「そう言えば、女の色香についてはどうするんだ? ヒナ」
タコが反省し、場の空気が静まって来たところでふとメルエムが口を開いた。
ヒナは目を開いたまま固まってしまう。ヒナにとってみれば、もうその話題は終わったと思い安心していたところへ、ふいを突かれる格好となっているのだ。
これにはカメレオンも若干の同情を覚えたようで、しんみりした顔になっている。
ヒナはそれに気づき、カメレオンにすがるような表情を向ける。
しかし、カメレオンはすぐにおやじとしての精神が同情心を凌駕したようで、ヒナに何かを期待するような目を向けるようになった。
裏切ったな、カメレオンめ!
口には出さないが、ヒナはそう心の中で念じながらカメレオンをにらむ。
カメレオンは素知らぬ顔だ。自業自得とか、メルエムに逆らいたくはないとか、そんな感じのことを態度で示す。
「ははは。まあ嫌なら無理に何かをしなくてもいい。今の俺は性欲はそれほどでもないしな。人間だったころの8歳児くらいだ。たぶんな。心はおっさんだが」
そんなヒナとカメレオンのやり取りを見て、問題を掘り返した張本人であるメルエムも気が変わったようだ。
その言葉を聞いてヒナはホッと一つ息をつき、カメレオンは少し残念そうにため息を吐く。
「ああ、俺は性欲もおっさんのままだかんなあ。大変だよ。こんな姿じゃあ人間の女は無理だろうし」
愚痴を一つつぶやくカメレオン。それにメルエムが反応する。
「まあそこまで悲観することは無いさ。念能力は奥が深いからな。特にお前は体を変化させるのが得意なわけだし、ちょっと頑張れば人間っぽい変化もできるんじゃないか? 他人に変化の念をかけてもらう方法もあるし」
それに、と続けるメルエム。
「大事なのはここだろ」
言って自身の心臓の辺りを右の握りこぶしでドンと叩いて見せるメルエム。カメレオンはこんな風な性格だったという記憶がおぼろげにあるので、真似して言ってみたのだ。
「意外だなあ。お前がそういうことを言うなんて。だが、それには俺も同意だぜ。やっぱ大事なのはハートだよな。見た目も大事かもしれないけどよ」
「私は見た目が良くて性格もいい人がいいかな。あとお金持ちで約束を守る」
と、ここで黙っていたヒナが会話に混ざって来た。しかもいきなり欲全開で。
「ヒナよ。気持ちは分かるが、女の子はもう少しおしとやかな方がいいと思うぞ。俺は」
「そういうことは分かってるって。ここの男性陣なら大丈夫だと思って言ってるから。私だって時と場合を考えて、必要な時はネコ被るよ」
「ははは。そりゃ失礼したな」
半ば反射的にヒナをたしなめたメルエムだったが、ヒナの人を見る目を高く評価しているので、このままでもいいかと、笑いながらそう考え直した。
その後も、このようなゆるい雰囲気でトランプに興じた。
深夜になると、どこかのお母さんっぽい雰囲気のプフが寝るようにうるさく迫ってきて、抵抗するのも面倒なので解散となった。
次の日からも似たような生活を送った。
全員で食料や金になりそうなものを調達し、ヒナとプフが買い出しに出かけ、ヒナとピトーが料理を作る。メルエムはプフが用意した教材で勉強し、カメレオンやユピーは変身する念を覚える。ピトーの円とトンボの能力で島の隅々まで監視し、住民が近づくとプフの鱗粉で操って見つからないようにさせる。タコは特にすることもないので遊んだり念能力を訓練したりだ。夜はトランプやゲームで遊ぶ。
そうして、1か月ほどしてとうとうユピーが人間らしく変化する能力を手に入れた。とんでもない才能。さすが護衛団と言ったところか。
さっそく出汁をいただくメルエム。初めは若干ヒナの視線が気になったが、飲んでいるうちに気にならなくなった。それくらいとてつもなくおいしいのだ。二度目だが、おいしさには特に変わりは無かった。
その後、試してみると狙い通り変身能力は使えるようになっていた。
これら一連のことについてメルエムはユピーを褒めた。ユピーは大喜びだ。
そして、変身もできるようになったためこれでくじら島生活は終わりだ。タコとトンボはあれだが、他はキメラアントであることをごまかせる。
メルエムとユピーは変身。カメレオンは透明化。ヒナとピトーは服で隠す(猫耳はかつらで隠す)。プフは人形のフリをする。こんな感じだ。
今後の予定は、メルエムとユピーが天空闘技場でお金を稼ぎ、プフとピトーはネットなどで旅団の情報を集める。護衛団以外は、ある程度自由に遊びまわればいいということにしている。旅団の情報を得ればお金をあげようとか、仕事に関してはその程度だ。
ただ、異形である彼らには遊べてなおかつ安心できる場所があまり無いため、特にヒナやカメレオンなどは、両方を満たせるメルエムのそばから離れるつもりはないようだ。