ISG~インフィニット・ストラトス・ガンダム~ 作:レイブラスト
「「あー、疲れた……」」
ピットに戻った俺達は、真っ先にそう言った。
「お疲れ、一夏。最後は惜しかったが良い試合だった」
「……ハラハラしたけど、カッコよかった」
箒ちゃんと簪さんの賛辞の言葉に、俺と一夏は顔を見合わせて笑みを浮かべた。全力で戦ったかいがあるというものだ。
「織斑君、矢作君、お疲れ様でした」
「2人ともよく戦ったな。この調子でこれからも精進していくんだぞ。それから……今日はもう休むといい」
俺達の頭を優しく撫でて微笑む千冬さんに、少しむず痒くしかし満更でもなく感じた。
その後、俺達は帰路についた。
首相官邸
省吾SIDE
「そうか、2人とも勝ったんだな」
俺は千冬からかかってきた吉報に思わず安堵した。
「ったく、いきなりイギリスの代表候補生に喧嘩吹っ掛けられたと聞いた時は心臓が止まるかと思ったぞ」
『すまなかったな、心配かけて。だが大丈夫だ。オルコットの奴も、これを機に心境に変化があっただろうし』
「なら安心だけどさ」
椅子に深く腰掛けながら、俺は一息ついた。……最近千冬や束とはこうして電話でしか話していない。まともに会ったのはいつだったろうか?
「じゃあそろそろ切るぜ。あ、待った。彰人に伝えてくれ。何か困ったことがあったら、遠慮なく俺に相談してくれって」
『わかった。必ず伝えておくよ…………………それにしても、由唯が羨ましいな』
直後に電話が切れた。最後の言葉はこっそり言ったつもりなんだろうけど、しっかり聞こえていた。
「千冬、何て言ってたの?」
お茶を入れながら、由唯が尋ねてきた。
「彰人と一夏が試合で活躍したって。後、由唯が羨ましいとも言ってた」
「ふふ、確かに……いつも省吾と会えてるのは私だけだもんね」
そう言って微笑む由唯は、思わず見とれてしまいそうだった。ていうか見とれていた。
プルルルルル!
その時、また電話がかかってきた。
「はいもしもし、矢作ですが?」
『やっほー、しょーく~ん! みんなのアイドル、束さんだよ~!』
「……その前口調は何とかなんないのか?」
最近会えてない3人目の幼なじみからの電話に、ため息が出てしまう。
『これが束さんが束さんであるが故なのだよ~! まあそれは置いといて、しょーくんに頼まれてたデータの解析なんだけど…………』
「ん? どうした?」
何故か声が小さくなり以後黙ったままの束に首を傾げる。一体どうしたんだろうか?
『…………昔の約束と、関係があったんだ』
「約束?」
『うん。みんなと一緒に月に行くってやつ。元々女性が動かす為にコアを設計してはいたんだけど、約束の為にしょーくんやいっくんにあっくんのデータだけは設計段階でインプットしてたんだ』
束は電話越しに語った。俺は彰人と一夏が入学する前に、2人の身体データと俺の身体データを送っておき、何故ISに適合できるか(俺の場合は念のため適合できるかどうか。結果、適合できることが判明した)を調べるように頼んでおいた。まさかあの時の約束と関係があったとは思ってもみなかったが。
「そういうことだったのか……」
『ゴメンね……迷惑掛けちゃって』
「落ち込むこたぁねーよ。お前の気持ちはすげぇ嬉しいしな。……そうだ! どうせなら俺の専用機も作ってくれないか? 実際動かすかはわかんないけど、あって損はないだろ?」
俺は最後に冗談混じりにそんなことを言った。すると……
『……わかった。任せといてよ! しょーくんにぴったりな、カッコイイ機体を用意してあげるから!』
「その意気だ。やっぱ、元気が溢れてる束の方が俺は好きだな」
『っ!? も、もうしょーくんたら、変なこと言わないでよ! 手元が狂っちゃうじゃん』
