義の刃足る己が身を   作:黒頭巾

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五色(エクゾディアパーツ)と読み代えてもよろし。


集う五色(前編)

滎陽城。袁紹軍の兵糧庫であり、天下の穀物が集まる敖倉一帯の門のような城。

 

古くは項羽と劉邦がここを奪い合い、敖倉一帯を最重要拠点と定めた劉邦が文字通り死守。天下の形勢を定めた城であった。

兵を養うには、食が要る。それはつまり食が得た物が兵を得、天下を制すとも言えた。

 

ともあれ、滎陽城。

ここを甘寧と魏延の歩兵が攻め、関籍と呂布の騎兵が短弓で掩護をしているのである。

 

「どうだ?」

 

「……………芳しくない」

 

潁川方面から増援に来た黒騎兵と赤騎兵を加え、二万近くに膨れ上がった関籍軍は思わぬ苦戦―――というより、足止めを強いられていた。

固守、と言うのだろう。一当てして隙を掴んで戦力を集中させて一息に落とすつもりが、中々に固い。

 

「……どうするか」

 

「退く?」

 

「そうだな、退こう」

 

最早夕刻であるし、攻略の目処もつかないことを考えれば、それは当然の判断であった。

 

決めると早い。即断即決の気性が、彼の得意とする戦には如何にも合っていた。

 

呂布が全軍に伝騎を飛ばし、整然と紫紺と白が退く。

 

第一回目の総攻撃を凌ぎきった敵の喚声を尻目に、あくまでも冷静な指揮官たちは幕舎に集った。

 

「どうだ」

 

「中々に固いかと。尋常な戦い方では突破に困難を伴うでしょう」

 

「ワタシも甘寧と同じです、御館様。あいつら、数も多いし城も固い。搦手からいかなきゃこちらが損耗します」

 

死者は百人に満たないが、負傷者は千人に達する。

軽傷を負った兵の方が多いとは言え、二十分の一が健兵でなくなったことを各指揮官は重く受け止めていた。

 

「正攻法で落ちぬのならば、偽撃転殺か水、或いは坑。いずれを取ればいいと考えるか、それとも新たな策はあるか?」

 

「……恋が、ぶっ壊す?」

 

「いや、それだと修理に時間がかるだろ」

 

綸子のような二条の髪をいきり立たせ、方天画戟を持ち上げながら言った呂布の案を魏延が一蹴。

呂布の二条の髪が元気なさげにしょぼくれ、方天画戟が降ろされる。

 

破城槌の代わりに呂布に城門を破壊してもらうというのは、有りっちゃありだろう。しかし、重要拠点の城門を壊してしまっては元も子もない。

できれば城壁を登り切るか穴を掘るかして内部に侵入し、そこから穏当に城門を開けたいのだ。

 

「御館様、やはり坑です。穴を掘ってそこから内部に侵入、落としましょう。滎陽は穀倉地帯。土壌は水分を含んで軟らかです。必ずや掘り抜くことができるかと思います」

 

「ふむ」

 

確かにそれは、正しい。坑を使えば時間こそ掛かるが確実に落とせし、河の水を引き込まれて阻止される心配もない。

 

この時間こそ掛かるが正当な案は採用され掛けた。

 

「籍様」

 

が、この今まで沈黙を守っていた一将が口を開いたことで、軍議は続行を余儀なくされる。

甘寧。比較的城攻めを行ってこなかった関籍軍の中に在って唯一城を陥落させた経歴を持つ将であった。

 

「章邯の故事に従えば、あの城は落とせると思います」

 

「つまり?」

 

「夜襲です」

 

定陶に於いて章邯は項梁(項羽の叔父)と対峙し、夜襲の訓練を積んだ一部隊を城壁に登らせて城を落とし、項梁らを討ち取って完勝するという奇功を得ている。

 

彼女が言っているのはこれであった。

 

「あれは項梁が油断したからだろう?」

 

「敵兵の浮かれぶりから察するに、放置すれば今夜寝て鋭気を養い、更に強硬に抵抗することでしょう」

 

即ち、鋭気を養っているであろう今夜が好機なのであり、逃せば敵兵の士気を上げることになる。

更にはここで手間取れば『関籍軍は城攻めが下手』と言う風聞すら漂いかねない。

 

