ムイシキデイリー   作:失敗次郎

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サブタイトルと内容、合ってるのかな。
なんとなくでやってるからなー。


イドの解放

 人は危機に直面した時、何を思うのか。

 危機を回避したいと思うだけである。例えその危機の発端が自分であれ、それが仕方のないことであれ、何にせよ人は平穏を取り戻すことを最優先とする。

 そして、その手段は大きく分けて二つ。

 一つは事態を解決する方法。例えば自分が無差別殺人事件に巻き込まれそうになったら、殺される前に犯人を見つけてしまえばいいのだ。犯人を捕まえれば、自分を殺す者はいなくなる。危機はなくなるというわけだ。

 もう一つは逃げる方法。上記の例に則るならば、殺人犯から逃げ続けるということだ。そのままだけど。

 手段は二つあっても結果は同じ。ならばどんな理由でどちらを選ぶのか、だが……実行可能かどうか。あるいは実行後のこと。これらを考える必要がある。

 それらを踏まえた上で、この状況を考察してみよう。問題点を一つずつ挙げるのは探偵の初歩と聞いたことがあるので、それを実践。

 一。昨晩のお店巡りの後、家に帰って寝るまでの記憶がない。

 二。目が覚めたら翌日。財布の中が二円。

 三。更にはこいしちゃんと同じ布団で眠っていた。

 現状は以上だ。そして、これらから推測できることを考えてみる。

 一。つまりは何をしていたのかわからない。故に何をしていたとも考えられる。

 二。恐らくは店巡りの結果だろう。しばらくもやし生活である。

 三。ぼくの本性がロリコンである可能性。否定したい。否定する。否定させてください。

 最大の問題点は三番だ。これはつまり…………そういうことだろうか。「ゆうべはおたのしみでしたね」という意味だろうか。ふむ、それなら一番の疑問も解決……してたまるか。

 つまり。ぼくは受け入れるという方向性以外でこの問題を解決したいわけだ。全部ぼくの勘違いで済ませたいのだが、いかんせん状況が悪すぎる。ぼくがぼくを信じられない。よって、ここは最悪のシナリオを前提に話していこうか。ぼくが性犯罪者と化してしまった場合の話。

 逃げるという選択肢はどうだろうか。もう全部忘れてどこか山奥で余命を過ごそうじゃないかという案。実行可能か。できるだろう。今でこそこいしちゃんに足首を折れそうなぐらい握られているが、戯言にまみれたぼくに不可能はない。脱出は正直、いつでも可能だ。

 問題は実行後。一回だけこいしちゃんから逃げたことのあるぼくの経験からすると、絶対捕まる。そしてこう言われるだろう。「責任とってよ」。なんという呪い。憐れ、ぼくは彼女から逃げ切ることはできないのだ。

 ここで最初に振り返ろう。逃げる以外の選択肢。事態を解決する。ぼくが認知する……ダメだ。これは解決じゃない。その場の空気に流されるというんだ。諦めるというんだ。

 何かあるはずだ。何か……!

 

「いーちゃん? どうしたの?」

「…………何でもないよ。それよりこいしちゃん。その手、離してくれるかな?」

「手? なんの…………ありゃ、しっかり掴んでるね。ごめんごめん」

 

 眠そうに目を擦りながら、そう言ってあっさり手を離してくれる。ん? もしぼくの妄想が真実なら、相手を逃がすようなことはしないのではないか? つまり全てぼくの被害妄想ということに――

 

「いやー昨日は凄かったね」

「やっぱりか!」

 

 そうは問屋が卸さなかった。ぼくの方に記憶がなくてもこいしちゃんが覚えている。言い逃れはできない。

 いっそのこと、彼女に確認取るか? 凄い怖いけど。……そうだ、このまま悶々としていても何も変わらない。今のところぼくは自分の中で全部解決させている気がする。それじゃダメなんだ。周りの声をしっかり聞いて、問題を再認識。問題がなければオーケー、問題があるならみんなと解決する。協力、協調の精神だ。

 聞くぞ。昨日何があったのか。聞くぞ、聞くぞ、聞くぞ!

