六畳間の侵略者!? 短編集   作:ゼガちゃん

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ども。ゆりか回ですね。

19巻現在がゆりか回なもので。


魔法使いの少女は笑う

「う~っ、まずいです~」

 

 茶髪にツインテールの平均的な身体の少女が机の上に乗せている紙を見て震えていた。

 少女の名前は虹野ゆりか。

 愛と勇気のプリンセス☆魔法少女レインボーゆりか(自称)と名乗っている。

 

 本当に魔法少女なのだが皆から信用されていない。

 勝手に魔法を使えない事もあり、仕方無いと言えば仕方無いのだが……可哀想になってくる。

 

 そんな彼女は今震えていた。

 それは先程から机の上に置かれている紙に関係している。

 

「おい、ゆりかどうしたんだ?」

 

「さ、さとみさぁ~ん!!」

 

 机で頭を抱えるゆりかに声を掛けたのは里見孝太郎。

 ゆりかは孝太郎の住むころな荘106号室に居候の身である。

 あの部屋に溜まる魔力を狙う悪の魔法使いが居るから逃げるよう訴えてきた。

 

 実際、彼女と敵対するダークネイビーという魔法使い集団の1人――藍華真希が攻め込んできた事がある。

 孝太郎達もゆりかが魔法少女だと伝えられて戸惑いながらも真希を撃退。

 しかし、真希が去り際に記憶を消してしまった事でゆりかが魔法使いという事実はまたも消滅してしまった。

 

 そんなショックな事もあったが、孝太郎やゆりかが信頼を寄せる先輩の助力にて一段と彼女は精神的な成長を遂げていたりする。

 今では魔法使いである事は公言せず、縁の下の力持ちとして動く事が多い。

 

 話が脱線しそうになったが、元の路線に戻そう。

 ゆりかが何らかのピンチに陥っているのを察した孝太郎が彼女を心配してくれた。

 

「こ、これぇ……」

 

「あ~、なるほどな」

 

 ゆりかが見せてきたのは小テストの結果だ。 50点満点の小テスト。

 成績に影響はする事がなく、単純に実力を測る為のものだが――

 

「これはいくらなんでも酷すぎないか……?」

 

 孝太郎も戦慄する。

 選択式の50問で0という数字が結果として表示されている。

 

「うう~。分かっているのです~」

 

 ゆりかは半泣きになりながら、この結果が如何なる悲劇を産み出すのかは理解している。

 今回の英語の小テストは次回の成績に反映するテストに出題される内容だ。

 孝太郎達のクラスを担当する英語の教師は中間や期末で悪い点数を取った際の救済措置みたいなテストを用意してくれている。

 成績が悪すぎた場合はこちらのテストを参考にしてくれる。

 

 ゆりかはご覧の通り――と言うか以上に成績は酷い。

 なので、こういった事で成績の悪い生徒は保険を掛けておく。

 ゆりかもその内の1人である。

 

 しかし、そのテストは明後日という急なものであった。

 

「ど、どうしよ~」

 

 勉強が苦手である点は伝わるだろう。

 問題となるのはゆりかは勉強の効率が悪いのと、すぐに諦めようとする癖があるのだ。

 最近は心境の変化からそういった事から逃げる癖を無くそうと頑張っている。

 しかし、そう簡単に逃げ癖が消える筈もなく――勉強をしても途中で投げ出す未来が見える。

 

「仕方無いな……」

 

 孝太郎は大きく溜め息を吐きながら呟いた。

 隣に居たゆりかは当然ながら聞こえている。

 

「何ですか?」

 

「ゆりか、これから勉強会だ」

 

 幸いにもテストの内容は今回の小テストを参考に作られる。

 同じ内容のものから、文法を変えて出題されたりといった具合だ。

 さすがに選択式のではなくなるらしいが、要領よく勉強をすればゆりかでも好成績を取れる可能性は残されている。

 

「俺が付きっきりで教えてやる」

 

「あ、ありがとうございます~」

 

 泣きながら孝太郎の提案を受けるゆりか。

 その様相では、愛と勇気の魔法少女などという肩書きがコスプレイヤーとしての肩書きと思われても仕方無かった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうしてゆりかがテストを乗り越える為の特訓が始まった。

 とは言え、学校は普通にあるので使える時間は限られてくる。

 

