桜舞う星~フィナーレ~   作:サマエル

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最終幕~フィナーレ~完結編

宇宙恐竜ゼットンと二大ウルトラマンの激戦は、双方予期せぬ形を以って決着を迎える事となった。

歴戦のジャック、プラズマ=オーブを受け継いだティガの二人を相手に互角の戦いを演じていたゼットン。

その足元で、突如として霊力を伴った激しい大爆発が起きたのだ。

不意を突かれたゼットンは防御の間もなく吹き飛ばされ、仰向けに倒れる。

刹那、またとない隙が生まれた。

 

「今だっ!!」

 

最初に反応したのはティガだった。

右手をカラータイマーに沿え、ゼットン目掛けて突き出す。

するとゼットンの頭上に凍てつくエネルギーが放射され、瞬く間に灼熱の宇宙恐竜を冷やし固めてしまった。

ティガフリーザー。

絶対零度の光線で敵を凍結させる、スカイタイプの必殺技だ。

 

「ンゥゥゥ………、ハッ!!」

 

「ヘッ………!!」

 

再度クリスタルを発光させ、マルチタイプへチェンジするティガ。

その横でジャックもまた、トドメをさすべく意識を集中した。

 

「ハッ!!」

 

「ヘアァッ!!」

 

ジャックのスペシウム光線とティガのゼペリオン光線が宇宙恐竜を撃ち抜いたのは、ほぼ同時だった。

直撃した胸倉から四方八方に亀裂が入る。

そして亀裂が全身を覆った時、ゼットンは文字通り粉々に砕け散った。

一度は帝都の死すら漂わせた怪獣兵器。

その脅威は二つの光によって、完全に打ち砕かれる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

………と、思われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………これは!?」

 

それは突然だった。

砕け散ったゼットンの破片から、何やら金色の煙のような何かが浮かび上がって来るではないか。

煙は常に変化を続けて一定ではないが、それでもゼットンの牛のような二本の角が辛うじて分かる。

見れば帝都の至る所から、色違いの煙が次々と集まって来た。

いずれもつい先程、もしくは以前二人の巨人に戦いを挑み、敗れ去ったはずの怪獣達だ。

二人にはそれが、かつて倒した怪獣達の怨念のように思えた。

死して尚、帝都の闇の僕として猛威を振るわんとするかのように。

そして………、

 

 

 

 

 

「グエエエエンッ!!」

 

 

 

 

 

この世のものとは思えない咆哮が、妖気の波動となって帝都を震わせた。

その波動に伴い、煙が一瞬の内に四散する。

刹那、二人の巨人は恐るべき光景を目にした。

シルバゴンの頭。

ゼットンの角。

ベムスターの腹部。

ガゾートⅡの足。

バラバの両腕。

グドンの尻尾。

まるでこれまでの怪獣を無理矢理繋ぎ合わせたような化け物が、殺気を剥き出しにした双眸でこちらを睨んでいる。

大久保長安の反魂の術で生み出された最強最悪の大怪獣、タイラントの誕生だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀座における異変は、すぐに作戦司令室を介して帝都各地の隊員達に伝えられ、見る者全てを驚かせた。

何せ資料中最強の宇宙恐竜に引き続き、見た事もない化け物が現れたのだ。

驚かないはずがない。

が、しかし、遥か上空を疾駆する大神だけはハッと気付いたように叫んだ。

 

「ちょっと待て………。二度目の爆発は、一体………。」

 

ゼットン出現に前後して銀座で発生した二度の大爆発。

最初のそれがゼットン出現によるものである事は納得出来るが、二度目は一体何だというのか。

そこまで考えを巡らせた時、大神の脳裏にある答えが浮かび上がった。

 

「まさか………、ロベリアかっ!?」

 

可能性はあった。

ロベリアは相棒のエリカを日本橋に向かわせ、自身は一人ハクシキと交戦していた。

そして交戦中にゼットンが出現した。

大神がロベリアを心配して通信を入れたのはその時だ。

そして、ロベリアの言動からハクシキはまだ生きていた可能性が高い。

という事は………。

 

「そんな………、ロベリアはん………。」

 

「ロベリア………。頼む、無事でいてくれ………!!」

 

二人は一瞬、生死の分からなくなったロベリアの身を案じた。

無理のない事だった。

何せ二度目の爆発を境に、ロベリアと通信が繋がらなくなってしまったからだ。

 

「来たか………。神楽………舞う者達………。」

 

妖気が吹き付けられたのは、その時だった。

ハッと気付いて振り向く双武。

そこには、予想通りの人物がいた。

右手に白い扇子を持ち、古い衣を纏い、ひび割れた金色の能面からは、左目だけがこちらを射抜くように覗いている。

大久保長安。

生前は帝都繁栄の柱にして、死後は帝都壊滅の黒幕となった能楽師。

そして降魔復活に始まる、帝都の闇の真の正体。

かえでに見せられた写真と違わぬ姿で、それは遥か天空からこちらを見下ろしていた。

 

「ついに来たか………。大久保長安!!これ以上の悪事は許さん!!」

 

ともすれば恐怖すら感じえない強烈な妖気。

大神はそれを振り払わん限りに叫ぶと、二刀を構え一直線に切り掛かった。

踵に装備した紅蘭特製の急発進エンジンを全開にして宙を舞い、隕石の如く激突する。

 

「やったか!?」

 

己の二刀に確かな手応えを感じ、地に足を着く双武。

だが直後、紅蘭が異変に気付いた。

 

「いや、まだや………! 有り得ん位の妖力が溢れとる! 何か来るで!!」

 

見上げれば、そこには無傷の能楽師が尚もこちらを見下ろしていた。

その圧倒的な妖気は、双武の突進すらも容易に跳ね返す程だったのである。

 

「舞え………暴君………。我が魂を………舞台とし………。」

 

まるでこちらを意にも解さぬように、長安が舞った。

 

「我………開く………冥府の岩戸………。神を誘う………体を授けん………。」

 

稲光の如きまばゆい閃光を伴い、長安の姿が一瞬虚空に掻き消える。

そして次の瞬間、雷鳴と共に黒雲から驚くべき姿の化け物が現れた。

長安の付けていた能面の左目から身体を伸ばし、髑髏のような白色の顔には血のように赤い二つの目が光る。

死神の如き悍ましさでありながら、神の如き神々しさすら感じさせる究極の存在。

地上に降誕した大怪獣と共に神楽を舞う長安の最終兵器。

その名、『神体』という。

 

「行くぞ、紅蘭!奴を倒し、帝都に未来を齎す!!」

 

「了解や!大神華撃団の力、存分に見せたるで!!」

 

再び二刀に霊力を集中し、神体に対峙する双武。

ミカサコックピットを前に、最後の決戦が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長安の手により出現した、暴君怪獣タイラント。

闘争本能の赴くままに帝都を蹂躙する様は、正しく暴君という名を冠する怪獣に相応しい。

その暴れ振りは、さしもの二大ウルトラマンですら霞む程のものだった。

頭のシルバゴンの角は光線を次々と無効化し、身体を攻撃すればベムスターの腹部がやはり全てを飲み込んでしまう。

そうして息切れを起こした所に、バラバのワイヤーとゼットンの火の玉が襲って来る始末だ。

最早手も足も出ないというのが正直な話だった。

 

「グエエエエン!!」

 

タイラントの口から一兆度に達する灼熱の火炎弾が発射された。

すかさずティガが前に立ち、ウルトラシールドで防御に徹する。

そこへ、左手のワイヤーが蛇のように襲って来た。

 

