう。

結局自分も相棒の埋め合わせでしかないというのだろうか。

が、大神の回答は違った。

 

「そんな理由で、俺は君をここに置いたりはしない。紅蘭、俺は君の全てを信じている。」

 

「ウチの、全てを………?」

 

聞き返す紅蘭に、大神は頷いた。

 

「霊力だけじゃない。笑顔も、想いも、覚悟も、君は俺と共にあってくれる。どんな絶望にあっても、君と一緒なら乗り越えられる。俺は、そう信じているんだ。」

 

「大神はん………。」

 

不安から一転、紅蘭はうっとりした表情で大神を見た。

いくら4年の付き合いとは言え、面と向かって言われるとやはり気恥ずかしいものがある。

だがその一方で、紅蘭はこの上ない喜びを感じずにはいられなかった。

数日間、夜も眠れない程に頭を悩ませていた不安が、嘘のように消えうせたのだ。

やはり大神は、自分を一番に選んでくれた。

それだけで充分だった。

 

「隊長!浅草、品川の地上部隊、魔装機兵と交戦を開始しました!!」

 

双武の通信機から秀介の声が飛んで来たのは、その時だった。

 

「少し長話が過ぎたな………。紅蘭、大丈夫かい?」

 

「もちろんや!大神はん、ウチらも派手に暴れたろ!!」

 

再度尋ねる大神に、勇ましい表情と声で答える紅蘭。

眼前に迫る魔装機兵を前に、双武は二刀を抜いた。

 

「行くで、大神はん!双武、出撃や!!」

 

「ああ!これ以上、帝都を傷つけさせはしない!!」

 

金色の霧に包まれた死地目掛けて、猛然と突進する双武。

帝都の未来をかけた決戦の火蓋が、遂に切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前4時20分、帝都・浅草。

雷門を潜った先にある賑やかな行楽地には、市民の代わりに魔の使者達が闊歩していた。

屋台、道路、建造物。

目に映る全てを無差別に破壊していく魔装機兵軍団。

その地獄とも思える空間に希望の光が舞い降りたのは、つい先程の事だった。

 

「みんな、出ておいで!!」

 

肩に子猫の顔をあしらった可愛らしいピンク色の光武F2が、慣れた手つきで鮮やかにバトンを振る。

すると何処からともなく沢山の猫が現れ、敵の群れに飛び込むや縦横無尽に引っ掻き回した。

可愛らしい風貌に似合わぬ風のような鋭い攻撃に、魔装機兵達は次々と爆発していく。

 

「コクリコスッゴ~い!よ~し、アイリスも!!」

 

その隣に立つ、リボンをつけたこれまた可愛らしい光武二式が、両手を前に突き出した。

すると今度は周囲に散乱していた瓦礫が浮き上がり、魔装機兵を纏めて叩き潰した。

その攻撃に、魔装機兵達も勢いを弱める。

本来アイリスもコクリコも、こうした前線の戦いに適した光武ではない。

普段のアイリスは専ら回復要員であり、コクリコのバトンは一撃の威力に不安が残る。

そんな二人が無数の魔装機兵を相手に優勢を保っていられるのは、偏に隊長の指示が的確である一点に尽きた。

浅草は帝劇本部に近い事もあり、既に周辺住民の避難は完了している。

従って、住民を巻き込む心配なしに戦闘が行えるのだ。

更に敵の無差別攻撃を逆手に取り、無数に散らばる瓦礫を利用した間接的攻撃手段を見出だし、アイリスも攻撃要員にしてしまう。

彼女の指揮能力が如何に高いか、花組最年少の二人も容易に理解出来た。

 

「………アイリス、奥の方に何かいるよ!?」

 

ふと、コクリコがレーダーの反応に気付き警戒の声を上げた。

アイリスがぶちまけた瓦礫の奥から、一際強い妖力反応がある。

砂煙が僅かにおさまって一瞬。

それは瓦礫を吹き飛ばして正体を見せた。

 

「あ、あれ………!!」

 

その姿に最初に反応したのはアイリスだった。

無理もない。

何故なら目の前に現れたのは、4年前にこの世から消したはずの悪魔達だったからである。

灼熱の炎で万物を焼き尽くす降魔戦機『火輪不動』。

凍てつく吹雪で命を消し去る降魔戦機『氷刃不動』。

かつて叉丹と共に帝都を震撼させた黄昏の三騎士。

その片割れの復活だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、帝都・品川。

悲鳴と爆音が絶えず木霊するこの場所にも、蒼と藍の光武F2が構えていた。

 

「帝都に仇成す不届き者共!このグリシーヌが、ブルーメール家の名にかけ成敗してくれる!!」

 

気の弱い者ならばたちまち逃げ出すであろう気迫で、豪快に敵を薙ぎ倒すグリシーヌ。

その身の丈はある巨大なバトルアクスを軽々と振り回す様は、天変地異の大嵐のようだ。

しかし彼女がこうして暴れられるのも、背後を固める頼もしい相棒のおかげだった。

 

「そこです!!」

 

引き絞られた一本の矢が、複数の魔装機兵の胴を纏めて射抜く。

その一撃は寡黙にして酷烈。

周囲には矢を受けた残骸が、既に溢れていた。

華麗な一矢で敵を撃ち抜く花火と、豪快な一撃で敵を薙ぎ倒すグリシーヌ。

その対照的な二人の戦いは、まるで一対の舞踊を見ているかのようだ。

 

「来たか………!」

 

レーダーの反応に変化があったのは、周囲の魔装機兵がほぼ全滅した時だった。

火柱が折り重なった紅蓮のカーテンから、うっすらと見える二つの黒い影。

それは、やはり帝都の塵に消えた悪魔達の成れの果てだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都各地で凄まじい決戦が展開される中、帝劇地下に設置された作戦司令室もまた、緊迫した雰囲気に包まれていた。

 

「浅草、品川の地上部隊、魔装機兵と交戦開始!!上野、深川、銀座でも大型魔装機兵が出現!!」

 

「双武、進撃を続行!ミカサ右舷の輻射砲を破壊!!」

 

「日本橋付近で強力な妖力反応あり!地上部隊は警戒して下さい!!」

 

絶え間無く鳴り響く警報の中、風組の三人が必死に帝都全体の戦況を伝える。

いくらロベリアの指揮能力が高いとはいえ、一人で帝都全体の状況を把握する事は出来ない。

こうして戦闘区域とは別の人間が逐一連絡を入れる事で、ようやく広範囲に渡る防衛が可能になるのだ。

しかし長年支援に当たって来た風組を以ってしても、今回ばかりはスムーズにはいかなかった。

何せ戦闘ヶ所は七ヶ所に上り、その全てをリアルタイムで伝えなければならないのだ。

いくらその手のエキスパートと言えど、これだけ膨大な情報の処理は厳しいものがあった。

 

「椿、日本橋側の地上部隊の戦闘状況をロベリアさんに!!」

 

「椿、深川付近で妖力反応が出たわ!マリアさん達に連絡して!!」

 

「は、はい!!」

 

かすみと由里から飛んで来る情報を、急ぎ足で処理にかかる椿。

その時、不意に椿のモニターに二人とは別の通信が入った。

 

「こちら、シャノワール作戦司令室!帝国華撃団本部、応答願います!!」

 

「ミカサ側の霊力及び現状を把握に成功しましたぁ!強襲部隊とミカサの情報処理は任せて下さぁい!!」

 

それは、何と遠く離れたフランスにある巴里華撃団総司令部、シャノワールからの通信だった。

強襲作戦に参加しているダイゴの流星F2からミカサのデータを受信し、シャノワール本部への転送に成功したのである。

 

