悪の秘密結社と一緒ぅ   作:C-K

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 お久しぶりです。


4話 即身仏と一緒

 日本を離れた椿櫻(ツバキサクラ)は大陸の方へ飛び立った。

 ミューガスの首領からの話と調べた情報によると、大陸の奥地にある山脈の何処かに『結社』と呼ばれる秘密組織があるのだという。

 その『結社』は霊峰が山という形を成したころから存在し、大陸制覇を掲げてもうずいぶん前から活動しているのだとか。

 それがまだ達成されてもおらず、とっかかり状態のままなのは大陸に根を張る正義の組織の力が大きいのだろう。なにせその手の噂話が、ネットの掲示板でも噂話程度で止まっているからだ。

 SSが掲載されたとしてもブレとボヤけが酷くて、補正をかけても何が映っているのか判明しないのが多い。周囲の建物からおおよその場所を割り出して、周辺の防犯カメラの映像を調べてみるが巧妙に隠されているとしか思えないのである。

 その理由は疑わしき時間帯に何も映っていないところにあった。

 秀逸な編集により、何も無い日常が再現されていたのである。何処からか施された手によって。

 勿論その痕跡も探ってみたが、途中で掻き消えていた。トカゲの尻尾切りのように。

 

「やれやれ、めんどくさい手を使うんだねー」

 

 試しに現場に赴いてうろうろしてみれば、警察が現れて椿櫻に職務質問をしてきた。

 日中に学生服姿の女性が当てもなくうろついていれば、怪しむ者もいるだろう。

 適当に「サボリです」と返してやれば、警察は彼女を拘束しようと手を出してきた。

 勿論、逆にノシてやったが。

 拷問に掛けて脳味噌から情報を吸い出してやれば、本当に善意の通報者から情報を得てやって来たようだ。ただ、周囲を監視下に置いていた彼女からすれば、それもおかしなことだ。

 椿櫻がこの場に現れてから警官がやって来るまでの間、彼女を視認できる範囲内にいた人間で警察へ通報した者は一人もいないからである。

 周辺の監視カメラや視線など、全てを監視下に置いていたからこそ出来る芸当だが、盲点を一つだけ開けてあった。上からの視線だ。それも衛星軌道上からの。

 その時間頭上にあった全ての人工衛星の情報を把握した椿櫻は、政府にも企業にも属さない一つの人工衛星をピックアップした。

 巧妙に隠されてはいたが、その人工衛星を管理していた企業は実際に存在しない架空業者だったからだ。

 管理元に気付かれぬよう、すぐにその人工衛星を掌握して監視情報を手に入れる。

 今はまだ、架空業者側に気取られぬよう。大元から少しずつ情報を吸い出しながら、椿櫻は衛星から得た情報を元にその組織が関心を向けている場所へ跳ぶのであった。

 

 その場所は都市部から離れた所にあった。

 周囲に広がるのは無数のソーラーパネル。ソーラーパネルの畑のようにも見える一大発電施設だった。椿櫻の目的はそこで行われている戦闘にある。

 正確に言うならば、鋼のスーツを着込んだ二人組と戦闘状態真っただ中にある怪人側だ。

 無理やり龍脈の経路をこじ開けてその場に辿り着くと、鋼のスーツを着込んだ二人組が有象無象の戦闘員を粗方倒したところだった。

 椿櫻はまず周辺の施設を掌握して、その全てを支配下に置く。ソーラーパネルを管理している施設の中央にそびえ立つ管理棟に、まだ職員が残っていた。人質に使えるかもしれないと、施設に職員のいる場所にロックを掛けて逃がさないようにしておく。

 それから目的地に向き直る。

 