「ジュワッ!?」

 

ワイヤーが首に深く食い込み、ティガを苦しめる。

そこへ、今度はジャックが飛び込んだ。

 

「ヘアァッ!!」

 

黄金のスパークソードが一閃し、たちまちワイヤーを寸断する。

 

「グエエエエン!!」

 

間髪入れずに右手の鎌でジャックに切り掛かるタイラント。

しかしジャックも負けじと黄金の剣で激しく切り結んだ。

 

「シュワッ!!」

 

幾度目かの一閃。

乾いた金属音と共に鎌が宙を舞い、地面に突き刺さった。

 

「グエエエエッ!?」

 

切断面から煙を上げ、思わず後ずさるタイラント。

それを見たジャックは、更なる追撃を仕掛けた。

 

「シュワッ!!」

 

比較的筋肉の少ない首筋を狙い、スパークソードを深々と突き刺す。

完全なトドメにはならないとしても、かなりの致命傷を負わせる事は出来た。

本来なら誰もがそう考えるだろう。

だがこの暴君に、そんな常識は通用しなかった。

 

「グエエエエン!!」

 

「ァアッ!?」

 

何とタイラントは首筋の風穴に怯む事なく、そのままジャックの顔面に火の玉を吐き出したのである。

ほぼ零に近い至近距離からの奇襲にスパークソードは消滅し、ジャックはもんどりうって倒れた。

 

「ハッ!!」

 

ジャックに追撃しようと身構えたタイラントに、今度はティガが飛び掛かった。

全身の体重をかけたぶちかましで、そのままタイラントを押し倒す。

更にその身体に馬乗りになり、激しいパンチの雨を降らせた。

だが、反撃は唐突に訪れた。

 

「ジュワッ!?」

 

何とタイラントの尻尾が、振り上げたティガの右手を捕らえたのだ。

それだけではない。

尻尾はワイヤー以上の力でティガを引き倒したのである。

 

「ジュワッ!?」

 

たちまち形勢は逆転し、うつ伏せに倒れたティガの背中を、今度はタイラントが踏み付ける。

が、そうはさせまいと飛び込む影があった。

帝都の空を駆る二つの流れ星である。

左右の霊力砲から次々とタイラント目掛けて砲撃を食らわせる。

角と腹部に無効化されてダメージは与えられないが、それでも注意を逸らすだけの効果を上げた。

 

「グエエエエン!」

 

流星を撃ち落とさんと、タイラントが次々に火炎弾を吐き出す。

そこへ、ジャックが不意打ちをかけた。

 

「シュワッ!!」

 

素早く両手を十字に組み、必殺のスペシウム光線を発射する。

するとどうだろう。

スペシウムはタイラントの口元に、それも火の玉を発射するタイミングで直撃したのである。

たちまち火の玉はスペシウムで誘爆し、タイラントの顔面を一瞬炎が包む。

その一瞬、タイラントの体重がティガの背中から離れた。

 

「チャーッ!!」

 

すかさずタイラントの足から脱出し、立ち上がるティガ。

その頃にはタイラントの顔の炎も鎮火し、戦いは振りだしに戻る。

が、形勢は依然としてタイラントにあると言って良いだろう。

何故ならこの時、二人のカラータイマーが点滅を始めたからである。

 

「グエエエエンッ!!」

 

それを嘲笑うかの如く、暴君の咆哮が轟く。

顔に火傷を負い、首筋に風穴を開けられて尚平然と襲い来るタイラント。

それは、明らかにこれまでの怪獣達とは一線を画していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………かえでくん。」

 

未だ報告の行き交いが止まない作戦司令室。

その中において、米田がふと重い腰を上げた。

作戦遂行時とはまた違う、キレのある表情。

まるで、何かの決意を固めたかのように。

 

「俺は今程、自分を恨めしく思った事はねぇ………。俺の子供同然のあいつらが必死だってのに、俺はただこうして座ってるだけだ。」

 

「司令………。」

 

今までの自分そのものを叱咤するように、米田は呟いた。

その様子にかえでのみならず、風組も言葉を失う。

今の米田に、生身であの戦場を生き延びられる可能性はない。

しかし希代の陸軍中将は、それに甘んじる事だけはしなかった。

助けたいのに助けられない無力感。

刻々と悪化していく戦況の中、それは罪悪感にも似たような形で良心に訴えかけてくる。

大神達を助けたい。

その決意が、米田の瞳からは感じられた。

 

「かえでくん、今から大神華撃団総指揮を、君に一任したい。」

 

「し、司令………!?」

 

その言葉は、かえで達を驚愕させるには十分なものがあった。

何せ作戦途中で指揮権が移るなど、異例中の異例だ。

あの陸軍有数の実力者の米田が、一体どうしたというのか。

 

「行かなきゃならねぇ所が出来たんだ………。俺じゃなきゃ駄目な所がな………。」

 

米田はそう呟き、作戦司令室を後にする。

あとには、彼の背中を呆然と見送るかえで達だけが残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(思えば、あれから十三年かぁ………。早ぇもんだな。)」

 

玄関に続く廊下を歩きつつ、米田はふと昔の記憶に想いを馳せた。

今から十三年前。

長安の手によって降魔が出現し、対降魔部隊を発足させた時。

あの頃はまだ、僅か五名という異例の少数部隊だった霊的組織。

それが今は、国を越えて帝都のために奮戦している。

帝都を守るという、自分達と同じ志を持って。

 

「………あれか………!」

 

玄関の扉を開き、米田は視線を鋭いものに変えた。

すぐ近くで暴れる暴君。

その上空に構えるミカサ。

決して芳しいとは言い難い戦況に、米田は何故か自嘲気味に笑った。

 

「(悪いな豊………。約束は、守れそうにねぇや。)」

 

ふと、米田は視線を空へ移す。

破滅の雲の切れ間に浮かぶ、一つの星が見えた。

 

「待ってろよ、お前達………。これが俺の正義だ!!」

 

何かを決意したような、それでいて何かを諦めたような顔で、米田はサッと右手を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那、闇に覆われた雲の切れ間に、ウルトラの星が輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、誰もが目の前の光景を疑わずにはいられなかった。

銀座、それも帝劇前から一つの光が現れたかと思うと、凄まじい速さで地上の暴君を吹き飛ばしたのである。

 

「グエエエエンッ!!」

 

肥大化した光の体当たりを受け、タイラントの身体が派手に地面を転がる。

直後、それに立ちはだかるように、光は形を変えた。

 

「………!!」

 

その瞬間、誰もが絶句した。

タイラントとタメを張る巨大な身体。

銀と赤の体色。

そして何より、後ろのジャックと瓜二つの顔。

 

「間に合ったな、ジャック。」

 

「兄さん!!」

 

宇宙警備隊隊長にして、十三年前に帝都を守った光の巨人。

ウルトラマンゾフィーがそこにいた。

 

「兄さん、どうして此処に!?」

 

我に還ったジャックが、ゾフィーに尋ねた。

助けに来てくれた事は嬉しいが、そんな知らせは聞いていない。

 

「後で話す。今はこの危機を乗り切る事が先決だ。」

 

そんな弟の問いを軽く流し、ゾフィーは左右の手を二人のウルトラマンに翳してエネルギーを送る。

すると、驚くべき事が起こった。

それまで激しく点滅を繰り返していたカラータイマーが、空色を取り戻したのである。

同時に二人は、身体中の力が瞬く間に戻ってくるのを実感した。

 

