ISG~インフィニット・ストラトス・ガンダム~ 作:レイブラスト
放課後。俺達は揃って第三アリーナに集合し、これから練習を始めようとしていた。が……。
「案外、すんなり借りられるもんなんだな。訓練機って」
箒ちゃんが量産型であるM1アストレイを纏って、感触等を確かめている。こんなに早く借りることってできるの?
「……そんなこと、普通できない」
「ええ。普通なら書類を通さなくてはいけない筈ですが……」
「俺等でも二日程かかったんだし、何でだ?」
「それなんだが……どうもよくわからなくてな」
困ったように腕組みをしながら、箒ちゃんは思い出すように話し出した。
「書類に必要事項を書いていざ提出した時に、受付の人の様子が変わったことは覚えている。それから『あの篠ノ之博士の妹!? なら……』とか何とか小声で言っていたが、ややあって突然に『今日から君には、訓練機をいつでもどんな時でも使える権限を与えるわ。だから篠ノ之博士によれしくね!』と言われてよくわからないカードを渡された。……姉さんに何か用でもあったのか、あの人は?」
「「「「…………………………」」」」
箒ちゃんの話の内容に、俺達は絶句してしまった。つまるところ、箒ちゃんが束さんの妹だということに目をつけた受付の人が、束さんに恩を売るつもりで(おそらく独断で)権限を与えたんだろう。……そんなことしても、束さんは見向きもしないだろうに。
「ま、まあとにかく、この話は置いといて。事前に話し合ったように行動しよう!」
「そ、そうだな。今は考えてる時間も惜しいもんな」
「む…確かに。無駄話をしている暇はないな」
「え、ええ。そうとわかれば、早く始めましょう」
「…………(コクコク)」
強引に話を切り上げ、俺達は訓練をすることにした。
Out SIDE
訓練開始から小時間。それぞれどんな内容をこなしているか、見てみよう。
まずは一夏達。
「くっ!」
セシリアが放ったビームライフルを一夏は辛くも回避する。しかし、そこへ箒がビームサーベルで斬りかかる。一夏は咄嗟にサーベルを左手で掴んで止める。
「ならばっ! せぇやっ!!」
箒はビームサーベルを手放すと、腰の対艦刀を引き抜き、思い切り振りかざした。
「させるか!」
しかし一夏も、対艦刀を持ってる右腕を蹴り飛ばし、衝撃で対艦刀を吹っ飛ばす。
「しまっ!?」
「これで!!」
更に追い打ちをかけようと、一夏はGNソードⅢに赤いエネルギーを纏わせて両断しようとするが、
「箒さん!」
「っ!?」
ドラグーンによる一斉射撃が一夏を襲い、何とか回避したものの攻撃は中断されることになった。
「すまない、助かった」
「これくらい当然ですわ」
連携した二機が並び立った直後、試合終了を告げるブザーが鳴り響いた。
「ここまでだな……ありがとうな、2人とも」
「ああ。しかし最後は危なかったな……連携していなければ、あのまま負けていたかもしれん」
「よく言うぜ。箒だって機転を利かせまくったろうに」
「一夏さんの近接格闘もさることながら、箒さんの上達具合も凄まじいですわね」
「そうか? あまり上手くいってるとは思えないんだが……ISの操縦だって、ほぼ直感で動かしてるだけだし」
「箒はその直感が冴えわたってるんだよな。昔っから」
腕を組みながら、一夏は懐かしむように言った。まだまだ荒いところはあるが、箒の操縦技術も上がってきている。
「それで、鈴には勝てそうか?」
箒の質問に、一夏は間を開けて答えた。
「……相手の出方にもよるが、トランザムの使い所を間違えなければ勝率は上がるだろう」
「トランザム搭載機は、効果が切れた際に一時的に機体性能がダウンしてしまいますからね……」
「徐々に充填されるとは言え、シールドエネルギーも減少するからな。……まあ、焦って変なところで使わなければいいとは思うが」
「それもそうだ。んじゃ、ピットに戻るか」
肩をすくめながら一夏が言うと、箒とセシリアは笑みを浮かべた。
一方、彰人達は。
「どうだ、簪?」
「……各システムオールグリーン。今のところ問題はない」
生身の状態の彰人が、専用IS―――アストレイブルーフレームセカンドLを纏った簪を見る。彼女の機体はほぼ完成状態にある。これはセシリアの協力があったのと、原作にあったミサイルランチャーとマルチロックオンシステムが存在してないからである。
「……武装チェックに移る」
次に簪は両腰とつま先に装備されたナイフ型武器、アーマーシュナイダーを装備。すぐ仕舞うと今度は背面に装着されたタクティカル・アームズを分離、ガトリングモードに変形して構える。その次は、タクティカル・アームズをブレードモードに再変形させて所持し、軽く振り回す。最後に分割装備されたローエングリンランチャーを装備し、また元に戻す。