 

「こいしちゃん」

「どうしたの?」

「昨日のことだけど、さ」

「うん」

「…………もやしって美味しいよね?」

「…………そうだね。けど量がおかしかったよね?」

「すいませんでした」

 

 言えない。言えるわけがない。

 何て言えばいいんだ。くそっ。こんな前読んだラノベみたいな勘違い系のストーリーなんて誰も望んでないんだよ。誰だよ、人の不幸で飯が美味いなんて言った奴。お前の望んだせいでぼくがこんな目に合ってるの、わかってるのか。

 ええい、次だ。人はやり直すことができる。

 

「こいしちゃん」

「どうしたの?」

「昨日のことだけど、さ」

「あれ? デジャヴ」

「…………ぼく、昨日の記憶が飛んでるんだけど、何があったんだっけ?」

 

 い、言ったぞ。ちょっと曖昧な聞き方になってしまったけど、これでもしぼくが思ってたことがあったとしたらこいしちゃんがキレかねない質問だったけど、それでもぼくは言った。

 こいしちゃんは頭の上に「?」が浮かんでそうな表情だったけど、ぽつりぽつりと昨日のことを話してくれた。

 

「えっとね、もやしまでは覚えてるの?」

「うん」

「その後は外にご飯食べに行ったんだよ。回らないお寿司」

「マジっすか」

「大マジっす。それで……いろいろ回ったからなあ。どこ行ったっけ…………ああ、お酒も飲んだよ」

「ほ、ほう」

 

 酒。アルコール。……マズイ流れだ。

 てかこいしちゃん。酒飲んでいいの? 店員さんはそれを許したの?

 

「他……魚見に行ったよ。暗かったの、残念だったなー」

 

 それは閉店してたからです。

 さっきからぼくが覚えてることばかりだ。……杞憂だったか? 多分そういうことがあったら真っ先に言うだろう。そうでないということは、ずばり、何もなかったということだ。

 

「――――あ、そうだそうだ。それとね」

「ん? 何を?」

「帰ってきてから一緒にお風呂入ったよ」

 

 ……………………。

 ……………………?

 ……………………!?

 

「気持ちよかったよ」

「ちょっと待った」

「うん。わかった」

 

 ヤバイやつだこれ。

 ぼくはあれか。こんな少女と一緒に入浴したというのか。

 犯罪者、いーちゃん。少女を部屋に連れ込み、一緒に風呂にまで入る。これは言い逃れできない。

 

「どうすればいいんだ……これじゃ行為はやってなくとも犯罪じゃないか…………」

 

 考えろ。人は考えるのをやめたら終わりだ。ぼくにとっての理想は「全部嘘でしたー」なんだけどそうはいかない。いや待てよ? 入浴だけだったら黙っていれば済む話なのでは?

 

「こいしちゃん。その時のことはぼくたちだけのシークレットだ。オーケー?」

「え」

「…………何その反応」

「ナンデモナイデスヨー」

「まさか、もう誰かに言ったの?」

「言ったというか…………伝えたといいますか?」

 

 人生終了。ぼくはこれからロリコン性犯罪者という汚名を背負って生きていかなくてはいかなくなってしまった。生き地獄とはこのことか。

 ぼくはゆっくり立ち上がり、山篭りの準備を始める。

 

「あ、あのー。いーちゃん?」

「何がいるかな……。お金はいらないだろうし、サバイバル道具だな。ナイフは必須かな」

「おーい。聞こえてますかー」

「…………ナイフ一本でいいんじゃないか? 後は全部現地調達で」

「…………えい」

 

 太腿を殴られた。

 痛い。

 

「こいしちゃん。どうしたの?」

「どうしたの、じゃないよ。話聞いてよー」

「ごめんごめん」

「どうかしたの? 死んだ眼が腐敗した眼になってるよ?」

「どっちのほうがいいのか判断に困るね。ぼくはね、こいしちゃん。君にはわからないかもしれないけど、世間的には最低な行為を働いたんだよ」

「ふむふむ。箸を使って寿司を食べてたことかな?」

「それはどっちでもいいと思うけど。普通はね、家族でもない限りは、男女が一緒にお風呂なんてとんでもないんだよ。ましてや年の差がこんなに開いてる。ロリコン認定される。社会的死刑宣告待ったなし」

