ISG~インフィニット・ストラトス・ガンダム~ 作:レイブラスト
時間は彰人達が逃走した直後に遡る。
省吾SIDE
「凄かったなぁ、千冬の試合」
「ええ。衰えてないどころか、パワーアップしてたわ」
試合会場のロビーで、俺は由唯と準決勝の感想を語り合っていた。俺は第一回大会の後現役を引退し、今は与党議員になっている。そのせいか、今も自分の周りにはSPらしき黒服が何人か居る。ちなみに、プロトガーランドはいつも傍に置いている。今回もドイツに持ち込んでおり、できるなら乗り回したかったけど、止められた。議員になると、色んなことが自由にできなくなるから、不便だ。
「それで省吾、この後の予定だけど―――」
ピリリリリ!
「悪い由唯。電話だ」
いつもとは違う着信音に首を捻りながら、携帯を取り出して画面を見る。画面は、彰人から着信がきてると伝えていた。それも……秘匿回線で。
「っ、由唯…これ見てくれ」
「どうしたの省……!?」
携帯の画面を見せると、由唯も驚きのあまり固まっていた。秘匿回線と言うのは、彰人と一夏にだけ教えておいた、万が一の為の電話番号で、これを使う時は何か緊急事態が起きたということだ。それも、ガーランドを使うレベルの。
「大変……! 早くどうにかしないと!」
「場所はGPSでわかるからいいが、問題はどうやって千冬に伝えるか「その心配はないぞ、矢作」っ!?」
俺達の会話に割り込むように誰かが話しかけてきた。顔を向けると、そこには俺と同じようにSPに護衛されたスーツを着た男が居た。
「B.Dか……心配ないって、どういうことだ?」
「私も独自の情報網で、矢作彰人と織斑一夏を誘拐しようとした組織の動きを追っていてな。既にこのことはドイツ軍を通じて織斑千冬に伝えることになっている」
B.Dことブラントの言葉を聞いて驚いた。どんだけやることが早いんだよ、コイツは……。
「……お前にやられたのは悔しいが、今日程頼もしいと思ったことはないぜ、B.D!」
「フッ、お前にそう言われる日が来るとはな。だがこうしている時間も惜しい。お前はガーランドでGPSを辿って即刻向かうといい」
「それは勿論わかってるが、お前はどうすんだ?」
「当然向かうさ。ただ、試したいものがあるのでな。少しばかり遅れる」
「そうか…早めに来てくれよ。由唯、ガーランドを準備してくれ!」
「任せて!」
俺はSPの人達に簡単に説明した後、ガーランドを置いてあるところに向かった。
そして時は流れ、廃工場へ。
ドガァァァン!
「悪い、彰人! 一夏! ちと遅れちまった!!」
「遅すぎだよ―――兄ちゃん」
廃工場のドアをぶち破って突入したが、どうやら2人とも無傷みたいだ。しかも余裕綽々でいやがる。大人になったな、コイツ等も。
「プロトガーランド!? アイツ等、逃げながらこれを呼びやがったのか!」
「しかも操縦者は矢作省吾……となると、これ以上ここに居るのは得策じゃないわ。行くわよ、オータム」
「チッ。わかったよ、スコール」
言うが早いか、女2人は男達を残して先に逃げて行った。
「あ! 待ちやがれ!!」
すぐに追おうとしたが、残った男達(多分下っ端)が立ち塞がる。
「チッ、仕方ねぇ。彰人! 一夏! 先に逃げてろ!!」
「わかった。兄ちゃんも、気をつけて!」
そう言うと、彰人と一夏は俺が開けた場所から外に出て行った。
「へへっ。久々の戦いだ。腕が鈍ってないか、存分に味わいやがれ!!」
ガーランドを動かしながら、俺は男達に叫んだ。
スコールSIDE
「見事にやられたわ。まさか、逃げながら秘匿回線で仲間を呼んでいたなんて」
工場から離れながら、私はため息をつく。あの歳なら通常なら逃げることだけを考えて、助けを、しかも秘匿回線で呼ぶことに頭が回らない筈。なのに、彼らはそれを普通に行った。かなりの余裕を持って。
「今回ばかりは一本取られたって感じだぜ……あのガキ共、いや……彰人と一夏って言ったか。相当肝が座ってやがる」
「珍しいわね……貴女が私以外の他人、それも男に興味を抱くなんて」
オータムは任務の性質上、これまで情けない男しか見たことがなかった。……いいえ、ずっと前に1人だけ心を開いていた人が居たわね。まあそれはいいとして、とにかくオータムはそれがきっかけで男嫌いになって私と付き合ってる。いつもなら男性を見るだけで毛嫌いする筈なのに……。
「アイツ等は今まで会った男とは違う。肌でわかるんだ。あの雰囲気は、アイツとそっくりだってな」
「……そうね。確かに、そうかもしれないわ」
「そいつはどうも……と、言った方がいいか?」
「「っ!?」」
不意を突くように男の声が聞こえ、銀色の何かが姿を現した。あれは……IS? それともガーランド?
