よければ見てください。
「道場で門下生を増やす手っ取り早い方法は、実績だ。そこに在籍する人間が結果を出して、有名に、さらには人気者になればいい。しかし、俺達は個人情報を深入りされるとまずい。スターにはなれない」
メルエムは熱を込めて語りかける。
キメラアント達も集中して聞いている。
「だが、だからと言ってこの方法を諦める必要は無い。俺達がスターになれないのなら、代わりの人間をスターにすればいい」
「おお! 確かに! その通りだ!」
楽しそうに相槌を入れるのはカメレオン。
メルエムはうれしそうにその賞賛の言葉を浴びている。
「スターにする人間については、すでに『こいつしかいない!』というほどの適任者を見つけている。だから、まずはその人間の説得から始めたいと思う」
「話が速えじゃねえか。どんなやつなんだ?」
待ってました、とばかりににやりと笑うメルエム。
「くっくっくっくっく」
などと笑っていて、なかなか答えない。
「おいおい焦らさないでくれよ」
たまらず返答を求めるカメレオン。
「くくく。ああ、いいだろう。そいつはな、もう本当に武術の天才なんだ。俺達みたいな異形では無く、人間として生まれながら、圧倒的な才能を持っていたんだ」
「おお! すげえじゃねえか! で、どんなことをやってのけたんだ?」
「まあ落ち着け。しかもそいつの才能は武術だけに留まらない。勉強もかなりできる。そして、見た目も美しい。さらにだ。スターになるのにふさわしい過去まで持っている」
流れるように語るメルエムに、カメレオンもたじろいだ。
「おいおい、やけに詳しいな。しかしそんなやつが、俺達みたいな怪しい連中に協力してくれんのか?」
「問題ない。なぜならそいつは、すでに俺の仲間だからだ。ずうっと、昔からな。俺がクルタ族の人間だったころから」
メルエムがしみじみと言うと、場は静かになった。
しばらくして、皆がその言葉の意味を理解した時、再び場は盛り上がった。
数日後。
そこにはある人間に協力を依頼するメルエムの姿があった。
「分かりました。そういうことなら協力しましょう。生き残り、と言っていいかどうかは分かりませんが、懐かしい同胞の頼みですからね」
「おいおいクラピカ。お前いつからそんな丁寧な語り口になったんだ? 小さいころみたいに気楽に話しかけてくれてかまわないぞ。俺もたった一人の同胞相手に、他人行儀にしてもらいたくはないからな。歳も転生して、今は0歳だし」
「いや、しかしですね。……うーん。分かった。出来る限り普段通りを心がけてみよう」
メルエムの予想通り、道場のスターになってもらう交渉はすぐにうまく行った。
メルエムがクルタ族の転生者だと説明することの方がずっと厄介だった。メルエムのクルタ族時代の名前を、クラピカは知らなかった。息子の名前は知っていたが、その記憶も曖昧らしかった。そこで、一族しか知らないはずのしょうもない話をひねり出して語ることで、なんとか認めてもらった。
「ははは。ではまずは、俺の仲間を紹介しよう。ああその前に、キメラアントの説明をするべきだな」
メルエムは完全にクラピカを信頼していた。
人間相手には初めて、自身がキメラアントであることをバラした。
「なるほど。能力が高いだけで、ほぼ人間。人間との子を作ることもできる、か」
「考えようによっちゃあそれこそクルタ族みたいなもんさ。ちょっと特別な人間ってね。まあ俺達は見た目が違い過ぎるが」
「そして、力が違い過ぎるために、別種として、人類の脅威として見なされてしまう」
このような違いが迫害の原因となったあたりはクルタ族に近いものがある、とクラピカは思った。その憂き目に遭ったことがあるクラピカは当然、キメラアントを迫害しようなどとは思わなかった。
キメラアントのことを秘密にしてほしいということも、二つ返事で了承した。
「しかし、本当に桁違いの強さだな。キメラアントというものは」
と、これが挨拶のついでに護衛団やメルエムの実力を見たクラピカの感想である。
「道場で集めたお金は全て慈善活動に使うと言っていたが、具体的にはどのような感じに?」
挨拶が終わると、ふと、クラピカが尋ねた。
細かいところに気を配ろうとするあたり、もうかなり乗り気なようだ。
「孤児院を建てたり、自然災害の被害者に援助したりに使う。失業者や芸術家の援助もするかもしれない」
「孤児も道場に入れるのか?」
いい質問だ、とメルエムは思った。
孤児は一から育てられるから、大人になった時には良識のある、信頼のおける仲間になる可能性が高いのだ。メルエムの死後、おそらく彼らがメルエムの遺志を継ぎ、未来の平和を守って行くのだろうと、メルエムは考えていた。
「全員ではないが、その通りだ」
「なるほどな。そうすれば実際に人助けにもなるし、人気も得られるし、心強い仲間も多く得られる、か。道場で良識ある念能力者を多く育成し、世界中をそんな人達で満たせば、蜘蛛のような輩は居場所が無くなるだろうな。……確かに、いけそうだ。うん、うまく行く気がしてきた」
