キルアが手伝ってほしいこととは、アルカの救出だった。
そもそも彼らがここ、ククルーマウンテン付近に来ていた理由も、アルカ救出のためだった。
「分厚い壁がいくつもあって、ミルキを脅すかゴンのジャンケングーで壊すかって思っていたんだけど、トガーシならわけなく壊せるのかな?」
「まあわけないだろうな」
「毒、催眠ガスの類は?」
「普通の人よりはかなり強いが、限度はあるぞ。試したことはないがな」
「じゃあやっぱりミルキを脅す方がいいか。道は一方通行だから、そうしないと帰りはガス満点になるだろうからね」
「と言っても息は長く持つぞ。息さえ止めておけば、ガスも余裕だろう」
「親父達と戦いながら息せずにいられるの?」
「たぶんな」
それなりに自信を持って言うメルエム。しかし、キルアは信じられないと言った感じだ。
「私もたぶん。いけると思う」
と、ここでカルトが発言した。
「バカ言えよ。お前だって親父たちの強さを知ってるだろ?」
「ランランルーが協力してくれれば確実に。いなくてもトガーシならなんとかできると思う」
「ランランルー?」
と、キルアとゴンが疑問を口にしたとほぼ同時に、メルエムがちょちょいと手のひらで合図した。
そうすると、ぬうっと、ユピーが出てきた。
「うわっ。びっくりした」
「この人がランランルーなの?」
「そうだよ」
メルエムが言うとユピーはこくりとうなずいた。
「無口な人なんだ」
「ふーん」
「強いの?」
「俺よりは弱いけど、それなりに。なあランランルー、オーラを見せてやりな」
再びこくりとうなずくユピー。
そして、言われた通りにオーラを出して見せた。
「うわっ。すっげえ。ゴリラババアみたいなオーラだ」
「レイザーより、たくましい」
感想を述べるキルアとゴン。
キルアはメルエムが父親相手に息をせず逃げ切れると信じ切れたわけではないが、このメンバーならいけそうだと思った。
結局、作戦はキルアとカルトがミルキを脅してシェルターを開けさせ、その間にメルエム達がパパッとアルカを救出することとなった。
もしミルキがシェルターを開けられなかった場合は、メルエムとゴンとユピーが力ずくで扉をこじ開けることになっている。
そして作戦当日。
夜は暗殺一家のゾルディック家に分があるため、作戦決行は昼だ。正確には1時30分ジャスト。
キルアの連れということでゾルディックの土地の内部に入ったメルエム達は、許されたぎりぎりのラインで約束の時間まで待った。
そして、とうとう時計の針が1時30分を指した。作戦決行だ。
オーラを足に溜めたメルエム達は、一直線にキルアに指示された場所に跳ぶ。
「は、速い……」
呆れて思わず声が出てしまうゴン。
それほどまでに、メルエムは速かった。というより、ほとんど見えなかった。一瞬で点になった。ユピーですら今はもうゴンのかなり前に進んでいるというのに。そのユピーとも次元が違っていた。
キルアに指示された場所に来たメルエムは、小さな円(と言っても半径30メートルほど)を展開してシェルターへの入り口を探した。
そうして、すぐに入口を見つけると、円を閉じ、急いで中に入った。
扉は一つだけ開いていたが、他は開いていなかった。
迷う時間も惜しいので、メルエムは手にオーラを集め、行く手を阻む壁を切り裂いた。
スパスパと容易く切れる壁。やはり全く問題ない。
しかし、ここで警報が鳴り響く。これで侵入したことがバレた。ここからはもう油断できない。
予想通り、シェルター内には催眠ガスのようなものが噴出された。ここからは息も止めなくてはいけない。
それに、視界も悪くなったから、円を使いながらの移動をするべきだろう。もっとも、これはメルエムの得意とすることだから問題ないが。
その後もスパスパと壁を切り裂いていくメルエム。流れるように進み、警備の連中が来る前にアルカの部屋に到着した。
扉を開くとそこは人形の部屋。その人形に囲まれて、これまた人形のようにかわいい女の子がそこにいた。
「来てくれ。キルアが待っている」
「えっ! 何?」
それだけ言うとメルエムは急いでアルカを背にかついだ。
そして、何か言いたげなアルカを無視して、急いで脱出する。
が、予想通り、そこには行く手を阻む者達が来ていた。
シェルターの一本道の奥に、2人の達人がいる。
キルアの父、シルバ・ゾルディックと、兄のイルミ・ゾルディックだ。
2人とも完全な戦闘モードで目の前のメルエムに集中している。
メルエムが背中におぶるアルカごと殺さんという勢いだ。
メルエムは少し、やばいかなとも思った。
自分一人なら平気だが、背中にいるアルカのことを考えると、そこまで軽快に動くことはできない。攻撃も、自分は受けても平気だが、その衝撃がアルカに伝わるとまずいかもしれない。