「な、何だそのマシンは!?」
「これはヴィルデ・ザウ。GR-2ガーランドをベースにアメリカで開発した、強化戦闘マシンだ。まだ試作段階だがな」
「……どうして私達を待ち伏せできたのかしら?」
「かつては共に戦っていた間柄だ。行動パターンは知り尽くしている」
どういうことかと考えていると、目の前のマシン―――ヴィルデ・ザウはコックピットを開き操縦者の姿を見せた。
「お前は……! そうか、そういうことか。だから私達を待ち伏せできたんだな」
「確かに、貴方なら私とオータムの行動を予測しても不思議じゃないわね。けど、もう少し感動的な再開はできなかったのかしら―――ブラント?」
ヴィルデ・ザウを動かしている人物……私とオータムが米軍に所属していた頃の同僚で、私とオータムが今でも恋い焦がれている
「生憎だが、そんな余裕はなかったのでな。何せ、相手はテロ組織だ。情けをかける必要はない」
「相変わらず冷たいのね……それで、私達をどうするの? 捕まえて、政府に引き渡すつもり?」
「……オータムはともかく、お前はとっくに死亡認定されている。捕まえたところで、意味はない。私が来たのは、聞きたいことがあったからだ」
「聞きたいこと? 何だってんだ?」
「簡単なことだ。……何故、
ブラントの声を聞いて私は思った。きっと、彼は彼なりに私達を心配していてくれたのだろう。常にポーカーフェイスだから、言葉で聞くまでわからないけど。
「それこそ簡単だわ。任務に失敗して、軍に見捨てられた私達を拾ってくれたのが、この組織だからよ」
「私もスコールと同じだ。連絡しなかったのは、本当に悪いと思ってる。だがテロリストの私達と、政治家のお前とはもう敵同士だ。連絡なんて……できる訳ないだろ」
オータムは悔しそうに、唇を噛みしめて言った。私も、可能ならブラントに連絡をしたかった。会いたかった。けど、そんなわがままは許されることじゃない。今は敵同士なのよ。私達は……。
「そうか……」
するとブラントは武装を解いて道を空けた。……どういうこと?
「何故道を?」
「私がここに来たのはスコールとオータムの明確な生存をこの目で確かめることだ。それさえわかれば、後はどうなろうが構わない」
「ブラント…………行きましょう、オータム」
「ああ……またな、ブラント。今度会う時は……敵同士だ」
名残惜しむように、私達はブラントから―――この地域から離脱した。
試合開始直前
千冬SIDE
「一夏と彰人が…攫われた?」
それを聞いた瞬間、私は目の前が真っ暗になった。どうして一夏と彰人が……?
ガチャッ
「失礼します!」
そこへ、左目に眼帯を巻き付けた白髪の小柄な少女(格好からしてドイツ軍だろう)が現れた。彼女はこの部屋にいた上官と思われる人物に耳打ちしていた。
「何、アメリカが? それは本当なのか、大尉?」
「はい。間違いありません」
上官らしき人物は顎に手を当てると、私を向いた。
「千冬さん。織斑一夏さんと矢作彰人さんの居場所が判明しました。この付近の廃工場に居るとのことです」
聞いた瞬間、私は即座にエクシアを展開し歩き始めた。
「ど、どこに行くつもりですか!? 今行けば、失格になってしまいます!」
「知ったことか。私は、私の家族と友人を助けに行く。邪魔をするなら……!」
GNソードを展開し、突きつける。もう家族を失いたくない。今度こそ……!
「……わかりました。ではせめて、彼女を同行させてください」
軍の上官は、先ほど入ってきた少女を前に出した。少し驚いたが、この状況だ。四の五の言っている暇はない。
「構わないが、お前の名は?」
「はっ! ラウラ・ボーデヴィッヒ大尉です」
「そうか。では、道案内を頼む」
言うが早いか、私は少女―――ボーデヴィッヒ大尉を抱えると、大空へと飛んだ。
(今行くぞ、一夏。彰人。絶対、死なせるものか)
廃工場に着いた時、既に何者かが戦闘を行っていた。大尉を地面に降ろすとGNソードを展開、焦る気持ちを抑えながら何者かが開けた入り口に向かおうとした―――その時だった。
「「千冬(姉)さん!!」」
物陰から一夏と彰人が飛び出してきた。センサーで調べると、2人共無傷だった。
「一夏! 彰人! 無事だったんだな……!」
私は嬉しさのあまり、2人を抱き締めていた。
「俺達を誰だと思ってるんです? 『オーディン』と『ブリュンヒルデ』の弟ですよ?」
「危険を察知して逃げることぐらい、できるさ。……最後は少し危なかったけど」
「まったく、お前達は……」
少々呆れながらも、優しく抱き寄せる。今の私には、ただ2人が無事で居てくれたことだけで一杯だった。
「……? 千冬さん、彼女は?」
ふと彰人が、後ろに居る大尉を見て尋ねた。一夏も不思議そうに見ている。
「ああ、説明してなかったな。彼女はラウラ・ボーデヴィッヒ大尉。ここまでの道案内を頼んだんだ」
「初めまして、になるな。矢作彰人、織斑一夏」
「……え? ああ、うん。よろしく」
「よろしく……」
2人共、大尉に戸惑っているようだった。まあ無理もない。彼女の年齢は若いのに、既に軍の大尉なんだからな。
戸惑う2人を面白く思いながら、私は救助部隊を待った。