「あの、皆さん……。どうしてそんな格好で固まっているんですか?」
「アンタの方がよっぽど恐ろしく見えるからだよっ!」
おそるおそる尋ねた椿・櫻に、秘密結社ミューガスの塊から獅子将軍の悲鳴のような返答が飛んで来た。
ポケットから白いハンカチを出した椿・櫻は、ひらひらと振りながら敵意が無いことを表す。
「恩人の方々に危害を加えるようなことはしません」
「ほ、本当だろーね!?」
「天地神明に誓って」
「マジなんだろーね!」
「あと私、何に誓えばいいんですかぁ?」
この不毛なやり取りを3回ほど繰り返し、ようやっと信用して貰った彼女はげんなりと肩を落とした。
やりすぎた感はいなめないが、最後の断罪などは彼女が実行した訳ではない。実行にGOサインを出したのは否定しないけれど、あんなことは行使出来る権限のほんの表面程度なのだ。
これ以上疲れる会話をしたくないので追々知ってもらおうと先送りにした。
まずはミューガスの立て直しが先になる。
聞いてみたところ、本拠地は瓦礫と化し地の底に埋まってしまったらしい。あと人員も足りない。
山猫怪人が涙ながらに語った神官というのは、贄と儀式によって黒山羊首領が生み出せるらしい。
将軍格は一度怪人を造り、幾らか経験を積ませた上で昇格させるらしいのだが、この儀式にも神官が必要とのこと。
「なにはともあれ、まずは仮拠点と神官みたいですねー」
「そうじゃな。神官を生み出すにしても贄は必要じゃし、場も整えねばならん」
椿・櫻のベホイミ一発で怪我と疲労を回復した山猫怪人は、獅子将軍と戦闘員たちと周辺の警戒をしている。頭を突き合わせて会議をしているのは彼女と首領だけだ。
どうやら頭脳労働系の狐将軍と、技量系の騎士型鹿将軍は倒されてしまい、残ったのがパワー系の獅子将軍だけだとか。
「『場』ですか……。それはもしかして凄惨な殺人現場系、の?」
「うむ、話が早くて助かるな。その通りじゃ」
要するに大量の血が流れた場所であればいいとの回答に椿・櫻は悩む。
こちらの『地球』が彼女のいたところとほぼ同じであれば、『場』の特定はたやすい。しかし、こうやって会議をしながらこの星のオンラインにアクセスして情報収集を同時にこなしていても、彼女の知るどの『地球』とも違うところが多々ある。
よって導き出される回答はひとつ。
「なら、作るしかありませんねー。1ヶ所仮拠点によさそうなところもあるようですし」
「む、嬢ちゃんはこの星には疎いんではなかったのかの?」
ヒーローたちを倒す際の会話は隠すことなどないので、ミューガスの人たちにも聞いて貰っていた。そのことを指摘されたが、彼女にとっては既に問題にならない話だ。
巨大ロボットが製作出来るような科学力がある星ならば、彼女がネットに接触したが最後である。ちょっと考えただけでネットに接続された情報機関から膨大なデーターが流れ込んでくる。事柄や場所や条件等を知るのに支障はない。
『場』についても必要条件を満たす情報は得られたのだが、そのほとんどが遠距離か海を渡った所なので却下した。
「とりあえず移動しましょう。ちょっとそこのポンコツー!」
手招きして呼べば、今まで微動だにしなかったヒーローの巨大ロボットがガシーンガシーンと近付いてきた。山猫怪人等が恐れおののくのを横目で見ながら、巨大ロボットへ指示を出す。
