緊張感を出すために受験生の一人称視点でやった方がいいと思ったんだ。
クラピカがフロアマスターになって宣伝も実績も十分できたので、念願の道場を開くことにした。
と言っても、道場の建設自体は早くから進んでいた。クラピカはどうせ勝つだろうと予想して、先に作っておいたのだ。
クラピカファンが多いため天空闘技場近くにして、それなりに安い土地に大規模な道場兼孤児院を建てた。
流派は舞照流(ぶしょうりゅう)と名乗ることにした。
意味は『そこだけ照らされているかのような舞』のような感じだ。舞のような美しい動きで目をくぎ付けにし心をゆさぶるため、この名前を付けた。
また、舞には芸術性があって、楽しいイメージがある。照には、闇を照らすイメージがある。
だから、この名前には、世界の闇を照らしみんな楽しくやっていこうというメルエムとクラピカの思いも込められている。
それに、そもそもメルエムの名前の意味が『全てを照らす光』であり、その名前から取ったというのもあった。
ともかく、舞照流の道場は開かれた。
天空闘技場での宣伝効果は抜群だったらしく、100人の定員はすぐにいっぱいになった。最終的に応募者は1000人を少し超えた。
これから道場を大きくするつもりだから早い順でもよかったのだが、もしかしたらそれで才能ある人間を取りこぼす可能性もあるので、試験をすることにした。
試験は100m走やボール投げや持久走のような基本的な身体能力を測るものや面接などをすることにした。
正直メルエムなら人のオーラを見ればそれで人となりは分かるのだが、形だけ面接をしておき、人格という理由で落としやすくした。
などという事情はほとんど知らず、ただ己の感覚を信じて、人生をかけてこの試験に臨もうとしている人物がいた。
その人物の名前はリサ。流星街出身の女の子。歳は15。
注意:ここからリサの一人称です。
よし、大丈夫だ。私は受かる。受かるに決まっている。努力は、まあここ3か月くらいだけど、必死に体を鍛えて来た。貯金使ってプロテインやサプリメントも買って、毎日飲んだ。あとは己を信じてやるしかない。
のだけれど、ちょっと恥ずかしいな。このジャージ姿で一人、電車にいるのは。
ああ! あの左の列私の二つ前通路側に座ってるハゲたおっちゃん、首が凝ってるフリしてチラッと見て来た! 知らんぷりしてるけど、バレてるよ。気になるのは分かってるからね。
ああ! そのとなりのおばちゃんもクスって笑った! いやもうゴホンとか咳き込んだフリしなくていいから。もう笑えばいいから。私は諦めてるからさ。仕方ないんだよ。お金が無いから。
おっと、いけないいけない。落ち着くのだ私。私は今から大切な試験を受けるのだ。その大切さをかみしめろ。こんな程度のことに惑わされてはいけないはずだ。
うん、落ち着いて来た。たぶん。
よし、ここらで一つ、気合を入れ直すためにあのお方のことを思い出すか。あの凛々しいたたずまい、全てを包み込むようなお声、神を思わせる圧倒的お力を。
顔は仮面で隠しなさっていたけれど、さぞ美しいのだろう。と、私は予想している。ああいや、イケメンとかじゃなく、心の美しさが顔に表れるタイプの美顔ね。いや、というかきっと、イケメンでもあるけどさ。その、俗っぽいのは失礼だから言わない方がいいかもってね。いや、脳内で言うも何も無いけどさ。
話を戻そうか。
そう、あの方は突然現れなさると、私を救って下さった。あの下品な三人組から。動きは全く見えなかったけれど、降臨なされた瞬間、変態共をやっつけて下さったのはあの方だと、私は確信できた。私、ここは誇っていい。うん。
それから、あの方はサッと、これまた何が起きているかさっぱり分からない速さで、私をしばっている縄をほどくと、当然のことをしたまでだと言わんばかりに、感謝する私の声を制しなさって、神々しいお声で尋ねて来られたのだ。「あいつらはただの強姦か?」と。
私はその通りだと答えた。出来る限りの信仰心を持って。恐れ多くも、罰のようなものを期待しながら。
するとあの方は、「ふーん」と言って、立ち去られた。ゴミ共三人を連れなさって。
この時「待って」などと無礼な言葉使いをしてしまったことを、私は反省せずにはいられない。何を勘違いしていたのか、私は。あの方の貴重な時間を、見ず知らずの他人、それも卑しき私のためなどに使ってもらおうなどと。
しかし、あの方はその程度のことで怒る方ではないのもまた事実だろう。
ゲス三人相手ですら、自らのお手で始末なさらず、私達下の者(しものもの)に判断を任せなさったのだから。
ああ本当に私にとって、あのお方は神のような存在だ。
