東方閻鬼録   作:狛犬太郎

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こんにちは!狛犬太郎です!

今回で三十六話目となりました。

書いていたら話をきるタイミングが見えずなんだかんだで8000字を超えるという。

内容は見てのお楽しみで。

感想、評価、お気に入り登録、アドバイス等々お待ちしているのでよろしくお願いしますm(_ _)m

では今回も見ていっていただけると嬉しいです(^^)


想いよ………届け

案の定、是非曲直庁は安全だった。

 

怨霊が辺りに溢れかえっていることは無い。

 

しかし別のものが溢れかえっていた。

 

鬼「早いとここの事態をどうにかしてくれ!」

 

妖怪「そうだ!まだ色々やる事が残ってるんだ!!閻魔は何をやってるんだよ!!」

 

旧都の住民達。それがこぞって是非曲直庁に押しかけてきているのだ。

 

彼らを宥めている獄卒の方々も平静を装っているが

 

閻魔不在の今、相当焦っているに違いない。

 

小町「あちゃー………。こりゃあヒドイや。」

 

霊夢「こうして見てると妖怪も人間も大して変わらないわね。ちょっと何かあるとこうだから。」

 

パルスィ「まぁ確かにこれだけ怨霊が溢れかえってたら心配にもなるわね。前の事もあるし。」

 

厄介な事になったなぁ………。今は一秒も惜しい所だけど、今俺は代理閻魔だからこれを無視する訳にも行かない。

 

尚樹「遅れましてすみません!代理閻魔の鬼道です!皆さんとりあえず一旦落ち着いて下さい!」

 

妖怪「代理だぁ?大王様か四季様はどうしたんだ!?」

 

尚樹「大王様は体調が優れずお休みになられてます。映姫様は…………」

 

その時グッと後ろから引っ張られる………小町だ。

 

尚樹を引き寄せると小町は耳元で囁いた。

 

小町「新人君、大王様はともかく、四季様が連れ去られた事は言っちゃダメだよ。そんな事言ったらパニックは免れないからね。適当に誤魔化して。」

 

尚樹「………そうですね。了解です。」

 

えーごほん………。

 

尚樹「えー、映姫様は私情により出掛けておられます。」

 

鬼「俺達の事よりも自分の用事か!旧都がこんなに大変な事になってるのによ!」

 

周りの民衆も呆れたと言わんばかりに顔をしかめている。

 

数秒間を開けて尚樹はゆっくりと語り出した。

 

尚樹「映姫様はこの事態を解決すべく単独で調査に行きました。それが理由です。」

 

この言葉に民衆は一気に静まり返った。

 

尚樹「そして今回は異変解決のプロである博麗の巫女、博麗霊夢さんにも協力をお願いしてあります。ですから皆さん、どうか落ち着いて下さい。」

 

その瞬間大勢の視線が霊夢に集まり、霊夢もその多さに思わず「うわっ!」と、らしくない声を上げたが直ぐに持ち直し「か、感謝しなさいよね!私が手伝ってあげるんだから!」と言い放った。

 

まるでツンデレのセリフだがそれは置いておこう。

 

妖怪「それなら………まぁいいか。」

 

鬼「四季様も調査に行ってくれている。今回も博麗の巫女がいるならこの異変も直ぐに終わるだろう。」

 

賛同の声が段々と広がっていく。

 

なんとか納得して貰えたようだ。

 

尚樹「これから毛布、水、食料の配布を行うので、職員の指示に従って進んで下さい。」

 

伝えることを伝えると尚樹は仲間の元へ駆け寄った。

 

するとそこにはさっきまで居なかった人物がいた。

 

尚樹「あれ!?鬼灯様!? 」

 

鬼灯「お疲れ様です、鬼道さん。見事な演説でしたね。」

 

淡々と感想を述べる鬼灯。

 

尚樹「あ、ありがとうございます………じゃなくて!何故ここに!?オーストラリアに行ってたんじゃ………。」

 

鬼灯「えぇ、オーストラリアに行ってましたよ。ワラビーと触れ合っていましたよ。そんな幸福な時間をぶち壊すように大王から電話が掛かってきたんですよ。緊急事態だから帰って来いと。」

 

