あれは嘘だ。
―――二年前、某日
「なあ、私が通う学校ってどんなところなんだ?」
柊葵…このころはまだそんな名前もなく神威と名乗っていたころだ。
私は今の世の中のことを何も知らなかった。
魔法がどのくらいまで発展しているのか、CADの技術はどれほど進んでいるのか、はたまた今の時代の魔法師はどのレベルなのか、あげればきりが無い。
尤も、自分に関わらないことは至極どうでもいいのだが。
「神威殿に通っていただくのは魔法技能師養成のための国策高等学校、九つある国立魔法大学付属高校のうちのひとつ第一高校じゃ」
「第一高校?魔法技能師養成のための学校って何するんだ?」
「簡単に言うと兵器作りじゃの」
「はあ?」
意味が分からない。
兵器作りとはどういうことなのか。
今まで学校というものに通ったことがないため詳しくは分からないが学校というのは楽しいところではないのか。
それが兵器作りなんて言われたら自分の中にある学校と言う概念に全く結びつかない。
「魔法学校を卒業した者の多くは戦場へと送り出される。魔法師と言うのは一般人からすれば一人いるだけでだいぶ強力じゃからの」
「はー、そういうものなのか。ってことは私もそうなのか?」
上田の話がいまいち理解出来ていなかったが軽く相槌をうち自分もその兵器とやらになるのかと聞いた。
すると上田は苦笑いしながらも答えた。
「勘弁してくれ。神威殿を戦場に送り込んだらいったいいくつの国が消えることやら」
なんてことを上田が言うものだから反論した。
「バカ言え、そんな弱い奴ばかりでもないだろう。真夜とかもなかなか出来る奴だし周りにもそれなりにできるやつはいるだろ」
神威は知らない。
その"周りにもそれなりにできるやつ"と言うのがこの国において間違いなくカースト上位に位置する魔法師達という事を。
「それに何と言ってもあのクソジジイだよな。あいつに一番楽しませてもらったよ」
「クソジジイ…ああ、烈殿か」
「そうそう。あいつは凄かった。機会があればまた手合わせ願いたいね。まだ生きてんだろ?あいつしぶといから」
神威は笑いながらそういうが上田は内心穏やかではなかった。
真夜、というのは四葉真夜のこと。
十師族四葉家の現当主であり当代における世界最強の魔法師の一人として目されるほどの魔法師だ。
クソジジイこと烈は九島烈。
十師族九島家の重鎮であり二十年ほど前には真夜同様世界最強の魔法師の一人と目されほどの実力を持ち、かつては最高にして最巧と謳われていた。
そんな二人と神威があったのは三十数年前。
その頃からだいぶ時が経っているとはいえ現代において日本が誇れる魔法師達相手に"なかなか出来る"などと言えるのは後にも先にも神威一人だろう。
上田は神威の規格外さを再確認した。
「第一高校に通って居ればいずれ会えるじゃろう。今回神威殿の第一高校への入学を手回ししてくれているのは烈殿じゃ。会ったときに礼の一つでも言ってやるといい」
「あの烈がねえ。だから私は入試とか行かなくてもいいのか?」
「そういうことじゃ」
入学は二年後。
それまでに鈍った身体をならしてほしい。
入試に行かなくても良いと言ったのはただたんに手続きなどがめんどくさかっただけなのだが、それは言わないでおく。
烈殿がどうにしてくれているじゃろう。
「何度もいうがこのことは…」
「あー、はいはい。誰にも言わないさ」
乾いた返事ながらも神威は言った。
「わかっておるならそれでいい」
♢ ♢ ♢
(ってなことがあったんだけど言えないよね)
時は戻り生徒会室。
「あなたのことを少し調べさせてもらったわ。でもいくら調べてもあなたの入試の成績は出て来ない。それはなぜなの?」
それは受けてないからですよ、何てことは口が裂けても言えない。
今だからこそ上田に口止めされていた意味がわかる。
(会長さん調べるの早いよ…)
さてなんて言い訳をしたものか。
まあはじめから考えてはいるんだけどね。
「私は他の生徒同様に普通に入学しましたよ?入試の結果が出てこないのは多分私の結果が今年のじゃないからじゃないですか?」
「…は?」
前半はともかく後半については嘘を言っていない。
葵が第一高校に入学するのが決まったのは二年前。
つまり"結果"が出たのは二年前だ。
たがこの説明では良く分からないだろう。
「私、本当はこの学校に入学するの二年前だったんです。ですがその頃の私は身体が弱っていて知り合いのつてで延期してもらったんです」
これも嘘は言っていないがどこから突っ込まれてもボロを出すかもしれないため、突っ込まれ予防に意味有りげな悲しい表情を作りながら言うのを忘れない。
