ISG~インフィニット・ストラトス・ガンダム~ 作:レイブラスト
アリーナ更衣室
「「はぁ…」」
「ふぅ…」
更衣室に入ったところで3人揃ってため息をつく。時間は……まだ余裕があるな。
「よし……ここなら邪魔は入らないな。では改めて、矢作彰人だ」
「織斑一夏だ。よろしく、デュノア」
「こちらこそよろしく。僕のことはシャルルでいいよ」
「わかった。俺のことも一夏でいい」
「俺も彰人でいい。それより、ごめんな。緊急とは言え勝手に背負っちゃって」
いきなり背負うのはさすがにまずかったと思い、シャルルに謝る。
「別に気にしなくていいよ。お陰で助かったんだし。ありがとう、彰人」
優しいな、シャルルって。こういう人は最近中々見かけないから、ある意味貴重だ。
簡単な挨拶を済ませたところで、着替えを始める。俺と一夏はシャルルに背を向けている、と……。
「…ん?……っ!?」
「? どうし……っ!?」
備え付けの鏡を見て揃って絶句してしまった。何故なら、僅かにだが見えてしまったからだ。女性用のコルセットが映り込んでいるのを……。
(…………一夏)
(……わかっている)
((見なかったことにしよう))
彼が女性であることは確定してしまったが、今言う訳にはいかない。時期が来るまで待とう。
そう考えながら、俺達はグラウンドへと向かった。
グラウンドに着くと、ジャージ姿の千冬さんが見えた。
「遅くなりました!」
「時間ギリギリだな。まあいい、すぐに並べ」
「「「はい」」」
千冬さんに促され、俺達は列に並んだ。
「随分ゆっくりでしたわね」
直後にセシリアにそう聞かれた。
「シャルル目当てで来た他クラスの女子達に、あわや揉みくちゃにされかけてな……」
「逃走するのに手間がかかった」
「なるほど、そうでしたのね。お疲れ様です」
「アンタ達も結構大変ね」
労いと憐憫の言葉をセシリアと鈴ちゃんが掛けてくれる。それだけでも俺には充分だ。
「では、本日から格闘及び射撃を含む実践訓練を開始する」
『『『はい!!』』』
授業開始の言葉に、全員が大きな声で返事をする。
「今日は戦闘を実演してもらおう。そうだな……凰! オルコット!」
「えっ?」
「私ですか?」
突然指名されて面食らいながらも、2人は前に歩み出た。
「あの、つかぬ事お伺いしますが……何故私達なのですか?」
「専用機持ちはすぐに始められるからな。それに、お前達の機体の相性が良いのも理由の1つだ」
なるほど。確かに近~中距離戦法が得意なアルトロンと遠距離攻撃に秀でたストライクフリーダムなら、互いの弱点をカバーし合うことができる。
「相性ってことは……私とセシリアでペアを組んで、誰かと戦うんですか? 相手はどこに?」
「まあ慌てるな。対戦相手はすぐに―――」
キィィィィィン……
……おや? 何やら空気を裂く音が上から聞こえて来るような……。
「わぁぁぁああああーっ! ど、どいて下さいぃ~!!」
な、何事だ!? 急いで声のする方を見ると、一機のGN-XⅣがこちらに猛スピードで突っ込もうとしていた。……って冷静に考えてたけどまずい!!