なんだろう、鬼灯様から凄くドス黒いオーラがはなたれてるんだけど………。

 

パルスィ「あの人凄い………。とんでもない妬みオーラが。なんて羨ましい妬ましいパルパルパル」

 

霊夢「あんたは何と張り合ってんのよ…………。」

 

小町「はい、落ち着け落ち着け〜。」

 

こんな状況だけど向こうは楽しそうだな……。

 

鬼灯「まぁ、こっちのことは任せてください。と言っても鬼道さんが大体の事をやってくれたんで後はアレをしばく位ですから………。」

 

さらっと恐ろしい言葉が聞こえた気がしたが冗談と受け取って置くべきだろう。いくら何でも閻魔大王をしばくなんてね………。

 

獄卒鬼「た、大変だぁぁぁ!!!」

その時、一人の鬼が駆け込んできた。

 

服装からして是非曲直庁の職員で間違いないだろう。

 

鬼灯「何事ですか!?」

 

獄卒鬼「たった今旧都にて悪霊が確認されました!!」

 

尚樹「悪霊!?本当ですか!?」

 

獄卒鬼「えぇ!間違いありません!」

 

悪霊、それは怨霊よりも強力な妖気を溜め込んでいるもので怨霊は人間に取り憑くのが限界だが、悪霊は力の強い妖怪等にも取り憑く厄介なもので、滅多にに現れるものでは無い。

 

そんなやつが現れた理由は一つしか無い。

 

尚樹「夜叉丸…………か………。」

 

そして獄卒鬼は最も重要な事を口にした。

 

獄卒鬼「報告によるともう既に何人か取り憑かれているらしく、その中の1人に星熊勇義がいて手がつけられない状態となっているようです!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、驚きを隠せなかった。

 

星熊勇義……………勇義さん!?あの勇義さんが!?

 

パルスィ「………そんな、そんな事あるわけないでしょ!!勇義よ!?あの星熊勇義が悪霊に取り憑かれるはずが無いわ!!」

 

信じられない、パルスィはそんな表情だ。

 

俺も信じたくないが、この獄卒鬼が嘘を言っているようにも思えない。

 

獄卒鬼「本当です。悪霊達は近くにいた鬼達に取り憑き、破壊の限りを尽くしながらここを目指して移動している様子です。」

 

この言葉を聞いたパルスィは一目散に飛び出していった。

 

霊夢「ちょ!?あんた、待ちなさい!!」

 

尚樹「パルスィさん!!」

 

小町「不味いな………このまま行ったらあの子何やらかすか分かったもんじゃないよ!」

 

尚樹「ともかく追いかけましょう!!勇義さんもそうだけどそれ以外にも悪霊がいるんだ!そんなのに鉢合わせたら…………。」

 

尚樹達は慌てて彼女の後を追いかけた。

 

―――――――――――――――――――――永遠亭……………

 

鈴仙「じゃお師匠様、これから里の方に行ってきます。」

 

永琳「はいはい、気を付けるのよー?近頃物騒だから。」

 

今日は薬代の集金日と薬の補充日である。それらの仕事は鈴仙の担当であるため、これから人里に向かう所であった。

 

鈴仙「さてと、出発~の前に………。」

 

背負ったばかりの荷物を下ろし中身を確認する。

 

何度かてゐのいたずらでとんでもない薬や、カエルやらが出てきたことがあったので毎度確認するようにしているのだ。

 

てゐ「そんな事しなくても何もしてないよ。」

 

鈴仙「そう言って気を許したらまたやるに決まってるでしょ?」

 

てゐ「そりゃ隙ありゃ狙っているからね!」

 

鈴仙「はぁ………。あんたって子は………。」

 

確認したが、荷物の中に特に変な物は入っていなかった。

 

しかしここで一安心とはいかない。

 

前は確認した事に安心して、荷物を背負い直している時にカエルを入れられていた。

 

だから背負っている時もてゐの事を確認しながら背負う。

 

つまらなそうにするてゐを尻目に玄関を出る。

 

………………ですー!

 

ん?何だろう?何か聞こえた気がしたけど…………。

 

……………へんですー!

 

いやいや、気のせいなんかじゃ無い。でもどこから?

 

辺りを見渡すも何も見当たらない。ただの竹林が広がるだけだ。

 

声が段々近づいて……………上!?

