ISG~インフィニット・ストラトス・ガンダム~ 作:レイブラスト
「更識楯無……先輩……」
正直驚いた。まさか、学園の長である人物と対面するなんて。ここ最近、驚きの連続ばかりだ。けど……俺この人の人物像をはっきり知らないんだよなぁ。人たらしってのは覚えてるが。
「貴女が名乗った以上、こちらも名乗らなければ失礼ですね。俺は「矢作彰人君、よね?」……知っていたんですか」
俺が名乗るより前に、更識さんが名前を言い当てた。
「まあ、俺を尾行していたのなら、名前ぐらいは既に知っていてもおかしくはありませんものね」
「そういうこと。気を悪くしたなら、謝るわ」
更識さんが再び扇子を開くと、今度は『ごめんなさい』という字が書かれていた。……どういう仕組みになってるんだろ?
「別にいいですよ、気にしてませんし。それより、尾行してまで俺に何の用があるのか、そろそろ話してくれませんか?」
「ええ。……単刀直入に言わせてもらうわ。君が現れてから、簪ちゃんの様子が大きく変わったの。それについて知ってることがあるなら、教えてほしいんだけど」
「っ…!」
突然更識さんの雰囲気が大幅に変わった。先ほどと変わらず笑みを浮かべてはいるが、全身から圧倒的な威圧感が発せられている。気を抜いていたらこちらが呑まれそうだ。
「なるほど……道理で名字が……やはり貴女は―――」
「(っ、驚いたわ……これを受けて怖がらないなんて)そう。君のルームメイトである更識簪は、私の妹なの」
「……でしたら、俺に聞かなくても大まかなことはわかるのでは? 身内なんですし」
「勿論『大まかなこと』はわかってはいるわよ。君が簪ちゃんのプロポーズをセシリア・オルコットさんと同時に受けたこととか、ね。でもそこに至るまでの細かな経緯がわからないの。だから……教えてくれるかしら?」
彼女の威圧感が更に上がった。やはり只者ではないな……てことは、ここは慎重に言葉を選んだ方が良さそうだ。
「いいですけど、具体的にどんなことが知りたいんですか?」
「……簪ちゃんが君に惚れた要因よ。どんなことをして、簪ちゃんを口説いたの?」
「ち、ちょっと待ってください。記憶を辿ってみるので」
口説いた自覚すら俺にはないので、簪と出会ってからの日常会話を思いつく限り脳内で列挙していく。
「……強いて言うなら、褒めたことですかね?」
「褒めた?」
「はい。髪の毛の色とか、趣味とか、その辺りです。俺にとっては特に意識したことじゃなかったんですけどね……」
「っ!? 君……それ、本気で言ってるの……!?」
何故か驚いた表情になる更識さん。え、どうしたの? 俺変なこと言ったか?
「本気って?」
「髪の毛のことよ。私達の髪は、水色なのよ? 普通は気味悪がる筈じゃ………………現に私も虚ちゃん達以外はそうだったし……」
あ……そうか忘れてた。この世界は基準が現実的だったんだ。ラノベでよくあるカラフルな髪色や目の色は周囲から気味悪がられるんだ。……確かに少しはギャップ感じるけど、気味悪くはないよな。
「俺は気味悪く思いませんよ。だって、水色って何かかわいいじゃないですか」
「!!(上辺だけの台詞じゃない……彼は本心で言っているんだわ)」
「あの……もう終わりですか? でしたら、俺からも質問があるんですけど」
「え? ええ、いいわよ。何でも聞いて頂戴」
「ありがとうございます」
一言礼を述べると、俺は更識さんに一度会えたら聞いてみたかったことを告げた。
「簪は貴女に苦手意識を抱いているみたいなんですが、貴女自身は彼女と今後どういった関係で居ようと思っているんですか?」
「……!」
俺の質問に、更識さんは目を一瞬見開き、すぐに元に戻した。
「あの、赤の他人である俺が聞くのはやっぱ失礼ですよね……」
「ううん。何でもと言ったのは私だから、ちゃんと言うわ。……私は、簪ちゃんと仲良くしたい。何の肩書きもない、普通の姉妹として…………まあ、それができたら苦労はしないんだけどね……」
どこか憂いを秘めた表情で、更識さんは語った。それを見た俺は……自然と微笑んだ。
「……何がおかしいの?」
「あ、失礼。別にバカにした訳じゃないんです。ただ、更識先輩もやっぱり普通の女の子なんだなぁって思いまして」
「っ……どういう意味かしら? 私は生徒会長なのよ? それに君は知らないかもしれないけど、私は学園最強なんて肩書きまで持ってるの。勿論、これ以外にも色んな肩書きを持っているわ。これのどこが普通と言えるの?」
「…………学園最強ですか……確かに、それを聞けば普通ではないと思うかもしれません。けど、妹のことを気に掛けるのは人として普通のことではないですか?」
「それは……」
「凄い肩書きを持ってても、根っ子にはちゃんと『普通』の部分がある。さっきそれがわかって、俺、正直安心しました。だって、そうでなきゃ肩書きなしで妹と仲良くなりたいなんて思わないでしょうから」
