では、どうぞ!!
ころな荘106号室。
そこは「月5000円・敷金礼金無し」の超が付く格安物件の六畳一間の一室である。
そんな格安物件であると言うのに入居者はすぐに引っ越していった。
と言うのも、ここ106号室には「幽霊が出る」との噂があるからだ。
過去、この部屋に住んでいた者は全てその噂が“真実だと知るや”出ていってしまった訳だ。
現在、そんな話を聞いても106号室に住み着いた男子高校生がいる。
その少年の名前は
ごくごく平凡な高校1年生だった。
しかし、この春に106号室に入居するや非現実な事に巻き込まれる事となる。
地上を侵略しようとする地底人 クラノ・キリハ。
106号室の征服を狙おうとフォルトーゼと言う異星からやって来た神聖フォルトーゼ銀河皇国第7皇女 ティアミリス・グレ・マスティル・サグラーダ・ ヴォン・フォルトーゼ――愛称はティア。
そのお目付け役のルースカニア・ナイ・パルドムシーハ――愛称はルース。
宇宙人2名。
愛と勇気のプリンセス☆魔法少女レインボーゆりかを自称するコスプレイヤー――と勘違いされている魔法少女
そして――
『ねえねえ!! 孝太郎!!』
この六畳一間の部屋の主である孝太郎に元気よく声を掛ける。
茶色いショートカット、細い背丈から中学生位の少女――
「何だ? 早苗?」
孝太郎は今部屋でマンガを読んでいた。
しかし、早苗に声を掛けられると“顔を天井の方まで上げて”返事をした。
この東本願早苗という名前の少女――件の106号室に地縛霊として棲み着いた幽霊であったりする。
なので、孝太郎を含めた106号室のメンバー位にしか彼女の姿が見えない訳だ。
最初の頃、孝太郎を追い出そうとするも紆余曲折があって今では兄妹かのような関係である。
『あたしのお小遣いで買って欲しい物があるの!!』
孝太郎は早苗に月毎にお小遣いをあげていた。
幽霊の彼女では管理は難しいので、孝太郎が律儀に管理してくれている。
「早苗の小遣いだから構わないが……何を買うつもりなんだ?」
『ふっふっふっ!! よくぞ聞いてくれました!!』
待ってましたよ――と言わんばかりにドヤ顔で構えている早苗。
こういうところも実に早苗らしいので、孝太郎は微笑ましくなる。
『今日は魔法少女ラブラブハートの漫画が出るの!!』
魔法少女ラブラブハートとは早苗とゆりかが毎週見ているアニメのタイトルだ。
ハマっているとは思ったが、単行本の発売まで確認しているとは恐れ入った。
幽霊の身では他の人に認識されもしないので、誰かに買い物を頼む事になるのも仕方の無い話だ。
「ゆりかと一緒に買いに行けば良いんじゃないか?」
『う~ん、ゆりかと一緒だと買えないイメージが沸いちゃうのよ。それに今は孝太郎しか居ないからね』
ゆりか本人が聞いてしまえば「酷いですよ~」と半泣きになりながら抗論しそうだ。
しかしながら、今早苗本人が告げたようにこの六畳間には孝太郎と早苗以外のメンバーは居ない。
各々、用事があるとの事で。
『ダメ?』
孝太郎もこの後に特に用事がある訳でもない。
別段、早苗の懇願を断る理由もない。
「そんな事ないぞ。買いに行くか」
『やったー!! ありがとう孝太郎!!』
背後霊よろしく、背中におぶさってくる早苗。
これも嬉しさの表れであるのは知っているので、内心で頼られて嬉しいと感じるのだった。
「売ってないな」
早苗の要望に応えるべく、孝太郎は近くの書店まで足を運んでいた。
しかし、そこで孝太郎達は大きく出鼻を挫かれる事になる。
早苗の求める魔法少女ラブラブハートの漫画が売り切れだったのだ。
在庫の方は書店側も十分に仕入れたらしいが、残念な事に売り切れ続出なのだ。
『これで5件目だよ~。何で無いのさ~っ!!』
早苗の方は手に入らない事への不満で爆発寸前に見える。
かくいう孝太郎も魔法少女ラブラブハートの人気を舐めきっていた。
まさか、ここまで連続して各書店で売り切れる程の品だとは思わなかった。
「うーん、困ったぞ。この辺にはもう本屋が無い」
『え~っ!? 嘘でしょーっ!?』
孝太郎の記憶が正しければ、近所には本を扱う店はない。
手に入れるなら遠出をする必要が出てくるのだが……仮に行ったとして、物が無ければ骨折り損のくたびれ儲けとなる。