「なんとまあ。じゃあ私もそのロリコンになるの?」

「それは違うよ。ロリコンっていうのは年下の女の子に欲情する変態のことだよ」

「いーちゃんは変態だったというオチ?」

「そうじゃないと思いたい」

「曖昧だね」

「確信がない」

 

 …………はぁ。どうしよう。ぼく自身にその自覚はなかったけど、それはつまり自覚のない変態ということだ。一層手をつけられない。今後も無意識で同じ事件を起こしたらどうしようか。

 自首、牢屋、孤独……これだ。

 

「ちょっと警察行ってくる」

「ストップいーちゃん」

 

 玄関に向かって歩こうとしたところで、こいしちゃんに止められる。

 こいしちゃんはと言うと、昨日作ったパソコンを不慣れな手で操作していた。

 

「どうしたの?」

「ロリコンっていうの調べてみたけど、いーちゃんには当て嵌らないよ?」

「…………気を使ってくれてるの? ありがとう。けど、このままいたらまた犯罪に走るかもしれない。こいしちゃんの気持ちは嬉しいけど、ぼくはやっぱり――」

「そりゃいーちゃんが私を誘ってーとかだったらアウトだけどさ、私がいーちゃんをお風呂に入れたもん」

「――――へあ?」

「つまり、ここにいーちゃんの意思はない。ロリコンとは違うってことだよ。QED」

 

 ……………………。

 まさかの急展開!?

 

「え、ちょ、こいしちゃん? どういうこと?」

「落ち着いて落ち着いて。ほら、深呼吸ー」

「大丈夫、落ち着いてる。…………で、説明お願いできるかな?」

「了解。まずはね、私たちはバーに行きました」

「行ったね。普段はぼくお酒は飲まないけど、飲まされたね」

「プレッシャーには勝てなかったよ。実に美味でした。で、いーちゃんはほろ酔いさんでした」

「うんうん」

「酔った勢いでいーちゃんは怖い人のところに行きました」

「暴力団事務所入ったのぼくだった!? ほろ酔いどころじゃなくない!?」

「いーちゃんが殴られそうになったところを、私がくすねてきたお酒で事なきを得たんだよ」

「助けてもらって言いたくはないけど、人のお酒を取ったら泥棒。わかった?」

「いーの。で、お酒を取られて不機嫌ないーちゃんは怖い人のところから出てやけ酒に走りました。お酒は私が盗ってきたやつね」

「…………あれ? 泥棒はこの際いいとして、あれ? 何だか嫌な流れ……」

「何ということでしょう。いーちゃんはその場で眠ってしまったのです」

「やっぱりか! 何だったんだよ昨日のぼく!」

「何だかいーちゃんは苦しそうに病院がー、とか言ってたけど寝言だと思って私はいーちゃんを連れてこの家まで戻ってきました」

「それ多分急性アルコール中毒! 前になったことがあるからわかるけど! 最悪ぼく死んでたのかよ!」

「無事家に着いたけど、いーちゃんは呼吸をしていませんでした」

「臨死体験してたのか」

「いーちゃんの目を覚まさせようと私は頑張りました。いーちゃんにヘドバンさせました」

「殺意しか感じねえよ!」

「そしたらいーちゃん、体内のものをすべて吐き出しました」

「ちなみに言っておくと、酔ってる人間に吐かせるのはやめましょう。吐瀉物が喉に詰まって死ぬことがあります」

「で、私はパソコンでどうしたらいいか調べながら後始末をしたんだよ。いーちゃんの汚れた服を脱がせて、お風呂に入れて体洗ってあげたりね。部屋も掃除したし」

「…………なるほど」

 

 色々突っ込んではいたけど、ひとまず納得はした。

 記憶が飛んでるのは酒のせい。風呂に入った云々も介護してもらってた。あと気になる発言もその時のもの、と。謎は全て解けた。

 つまり。ぼくは何の間違いも犯してはいなかった!