勝手にあの方の情報を集めさせてもらって、神出鬼没に現れては困っている人を救っている方がいると耳にした時は、本当に神様かと思ったものだ。
身分不相応と分かっていながらも、もう一度会いたいと、何度願ったことだろう。
その願いを叶えるために、また、お会いした時に少しでも失礼のないように、体を鍛え、心も鍛えたつもりになっていたのだけれど、あの方は会うことを認めて下さるのだろうか。
しかし卑しき私は、あの方に失礼である可能性があるにもかかわらず、会いたいという衝動を抑えることができない。
ああいっそ、もう一度救ってほしい。この信仰の病に侵された私を。
おおっと、考えていたら、電車はいつの間にか目的地に着いていた。
天空闘技場。ここで、私の第二の人生が始まる、はず。始まってほしい。
う~ん、試験に受かりたい!
もう絶対に彼女しかいない。私が師事するべき人は。彼女の武術を学んで、万に一つ極めることができれば、あの方のそばにいても恥ずかしくない気がする。いや、こんなことを言ってはあの方に失礼か。それもまた彼女に失礼か。彼女も十分、神々しいし。
いやでも、今から私は彼女に学ぶつもりなのだ。その極意全てを。初めから諦めていたら何もできないよ。だから、きっとできるって、自分を信じないとね。
しかし彼女は本当に、突然現れた新星だった。
格闘技オタの友達の部屋でその映像を見た瞬間、私の心が震えた。
その美しい動き(あと容姿も)に、思わず目を奪われた。
神聖なものを、私は感じた。
いや本当に、強くなるために参考にしようと思って、友達に頼んで強い選手の映像をたくさん見たけれど、彼女ほど動きが美しい選手はいなかった。ネテロ会長もきれいだけど、ちょっと方向性が違う。さらに言えば容姿が段違い。ここ重要。
話を戻す。いや本当に、彼女の動きは、あの方と並べてもいいくらいに美しいと思う。どことなく雰囲気が似ている気がするし。いや、私はあの方の動きは見えなかったのだけど、たたずまいとかが、多少、ね。
などと歩きながら考えていると、試験会場が見えてきた。思考に集中していたからか、人の視線もあまり気にならなかった。助かったよ。
門の隣の大きな看板に『舞照流入門希望者はこちら』と書いてあるのが見える。
ライバルたち、いや、これから共に学ぶ仲間たちが、続々と門をくぐっていっているのも見える。
道場の大きさは、さっき降りた駅と同じくらいか。私、滅多に流星街の外に出ないから、いい例えが見つからないや。ただ、けっこう大きいのは分かる。きれいなのも分かる。新しいのを抜きにしても。
背後に山、周辺には豊かな田畑が広がっていて、それも美しい景観を形作っている。見ているだけで心が落ち着く。そんな感じだ。
いいところだね。全く。私にはもったいない、じゃなくて、これから私が己を鍛えるのに、申し分ない。
よし、やったるぞ。いけるよいけるよー。
「どうぞ」
「あ、ありがとう」
と、門をくぐろうとしたところで、誰かに話しかけられて、ポンと何か渡されて、反射的に受け取っちゃった。
ああこれ、今日の試験の予定表か。後できちんと見ておかないとね。
しかし、やっぱりけっこう人いるなあ。まあそのほとんどがキャッキャ言ってる若い女の子と、笑い方が特徴的な小太りの男で、弱そうなのは助かったかな。子供もけっこういるね。いやでも鍛えてそうな子ばかりだし、むしろ強いかも。
それに、ムキムキのおっさんもちらほらいるし。グラサンかけたイケてるお姉さんも。あの人たちはきっと合格するのだろうなあ。
「あの、その、入門希望者の人はこっち、です」
と、周りを見ていたら、スタッフらしき女の子が呼んでいるのが見えたよ。
10歳くらいのかわいらしい女の子だ。おどおどしているのが余計にかわいらしい。思えば、さっき予定表をくれたのも子供だった。男の子だったけど。黒髪つんつん頭で。
子供ばかりなのは何かわけがあるのかな? ああそう言えば、孤児を募っていた気がする。ということは、彼らは受け入れた孤児達なのかな。分からないけれど。まあいいや。
いや待てよ、あの女の子、おどおどしゃべっている割に姿勢がいいな。というか、立ち姿勢が洗練されてて、安定してる。もしかしたら達人? クラピカ先生の教え子? ああ、彼女って言い方はあれだからクラピカ先生って呼ぶことにしてみたんだけどいいよね? とにかく、あの女の子はできる。私のオタとしての目が正しければ。
思えば、ツンツン頭の少年も強そうだった。チラッとしか見てないけど、確かあの子も立ち姿勢がすごく安定していた気がする。あれか? クラピカ先生が教え子に試験の手伝いさせているのかな?