「っておい! まさかもう作り始めてるんじゃあるまいな!? もしもし!? もしもーし!!」
声を荒げるが、電話は既に切られていた。……まったく、マイペースな奴だ。
「やれやれ……」
「ふふっ」
「? どうした由唯?」
「ううん。ただ、そういう真っ直ぐで前向きなところに私や千冬、それに束も惹かれたんだろうなぁって」
「何だそりゃ」
確かに俺は昔から一直線に進んできたが、それと俺が好きなこととどう関係があるんだ? 誰のどこが気に入ったなんて、深く考えないからわからん。由唯達を好きになったのも直感だからな……俺、恋愛ごとにはすんごい苦労していると今更ながら思う。
セシリアSIDE
「……………………」
シャワーノズルから熱い湯が吹き出し、水滴が肌に当たって弾けて流れていく。そんな心地良い感覚に包まれているというのに、私は心ここにあらずでいた。
「矢作、彰人……」
その原因である人物の名を口に出し、思い出す。彼は私が代表候補生としての努力や覚悟を背負っていることを考慮した上で、自らの覚悟をぶつけてきた。その時は闘争心が掻き立てられたが、今考えると申し訳なく思えた。
私は自分の思い通りにならなかっただけで喚き散らし、慢心して相手を見下していた。負けるのは当然だ。しかし彼は、そんな私を最後に助けてくれた。どうしてと理由を問うと、彼は答えた。
『俺達が敵対していたのは試合中だけだ。ソレが終われば、互いの健闘を讃え合う仲間になる。……少し古くさいが、そういうもんだろ?』
私は目を丸くした。私に全てをぶつけ勝利した彼は、以前私がニュースで聞いたことのあるスポーツマンシップに似たことを言ったのだ。半信半疑で頭の片隅に置いていた理念を、それも実践までして証明するとは思ってもみなかった。この時悟ったのだ。私は、完全に負けたのだと。
そして慢心を捨て去って挑んだ次の試合でも、私は負けた。迷いのない真っ直ぐな剣に、私は両断されたのだ。でも不思議と、こうなることは納得できた。
「………………」
振り返ってみれば、ここに至るまで色々なことがあった。三年前、列車事故で両親が他界し、私に莫大な財産が引き継がれることとなった。そしてソレを狙って近づく親戚の人達から守る為に、必死で勉強してきた。その過程でISにも挑戦し、Aランクの適正を出し専用機『ストライクフリーダムガンダム』の操縦者候補に選抜された。しかし……そこに辿り着くまでに、私の中にあった想いは歪んでしまっていたのだろう。日本に来て、彼らに打ち負かされてはっきりわかった。
「織斑、一夏……矢作、彰人……」
彼らの名前を口に出すと、不思議な気持ちになる。特に彼の、矢作彰人ことを考えると胸に熱い気持ちが溢れてくる。強い覚悟と誇りを持った、男性……話がしてみたい。そして、謝りたい。彼や織斑一夏だけではなく、クラスのみんなにも。
思い立ったが吉日。そんな言葉があるのを思い出し、私は彼が居るであろう部屋に向かった。
簪SIDE
彼らに対する印象は、最初は悪いものを抱いていた。というのも、私のISの開発に携わっていた人達が2人のIS開発の方にまわされてしまったからだった。だからその内の1人―――矢作彰人と同室になったと知った時は本気で驚いた。一体どんな人物なんだろうか? 無事に過ごすことができるんだろうか? そればかりを考えていた。
しかし、ソレは杞憂に終わることとなった。
彼は……矢作君は、初対面である私の髪の毛を綺麗と言ってくれた。今まで姉や本音といった仲の良い友達からしか褒められたことがなく、周りからは奇異の目で見られてきた。なのに率直に綺麗だと言ってくれた彼に、私は素っ気なく返してしまった。