「ジャック、ティガ、行くぞ!!」

 

「シュワッ!!」

 

「チャッ!!」

 

目の前の暴君目掛け、三人の巨人は一斉に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

ウルトラマンゾフィーの参戦により、圧倒的不利だった展開は瞬く間に逆転した。

地球での功績から十三年間、無敵と呼ばれ続けたその力を、ゾフィーは暴君相手に存分に披露する事となった。

 

「グエエエエンッ!!」

 

タイラントの口から無数の火炎弾が迫る。

この直撃を喰らえば、たとえウルトラマンでも無事では済まないだろう。

が、ゾフィーとなれば話は別だった。

 

「ヘッ!!」

 

何と、ゾフィーはバリアを張る事もせず、火炎弾を胸に浴びて尚涼しい顔で立っているではないか。

それだけではない。

お返しとばかりに両手を胸の前で合わせ、右手を突き出して光線を浴びせたのである。

M87光線………。

全身のエネルギーを右手一本に圧縮し、敵の一点に撃ち込むゾフィーの必殺技だ。

 

「グエエエエン!?」

 

ジャックのそれとは段違いの一撃が、バリアを破ってタイラントの角を破壊した。

それもそのはず。

何せゾフィーのM87光線は、数あるウルトラマンの必殺技の中でも屈指の威力を誇るからだ。

同じウルトラマンでありながら、ジャックやティガとは次元の違う強さを持つゾフィー。

名実共に最強のウルトラマンが、そこにいた。

 

「これで最後だ。行くぞ!!」

 

ゾフィーの声を合図に、三人の巨人は一斉に必殺技を放った。

 

 

「ダアッ!!」

 

「ハッ!!」

 

「ヘアァッ!!」

 

ティガのゼペリオン光線。

ゾフィーのM87光線。

そして、ジャックのスペシウム光線。

三つの光線は一つに重なり、タイラントの顔面に炸裂した。

 

「グエエエエ………!!」

 

悍ましい断末魔の絶叫が轟いた。

直後、巨大な身体が仰向けに倒れ、嘘のような沈黙が流れる。

そして………、

 

「終わったか………。」

 

ゾフィーの呟きと共に、暴君は爆炎の中に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上の暴君が光の巨人達によって滅ぼされた頃、ミカサ上空での戦いも決着を迎えようとしていた。

重力の法則を無視するように宙を舞い、凄まじい妖気の塊を絶え間無く浴びせて来る神体。

大神と紅蘭はその激しい攻撃を必死にかい潜り、神体に幾度となく切り掛かる。

そして何度目か分からない妖気の塊を切り払った時、双武が神体の死角に回り込んだ。

 

「隙あり!!」

 

「行くぞ、紅蘭!!」

 

この一撃で決着をつける。

二人は二刀を構えると、決意と共に霊力を注ぎ込む。

 

「「狼虎滅却………!!」」

 

霊力を帯びた二刀が、淡い緑色の光を放つ。

それが目が眩む程のまばゆさに達した時、双武は空高く跳躍した。

 

「巻き起これ!!」

 

「愛の嵐!!」

 

「天地風雲!!」

 

それは遥か天空の裁きか。

二刀を構えた双武は雷の如く、真下の神体目掛けて超高速で突っ込んだ。

その一撃、これまで傷一つなかった神体の身体に巨大な風穴を作った程である。

霊力のシンクロだけではない。

およそ言葉では言い表す事の出来ない何かが、二人にはあった。

 

「俺達大神華撃団がある限り、貴様の好きにはさせない! 冥府に帰れ! 大久保長安!!」

 

全身から煙を出す神体を見据え、大神が叫んだ。

今の一撃は、完全に神体の中枢部分を破壊している。

常識的に考えれば、最早動く事も叶わないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、長安の怨念は、まだ消えてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何だ!?」

 

突然、ミカサを激しい振動が襲った。

激しい揺れに、思わず双武の片足を着く。

すると、紅蘭が何かに気付いたように表情を強張らせた。

 

「お、大神はん!あれ、さっきの怪獣ちゃう!?」

 

「何!?」

 

紅蘭が指差した方向。

そこには、つい今しがたウルトラマン達に倒されたはずのタイラントの破片が次々と集まり、竜巻のような渦を巻いていた。

ミカサはその破片に一直線に飛び込んでいく。

 

「暴君………方舟………。一体とせよ………、帝都を無に還さん………。」

 

破片の嵐に、怨霊の声が響き渡った。

 

「千古不易………、五行霊気!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前の現実に、誰もが戦慄せざるを得なかった。

無理もない。

ゾフィーの協力でようやく倒したタイラントが、ミカサを取り込んで復活したからである。

 

「帝都………、江戸………、全ては無に………還さん………。舞え、神楽………。滅びを………奏でよ………。」

 

「グエエエエンッ!!」

 

長安の言葉に呼応するかの如く、暴君は咆哮を上げた。

刹那、ベムスターの腹部が変形し、ミカサに張り付いていた能面が浮かび上がる。

数百年の長きにわたり帝都を呪い続けて来た怨霊。

その全てが露になった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空中戦艦ミカサと合体し、更なる力を得て復活したタイラント。

その凄まじいまでの力は、三人のウルトラマンすら凌駕する程の力を見せた。

いや、こちらはともかく向こうは戦う意識などない。

無差別に街を壊し、焼き尽くすばかりだ。

まるで帝都の全てを破壊せんとする、長安の欲望を満たそうとするかのように。

 

「ダアッ!!」

 

「シュワッ!」

 

「チャッ!」

 

三人のウルトラマンは、荒れ狂う暴君に億する事なく挑み掛かった。

正面と左右から、一斉に巨体を押さえ込む。

しかし、ここでタイラントが思わぬ反撃に出た。

 

「ァアッ!?」

 

「ジュワッ!?」

 

何と、左右の肩から砲台を出現させ、至近距離からジャックとティガをそれぞれ狙撃したのである。

合体したミカサの砲撃。

それはさしものウルトラマンですら圧倒した。

 

「ヘッ!!」

 

正面のゾフィーも同様の攻撃を察知し、タイラントから素早く飛びのいて距離を取る。

すると、一際大きな砲台がタイラントの胸元に出現した。

ミカサの主砲だ。

 

「グエエエエンッ!!」

 

タイラントの咆哮と共に、ゾフィー目掛けて超威力の主砲が発射される。

だがしかし、ゾフィーも負けてはいなかった。

 

「ダアッ!!」

 

何と、ゾフィーは自身のM87光線をミカサの主砲にぶつけたのである。

かつて聖魔城の城壁を粉砕して見せた主砲。

それを帝都にぶつけられれば、被害は計り知れない。

ゾフィーは敢えて、自身の光線で相打つ作戦に出たのである。

 

膨大な妖気を纏った弾丸と、膨大なエネルギーが衝突を続ける事僅かに数秒。

その拮抗を破ったのは、ゾフィーだった。

M87光線が弾丸を押し戻し、そのままタイラントの胸元に直撃する。

 

「グエエエエッ!!」

 

絶叫と、それを掻き消す大爆発が轟いた。

 

「よっしゃあ!!」

 

「米田司令………!」

 

立ちのぼる爆煙に誰もがゾフィーの勝利を予感する。

しかし、その奥で待ち受けていたのは恐ろしい現実だった。

 