 

早苗「大変大変大変ですーーー!!!!」

 

鈴仙「ごふっ!?」

『親方ーー!!空から女の子が!!』何てレベルじゃない。

 

降りてきたというより突っ込んで来た。

 

躱す余裕もなく鳩尾に頭突きを思いっきり食らった。

 

そして勢い余って玄関を閉めようとしていたてゐを巻き込み、室内に転がり込むようにしてようやく止まった。

 

鈴仙「お、おおォォお…………。」

 

永琳「ちょっと何事!?」

 

早苗「あ、あれ?うわぁぁぁぁ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!大丈夫ですか!?」

 

鈴仙は腹を抱えてうずくまり、てゐは目を回していた。

 

永琳「そいつらの事はいいから何があったの!?」

 

鈴仙、てゐ『『これは酷い…………。』』

 

早苗「あ、はい!さっき異変が起きまして、地底から怨霊が大量発生したんです!」

 

永琳「怨霊?なんか前にも似たようなことなかったけ?あなたの所の神様絡みで。」

 

早苗「今回は違うんです!そもそも加奈子様、諏訪子様が起こした異変ならここにいませんよ!!」

 

永琳「………まぁそりゃそうよね。で、あなたはここに何用で?」

 

早苗「あぁいけない!本題がまだでした!怨霊が大量発生した時に地底からえっと地霊殿?の方々が博麗神社に避難してきまして、そしたらそこの主さんが大怪我してたので霊夢さんから医者を呼んで来いと………。」

 

すると永琳は腕を組み、何か考えているようだ。

 

永琳「あなた、さっき怨霊が大量発生したって言ってたわよね?」

 

早苗「え?あ、はい。言いましたけど?」

 

永琳「そう、分かったわ。鈴仙、いつまでそこで転がってるの!?早く起きて準備しなさい!」

 

鈴仙「うぅ………、お師匠様、準備とは?」

 

ふらふらとしながらもなんとか立ち上がる。

 

永琳「おそらくこれから怪我人病人が大量に出るわ。私はそれの処理で手が回らない。あんたがその子について行ってその地霊殿の方を治療してきなさい!」

 

前にもこんな事があったのに地底も大変ね…………。

 

ん?地底……………尚樹さん!!

 

すると永琳が近づいてきて耳元で小さく囁いた。、

永琳「普段会えないんだからこういう時にポイント稼がないでどうするのよ?さっさと治療して地底に行ってきなさいな。どうせ地上と地底の協定なんてこの騒ぎで有耶無耶でしょ?」

 

鈴仙「お師匠様…………分かりました!優曇華院・イナバ・鈴仙、この仕事お引き受けします!」

 

鈴仙は転がっていた荷物を拾い上げ、準備にとりかかった。

 

てゐ「さーて私はそろそろ……………」

 

永琳「あんたはこっちに来るのよ!はい、このメモの通りに薬と道具を持ってきなさい!」

 

てゐ「んひぃぃぃ!!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーー旧都………………

 

いつもなら喧騒混じりの賑やかな町並みが広がる旧都だったが今は凄惨な姿となってしまった。

 

旧地獄街道を通る妖怪の姿は無く、所々建物や設備が破壊され、まるでゴーストタウンのような状態である。

ただ、どこかからともなく破壊音が聞こえる。

 

尚樹「クソっ!見失った!」

 

小町「まだそう遠くには行ってないはずだよ!」

 

辺りを見渡すが見当たらない。

 

その時尚樹はある事を思いついた。

 

尚樹「そうだ!鈴!」

 

ポケットの中を探り、一つの鈴を取り出す。

 

霊夢「何?その鈴は?」

 

不思議そうに鈴を見つめる霊夢。

 

場所までの案内、探し物、何度となくお世話になって来たアイテムだ。

 

尚樹「これは『道しるべの鈴』って物でパルスィさんからもらった超便利道具です。行きたい所の名前を頭に浮かべてその場でぐるっと一周、すると行く方角に鈴がなるという物で………。」

 

尚樹はパルスィの現在地を頭に浮かべてぐるっと一周する。

 

すると鈴は北東の方角で音が鳴った。

 

尚樹「………こっちですね。」

 