 戦闘員はひょろ長い人型で、全身にボロボロの包帯を巻いたミイラのような容姿であった。ほつれた包帯の隙間から覗く素肌は真っ黒で、塵の様なものが少しずつ流れ出ていた。

 それらは地面に打ち倒されると包帯が解け、徐々に体表面が風化して崩れていく。塵が何処へ拡散するのかは分からないが、爆発するよりはまだ地球に優しそうだ。

 そして正義を主張する鋼のスーツ、プロテクターを着込んだ二人組は緑色と黒色のシンボルカラーを持つ戦士であった。そちらの方は興味がないので放置である。

 ただ邪魔をするならば容赦はしない。椿櫻の目的は戦闘の介入よりは、目標の『結社』とのコンタクトにあるからだ。

 方や怪人は半分白骨化した馬の怪人であった。

 体の半分は腐り落ちた肉のせいで骨が見えていて、残った肉体には戦闘員の者より上質な包帯で支えられているからか、まだマシな状態のように見える。

 肩幅の広いがっしりとした肉体から伸びるのは半分骨の見える馬の首だ。

 二人組と拮抗した近接戦闘を繰り広げる戦いの場へ、椿櫻は無雑作に歩みを進める。

 当然戦っている三人も椿櫻の存在に気付き、どちらからかともなく戦闘を中止して距離を取った。

 

「おいおい、何だってこんなところに学生が……」

「この戦いを見ても動じた様子はないぞ、あの嬢ちゃん。何かの罠かもしれん注意しろ!」

 

 好き勝手に言っているが、仕掛けてこない限り椿櫻には敵意はない。仕掛けようと思った瞬間に二人組が相手にするのはスーツの方だろうが。

 馬怪人の方は椿櫻が自分と距離を詰めようとしたところで我に返る。

 場所は兎も角、普段なら逃げ惑う様子しか見せない女子学生が恐ろしく見えたからだ。

 さっといつでも戦闘できる態勢を整えたが、女子学生が馬怪人へ提示した物は全く思ってもみない物体であった。

 それは首領に聞かされたことがある、東の国で活動するという秘密結社のエンブレムである。

 五角形のプレートに五芒星と山羊の頭が描かれたエンブレムを名刺代わりに差し出した女子学生は「ここの関係者なんで、そちらの首領にお目通りを願いたい」という要求を申し出てきた。

 さすがに一介の怪人に、怪しい人物を首領の元に連れていくということは判断できないため、ついつい言葉を荒げてしまう。。

 

「お前のように怪しい奴を首領様に会わせることなどできぬ! ……ヒヒィッ!?」

 

 口にしてから言ったことを後悔した。

 その女子学生、椿櫻がすさまじい怒気を纏い始めたからだ。しかもピンポイントで馬怪人の精神耐性を削る強烈な奴を。

 この時、椿櫻は馬怪人に怒っていた訳ではない。『エンブレムを見せればあちらの組織とコンタクトが取れる筈じゃ』と言っていたミューガスの山羊首領に怒っていただけである。

 

「そう言えば、『部下は頭が固い』とか言っていたっけ?」

「……何か言ったか?」

「いえいえ、何でもありません。じゃあどうしよっかなあ」

 

 呟いた言葉を聞きとがめられ、椿櫻は慌てて自分の口を閉じる。交渉とは言えない会話だったが、ここでとっかかりが途絶えてしまうのももったいない。

 うろついていた視線が未だに戸惑っている様子の二人組を捉えた。交渉材料が残っていることに感謝しよう。思わず口元に獰猛な、黒い笑みが浮かんでくる。

 

「それじゃあ、あの二人組を倒したら、首領に紹介してもらえないかしら?」

「なっ……!?」

 

 馬怪人は、椿櫻が無雑作に指差した先の人物を見て瞠目する。緑と黒の戦士は自分をもっても倒しきれない敵と認識していたからだ。いきなりしゃしゃり出て来た子供かと見間違えるような女性に倒せる代物ではない。

 だが椿櫻が返事も聞かずに二色の戦士に向き直ったことで、一考してもいいかと考えていた。倒せれば馬怪人たちの組織の有利となる。倒せなければ最悪、馬怪人が捨て身の攻撃をお見舞いすればいいだけだ。少しでも疲弊していれば、馬怪人の勝てる確率も上がるだろう。

 瞬時にそれだけの計算を立てた馬怪人。死霊結社バイアリーラの怪人ホースパロスはその場に仁王立ちとなり、戦いの行方を見守ることにした。勿論第二ラウンドとかもなく、二人組の戦士があっさり蹴散らされてしまうとは、この時は想像もしていなかったが。

 