「一夏!」
「彰人!」
互いに名前を呼び合うと同時にISを展開し飛び立つ。
まずは俺が防御姿勢の状態で全体をクッションとしGN-XⅣを受け止め、衝撃を殺す。そこへ一夏がGN-XⅣに肩を貸す形で体勢を立て直し、ゆっくり地面へと降ろした。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。2人とも、ありがとうございます」
「当然のことをしただけですよ」
一安心するが、周りはすっかり唖然としてしまっている。理由は簡単だ。皆一様に『この人が戦って大丈夫なのか?』と思っているんだろう。
「……ハプニングがあったが、無事で何よりだ。さっさと始めるぞ」
「え? 二対一で……ですか?」
「さすがにそれは……」
セシリアと鈴ちゃんもさすがに眉を顰める。が、千冬さんは何やら自信ありげに微笑んだ。
「心配するな。山田先生はこう見えて元代表候補生でな、実力は確かなものだ。私が保証する」
「む、昔のことですよ~。それに候補生止まりでしたし」
いや……間違いなく山田先生は実力者だ。何せ、あの千冬さんが認めているんだ。一夏もそう思ったのか、驚きを隠せないでいる。
「では、始め!!」
号令と同時にセシリアと鈴ちゃんがISを展開して飛翔する。山田先生はそれを目で追ってからスラスターを噴かした。
「織斑先生が言うのであれば、私も手加減はしませんわ……!」
「最初からクライマックスで行くわよ!!」
「い、行きます!!」
緊張気味の言葉とは裏腹に、山田先生の雰囲気は冷静な戦士のソレに変わっていた。鈴ちゃんがツインビームトライデントを持って接近戦を挑むが、GNビームサーベルを使って対応する。
「さて、この間に……デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」
「あっ、はい!」
戦闘状況を見ながら、千冬さんはシャルルに説明を促す。
「山田先生が使用しているISはデュノア社製の『GN-XⅣ』です。第2世代型最後期の機体で、その能力は第3世代型に劣りません―――」
説明を聞きながら、俺は戦闘をじっと見ている。
山田先生は鈴ちゃんのツインビームトライデントを問題なく捌き、セシリアが援護で放つビームライフル(連結状態)も回避する。時折鈴ちゃんが下がりセシリアがドラグーンで攻撃するものの、山田先生は最小限の動きで避けていく。更には不意打ち気味に近距離で射出したドラゴンハングすら掠った程度に納め、GNショートライフルで反撃していく。
量産機で専用機持ち2人を相手にああも立ち回ることができるとは、凄まじい技量の持ち主だ。人は見かけによらないとはこのことか。
「そろそろか……デュノア、一旦そこまででいい」
戦闘を見て何かを悟った千冬さんが説明を終わらせるように言うと、戦闘に変化が起きた。
「これで行きます…トランザムッ!!」
叫ぶのと同時にGN-XⅣが赤く輝き、通常の三倍のスピードで動き回ってバルカンを含む全武装を駆使し、二機のガンダムに前後左右、そして上下から猛攻してシールドエネルギーを一気に削っていく。最後は両手に持ったGNビームサーベルで、それぞれ正面から二機を同時に串刺しにする。エネルギーが尽きたアルトロンとストライクフリーダムは地面に落下した。
「候補生止まりとは言え、あの腕前……そこらの軍人にも見劣りはしないか」
どこからかラウラちゃんの感心した声が聞こえた。
「く、うぅ……まさか、墜とされるとは……」
「量産機であそこまで立ち回ることができるなんて……完敗ね」
「ええ……経験の差を知りましたわ」
負けた2人は悔しそうな表情をするが、実力の差を感じたのかどこか納得していた。
「諸君、これがIS学園教員の実力だ。以後は敬意を持って接するように」
パンパンと手を叩きながら千冬さんは言う。そういうことか……山田先生は普段から教師として見られていないから、ここで実力差と威厳を見せておきたかったんだろう。それに、ISの性能が戦力の決定的差ではないということを教えたかったのもある筈だ。
みんな戦闘を見て驚いているし。
「専用機持ちは織斑、矢作、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だな。では10人グループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちが務めること。いいな? では始め!」
言い終えた直後、大半の女子が一夏とシャルルに集まった。俺のとこは……2人までとは言わないが大分集まっている。2人はともかく、俺も人気があるんだろうか?