まあとりあえず、仲良くしておいて損はないだろう。
指示された場所に来てみたら、何やら人が集まってがやがやとやっている。
ちょっと興味があるので覗いてみる。
「クラピカちゃんは女の子に決まってんだろう! バカが!」
「クラピカ様だ。そもそもこれから師事する人に向かって何という口の利き方をしているのだ。失礼だぞ。そんな態度でいられても迷惑だ。即刻立ち去れ!」
「お前こそ失礼だぞ。クラピカちゃんはそういう差別しない信念を持ってるので有名なのに。勝手にチンケな指導者と一緒にしちゃってさ」
「それには俺も同意する」
「なにっ!」
「いやお前、落ち着けよ。まずこのブタ男がクラピカちゃんとか言い出したのが悪かったんだ。ブタに釣られんなよな」
「はあ? お前急に出て来て何的外れなこと言ってんの? そいつが間違ってることには違いないだろ」
「どっちも間違ってるわな」
「死ねカスしゃべんな!」
「あ?」
「何かっこつけてんだチビデブのくせに」
「だいたい男か女かで言うならどっちかは合ってるだろ」
「それには同意」
何かと思ったらしょうもない言い争いか。
しかしあの人たち、こんなところでもケンカしてるんだ。たぶん天空闘技場の試合の映像に映ってたファンの人達だよね。なんか服がそれっぽいや。
でも、同じ格闘技オタだと思うと辛いものがあるね。いや、彼らは先生個人のファンか。と言っても、その場合でも私も先生個人のファンでもあるし。ああもういいや、違う違う。そういう共同体意識はやめにしよう。個人だ個人。重要なのは個人。
「ちょっといいかしら、そこの人」
などと考えていたら話しかけられた。
背の高い女の人だ。金髪で、騎士っぽいきれいな身なりをしている。ついでに美人。だけど、口調や表情を見るに性格は悪そう。
「何でしょうか?」
「あなた、緊張してるでしょ。こんなところで、一人いて」
「そうですね」
「私の下に置いてあげてもいいわよ」
「え?」
何この展開は。上下関係でも作ろうっての? この人はまだ受かったわけでも無いのに。どんだけあつかましいんだよ。
いやまあ、実力は高そうだけどさ。
「おいお前。今失礼なこと考えてるだろ」
「フレンディー様の合格は決まってるんだよ。だから、今のうちに下についておくのが、賢い人の選択なのさ。慈悲深いフレンディー様が面倒を見てくれるからな」
「良かったな。お前」
と、ここで手下らしき女の子がぞろぞろと出てきた。
しかし、友達ってそれが脅迫になると怖いよね。宗教じみててさ。まあ私も、あの方や先生を崇拝してるけどさ。
「いや、その、せっかくだけど、同じ受験生だし」
それに、上下関係とかはあまり好きじゃないんだよね。神の下にみな平等だと思うから。ここでまた宗教を使っちゃうあたりが私だね。
「はい? 何言ってんのお前!」
「フレンディー様。こいつカッペのクセに調子に乗ってますぜ。和を乱すようなやつは追い出しましょう」
ああもう、うっとうしいなあこの人達。
勝手に自分で和を作って勝手に人を悪者扱いって、いや、よくあることかもしれないけどさ。
その、受験生としてはどうなの? その心構えは。常識を疑っちゃうよ。
というか、フレンディーからの返事がないな。何かあったのかな?