 ホースパロスが後ろに下がったまま女子学生が前に出てきたことで、緑と黒の戦士の困惑はますます酷くなった。

 椿櫻が何処からともなく取り出した扇子でビシッと指され、「さあ! 何処からでも掛かってきなさい!」と宣言されたことで状況はさらにおかしくなっている。

 どう見ても丸腰、しかも敵対理由もない。そのことを試しに告げてみると、相手は「それならこれでどう?」と五角形のエンブレムを取り出した。

 

「我こそは東国を支配する『秘密結社ミューガス』の外部協力員である!」

「ええ……」

「お嬢さん。君はあの怪人に脅されているんだ。その行為は君自身を危険に晒すだけではない。君の大事な両親や友人たちを巻き込む危険性をはらんでいる。ここで起こったことは忘れて、大人しく僕たちと一緒に帰ろう」

 

 普通にいい人たちであった。

 ただ椿櫻からすれば、今まで何を見ていたんだと憤慨するような状況だろう。

 今まで馬怪人と親しげに話していた姿は見ていなかったのかと言いたい。

 幾ら彼らでも東国の秘密結社の名前までは知らないため、椿櫻の口上にも半信半疑の対応を取らざるを得ない。

 いくら椿櫻が悪ぶっても、敵対しようとしてくれない正義の戦士に対して苛立つ。明確な形でこちらが悪だと認めさせるために、分かりやすい行為で知らしめることにした。

 

 自身の内の図書館(ビブリオ)より武器選択。実体化したそれを左手に顕現させる。

 それは手っ取り早くどういう用途に使う物か分からせるため、明確な銃の形をしていた。知っている者は知っているが、そちら方面に造詣がない者でも銃だと断言できるだろう。

 手っ取り早く言えばガン〇ムのビームライフルだ。

 それを取り回しできる最大サイズで左手に出現させた。全長三メートル。ノンスケールにも程がある。

 取り回しに不安を覚える大きさだが、機械であれば椿櫻の命令を従順に聞くために、引き金に指を掛ける必要などない。

 緑と黒の戦士は唐突なノイズと共に出現した、ビームライフルの形状に息を呑む。そして銃口が向けられている方向にあるものが何なのかと確認して目を剥き、絶叫を轟かせた。

 

「「や、やめろおおおおおおおおおっ!?!」」

 

 銃口は正確にソーラーパネルの管理棟を捉えていたからだ。

 不敵な笑みを湛えて戦士たちの方を見ながら、左腕一本で巨大な銃を構える女子学生。そんな姿を見せられてしまっては、緑と黒の戦士も椿櫻を敵と認めなくてはならなくなる。

 

「信じてくれましたか? 私がこちら側だということが」

「分かった。信じた。君と戦おう。だからその銃口は下ろしてくれ」

「彼らはこの戦いには関係ない筈だ。僕たちが君と戦う意志を見せればいいんだろう! 彼らは助けてくれ!」

 

 椿櫻は首を傾け「どーしよっかなあ」と思案した様子を見せると、案の定彼らは少しずつ動きを見せる。片方は椿櫻の意識を逸らすため、片方は彼女から銃を奪うため。

 

「人にものを頼むにはそれなりの誠意が必要ではありません?」

 

 彼らがギクリと固まり、ニヤニヤと笑う椿櫻を見て顔を見合わせる。こんなのに素直に反応するイイ人ぶりに少々落胆するしかない。

 もっとがむしゃらに、誠意を見せるよりも突撃するべきだろうと呆れる。

 素直に頭を下げようとする彼らに失望した椿櫻は「だが断る」と告げて、ビームライフルを撃った。

 銃口から飛び出したピンクのビームが一直線に管理棟を貫いて爆発する。

 届かない手を伸ばして力なく項垂れる二人の戦士はさて置いて、椿櫻は史実通りの音が鳴って発射されたビームライフルに眉をしかめた。

 

「これだけ大きな音が鳴ると隠密には向かないわねえ」

「「おまえええええええっ!!」」

「何よ?」

「何故撃った!? 何故殺した! 彼らに死ぬ理由はなかったはずだ!」

「貴方たちがさっさと私と戦う態度を見せなかったからよ」

「お前が責任転嫁をするなあああっ!」

 