「助かります!それではミカサの砲撃目標を大神隊長へ!!」

 

礼を述べつつ指示を出すかすみ。

その時、由里のモニターに緊急の表示が飛び込んで来た。

 

「これは………!!」

 

その表示に、由里は一瞬絶句せざるを得なかった。

何故ならそこには、炎の中をのし歩く巨大な怪物の姿が映し出されていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミカサの外壁を進撃していた双武は、強靭な敵の防衛線を思いの外簡単に突破する事に成功した。

双武の戦闘力が凄まじい事が最たる理由だが、秀介とダイゴの援護も大きいだろう。

たとえ最強の霊子甲冑と名高い双武であっても、多勢に無勢では勝てる戦いも勝てない。

そこで地上と空中の双方に対応出来る二つの流れ星を手元に置き、上空から魔装機兵を掃射させる作戦に出たのである。

この作戦が功を成し、双武は僅か数分の間に半数近い魔装機兵を破壊していた。

が、そこへ突如として由里から緊急の通信が入って来た。

 

「こちら作戦司令室!大神隊長、応答願います!!」

 

ただならぬ雰囲気から何かを感じ、聞き返そうとする大神。

刹那、砲撃の轟音と激しい剣戟の音が絶え間無く響く中に突如として、大地を揺るがす咆哮が轟いた。

 

「な、何だ!?新手か!?」

 

その咆哮にただならぬ気配を感じ、双武は僅かに攻撃の手を止める。

次の瞬間、モニターにその咆哮の正体が映し出された。

 

「これは、グドンにベムスター!?シルバゴンまで………!!」

 

「まさか、こいつらも長安が復活させたんか………!?」

 

大神も紅蘭も、現在の戦況に驚きを露にした。

かつて鉱山開発で無数の死人を自在に操った長安だ。

恐らく怪獣達も同様に手駒にしてしまったのだろう。

数日前のバルタン星人のように。

 

「現在深川、浅草、銀座に三体の怪獣が出現!破壊活動を開始しました!!」

 

「くっ、秀介!!ダイゴ!!」

 

「了解!!」

 

「分かった!!」

 

大神はすぐさま指示を飛ばし、二人をミカサ掃射から怪獣撃退に差し向けた。

ただでさえ金色の蒸気の中で無数の敵と戦わなければならないこの状況。

追い撃ちをかけるように現れた怪獣達が地上部隊の手に余るのは明らかだ。

 

「みんな、持ちこたえてくれよ………!!」

 

刻々と悪化する戦況の中、大神は一瞬だけ祈るように目を閉じる。

この元凶の全ては大久保長安。

奴さえ仕留めればこちらの勝利は決定的だ。

史上最強の霊子甲冑をミカサに出撃させたのは、そのためなのだ。

 

「最早時間はない!このまま一気に突っ切る!いいな、紅蘭!!」

 

「任しとき!双武、怒涛の快進撃や!!」

 

蒸気エンジンの出力を一気に上げ、双武は唸りを上げて突進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔装機兵に続く形で帝都地上に相次いで出現した怪獣軍団。

深川から現れたグドン。

浅草から現れたシルバゴン。

そして銀座から現れたベムスター。

金色の蒸気に蒔かれた帝都を無差別に蹂躙し、全てを瓦礫と灰に変えていく。

黒雲から流れ星が舞い降りたのは、その時だった。

 

「秀介さん………。」

 

流星F2を自動操縦に切り替え、ふとダイゴが口を開いた。

 

「本当に………、これで良かったの?」

 

「何がです?」

 

モニターの青年は、穏やかな笑顔を見せた。

しかしダイゴは気付いていた。

その笑顔が、既に一輪の花より儚くなりつつある事を。

 

「ダイゴ、心配には及びません。」

 

それに気付いてか、秀介は答えた。

 

「この星は美しい………。青く澄んだ空の下に、無数の命が手を取り合い、支え合いながら生きている。私はそれを知っています。」

 

「だから………、戦うの………?」

 

「私は………まだウルトラマンですから。」

 

笑顔のまま、秀介はハッキリと告げた。

幸い胸の痛みは引いているらしい。

いや、あるとしても今の彼には大した問題にはならないだろう。

何故なら彼は、ウルトラマンなのだから。

 

「参りましょうか、ダイゴ。我等の舞台へ………!!」

 

「うん………!僕達が、光になるんだ!!」

 

決意の眼差しが交差した一瞬、ブレスレットとスパークレンスがまばゆい光を帯びる。

大いなる光の巨人。

その奇跡が今、齎されようとしていた。

 

「ジャーーーーック!!」

 

「ティガーーーーッ!!」

 

魔性の霧に満ちた帝都の空に、ウルトラの星は輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都・深川。

かつて二鞭の怪獣を二体封印したこの場所もまた、魔装機兵の猛威に曝されていた。

かつて黒之巣会の死天王として花組と二度激突した刹那、羅刹兄弟。

俊敏な動きで翻弄する蒼角と剛腕の一撃で全てを破壊する銀角。

三度現れた魔装機兵に真っ向から立ち向かったのは、花組最古参のマリアとカンナだった。

 

「邪魔だあっ!!」

 

振りかぶったカンナの拳が、力自慢の銀角の鉄球に真正面から激突する。

その横では、マリアが蒼角と死闘を演じていた。

 

「そこっ!!」

 

残像を残す程に早い蒼角の動きを見切り、次々と銃弾を浴びせていく。

その膠着した戦いが僅かに続いた後、それは起こった。

 

「緊急警戒!!深川地下から強力な妖力反応があります!!」

 

「うおっ!?な、何だ!?」

 

かすみからの報告が終わらない内に、激しい地響きが深川一帯を襲った。

立っていられない位の振動に、光武二式のみならず魔装機兵達もその場にうずくまる。

やがて深川の地表が突き破られ、中から妖力の正体が顔を見せた。

 

「あれは………、まさか、グドンなの!?」

 

その姿を見るや、今度はマリアが驚きの声を上げた。

無数の刺に覆われた土色の皮膚。

血に飢えた獰猛な赤目。

そして鞭のようにしなる細い両腕。

そこにいたのは、かつて四年前に外ならぬウルトラマンの手で葬られたはずの二鞭の怪獣。

地底怪獣グドンだった。

 

「グオオオオン!!」

 

金色の蒸気と紅蓮の火柱に包まれた深川の地に、今再び咆哮が轟いた。

それに合わせ、グドンは銀座目掛けて進行を始める。

 

「マズイわ!このまま帝都を襲われては………!!」

 

「クソッ!これじゃ近づけやしねぇ!!」

 

予想外の状況に、マリアもカンナも焦りの表情を露にする。

現在魔装機兵の数は膨大で、その交戦区域は帝都全体に及んでいる。

この状況で怪獣の攻撃まで喰らえばどうなるか、考える間もない。

何とかグドンの進撃を食い止めようとする二人だが、如何せん蒼角と銀角が邪魔で、カンナの吐き捨てた通り近づく事すらままならない。

このまま帝都は蹂躙されてしまうのか。

無念の思いが一瞬脳裏を掠める二人だが、それは思わぬ形で払拭された。

轟音と咆哮を切り裂く光が、颯爽と現れたからである。

 

「ジャーーーーック!!」

 

「ティガーーーーッ!!」

 

聞き覚えのある声が聞こえた刹那、まばゆい光が一筋の閃光となって現れ、目の前の地底怪獣を紙屑の如く吹き飛ばした。

 

「シュワッ!!」

 

「グオオッ!?」

 