「う~、分からない~」

 

 勉強開始から約1時間。

 106号室のテーブルの上に問題集を並べたゆりかが唸っていた。

 英語は彼女にとって異世界の言葉みたいなものだ。

 

「ほら!! どうした? シャキッとしないと……」

 

「わ、分かってます!!」

 

 孝太郎の叱咤でやる気をみせた――のではなく、ボーッとしていたら孝太郎のプロレス技が炸裂するのだ。

 なのでゆりかは必死に時分を奮い立たせる必要があった。

 実際、孝太郎の叱咤が無ければ諦めていた事だろう。

 これも一重に孝太郎の調きょ――もとい、指導があったからだ。

 

―――とは言えなあ……

 

 ゆりかには難しい注文なのは分かっている。

 彼女は根本がまずなっていない。

 全てにおける基礎が無いのだ。

 

 英文は基本的に「主語→述語」の形なのをきちんと理解していなかった位だ。

 だが、今回は時間が圧倒的に足りない。

 なので、今回は試験内容を逆手に取る。

 次も選択式ではあるので、基本的な文章を問題集で叩き込む。

 その後、出てくるだろう英単語を刻み込ませる。

 

 基礎は今回は度外視だ。

 最低限のものを覚え込ませる。

 結局は一夜漬けで暗記させる。

 それだけで、中間に期末もグッと楽になれる。

 

―――こんな方法で本当はやらせたくなかった……んだけどな。

 

 ゆりかには基礎を学んでからやって欲しかった。

 今回だけの特別措置のつもりだ。

 終わればゆりかに基礎を叩き込む必要があると孝太郎は感じていた。

 

「えと、えっとぉ~」

 

 ゆりかは問題集とにらめっこすると同時に目の回る勢いだった。

 彼女がこんなにも頭を使う事がなかったのも大きい。

 既に記憶領域はパンク寸前であった。

 このままでは破裂して煙が出てくる――なんて事まで考え込む。

 

「少し休憩にするか」

 

「はいです~」

 

 孝太郎の天の助けにゆりかは思いっきりしがみついた。

 彼女の集中力が切れてしまいそうな事を孝太郎は先に見破った。

 

「おやつでも食べるか?」

 

「はい!! 食べます!!」

 

「現金な奴め」

 

 食べ物の事となればゆりかは真っ先に飛び付く。

 孝太郎は苦笑しつつ、要望に応えてやる。

 

 孝太郎がおやつを用意しに台所に向かう。

 ゆりかはその背中を眺めながらテーブルに顎を乗せた。

 

―――そういえば、何でこんなに頑張ってるんだろう?

 

 ふと、ゆりかの脳裏に疑問が過った。

 いつもの彼女なら諦めてしまっていた。

 補習も已む無しと、テスト勉強だって怠ったに違いない。

 

 だというのに、ゆりかは孝太郎に半ば強制的とは言え勉強している。

 既に逃げ出していてもおかしくない。

―――そんなの、考えるまでもないです。

 

 降って沸いた疑問はしかし、すぐに解決へと導かれた。

 “孝太郎が居るからなのだ。”

 

 別に彼に見張られているからとかプロレス技を掛けられるのが嫌……というのはあるけれど、それよりも里見孝太郎を裏切りたくはない。

 その想いがゆりかの中で芽生え始めた。

 

 孝太郎は記憶を無くしているだろう。

 ゆりかが魔法少女だと知った時、孝太郎は手を差し伸べてくれた。

 孝太郎の所属する編物研究会の会長である桜庭晴海(さくらばはるみ)が人質に取られ、半ば強制的な感じで戦いに身を投じた。

 

 でも……“本当にそれだけか?”