 絶叫をお供に突っ込んできた緑の戦士の攻撃をひらりと躱した椿櫻は、持っていたビームライフルを回転しながら緑の戦士に叩きつけた。

 緑の戦士はその攻撃を避ける様子も見せず、無防備な体の側面で受け、くの字に折れ曲がってバッドで打ったボールのように数十メートルも吹き飛んでいく。

 普段の彼であれば防ぐか避けるかの選択が容易な攻撃だっただろう。だが彼の意思に反し、彼らの着用するプロテクターの動きは阻害されていたが。

 

「なっ!? ライノス!」

「ふーん。あっちはライノスって言うんだ。キミは何かな?」

「!?」

 

 滑るように懐に入り込めば黒の戦士から驚愕した感情が漏れ伝わってくる。

 大地を踏み抜き、震脚をも加わった威力で振るわれたビームライフルの銃口が、黒の戦士をアッパーカットで上空に吹き飛ばす。

 きりもみして落ちてきた黒の戦士は、立ち上がろうとしてあがいていた緑の戦士の前に落下して、苦痛の声を漏らす。

 

「バイソン!?」

「ふむ。あっちが牛でこっちが(サイ)か。動物シリーズ?」

「クッ、なんだこれは……? 体が重い?」

 

 ひらりふわりとスカートをはためかせ、椿櫻はビームライフルを二人の戦士に向け即座に撃った。あわや命中というところで体を回転させ、みっともなく地面を転がって致命傷を避ける二人。

 だが、地面に突き刺さったビームの着弾点が爆発したため、二人とも爆風で吹き飛ばされる。

 空中で成す術もなく爆風に翻弄されるライノスと呼ばれた戦士に対して、椿櫻は碌に照準を定めずに立て続けに撃ち込む。

 落下予測を計算して、などという面倒なことはしなくていい。椿櫻が当てろと言うのだから、ビームライフルはその要請に応えるだけである。

 ビームの軌道が途中で折れ曲がり、群れで狩りをする狼のようにライノスへと襲い掛かる。

 一発はライノスの右腕を肩から喰い千切り、一発はライノスの左足を膝から喰い千切る。

 更に一発はライノスの腹を喰い破り、最後の一発はライノスの頭を消し飛ばした。

 胴体に穴の開いた頭なし片腕なし片足なしの物言わぬ亡骸が、断末魔を上げる暇もなく落下した。

 爆風に翻弄されながらも態勢を整え、なんとか立ち上がったパイソンはその亡骸を見て絶句する。

 

「ら、ライノス!」

 

 足取りもおぼつかないままライノスの亡骸に近付こうとしたパイソンは、不意に轟いた音に即座に身を(ひるがえ)しピンクのビームから逃れた。

 顔を上げればパイソンに向ける銃口の向こうに無表情な椿櫻の顔がある。

 どうやら亡骸を抱え感傷に浸る間さえ与えてくれないらしい。

 

「この魔女が!」

 

 苦し紛れに放った侮蔑の言葉が、彼のこの世で最後の言葉となった。黒の戦士パイソンの胸を容赦なくビームが貫き、亡骸となったその身は大地に崩れ落ちる。

 

「感傷パートなんかいらないのよ」

 

 椿櫻はそう言い放つと、ビームライフルを後ろに投げ捨てる。

 彼女の手を離れた武装は瞬時に原子分解を起こし、一欠けらも残さず消えていった。

 無表情から一転して、外交用の笑顔を張り付けると、椿櫻はホースパロスに向き直る。なにやら動揺している怪人に向かってにっこり微笑む。

 

「これで貴方たちの結社に案内してくれるでしょう?」

「…………分かった。ついてくるがいい」

 

 少しの間はあったがホースパロスはくるりと身を翻すと、先導するように歩き始めた。

 漸く二つ目だよ、と思いつつも椿櫻はその後を追う。

 大地に転がる二つの亡骸は、もちろん椿櫻も怪人も一瞥(いちべつ)することもなかったのである。

 




 続き5年ぶりー!
 いや次も何時になるか分かりませんが、他に止まっている連載もあるのに何故これが優先されたのかは作者も分かりません(苦笑
 書くにあたって10年以上も前に書いた作品を読み返して、設定を掘り起こしたのは秘密です。
 今更誰が読むんですかねえ、この話。

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