「……………………」
更識さんはしばし黙ったまま俯き、やがてゆっくりと顔を上げた。
「……じゃあさ…肩書きを気にせずに、簪ちゃんと一対一で普通にぶつかれば……仲良くすることができるのかな……?」
「……やってみなきゃ、わかりませんよ」
その後、再び静寂な空気に包まれ、互いにただただ見つめ合う時間になる。そして―――
「ふぅ……。どんな人か確かめに来たのに、いつの間にか正論語られて丸め込まれちゃうなんてね……」
「気に障ったのなら、謝りますが……」
「気にしないで。お陰で大事なことに気づいたんだし。……じゃあ、用も済んだことだし、そろそろ失礼させてもらうわ……あ、もしよければ簪ちゃんに一言伝えてくれないかしら?」
「何をです?」
「……簪ちゃんのISが完成して準備ができたなら、私と一対一で戦いましょうって」
「…………わかりました」
更識さんは俺の返事を聞くと、去って行った。……何の肩書きもない、姉と妹としての対決をしようってことか。
にしても何だか今日は疲れたな。早く帰ってゆっくり休もう。
翌朝。
「織斑君、矢作君、おはよー。ねぇ、転校生の噂って聞いた?」
俺達が席に着いた途端、クラスメイトにそう尋ねられた。って転校生? それって……。
「今の時期に?」
「うん。なんでも、中国の代表候補生なんだって」
「やっぱり……」
ようやく再会できるんだな……彼女と。
「あら、私の存在を危ぶんでの転入かしら?」
「だが、このクラスに転入してくるわけではないのだろう? 騒ぐほどのことでもあるまい」
「「転校生か……」」
一夏とハモって呟く。考えていることは同じか。
「「気になるのか(なりますの)?」」
箒ちゃんとセシリアもハモって尋ねてくる。何か、今日は朝からハモりまくりだな。
「まあな。何せ、転入するには入試の数倍難しい試験を受けなきゃいけない上に、国からの推薦状が必要になる」
「つまり、専用機を持っているのはほぼ確実ということだ」
「強敵になり得るということか……」
納得した様子で箒ちゃんとセシリアは頷いていた。下手なことを言って嫉妬されたくはないから、一安心だ。
「とりあえず、勝つ為の特訓をしないとな。特に一夏は」
「ああ。クラス対抗戦も近いしな」
「後一ヶ月ですものね。……そうですわ! 今後はより実践的な訓練をするのはどうでしょう? 相手は私と彰人さんが―――」
「待った。俺は簪のIS制作も見なきゃいけないから、毎回は無理だ」
「あ、そうでしたわ……」
はっとしたセシリアは、「ではどうしたら」と悩む表情を見せた。さすがにコーチが1人ではまずいもんな。
「ならば、私が相手をしよう」
そこへ、箒ちゃんが名乗りを上げた。
「箒……いいのか?」
「ああ。さすがに毎回というわけにはいかないが、彰人がいない分を埋めることはできるだろう。……まあ、こちらが教えられることも多そうだが」
「それでも助かりますわ」
「さて一夏。ここまでやって貰ってるんだ。勝てないとか弱気なこと、言うなよ?」
「誰が言うか。どんな相手だろうと、勝つのみだ」
拳を強く握って一夏は意気込む。
「織斑君が勝つとクラスみんなが幸せになるんだよ!」
「織斑君、頑張ってね!」
「スイーツフリーパスの為にもね!」
クラスのみんなも一夏を応援してくれるが……大抵が欲望丸出しだ。グリード達が居たらセルメダル生成の格好の餌になるな。そう思いながら一夏と苦笑していると―――
「悪いけど、そう簡単にはいかないわよ?」
―――教室の入り口から聞き慣れた声が聞こえてきた。懐かしさを感じながら振り向くと……。
「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないわよ」
腕を組み、片膝を立ててドアにもたれかかっている見覚えのありまくる女子がいた。
「鈴……お前、鈴か!? 久しぶり!!」
「おお、鈴ちゃんじゃん! 久しぶり!」
やっぱり、転校生は鈴ちゃんだった。一年前とどこも変わってない。
俺達が嬉しそうに言うと、鈴ちゃんはどこか狼狽えていた。大方、本当は嬉しくてうずうずしているけど今は隠しておきたいんだろうな。
「そ、そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ!」
あらら、吃っちゃった。仕方ないけどね。
「なあ、鈴……。互いに色々と積もる話があるんだろうけど……とりあえず、早く教室に戻った方がいいぞ? そろそろSHRが始まるし」
「え? もうそんな時間だっけ!? いけない!」
鈴ちゃんは時間を確認すると、慌てて戻っていった。相変わらず、元気一杯な子だなぁ。
箒SIDE
「ふむ……」
彼女が、一夏が言っていた鈴か。活発な印象だったな……一夏が元気を貰ったのも頷ける。ただ、一夏が好意を抱いていることは知らない筈だ。昼休みに、そのことを含めて彼女と話してみるとしよう。