 よかった…………本当に、本当によかった……。ぼくはまだ、生きてて良いんだ。

 

「ありがとうこいしちゃん。何度でも言うよ。ありがとう……こいしちゃん」

「どういたしまして。あ、いーちゃんお腹空いてない?」

「んー……そうだね。お腹の中空っぽになってるんだろうな」

「だと思って、実は食事を用意してあります!」

 

 こいしちゃんはトテトテと冷蔵庫を開けに行く。その中から出てきたのは……コンビニ弁当だった。

 

「え? 弁当? どうしたのこれ?」

「ふっふっふ。パソコンを味方につけた私に好きはなかったのだよワシントン君」

「ワトソン君ね。どういうこと?」

「吐いた後、お腹が空くだろうと思ってね。何買ったらいいのかなってパソコンで調べたらこれが出てきたんだよ」

「…………え、何で?」

「ふふん。けどいーちゃん、お風呂入ってお湯かぶっても起きないんだもん。とりあえず食べ物は冷蔵庫に入れとけば間違いはないと思って冷やしといたんだ」

 

 こいしちゃんからの説明を聞き流しながら、ぼくはそのパックの上に貼り付けてある値段を見る。……うわ、こんなにするんだ。まあ結構の量があるし、値段もそれに見合ってお高くなるよな……。

 …………ふむ。

 

「こいしちゃん。これの代金は?」

「いーちゃんの財布から引いといたよ」

「そっか」

 

 ぼくは昨日の夜で、一体どれだけの金を飛ばしたのだろう。一体何日分の生活費を失ったのだろう。

 得られたものは平穏で、失ったものは未来だった。

 バイトか何かしようかな。

 

「いーちゃん。早く食べようよ」

「そうだね。……あ、割り箸はないんだ」

「私が貰っといたよ。はい、いーちゃんの箸」

「ありがとう」

「いただきます」

「いただきます」

 

 蓋を開ける。…………うん。予想通りに中々の匂いだ。辛味が匂いから伝わってくる。

 何で激辛弁当なんだよ。こいしちゃんが辛いの好きなのは以前のカレーでわかってたけどさ、ゲロった人に食べさせるにはスパイシー過ぎないか? まあいいや。食べよう。

 …………うん。辛いには辛いけど、あのカレーを知ってるぼくの敵じゃない。というか、この弁当、ほとんどキムチじゃないか。このメンチカツに見せかけたキムチ、これどうやって作ってるんだよ。衣もキムチじゃないか。どうしてぼくはこんなにキムチに好かれてるんだろう。別に好きなわけじゃないのに。

 

「ねえねえいーちゃん」

「うん」

「さっきロリコンについて調べてた時にさ、思ったことがあるんだけど」

「うんうん」

「恋愛って何?」

 

 恋愛か。

 中々難しそうなことを考えるな。ぼくもよくはわからないんだけど……ふむ。

 

「錯覚、なんて言われたりするよね」

「ってことは、気のせいってことなの?」

「気の迷いだね。恋に恋する、聞いたことない?」

「お姉ちゃんが言ってた。私が恋したいって言った時にね」

「そういうことだよ。相手のことなんて見ずに、恋をしたいから相手を愛する」

「じゃあ、錯覚じゃない恋ってあるのかな?」

「……………………」

 

 ぼくの頭に、心に常に見えていた少女がいる。

 何故そうなったか。恋か? 否、それは彼女がぼくに呪いをかけていたからだ。自分しか見えない、呪いを。

 ぼくには本当に彼女をそこまで想っていたかわからなかった。当然、それが恋と言えるのかもわからなかった。今でもわからないけど。

 仮にその感情を恋としてみよう。彼女しか見えてなかったのだから、彼女が何よりも優先されるべき存在だったのだから、そう形容しても問題はない。

 では、それは錯覚であったのか?

 本当に、彼女の呪いが全てだったのか?

 ぼくは、どう思っていた?

 

「……………………」

「…………いーちゃん?」

「…………わからないね。ぼくは恋したことがないもんで」

「そうなの? 青春しなよ」

「こいしちゃんだって経験ないんだろう?」

「まあね」

「…………戯言だね」

 

 ぼくたちは、同時に食事を終えた。

 

「ごちそうさま」

「ごちでした」

 