霊夢「そうと判ればさっさと行くわよ!」

 

急いでその方角へ向けて走り出す。

 

200メートルほど走った所で再度鈴を使用。

 

今度は西。

 

そこから百メートルほど走るとよく見た事のある場所に出た。

 

尚樹「ここは………パルスィさんがいつもいる橋か。」

 

鈴を使おうとポケットに手を入れたところで小町から呼ばれる。

 

小町「新人君見つけたよ!橋の向こう、ほら!」

 

慌てて指さした方を見ると悪霊に取り憑かれた勇儀の目を覚まさせようと必死に語りかけるパルスィの姿があった。

 

パルスィ「勇儀!私よ!パルスィよ!お願い目を覚まして!」

 

しかし、勇儀の耳には届いていないようでパルスィにゆっくりと近づいている。

 

尚樹「パルスィさん!!」

 

霊夢「不味い!早く助けない……って、うわっ!?」

 

尚樹達の頭上を飛び越え進路を塞ぐかのように一体の鬼が現れた。どうやら悪霊に取り憑かれた鬼らしい。

 

辺りを見渡せば、何処からともなく現れた怨霊が尚樹達を取り囲んでいた。

 

尚樹「クッソ!こんな時にお前らの相手なんかしてる暇はねぇんだよ!!」

 

尚樹は鬼道丸を引き抜き構えた、とその時、白い何かが鬼の後ろを高速で通過した。その直後鬼は糸の切れた人形のように倒れた。

 

あの攻撃はまさかとは思っていたがこんな事が出来る知り合いは一人しかいない。

 

妖夢「…………私に斬れない物はあんまり無い!」

 

尚樹「妖夢さん!!」

 

妖夢は襲いかかって来る怨霊を次々に切り倒していく。

 

妖夢「こちらは任せて鬼道さんは早くあの人の所へ行ってください!!」

 

霊夢「あそこまでの道は私が開く!3秒後突っ込みなさい!!」

 

尚樹「お願いします!」

 

カウント三、二、一

 

霊夢「霊符『夢想封印』!!」

 

霊夢の夢想封印が発動した途端進路を塞いでいた怨霊が吹き飛んだ。

 

勇儀は今まさにパルスィに腕を振り下ろそうとしている。

 

間に合えぇぇぇぇーーー!!!

 

直後、轟音が辺りに響き渡った。

 

小町「新人君!!」

 

砂埃が立ち込めてどうなったのか確認出来ない。

 

次の瞬間、砂埃が吹き飛び一人の少年が姿を現す。

 

片手に刀を、もう片手にはパルスィを抱きかかえて。

 

パルスィ「…………尚………樹。」

 

ゆっくりとパルスィを地面に下ろす。

 

尚樹「パルスィさん…………あんまり無茶は良くないですよ?」

 

尚樹は優しく微笑む。

 

パルスィ「…………そうね、ごめんなさい。でもあなたにだけはその言葉を言われたくないわ。こんな無茶をして………。無茶は良くないわよ?」

 

尚樹「善処します。」

 

パルスィ「…………妬ましいわ。」

 

パルスィはプイっとそっぽむいてしまう。

 

さてと…………

 

尚樹「勇儀さん、お待たせしました。前みたいに稽古お願いします…………。」

 

尚樹は鬼道丸を中段に構える。

 

悪霊は勇儀の首辺りにしがみつくようにして取り憑いている。

 

取り憑かれた勇儀さんを助けるには悪霊を斬ればそれでいいのだが、恐らく勇儀さんを相手にしてそんな簡単には行かないだろう。

 

尚樹の事を敵と認識した勇儀は凄まじい勢いで突っ込んで来た。

 

以前稽古の時と比べても断然こちらの方が凄い。まるで最高速度のダンプカーを相手にしているような圧力

 

これが勇儀さんの本気という事だろう。

 

相手が本気ならこちらも本気で返すのが筋ってものだ。

 

全力でやらせてもらおう!

