天空闘技場への出発を明日に控えた日の夜、メルエムはピトーとヒナを部屋に呼び出した。形としては、ピトーにヒナを連れて来るように命じてだ。
「ちょっとピトー。本当なの?」
「本当だにゃ」
女性陣2人を呼び出したとあって、ヒナはもしやと慌てている。軽い言葉使いとは裏腹に、ピトーもやや興奮状態だ。
「どうして? 性欲はまだまだ子供なはずだったのに」
「さあ、分からないにゃ。とりあえず、来てほしいにゃ」
焦りを見せるヒナ。しかし、ピトーはそんなヒナを急かす。
「断れないの?」
「ダメ。王は真剣だったにゃ」
「そんなー」
嘆きながらも、ヒナはさして抵抗せずついて行く。王の命令を遂行しようとする護衛団の意志の強さは知っているし、実力的に抵抗しても無駄なだけだからだ。
こっちに来て失敗だったかもしれない、ヒナはそう思った。
しかしすぐに切り替え、王の子を産めるなら悪くは無いかもしれないとか、メルエムは顔は悪くないよねとか考えることにした。
ピトーは戦闘態勢に入っているかのごとく、かなり集中している。ユピーばかりいい思いをしていることが気になっており、今回が挽回のチャンスだと思っているのだ。
「王、ヒナを連れて来たにゃ」
ヒナとピトーが王の部屋の前に立つ。
「ああ。ありがとう。入ってくれ」
ピトーは王の言葉を聞いて中に入って行く。
次いでヒナも入るが、ヒナの方は無言だ。ちらちらとベッドに座るメルエムの方を見て、真意を量っている。
「とりあえず座って楽にしてくれ。長い話になるからな」
言われた通りに座るピトーとヒナ。
メルエムの顔は真剣そのもので、ヒナはさっきとは違った緊張感に包まれる。
「まずは俺の昔の話だ。前にも話したが、俺は前世、緋色の目を持つクルタ族の人間だった。そして、幻影旅団に殺された。家族もろとも。散々嬲られ、汚された果てに」
かみしめるように語るメルエム。
ピトーもかなり真剣な顔になって聞いている。
そのピトーの顔を見て、ヒナも表情を引き締めていく。
「そうして次に俺はこの世界の創造主に憑依し、その次には星ごと木端微塵にすることができるような、とんでもない魔人に憑依した。その次にこうしてメルエムとなって生まれ変わったわけだ」
普通はありえないと一蹴するような話だが、メルエムに心酔しきっているピトーは当然のように信じた。
ヒナは今まで半信半疑だったが、メルエムがとても真剣な顔をしているので、ほぼ真実らしいと考え直した。ヒナ自身も転生を経験しているし、護衛団のとんでもない念能力を見るに、王ならそういうこともありえると、そう思えたのだ。
「俺は創造主としても魔人としても旅団を殺してきた。その時、瞬間的に満たされはした。だが、それもすぐに無くなった。あんなに殺したくてたまらなかった連中を殺すことができたと言うのに」
下を向き、過去を思い出すように一つ間を置くメルエム。
そして再び語り始める。
「あっけなさ過ぎるせいだと思った。実力の次元が違っていて、現実味が無いからだと思った。だが、今このメルエムとして旅団を殺せたとしても、やはり俺は満たされないと思う。もっと弱い体で蜘蛛を殺せたとしても、最初の俺の肉体で旅団を殺せたとしても、それは同じ。やはり喜びは瞬間的なものでしかないだろう」
再び間を置くメルエム。今度は未来を思っているようだ。
そして再度語り始める。
「そんなこと、考えてみれば当たり前のことだった。俺が本当に欲しいものは旅団の死ではなくて、あの幸せだった頃の時間だからだ。だから、俺が今世に生を受けてすべきこと、本当にしたいことも旅団殺しなのでは無く、その先に何かがあると思うんだ」
魔人ブウの時はそれほど思わなかったが、メルエムとなってから、この男は生きる意味について深く考えるようになっていた。