などと考えていると、イルミが針を構えた。しかし、今にも投げるというところで、その腕は止まった。
地面が揺れたのだ。それも、大音量と共に。しかも、その揺れを起こした原因であろう莫大なオーラが地下にまで届いた。
ユピーが暴れているのだろう。一人理解できたメルエムは、ゾルディック2人がほんの一瞬見せた隙を見逃さなかった。
トン、っと、ひとっ跳び。
イルミの真横を通り過ぎる。
「なに!?」
「速い!」
一瞬早く反応したシルバが急いで追いかけるが、一度抜かれるとメルエムには全く追いつけなかった。
その頃、ゾルディック家の屋敷近くの庭では、ユピーと執事達が盛大な戦いを繰り広げていた。
と言っても、ユピーは隙の大きな技を繰り出すばかりで、攻撃を当てる気は無い。彼の目的は時間稼ぎで、出来る限り執事を殺さないように命じられているのだ。
「効かんぞオラアアアアアア!!!!!!」
四方八方から飛んでくる弾丸をはじきながら、地を砕き威嚇する。
「ちっ。硬いな」
コインを飛ばしている男が舌打ちする。
「退いてな!」
と、ここで前面が人の顔のような形をした戦闘機が突っ込んだ。
「ぐあっ」
あたりに轟音が響き渡る。
ユピーはもろに戦闘機に直撃してしまった。80メートルほど吹っ飛び、30メートルほど地面を転がった。
「きゃあ!」
特攻を仕掛けた方も無事ではない。
乗っていた女の子はぶつかった衝撃で放り出され、地面に叩き付けられそうになる。
「しっかりおし!」
が、地面にぶつかる前に、いかつくて大きなおばさんに助けられた。
おばさんは戦闘機に変化していた念能力者であり、この人もぶつかった衝撃はもろに受けている。それを示すように頭から血を流しているのだが、本人は至って平気なようである。頼りになるおばさんだ。
「痛えじゃねえか」
と、土煙の中から現れるユピー。
その姿を見て、執事達は驚愕した。
ほとんどダメージを受けていないのだ。血は流れているが、口を少し切ったという程度だった。
その頃、ユピーが戦っている場所から500メートルほど離れた草むら。
今最もピンチになっている男がいた。
「はあ、はあ」
息を切らせているのは黒髪ツンツン頭の少年。ゴンだ。
「ウオオーーーーー!」
「わあっ!」
襲い来る巨大な化け犬の攻撃を避けるゴン。
「くっ!」
しかし、避けたところへ謎の針が飛んでくるのだ。
確実に誰かいる。しかし、ゴンはその姿を見つけることができない。相当の手だれなのだろう。
そして、今はギリギリ躱せているが、もうそろそろ動きも鈍くなってきている。次避けられるかは分からない。というより、相手はわざと当てないように加減しているようにすら思えてくる。
「ウオオーーーーー!」
再び犬が襲いかかってきた。しかし、その攻撃がゴンに届くことは無かった。
「キャイーーン」
突然、犬が体をひねり吹き飛んだのだ。
それは何かに殴られたような飛び方だった。しかし、ゴンが辺りを見回しても何の気配も無い。
と、一瞬、集中力が切れた瞬間。再び針が飛んできた。
「痛っ」
そして、少しだけかすってしまった。脇腹だ。
まずい、とゴンは思った。
ゾルディック家のやり方はキルアに聞いている。きっと、先ほどかすった針も毒が塗られているのだ。
「くっ」
ゴンは手にオーラを込めて手刀を作ると、急いで針が当たった部分の肉をえぐった。
血が少々流れたが、治癒の強化をするとすぐに止血できた。
そして、今はケガの心配よりも、どこに潜んでいるか分からない敵に集中するべきなのだ。
いいや、巨大な犬がいなくなった今。すべきことはまずこの場を離れることだ。
一面低い芝生の、どこにも隠れられない場所へ。
ゴンは駆けだした。ユピーが戦っている所へ。
アルカを担ぐメルエムが外に出ると、ユピーと執事達が戦っている光景が目に入った。
「ユピー! もういいぞ! さっさと逃げろ!」
メルエムは大声でアルカの救出成功をユピーに告げる。
興奮していたためか、ランランルーという偽名を使うのを忘れていた。
「はっ!」
と、ユピーは返事をして、急いで空へ逃げる。
執事達はチラと声のした方を見たのだが、そこには誰もいなかった。
メルエムは言ってすぐに移動したため、その姿を捉えることができなかったのだ。
逃げるメルエムとユピー。
メルエムは途中でゴンを見つけ、寄り道する。
「ゴン、つかまってろ」
「え? わあっ!」
メルエムは左腕一本でアルカをおんぶしたまま、右手でゴンをつかんだ。そして、アルカの上におぶらせた。
「く、苦しい」
「ご、ごめんよ」
アルカが押しつぶされる形になっているが、スペースが無いのだから仕方がない。
とにかく、その状態のままメルエムは駆けた。
まるで次元が違うスピードで離れていくメルエムについていける人は誰もいなかった。