ではどうぞー。
「孝太郎」
ある日のころな荘106号室の出来事だ。
孝太郎が寝転がってテレビを見ていた時だ。
夕飯の準備を進めてくれているキリハが名を呼んだ。
「どうかしたのか? キリハさん」
「汝に頼みたい事がある」
珍しい。キリハは基本的に他人に頼み事なんてしない。
孝太郎は思わず耳を傾ける。
「俺にできる事なら手伝うけど」
毎日キリハやティアの臣下のルースにご飯を作って貰ってばかりだ。
それに、これまでの付き合いで絆が深まりつつある。
あまり警戒心も持たず、孝太郎はキリハにそう返した。
「次の休みに我と共に参加して欲しいボランティアがあるんだ」
「ボランティア?」
キリハがボランティアをしているのは承知している。
なのでボランティアに誘う事に不思議はないのだが……
「何で俺に?」
「隣県になってしまうのだが、清掃の話が持ち込まれてな」
こちらの方で町内の人に親しまれる程にキリハはボランティアをしている。
その事が隣県に伝わったようだ。
「交通費や賄いも出してくれると言ってくれてはいたが、男手も欲しいようでな
」
「それで俺に白羽の矢が立った訳だ」
純粋な力であれば孝太郎に頼むのは当然か。
「ああ、構わないよ」
「助かる」
これで次の休みの予定はできたのだった。
ボランティアに参加するのは言い出しっぺのキリハ、孝太郎だけだ。
意外にもカラマとコラマは来ないそうだ。
カラマとコラマとはキリハに付き従う埴輪だ。
ちゃんと意思もあり、そこいらの人よりもキャラは濃いので一度話せば忘れる事はできない。
さて、話が逸れかけたが元に戻そう。
ともかくとして、孝太郎とキリハは2人だけで出掛ける事となった。
移動は電車で、目的の駅に着いてもバスでの移動があった。
結局要した時間は2時間近くだった。
目的地に着くなり、孝太郎達は名前を告げて到着の旨を伝えると向こうが用意してくれたジャージに簡易の更衣室で着替える。
上下共に赤でかなり目立つ。
何と無く、子供の頃にやっていた銭をタイトルに入れた番組で芸能人が着ていたジャージを彷彿とさせた。
手にはビニール袋と、軍手がある。
「各自で初めて良いらしいな」
「そうみたいですね」
準備を終えた孝太郎とキリハは周囲を見渡すや、既にゴミを片付けようと張り切って街に出回る人を見た。
しかし、孝太郎はこの街の地理に疎いのでどうしたものかと思案する。
「孝太郎。良ければ我と回らないか? この辺りの事も知っているし、何よりも孝太郎の方は案内が必要であろう?」
「良いんですか?」
それは願ってもない申し出だ。
しかし、キリハはそれで良いのかと問い返してまう。
「ああ、汝には無理を言って参加して貰っているからな」
「別に無理をしてる訳じゃないけど……お言葉に甘えさせて貰います」
結局は地理に詳しいキリハに頼る。
キリハは「うむ」と頷く。
「なあ、キリハさん」
「何だ? 孝太郎?」
ゴミを拾う手をお互いに休める事なく、孝太郎が呼び掛けてきた。
「何で俺を誘ったんだ?」
「それは男手が欲しいからで――」
「それなら俺じゃなくても良かったんじゃないか?」
キリハが声を掛ければクラスの男子なら快く引き受けてくれそうだ。
なのに孝太郎を誘った――その理由を知りたかった。
「学校での我が猫を被っている――その事は知っているだろう?」
「まさか俺だとその必要がないからとか?」
「それもある」
意味ありげに笑うキリハ。
どうやら他にも孝太郎を誘った理由はあるようだ。
「汝には色々と世話になっているからな」
「むしろ世話になってるのはこっちの方だと思うんだけど?」
これまでの事を思い出してみる。
食事を用意して貰ったり、買い物をさせたりと通い妻かと思わせるような至れり尽くせりな生活を送らせてもらっている。
「それだけではない」
キリハは楽しげに微笑む。
孝太郎からしたら何が何やらサッパリである。
「降参だ。俺には何か分からない」
両手を挙げて降参のポーズを取る。
本当に孝太郎には分からないのだ。
「侵略者である我等を汝は何だかんだ言って受け入れてくれているだろう?」
六畳間の面々は侵略者として現れたのだ。
孝太郎とも六畳間を巡って敵対していたのに、今ではこうして共同生活を送っている。
「更には我等と敵対している者とも戦ってくれた」
もう一歩踏み込むなら、孝太郎は六畳間の中では一番これ等の出来事に遠い位置に居る。
なのに率先して孝太郎は手を貸してくれる。
「なので、ついつい孝太郎を頼ってしまうのだ」
「キリハさんにそう言われるとは光栄だな」
彼女としばらく過ごしてきたから分かる。
クラノ・キリハという少女はあまり他人に助けを求めようとしない。
彼女を知る者ならば、彼女自身のスペックの高さから自分で解決すると考えるだろう。
それは言い換えるなら彼女は自分で溜め込んでしまうタイプだとも言える。
現状では他の勢力に弱味を握らせたくない。
こうやって他人を頼る事そのものが珍しい。
「今日カラマとコラマを連れてこなかったのは?」
「こうやって胸の内をさらけ出すのが恥ずかしかったからだ」
「俺には良いのか?」
「何度も言わせないでくれ。我にとっては、少なからず孝太郎は頼りになる存在なのだ」
言いながらキリハは1枚のカードを見せてきた。
彼女の思い出の品であるカブトンガーのカードだ。
「我の思い出を一緒に探してくれた孝太郎を、共に戦ってくれた孝太郎を……信用しない筈が無いだろう?」
「そっか」
普段は頼ってばかりの彼女から頼られる事に多少のむず痒さはあった。
けれど、こうして頼り頼られといった関係も悪くないと思えた。
「こういう風になれたのも一重に孝太郎のおかげだ」
もし、六畳間に彼が居なければこのような事は起こらなかった。
全ての中心に孝太郎が居たからこその事だ。
「だから、我に言わせてくれないか?」
何を? 手を止めてそう返そうとした孝太郎よりも速く、彼女は告げた。
「ありがとう。孝太郎が居なければ、我もこのように平和を満喫できなかったと思う」
それは間違いなく心の底から溢れ出た
証拠に彼女の表情はとても柔らかく、満面の笑みを咲かせるのだった。
「しかし、ボランティアはきちんと終わらせねばならないがな」
「分かってるさ」
咲いた笑顔はその一言で台無しだった。