「アナタの発進して来た基地に案内なさい。出来るわね?」
椿・櫻の問い掛けにゆっくり頷き返し、しゃがみ込んで両手を砂浜に差し出す巨大ロボット。おっかなびっくりなミューガス一同の背中を押して掌に乗せ、巨大ロボットは海岸線を北に向かって歩き出した。
◇
「ぐぇっプ、うぐぐ……」
「へぇ、怪人にも三半規管ってあったんだ」
巨大ロボットの手のひらの上で揺られること30分。真っ先に山猫怪人が車酔いならぬ手のひら酔いにグロッキーになっていた。
「見苦しくてすまないねえ……」
「まあ、こればっかりは体質ってのもあるもんねー」
ロボットの左手の親指付近で息も絶え絶えになりながら、戦闘員に背中をさすって貰ったり、氷水で首筋を冷やされたりしてる。氷は椿・櫻が魔法で生成したものだ。
「にしても魔術? まで使えるとはねえ。敵はいないんじゃないかい?」
右手側に円形に座っているのは椿・櫻と獅子将軍と黒山羊首領だけだ。関心したような獅子将軍に肩をすくめる。
「地力だけで接近戦しろと言われたら厳しいですねー」
「それでも
陸に上がった鯉のような風体を晒す山猫怪人にため息を漏らす首領と将軍、それに苦笑いの椿・櫻が加わる。
「まあ、ひと口に生身の人間と言っても色んな人がいますからねー。中には数秒間だけ音速を越え、防御を通して内側から相手を叩き斬る剣士とか……」
「そりゃホントに人間かい?」
「10数階建てのビルを蹴り飛ばしたり、斬ったり、粉々に砕いたりする格闘家の人たちとか……」
「それこそ物語などに記されるじゃろう?」
絵物語だと一蹴した2人だったが、椿・櫻が否定もせず肯定もせずに苦笑したままだったので目を剥いた。
この世界ではなく、別の世界で出会ったことのある冗談のような本当の人々であるからに。
「―――、という訳なのじゃ」
「へー。でもだったらそれはあれでしょ、―――」
ミューガスの内情だったり、椿・櫻のこの世界に来た理由だったりを情報交換していると、巨大ロボットは海岸線沿いの市街地に足を踏み入れていた。
街のあちこちから隠れた人々の視線がこちらに集中してるのが感じられる。中にはビルの屋上やベランダに固まり、こちらを指差して騒いでいる者まで確認できた。
聴覚を強化すれは「裏切り者」やら「役立たず」、「悪に下った面汚し」等の悪口が聞こえてくる。
全て椿・櫻に向けられたのではなく、民衆はまだヒーローたちが巨大ロボットを操っていると思っているようだ。
「戦ってもらっていたクセに胸糞悪い連中さね」
獅子将軍が心底嫌そうに呟けば、首領や戦闘員たちすらも似たような反応だ。
「む、何が来おったぞ」
市街地の向こうから4つの影が上空に上がったと思ったら、空に響き渡る爆音を轟かせてこちらへ接近してきた。
「戦闘用ヘリコプターですかねえ?」
2人乗りのキャノピーが特徴的な4機の黒緑色のヘリコプターは、巨大ロボットの周囲を取り囲み、一定の距離を空けて飛んでいた。
この時は通信で巨大ロボット内部に呼び掛けていたのだが、コクピットは潰れているので通じる訳がない。おまけにそれが聞こえていたのは椿・櫻だけだった。
そんなこととは知らないミューガス側は「気にいらないねえ」と呟いた獅子将軍が立ち上がり、ヘリコプターに対して頭部と肩の獅子頭が咆哮した。
GOAAAAAHAAAAAAAAAA!!!!!!