 ゴミ箱に二人分の弁当箱が捨てられた。

 こいしちゃんはまたパソコンに向かっている。あんまり夢中になりすぎると視力を落としたり、様々な弊害があるから気をつけて欲しいものである。

 ぼくは特にすることがないから、ボーッとさっきのこいしちゃんの質問について考えてみることにした。

 恋、か。

 人を好きになったりすることはあったけど、それは恋と呼べるものだっただろうか。もっと低俗な、もっと凡庸な、もっと滑稽な、そんなものな気がする。

 そんな気がする、ということは恋とはとても呼べるものじゃなかったんだろう。もし恋をしていたのなら、そんな風には思えないだろうから。何せ、恋は盲目とも言うからね。他のことなんて見る気も考える余裕もないだろう。

 錯覚と盲目。どちらも見ることに関係している。つまりは、恋をすれば見える景色が変わるのだろうか。それが錯覚なのだとしても、盲目なのだとしても、それをわかっていても、その景色はきっと、とても綺麗なものなのだろう。

 ぼくにも、その景色が見えるだろうか。感じられるだろうか。

 こんな、欠陥製品に。

 結論を出さずに適当に思考を切り上げようとしたところで、ピンポーンとインターホンが鳴った。

 

「…………誰だろう」

 

 ぼくの知り合いでインターホンを律儀に鳴らす人は限られている。たまに律儀な人を騙る赤い人がいるけど、それも最近は来ていない。だからこそ危険かもしれないが、むしろあの人だったら早く出ないとマズイ。

 

「はいはい、今行きますよー」

 

 ぼくは若干ダッシュでドアを開ける。

 宅配便の人だった。小さいダンボール箱を手にしている。

 

「お荷物をお届けに来ました」

「ああ、ありがとうございます」

「ハンコかサイン、お願いします」

「はいはい」

 

 ぼくは宅配便の人が持ってきたボールペンで名前を書く。

 

「…………はい、ありがとうございました」

「お疲れ様です」

 

 荷物か。送り先は……通販サイトか。

 昨日頼んだこいしちゃんのお姉さんへのプレゼントだな。

 

「こいしちゃん。お姉さんへのプレゼントだよ」

「もう届いたの? はっやーい!」

 

 パソコンから離れずに、ちょいちょいっとぼくに手招きしてくる。

 持って来いということか。

 前はもうちょっと遠慮があった気がするんだけどなあ。どうしてこうなってしまったんだろうか。ここを第二の実家として認識し始めたのか。

 そこまでリラックスしてもらえるのは嬉しいことなのやら、叱るべきことなのやら……。

 

「…………はい」

「ありがと。開けてみていいかな?」

「ぼくのじゃないしね。好きにしたらいいんじゃない?」

「オープン」

 

 ダンボールの中には、注文通りのキーホルダーがあった。……ふむ、画像で見たのより何というか……あれだな。気持ち悪いな。ぼくにセンスがないことが証明されてしまった。うーん、画像で見た時は良いと思えたんだけどな。

 こいしちゃんも「ないわー」みたいな目をしていた。

 

「ないわー」

「口でも言うんだ。ぼくに追撃するんだ」

「私はあんまり好きじゃないけど、いーちゃんはこういうの好きなの?」

「…………正直、ぼくもないわー状態です」

「欲しいって言ったのいーちゃんでしょ」

「欲しいとは言ってなかった気がするな」

 

 言ってないよな?

 こんなのどう、って勧めただけだよな?

 

「うーん。困ったなあ」

「そうだね。これをもらって喜ぶ人はいないだろうし……どうするの? お姉さんのプレゼント」

「ん? ああ、そういう話だったね」

「…………こいしちゃん。何か企んでる?」

「滅相もありません」

 

 絶対何か企んでる。

 あれか。あわよくば自分が貰おうとしていたのか。プレゼントと偽って自分のものにする気だったのか?

 それこそ、ないな。こいしちゃんがそんなことする子だとは思えない。

 

「むむむ…………あれ、このキーホルダー、簡単に剥がれちゃうね」

「メッキが? 本当だ。妙に安いから気にはなってたけど、不良品だったわけだ」

「…………閃いた」

 

 こいしちゃんが立ち上がって、猫キーホルダーを持って外に飛び出した。

 

「こいしちゃん? どうしたの?」

「また来るよ!」

 

 あっという間に姿が見えなくなってしまった。

 …………何か今回、ぼくずっと置いてきぼりだった気がする。

 いつものことだから、もう気にしないことに決めた。




いーちゃん視点ってホントめんどくさいな。
こいしちゃん視点も相当だろうけど。

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