あと、返事が無いことに焦っている手下の表情が地味におもしろいと思ったよ。
「ふざけないでください! ここがどこだか分かっているのですか!?」
「うんまあ、試験会場だけど」
クスリと笑いながらフレンディーの方を見ると、変な男にからまれていた。
私と同い年くらいの男子だ。フレンディーの歳も少し上くらいだと思うけど。
つーかフレンディー、お前がそれを言うのかよ。
「おいお前! フレンディー様に何やってんだ!」
「何って、ナンパだけど」
ええっ! それ真顔で言っちゃう!? 場所を考えてよ!
つーかさっきから変な人ばっかじゃねえか! まともな人は来てないのかよ!
おっと、思わず脳内の口調が汚くなってしまったよ。しかし、本当にひどい人ばかりだね。まあ、その分、合格する確率が増えそうでいいけどさ。
「場所考えてナンパしろよ。このエロガッパ!」
「いやでもさ、こんな美人には滅多にお目にかかれないじゃん」
「くっ、気持ちは分かりますが、節度というものをですね」
「節度が無くなるくらいかわいいんだよ」
「それとこれは、まあ、はい」
おいおいフレンディー。喜んでんじゃねえよ。
もういいよ本当に。勝手にやってくれ。
「そこの君。その辺にしてあげな」
また誰か入って来たよ。だからもういいって言ってんのに(脳内で)。
なんかダンディーな声だけど、期待させておいて、どうせ変な人なんでしょ。
いいや、私は期待しないよ。どうせ変な人と思って振り向くよ。
ちらっと、だけ見るけど、……ってええっ!? 何この人! でかい! のもそうだけど、身長はまあ常識の範囲内で、なんというか、存在? そう存在のようなもの。それが、とてつもなくでかい。
見るに、フレンディー他もそれは分かるようだ。さっきまでの騒ぎが嘘かのように静かになって、緊張気味に、ダンディーな男の方を見ている。いや、声はあれだけどこの人若いな。
というかこの人、どっかで見たような。
「エヴァオオタじゃねえか」
そう、エヴァオオタ。ナンパくんいいこと言ったね。この人エヴァオオタだ。坊主頭になってたから気付かなかったよ。
「ってえええ!!!」
エヴァオオタ!? あのエヴァオオタじゃねえか!
なぜここに? って、理由は一つしかないか。
「おいおいみんなー! エヴァオオタがいんぞー!」
「バカが。あいつはついさっきまでフロアマスターだったじゃねえか。別人だよ。いや、マジだったゴメン」
「似てるけど、坊主頭じゃなかったよね。別人じゃないの?」
「ニワカは黙ってろ。ちょっと武道やってりゃ立ち姿勢で分かんだよ」
「玄人面乙! どうせただの勘だろ」
「というより、あの体格の人はそうそういませんからね」
ぞろぞろと人も集まってきているみたいだ。そりゃそうだ。あのエヴァオオタだもんな。
レベルが違うよ。なんでこんな人が試験を受けに来てるんだよ。むしろ教えてもらいたいくらいだよ。上下関係認めるよ。
「まあみんな落ち着いてくれ。俺も今日はみんなと同じ受験生だ。対等だと思って接してくれよ。サインはしないからな」
いや、対等だと思えませんよ。なんか出てますもん。大物のオーラみたいなものが出てますもん。
「お前のサインなんていらねえよ」
などと考えていたら、どこからか怖いもの知らずなツッコミが入ったのが聞こえた。
同意だけど、言う勇気は無かったよ。
「バ、バッキャロー! 殺されんぞ! 相手はあの暴走男だぞ!」
「終わりだー! こいつは死んだー!」
いや、さすがにそれはないでしょ。
あんたら彼をなんだと思ってるんだ「某初号機が暴れ出すぞー!」よ。いや、いいタイミングで聞こえたけど、某とか言われても分からないからね。ほら彼も、苦笑いしているし。
しかし、彼みたいな超大物も来ているんだ。実力者もちらほらいるみたいだね。フレンディーもなんだかんだ強そうだし。これは、気合を入れ直さないとね。