「そう…なの」
「…と言うことはだ。キミは俺の先輩に当たる人物だと…?」
真由美の申し訳なさそうな返事に続いて服部が口を開いた。
「そうかもしれませんが、結果的にはそうじゃありませんね。私が入学したのは今年、でも服部先輩は私より前の入学ですから私の先輩に当たります」
ナイス服部。
このまま一番突っ込まれなくない"知り合いのつてで延期してもらった"という話から少しずつ逸らしていってくれれば問題はない。
「なんだ真由美知らなかったのか?お前ならてっきりそこまで調べているものと思ったのだが」
「あら、知っていたの摩利?」
「ああ。一昨年も言わなかったか?一緒に学校に通いたかった人がいたって。それが葵さんだよ。まさか今年入学してくるとは思わなかったが。知り合いのつてって言っていたな」
摩利のいらない軌道修整に焦りがでる。
知り合いのつてとは言わずもがな烈のことだ。
しかしこんなところで烈の名前を出せば余計面倒くさいことになるのは目に見えている。
それに真由美の父親は七草弘一、七草家現当主であり真夜の元婚約者だ。
真由美は別として葵は弘一のことを嫌っている。
それ故に弘一が率いる七草家はあまり好きになれないのだ。
だからあまりこちらの情報を流したくないし、極力関わりたくない。
十師族七草家当主が弘一だと聞いたときは七草家を潰そうかと思ったほどだ。
だがそれを上田に止められたため、現状のように関わらないようにしている。
「あの子が柊さんなのね。そう言えば摩利からよく聞かされていたわね」
「そうなんですか?摩利先輩が私のことを?」
第一声が烈に関することではなかったのでこのまま話を逸らしていく。
「ええ、とても綺麗で強い人がいるって。あの時の摩利の顔は凄かったわよ。まるで恋する乙女って感じで」
「ちょ、ちょっと真由美!そのことはもういいだろ!」
先程までの沈んだ空気とはうってかわって真由美も摩利もどこか楽しそうだ。
服部も微笑ましそうな笑みを浮かべていた。
ギャップのあり過ぎに葵も笑顔になり少し声が漏れた。
「あ、葵さんも笑ってないで何とか言ってくださいよ!」
「そうですね、私も大好きですよ先輩」
葵はそう言いながら隣に座っている摩利の腰のあたりに抱きつくように倒れた。
「あら、良かったじゃない摩利」
「良くない!」
咄嗟にそう言うが、これでは真由美の思う壺だ。
「そんな…。摩利先輩は私のこと遊びだったんですか…?」
なぜならばこの場合は葵がいつしかのように上目遣いで摩利に訴えかけると思っていたから。
「い、いや!そんなことはないです!私も葵さんのことは好きですよ!」
でも…と続いていたが声がどんどん小さくなっていったために上手く聞き取れなかった。
「なんだか柊さんとは仲良くできそうだわ。私のことは真由美って呼んでね」
「私も真由美さんとは仲良くできそうです。私のことも葵って呼んで下さいね」
「ええ、よろしくね葵さん」
まだなにやらごにょごにょと言っている摩利を尻目に葵は身体を起こし真由美と固い握手をした。
「それと、葵さんは私と同い年なのでしょう?敬語も無しで仲良くしましょう?」
「ですがそれは…」
「いいのよ別に。葵さんとはその方がいい気がするの」
うーん。
どういうことだろうか。
葵は元々敬語というものに慣れるために摩利にはわざと自分から申し出て、他の先輩たちにも敬語を使っていた。
だが実際には葵の方が三十近く歳上なため、少々負い目を感じていたところもあった。
「同い年だって聞いたら敬語で話されるとむずむずするの。私のためだと思って」
まあ、真由美と仲良くするにはいい機会か。
葵はそう判断してラフに話すことにした。
「…わかった。これからよろしくね真由美」
タメ口になるだけではなくいきなり呼び捨てにされ、尚且つ大人びた顔つきの葵に微笑まれているのを真正面から見た真由美は少し顔を赤らめる。
知らず知らずのうちに真由美も柊葵という人物に惹かれていた。
「柊さん、一つ頼んでもいいでしょうか」
ちょうど区切りがいいところでオブジェクトと化していた服部が口を挟んだ。
「なんですか?」
葵は次に服部から聞かされる言葉に多少なりとも驚かされることとなる。
俺と―――
―――私と模擬戦をしてくれませんか?
次回辺りで主人公のチートっぷりを少しずつ出していこうと思います。
タグ通り不定期更新ですね。
暇ができれば進めていきたいと思います。
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