「愚かなり………。帝都………、我裏切りし街………、歎きに消え………、黄泉へ還らん………。」

 

「そ、そんな………!!」

 

「馬鹿な………! 傷が完治しているではないか!!」

 

何と、タイラントは爆発どころか、傷一つなかった。

合体したガゾートⅡの再生能力を利用し、長安の手によって不死身の肉体までもを手にしたのである。

その様は死して尚消えない、長安の怨みを体言するようにも思えた。

 

「死を歌え………、神楽舞う者………。滅びを奏で………、黄泉へ還らん………。」

 

死を呼ぶ咆哮が轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………こ、ここは一体………!?」

 

目の前の状況に、大神は戸惑いの表情を見せた。

ミカサ諸とも竜巻に飲み込まれてから、周囲にはただ暗闇が広がっていた。

色も、音も、何もない空間。

そこはまるで、この世と切り離された無限地獄のようにも思えた。

 

「大神はん、霊力測定機が振り切れとる………。こんなん聖魔城以来や!」

 

「何!? じゃあまさかここは………!!」

 

聖魔城に匹敵する密度の妖気。

紅蘭の言葉にある仮説が浮かぶ大神だが、それを口にする前に別の声が響いた。

 

「光………、華………、帝都の全て………、我を裏切りし全て………、いざ闇へ還らん………。」

 

見れば、暗闇の奥に一人の能楽師の姿が見えた。

その後ろには、彼の顔と同じ左目を失った巨大な能面が控えている。

 

「長安、貴様………!!」

 

その姿を認めるや、大神は切り掛かろうと操縦桿を握る。

が、しかし、どうした事か双武は動く気配を見せない。

いくら霊力を送り込んでも、まるで反応を示さないのだ。

まるで、何かに操られているかのように。

 

「まさか、奴の妖力で………!!」

 

そのまさかだった。

蒸気機械を暴走させたのは、金色の蒸気に混じった長安の怨念。

ならばその怨念が充満したこの空間で、同じ現象が起きても何ら不思議ではない。

 

「狂え………帝都………。呪われろ………江戸………。永久無限の………地獄へ誘わん………。」

 

「何故だ!? 何故そこまで帝都を憎む!!」

 

苦し紛れに大神が叫んだ。

長安が帝都を憎む理由。

それは銀座文書にある通りだろう。

信頼し、忠誠して来た街に裏切られれば誰だって怒る。

が、長安の怨みはそれだけに留まらなかった。

 

「江戸………、道を違えし街………。我に仇なし………、狂いし街………。民………、街………、法………、全ては我が理想を裏切るものなり………。」

 

長安が帝都に憎む理由。

それは帝都に裏切られた事もそうだが、それ以上に自身の理想を尽く裏切った事にあった。

西洋の文化を取り入れ、蒸気の力で進化し、かつての江戸の姿は面影しか残らない。

江戸時代のみ生きた長安にして見れば、それは己の理想を踏みにじり、自身を殺し、果ては存在まで忘れ去られた事になる。

数百年に及ぶ怨念は、その怨みだった。

 

「帝都………、無様な失敗作………。ならば消すまで………。」

 

「ええ加減にせい!!」

 

昏昏と怨みを並べ立てる長安に、突如怒鳴り声が返された。

それは、大神の横にいる紅蘭だった。

 

「無様な失敗作やて? せやから壊すやて? ふざけた事ぬかすなや!!」

 

溜め込んだ怒りを爆発させ、長安を睨む紅蘭。

その迫力は、隣の大神も度肝を抜く程だ。

 

「この街はアンタのもんやない!この街に生きるみんなのもんや!!裏切られたか知らんけど、そんな理屈は通用せえへんねん!!」

 

かつて紅蘭は言っていた。

機械は作った人間のためにあるのではない。

機械を使う人間のためにあるのだと。

だから紅蘭は怒った。

死して尚自らの理想に執着し、帝都の未来を捩曲げようとする長安に。

 

「ほざけ、よそ者………。この街は罪を犯した………。それを知る………者もなし………。いつか同じ罪を犯す………。」

 

「アンタこそ死人のくせにほざくなや!! 人間は機械程完璧やあらへん。何度だって失敗するんや! そして失敗を直して前に進む。ただそれだけや!!」

 

真っ向からぶつかる紅蘭の主張に、長安も言葉を詰まらせる。

紅蘭は更に続けた。

 

「二百年怨んどったアンタは知らんかも知れへんけどな………、帝都には色んな事があったんや。 見てみ………、この町には、こんなに傷ついてもこの町を好いて、守ろうとしてる人達が仰山おるねん!! 失敗作かてええ………、ウチはこの町が………、大神はんと出会えた帝都が好きなんや!!」

 

「………長安、紅蘭の言う通りだ。人は間違いを犯す。帝都も間違いを犯した。だがそれは、その都度直して行けばいいんだ。帝都の未来を願うなら、お前にも分かるだろう!?」

 

大神も、付け加えるように言葉を続ける。

すると、僅かに長安の周囲を取り巻く妖気が薄れた。

自らの主張を論破され、動揺しているのだ。

 

「………ざれ言を………、年若い貴様らに………何故我が怨みを………!!」

 

長安もしぶとかった。

己のした事を理解したのか。

それとも認める事が出来ないのか。

動揺も隠せないまま、かつての能楽師は頭を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、それは思わぬ形で終息を迎える事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何故って決まってるじゃないか。アンタの言い分がただの逆恨みだからだよ。」

 

それはあまりにも突然の出来事だった。

不意に長安の背後から言葉が飛んだかと思うと、その身体をたちまち緑色の炎が包み込んだからである。

それは、一度は生存も危ぶまれた地上部隊隊長の仕業だった。

 

「よう隊長、待たせちまったな。」

 

「ロベリア!! 無事だったんだな!!」

 

相も変わらず不敵な笑みを浮かべるロベリアに、大神は歓喜の混じった驚きの声を上げた。

あのハクシキを巻き込んだ爆発から、一体どうやって生還したというのか。

その答えは、かなり現実離れしたものだった。

 

「ああ、簡単さ。ハクシキと一緒に吹っ飛んだら、そのまま怪獣の中に巻き込まれてね。ちょうどアンタ達が来たから、こうして隙を伺ってたのさ。」

 

「ロベリアはん………。 アンタ、ホンマに人間かいな………?」

 

得意げに言うロベリアに、紅蘭が最もな感想を口にした。

確かに大爆発に加えて怪獣に取り込まれ、更に潜伏しているなど人間業ではない。

すると、ここで大神がある事に気付いた。

 

「………、双武が、動く!?」

 

何と、今まで長安の妖気にやられ、指一本動かせなかった双武が、いつの間にか再起動していたのだ。

長安の妖気が弱まった事と、ロベリアの攻撃で長安自身が致命傷を受けたためである。

 

「さあ隊長、やっちまいな!!」

 

「大神はん!!」

 

「分かった! これで全てを終わらせる!!」

 

勝機はこの一瞬。

二人の言葉に頷き、大神は怨念目掛けて疾駆し、飛び上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、地上でもまた戸惑いの声が上がっていた。

無差別極まりなく暴れる暴君が、何の前触れもなく活動を停止したのである。

まるで壊れたロボットのようだ。

 

「これは、一体………!?」

 

その場にいる全員の気持ちを代弁するように、ジャックがポツリと呟く。

すると、隣に立つゾフィーがその答えに気付いた。

 