完全に不意を突かれ、仰向けに地面に倒れるグドン。

更に光は追い撃ちをかけるように、馬乗りになって追撃を仕掛けた。

「マリアさん、カンナさん!怪獣は私が引き受けます!!魔装機兵の撃破を!!」

 

「分かったわ!秀介、気をつけて!!」

 

「頼んだぜ、秀介!!」

 

ジャックの言葉を受け、再び魔装機兵に対峙する光武二式。

すると向こうもこちらに気付いたらしく、獲物を手に二人を睨んでいた。

 

「時間の余裕はないわ。カンナ、一気にキメるわよ?」

 

「任せときな!一撃で沈めてやるぜ!!」

 

冷静なマリアの言葉に力強い返事を返すカンナ。

その直後、四つの機体は同時に動いた。

 

「おらあっ!!」

 

比較的動きの鈍い銀角目掛け、カンナが拳を繰り出す。

しかし、その拳は銀角には命中しなかった。

何故なら横から飛び込んで来た蒼角が、カンナの拳を防いで見せたからである。

腐っても鯛という訳ではないが、死人として操られる身になったとしても兄弟の絆は変わらないという事か。

蒼角の思わぬ行動を意外に思うカンナだったが、これは作戦の範囲に留まっていた。

 

「静寂の支配する、銀の楽園………、リディニーク!!」

 

後方から狙いを定めたマリアの銃口が火を噴いた。

その狙い澄ました一撃は蒼角の足を直撃し、瞬く間に全身を氷のオブジェへと変えていく。

そこに、カンナの拳が炸裂した。

脆くなった装甲はたちまち破壊され、蒼角は文字通り粉みじんに粉砕される。

カンナはそのまま拳を腰に沿え、背後の殺気を迎え撃った。

 

「霧島流派奥義………、公相君!!」

 

己の霊力を媒体に、拳に宿した一匹の虎が猛り狂う灼熱の牙を剥いた。

吹き荒れる熱風と激しい衝撃波。

零距離からそれをまともに喰らった銀角は、跡形もなく消し飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都、浅草・雷門前。

二人の少女と二つの魔装機兵の戦いも、大詰めを迎えつつあった。

戦闘能力を数学的に換算するならば、攻守に優れた降魔戦機はアイリスとコクリコだけでは手な余るだろう。

だがしかし、二人の少女にはある秘策があった。

 

「ホラホラ、こっちだよ~?」

 

「鬼さんこちら~、手の鳴る方へ~!」

 

そこら中に猫を行き交わせるコクリコと、テレポート能力を駆使して縦横無尽にワープを繰り返すアイリス。

二人の秘策とはズバリ、コンビプレイで敵を翻弄させるというものだった。

長安の死人を使役する能力は確かに脅威だ。

死人は感情がないため、痛みを感じなければ恐怖を感じる事もない。

しかしこれにはたった一つ、重大な欠点が隠されている。

それは、感情がない故にちょっとした作戦でも簡単に引っ掛かってしまう単純さである。

魔装機兵達はいずれも攻撃こそ激しいが、実際には単調で技量も何もあったものではない。

チームワークに長けたものからすれば、正しく的でしかないのだ。

二人はその唯一無二の弱点を突き、戦力的に不利な形勢を覆したのである。

 

「いくよ、アイリス!?」

 

「任せて、コクリコ!!」

 

互いに背中合わせになり、目の前の魔装機兵にそれぞれ挑発を仕掛ける。

すると、狙い通り火輪不動は炎の竜巻を、氷刃不動は氷の竜巻を浴びせかけて来た。

が、これこそが二人の狙いだった。

 

「「マジックショーが、始まるよ!!」」

 

二人は同時に叫び、アイリスのテレポートで瞬間的に姿を消す。

するとどうだろう。

目標を見失った二つの竜巻はすれ違い、互いの魔装機兵に激突したのである。

挟み撃ちを利用しての同士討ち。

二つの不動は、皮肉にも自らの手で闇に葬られる事となった。

 

「やった!作戦大成功だね!!」

 

「うん!帰ったらお兄ちゃん達びっくりさせちゃうんだから!」

 

作戦通りに敵を撃破出来た事が嬉しかったらしく、不謹慎な位に喜ぶ二人。

だがしかし、そこへ思いも寄らぬ魔の手が忍び寄っていた事に、二人はまだ気付いていなかった。

 

「………?」

 

「アイリス?」

 

最初に異変に気付いたのは、アイリスだった。

ふと感じた、妖力の変動。

もしや討ち漏らした敵でもいたのだろうか。

そう思って辺りを見渡すが、周囲には燃え盛る瓦礫ばかりで魔装機兵の姿は見えない。

レーダーを見ても同様だ。

 

「アイリスってば。ねぇ、どうしたのさ?」

 

そんなアイリスの様子を不審に思い、コクリコが尋ねる。

 

「うん、それが………。」

 

コクリコにはアイリスのような敵の妖力を感知する能力はない。

だが状況判断など実践的なスキルは大人顔負けの所がある。

もしかしたら自分の感じた妖力の正体を暴いてくれるかも知れない。

そう考えたアイリスは、たった今感じたそのままをコクリコに伝えようとした。

が、その正体はそれまで待ってはくれなかった。

 

「キャアッ!!」

 

「な、何!?どうなってるの!?」

 

何の前触れもなく浅草一帯を地響きが襲った。

激しい揺れに立っていられなくなり、アイリスとコクリコは互いに抱き合いながら揺れが収まるのを待つ。

その時だった。

 

「グアアアアッ!」

 

何と、一匹の怪獣が激しい咆哮を轟かせ、屋台の並ぶ通りの真ん中を突き破って帝都の地上に現れたのである。

太刀のような白銀に輝く頑丈な皮膚。

無数に生えた肉食獣の如き鋭い牙。

そして突き出た鼻のてっぺんに伸びる、大きな一本角。

かつて黒之巣会が使役していた剛力怪獣シルバゴン。

その四年前と変わらぬ姿に、二人は戦慄した。

 

「グアアアアッ!!」

 

一際激しい咆哮を上げ、シルバゴンは周囲の建物を無差別に潰し始めた。

まるで四年前の恨みを晴らさんとするかのように。

 

「ど、どうしよう!!このままじゃ浅草が………!!」

 

「止めて!アイリス達の町を壊さないで!!」

 

予想外の事態に慌てふためく二人だが、幸か不幸か相手は全く気付いていない。

しかしこのままでは、浅草の街が見る陰もない事になってしまう。

みんなで楽しんだ活動写真館も、カンナが教えてくれたもんじゃ焼きも、全てが踏み潰されてしまう。

だがその時、遥か上空から希望の光が舞い降りた。

 

「チャーッ!!」

 

その一撃はまるで一陣の突風の如く、進撃を続ける怪獣の脇腹を派手に蹴飛ばした。

不意をついた攻撃に対応出来ず、シルバゴンは瓦礫を押しのけながら後ろへ転がる。

そして、光は浅草の地に足をついた。

ウルトラマンティガ。

遥か西から駆け付けた、大いなる超古代の巨人だった。

 

「ダイゴ!!」

 

コクリコが叫んだ。

すると、ティガも顔だけを振り向かせて応えた。

 

「コクリコ、アイリス。ここは僕に任せて!」

 

「やっちゃえ、ダイゴ!!」

 

「ダイゴ、気をつけてね………。」

 

声援に頷き、改めてティガはシルバゴンと対峙する。

一方のシルバゴンも、標的をティガに定めて襲い掛かって来た。

 

「グアアアアッ!!」

 

「チャッ!!」

 

小細工なしに真正面からぶつかり合う。

今尚燃え盛る浅草を前に、激闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乱戦続く帝都の戦場に二人の巨人が降臨したという一報は、残る隊員達にも即座に知れる事となった。