「コウ、何をしてんだ? こんな所で?」
「マッケンジーか」
孝太郎を「コウ」と呼んだ眼鏡のイケメン男子の
『孝太郎!! それ!!』
「ん? あっ!!」
早苗の指差す先を見てみる。
そこには孝太郎達の求める魔法少女ラブラブハートの単行本が握られているではないか。
「マッケンジー!! それを何処で!?」
「妹に頼まれてな。隣街まで行って買ってきたんだ」
「何処の本屋だ?」
遂に垂らされた希望の糸に孝太郎はすがり付く。
無駄に動き回る事なく、ハッピーエンドで終わらせたい。
「ああ、此処だ。まだ在庫はあったから急げば間に合うと思う」
「サンキュー!! マッケンジー!! 行くぞ早苗!!」
『うん!!』
孝太郎は目的遂行の為、マッケンジーに教えられた店へと走り出す。
「早苗って……何を言ってるんだ?」
早苗の見えないマッケンジーは、孝太郎の発言に首をただ傾げるばかりだった。
「買えて良かった」
『うん!! 本当に良かったー!!』
マッケンジーから情報を仕入れ、ようやく目当ての物を手に入れるに至った。
目的を無事に果たした早苗も満面の笑みを咲かせている。
これにて事件は一件落着――あとは帰宅するだけである。
『ねえ、孝太郎……あの子ってひょっとして迷子じゃない?』
しかし、それも早苗の見付けたある1人の少女によって破綻する計画だった。
孝太郎も視線を巡らせて、そちらを見た。
まだ小学生位の少女だろう。
今にも泣きそうな顔で辺りを見回していた。
『多分、パパかママとはぐれちゃったんだ……』
「なるほどな」
確かにさっきから人の顔を見ている。
早苗の横顔をチラと覗く。
どうやら彼女も心配で気が気でないらしい。
孝太郎もこのままあの子を放って帰れる程にハートは冷たくない。
『孝太郎、あの子を助けてあげよう』
「ああ、そうだな」
孝太郎と早苗は同時に頷き、少女の元へと駆け寄った。
「どうかしたのか?」
突然、大きな男に声を掛けられた事もあって少女は脅えた目付きで孝太郎を見ていた。
『こらっ!! 女の子を怖がらせるなんて最低だよ!! 女の敵だよ!!』
―――何もしとらんだろうに。
心の中で早苗にそう反論した。
只でさえ警戒体制を敷かれているのに、ここで何もない中空に声を掛けでもしたら不審な目で見られる事間違いなし。
きっと優れた精神科医のいる病院へ搬送される事だろう。
『ほら!! しゃがんで!! この子に視線を合わせるの!!』
早苗に袖を引っ張られ、孝太郎は少女の目の高さまで腰を落とした。
テレビなんかでもこういった小さな子に視線を合わせてあげると話を聞く。
そんな事を失念しており、孝太郎は早苗の行動が正しかったのだと改めて諭された。
『はい!! もう1回!!』
スーパー美少女幽霊・早苗ちゃんの指示に従って孝太郎は少女に2度目の質問をする。
「どうかしたのか?」
「お母さんと、はぐれちゃったの……」
かろうじて泣くのを我慢している様子だった。
涙ぐむのを堪え、孝太郎の問いに答えてくれた。
『どうするの?』
「とりあえずアナウンスしてもらうのが手っ取り早い。店の人に頼んでお母さんを呼んで貰おう」
母親もこの子の事を捜している筈だ。
ならば、呼び掛けて“見付けてもらうのが一番だ。”
『善は急げだね!!』
「そうだな」
彼女を早く母親に会わせてあげたい――孝太郎も早苗も気持ちは同じだった。
「お母さん……居ないの?」
「そ、そんな事はないぞ!! 君のお母さんはこの店に居るから」
どうやら孝太郎と早苗のやり取り(独り言を言ってるようにしか見えないが)曲解したようだ。
泣きそうになる少女に孝太郎は慌ててしまう。
『な、泣かないで――』
早苗が少女をあやそうと手を伸ばし――すり抜けてしまう。
そう。自分は幽霊だ。
六畳間の面々は早苗が見えるし、話せるし、触れる……故に完全に失念していた。
本来、自分は誰に触れる事もできない、許されざる存在なのを。
『あっ……』
伸ばした手を引っ込め、早苗は少女の隣に浮遊する。
こんなに近くに居るのに、彼女の寂しさも悲しさも東本願早苗は理解しているのに――何もしてやれない。
幽霊となってまで106号室に居たのは両親に会いたかったから。