「そうか………、大神隊長だ。彼らがタイラントの体内で、長安と戦っているんだ!!」

 

タイラントはミカサを吸収し、体内に取り込んだ。

当然ミカサを強襲した双武は、一緒にタイラントの中に取り込まれた事になる。

タイラントの行動は全て長安の意思によるもの。

もしも大神達がその意思に干渉しているとすれば、説明がつく。

 

「今がチャンスだ。ジャック、ティガ、行くぞ!!」

 

ゾフィーの叫びが口火を切った。

三人のウルトラマンは横一列に並び、各々の最強の必殺技を発動させる。

 

ティガのゼペリオン光線。

 

ゾフィーのM87光線。

 

そして、ジャックのスパークストリーム。

 

三つの光線は一つに合わさり、目の前の暴君を再度直撃する。

そして………、

 

「「狼虎滅却………、震天動地!!」」

 

猛る狼の如き咆哮が轟き、まばゆい閃光が周囲を包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………男と女よ………。帝都を………未来を託す………。」

 

「安らぎと愛に満ちた町を、我に見せてくれ………。」

 

「そしていつか………、お前達の子供と共に………、この帝都に帰って来い………。」

 

「………それが、我が望みだ………。神楽………舞う者達………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明朝5時。

雷鳴を轟かせた黒雲は消えうせ、眩しい朝日が昇る。

その眩しい光を背中に、帝劇目指して歩く七つの影があった。

 

「あ、イチロー達だ!!」

 

「お兄ちゃん!!」

 

「米田司令!!」

 

「紅蘭!!」

 

「ロベリアさん………!」

 

「ダイゴさ~ん!!」

 

「秀介さん!!」

 

最初に気付いたコクリコを皮切りに、集まっていた隊員達は思い思いの名を叫ぶや、我先とばかりに駆け寄る。

半壊した大帝国劇場を前に、総勢23名の大神華撃団は一つに集まった。

 

「秀介さん………!! 良かった………、本当に良かった………!!」

 

「さくらさん………。貴女こそ、よくご無事で………!!」

 

走って来た勢いそのままに抱き着くさくらを、腕一杯に迎え入れる秀介。

 

「ダイゴさん、ずっと待ってたんですよ!? エリカ嬉しくて抱き着いちゃいます!!」

 

「ち、ちょっとエリカさん………!?」

 

同様に半ば体当たりに近い形で抱き着かれ、戸惑うダイゴ。

 

「司令、先程のあれは一体何でしたの!?」

 

「そうだぜ! いつの間にウルトラマンになったんだよ!?」

 

「そこのオッサンも大人しく白状するデース!!」

 

「おいおい………、どいつもこいつも俺の心配してくれねぇのかよ………!?」

 

対照的に四方八方から責められ、たじたじの米田。

その隣では、十三年来の親友が苦笑いを浮かべている。

 

「やれやれ、これでもまだ2万5000歳なんだがな………。」

 

「なるほど、38歳と言いたいんだね。」

 

肩を竦めて見せる豊に、人知れずフォローを返すレニ。

すると、ここで大神が豊に声をかけた。

 

「しかし一ノ瀬大尉。何故貴方が………?」

 

それは当人達以外の誰もが感じていた疑問だった。

本来地球にすらいないはずの豊が、いつ自分達と合流したというのか。

その答えは、驚きの内容だった。

 

「簡単な事さ。私はある理由から、地球に向かった。そして到着してすぐ、ミカサ機関部で瀕死に陥っていた米田中将と一体化したんだ。」

 

「な、何ですって!?」

 

その場にいる誰もが、驚愕に目を見開いた。

ミカサ機関部と言えば、巴里華撃団が救援に来る事となった、数日前の事件である。

豊はその時から、既に米田と一体化していたのだ。

 

「おじちゃん、どういう事!?」

 

「嘘付きは泥棒の始まりデース!!」

 

「司令、正直に話して下さい!!」

 

「この私に嘘など、許しません事よ!?」

 

「い、いや、これはだな、その………!!」

 

更に凄まじい剣幕で睨まれ、必死に弁解しようとするも、言葉を詰まらせる米田。

そんなやり取りが数秒続いた後、米田はハッと思い付いたように大神を見た。

 

「お、大神! ボサッとしてねぇでアレだろ、アレ!!」

 

「フフッ、分かりました。みんな、いつものアレ、やるぞ!!」

 

何時になく必死な米田の様子に笑いをこらえながら、大神は仲間達を呼び集める。

積もる話は後だ。

今はそれより、平和を取り戻した余韻に浸りたかった。

 

「よし、行くぞ!? 勝利のポーズ………、」

 

「「決め!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都史上最大の決戦から、一週間が過ぎた。

 

帝都に仇なす存在となった空中戦艦ミカサは、タイラント諸とも光の中に消滅した。

 

それに伴い、帝都の利便性は大きく損なわれる事となってしまったが、それを呪う者はいない。

 

何故なら、誰もが理解していたからだ。

 

今こうして自分達が生きて明日を迎えられる事こそ、何物にも代え難い最高の幸せだと。

 

そんな彼らを励ますように、帝国歌劇団『ああ、無情』は大盛況を迎える事となった。

 

どんなに苦しい渦中にあれど、希望が費える事はない。

 

それを体言した舞台のフィナーレは、最後にサプライズゲストとして登場した巴里華撃団との夢のコラボレーションもあり、今までにない圧巻のグランドフィナーレを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………お呼びですか、支配人?」

 

キネマトロンの通信で大神が呼び出されたのは、その大盛況の日の夜だった。

通信にあった通り屋根裏部屋を抜けて外に出ると、そこには月明かりを肴に酒を煽る支配人の姿があった。

 

「お、来たな。まあ、まずは一杯飲め。」

 

米田は大神を見るや、酒を並々と注いだ杯を手渡した。

恐らく今日の祝い酒だろう。

普段は断る大神も、今回ばかりは快諾した。

 

「………で、大神よ。お前、どうするつもりだ?」

 

男らしく豪快に日本酒を流し込む大神にふと、米田が尋ねた。

 

「………紅蘭の事ですか?」

 

「そうだ。大神、お前もそろそろ身を固めたらどうだ?何せ、四年も待たせてんだからよ。」

 

やはり、と大神は思った。

紅蘭に将来を約束する指輪を送ってから早三年。

今まで文句一つ言わず待ち続けてくれる彼女に、大神はまだ無情にも答えられていない。

が、今回の事件を機に、大神は一つの答えを見つけていた。

 

「はい………、俺も同じ事を考えていました。」

 

それはつまるところ、紅蘭と生きていくという決意だった。

今まで自分は隊長として、正義と平和を守るためだけに生きて来たし、それが正しいと信じて疑わなかった。

しかし正義だけでは守れないものがある。

大神はこの戦いで、それを知った。

 

「それを聞いて安心したぜ。あいつも、ずっと待ち望んでたからな。」

 

大神の答えに安心し、米田はまた酒を煽った。

嬉しくも寂しそうな、そんな複雑な表情だ。

 

「俺は幸せ者だ。かわいい娘達に囲まれて、お前っていう跡取りも出来たんだからな。もう、俺がいなくても、大丈夫だろう。」

 

「支配人………。」

 

「帝都の平和も、帝劇の舞台も、お前達ならやっていける。俺が保障する。」

 

「………。」

 

米田の言葉に、今度は大神の表情が曇った。

自分達だけでやっていく。

それはつまるところ、米田の引退を意味していた。

 

