旅団を殺し悦に入る男だったが、やはり別の不満は出て来る。
創作界での最強レベルキャラはさすがにやり過ぎだった。規格外すぎて倒した実感をあまり感じない。
今度生まれ変わるならハンター世界のキャラがいい。それならきっと旅団を倒したという実感をしっかりと得られるだろう。
そう思いながら、男はブウから意識を手放す。
次は誰に移るのだろう。
その期待に胸をふくらませながら。
『まだよ。まだ出て来てはダメ』
その言葉に、男は再び目覚める。
しかし、目覚めるとは言え寝たきりだ。動くこともままならない。
なぜなら男は……
『ふっふっふ。あなたは世界を統べる王になるのよ。メルエム』
アリの王に生まれ変わっていたのだから。
『私は出産の準備に取り掛かります。給仕以外は誰も寄せ付けぬように』
「はっ!」
この会話が成されてから何週間か過ぎた。
体は十分できた。そろそろ胎外に出ても大丈夫だ。
メルエムは、自分のことを思ってくれている女王には悪いと思いつつ、出産を待たず外に出ようという決心を固めていた。
おそらくバラを抱えているだろうネテロに出会いたくないからだ。
バラ無しだったとしても、自分はまだ念能力者をたくさん食っているわけではないから、素でネテロに負ける可能性もある。だから、やはりネテロには会いたくない。
ガキだなんだ言って会話が通じない相手だということも分かっているため、ネテロには会えば終わりくらいに思うことにしているのだ。
というわけで、メルエムは今から母の胎内を出るのである。
残念ながらさようならだ。あまり人間を殺したくないし、本能に忠実に人間を狩って行くアリさんには死んでもらおう。いや、厳密には生死の判断はハンター諸君に任せて俺は逃げるわけだが。
などと考えながら、母親の腹をできるだけやさしく切り裂いた。
「ピギャーーー!!!」
痛みに耐えかねて悲鳴を上げる女王。
出てきたメルエムは申し訳なさそうな顔をしている。
「ピトー。女王を治療してやれ」
「はっ!」
漫画のメルエムと違っておだやかである。ただし旅団が相手の場合を除いてだが。
とにかく、このメルエムは女王を見殺しにしてわざわざ余計な被害を出すつもりはない。
残された師団長以下の面々には、女王の下に小規模に活動してもらおうと考えているのだ。
こういう気配りが人間への友好をアピールすることにもつながるなどという淡い期待もあってのことだ。
とは言え、淡い期待は頭の隅に置いておいて、このメルエムは一応現実路線で行くつもりだ。何をしたところでどうせ人間は自分を殺しに来る。危険因子をほっとくはずがない。そう考えることにしている。バラで死なないために。
「ユピー。飛行能力を身に付けろ。プフを見て学べ」
「はっ!」
「プフ。相手してやれ。とは言えそんなに時間はかからんだろうがな」
「はっ!」
一先ずユピーとプフを食って飛行能力と共にパワーアップして、身をひそめながらどうにかして人間らしい姿を手に入れて、それから旅団狩りに勤しむ。
それがメルエムの計画。だがその前に……
「は?」
「え?」
「ほ?」
文字通り目にも止まらない速さでライオンとチータとカバの師団長を狩る。
そして食べる。
「俺は楽しみのために人間を殺す愉快犯が嫌いなんだ。本能的に仕方ない部分もあるし、他の連中は許してやるが、死にたくなければ今後気を付けるようにな」
旅団が嫌いなメルエムは当然キメラアントの愉快犯も気に食わなかった。
巣の中にいるアリに全力のオーラを見せつけ(外に漏れないように注意しながら)、本気で脅しにかかる。本当はサソリの師団長も見せしめに殺しておきたいところだったが、旅団相手に戦っている描写があったので、旅団を釣るために生かしておいた。
脅しの効果は絶大だったようで、アリ達はかなり大人しくなった。
「生存のために仕方ない場合はもちろん殺してもかまわん。俺を恐れて死ぬ必要は無い」
ある意味被害者の彼らに、人との戦いになったらただ死ねというのは忍びない。必要ないかもしれないが、一応命を大事にということだけは伝えておいたのだ。
1時間ほどして、女王の治療は終わった。完治ではないが、アリが生きる分には全く問題ない。
「ではな母上。達者でな」
『メルエム。あなたは世界を統べる王になるのですよ』
女王はそう言っているが、メルエムは王になる気が無い。
とは言えきっぱり断るのもはばかられるため、何も言わず女王に苦笑して見せると、護衛兵の3人を引き連れて旅立った。
かっこつけて巣を飛び出したメルエムはしかし、少し後悔してもいた。
カメレオンとタコとトンボと除念腹ぼて娘は連れてきてもよかった。彼らの能力が惜しいと、今更ながらそう思うのだ。
しかし、弱い部下は相手に操られる可能性もあるし、カメレオンとタコに至っては自ら裏切る可能性すらある。ならばやはり、連れて来ないで正解だったか。
いやしかし、それにしたってトンボと除念少女は惜しい。ただ、今行けばネテロに鉢遭う可能性もある。それだけは避けたいところだ。
「お困りですか?」
メルエムが悩んでいると、見かねたプフが話しかけてきた。
「ああ、実はな……」
今しがた考えていたことをプフに話すメルエム。
「なるほど。そういうことならば、わたくしめにお任せください。得意分野です」
確かに、プフなら楽に安全にできることだろう。
分身を使えば安全だし、鱗粉を使えばうそを見抜けるし、空を飛べば尾行の心配が無い。
「うむ。では任せた」
「はっ!」
言葉と共に飛び去って行くプフの分身体。
正直なところ、メルエムは感情の起伏が激しすぎるプフのことは苦手だったのだが、こうなってくると頼もしいものだ。
過ぎ去って行くプフの分身を見終えると、今度はユピーに捕まっているだけの暇な時間がやってくる。
特にすることも無いので、メルエムはピトーの後ろ姿を眺めることにした。
美しい肉体だ。すらっとしたしなやかな線は、女性らしい丸みも帯びていて、それでいて力強さも兼ね備えている。
足から臀部、くびれにかけてが特に美しい。胸は無いが、それが美しさを損ねてはいない。バランスや形がいいのだろう。
「にゃー」
メルエムがジッと見ていると、ピトーがネコらしい鳴き声を上げ、もぞもぞと動き出した。
「こらピトー! 我慢なさい!」
「うにゃ~」
このタイミングでピトーを叱りつけるプフ。
ピトーはごまかす様にネコらしい声を出すのだが、さすがのメルエムにも言いたいことは分かる。
「ああ、視線を感じて恥ずかしかったのか。悪かったな」
「う~」
申し訳なさそうな声を出しながら頭を下げるピトー。
その通り、と言いながらごめんなさいとも言っているようだ。
「王! 謝る必要はありませんよ。ピトーが我慢すればいいだけの話なのです。この程度臣下なら我慢して当然。いえ、我慢できなければいけないことなのです。分かってますね。ピトー」
興奮してピトーを叱りつけるプフ。
理不尽な、それでいて当然でもある上下関係を押し付けられ、ただプフの言葉を受け入れるしかないピトー。「にゃあにゃあ」などと意味の無い言葉を発して無駄な抵抗とも反省とも分からない行動に出ている。
責められるピトーはかわいそうで、それと同時にかわいいものだ。
そう思いにっと笑うメルエムは、ピトーにどこか愛らしさを感じていたのだった。