「ていうかこんな分かれ方でいいのか……」
ぼやきながら千冬さんを見ると、面倒だと言いたげに額を指で押さえた。
「全くコイツ等は…………出席番号順に1人ずつ各グループに入れ! 順番はさっき言った通りだ。次に同じことをするなら、今日はISを背負ってグラウンドを百周してもらうからな!!」
千冬さんの言葉によって女子達は素早く移動し、あっという間に専用機持ちグループが出来上がった。
「最初からそうすればいいものを……」
思わずため息をつく千冬さんに同情を禁じ得ない。
「皆さんいいですかー? これから訓練機を一班一機ずつ取りに来て下さい。数は『M1アストレイ』が4機、『GN-XⅣ』が2機です。早い者勝ちですから急いで下さいね~!」
山田先生が全員に呼びかける。普段と違ってしっかりしているのは、さっきの戦闘で自信を取り戻したからだろう。それはいい。それはいいんだが……その豊満な胸まで堂々と晒すのはな……動く度に、その……揺れるんだよ。だからつい目で見てしまう。ヤミーが誕生するのは確実だな、これは。
てか、鈴ちゃんが物凄く落ち込んでるし……あ、同じグループの女子が慰めてる。共感できる部分が大いにあったんだな。
(……ん?)
ふと視線を感じて見てみると、セシリアがむぅっと頬を膨らませてこっちを見ていた。あらら……バレてましたか。一夏も箒ちゃんと鈴ちゃんに同じようなことされてんな。こればっかりはこっちが悪いので、手を合わせて小さく謝る。
よし、改めて始めるとしよう。機体は早い者勝ちって言ってたから……GN-XⅣでいいか。
俺はGN-XⅣを借りると皆が居るところに戻る。
「さてと。それじゃあまずは……」
『各班長は訓練機の装着を手伝ってあげて下さい。全員にやってもらうので、フィッティングとパーソナライズはカットしてあります。とりあえず午前中は動かすところまでやって下さい』
途中で山田先生がISのオープンチャンネルを使って連絡してきた。ふむ、装着の手伝いと起動。それと歩行をやれば良いみたいだ。
「んじゃ、俺が装着の手伝いをして起動したら歩行を開始する。これでいいか?」
『『『はーい!』』』
うん、元気があって何よりだ。
「最初は『はいはいはーい! 出席番号一番、相川清香! 所属はハンドボール部! 趣味はスポーツ観戦とジョギングだよ!!』な、何だ?」
突然聞こえてきた声に戸惑うと、一夏の班で相川さんが自己紹介をしていた。当然ながら一夏は面食らっている。
『な、何故自己紹介を?』
『よろしくお願いします!!』
お願いするのはいいが、自己紹介いったか?
『あっ、ずるい!』
『私も!』
『第一印象から決めてました!!』
『何を!?』
相川さんに触発されたのか、一夏の班の女子達全員(箒ちゃん除く)が全く同じ行動をする。
『『『お願いします!!』』』
ん? また違う場所から声が……これはシャルルの班か。
『え、えっと……』
ものの見事にシャルルも戸惑う。俺だって同じ状況になればそうなるな。
「……みんな何やってんだか…………って君達も、やろうとしない!」
動こうとしていた俺の班の女子達に釘を刺すと、ほぼ全員がギクッ!? とした表情をした。おいおい……。
「ほら、早く済ませるよ。まずは……君からだ」
そんな女子達を促し、選んだ1人の装着を手伝うことになった。
「……ようし。歩行が終わったら次の人に交代だ」
「はーい」
1人目の女子が装着、起動、歩行を終えたので装着を解除するが……。
「矢作君。コックピットに届かないんだけど……」
「え? ……あー……」
しゃがむ指示をし忘れた為に、ISが立ったままの状態になってしまった。これでは乗れない。
一夏達も同じ状況になっている。そっちはある程度わかってたんだけどな……。
「……仕方ない。かくなる上は…………よいしょっと」
「え、ひゃっ!?」
俺はウイングゼロを展開して2人目の女子を抱き上げ、GN-XⅣのコックピットに運ぶ。
「ふぅ……装着したら起動と歩行をしてくれ。終わった後はしゃがんでから解除するように。それと、急に抱っこしてごめん」
「う、ううん。ありがとう……」
俺は地面に降りてウイングゼロを解除する。少し緊張したが大丈夫みたいだ。
この後練習は順調に進み、しばらくして訓練は終わった。