メルエム自身も気付いているが、魔人ブウの時より思案が深くなっているのは精神が肉体の影響を受けているからでもある。
メルエムは生きる意味について思い悩んでいたキャラであり、魔人ブウは悩みとは無縁のキャラであった。
「ちなみにだが、創造主になった時も魔人になった時も家族の復活は目指してみた。だが、創造主の世界からはこっちに来れなかったし、魔人の時は惜しかったけど、魔人の力が強すぎて家族を復活させられなかった。なんでも、俺の中に俺の家族の魂も混じっていて、そいつを別の器に入れなければ生き返らせることができないらしい。しかし、魔人の力が強すぎて俺の内部には干渉できないから、結局家族を生き返らせることはできなかったんだ」
ドラゴンボールを7つ集めることで出てくる神龍は人を生き返らせることができるが、神龍を作った人物より強い人間の内部に深く干渉することはできない。ナメック星人最強のピッコロですら魔人ブウの実力にははるかに及ばず、そのピッコロより大分弱いデンデや現最長老では比べるべくもなく劣っているため、魔人ブウの中にある魂を別の体に移すことはできなかった。
「今回も家族の復活を望みはするが、それに囚われるつもりはない。それ以外のことで、俺は何かをつかんでみたい。この世に生まれて来て良かったと思えるような何かを」
メルエムは今回アルカの能力を使う気は無い。それで家族が復活できたとしても、代償が怖いからだ。キルアの命令にしても、アルカが何年も眠り続けるぐらいのダメージを負ってしまう可能性もあり、それはかわいそうだから頼めない。
「それで、ここからがお前達に関わってくる話だ。今までのは前置きだ。長くなってすまない」
本題ということで声の調子を変えるメルエム。若干明るくなる。
「お前達は俺達の中でも優先順位についてよく考えて行動している方だと思う。ルールに縛られなず、一般論に縛られず、自分で考えて動いている。もちろん他人の意見も参考にする部分は参考にするし、自分を絶対視してもいないがな」
そうだろう? と、メルエムは目で合図を送る。ピトーとヒナは同意を示すようにうなずいてみせる。
「だから、お前達はある意味で幻影旅団に近い。優先順位次第では、すぐにでも蜘蛛になれるだろう。俺にはそう思える。それが不満というわけでは無いがな」
不満では無いことを示すように明るい調子で話すメルエム。しかし、話題が話題だけにピトーやヒナは申し訳なさそうな顔になる。
とは言え、否定はしない。メルエムの言う通り、条件次第で自分は旅団員にもなるだろうと、彼女たち自身がそう思ったし、メルエムが現状の自分たちに不満を抱いているわけでもないことも本当らしく思えたからだ。
「むしろお前達のことは気に入っている。好きとも言える。一緒にいて楽しいからな。しかし、人間性は蜘蛛に近いかもしれないんだ。俺が大嫌いであるはずの蜘蛛に。あいつらもルールを守らず、自分で考えて動いてるしな。それに、仲間にやさしく敵に容赦ないというのも、人類を敵、キメラアントを味方と見た時のキメラアントの行動に似ているし」
真剣な話をしている最中なので表情は変えていないが、ピトーはメルエムに好きと言われて喜んでいた。
ヒナは少しこそばゆく思ったが、こちらも空気を読んで表情は変えていない。
メルエムの話は続く。
「このことがどうも引っかかるんだ。ならば俺は、蜘蛛を好きになる可能性もあるのではないかと。俺が蜘蛛になってしまう可能性すらあるのではないかと。どう思う? 正直に話してほしい」
そう2人に尋ねたところで、メルエムの長い話は打ち切られた。
王の期待に応えようと、ピトーはかつてないほどに集中して思考を始める。
それを見たヒナもあわてて真剣に考え始める。ここで適当なことを言えばピトーに怒られそうで、怖かったからだ。