「頼むぞ、クラピカ」
「分かっている。この計画を成功させるためには、私の成功が重要になってくるだろうからな」
クラピカは真剣な顔でそう言う。
その姿がメルエムにはとても頼もしく見えた。
それから一週間ほど経過した。
あるホテルの一室でのこと。
メルエムとクラピカはコの字型のソファで向かい合って話していた。
「名義としては、プロハンターであるクラピカが道場や孤児院を建てたことにするぞ」
「それがいいだろうな」
「人気を得るために、多少は過去について話してもらうことになるかもしれない」
「分かっている。必要ならば我慢する」
「試合についてだが、しばらくは天空闘技場一本で行くのがいいと思っている」
「しばらくというのは、その後は?」
「道場破りのようなものを少々。特にネテロ会長の心源流に勝ってもらいたい」
「宣伝か?」
「それもあるが、道場同士のつながりもほしい。別に自分のところの弟子でなくとも、平和活動をしてくれる人はいるからな」
「ふっ、それもそうだな」
やはり同胞という意識があるためか、2人はすぐに打ち解けた。
そしてこのように、2人でくっついて話し合うことが多くなっていた。
ここは天空闘技場近くのホテルだ。もうすぐ昼食で、それが終わるとクラピカは選手登録しに行き、今日から早速フロアマスター目指して戦い始めることになっている。
メルエム達キメラアントは出場しない。探られると困るからだ。一応、メルエムとユピーはゾルディック急襲の後に顔を変えたが、それでも万全とは思えなかった。
ちなみにだが、ユピーやメルエムの変身する念能力は、変形した部分の体にしめる割合に応じて時間あたりにオーラを消費するというもの。具体的には、1秒間に失われる潜在オーラ量の割合が、全身の体積に占める変化させている部分の割合と同じである。だから、時間をかけずに変形させればほとんどオーラを消費しない。変化させる部分が少ない場合もあまり消費しない。
「しかし、マッサージ系の能力がほしいなあ」
「ビスケット=クルーガーだったか。だが、彼女は心源流だからな」
「なんだかんだネテロに恩を感じてそうなんだよな。あの人」
「ま、そのあたりはしょうがないさ」
「いやでも、一応ピトーにマッサージ系能力を開発させてるよ。たぶん彼女なら作れるはずだ」
「メルエムは作れないのだったか?」
「そうなんだよ。誰かを食べることでしか念能力を覚えられないんだ。まあ、食べるだけで覚えられるとも言えるけどさ」
「あまり気分のいいものではないな」
「見た目に反しておいしいから後でへこむんだけどね」
やはり仲がいいようで、2人はつらつらと語り合っている。
同胞という意識のためか、メルエムの口調はクルタ族時代のような軽いものになっていた。
「なあ、あいつら、できてるんじゃねえか?」
などとボソっと言うのはカメレオン。
最近メルエムが相手してくれないのが不満ならしい。
「バッ、お前、クラピカは男じゃねえか!」
と、それを聞いてタコが興奮しながら言う。
「は?」
と、カメレオンが『わけが分からない』という風に返す。
「へ?」
と、タコも不思議そうに返す。
沈黙。しばらくの間、その一室が静かになった。
タコの声が聞こえていたのか、あれほど長々と語り合っていたメルエム達も会話をやめてタコの方を見ていた。
「って言うギャグはさあ、もうダメだって学習したよ俺は。もう三回目だもんなあ。はっはっは、ギャグだよギャグ。はっはっは」
タコはごまかす様に言った。
カメレオンのこの空気は『ピトー男の娘説』の時と同じものだと気付いたからだ。
「修行は俺が見れば、ほぼ分かると思うんだよね。隙とかそういうのはさ」
「しかし、同じ程度の実力者との戦いも必要だろうな。効率のいい成長には」
「それは分かっているさ。でさ、ちょうどいいのがいるんだよ。あそこにいるイカルゴってさ、死体を操れるんだけどさ、死体の実力に応じてある程度実力の調整ができるんだ。クラピカと同じような実力者になる死体もそれなりにあると思うよ」
「しかも死体によって戦闘方法も違うから、いろんな相手に対する実戦経験も積めるわけか」
と、ここで再びメルエム達が語り始めた。その内容がタコを賞賛するものだったためか、カメレオンからタコへの怒りの追及はなされなかった。
「そういうわけだ」
「しかし重犯罪者とは言え、死者を冒涜するのは気が引けるな」
「でもそれが、蜘蛛達の死体なら?」
言って、メルエムはにやりと笑う。
「全く問題ないな」
クラピカもいい顔で笑った。
「蜘蛛の死体ってけっこうあるんだよ。つーかそれ以外の死体は持っていない。だから、クラピカはやつらの死体と戦うことになる」
「なるほど。そうすれば私の怒りの力をもって修行の効率化もできるかもしれないな」
「そういうことだ」
その後もそんな感じで2人は話し合っていた。時々愉快に笑いながら。