尋常ではない空間の震えに慌てて耳を塞ぐ椿・櫻だったが、目はその攻撃を捉えていた。
音が空間を歪ませ、避けようのないヘリコプターごとねじ曲げて爆散させる。
1機が巻き込まれたのを見た他の機体が緊急回避軌道を取るも、歪んだ所が元に戻ろうとする変化に巻き込まれ、もう1機が横に跳ね飛ばされた。
見えない手で横に叩かれた動きをとった1機は周囲にあったビルへ激突。爆発してヘリコプターの破片だかビルの壁面だか判らない瓦礫と一緒に落下していく。
「おお~、獅子将軍さまかっこイイ~」
「獅子将軍だなんて堅い呼び方はよしとくれ。あたしにはレイラレイラって名前があるんだ」
あまり他人のそういった攻撃を見ることのない椿・櫻が感動してパチパチと拍手を送る。
照れたように頭を掻いた獅子将軍は自身の名前を告げる。
その男気? にまた感動してほめちぎる。といったやり取りが黒山羊首領が呆れて横から口を挟むまで続いた。
獅子将軍の攻撃からなんとか逃れた残りの2機は、変形して手と足を生やしビルの屋上へ着地する。
「お~、ドルバックかな、ガングルーかな?」
「なんだいそりゃ」
椿・櫻の特性を理解したのか、レイラレイラも呑気に人型となったヘリを見ているだけだ。
『くっ、同朋の仇めっ! くらえっ!!』
元は胴体部の下についていた小銃を向けてくるが、もちろん例に漏れず弾はでない。更には彼女の敵を排除するために2機が向かい合って撃破しあおうという時に、考え込んでいた椿・櫻が待ったを掛けた。
「どうしたというのじゃ。まさか情けをかけるというのではあるまいな?」
「違います違います。もう少し効果的な使い方をしましょう。放っておくとまたこういうのがやってきて、その都度同士撃ちをさせなきゃならないですから」
こういった戦闘用車両になると常時ネットに接続されている訳ではないので、彼女の前まで出て来ないと命令が下しにくい。手っ取り早いのが命令で括った別の車両を軍用基地に突っ込ませることである。伝染病も真っ青な侵食が行われる。
今回は片方を元来た基地に向かわせ、もう片方をこの地域最大の基地へ向かわせた。
下す命令は「自衛隊だか戦闘員だかの人員を全て抹殺せよ」である。
◇
「あれ、なんだか不満げですね?」
中で何か喚いていた操縦士たちに構わず、2機のヘリコプターが北と西に飛びさっていったあとのこと。
巨大ロボットは海岸線沿いに広がる市街地の丘陵地を目指していた。
先程の椿・櫻の下した命令に納得がいかないのか、機嫌が悪くなっていた黒山羊首領に問い掛ける。
「一番最初に我等の理念は説明したと思うが……」
「ああ、公害や自然破壊から星を護るために人類滅亡、ですか?」
「そうじゃ。なぜあやつらにそれを実行させなかったのかの?」
ピリピリした気配を感じたのか、レイラレイラは山猫怪人たちがいる左手側へ寄る。
「まあ、ぶっちゃけると私の能力だけでは中途半端な文明は管理しきれないからですね」
主な理由は人の手が必要な場所が多すぎるからだ。人が家畜のようにコンピューターに管理される映画みたいな世界ならばそれも有りだろう。
しかし、椿・櫻が手を下してしまうと機械たちは彼女主体の世界にしてしまう。
融通の効かない彼等にミューガスを共に歩む存在だと認識させるには、何か行動を起こすたびに一々注釈を入れねばならなくなる。そんな面倒極まりないことは彼女もゴメンだ。
後は滅ぼした後に残るものの始末になる。
地上に残る全建造物を壊すには椿・櫻の能力を使えば
中でも核や水爆などが無造作に解放されてしまえば、生物のみならず星に与える影響も莫迦にならない。その辺りの管理のためにも人類の残留は必須であると考えていた。
「あと支配する奴らがいないと困る組織もあるんじゃないかな?」
「うむむむ……」
色々調べた結果、現在この惑星上で活動している悪の秘密結社はミューガス込みで3つあった。
ひとつは中国大陸で活動している。こちらはまだあちらの大陸産のヒーローと一進一退の状況のようだ。
もうひとつはアメリカ大陸で活動を始めたばかりの組織である。
人類の行く末を決めるには、最低でも3つの組織の首領格による三者会談でも開くまでは保留、ということになるだろう。
「ッ……、分かった分かった。お嬢ちゃんの考えで行くことにしようぞ」
「他にも……」と並べ立てようとした椿・櫻を遮って、ようやく黒山羊首領は納得してくれた。口を挟む暇もないくらいにたたみかけた椿・櫻に閉口したところもあるかもしれないが。
「良かった。実をいうと私も大衆になじられてみたかったんですよ」
「妙な趣味をもっとるんじゃな……」
にぱー、と屈託なく笑いヘンテコリンなことを口にする椿・櫻に呆れる首領であった。
「首領さま、あれを!」
市街地を抜け、自然溢れる丘陵地帯の奥に見えた岩山の壁面がゆったりと開いているのを、レイラレイラが指差した。山猫怪人は未だにグロッキー状態である。
「まあ、定番なのかな」
「だからさっきからなんなのじゃ?」
納得と疑問の会話をよそに、巨大ロボットは口を開けた格納庫へ足を進めて行った。
次にボコボコにされるヒーローの出番は当分先です。