 

尚樹は普段、突っ込んで来た敵と戦うなら回避しつつ攻撃する攻防一体の型で戦うのだが、勇儀相手に小細工は無意味と稽古の時に思い知らされているので、敢えてこちらも突っ込んで行く。

 

距離およそ2メートル、勇儀は尚樹を殴り飛ばすために腕を振り上げる。

 

その瞬間、一気にスライディング。

 

勇儀のパンチを刀で流しつつ、股下を潜る様に滑り込む。

 

そして通過したらそのまま体を捻って反転、がら空きの背中に大量の弾幕を浴びせる。

 

結構な弾幕を当てたが、そんな事お構い無しにから裏拳が飛んできた。

 

なんとか刀でガードし、直撃は免れたが威力を殺しきれず吹っ飛ばされる。

 

尚樹「ぐおっ!!」

 

尚樹は吹っ飛ばされつつもなんとか空中で体勢を立て直すが驚愕に目を見張った。

 

勇儀が裏拳直後のはずなのに既にこちらに向かって突撃して来てるではないか。

 

なんつー並外れた身体能力なんだ鬼って言うのは………。

 

尚樹「鬼道流ニノ型、鬼斬波!!」

 

地面に向かって鬼斬波を繰り出す。

 

あれだけ凄まじい勢いなら体勢を維持するのも大変だろう。

 

だからこそ、敢えてそこを狙った。

 

案の定狙いは上手く行き勇儀はバランスを崩し、尚樹を狙ったパンチは少し手前にずれた。

 

バランスを崩した今がチャンス!!

 

これを好機と見た尚樹は攻撃に出ようとする。

 

しかし勇儀の身体能力は尚樹の予想を遥かに超えていた。

 

即座に逆足を踏み出し、転倒を回避。そのまま腕を伸ばしラリアット。

 

これは尚樹も回避出来ず、地面に叩きつけられた。

 

口の中に血の味が広がっていく。

 

少しフラフラする、恐らく脳震盪が起きているのだろう。

だがそんなの気にしていられない。

 

その後も暫く一進一退の攻防が続いた。

 

尚樹は度重なる攻撃を受けボロボロに、一方勇儀の方も浅い切り傷や弾幕によるダメージが目に見えてわかるようになった。

 

そろそろお互いが限界と判断、恐らくこれがラストアタックになる。

 

勇儀はしっかりと足を踏ん張り、突撃の体勢をとる。

 

一方尚樹は刀を鞘に収め、腰を少し落とす。

 

その場に静寂が訪れる。まるでそこだけ時が止まったかのように。

 

勇儀さん、あなたは強い。でもあなたを倒さない限りアイツを倒すことは出来ない。

 

だから俺はあなたを超える!!

 

再び時が動き出す。二人は放たれた弾丸の如く飛び出していった。

 

鬼道流最終奥義、「幻想霞斬り」!!

 

しかし、尚樹が攻撃するより勇儀の方が速く尚樹に当たった、ように見えた。

 

殴られた尚樹が突然ブレ、霧のように消えていった。

 

見ていただれもがそれを理解出来なかった。

 

何故なら既に少年は勇儀背後にいるのだから。

尚樹「…………勇儀さん、俺の勝ちだ。」

 

いつの間にか斬られた悪霊が霧散していく。

 

そして勇儀は前のめりに倒れた。

 

鬼道流最終奥義、「幻想霞斬り」これは一撃必殺の技。

 

妖力を放出し、相手にあたかもそこに自分が居るように錯覚させる。

 

本体は神速の居合切りで攻撃する。

 

これは尚樹が師範から受け継いだ最後の技だった。

 

そして尚樹もそこで力尽きたのか倒れ込んだ。

 

勇儀「……………尚樹、アンタ強くなったねぇ。」

 

勇儀さんはそうポツリと呟いた。

 

尚樹「勇儀さんこそ馬鹿みたいに強いじゃないですか………。」

 

勇儀「バカとは失礼だねバカとは。」

 

尚樹「だって勇儀さん、途中から意識あったでしょ?」

 

図星を付かれたか苦笑いする勇儀さん 。

 

勇儀「ありゃ?バレてたか。」

 

尚樹「そりゃあんだけ楽しそうに戦ってれば気付きますよ。」

 

勇儀「それもそうか………。最初は鬼殺ごろしっていう酒飲んで酔い潰れちまってから記憶がなくってよ、いつの間にかお前と戦ってて楽しくなってな。なんか悪霊がまとわりついてたけど、そんな事でこんなに楽しいことを辞めるのは御免だよ。」

 

尚樹「全くその通りですね。」

 

ここで尚樹の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

…………………ここは?

