キルアが生まれた直後、体に不穏な念が乗り移る様を、両親は見ていた。
赤子はびくりと反応し、その後再び泣き始めるが、どこか叫ぶような泣き方で、濁った念の流れからは怨みや怒りといった赤子にはないはずの感情が読み取れた。
シルバはゾルディックに怨みを持つ何者かからの念攻撃だと考え、執事の中にいる除念師を呼び出した。しかし、強力なおそらく死者の念ゆえに解放は叶わず、仕方ないのでしばらく様子を見ることにした。
24時間監視付で、徐念の条件を探りながら、執事の子として育てる。家族に危害が及びそうになったら、イルミの能力で操作する。徐念できぬままでも全く問題がないようだとわかったら、ゾルディック家の子に戻す。等が決められた。
キルアは理性のある目でキョロキョロする、あまり泣かない子だった。けれど、突然発狂して、怒りや恨み辛みのような感情を爆発させることがあった。
母親役の執事は無知を装い、常におだやかに、理想の母親のように接していた。彼女が抱き締めると発狂中のキルアも安心して、すうすうと気持ち良さそうに吐息を立てた。
3ヶ月くらいして、一層目の理性が増したキルアは、ほぼ完全に母親の言葉を理解するようになっていた。舌ったらずで言葉は発せないが、文字を書くことで会話できるようになった。
そこでシルバは執事に指示する。赤子ではない精神の正体を尋ねろ、と。
「キルアちゃんはどうしてこんなに賢いんでしょう。お母さん知りたいなあ」
その言葉を発する母親の腕の震えを、キルアは敏感に察した。そこで、安心させるためにも、ウソを混ぜながら真実を伝えることにした。
小さな丸いてで、文字を書いていく。
『実はボク、生まれる前に別の人間だった記憶があるんだ。10歳の男の子だった。魔獣に襲われて死んじゃったんだけどね』
「あらあら、キルアちゃんは冗談がお上手ね。本当はこっそり文字を習っただけでしょう?」
『違う。本当に別の子供だった記憶があるんだ。クルタ族って、聞いたことないかなあ?』
知らないわね、何て言う母親。
しかしこの情報に、イルミが動いた。
深夜、イルミはキルアの頭に針を打ち込み、逆らえないよう操りながら質問した。
結果は、母親役の執事への答えと同じもの。ゾルディック家への怨みはないと分かった。ただし、イルミの念よりも“旅団狩りRPG“の方が操作能力が強くて、意識を乗っ取れていないことには気付かなかった。
ゾルディック家への危害はなさそうで、また類稀な身体能力を持っていたので、キルアは2歳の誕生日にゾルディック家に戻された。
キルアは母親役の執事との別れを悲しんだが、イルミの「言うことを聞けば会わせてやる。反抗すればあいつを殺す」という言葉に黙って従うしかなかった。
そして、暗殺者になるための教育、地獄のような苦痛の日々が始まった。
毒、電撃、激痛、寒熱。致死量ギリギリ、耐性が付けば増やして再び致死量ギリギリ、という虐待のような訓練。単純に体力をつけるためのマラソンや水泳も並みではなく、危機察知能力を高めるためにと魔獣のいる山へ放り込まれることもあった。
しかし、キルアは折れなかった。真面目に訓練に明け暮れた。肉体が異常に強靭であったこともそれが可能だった理由の一つだが、精神も並みの少年ではなかった。
死ぬかと思うほどの苦痛も、死んでしまったあの時ほどは辛くない。自分を追い込むような体力トレーニングも、あの憎き蜘蛛への復讐のためだと思うと、耐えられた。
このキルアは、おそらく無知な赤子で生まれたキルアよりインプットが下手だったろうが、執念で補い、これもおそらくだが、無知なキルアよりも速く上達していった。
これに目を細めたのがイルミで、彼はキルアの人格ではなく才能に歪んだ愛情を注いでいくようになる。
危うくも順調な日々は、ところが、簡単に崩れる。キルアが、ゾルディック家は所詮暗殺一家だと思い知らされたのは、初めて人殺しをさせられた時だ。相手はゾルディックの法を破った執事だった。
家族達が見守る中、ばくんばくんと心臓が弾んで、息が詰まりそうになった。
人殺しを恨む俺が、目的のために目的と関係無い人を殺すのか。
この矛盾は、彼の根幹を揺るがすものだった。しかし、イルミに「従わなければあの母親役の執事を殺す」と言われて、結局、衝動的殺してしまった。
その後は自分の生き方に悩みつつも、訓練を止めることはできず、機械的に命令に従う人形のような生活に暮れるようになった。
そんな中、唯一の癒しであった妹のアルカが、突然変貌する。
目を真っ黒にボヤけさせて、この世の生き物ではないような風貌で、ぼうっと突っ立っていた。
「あ、アルカ!? 大丈夫か! どうなってしまったんだ!? 説明できるか!?」
「ア゛イ」
それがキルアとナニカの出会いだった。
※以後、前話とほぼ同じです。アルカの能力でゾルディック家を出てクルタ族の村に行き、追い出される前に蜘蛛退治の話をする。ただしここからゾルディック家には帰らず、ナニカの能力でキルアさんに変身し、真っ先に蜘蛛退治に向かいます。全ての蜘蛛を殺し終えると、それでもどこか満足できず、再び“旅団狩りRPG“で別人に憑依しました。
「うわわっととと。あれ? ここは?」
「ズシ、ではありませんね。あなたは……」
息子は次に心源流のウイングの弟子、ズシになっていた。