「見ろよ、大神。もう街は復興している。」

 

そんな彼を気遣かってか、米田が視線を眼下に広がる帝都に移した。

 

「古いものは無くなり、新しいものに変わっていく。人もまた同じ事だ。」

 

時代は常に流れ行くもの。

ただ一つ変わらぬものは、世界が常に変わり続ける事実だった。

 

「俺は満足だよ。帝都のために戦って………、沢山の仲間も失ったが、お前達がいる。さくらが………、エリカが………、秀介が………、ダイゴが………、そして大神、お前もな。」

 

米田は己の半生を振り返り、感慨深げに呟いた。

戦友と共に対降魔部隊を結成して早十三年。

その間、様々な出会いと別れがあった。

悲しい事や辛い事は決して少なくない。

しかしこの人生を全うした瞬間に満足している。

陸軍中将の顔は、清々しさに溢れていた。

 

「受け取れ。この神刀滅却は、お前に託す。」

 

半生を共にした分身を、米田は大神に手渡した。

それが何を意味するか、海軍中尉は知っている。

 

「支配人………!」

 

「あいつらはお前に任せる。大神………、お前が総司令だ。」

 

「分かりました。謹んでお受けします。」

 

大神は一瞬だけ躊躇いそうになりながらも、神刀を受け取った。

何年も米田の命を守り続けて来た滅却は、細身でありながらズシリと重みが感じられた。

大神には、それが自身の双肩にかかる重圧のようにも思えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月明かりが優しく夜空を照らしていた。

それは明かりのない部屋に柔らかく差し込み、幻想的な空間を醸し出す。

 

「………話とは、何です?」

 

その空間で、秀介は向かい合うように立つ兄に尋ねた。

月明かりに写る兄の顔は、どこと無く厳しいものに見える。

 

「ジャック………、何故オーブをあの少年に託した?」

 

豊の問いに、秀介は沈黙だけを返す。

豊は続けた。

 

「オーブの力は凄まじい。お前はそれを制御出来ても、埋め合わせる事は出来ない。それが分からないお前ではないだろう。」

 

それは、純粋に兄としての言葉だった。

自分に似て謙虚で、決して驕る事をしないジャック。

その真面目を絵に描いたような弟が何故オーブを手放し、且つ自身でそれを補うという無謀に陥ったのか、豊は皆目見当がつかなかった。

 

「………この星を守るためです。あの時巴里を守るには、彼にオーブを託す外なかった………。」

 

秀介は、躊躇いながらもようやく口を割った。

 

「彼は光を継ぐ者。しかし同時に、その奥底にうごめく何かがありました。それこそ、闇を象徴する何かが………。」

 

「闇………?それを打ち消すために………。」

 

果たして、秀介は頷いた。

ウルトラマンティガとして覚醒した、光を継ぐ者、ダイゴ=モロボシ。

彼が継いだ光は紛れも無く本物だが、秀介はその光に言い知れぬ冷たさを感じたのだ。

だからこそ秀介は地球に舞い戻り、自身のオーブを託した。

彼はティガの力のみならず、地球の守護者としての立場を受け継いでくれる。

そう信じて。

 

「ではジャック………、お前はその時から………。」

 

「ええ。これから先、この地球を守り行く存在………。それは私達ではなく、彼でしょうから………。」

 

「ダイゴ=モロボシ、あの少年が………。」

 

二人はふと、窓に見える夜空に視線を移した。

遠く離れた故郷、ウルトラの星。

いや、秀介にとっては、最早故郷であった星だろう。

何故なら彼はあの戦いを最後に、変身する能力さえ失ってしまったのだから。

 

「兄さん………。」

 

ふと、秀介が口を開いた。

 

「私は結局、こうなる事を望んでいたのかも知れません。この四年間、私はあの桜だけは、忘れる事が出来なかった………。」

 

それは、初めて秀介が打ち明けた本心だった。

自分は地球人ではない。

自分は宇宙を守らなければならない。

そう建前をつけ、様々な星を渡り歩いた今でも、心の何処かであの笑顔を求めていた。

たとえそれが、取り返しのつかない代償を払う事になったとしても。

 

「ジャック………。」

 

弟の姿に、豊はもう何も言えなかった。

考えてきた言葉は、全て意味を成さなくなってしまった。

あの頃の自分の弟は、もう帰っては来ないのだ。

この日、光の巨人ウルトラマンジャックは、永遠に死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………隊長、ここにいたのか。」

 

屋根裏部屋から戻って来た大神は、階段で不意に声をかけられた。

見ると、そこにはロベリアの姿があった。

 

「ロベリア………、どうしたんだ?」

 

「なぁに、最後に二人っきりで話をしとこうと思ってね。」

 

いつものように尋ねる大神に、ロベリアはいつものように言葉を返した。

が、大神だけは気付いていた。

彼女の口調、表情、視線に、普段の鋭さがないという事に。

 

「ホラ、明日でアンタともお別れだろ?積もる話もあるんじゃないか?」

 

至極当然のように返された言葉に、大神は思わずハッとした。

確かに明日は巴里華撃団が帝都を離れる日だ。

だがロベリアは今、明らかに自分との別れだと言った。

彼女のこの一言が何を意味するか、大神は知っていた。

 

「ロベリア、まさか………。」

 

「まあね。アンタも知ってるだろ?アタシは神出鬼没だって。」

 

その言葉に、大神の予想は確信に変わった。

先程の米田との会話を、ロベリアは聞いていたのだ。

そして恐らく、あの言葉も。

 

「ロベリア、俺は………。」

 

「言うな。………言わなくても、分かってるさ。」

 

いつもより自嘲気味に、ロベリアが目を逸らした。

 

「巴里の悪魔とまで言われたアタシも、落ちぶれたモンだね。ありもしない物を盗もうとするなんてさ………。」

 

「ロベリア………。」

 

何と言葉を返していいか分からず、沈黙する大神。

ロベリアは続けた。

 

「最初から勝負にならねぇ。アンタの心はとっくにあいつのモンだったんだよな。盗める訳がねぇ。」

 

それは彼女らしからぬ、完全な敗北宣言だった。

巴里の悪魔と言わせしめた自分でも、彼の心は手に入れられなかった。

何故なら彼の心は、もう他の女の物だったのだから。

 

「ま、短い間だったけど楽しかったよ。そうだよな、アンタみたいな真面目を絵に描いた奴が、アタシみたいな女に惚れる事もねぇしな………。」

 

「違う、ロベリア………。」

 

「いいんだよ、隊長。言ったろ?人の心は思い通りにはならないって。アンタはアタシじゃなく紅蘭を選んだ。………それだけの事だ。」

 

もう何も言わせないつもりなのか、適当にあしらってロベリアは背を向ける。

刹那、大神は激しい衝動に駆られた。

このまま行かせてはならない。

そう認識した時、大神は既に行動を起こしていた。

 

「ロベリアッ!!」

 

思わず名前を叫び、背中から強く抱きしめた。

離したくない。

まるでそう叫ぶかのように。

 

「なっ!? バ、バカ!! いきなり何すんだ!?」

これには流石のロベリアも驚かざるを得なかった。

反射的に離れようともがくが、大神は腕に力を込めて離さない。

 

「聞いてくれ、ロベリア!! 君は誤解している。俺は………、俺は君が好きだ!!」

 

「なっ………!?」

 

突然の告白に、ロベリアは思わず抵抗すら止めて大神を見た。

当たり前だ。

こんな形で告白などされれば、誰だって驚くに違いない。

 