 

体中がだるさを訴え、節々が痛い。

 

あぁそうか…………風邪、ひいてたんだっけ………。

 

見慣れた天井、いつも使ってる布団、お気に入りの枕。

 

………………だけど何か足りない。

 

この家にはもう1人住人がいたはずだ。

 

優しげな少年。

 

一見頼りなそさうに見えてやる時にはやる。

 

以外におっちょこちょいで目が離せない。

 

誰かを助けるために自らを危険に晒す危なっかしさ。

 

そして、人の気持ちに気づかない鈍感な少年。

 

そんな少年がここにはいるはずだ。

 

ほら、廊下を歩く足音がする。

 

尚樹『映姫様、体の方はどうですか?』

 

そう言って彼は私に体温計を渡してくれた。

 

なんだ…………やっぱりいるじゃない。

 

映姫「だいぶ良くなりましたよ。これなら明日の仕事には戻れそうです。」

 

唐突に尚樹が私のおでこに手を当ててきた。

 

尚樹『そうやって無理するから風邪が長引くんですよ。やっぱりまだ熱いですよ?』

 

映姫「きゅ、急にそんな事するからですよ!!」

 

尚樹『どうしたんですか突然!?ほら、また熱くなってますよ!』

 

映姫「それはあなたのせいです!大丈夫ですから早く手を退けて下さい !」

 

全く…………風邪が治ったら説教ですね。

 

尚樹『38度………最初の頃よりはマシですけど明日は無理ですね。』

 

映姫「大丈夫です、明日には治ってますから。」

 

尚樹『はいはい、分かりました。とりあえず今は休んで下さい。薬はここに置いておきますから、飲んでくださいね。』

 

そう言うと尚樹は立ち上がり部屋を出ていこうとする。

 

もう少し彼と一緒にいたい。ただそれだけ………。

 

映姫「あ、尚樹…………もう少しここにいて下さい。」

 

すると尚樹は悲しげな笑みを浮かべながら足を止めた。

 

尚樹『……ごめんなさい映姫様、それは出来ません。』

 

尚樹が部屋から出ていくだけなのに本当に居なくなってしまう気がした。思わず起き上がりズボンを掴み、引き止める。

 

映姫「…………お願いです!少し、ほんの少しでいいですから!」

 

尚樹『………俺もそうしたいです。でも駄目なんです。行かないと………。』

 

尚樹の苦しそうな笑顔が心に深く突き刺さる。

 

失いたくない、居なくならないで欲しい。

 

気が付けば尚樹にしがみついていた。

 

映姫「お願い…………行かないで………。」

 

目尻には涙が溢れこぼれ落ちていく。

 

すると尚樹に優しく抱きしめられた。

 

暖かくて、なんだか安心する。

 

尚樹『映姫様、俺の事信用してますか?』

 

映姫「当たり前………じゃないですか!」

 

勿論そうだ。彼を信用しないわけがない。

 

私の中でどんな人よりも信頼がある。そんな人を信用しないはず無い。

 

尚樹『なら、俺の事を信じて下さい。俺は必ずあなたの元に行きますから。』

 

映姫「………本当ですか?」

 

尚樹『本当ですよ。だって約束したじゃないですか。

映姫様を必ず守るって。しかも嘘ついたら俺は映姫様に裁かれて地獄行きです。』

 

忘れもしないあの夜の約束、彼が出来ると言うなら私はそれを信じる。それが今の私に出来る事ならば………。

 

映姫「………分かりました。私はあなたを信じて待ちましょう。ですが知っての通り、私は嘘が嫌いです。嘘をついたなら私が地獄行きを宣告してあげますから覚悟しなさい!………必ず、必ず来てくださいね。」

 

今なら大丈夫、私は待っていられる。あなたの温もりがまだあるから………。

 

尚樹『………勿論、必ず行きます。』

 

耳元から尚樹の声が途切れた途端、フッと彼の感触は無くなりそのまま前のめりに倒れていく。

 

体は動かない。いや、動かさなくてもいいや。

 

少しでも彼の温もりを保っていたいから…………。

 

そこで意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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