選考会までヨークシンをぶらぶらすると言って、ビスケとキルアとゴンは出掛けていった。クラピカはホテルの大部屋に寝かされて、センリツとレオリオがそばに着く。ズシは隣の部屋でウイングと共に修行。
「ううっ」
「おっ、目覚めたかクラピカ。安心しろ。ここはホテルだ」
「私はなぜ……」
体を起こし、ぼうっと前を見つめるクラピカ。不意に、眉をつり上げる。
「そうだ! あいつめ!」
突然立ち上がり、叫ぶ。
「お、おい。大丈夫か休まなくて」
「レオリオ! ズシはいるか!」
「あ、ああ。隣の部屋にいるが。あいつが何かしたのか? お、おい!」
レオリオの静止も待たず、クラピカは荒々しい足踏みで部屋を出ていく。
向かった先は流れからして当然隣の部屋で、怒りの矛先はズシだ。
「ズシ! 貴様一体何のつもりだ! いきなり電撃を浴びせてくるなど!」
練の持続中だったズシは「すいません」とウイングに断ってから中断し、向き直る。レオリオは「なんだって!?」と驚き、ズシに殺意を飛ばし始める。
「悪いとは思っている。だが! 俺はお前を力ずくで幸せにすると決めた!」
「はあ!?」
真っ先にレオリオが口をあんぐり開ける。
「なぜお前が! 人の生き方を勝手に決めるな!」
「嫌だね! 不幸を受け入れた人間の生き方なんて認めない!」
「まだ言うか!」
ダン、ダン、と音をたててクラピカはズシの前に移動する。右拳を震わせて、今にも殴りかからん勢いだ。
手を伸ばせば届く距離で睨み合う二人。クラピカの目は緋色に変わっている。外野ではセンリツとウイングが苦笑いし、レオリオはわけが分からないまま「あ゛あ?」とか「ムキー」とか奇声を上げる。
「私は仲間の眼を取り戻し、無念を張らすことを望んでいるんだ! それを否定するか!」
「ああ! それが蜘蛛に捕われているってことなんだ! だから力ずくで止めさせる!」
「身勝手な言葉で分かった気になって!」
クラピカはズシの襟首を掴もうと腕を伸ばす。が、途中で手首をがっちり握られ、止められる。
「放せ! 貴様ァ!」
「お前が蜘蛛を忘れるならな!」
「忘れるだとォ!? 取り消せェ!」
クラピカはもう片方の手で殴りかかるが、それも手首を掴まれ止められる。
「決闘だ!」
「いいとも! お前の気が済むまで何度でも!」
「お、おいクラピカ。無茶だぜその体じゃあ。お前もなんてことをしてくれてんだ!」
レオリオに構わず、二人は睨み合う。
ホテルで戦うのは迷惑がかかるので、広場に移動した。
「バカかよクラピカ。お前は今絶対安静なんだぞ! 立ってるだけで額に汗出てるじゃねえか! そしてそこのクソ坊主! これでクラピカの体調に何かあったら、本人がなんと言おうと俺はお前を許さねえ!」
「どちらかが降参するか気絶するかしたら負けでいいか?」
「かまわない。そして、負けた場合二度と私の邪魔をしないと誓ってもらう」
「いいだろう。その代わり俺が勝ったら俺と行動を共にしてもらう」
「ああ、誓う」
30メートル程離れ、向かい合う二人。クラピカは木刀2つでクルタ二刀流の構え。ズシは横を向いて楽に立つだけ。レオリオに対しては相変わらず無視を続ける。
不意に、センリツがコインを二人の中央に投げた。そして落ちた時、動き始める。
ズシはいきなりオーラを爆発させ、電光石火と肢曲の組み合わせで20もの残像を作る。
「何ィ! この技は!?」
小さなズシはきっと自分より弱いと思っていたのに、キルアの使う技を、彼以上の水準でやって見せた。レオリオは驚愕し、弱っているクラピカを狙った卑怯なやり方、という判断を改める。
だが、そうなるとクラピカの勝ち目はほぼない。仲間がやられる様を見せつけられることになるのか。と、怒りややるせなさが湧いてくる。
クラピカは事前に情報を得ていたので、初めから凝で動体視力を増していた。それでも影しか捉えらず、攻撃も防御もしようはないが、諦めはしない。
わざと隙を作り、飛び込んでくるだろう方向にありったけの力で木刀を叩き込む。それだけが勝機。それだけの勝機。よしんば方向が正しかったとしても、タイミングを間違えば避けられる。しかし、己の信条を賭けた戦いを放棄する理由にはならない。
「くっ」
影が己に近づいた瞬間、後方に飛びながらガードを上げて、左目の視界を隠す。
そしてタイミングを見計らい、体を捻って逆手で一線。
クラピカは分の悪い賭けに勝った。刃に向かって真っ直ぐ飛び込んでくる相手。きっと自身でも勢いを止められず、吸い込まれるように強烈なカウンターを受けるだろう。
一瞬勝ちが浮かんだところで、しかし、全身に鋭い痛みが走る。
「ぐっ、がっ」
放電が木刀を伝わってやって来たのだ。予想してゴム手袋をしていたが、それでも痺れで動きが鈍る。しかし、木刀はズシに向かう。相手は腕を上げるが、切られることに変わりないだろう。
決闘なんだ。悪く思うなよ。
しかし、ズシは腕にオーラを纏い、しかもキルアのように刃物のように変形させて、ギィイン、と金属音と共に木刀を切断してしまった。
「なにっ」
そのままの勢いで体当たりを受け、吹き飛ぶクラピカ。一瞬意識が飛ぶが、半ば無意識に歯を食いしばって意識を取り戻す。そこで直ぐ様体をひねり、後方宙返りして着地する。が、目の前にはもう丸坊主の黒髪が。
「くっ」
振り払おうとするが、速すぎて体が追い付かない。
腕を払われ、反対の腕は蹴られ、接触の度に電撃が来ることもあって、木刀を2本とも手放してしまう。
そして電撃で痺れているうちにさらに接近され、押し倒され、マウントポジションになる。
「参ったと言え!」
「くっ、誰が言うか!」
クラピカは下からフックで殴りかかる。が、電撃で痺れて途中で落ちていく。
「これでもか!」
「なっ、がああアアアアア!」
ズシは早業でクラピカの両方を外した。クラピカは痛みに叫びもがく。が、ぜえぜえ言いながらもズシを睨み付け、闘志は無くさない。
「くっ、バカめ!」
ズシは抱き締めるようにクラピカの首を絞め、落とした。