血にまみれた薄暗い部屋に人の形をした物体が4つある。その全ては両の目をくりぬかれており、体はむごたらしく傷つけられていた。
4人のうち3人はすでにこと切れていたが、1人はまだわずかに息があった。
――くやしい。悲しい。辛い。
俺の愛する人を、子供達を、仲間たちを、守れなかったことが。
そして憎い。あの悪を具現したかのような連中、蜘蛛どものことがただひたすら憎い。
よくも俺の目の前で子供達を。わざわざ見せつけるように。愛する人も。あんな汚いもので。
許さない。絶対に許さない。
復讐だ。復讐してやるぞ。やつらには地獄のような苦しみを味わわせてやる。そして絶望の果てに殺してやるんだ。いや、一度殺すくらいじゃ気が済まない。何度でも殺してやるんだ。
このままじゃ、死んでも死にきれない――
男の心臓が止まると共に、念能力が発動した。念の中心は最後に死んだ男。強力な死者の念。しかも、その能力には家族全員の思いが込められ、より強力な念の発動を可能にしていた。
念能力の名前は旅団狩りRPG。男の子供がごっこ遊びを好んでいたことが影響しているのだと思われる。
能力は憑依、転生。
憑依した場合も転生した場合も記憶は完全に引き継がれる。
憑依すればその人物の能力を使える。その人物の記憶をどの程度得られるかは不明。
旅団を倒し、満足すれば次の人物へと憑依、転生する。
だんだん難易度は上がって行く。はじめはとても簡単。
満足しないままに死ねばその人物になった時点からやり直し。
というわけで、旅団狩りRPGスタート
男は気付いた。なぜか自分が生きていることに。そして、知らない場所で、知らない男の姿になっていることに。
いや、なんとなく分かる。なぜ、自分がこうなっているのか。
それは、自分がそう望んだからだ。旅団に復讐するため、己の復活を望んだ。それが功を成したのだろう。
次に男は気付く。知らない記憶があることに。
しかし、この記憶が何であるかもすぐに分かった。
それは、己が憑依した男の記憶。人気漫画家、とある週刊誌で連載したり休載したりしている男の記憶だ。しかも、そのマンガの内容は男がいた世界に酷似していた。
「まさか、ありえるのかそんなことが」
思わず声に出してしまったのも仕方のないことだろう。
なんせ自分のいた世界が二次元の、しかも創作物として描かれているのだから。
男は自分という存在がなんなのか分からなくなった。しかし、幸運なことに、この漫画家の男の記憶に『我考えるゆえに我あり。思考こそが自分の存在を確信させる唯一のものだ』という考え方があったため、これにならい自分の存在も確かなものだと確信するに至った。
また、時空を超えて、世界を超えて、世の中には無限の平行世界というものが存在し、ある世界での小説に酷似する世界が存在するとか、小説の通りに動く世界も存在するという仮説もこれまた漫画家の記憶にあり、それが正しいようだと認識した。
ということで、自分が元いた世界は、この漫画家が描くままに動く世界である可能性が高いという結論を出した。
全ては己の思い通り、さじ加減次第。神にでもなったようだ。創造主であることにはちがいない。
そう考えるに至った時、男の口端が吊り上った。
やってやる。旅団をできる限り苦しめ、辱めた上で殺してやる。
男は執筆をはじめた。止まることを知らない筆は進んで行く。
――団長のクロロはヒソカとの戦いの最中に大事なところに攻撃を受け、悶絶してしまう。ヒソカはその隙に落ちていた毒付きナイフでクロロを刺す。クロロは解毒しようとするが、その薬が入ったカプセルをヒソカはバンジーガムで奪う。
急所の痛みと毒に苦しむクロロ。もう戦闘はできそうにない。
興味の失せたヒソカはどこかへ消えた。
一人残されたクロロ。手刀で毒の付いた部位を切り落とし、次いで止血したが、それでもまだ毒がきつい。下腹部の痛みもある。
クロロは病院を探して近くの街へ歩き始めた。しかし、急所のダメージは重く、毒による麻痺もあって、途中で尿を漏らしてしまう。
臭い匂いが漂う。しかし、そんなのが気にならないほどにダメージと毒の方が深刻だ。早く手当しなければ危ない。
そうして、痛みと毒に顔を歪めながらも、超人的な体力のおかげで大きい病院のある街にたどり着くことができた。
「うわっ。あいつくせえ。もらしてやがる!」
「本当だ! 何あの人。大人のくせに」
それなりに大きい街なので人も多くいる。クロロの醜態を見た子供たちなどは遠慮なしに嘲笑う。
しかし、クロロはそんなもの無視して突き進む。
あんなやつら相手にしている場合ではないといった感じだ。
しかし、そう無視してばかりもいられない。
「お前、幻影旅団のクロロ=ルシルフルだな」
念能力者。それも、かなりの実力者だ。
その男が自分の手配書を持って厳しい表情でこの場にいる。つまり、自分を捉えるか、殺そうということだろう。おそらくは名のあるブラックリストハンターだ。
そう考えたクロロは黙って己の念能力を発動した。片手に本を持ち、もう片手にマントをひらつかせる。かつてヨークシンで奪った能力だ。問答無用で相手を包み込むという攻撃力も魅力的だが、意味深なマントの動きは時間稼ぎにも目くらましにも使える。
クロロの狙い通り相手の男は攻撃を躊躇していた。その隙に興奮剤を飲んで麻痺を一時的にどうにかしようとポケットに手を伸ばす。
しかし、クロロが興奮剤を手に取る前に、後頭部に強い衝撃が走った。
油断。クロロはもう一人自分を狙う人間がいたことに気付かなかった。
マントで隠されたのは相手の視界だけではない。自分の視界も狭めている。だから、相手が何をしているかを知るために、クロロはいつも以上に目の前の相手に意識を傾けていた。
そして、痛みと毒で判断力も思考スピードも落ちていたのだ。
これらが合わさって、普段は避けられる不意打ちをまともに喰らってしまった。
防御も間に合っておらず、一撃で意識は手放される。
「うわー、くっせー」
意識を失ったクロロは、今度は大きい方も出してしまった。
後頭部を蹴った時の音が大きかったこともあって、多くの観衆が何事かと押し寄せてきている。
大人も子供もみんながクロロをやっつけたハンターを賞賛し、臭い汚い犯罪者クロロを嘲笑う。
クロロに石を投げつける子供もたくさんいる。いや、中には大人もいて、その数は増え続ける。
そうして、罵倒と石が飛び交う街中で、クロロはあの世へ旅立った――
「あはは。なかなかのできだね。そんで、クロロが死んで、ヒソカやブラックリストハンターに弔い合戦を挑んだ他の旅団は返り討ちに遭って、最終的にはバラで全滅だな。ああ、女の旅団は犯してからだね。そうだ。18禁でリメイク作って犯しまくろう。ははは」
その後も、ナニカによって幻影旅団に殺された人たちが蘇るとか、生き返った人達によって旅団員がズタズタにされるとか、ナニカの疲労回復に旅団が犠牲になるとか、気のすむまで旅団を苦しめ旅団によって苦しめられた人を救う話を書いて行った。
そうやって描いていって満足したころ、今度はある意味当然な不満が出てくる。
これは、あくまで創作世界の出来事。今度は己の手で、しっかりとそれを認識しながら復讐を成し遂げたい。
その思いは届いたようで、再び念能力が発動した。
これにて旅団討伐の一番簡単な物語、それもプロローグのようなものは終了。次からは実際に己の手で旅団をやっつけることとなる。