200階クラスまで来てもクラピカは敵無しだった。ほぼ全員瞬殺で、鎖を使うまでも無く、拳一つで事足りた。
一撃で沈まなかったのは心源流に所属している男の子だけだった。名前はズシ。
しかし、そのズシも次の攻撃で倒れた。ズシは流の動きが遅く、クラピカの攻撃に念の防御が間に合わなかったからだ。もっとも、間に合ったとしてもオーラ量の差は歴然で、5回も耐えられなかっただろうが。
ともかく、そんなこんなでクラピカは無事に200階で10勝し、フロアマスターへの挑戦権を手に入れることができた。
この間、意外と時間がかかっている。200階では毎日のように試合を組んでもらえるわけではないからだ。できるだけ早くと頼んだが、ペースは平均して三日に一試合だった。
また、予想通り、クラピカは人気者になれた。
そのバランスのいい容姿、洗練された動きが見る者を魅了したようだ。いつの間にか数千人規模のファンクラブができていた。男女比は1対5くらいだ。道場での男女比もこのくらいになるのだろうか。かわいい女の子がたくさん来ればいいな、とメルエムは思った。
そして本日。天空闘技場に来てちょうど2か月と1週間。ようやく、と言っても最短時間記録だが、クラピカはフロアマスターに挑戦する。
「相手は格下だ。落ち着いて、いつも通りやれば問題ないだろう。気を抜くことだけは無いようにな」
「分かっているさ。今日は本気を出す」
「まあそれがいいだろうな。もし相手に大ケガを負わせてしまった場合は、ピトーの念で治させよう」
「そうしてくれ」
このような会話を交わし、メルエムはクラピカと別れた。
場所はホテルの中。ここで別れておかないと、うっとうしいファンや野次馬に見つかって、面倒なことになってしまうからだ。さらに変装までしている徹底ぶりである。
まずクラピカが出て、次いでメルエムが出た。
クラピカは選手控え室に行き、メルエムは観客席に行った。
「それでは次の試合に参りましょう。まずは挑戦者、クラピカ選手の入場です」
アナウンサーの声と共に、クラピカ入場の曲が流れ始めた。
どっと盛り上がる場内。その喧騒に応えるように現れたクラピカに、場内はいっそう熱を増す。
「キャー、クラピカさーん!」
「かっこいいーーー!!!」
「クラピカかわいいよクラピカ」
「結婚してーーー!!!」
「僕と結婚して下さい! オナシャス!」
「クラピカちゃんは男の娘だよね! よね!」
「ふざけんな! 女の子に決まってんだろうが! ボケ!」
「ああん? お前目ん玉おかしいんじゃねえか? あの胸を見ろや」
「貧乳の良さも分からないニワカか。あれがコンプレックスになっていてそれをやさしく受け止める俺という構図がいいんですけどね」
「何だそのしゃべり方は。キモヲタか!」
「同じ格闘技ヲタなんですけどそのあたりはどうなんですかねえ」
歓声などが次々に飛ぶ。
「おおーっと! 場内では早くもケンカが始まってしまったようです! しかし、これも今では見慣れたもの。クラピカ選手の中性的な美貌が、ちょっとあれなファンを引き寄せてしまうのでしょうか?」
その反応を見た実況アナが煽る。
「ちょっとあれは余計だぞてめえ!」
「ブス女が調子に乗んなー!」
「はあ? かわいいじゃん。なめてんの?」
「どこがかわいいんだよあんなブス!」
「どこって全部だけど? お前こそどこが悪いか言えんのか? つーかお前、そんな豚みたいな顔して、よく人のことが言えんな。ぷぷぷ」
「俺は関係無いじゃん。あ、お前今話題ずらした。逃げだね。負けを認めたか」
「逃げるが勝ち」
「誰だてめえ!」
と、アナの声も新たなケンカを呼んだりする。
「えー、ゴホン。場内でのケンカはお控えください。ひどい場合は警備員の手で場外へ連れ戻らさせてもらいます」
一応こうやって諌めたりもするが、いつもさしたる効果は無い。
「続いてはフロアマスター、エヴァオオタ選手の入場です!」
喧騒の中、挑戦を受けるフロアマスターが現れる。身長190センチに体重90キロ。某初号機のような肉体。
暴走男の異名を持つ、力強さにスピードも兼ね備えた選手だ。
「やっちまえー! イケメンをぶっ殺せえー!」
と、一部のファンには人気があるが。
「いや、イケメンじゃなくて、女の子でしょ。馬鹿じゃねえの?」
「というか私のクラピカさんに失礼なことを言わないでくれる?」
「言っとくけど、どっちが勝とうがお前が不細工でモテないきもいおっさんであることに変わりはないからな」
と、ファン数の差は歴然としている。
嫌い合っていたクラピカファン達も、相手選手を目にして一時休戦したようだ。
そして場内で観客が言い争っている間に、形式的な挨拶やルール説明は進んで行く。
「相手をKOするか、ポイントを10点先取した方が勝ち。ポイントはクリーンヒットで1点、クリティカルヒットで2点、ダウンで1点。採点の基準は審判による。以上です。よろしいですか?」