その翌日。私は本音と一緒に食堂で朝食を取っていた。その時に私は、矢作君と一緒に居た織斑一夏から衝撃的なことを偶然聞いたのだ。彼らは、仮面ライダーが好きだと言う。更に聞いてみれば、篠ノ乃さんも仮面ライダーを見てるらしい。そのことで茶化してきた本音の口を思わず塞いでしまったが、彼女の言う通り私は嬉しかったのだ。自分の趣味と合う人達と出会えたことに。だから思い切って、矢作君に仮面ライダーが好きなことを打ち明けた。
正直言って不安の方が多くて、拒絶されたら…なんて考えていた。けど、彼は変じゃないと、嬉しいと言ってくれた。そして、数年前にやった仮面ライダーの映画に出てくる限定ライダーの変身ベルトをプレゼントしてくれた。彼にとっては何のこともないんだろうけど、私にとっては物凄く嬉しかった。そのすぐ後だった。彼に、髪の毛をまた褒められたのは。……もう、私の彼に対する印象は大きく変わっていた。私は彼の友達である織斑君や篠ノ乃さんとも仲良くなろうと思って、彼らが対戦するというストライクフリーダムのデータと交換条件にそれを切り出した。
そうしたら、彼は一も二もなく引き受けてくれて、翌日に2人に紹介してくれた。どういう反応をされるのか怖かったけど、2人とも(勿論彰人も)私を友達として歓迎してくれた。私は嬉しくて、2人に対する悪印象はとっくになくなっていた。だけど、それで浮かれすぎてて私はミスをしてしまった。パソコンの電源を入れっぱなしにして部屋を空けてしまい、その結果彰人に見られて(それもよりによって私のISデータだった!)しまうことになった。
最初は黙っていようかと思ったけど、気づいたら私は彰人に自分のISのことを話していた。彰人はそれならどうしてデータを渡したのか尋ねてきた。私は自分が抱いている感情を、彰人達に対する印象が変わったことを話した。何故話したのかはその時は自分でもわからなかった。そうしたら彼は案の定、何故1人でIS制作を行っているのかを疑問に思ったようだ。だから私は理由話した。自分の姉のことも交えて。それを聞いた彼は、こう言った。
『誰だって、1人じゃできないことはあるんだ。もし簪さんが手助けが必要だって言うなら、その時は遠慮なく手伝わせて貰うよ』
体に、電流のようなものが走った。彼の真っ直ぐな言葉に、私は衝撃を受けたのだ。決して不快なものではない。この気持ちが何なのかわからなくて、一旦返事を保留した。
しかし、彰人とセシリア・オルコットさんとの試合を見ていた時だった。
『だが敢えて言わせてもらうなら、俺にも覚悟がある。絶対に負けられない、男としての覚悟が…………君の覚悟が俺より勝っていると言うのなら、その力を、想いを、全て俺にぶつけろ! 俺も全力で君に応えよう。どちらの覚悟が上か……勝負だ!!』
力強く、真っ直ぐな彼の発言を聞いた私は、胸が強く打つのを感じた。そして試合が終わった後、彼がオルコットさんを抱きかかえた時にもやもやした感情が湧くのも感じた。そこで私はこの気持ちの正体に気づいた。
私は、彰人のことが『好き』なんだ。彼のどこまでも真っ直ぐな姿勢に、覚悟に、優しさに心惹かれて居たんだ。出会って少ししか経ってない男の子を好きになるなんておかしいかもしれないけど、でも仕方がない。好きなものは好きなのだから。
それがわかったところで、私は部屋での返事をする為に彰人の元へ向かおうとした―――が、本音に呼び止められた。
「かんちゃん」
「……ん?」
「えっと~、上手く言えないけど……頑張ってね~」
「……うん!」
本音のエールを受けて、私は改めて走った。……本音は気づいているんだろうか? あの子は前から勘が良かったから、もしかしたら……まあ、気にしても仕方ないんだけど。