何せ高層ビル程に匹敵する怪獣軍団とウルトラマンの戦いだ。

気づかない方が異常である。

 

「あれは………、秀介さん!?」

 

上野で魔装機兵軍団と激戦を展開するさくらもまた、突然視界に過ぎった巨人にハッと表情を強張らせた。

そして思い出す。

この状況が指し示す意味を。

 

「さくらさん!攻撃の手を止めてはなりませんわ!!」

 

不意に後ろから罵声に近い怒鳴り声が聞こえた。

それは、さくらの背後を守るすみれだった。

モニターで確認すると、こちらへにじり寄る一体の魔装機兵に苦戦している。

かつて花やしき支部を襲った紅の魔装機兵、シカミだった。

 

「神崎風塵流………、孔雀の舞!!」

 

薙刀に宿らせた紅の炎が一羽の孔雀を形作り、周囲の雑魚も纏めて灼熱の烈風を撒き散らす。

全滅には至らないが、それでも敵の攻勢を弱めるには十分な効果を上げた。

 

「他人の心配をする余裕がありまして?」

 

「す、すみません………。」

 

通信モニターから白けた視線を浴びせるすみれに、思わず小さくなるさくら。

無理もない。

一瞬の油断が死を招く戦場において、今のさくらの行為はさながら自殺行為だ。

が、その理由が分かっているためか、すみれはそれ以上憎まれ口を叩かなかった。

 

「貴女は心配し過ぎですわ。彼の強さ、身も心も分け合った貴女が一番良くご存知でしょう?」

 

「すみれさん………。」

 

「信じておあげなさい。少なくとも今、彼は貴女のためにここにいるのですから。」

 

シカミの鉈を薙刀で華麗に捌き、すみれが優しく笑って見せる。

そうだ。

4年という月日は流れたけれど、彼はこうして帰ってきた。

自分を迎えに来る。

その約束を果たすために。

 

「………、すみれさん、後ろっ!!」

 

礼を述べようとしたすみれの背後に殺気が過ぎったのは、その時だった。

すかさず太刀を抜き、風のように殺気目掛けて飛び込む。

刹那、刃と刃の擦れ合う金属音が響いた。

シカミや雑魚のようななまくらではない。

自分と同じかそれ以上に研ぎ澄まされた、凄腕の一閃だ。

事実今の一撃を防いだ拍子に、さくらの刀は僅かだが刃こぼれを起こしている。

その事から、さくらは殺気の正体におおよその見当をつけた。

 

「(まさか、こいつまで………。)」

 

数秒刀がぶつかり合い、同時に距離を取る。

果たして目の前に写る姿に、さくらの見当は外れなかった。

黒之巣会の一角として、更には降魔達の王として、この帝都に牙を剥いた存在。

魔装機兵『神威』がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都、銀座。

帝国華撃団総司令部の構える帝都の中心地において、地上部隊隊長ロベリア=カルリーニは厳しい表情でモニターを射抜いていた。

戦況が悪いという事はない。

自慢の鈎爪は次々と魔装機兵を屠っているし、相棒として残していたエリカも思いの外健闘している。

問題なのは、帝都各地から寄せられる隊員達の戦況だった。

品川、日本橋に続いて上野でも魔装機兵が相次いで出現。

更に魔装機兵を撃破した深川と浅草には怪獣が出現し、ウルトラマンが登場する始末だ。

幸い撤退はないものの、依然として追い詰められた状況である事に変わりはない。

そしてそれは、自分達も例外ではなかった。

 

「おいでなすったか………。」

 

目の前に現れた強い妖力に、ロベリアは獲物を見つけた肉食獣のように鋭い視線を浴びせる。

そしてふと、通信を横にいる相棒に繋げた。

 

「エリカ、奴はアタシがやる。お前は日本橋に向かえ。」

 

「え?何でですか?エリカもまだ戦えます!」

 

ロベリアの意図する事が分からないらしく、通信モニターにはビックリしたような怪しむような表情が浮かんでいる。

が、ロベリアに一々説明する余裕はなかった。

 

「いいから行け!今度プリン奢ってやるから!」

 

痺れを切らしたように怒鳴りちらすロベリア。

すると、モニターの顔は見る見る内に満面の笑みに変わった。

 

「本当ですか!?ロベリアさん、約束ですよ!?」

 

「ああ約束だ。分かったら早く行って来い。」

 

「はい!エリカ=フォンティーヌ、行って来ます!!」

 

この状況で尚プリンに釣られるとは、天性の天然がなしうる業だろうか。

そんな事を考えつつ、ロベリアは改めて殺気の主、魔装機兵ハクシキと相対した。

 

「さあ、アタシらも始めるとしようか?アンタだけはこの手で潰してやらないとね。」

 

帝国華撃団を窮地にまで追い込んだ悪魔を前に、ロベリアはニヤリと凄絶に笑う。

そして、血に飢えた鈎爪が動いた。

だが、彼女は気付いていなかった。

背後に迫る、ハクシキすら越えた殺気を孕む視線に………。

 

 

 

 

 

 

 

 

地底怪獣グドン。

かつて古代怪獣ツインテールと共に深川に封印された二鞭の怪獣。

目の前のそれが以前の同族なのか、何かの力で蘇ったのかは分からない。

ただ一つ言えるのは、グドンが帝都に仇なす敵という事だけだ。

 

「グオオオオン!!」

 

「シュワッ!!」

 

闘争心を剥き出しにして迫る怪獣に、ジャックは真正面から攻撃を仕掛けた。

突進で助走をつけ、地を蹴って華麗に宙を舞う。

流星キック………、助走をつけて上空に跳躍し、敵の死角となる頭上から蹴りの姿勢で急降下する必殺技だ。

 

「ヘアァッ!!」

 

強烈な一撃が、グドンの顔面を直撃した。

その勢いでおよそ2万トンもの巨体が宙を舞い、砂塵を舞い上げ地に沈む。

だがその一撃は、ジャックの優勢を掴むものにはならなかった。

何故なら今の攻撃のショックで、あの激痛がまた胸を貫いたからである。

 

「(くっ………!やはり収まらないか………!!)」

 

役に立たない自身の身体を呪いつつ、片膝を着きながらもグドンを睨む。

相手も既に立ち上がり、怒りを露に迫って来た。

 

「グオオオオン!!」

 

「ヘッ!!」

 

唸りを上げて迫る鞭をかわし、背中に回し蹴りをぶつけるジャック。

しかし驚いた事に、グドンはこの一撃を受けて微動だにしなかった。

十分な勢いを加えたはずなのに。

 

「ァアッ!?」

 

再び鞭の嵐が襲った。

強烈な一撃にジャックの身体は豪快に浮き上がり、轟音を立てて地面に叩きつけられる。

胸の激痛と消耗した体力は、確実に彼の命を削りつつあった。

 

「ヘッ………!!」

 

しかしその何度目かも分からない鞭が迫った時、ジャックは反撃に移った。

ブレスレットからスパークソードを召喚し、右腕の鞭を断ち切ったのである。

 

「ヘアァッ!!」

 

のけ反るグドンの腹部目掛け、スパークソードを深々と突き刺す。

勢い余った黄金の刃は、怪獣の背中から突き抜けた。

 

「グオオッ!?グオオッ!!」

 

腹部に風穴を空けられ、激しく暴れ出すグドン。

ジャックはその腹を蹴飛ばしてスパークソードを抜き放つと、距離を取ってスペシウム光線を放った。

 

「シュワッ!!」

 

