旅団狩りRPG   作:GGアライグマ

5 / 33
王の威厳

「下がりなさい。王に対し、そのような不躾な対応はこれ以上許しませんよ」

 

 メルエムが「王になってやろう」と宣言したすぐ後に、プフが出て来てヒナを下がらせた。

 怒っているような口調だが、その顔には隠しきれていない笑みが浮かんでおり、誰がどう見ても喜んでいるようだった。

 このタイミングでこの笑顔で出てきたということは、ヒナがメルエムに「王になる」という旨の発言をさせる可能性を考え、無礼と思いつつもわざと止めなかったのだろう。

 プフを除いたこの場にいる全員がそう確信に近い予想をした。

 

 プフの能力を知っているメルエムやピトーは、もしやと思い鼻から大きく息を吸い込む。

 彼らの予想通り、鱗粉の匂いがした。使っていたのだ、精神に作用する念能力を。それも、興奮させ自信を深めさせる類のものであった。

 つまり、プフはむしろ、ヒナが王の内面を探れるように、積極的に後押ししていたということだ。

 

 何が不躾か。狸め。

 

 怒りというわけでは無いが、やはりプフは苦手だと、メルエムはそう思った。そして、同じく鱗粉に気付き、おそらく同じ考えに至っているだろうピトーの方を見て、同意を得ようとする。

 しかし、ここで予想外の、いや、ある程度予想通りだったことが発覚する。

 ピトーがプフとヒナの方を向き、賞賛の笑顔を送っているのだ。護衛団としてはやはりメルエムに王になってもらいたいのだろう。周りを見てみると、ユピーもピトーと同じような反応をしている。護衛団以外のキメラアントは、ヒナの勇気や残した結果に対し素直に賞賛と、どこかしら敬意の視線と、リスクを背負う積極性に一部畏れを抱いているようだ。

 とにかく、大なり小なりみんなが喜んでいるのだ。プフに踊らされたようで癪だが、こうなってくるとメルエムもどうこう言いづらい。

 

「ヒナはまだ礼儀がなっていないようですからね。後でしっかり特訓しましょう。ああそうだ。ついでにピトーも一緒に」

 

 機嫌よくそう言うプフ。何か褒美を期待して喜ぶヒナ。王説得に貢献したことだし、まあ今回くらいは言うことを聞いてやろうと、面倒くさそうにうなずくピトー。

 その様子を見たメルエムは、このままでは何やらプフが図に乗っていきそうで、いけ好かなかった。

 

 

 その後、ヒナと分身プフが買い出しに出かけて、メルエム達は新しい生活を始めていった。

 住む場所は地下。部屋はそれほど大きくは無いものが4つ。

 メルエムの部屋と、護衛団の部屋と、ヒナの部屋と、他のキメラアントの部屋だ。

 食材は基本は適当に魚や山菜を取って食べる。元がいろんな動物のキメラだから人が消化できない食物繊維も消化できる。調味料など他にほしいものは買い出し。

 料理はかわいい女の子のものを食べたいというメルエムとタコとカメレオンの要望でピトーとヒナが作った。普通においしくいただく。その時、メルエムが「料理の腕はおそらくプフの方が上手だが、気分を加味すればこちらの方がおいしい」などという迷言を残す。王の威厳は地に落ちたが、代わりにタコやカメレオンと仲良くなれた。メルエムとしては万々歳である。当然ながらプフは不満を感じながらその様子を見ていたわけだが。ピトーとヒナはそういう状況を見て楽しんだ。ユピーとトンボは無関心だ。

 

 

「まず敬語と言うのには大きく三種類あって、それぞれ尊敬語、謙譲語、丁寧語と呼ばれています。ここまでよろしいですね」

「はーい」

「うにゃー」

 

 食事も終わり、スケジュールの空いた時間になると、プフは宣言通りにマナー講習のようなものを始めた。

 褒美を期待していたヒナはややがっかりして、それでもこの後ご褒美があるのだろうと、期待に胸をふくらませているようだ。講習に対するやる気はほとんどない。

 ピトーの方はいつもよりマシという程度で適当に聞いている。これまたやる気はほとんどない。

 プフの方もそれに気付いており、若干顔をひきつらせているのだが、メルエムの王になる発言で機嫌をよくしているためか、そこまで苛立ってはいない。

 

「会話している相手を敬う時に使うのが丁寧語。行為している相手を敬う時に使うのが尊敬語。行為する自分を下げることで相手への敬意を示すのが謙譲語です。これもいいですか」

「はーい」

「にゃおーん」

 

 ヒナと比べてもいいかげんなピトーの返事を聞いて、ピトーに不審そうな表情を向けるプフ。

 

「ではピトーさん。『僕のお話を聞いていただきたい』という文章はどこがおかしいか分かりますか?」

「うーん。僕なら『僕の話を聞いて』って言うかにゃ」

 

 うーん、と言いながら大して考えているように見えないピトー。しかも、その答えはプフが期待したものとも、はずれとして想定していたものとも違っていた。敬意の示し方、敬語の使い方の間違いの指摘をしてほしいのに、敬語を使わないと来たのだ。これは話の流れからしてありえない。というより、初めからさして話を聞いていなかったのだろう。

 ここへ来て、プフはいつも通りに苛立ちを見せ始める。

 

「それじゃあ敬語を使っていないではないですか。そういうことを言っているのではありません。話を聞いていたのですか?」

「聞いてたにゃ」

「では今までに言ったことをまとめてみてください」

「うーん。敬語は大事ってことだにゃ」

「……それだけですか?」

「にゃおーん」

「さっきからなんなんですかそれは。どういう意味なのでしょうか」

 

 正直な話、ピトーは面倒だから敬語を使わないだけで、覚えるだけならすぐにできるだろう。

 それが分かっているだけにプフはなおさら苛立つのだ。

 

「くっくっく」

 

 と、この光景を見ていたメルエムが笑う。

 実力を認めているとは言え、人(人ではないが)をいいように操ろうとするプフにはやはり思うところがある。だから、彼が無視されたり苛立ったりしているのを見るのはおもしろいのだ。どこかすっきりするのだ。

 

「王! 王からも何か言っていただけないでしょうか!」

 

 心底敬っている王とは言え、やはり笑われるのは気に入らないようだ。やや不躾な依頼の仕方をするプフ。

 不躾というのを気にしたわけではないが、ここで一つ、人を思い通りに動かそうとするプフにお灸をすえてやろうと、メルエムは軽いゲーム感覚でそんなことを思った。

 

「そうだな。俺からもお前らに言いたいことがある。ピトー、ヒナ。こっちへ参れ」

 

 真剣な顔になってピトー達の方を向き、手でこちらへ近づくようにと合図しながらそう言うメルエム。

 ピトーとヒナにとってメルエムのこの態度は意外だった。まず驚き、次いで気まずそうな顔になる。

 プフは笑みに顔を歪める。

 そうして二人がメルエムの傍まで来た時、叱るかそれに似たことをするのだろうという3人の予想を裏切り、メルエムはやさしく笑った。

 

「なぐさめてやろう。プフの言葉にはけっこうトゲがあるからな。しんどいだろう」

 

 2人の頭をやさしくなでるメルエム。唐突なことに固まってしまっているピトーとヒナに対し、作戦成功とばかりににやりと笑ってみせる。

 ピトーとヒナも笑うメルエムを見て状況を理解し、同じようににやりと笑う。

 

「王ーーー!!!」

 

 残されたプフは一人、苛立ちを露わにするのだった。




イライラしているプフを描くのが楽しい。かわいそうだけど。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。