「ああ」
「大丈夫だ。問題ない」
「それでは参りましょう。指定された場所で開始の合図をお待ちください」
審判の言葉を聞き、クラピカとエヴァオオタは指定された場所へと歩く。そして立ち止まり、向き合い、構えた。
互いに軽く練をして、いつでも動けるように準備している。
「始め!」
の、合図と共に、両者ともに消えた。
クラピカはまず横に飛び込みながら床を切り裂き、盾を作った。タコの模擬戦でよくやっている行動だ。
対するエヴァオオタはいきなりクラピカに突っ込んで行った。
「ウォオオオオオオオ!!!!!!!」
どこか野生的な叫び声を上げながら突っ走る。直線時はなかなかのスピードで、クラピカとも遜色ない。
そしてその勢いそのままに、クラピカが作った床の盾をぶん殴った。
「きゃあ!」
爆発音と共に飛び散る破片。近くにいた女性の悲鳴が響く。
「クラピカ選手がいきなり床を盾がわりにし、エヴァオオタ選手はそれを粉砕しました! すさまじい迫力です!」
煽る実況。言っているうちに戦況が目まぐるしく動くため大変だ。
ちなみに、この人は実況できるくらいに動体視力がいい。一般人では無く、それなりの実力の念能力者だ。
『
と、ここで、エヴァオオタの念能力が発動した。その効果は、自分はとてもすごい人間だと、周囲に認識させることだ。発動条件は、自分を見ている人達に全力を見せつけ、その9割以上に対し自分のことを大物だと期待させること。最低33人が見ていないと発動しない。まさに闘技場の試合のためにあるかのような能力だ。
念を知らない人にとってはそれだけの能力だが、念を知っている人にとっては別の効果がある。
それは、自分が常にマックスの錬状態であると認識させることだ。この状態のエヴァオオタを見た人は、体の各部位にあるオーラの割合を知ることはできるが、顕在オーラの総量は常に全力の錬をしたものであるかのように認識してしまう。絶をしている時もだ。
だから、本当は力を抜いた攻撃でも、全力であるかのように感じてしまう。休んでいる時でも、オーラの壁でガードが固く見える。
結果、無駄に逃げ回ったり、余計な焦りが出たり、底なしに見えるオーラ量に畏怖するようになってしまうのだ。
「ウォオオオオオオオ!!!!!!!」
この野生らしい叫びも、常に全力だと意識させることを助長している。
しかし、実際の本人は小心なほどに冷静で、落ち着いて戦況を眺めているのだ。
「くっ」
だから、死角から迫るクラピカの『
鎖鎌は脇腹をかすめたが、軽傷だった。治癒を強化すると、血の一滴も流れないままに傷は閉じた。ちなみに、エヴァオオタは強化系である。『
だから彼は、突然現れた鎖鎌を見てクラピカのことを具現化系だと予想すると、ここで一気に勝負を決めることにした。
まずはジャブのようなものを、数を多く繰り出す。凝で少し手にオーラを集めれば、念能力のおかげで相手は勝手に脅威だと思ってくれる。
そうして焦ってかわせば、体勢も崩れる。隙ができる。そこで真に全力でオーラを込めて、相手に叩き付ければいいのだ。
エヴァオオタは今までそうやって勝ってきた。一流と呼ばれる相手でも、必ず隙を見せた。だから、この戦法に自信があった。
しかし、このクラピカはまるで隙がない。ジャブを最小の動きで見事に躱すと、舞うように手刀を浴びせてくる。
自分が攻撃するたびにどこかを切り裂かれ、血が飛び出した。治癒の強化で出血量自体はそこまででも無いが、痛みと、治癒の度に失われるオーラと、何よりこちらの攻撃が当たる気がしないことに気力をそがれる。
隙だらけなのはこちらの方なんじゃないのか?
その疑念が攻撃の手を引っ込ませ、思考を混乱させ、判断力をにぶらせる。
「ぐあっ」
一瞬。気が抜けた一瞬を、クラピカは見逃さなかった。
繰り出されたのは右足。この戦いで初めての足を使った攻撃である。その足は見事にエヴァオオタの脇の下を捉え、吹き飛ばした。
「クリティカルヒット。続いて、ダウン。クラピカ、ポイント3」
吹き飛ばされ、壁に叩き付けられ、うずくまるエヴァオオタ。思考停止状態にあった彼は20パーセントほどのオーラでクラピカの攻撃を受けており、そのダメージは深かった。
こいつ、今までは手加減してやがったのか!
エヴァオオタは苦しみながら、クラピカに対し驚嘆していた。
先ほどの蹴りの時、攻撃の一瞬だけ、急激にオーラが増えた。今までの倍以上だった。あれほどのオーラが出せるのならば、力と力のぶつかり合いで強化系の自分と十分にわたりあえる。相手はさらに、戦闘技術で自分を大きく上回っているのだ。これでは、どうしたって自分に勝ち目はない。
そう思ったエヴァオオタは、立ち上がれなかった。
そのままKOとなり、クラピカの勝利で終わった。
33×0.9=29.7
33人中4人がエヴァオオタのことを小物と思っている場合、『