これまで住人を追い出してきたのは両親の帰る場所を守る為。
でも今、早苗は孝太郎達と共にあの部屋で過ごしている。
孝太郎が意外にもしぶとく、色々と有耶無耶になった。
いや、それだけではない。
有耶無耶で忘れてしまう事はない。
「早苗」
孝太郎が小声で早苗に声を掛ける。
指で自分の背中を指しているのを確認して何を意味しているのかを理解した。
『ありがとう孝太郎』
こういうところだ。
早苗が孝太郎達を追い出さないのは。
こうやって、彼女の願いを聞き入れてくれる。
みんなで行った海水浴のあの日、ゴーストハンターに捕まった自分を助けてくれた孝太郎。
敵同士であったにも関わらず、手を差し伸べてくれた彼の手――。
打算も何もない。見返りも求めない。
早苗を対等に扱い、彼女の事を真剣に考えてくれる孝太郎を……
―――あたしの事を見てくれている孝太郎だから……
不意に訪れた思考を止める。
今は目の前の少女を助けたい。
あの日、自分を救ってくれた孝太郎のように。
孝太郎の身体を通して、早苗は少女の身体に触れる事ができる。
厳密には孝太郎の五感を早苗自身が感じ取っている。
でも、まるで自分も触れているかのように思える。
『「泣かないで」』
早苗の言葉は決して少女には届かない。
でも、孝太郎には届く。
その早苗の想いを孝太郎は少女に伝える事ができる。
これを言っているのは里見孝太郎ではある。
だけど、この想いを伝えているのは紛れもない東本願早苗だ。
『「大丈夫。あなたのママは絶対に見つけてみせるから」』
「本当?」
『「本当だよ」』
孝太郎――いや、早苗は彼の身体を通して彼女との手を繋ぐ。
寂しい想いなんてさせたくない。
孝太郎も早苗の想いに応えるように少女の手を優しく、でも強く繋いだ。
『「探し物を見付けるのは得意だから」』
その手にある魔法少女ラブラブハートの入った袋を見せながら言う。
孝太郎か、はたまた憑依している早苗の影響か……少女へ柔和な笑みを見せる。
それを見た少女の表情は、雨雲を立ち退かせて晴天を覗かせていた。
『あの子のママが見付かって良かったね』
「そうだな」
あの後、店の人に頼んでアナウンスをした。
数分もしない内に母親がやって来て、孝太郎に礼を述べた。
しかし、これは早苗が居たからこその功績であって孝太郎1人のものではない。
故に、彼はこう告げた。
本当は助けてくれた人がもう1人居るんです。信じられないかもしれないですが。礼ならそいつに言ってください――と。
少女は分からずにキョトンとしていたが、知ってか知らずか早苗のいる方向に律儀に頭を下げていた。
案外、彼女には見えていたのかもしれない。
『いや~、今日は楽しかった~』
「なあ、早苗」
元気に前を歩く――ではなくて浮遊する早苗に孝太郎は呼び掛ける。
「その、お前は――」
寂しくないのか?――続きは飲み込まれる。
そんな事を聞いて何になる?
自分にできる事なんて何もない。
母親に会えない――その苦しみを孝太郎は理解している。
しかし、口にしたところで果たして早苗の心を軽くしてやれない。
喉につっかえ、結局は言葉を濁らさざるを得なかった。
『何々? はっ!? まさか孝太郎も魔法少女ラブラブハートを読みたいとか!?』
「そう……だな。よく分かったじゃないか。これだけ歩き回ったんだ、どれだけ面白いのか気になる」
『この美少女幽霊探偵早苗ちゃんにはお見通しなのよ!! 参ったかコノヤロー!!』
得意顔で早苗はVサインで言う。
この笑顔を見て、今の質問をするだけ無粋だ。
「それじゃ、帰るか」
『うん!! 早く読みたいしね!!』
どちらからともなく、自然と手を繋いで帰路につく。
いつか、孝太郎はこの笑顔を彼女の両親にも見せてあげたい――そう願った。
夕暮れの帰り道、近くを通り掛かった人は見たらしい。
1人で歩いている筈の少年の隣で、彼と手を繋ぐ少女の影を――。
如何でしたでしょうか?
時系列的には原作3巻以降。アニメでは5話以降たなります。
母親を探す自分を少女と重ねてしまったのは早苗か……はたまた孝太郎だったのか。
アニメしか知らない人にはネタバレの部分を含んでしまいました。
では次回。一応、主要メンバー全員分の話はするつもりです。