「即ち今は、鋭気を養っているが故に駄気があると考えます」

 

「……よし、興覇」

 

「はっ」

 

顎に手を当てて僅かに考え込み、関籍は数瞬で結論を出した。

 

「やってみろ」

 

供手して了解の意を示す甘寧が去り、各指揮官も持ち場に戻る。

 

鋭気に変ずる前の駄気を討つという策を以って、全力で攻勢から一睡もせずに再び攻勢を掛けるという、有り得ない作戦が始まった。

 

「……」

 

まず甘寧がやったことはと言えば、偵察である。

こちらの攻勢を『全力のもの』と錯覚した―――と言うよりは正しく理解した―――敵は予想通りに眠りこけていた。

 

だがしかし、三分の一程は起きている。それぞれの門で眠気と疲労を堪えて立ち、敵襲を警戒しているのだ。

 

「西門だな」

 

配置されている兵の動きが重く、初々しい。恐らくは徴集されたばかりの新兵だろう。

誠に可哀想であるが、戦は戦。弱いところをつくのが道理だった。

 

「……よし」

 

まずは甘寧自身が岩の隙間に短剣を刺し込み、足場、或いは持ち手にしてするすると登り、音も無く紐を垂らして気配を絶つ。

 

彼女の計算からすれば、そろそろ敵兵が巡回して来る頃であった。

 

闇に気配を溶け込ませて、その時を待つ。

 

「你好」

 

鈴の音につられて振り返った新兵に律儀な挨拶が行われ、闇の中から覗いた刃が喉を刳り抜いた。

 

続けてくる見回りの兵たちも垂らした紐を伝い、刺した短剣を足場にして登ってきた配下に次々と討たれ、命が一つ一つと消えていく。

 

悲鳴一つ上げることなく、西壁の警邏隊は壊滅した。

 

「かかれ」

 

続いて南壁、東壁、北壁と移動して効率よく警邏隊を討ち、人体が石床を打つ僅かな音が止む。

静けさを取り戻した城壁上。するすると音を立てずに移動する甘寧とその配下は邪魔者の排除を終えたことを確認し、すぐさま次なる行動に移った。

 

東門を開けたのである。

 

「……開いた」

 

東門には、呂布と赤騎兵五千騎が待機していた。西門には魏延が居り、南門には関籍が居る。

 

突入には秀でた破壊力を持っている隊が望ましい。

そこで彼女が選んだのが近くに居てなおかつ破壊力を併せ持つ呂布であった。

 

呂布の何の躊躇いもない突撃とそれに続いた配下の并・涼州兵の働きによって、城はあっという間に血に染まる。

その混乱を一層深めるかのように、一門を残した二門までもが開き、関籍・魏延が乱入。

 

こうして、滎陽城は一日で陥落したのである。

 

そしてやはり被害を受けた滎陽城を呂布軍の二人居る副官の内の一人、高順率いる工兵が修復し、そのまま紀霊率いる豫州兵一万と高順率いる二千が駐屯。

 

二万から一万七千にまで減った攻城軍団は、滎陽を核にして各地に進発。

 

ものの一日で堅固な要塞と化した滎陽を落とした関籍軍に、河南袁紹軍は戦慄した。

そしてその影響で、向かったならば即ち降るような武将が続出したのである。

 

結果、曹操の予想をはるかに越える速さで河南・河内は一城を残して軒並み平定されることとなった。

 

その城とは、平皋。

 

この城で起こった戦いは後世、このように語り継がれる。

 

『あんな、最強の寄せ集めに勝てる奴はいない』と。

 

 

関籍(兵四千五百)

呂布(兵千八百)

張遼(兵七千六百)

華雄(兵三千二百)

甘寧(兵四千七百)

魏延(兵四千百)

張繍(兵五千二百)

高順(兵二千)

夏侯淵(兵六千三百)

 

計、三万九千四百。約四万。

 

当時の一流指揮官に率いられた部隊が、最後の拠点へ集結した。

 




アバヨ、平皋城=サン!貴様の死因は初手エクゾディアによる不幸な事故死だ!

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