凄まじい光量の一撃が、グドンの胸倉に命中した。

怪獣は断末魔の咆哮を上げ、ゆっくりと仰向けに倒れる。

一瞬僅かな静寂がその場を支配し、グドンは爆音と共に炎に包まれた。

刹那、ジャックの背後に強烈な殺気が過ぎった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙大怪獣ベムスターに、剛力怪獣シルバゴン。

かつて帝都を混乱に陥れた二体の大怪獣に、悠然と立ち向かう巨人がいた。

巴里の守護神、ウルトラマンティガである。

 

「ハッ!!」

 

「グアアアアッ!!」

 

「ビィーッ!!」

 

華麗な身のこなしで二大怪獣を翻弄するティガ。

不意をついた蹴撃が、シルバゴンに炸裂した。

 

「グアッ!?」

 

「ハッ!」

 

驚いて後ずさる怪獣を尻目に、今度はベムスターにつかみ掛かるティガ。

しかしベムスターは、捕まる前に両翼を扇いで突風を巻き起こし、死に物狂いで抵抗した。

それだけではない。

一瞬隙の生まれたティガに逆につかみ掛かり、急転直下の鴃落としを仕掛けたのである。

 

「ジュワッ!?」

 

高速かつ急角度から地面に叩きつけられ、はいつくばるティガ。

すると、追い撃ちとばかりにシルバゴンがその背中を踏み付けて来た。

およそ6万トンにもなる巨体にのしかかられ、身動きを封じられるティガ。

しかし、彼には切り札が残っていた。

 

「ンゥゥゥ………、ハッ!!」

 

両腕を額の前で交差させ、エネルギーを集中する。

刹那、額のクリスタルが赤く輝き、ティガの体色を赤へと変えた。

超怪力で敵を叩きのめす、パワータイプである。

 

「チャーッ!!」

 

シルバゴンの巨体を安々と跳ね飛ばして起き上がる。

そこへ、ベムスターが横から一直線に突っ込んで来た。

 

「ハッ!」

 

だがしかし、パワータイプとなったティガにとって、それは格好の的だった。

弾丸の如く飛び込んで来たベムスターの頭を掴み、そのままジャイアントスイングの要領でシルバゴン目掛けて投げ飛ばす。

その戦い振りは正しく豪快そのもの。

プラズマ=オーブによって飛躍的な力を手にしたティガは、二大怪獣を前に依然として優勢を保っていた。

 

「ハァァァ………!!」

 

両手を大きく外回りに回転させ、膨大なエネルギーを極限まで圧縮させる。

パワータイプの必殺技、デラシウム光流だ。

 

「ダァッ!!」

 

ボールサイズに圧縮されたエネルギーの一撃を、ハンドボールの要領で豪快に投げつける。

光球は一直線に殺到し、シルバゴンの顔面を直撃した。

 

「グアアアア………!!」

 

激しい爆発を伴い、一本角が跡形もなく吹き飛ぶ。

弱点を破壊されたシルバゴンは仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。

が、まだ安心は出来ない。

間髪入れずに宇宙大怪獣が襲って来たからだ。

 

「ビィーッ!!」

 

周囲の瓦礫を大量に腹部の口に吸い込み、ベムスターはティガ目掛けて瓦礫を弾丸の如く吐き出して来た。

それを見たティガは両手を胸の前で交差させ、左右に広げる。

すると、半透明の円盤上のバリアが展開され、ベムスターの瓦礫弾丸を尽く防いで見せた。

ウルトラシールド………、カラータイマーのエネルギーをバリアに変えて敵の攻撃を防ぐ、ティガの防御技である。

そしてパワータイプのティガにとって、反撃に転じる技でもあった。

 

「ハァァァ………!!」

 

何と、ティガは先程のデラシウム光流と同じ要領で、瓦礫とバリアの上からエネルギーを圧縮してみせたのである。

無数の鋼鉄や木材を巻き込んだエネルギーは凄まじい硬度を生み出し、混沌の鉄球へとその姿を変える。

 

「チャーッ!!」

 

先程のそれとは段違いのデラシウム光流が、勢い良く放たれた。

ベムスターはそのエネルギーを吸収せんとばかりに腹を開いて構える。

しかし、それはティガの予想を越えてはいなかった。

 

「ビキュッ!?」

 

何と、様々なエネルギーを吸い込めるはずのベムスターの腹部に、鉄球は鈍い音を伴って強打した。

本来ベムスターの吸収範囲は幅広く、瓦礫だろうがエネルギーだろうが無差別に吸い込めるはずだ。

しかし、デラシウム光流のエネルギーで圧縮された瓦礫に関してはそうはいかなかった。

ベムスターが様々な物質を吸収出来るのは、腹部の口が瞬間的に物質を粉上に分解するからだ。

しかし瓦礫や木材、更にはエネルギーを高密度に圧縮した鉄球はダイヤモンド並の硬さを誇り、宇宙大怪獣の力を以ってしても吸収は至難の業なのである。

 

「ンゥゥゥ………、ハッ!!」

 

更なる追い撃ちをかけるべく、ティガは再び額のクリスタルを発光させた。

すると、今度はクリスタルが青い光を発し、ティガの体色を赤から紫へと変えた。

風のように流れる動きで敵を翻弄する、スカイタイプである。

 

「ポキャーッ!!」

 

ベムスターが咆哮を上げ、黒雲漂う空へ飛び上がった。

ティガもそれに続く形で、空へと飛び立つ。

そして残像を残す速さでベムスターに追い付くと、その身体にしがみついた。

 

「ジュッ!!」

 

「ビィーッ!!」

 

そのまま空中で数秒縺れ合い、ベムスターの身体が離れる。

ティガはその顔面目掛けて、強烈なキックを食らわした。

 

「ハッ!!」

 

「ビキュッ!?」

 

落下の勢いを加えた強烈なキックをまともに喰らったベムスターは体制を崩し、地面に墜落する。

しかしティガの追撃は、これだけに留まらなかった。

 

「チャーッ!!」

 

自身も風のようなスピードでベムスターに殺到し、今度は脳天目掛けて踵落としをキメたのである。

激しい攻撃のラッシュでふらつくベムスター。

そこに、トドメの一撃が見舞われた。

 

「ハァァァ………!!」

 

両手を左右に広げ、頭上で合わせて左腰に下げる。

ランバルト光弾………、エネルギーを鋭い光の矢に変えて敵を貫くスカイタイプの必殺技だ。

 

「ジュッ!!」

 

青白い光の矢が、ベムスターの首筋を深々と刺し貫いた。

光は全身に広がり、激しくスパークを起こす。

そして、その身体が倒れると同時に大爆発を引き起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の光の巨人が壮絶な戦いを演じている頃、帝都各地でも負けじと奮戦する地上部隊の姿があった。

帝都、日本橋。

ここで無数の魔装機兵を相手に死闘を演じる二人もまた同じだった。

マゼンタのソレッタ=織姫。

スカイブルーのレニ=ミルヒシュトラーセ。

かつては欧州星組として長年組んで来た二人にとって、数だけの魔装機兵など問題ではない。

問題なのは、つい今しがた現れた一体の巨大魔装機兵である。

天照。

かつて帝都を震撼させた黒之巣会首領、天海大僧正の操った強力な魔装機兵。

金色に塗り固められたボディから分かるように、天照はその莫大な妖力を用いた圧倒的攻撃力に加え、観音を想起させる四本の腕により、それこそ鉄壁の守備力を手にしている。

攻守共にトップクラスを誇る難敵。

それが天照だった。

 

「一体どれだけ殴れば沈むですか!?幽霊のクセにしぶといデース!!」

 