「……こちらも問題はない」
「セシリアの知識がかなり役立ったからな。さすがは代表候補生だ」
「……それもあるけど、彰人が手伝ってくれたから。私のモチベーションも、良くなったし……」
「そ、そうなのか……」
恥ずかしげに言う簪に、彰人もどこか気恥ずかしさを感じた。
「じ、じゃあ次は挙動チェックだな。簪、俺も見てるから自由に動き回ってくれ」
「……うん」
コクリと頷くと、簪はスラスターを噴かして空へと舞った。その後はくるくると回ってみたり、武装を展開して素振りや空撃ち等を行った。
しばらくして、彰人もウイングゼロを展開して簪の隣へと向かう。
「どんな感じだ?」
「……右側のスラスターの出力が、ちょっと弱くてそれ以上上がらない」
「なるほど……それなら、左側の出力を敢えて落として、調整するのはどうだ?」
「……やってみる」
「よし。そうと決まれば、ピットに戻ろう(これなら、すぐに完全な状態に仕上がりそうだな。後で更識さんに、クラス対抗戦後ならいつでもOKって連絡しとこ)」
彼らも本日の訓練を終わらせた。
一夏SIDE
「ふぃ~…」
「一夏、お疲れ。はいこれ、タオルとスポーツドリンク」
ピットに戻って機体を解除したところで、鈴にタオルとスポドリを渡された。
「おっ。わざわざありがとな、鈴」
礼を述べた後、まずタオルで顔の汗を拭い、次によく冷えているスポドリを一気に飲む。
「っあ~! うまい!」
疲れた体に、スポドリが程良く染み渡る。それから少しばかり、俺と鈴は無言になる。
「ようやく……2人きりになれたね……」
「あ…ああ」
やばい。自室でもそうだが、好きな女子と2人きりになるのって凄い緊張する……!
「私ってさ。特殊だけど……一夏の恋人に、なったんだよね?」
「ああ。勿論だ」
「じゃあ……こんなことしても、いいよね」
そう言うと、鈴は俺の胸に頭を預けてきた。
「鈴……?」
「……寂しかったんだから」
その言葉で、俺は鈴が抱えている想いを理解し、鈴をしばらくの間そっと抱きしめた。
「ありがとう、一夏。もう大丈夫だから」
「そうか」
明るい笑みを浮かべる鈴。それを見て、やっぱり俺は鈴のことも好きなんだと痛感する。平等に愛するか……難しそうだなぁ。
「あ、もうこんな時間。早く戻らないと」
「ん? そうだな……この時間帯ならシャワーは空いてるから、鉢合わせる心配はないか」
「え? 鉢合わせって……アンタ、彰人と相部屋じゃないの?」
「……あっ……」
しまった! つい口が滑ってしまった!!
「そ、それは、えと……」
「い・ち・か? 一体どういうことなのか、説明してくれるかしら?」
やばい。下手なことを言おうものなら、逆鱗に触れてしまう……な、何とかせねば!
「じ、実は…女子と相部屋なんだ……」
「やっぱり!? 一体誰となの!?」
「ほ、箒……」
「え、箒!? ど、どうしてそうなったの!!」
「ひ、1人部屋が間に合わなくて……彰人だって簪と相部屋してるし、仕方がないんだよ……」
「それはそうだけど……でもそれって、寝食を共にしてるってことでしょ!?」
「そ、そうなるのか?」
「そうとしか言えないわよ! ああもう、こうしちゃいられないわ!」
そう言うと、鈴は出口に向かって一目散にダッシュした。
「お、おい鈴! 部屋割りを変えてほしいのなら、諦めた方がいいぞ!」
「はぁ!? どういうことよ!?」
俺の言葉に鈴は足を止めて尋ねる。
「変更するにはまず一年の寮長に許可貰わないといけないんだが、誰だか知ってるか?」
「そういえば……知らなかったわね。でも誰であろうと、私なら大丈夫よ!」
な、なんて命知らずな奴……知らぬが仏とはこのことだろうか? 単に無知なだけだろうけど……。
「で、誰なの! 今すぐ乗り込んでやるわ!」
「……姉さん」
「………………………………………………ゑ?」
「一年の寮長は、千冬姉さんなんだよ」
「……………………………………」
思わず唖然としてしまっている鈴の肩に、俺はそっと手を置く。
「それを踏まえた上で……逝ってらっしゃい」
いくの字が違うのは誤字に非ず。
「行けるかぁぁぁぁぁああああああああああ!! 理由告げたところで即アイアンクローかまされるでしょうがぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!! うわーん、神様のバカ野郎ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!」
思い切り泣きべそかきながら、鈴は立ち去ってしまった。……俺は悪くない筈なのに、物凄い罪悪感に苛まれた。
「……疲れたな」
そんな俺の呟きは、誰もいないピットに響くのであった。