「やっと分かったんだ………。あの時、護送される君の背中を見た時、俺は胸が張り裂けそうだった。辞令がなければ、絶対君が出所するまで待ち続けるつもりだった。その時から、俺はもう君に心を盗まれていたんだ!」

 

それでも大神は、言わずにはおれなかった。

今言わなければ、もうこの気持ちは伝えられない。

そう感じたからだ。

 

「バカ言ってんじゃないよ! アタシが好きだってのか? アンタが好きなのは紅蘭だろう!? 」

 

「ああ、そうだ。俺は今でも紅蘭を愛している。それは本当だ。でも、それでも、この気持ちも絶対に嘘なんかじゃない!!」

 

隊長としての立場も、背負って来た正義も全て切り捨て、大神は本心を叫んだ。

大神自身も信じられなかった。

まさか自分が、一度に二人の女性を愛してしまう事になるとは。

 

「俺は紅蘭を愛している! それなのに………、それなのに俺は、君の事まで愛してしまった………!! 俺は………、そんな救いようのないバカなんだっ!!」

 

だからこそ、伝えなければならなかった。

紅蘭とこれからを共に生きるために、ロベリアとのこれまでを清算する。

そうしなければ、自分は紅蘭を愛する資格すらないのだから。

 

「ロベリア………、俺を………、許してくれ………!!」

 

気付けば大神は、ロベリアの背中に顔をうずめ、アシンメトリーのコートを涙で濡らしていた。

多分今まで生きて来て、一番情けない姿だろう。

嫌われてもいい。

受け入れるか否かは、ロベリアが決める事だ。

 

「………ホント、情けない男だね。」

 

不意に聞こえた声に顔を上げる。

涙でぼんやりしているが、そこには確かに微笑んでいる彼女がいた。

 

「ホラ、いつまで泣いてんだ? いい男が台なしだよ。」

 

そう言うと、ロベリアはハンカチで乱暴に大神の顔を擦った。

大神自身が驚く程に優しく。

 

「アタシの事まで愛してる………か。フフッ、それを聞いたら十分だ。後の事なんて、もうどうでも良くなって来やがった。」

 

ハンカチが視界から消えたその時、大神はロベリアの瞳に光る何かを見つけた。

眼鏡の反射ではない。

それは、彼女が他人に初めて見せた涙だった。

 

「なあ、隊長………。」

 

不意にロベリアが抱き着いた。

やはり泣き顔は見られたくないという事だろうか。

 

「アタシを愛してるってんなら………、今でもそうか?」

 

「ああ。」

 

耳元でロベリアが囁く。

普段の5割増しに甘美な声に反応しつつも、大神は即答した。

 

「それなら今だけ………、こうしている間だけでいい。アタシだけのアンタでいてくれ………。」

 

「ロベリア………。」

 

大神も、ロベリアの背中に優しく手を回す。

言葉も行為もいらない。

ただこうして僅かな時を過ごせればいい。

大神は一生分の想いを込め、ロベリアだけを愛した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにこのやり取りが帝劇中に知れ渡っていた事は、お約束と言えばお約束である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そうかい。分かったよ、ご苦労さん。」

 

通信を切り、グラン・マはやれやれと脱力した。

戦いが終わり、大神は帝都に残る意思を示した。

元から期待はしていなかったが、それでも実際に耳にすると、残念な思いが少なからずある。

 

「失礼します。」

 

そんな事を考えるグラン・マの下にメルが入って来たのは、その時だった。

 

「メル、どうしたんだい?何か知らせかい?」

 

グラン・マがそう尋ねると、メルは肯定の返事と共に、一通の封筒を机に置いた。

何やら高級感が漂う封筒。

その右隅に書かれた差出人に、グラン・マは目を見張った。

 

「フランス陸軍………。軍部からの通達です………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どうやら、上手く運んだようだな。」

 

真っ暗い闇に包まれた空間に、声が響いた。

 

「まさか例の物を取り出した際に奴が蘇るとは思わなかったが………。せいぜい利用させてもらうとしよう。」

 

低い男の声が続いた。

例の物や奴の正体は分からないが、恐らく何か悪い算段と見て良いだろう。

男の声は、聞く者全てにそう感じさせる悪意に満ちていた。

 

「待っていろ、偽りの守護者………。真にこの巴里を守りし存在、とくと教えてやる………!!」

 

暗闇に、鐘の音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巴里華撃団が帝都を後にしてから数日。

突然の米田の引退もあり、帝国華撃団は少しの間お休みとなった。

何せ劇場運営や有事の部隊編成を一からやり直さなくてはならないのだ。

とてもではないが、舞台を片手間に出来るような仕事ではない。

 

「やあ、紅蘭。ここにいたのか。」

 

そんな仕事に追われる合間、大神は格納庫で作業を続ける紅蘭を訪ねた。

相変わらず泥だらけの作業着姿だが、何処となく可愛く見えるのは欲目だろうか。

 

「あ、大神はん!! ちょうどええ所に!」

 

こちらに気付いた紅蘭も、何やら嬉々とした表情で駆けて来る。

見ると、何やら怪しげな機械を抱えている。

恐らく新しい発明品だろう。

 

「ハハハ、また新しい発明品かい?」

 

「そうや。昔作ったウソ発見機。その名も『まことくん』や!!」

 

そう言って、ポットサイズのまことくんを突き付ける紅蘭。

カッコよくキメてるつもりかも知れないが、ネーミングセンスから間抜けな印象しか伺えない。

 

「これさえあれば、嘘も簡単に見抜けるで! ウチにとっては必需品やな!! てな訳でスイッチオン!!」

 

そんな大神の考えなど知る由もなく、紅蘭はまことくんのスイッチを入れた。

左右の蒸気口から勢い良くスチームが噴きだし、左右の赤と青のランプが光る。

 

「それでは大神一郎はん、貴方は男ですか?」

 

「はい、男です。」

 

また例の如く爆発しないかと心配しつつも、中央のマイクに向かって答える大神。

すると、まことくんの青いランプが点灯した。

どうやら本当だと、青いランプが点くらしい。

 

「よしよし、ちゃんと分かっとるみたいやな。」

 

「紅蘭。」

 

まことくんの反応に満足げな紅蘭に、大神は決心したように口を開いた。

普段はこのまま紅蘭のペースに合わせるのだが、今回はそうはいかない。

何故なら、大神にとって大事な話をしに来たからだ。

 

「分かってるがな。大神はんもやってみたいんやろ?」

 

分かっているのかいないのか、紅蘭はまことくんのマイクをこちらに向けた。

 

「ほれ、ウチに質問してみ。」

 

にこやかに笑って見せる紅蘭。

恐らく聞いたら驚くだろうが、奥手な自分にとってはいい機会だ。

そう思った大神は、マイクに口を近づけて、こう尋ねた。

 

 

 

 

 

 

「紅蘭………、一緒に暮らさないか?」

 

 

 

 

 

 

「………へっ!?」

 

 

 

 

 

 

かなりの間を置き、何とも間抜けな返事が返って来た。

笑顔が氷のように固まり、次第に赤くなって震え出した。

 

「い、一緒に暮らすやなんて………! な、何言うてんの、こんな所で!!」

 

ようやく言葉の意味を理解したらしく、紅蘭は目に見えてうろたえ始めた。

確かに四年も待ち続けて来たプロポーズの場所が帝劇の格納庫など、ロマンの欠片もない。

大神もそれは分かるが、今回ばかりは譲れない。

 

