イライラしているプフを見て楽しんだ後に、メルエムは自室でヒナ、ピトー、タコ、カメレオンを招きトランプで遊んでいた。時刻は19時を少し過ぎたところである。
と、そこへ一人の男が入ってくる。背はプフと同じくらい。そんな男はいないはずなのだが、別に敵というわけではない。
「どうぞ召し上がりください。王」
そう言ってどんと樽を置くのはユピー。自身の肉体をオーラ満点の液体に変え、それをメルエムに飲ませようというのだ。これは、メルエムからの命令だ。
そうすることでメルエムは強くなることができ、おそらく飛行能力も手に入るため、ユピーも喜んで受け入れた。というより、彼の場合は完全に私心を無くしてメルエムの言いなりになっているため、何と言われようと喜んで受け入れるだろうが。
しかし、その樽を目の前にしたメルエムの顔色は優れない。
「とうとう来たか」
どこか悟ったようにそうつぶやくメルエム。おいしいとは言え、ユピーの出汁と考えると絵的にきついものがあるため、気分が優れないのだ。
「王。何かいたらぬところでもありましたか?」
しかし、そんな心情を今このユピーに言うわけにもいかない。わざわざ身を削って、体を小さくしてまで用意してくれたのだ。今も本気で自分に非があるなどと疑っているような純粋な人間なのだ(人じゃないけど。魔獣が元のキメラだけど)。
「いや、問題ない。ありがたくいただこう」
だから、メルエムはユピーに心配をかけさせまいと平静を装うと、勢いよくユピーの出汁を飲み出した。
その瞬間、メルエムの目がカッと見開かれると共に、力強い、生気あふれるオーラがメルエムから噴き出した。
「わっ」
「ひっ」
「あわわ」
「おお!」
「わあ!」
オーラに押され、たじろぐタコとカメレオンとヒナ。喜びと共に興奮するユピーとピトー。
「うまい。めちゃくちゃうまい」
メルエムは目を細め、ほほを、いや全身のゆるめ、おいしいものを飲めたその喜びを、生への感謝を表現した。
そうして、我慢できないと言った風に一気にユピーの出汁を飲み干すと、感謝の言葉をかける。
「ありがとうユピー。うまかったぞ」
「ありがたき幸せにございます」
ユピーも破顔し喜びをあらわにする。
それはあやしい宗教に入れ浸った人が見せるような気持ち悪い笑顔だったのだが、気分のいいメルエムにはそんなことは気にならなかった。
その後、外に出て飛べるようになっているのを確かめたり、どの程度オーラが増えたのか確かめたりして、その成果への感謝も合わせてユピーをしっかり褒めた。
そして、それも終わり再び自室へ戻るとまた同じメンバーでトランプに興じる。
「なあメルエム。本当にうまいのか? あんなものが」
そう言うのはカメレオン。もう完全に友達感覚で、プフが望むような上下関係は一切ない。
「ああうまい。至福。至って福だよまったく」
気分のいいメルエムはよく分からない言い回しを使ってみたりする。
「いや、でも俺は飲みたくねえなあやっぱ。それに、メルエムは能力もあっておいしく感じるんだろう?」
そう言うタコも、カメレオンと同じく敬意の欠片も無い。
「まあそうだろうな。それに、キメラの王の特性も強い細胞をおいしく感じるのに役立っているはずだ。だから、お前達にはあのおいしさは感じられんだろうな」
満足げにそう語るメルエムはまだどこか上の空だ。
「ふーん。でも、あんな男の汗みたいなものがおいしくてもうれしくないような」
ヒナなど敬意がないどころか明らかに失礼な発言だ。とは言え、もちろんメルエムは怒ったりはしない。
「私、そっちの気質はないから。ちょっと気持ち悪いかも」
「うっ」
とは言え、さすがのメルエムもこの言葉はグサッと心に響いたようだ。ちょっと焦ったような顔になる。
「ヒナ。あんまり言うと、王はよくても僕は気分がよくないのにゃ」
慕っている人を馬鹿にされて腹が立つというのは当然のことだろう。ピトーはヒナに爪を見せて脅しにかかる。意識してか無意識か、オーラも漏れている。
「ああ、違うのピトー。これはなんというか……そうよ! 口直しよ口直し。今王に必要なのは女性の色香だって、そういうことが言いたかったのよ私は」
まがまがしいピトーのオーラに当てられて焦ったヒナは適当なことを言ってみる。
しかし、これが案外効果的だったようで、ピトーはスッと落ち着き、手を引っ込めた。
メルエム他男性陣は、ヒナが何やらいいセリフを言ってくれたので乗り気になる。
「なんだヒナ。何かやってくれるのか?」
「ええ? ああいや、その」
「女性の色香か。確かにな。俺はそういうのは歓迎するぞ」
煽るカメレオンとメルエム。焦るヒナ。
ところが、そんな人たちをよそに、王の言葉を聞いてピトーは何やら真剣な表情になっている。ピトーは実は、王を喜ばすことに成功してうれしそうなユピーに対し、憧れや嫉妬のような感情を抱いていた。それで、自分も何かやりたいと思っていたのだ。先ほどヒナに対し攻撃的な態度を見せたのも、このことで気が短くなっていたというのが一因となっていた。
「なあ、ところでさ。ピトーって女なのか?」
それは突然のこと。空気を読まないタコのこの発言に、場は静まり返る。
それを察知し、しまったという思いと共に焦りを見せるタコ。苦笑し、許しを請おうとするが、時すでに遅しである。
「ああ? ふざけんじゃねえぞてめえ!」
「んなもん決まってんだろうが馬鹿が!」
今までにない真剣な顔で怒りを示すカメレオン。メルエムも旅団への憎悪を語る時のような鋭い視線でそう吐き捨てる。
メルエムは莫大なオーラでもってタコを威嚇しており、タコはもう虫の息だ。
「ご、ごめん」
目に涙を浮かべ、男2人に謝るタコ。
「謝る相手が違うだろうが!」
しかし、その言葉を聞いた2人はよりいっそう怒りを露わにする。
「ひっ」
タコは完全に縮こまってしまった。
「ごめん。ごめんよう、ピトーさん。いや、ピトーさま」
そして、おろおろと涙を流し、必死にピトーに謝る。
「僕は別に気にしてないにゃ。自分でも紛らわしいという自覚はあるし、疑問に思うのも仕方ないにゃ」
正直なところ、ピトーは怒る男2人の反応についていけていない。しかしなんとなく、ここで許せばいいのだろうと、そう思った。
「ちっ、しゃあねえ。許してやるか」
「まあピトーがそう言うならな。だが次はないからな。イカルゴ」
「わ、分かった。肝に銘じておくよ」
男2人の怒りは冷めたようで、タコもようやく緊張感から解放される。しかし、これがよっぽどこたえたようで、この後しばらくタコは一言もしゃべらなかった。