その防御力に気圧され、思わず織姫が悪態をつく。

無理もない。

相手の激しい攻撃をかい潜り、僅かな隙を見つけて攻撃に転じているのだ。

ただでさえ金色の蒸気が充満しつつある手前、時間のロスだけは何としても避けなくてはならない。

なぜならそれは光武の制御不能。

即ち敗北を意味しているからである。

 

「織姫さ~ん!レニさ~ん!大丈夫ですか~!?」

 

そんな戦場に不釣り合いな、能天気な声が飛んできたのはその時だった。

金色の十字架と天使の羽根をあしらった赤い光武F2。

ロベリアの命令で銀座から駆け付けた、エリカである。

 

「エリカさん、グッドタイミングデース!ちょうど猫の手も借りたかった所デース!」

 

「協力、感謝する。今から敵のデータを………。」

 

思いも寄らぬ助っ人の登場に、驚きつつも有り難く感じる二人。

しかし直後、二人は別の意味で驚かされる事となる。

 

「うりゃあ~~~!!」

 

何とエリカはレニのデータ転送を待たずにさっさと天照を攻撃し始めたのである。

織姫曰く『近所のおバカ』なエリカの事、恐らく天照を攻撃する事しか頭にないのだろう。

そしてレニのデータが届く頃には、半ベソをかいたエリカが通信を繋げて来た。

 

「ふぇ~ん、全然効いてませ~ん!!」

 

案の定、天照の四つの掌にあっさり攻撃を防がれるエリカ。

緊迫した状況を簡単にぶち壊す才能は賞賛に値するが、状況が状況だけに二人は軽い頭痛を覚えた。

 

「自分勝手に突進してどうするデスか!!援軍どころか足手まといデース!!」

 

額に青筋を浮かべて噛み付く織姫。

しかし、横から不意に冷静な言葉が飛んだ。

 

「………いや、一概にそうは言えない。」

 

「へ?どういう事デスか?」

 

レニの言葉の意味が分からず、織姫が首を傾げる。

端から見れば馬鹿正直に打ちまくってるだけの何処が役に立つというのだろうか。

すると、レニは眉一つ動かさずにそれを指摘した。

 

「確かにエリカの攻撃は無謀過ぎる。しかしその弾道は予測不能。天照の様子を見てごらん。」

 

「………ハハーン、そういう事デスね。」

 

言われるままに天照に視線を移し、織姫は納得したように笑みを見せた。

天照は四つの掌でエリカのマシンガンから吐き出される無数の弾丸を防いでいる。

が、その出鱈目極まりないエリカの射撃に対応するあまり、四つある掌の全部を防御に費さなければならない状態だ。

天照の鉄壁を誇る防御力は、強大な妖力を持つ四つの掌があってこそ発揮されるもの。

つまり今の天照は、後ろ左右が隙だらけなのである。

援護の方法はともかく、結果としてエリカの与えたチャンスは非常に大きかった。

 

「両脇から攻める。織姫、パターンE。」

 

「オッケーデース!一発派手にかましたりマース!!」

 

短い言葉の応酬を残し、二つの光武は同時に動いた。

レニは槍を構えて左脇へ、織姫は霊力を漲らせて右脇へ回り込む。

 

「幸運を………、ブラウアー・フォーゲル」

 

「熱く………、激しく………、輝け! オーソレ・ミーオ!!」

 

ありったけの霊力を込めた渾身の必殺技が、左右両脇から同時にぶち込まれた。

鮮やかだった金色のボディは原形を留めない程にひしゃげ、煙を上げる。

かつて六破星降魔陣を以って帝都を震撼させた金色の宿敵は、異国の乙女達の手によって再び滅ぶ事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、帝都・品川。

各地の仲間が次々と白星を上げる中、こちらの戦いも大詰めを迎えていた。

紅のミロクが操っていた魔装機兵『孔雀』に、降魔蝶の従えていた降魔戦機『紫電不動』。

生前操っていた電撃を絶えず振りかざす強敵を前に、猛然と挑みかかる猛者がいた。

巴里華撃団きっての切り込み隊長、グリシーヌである。

 

「戦士の神話、ここに刻まん!ゲール・サント!!」

 

重く鋭い斧の一閃に続き、激しい瀑布が眼前の孔雀を周囲の雑魚も纏めて押し流す。

しかし、ここで思わぬ反撃があった。

孔雀を盾に攻撃を逃れた紫電不動が、両腕を射出して上空からグリシーヌの光武F2を攻撃したのである。

かつて似たような敵と相対したために多少の対策は講じているが、それでも若干動きが鈍くなる事は否めない。

が、ピンチであるはずのグリシーヌの顔は笑っていた。

何故ならこれこそ、彼女が狙っていた瞬間だったからだ。

 

「やれ、花火!!」

 

真後ろで矢を番える親友に、グリシーヌが叫ぶ。

すると、矢を十二分に引き絞った花火がそれに応えた。

 

「北大路花火、三の舞………、雪月風花!!」

 

音速の矢が空気を切り裂き、降魔戦機の眉間を射抜いた。

直後、小規模の爆発と共に頭部が吹き飛び、紫電不動は完全に沈黙する。

敵の注意をグリシーヌに集中させ、その隙を突いて花火が仕留める。

最初からそういう作戦だったのだ。

 

「グリシーヌ、大丈夫?」

 

「ああ、心配いらぬ。」

 

作戦通りとはいえ囮になったグリシーヌを気遣う花火に、グリシーヌは何事もなげにバトルアクスを遊ばせた。

親友の頼もしい限りの反応に、花火も表情を緩める。

 

「どうやら、この辺りは片付いたようだな。となれば………。」

 

「銀座と上野………、そしてミカサですね。」

 

周囲の雑魚を一掃した事を確認し、二人は空を見上げる。

もう朝が近いが、夜明けの兆しは見えない。

あの黒雲と、その中心に浮かぶ方舟を沈めない限り、帝都に朝日が昇る事はないのだ。

 

「隊長、信じているぞ………!」

 

「大神さん、紅蘭さん、ご無事で………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都・上野公園。

桜が見頃のこの時期、帝都でも有数の花見の名所として知られるこの地も、今は戦場の一つと化していた。

魔装機兵シカミ。

同じく魔装機兵神威。

この二体の強力な魔装機兵を前に、応戦したさくらとすみれは大苦戦を強いられていた。

巨大な身体を生かした豪快かつ激しい一撃を見舞うシカミと、生来の剣捌きを遺憾無く発揮する神威。

これらに同時に攻撃されては、一たまりもない。

さくらとすみれは協力して、互いに一体の魔装機兵の相手をする作戦に出た。

既に周囲の雑魚はほとんど沈黙し、歩く姿は見かけない。

つまり一対一の状況が生まれれば、それは背中を気にする事なく戦える利点が生まれるのだ。

 

「はっ!やあっ!せいっ!!」

 

シカミの相手をすみれに任せたさくらは、専ら神威と激しい剣の舞を演じていた。

互いに剣を知り、剣と共に生きてきた人間だ。

その胸にあるのが正義か悪かという違いなど、この戦いに関しては意味を成さなかった。

 

「(つ、強い………!!まるで隙がないわ………!!)」

 

さくらは改めて、目の前の相手の力量に息を呑んだ。

剣の構え、動き、太刀筋。

そのいずれも崩れる事なく、かつ確実にこちらの弱点を突いてくる。

やはり光武の生みの親だからだろう。

神威はこちらの動きを確実に把握し、見切っていた。

 

「くっ………!!」

 

重く素早い一撃が飛んだ。

幸い自身の刀で受け流すも、追い詰められた状況に焦燥感が募る。

 