「突然で済まない。中々機会がなかったから………。」

 

「そ、そりゃそうやけど………!!」

 

完全に動揺して答えに困る紅蘭。

極度の焦りと恥ずかしさのせいで、顔は林檎のように真っ赤になって湯気がたっている。

と、その時、格納庫内に何やらブザーのような音が鳴り響いた。

見ると、まことくんの左右の蒸気口から蒸気が噴出している。

 

「ほ、ほら大神はん! 時間切れでまことくんが爆発するで!? はよ逃げんと!!」

 

これ幸いとばかりに紅蘭が大神の背中を押す。

滝の汗をかいているあたり、このままうやむやにしてしまう算段なのだろう。

しかし、その目論みはあっさり潰えた。

 

「………あれ? まことくん、何で爆発せえへんの?」

 

ブザーが鳴り止み、紅蘭がキョトンとした表情で振り返った。

何と爆発寸前とばかりに蒸気を噴き出していたまことくんが、完全に沈黙していたからである。

まるでその場の空気を読んだ、一流芸人のように。

 

「紅蘭。」

 

そんな一流芸人まことくんに感謝しつつ、大神は紅蘭の肩に手を置いて振り向かせ、改めて尋ねた。

 

「君の答えを聞かせてくれ。紅蘭………、俺と一緒に暮らさないか?」

 

「大神はん………。」

 

とうとう観念したらしく、大神の胸にもたれ掛かる紅蘭。

そしてこちらを見上げると、怖ず怖ずと言葉を返した。

 

「大神はん………、その………、ウチは………。」

 

どうしたら良いのか分からないらしく、紅蘭は困ったような表情で目を閉じる。

そして………、

 

 

 

 

 

「………ん………。」

 

 

 

 

 

四年越しで実った愛の形。

誰もいない格納庫で起きたその一部始終を、物言わぬ戦友だけが見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都、上野公園。

満開の桜に包まれた春爛漫の行楽地は、復興したばかりだというのに多くの観光客で賑わいを見せる。

その帝都が一望出来る高台に、一組の男女の姿があった。

 

「晴れてよかったですね。」

 

「ええ、本当に帝都が平和になったんですね………。」

 

秀介の言葉に、隣に立つさくらが感慨深げに答える。

これまで何度も危機に晒された帝都と、その度に戦い続けた自分達。

今、こうして十三年越しに掴み取った真の勝利に、二人は震える程の喜びを実感していた。

 

「さくらさん。」

 

ふと、秀介が口を開いた。

 

「私は、こうなる事を望んでいたのかも知れません。」

 

「こうなる事?」

 

「私は地球人ではない。それでも私は、貴女を愛した。貴女と共にありたいと思った。たとえ私がウルトラマンである事を、投げ打ったとしても。」

 

「秀介さん………。」

 

四年前、初めての任務で地球を訪れ、さくらと無上の愛を育んだ秀介。

その愛は無情にも、秀介からウルトラマンジャックという存在を奪い去る結果となった。

しかし秀介は、それさえ受け入れるつもりでいた。

何故ならそれが、さくらと共にありたいという彼の願いを叶える、唯一無二の結果だからである。

 

「オーブを失い、ウルトラマンですら無くなった私は、最早かつての御剣秀介ではありません。さくらさん………、こんな私を、貴女は愛してくれますか?」

 

視線をさくらに移し、秀介が問う。

すると、さくらは当然のように答えた。

 

「愛してるに決まってますよ。どんな姿でも、貴方はあたしの愛した秀介さんですから………。」

 

「さくらさん………。」

 

秀介は両腕で、優しくさくらの肩を抱く。

そして、囁くように言った。

 

「私は後悔してはいません。これからは地球人として………、御剣秀介として、生きていこうと思います。」

 

「はい………。」

 

「その人生………、貴女と共にさせて下さい。」

 

「………はい………!!」

 

背中に回した手に力が篭る。

二人が出会ったこの場所で。

一度は別れたこの場所で。

愛ゆえに愛を貫くと、二人は誓った。

 

「………参りましょうか。ご家族に挨拶しなくては。」

 

「大丈夫。お母様もきっと許して下さいますよ。」

 

互いに手を取り合い、舞い散る桜のカーテンをくぐり抜ける。

その背中を後押しするように、春一番が優しく吹き抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………行ったか。」

 

その二人の後ろ姿を見送り、桜の影から米田が顔を出した。

その横には、豊の姿がある。

 

「良かったのか? あいつは、これで終わるべき男じゃねぇだろうに。」

 

「本人が決めた道です。最早私の言葉など、ざれ言に過ぎませんよ。」

 

茶化すように聞く米田に、豊は主人を失ったブレスレットを手に答えた。

長く共に有りつづけた自分の言葉にも、秀介は動じなかった。

愛した人と未来を生きる。

その決意の固さに、無敵のゾフィーも敗北を認めざるを得なかった。

 

「中将こそ、宜しかったのですか? 真宮寺大佐から、託されていたんでしょう?」

 

「よせやい。あいつはお前の弟だぜ? あいつよりさくらにピッタリな男なんて、宇宙探してもいやしねぇよ。」

 

お返しとばかりに聞き返す豊に、米田は笑った。

降魔戦争の折に命を失う寸前、米田はさくらの父、真宮寺一馬大佐から、娘を見守るよう託された。

そして一馬の代わりとして、さくらを娘のように可愛がり、秀介を迎え入れた。

二人を結び合ったときは、心の底から祝福した。

それが、自分の最期の使命と考えて。

 

「………さて、お迎えが来たみてぇだな。」

 

ふと、米田が後ろを振り返る。

そこには、かつて米田や豊と共にあった三人の戦友の面影が佇んでいた。

 

真宮寺一馬。

 

山崎信之介。

 

藤枝あやめ。

 

今や面影も残らない対降魔部隊。

だが、それで良いのだ。

たとえ自分達が消えたとしても、帝都を想うその揺るぎない意志は、確かに受け継がれているのだから。

 

「………お別れですね………。」

 

「ああ………、お前ももうすぐ年なんだから、無理するんじゃねぇぞ? ………あいつらを、見守ってやってくれ。」

 

そう言い残し、米田は三人の下へ歩く。

そこへ、走って来た一人の子供が、米田にぶつかった。

いや、ぶつかったという表現は違うだろう。

何故なら子供は、何事もなかったように米田をすり抜けたのだから。

 

「中将………!!」

 

徐々に薄れ行く後ろ姿に、豊は敬礼を返す。

胸に熱いものが込み上げ、肩が震えた。

 

「咲いて散る、桜の花………、サクラ大戦かぁ………。」

 

舞い散る桜に残像が見えなくなる時、豊は確かにその言葉を聞いた。

 

大正十六年。

 

十三年に及ぶ闇との戦いを勝ち抜いた一人の軍人は、引退と共にその姿を消した。

人知れず隠居したのか。

それとももうこの世にいないのか。

その真実は、ただ一人の対降魔部隊の人間だけが、知っている。

誰よりもこの桜舞う星を愛した、一人の勇者だけが………。

 

《桜舞う星~フィナーレ~・完・》




<緊急告知>

一つの時代は、舞い散る桜の花びらと共に終わりを告げた。

だが、それは新たな光と闇の闘争の始まりでもある。

<超古代の星~THE FINAL ODDESSEY~>

伝説の最後を、見届けろ……!!
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