闘技場に来てから1か月ほど経過した。
ユピーは100階前後を行き来しお金を集め、他のメンバーはネット検索や能力を使って幻影旅団やキメラアントの情報を集めた。
旅団に関してはほとんど情報は手に入らなかったが、キメラアントについてはそれなりにいい情報が見つかった。
集めた情報によると、メルエム達が闘技場に着いて1週間経ったあたりからキメラアントがNGL外の各地で見られるようになったらしい。
非常に凶暴で、被害者、死者も多数出ていると報告されていた。そして、プロハンターが中心になって討伐部隊が組まれ、派遣されているとのことだ。
女王やメルエムについての情報は無かった。
おそらく意図的に隠しているのだろう。メルエム達はそう考えた。
隠す理由は、メルエムについては、無暗に民衆を怖がらせて混乱させないためというのが一番だろう。不安は現体制への不満となり、無用な衝突につながる。他にも、メルエム陣営に情報を与えないためという理由もあるかもしれない。まあ偽情報で騙すこともできるから、広く発信される情報にはあまり意味は無いが。
女王について公表しないのは、黒い裏話を隠すためという可能性がある。黒い裏話とはつまり、キメラアントの人体実験(人じゃないけど)のことである。特に兵器利用についてメルエム達は懸念している。
どのような仕組みになっているかは分からないが、キメラアントの兵隊は王か女王に従順だ。だから、この仕組みを活かして人に従うキメラアントを作ることはできないかと、そう考える人間は確実にいるだろう。もしそれが成功すれば、人間より強靭で従順な兵隊を手に入れることができる。権力者達が好きそうなことだ。
キメラアントを兵器化する以外でも、キメラアントの生命力に注目して不老不死の研究をしたり、生前の記憶が残ることに注目して転生について研究したり、細胞移植で強化人間を作ろうとしたり、いろいろ考えられる。
これらは一般的な倫理に反することだが、それでもやる人間はやるだろう。メルエム達はそう考えている。ピトーやプフだって王のためとあらば人間の脳をいじくるのだ。幻影旅団のように、楽しいからという理由だけで人を襲う連中もいる。倫理などあてにはならない。
とは言え、これらが行われていない可能性もあるにはある。ネテロが上に誤魔化して伝えるとか、ゴンが全て丸く収めるとか、生き返ったカイトが巧みに解決するとか、そもそも女王は殺して処分したとか、これらの可能性を鑑みると最悪の状況になる確率は低そうではある。
しかし、ここは一応最悪の可能性を考えておくのだ。女王が捕えられていて、実験に使われている可能性を。最強の兵が生まれている可能性を。
ちなみに、キメラアント達が拡散している情報に、ゴンやカイトの性格を合わせて考えると、現在女王は死んでいて、権力者達は師団長あたりを利用しての人体実験を行おうとしているだろうと、それが一番ありえそうだとメルエム達は見ている。
ともかく、メルエム達がやることにさして変わりは無く、情報を集めたりお金を集めたり遊んだり念を鍛えたりしていた。
そんなある日のこと。
現在は夜の8時。場所はホテルの一室。例の如く例のメンバーで集まってグダグダしている。
「んで、もし最強の兵達が欲にまみれた権力者の手に渡ったとして、どうするつもりなんだ? なんか血生臭い状況になりそうだけど」
メルエムに問いかけるカメレオン。
最近はこの手の話題が多い。
「もちろん放ってはおかないさ。抵抗する。安全第一だがな」
「でもバラとかいう爆弾もあるみたいだし、それプラス護衛団みたいなやつらを抱えられたらさすがにきつくねえか?」
メルエムが答えると、次はタコが話しかけた。
「……最終手段としては、キメラアントの王を量産するというのもある。そうすれば戦力的にも勝てるはずだ。一番になりたい権力者は王を作ろうとしないだろうから」
気まずそうに答えるメルエム。
前世では考えられないような内容の話だ。カメレオンやタコは固まってしまった。割とドライなヒナやピトーも強く反応している。
ちなみに、キメラアントの王はキメラアントの王か女王からしか生まれない。王は胎生、他は卵生だ。
「量産ってお前、子作りか? そんな理由で。……お前の倫理観も大概だな」
と、冷静になってきたカメレオンがツッコミを入れる。
「まあ女王を殺さなかったことは俺のミスと言えるかもしれないからな。最悪の状態になった場合はそのくらいのことはするさ」
「別に罰でもないってのがミソだよな」
瞬間。タコが発言すると同時に、場は静まり返った。
見たことがあるような光景だ。前回と大きく異なるのは、今回はピトーとヒナがタコに怒りの視線を向けていることだろう。
「ご、ごめん」
焦ってあやまるタコだが、場は動かない。
カメレオンは知らんぷり。メルエムはしんみりした顔。ピトーとヒナは怒っている。
しかし、誰もかれも黙したままだ。
ただ言いようのない威圧感が、タコを圧迫している。
「前世には嫁がいたからな。俺は遊び好きなおっさんだったが、一線は越さないように気を付けていたんだよ。その嫁のことを、愛していたから」
しんみりとそう語るメルエム。
しかし、許しの言葉を言ったわけではないため、やはり場は動かない。
「悪かった。俺が悪かったんだ。許してくれメルエム。いや、メルエムさま」
タコは目に涙を浮かべて謝る。これも見た時がある行動だ。
「まあでも、イカルゴの言う通り、多くの女性に囲まれるのがうれしくないわけでもないからな。今さら死んだ嫁さんへの忠義もないだろうし。だから、許すも何も無いな。お前は別に悪くないさ」
気にするな、そう言うメルエムはしかし、しんみりした顔のままだ。
この後、タコが何と言おうがメルエムが表情を変えることは無く、女性陣はずっとタコをにらみ続けていた。
しばらくして、タコは涙を流しながら土下座して謝り、それ以降は一言もしゃべらなかった。
カカロットに転生とネタ被り。だけどこっちはあくまで仮定の話。