「(駄目………!冷静に、冷静にならなきゃ………!)」

 

沸き上がる焦燥感を必死に抑え、さくらは心の中で必死に叫んだ。

焦りは太刀筋を鈍らせ、隙を生む。

冷静さを無くせば無くす程、自らの首を危うくしてしまうのだ。

しかし相手の力量は、完全にこちらを上回っている。

このままでは遅かれ早かれ、疲れて鈍った所に切り込まれるのがオチだ。

普通に隙を伺っていては勝てない。

そう判断した時、さくらの脳裏に一つの考えが過ぎった。

 

「(一か八か………、この一刀にかける!!)」

 

最早勝利を得るにはこれしかない。

さくらは刀を下げ、瞳を閉じる。

それを好機と見たか、神威は刀を突きの姿勢に構えて突っ込んで来た。

そして、その刀身が光武に深々と突き刺さる。

 

「くっ………!!」

 

コックピットのすぐ脇を突かれた衝撃に苦しむさくら。

だが、状況は完全にこちらへ傾いた。

何故なら刀が光武に刺さったこの状態で、神威は身動きがとれなくなってしまったからだ。

肉を切らせて骨を断つ。

本来自身の学んだ北辰一刀流とは違うが、神威を無力化させる事には成功した。

こうなれば、たとえ光武を知り尽くした名うての剣豪と言えど、敵ではない。

 

「破邪剣征………、桜花天昇!!」

 

桜色の鎌鼬が、至近距離から一閃した。

直後、邪悪を体現した魔装機兵は、真っ二つに叩き割られ、紅の地に沈む。

 

「ハァ………、ハァ………。」

 

僅かな沈黙を置き、その場に膝を着く。

右側の身体が上手く動いてくれない。

どうやら神威の刀に動力部の何処かをやられたようだ。

やはり慣れない戦い方はするものではない。

ふと考えるさくらの後ろで激しい爆発音が轟いたのは、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浅草花やしき遊園地に続き、上野公園を瓦礫に変えた魔装機兵シカミ。

その身の丈はあろうかという二本の鉈を振り回して暴れる修羅に、すみれは今までにない苦戦を強いられていた。

 

「くっ………!この三下如き………!!」

 

ギリギリで鉈をかわし、薙刀を杖代わりに立ち上がる。

敵が素早い訳ではない。

敵の攻撃に身体が追いつかないのだ。

敵が篦棒に強い訳ではない。

寧ろ、おかしいのは自分の方だ。

そう理解し、すみれは自嘲気味に笑みを漏らした。

いつかこうなる事は分かっていた。

ただそれが、予想していた時より早かっただけの話だ。

ここ最近の霊力の低下。

以前から指摘されていた事ではあったが、まさかこれ程早く明るみに出てしまうとは、思いもしなかった。

人はいつまでも同じ地位にいる事は出来ない。

時が経ち、老いる中で必ず次に来る者に譲る時が来る。

それは長年帝都のトップスターでさえ、同じ事が言えた。

 

「すみれさん!!」

 

神威を仕留めたさくらが飛び込んで来たのは、シカミの鉈が眼前に迫ったちょうどその時だった。

鉈を一本刀で弾き、もう一本は直接体当たりして軌道をずらす。

真横からの不意打ちに対応できなかったらしく、シカミは派手に地面を転がる。

 

「くっ………!」

 

直後、さくらもまた苦しげに足をついた。

見るとコックピットすぐ横に刺し貫かれたような風穴が空いている。

恐らくさくらも神威を相手に死闘を演じていたのだろう。

そう確信したすみれは、傷ついた体で尚もシカミに立ち向かうさくらの姿に、自身の無力さを恨んだ。

 

「きゃあっ!?」

 

幾度かの剣戟を挟み、さくらの光武が押し飛ばされた。

その拍子に刀が手を離れ、遠くの地面に突き刺さる。

やはりさくらのダメージも大きかったのだろう。

剣捌きや身のこなしに普段のキレがないのが何よりの証拠だ。

満身創痍の身体で仕留められる程、シカミは甘い相手ではない。

 

「し、しまっ………!!」

 

丸腰に追い込まれたさくらも離れた位置にある刀に気づくが、それより先にシカミが遮るように立つ。

ただでさえ傷ついたこの状態で、最早回収は不可能。

そこまで判断したすみれの行動は、素早かった。

 

「させませんわよっ!!」

 

己の薙刀にありったけの霊力を注ぎ込み、稲妻の如く疾駆してシカミに躍りかかる。

シカミも寸前でそれに気づいて避けようとするが、間に合わない。

淡い紫の光を帯びた刃は、紅の般若から右手ごと鉈の一本を切り離して見せた。

が、渾身の力を込めた一撃さえ、致命傷には至らなかった。

 

「くっ!?」

 

「すみれさん!!」

 

反撃は直後に来た。

シカミのもう一本の鉈が、光武の右足を浅く切り裂いた。

何とか受け身で距離を取ったために傷は浅いが、それでも機動力の大部分を奪われた事に間違いはない。

向こうもそれを理解しているらしく、視線を自分からさくらに移す。

 

「すみれさん、大丈夫ですか!?」

 

「私より自分を心配なさい!!」

 

自分を心配するあまり状況を把握出来ていないさくらに一喝し、すみれは己の獲物をシカミ目掛けて放った。

シカミはギリギリで気づいて後方に下がり、薙刀はさくらの目の前に突き刺さる。

 

「す、すみれさん………。」

 

「その足では走れないでしょう?それをお使いなさい。」

 

自分の驚くべき行動に目を丸くするさくらに、すみれは優しく微笑んで見せた。

霊力が低下した状態で機動力まで奪われた以上、最早自分が戦力外に陥った事に間違いはない。

ならば自分よりダメージの少ないさくらに託そうと、すみれは考えたのである。

 

「形は違えどそれも刀。初めてとはいえ、生け花の二の舞になったら承知しません事よ?」

 

「………、はい!!」

 

その言葉にようやくすみれの意図を理解したらしく、力強い返事を返すさくら。

薙刀を突きの姿勢で構え、再び紅の魔装機兵を睨む。

そして一瞬の間を置き、矢のように飛び出した。

 

「やああああっ!!」

 

裂帛の気合いが響き、二つの影が交差した。

僅かな沈黙。

それを破ったのは、般若の首が地面に落ちた音だった。

 

「………我ながら、最低のカーテンコールですこと………。」

 

その様子に、すみれは誰に言うとでもなく呟いた。

たとえトップスターと言えど、それは一役者に過ぎない。

いつかは誰かに、その場所を譲らなければならないのだ。

己の獲物を手に佇むさくらを見て、すみれは改めてそれを実感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬、何が起きたのか分からなかった。

ただ、普段刀を振るった時に感じる手応えのようなものはあった。

それが自身の錯覚でないと初めて実感出来たのは、背後で何かが落ちる音が聞こえた時だった。

 

「くっ………!?」

 

その時、初めてさくらは地面に足を着いた。

恐らく霊力の使いすぎだろう。

一度の戦闘で二回も決死の行動に出れば、こうなるのは無理のない話だ。

ともかく上野に出現した敵はほぼ撃破に成功した。

どちらの光武も再起不能だが、十分な結果を残したと言えるだろう。

そう判断し、一安心して胸を撫で下ろす。

 

「………!? な、何!?」

 

すぐ近くで凄まじい爆発音が轟いたのは、その時だった。

ここから東………、銀座だ。

果たしてそこに見えたのは、想像を絶する光景だった。

 

「あ、あれは………!?」

 

驚きのあまり、さくらは絶句した。

何故なら今まで見た事もないような怪獣が、光の巨人を圧倒していたからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深川、品川、浅草に続く日本橋での勝利。