 だとしたら、早苗の時も一緒だ。

 孝太郎は自らの危険も省みずに早苗の元へ向かっていった。

 ティアの時も、キリハの時も……彼は侵略者とも言える彼女らを手助けすべく、何度も立ち上がった。何度も立ち向かった。

 

 強い武器はティアから貰っている。

 だけど、それだけで戦える程、立ち向かえる程、人というのは単純には出来てなんていない。

 

―――強い人だなぁ。

 

 考えてみれば自分は逃げてばかりだ。

 孝太郎の心の強さは憧れてしまう。

 

 彼女自身も戦うまでにかなりの時間を有した。

 消費した時間と言うのは別に戦う為の術を手にする時間でも、強くなる為の時間でもない。

 これもまた単純な答えだ。

 “戦う為の心構えがゆりかには無かった。”

 

 元来、戦うのを嫌う彼女が『魔法少女』と名乗るのも相当な重味の筈だ。

 掛かる重圧はゆりかみたいなか細い精神など粉々にしてしまう。

 だけど、彼女は“此処へ来た。”

 

 106号室を狙う敵勢力が来るのを知りながら。

 持てる勇気を振り絞り、彼女はやって来た。

 窓ガラスを割ったのは確かに間抜けにも程がある。

 

 それでも彼女は「誰かを助けたい」という想いを胸に、この106号室を訪れた。

 逃げ出したい、目を背けたい、無関係でいたい――そんな負の感情に流されてもおかしくないのに彼女は“敵に立ち向かった。”

 

 多分、彼女は“気付いていない。”

 自分には立ち向かうだけの“勇気”を既に持っている事を。

 

「ほれ、用意したぞ」

 

「わーい!!」

 

 これまでの思考を外へと追いやり、ゆりかは孝太郎の用意してくれた菓子にかぶりつく。

 出てきたのはポテトチップス。

 

 馴染み深く、食べた経験の人も多いだろう。

 しかしながら、貧困生活を余儀無くされるゆりかには実に難しい注文なのであった。

 ポテトチップスを食べる行為そのものも、彼女にとっては至福の時となる。

 

「おいおい。泣きながら食うなよ」

 

 感動のあまり涙を流しながら食べるゆりかに孝太郎は呆れてしまう。

 だけど、普段は106号室の押し入れでカップ麺を啜る彼女の生活を知ってるからこそ分かってしまう。

 

 何だかんだでそれくらいは把握している程にゆりかの事は分かってきた。

 

「ったく、これが終わったら勉強の続きだからな」

 

 苦笑を交えて孝太郎もポテトチップスを食べ始める。

 その時、“何故か脳裏を過った。”

 

 それは魔法少女だと知られた時に孝太郎から贈られた言葉。

 

『お前には、陽だまりと虹の方が、よく似合う』

 

 多分、自分は“真の意味を”理解できていないと直感的に思っている。

 でも……何だか聞いた瞬間に満たされているものを感じる。

 

 不思議だ。

 魔法なんて不可思議なものを使う魔法使いが何を言う、と指摘されそうではある。

 

「どうした? ゆりか? ボーッとして」

 

 気付けば、ポテトチップスを食べる手を止めていた。

 そして、柄にもなく色々と考えたと笑ってしまう。

 

「いえ、何でもありません」

 

「そうか……俺にできる事なら遠慮なく言えよ」

 

 多分、ゆりかが解決すべき事なのだろう。

 そこを察し、孝太郎は何も言わない。

 困った事や、どうしても解決できないなら孝太郎は手を差し伸べる。

 ただ、それだけだ。

 

「なら、テスト勉強を楽させて下さいっ!!」

 

「無駄だ。勉強に楽も何もないんだからな」

 

「そんなぁ~~~」

 

 うちひしがれる。

 けれども、彼女の瞳には「やる気」が満ちていようにも見受けられる。

 

「さあ、やるか。無事に乗りきれたら鯛焼きでも買ってやるよ」

 

「は、はいっ!! 頑張りますっ!!」

 

 戸惑いながらも、満面の笑みで応える。

 彼女が乗り越えてくれるなら安い買い物だ――いつの間にかそう思ったらしい。

 

 そしてテストは終わる。

 

 その日の放課後、満面の笑みで鯛焼きを頬張っている少年とツインテールの少女の姿がテストの結果を物語る。

 




如何でしたでしょうか?

時間軸はアニメ11話以降、原作だと6巻以降のお話になりますね。

アニメ勢には少し先のお話の部分もありますね。

孝太郎がゆりかを「陽だまりと虹の方が、よく似合う」と言った意味。

確か原作だと11巻ですかね。

10巻辺りでも分かりますが。

喜怒哀楽が激しいゆりかが笑う事って地味に少ないイメージなんですよね。

最近なんか……ゲフンゲフン。

さて。次回も適当な時期にでも!!
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