「・・・ん?」
目が覚めた。どうやら気絶していたらしい。
それにしても、どうにも頭がすっきりしない。
紫が作った空間内で何かされたのか、空間から出る際に、何か不手際があって強く頭を打ち付けたのか、原因は覚えていなかった。
それにしても、不思議である。
自分はお面などの被り物を被っていないのに、視界に変なものが見える。
掻い摘んで言うと、左上には円形の図が、左下と右下には何かの数値が書いてあった。
ぼんやりとした頭を無理矢理働かせながら、霊夢は周囲を見渡してみる。
一言で言うと、荒廃した大地が広がっていた。
所々に建物はあるが、どうにも無機質で、人が住んでいる気配はなかった。
見渡す限りの荒野を見ていると、昔に興味本位で紫から聞いた『戦争』の話の一場面に、放り出されたかのように思えた。
「帰ったら覚えておきなさいよ・・・」
霊夢はぼそりと呟いた。
嫌だと言ったのに、無理矢理連れてこられたのだ。悪態のひとつでも付きたくなるのも仕方ない。
そういえばと、一緒に来た魔理沙を思い出した。
だが、周囲を確認しても人影は見えなかった。
探しにいくか。
霊夢はそう思って、立ち上がった。
それと同時に、近くの建物から誰かが出てくるのが見えた。
姿形は人間だが、頑丈そうなスーツを全身に着用していた。
山の河童が、似たような姿になって遊んでいた事を霊夢は思い出した。
「おう霊夢、目が覚めたか」
「・・・えっ」
全身スーツからは、普段通りの魔理沙の声が聞こえた。
声が一切篭ることなく聞こえた。
いや、自分の名前をこの世界で知っているのは魔理沙くらいだ。
だからコイツは魔理沙の筈。
霊夢は警戒しつつ、全身スーツに話しかけた。
「アンタは本当に魔理沙なの・・・?」
「勿論だぜ」
そして、魔理沙らしき全身スーツは更に話を続けた。
霊夢が目覚めるより先に目が覚めた事、この建物内に自分たちを世話してくれる人が居る事、スーツを着ないとこの世界では生きていけない事、視界は普段と変わらないが、スーツは霊夢も既に着用している事などだった。
魔理沙が大雑把な説明を終えると、建物内からもう一人出てきて、霊夢に話しかけた。
「君が霊夢さんだね。八雲さんから話は聞いてるよ」
「アンタは誰?」
男性らしき全身スーツの男は、少し考えて言った。
「僕か・・・名前は覚えてないんだ」
「覚えてない?」
「僕らはずっと昔に肉体を捨てたんでね。いつの間にか忘れちゃったよ」
男性は悲しむことなく言った。
そして、この世界のことを霊夢に説明した。
「この世界ではお金儲けの為ならどんなことをしてもいいのさ。詐欺、裏切り、横取り、横領・・・君たちの世界ではやってはいけない事が、この世界では全て正当化される」
「つまり、やられた方が悪いってわけ」
難しい顔をした霊夢に、魔理沙がまとめて言った。
「・・・私たちがアンタに騙されるって可能性もあるわけね」
「そうだね。ただ、僕はちゃんと約束を守るよ。これはこの世界の住人じゃない八雲さんからの依頼だからね。裏切ってもメリットはないし」
そこまで説明すると、男は二人に中に入るように促した。
建物内で歩きながら、男は更に説明する。
「それと、僕らは記憶、意識、自我を保ちつつ、別の容器にそれを転移できる技術力を得たんだ。このスーツが壊れたら・・・つまり、君らでいうところの『死んでも何度でも蘇る事ができる』という事が、可能になったんだ」
それを聞いて魔理沙が質問した。
「私たちはどうなんだ?お前みたいに肉体を捨てちゃいないが」
「君たちか?河童が肉体を冷凍保存する機械を作ったから、心配は要らないって八雲さんから聞いたが・・・大丈夫なんじゃないか?」
「うへぇ・・・失敗してなきゃ良いんだがなぁ」
魔理沙が苦い顔をして言い、霊夢が苦笑する。
「ところで、私たちはどうしたらいいの?」
「ああ、君たちは、僕達カルダリ連合の為に、戦場に出て欲しい。そこで貰える『ISK』というこの世界のお金を、一定額集めればいい」
「カルダリ連合?」
「そう、この世界では『カルダリ連合』『アマー帝国』『ミンマター共和国』『ガレンテ連邦』の4カ国が対立、または協力しあっているんだ。僕達カルダリ連合はアマー帝国と友好関係を結んでいて、ガレンテ連邦とは対立関係にあるんだ・・・さあ、着いたよ」
男は手を扉の前に翳し、扉を開いた。
そして、霊夢と魔理沙に向き直って言った。
「此処が君たちの部屋だよ。明日から戦場に出てもらうから、今日はゆっくり休むといい」
男はそう言うと、何処かへ行ってしまった。