勝ち目は薄いとされていたこの決戦も、今の所は順調に進んでいると言って良いだろう。

が、作戦司令室でその一部始終を見守る米田の表情は依然として厳しいまま動かなかった。

いや、更に表情は固くなったというべきだろう。

その理由はただ一つ。

帝都の中心地、銀座に恐るべき強敵が姿を現したからだ。

漆黒の身体にたぎる一兆度のマグマ。

声の代わりに規則的に響く電子音。

先程倒された天照などおよそ並びもしない鉄壁の如く仁王立ちになるその姿。

それはかつて、宿敵が放ったウルトラマン抹殺の最終兵器。

 

「………ゼットン………。」

 

宇宙恐竜、ゼットンだった。

「まさかアイツまでいやがるとは………。秀介………!!」

 

相打ちとはいえ、一度は秀介を死に追いやった強敵。

ただでさえプラズマ・オーブを失い、心身共にボロボロの状態のジャックがゼットンを下せる確率は、限りなく0に近いと言っていいだろう。

 

「(なあ豊………、今の俺をお前はどう思う?)」

 

米田はふと、戦友に思いを馳せた。

 

「(情けねぇよな………。アイツらが、お前の弟が、それこそ命懸けで戦ってるって時によ………!!)」

 

本来、今のジャックはとても戦える状態ではない。

先程のグドンとの戦いを見ても、それは疑いようがない程に明らかだ。

米田は今程老いた自分をもどかしく、やるせなく思う事はなかった。

 

「(中将………。)」

 

そんな米田の脳裏にふと、豊の言葉が蘇った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶望的とは、正しくこの状況の事だろう。

激しい敵の攻撃に悪戦苦闘しながら、ふとジャックは思った。

宇宙恐竜ゼットン。

かつて自らを倒すべくバルタン星人が放った、ジャックスキラーを越える最強無敵の大怪獣。

攻守共にジャックを凌駕する圧倒的なポテンシャルは、四年という月日を挟んだ今でさえ、少しも劣る事はなかった。

 

「ヘアァッ!!」

 

スパークソードを構え、渾身の一突きを見舞う。

だが、漆黒の壁はあっさり金色の剣を跳ね退けた。

 

「ァアッ!?」

 

カウンターの強烈なパンチを喰らい、ジャックの身体は宙を舞って地面に崩れる。

 

「………ゼットン………。」

 

これを好機と見たか、ゼットンはテレポートでジャックに接近し、更に追い撃ちをかけた。

 

「ヘッ………!!」

 

ダメージのせいで起き上がれないジャックの首を掴み、高々と夜空へ持ち上げる。

その様は見る者全てを絶望の底へ突き落とす、公開処刑のようだ。

 

 

 

 

 

が、それを華麗に阻止する者がいた。

ジャックと同じ光の巨人、ウルトラマンティガである。

 

「チャーッ!!」

 

上空からの勢いをつけたティガスカイキックが、ゼットンの側頭部を直撃した。

たちまちジャックから手を離し、地面に倒れるゼットン。

ティガはゼットンに警戒しつつ、ジャックを助け起こした。

 

「秀介さん、大丈夫?」

 

「はい、助かります………!」

 

ティガの助けで何とか起き上がり、ゼットンと対峙するジャック。

ゼットンも大してダメージを受けた様子もなく立ち上がる。

銀座を舞台に、再び激戦の幕が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都各地での死闘とは裏腹に、ミカサを襲撃した双武は順調に機関部目指して進撃を続けていた。

何せ二人分の霊力を纏った最強の霊子甲冑だ。

並み居る敵を薙ぎ倒しながら進む様は、正しく動く壁である。

 

「………、これは………!?」

 

その何体目かも分からなくなった魔装機兵を叩き斬った時、驚くべき映像が詳細と共に送られて来た。

銀座を爆撃しながら現れた四体目の怪獣。

こうして見るのは初めてだが、資料で見覚えがある。

漆黒の身体と牛を思わせる二本の角。

時折電子音を発する一兆度のマグマ。

四年前、聖魔城入口にでウルトラマンジャックと相打ったバルタン星人の最終兵器。

宇宙恐竜ゼットンだ。

が、大神にとって驚くべき事は他にあった。

ゼットンが出現した地点は銀座。

帝劇から少しばかり距離が離れているのは不幸中の幸いだが、そこは地上部隊のある人物が交戦していた場所だった。

地上部隊隊長、ロベリア=カルリーニだ。

 

「お、大神はん………、さっきからロベリアはんだけ連絡がないて………、もしかして………!!」

 

「ロベリア!応答せよ、ロベリア!!」

 

隣の紅蘭も大神と同じ事を考えたらしく、俄かに表情を強張らせる。

その不安を振り払うように、大神は通信機に向かって叫んだ。

すると数秒の間を置き、通信が繋がった。

 

「………何だ隊長か。このクソ忙しい時に何だってんだ?」

 

呆れた表情とけだるげな返事。

いつも通りの彼女の様子に、二人は少しだけ安心した。

 

「いや、通信が無いから心配になって………。」

 

「お前らなあ………、このアタシを誰だと思ってやがる?ちったぁ相棒を信用しろ。馬鹿だからか?」

 

二人の心配を鼻で笑い、呆れた表情で余裕をかますロベリア。

どうやらこちらの心配は杞憂だったらしい。

 

「じゃあとっとと通信切るぜ?こちとらボーナスが目の前なんだからよ。」

 

「ああ、分かった。存分に暴れてくれ!」

 

ロベリアの言葉を信頼し、激励を送る大神。

しかし彼は気づいていなかった。

心から信頼する相棒が立たされている、本当の状況に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………けっ、こういう時だけ鋭い奴だ。ま、そこがいいんだけどね。」

 

通信を切った後、ロベリアは一人呟いた。

目の前には生焼けになった魔装機兵ハクシキの姿がある。

既に虫の息らしく、動きが非常に鈍い。

が、それはロベリアも同じだった。

光武F2は右半身を失い、コックピットも剥き出しになっている。

搭乗者がロベリアでなければ、最早動かすなど至難の業だろう。

こうなった原因は一つ。

何の前触れもなく地下から現れた、宇宙恐竜だった。

 

「まあ、アタシにしちゃあ上出来ってとこかな、相棒………。」

 

エリカを先に日本橋へ向かわせてよかった。

あの天然シスターなら、死ぬ覚悟で自分を治療しまくるだろうから。

それに、これから始まる本当の地獄を、生き延びられそうもないから。

こんな事が知れればあの馬鹿な相棒の事、ひっぱたかれるだろうか。

ふとそんな事を考え、ロベリアは一瞬だけ優しく笑う。

そして次の瞬間、生来の殺気を存分に溢れさせた悪魔の笑みを浮かべた。

 

「さあデカブツ………、これがアタシらのフィナーレだ。有り難く受け取りな!!」

 

残された光武F2の左爪に、ありったけの霊力を集中する。

その膨大な霊力を制御しきれず、そこら中に火花が散るが、知った事ではない。

 

「朽ち果てろ………、デモン・ファルチェ!!」

 

霊力を具現化させた死に神の鎌と共に、灼熱の爪が深々と能面を刺し貫く。

刹那、銀座の一角に二度目の大爆発が轟いた。

 

<続く>




《次回予告》

思い返せば早十三年……。

瞬き同然のこの時間に、人も、町も、変わっていく。

されど、消えないものがある……

次回、サクラ大戦4最終幕。

《~フィナーレ~完結編》

命短し恋せよ乙女………

行こうぜ豊………俺たちの最後の舞台だ。
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