ひとりぼっちの山姫は   作:TTP

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第七回 ひとりぼっちの山姫は・後

 ずっと、独りだった。

 

 村の人たちが自分を見る目が、他の者へ向けるそれとは違うと、豊音は正しく理解していた。畏れ敬うとは聞こえが良く、実際は憐憫と忌避である。

 

 村に伝わる山男と山女の伝承を、豊音は物心ついてすぐに語り聞かされた。そして、自分が山女の末裔であるとも。村を守るために、この土地に住み続ける定めなのだと、知らされた。

 

 父や母からは、それこそが誇りであると教えられた。豊音もまた、自らの役目に胸を張った。

 

 しかし、家族を喪ってから、全ての歯車は狂っていった。

 

 元より人口減に悩まされていた僻地である。豊音と同年代の子供はいなかった。一番年齢の近い者は、豊音を不気味な子供と忌み嫌った。山女として老人から崇められる豊音への嫉妬もあったろうが、なにより古びた因習に囚われた彼女から目を背けたかったのだろう。そんな人間は、他にも数多くいた。

 

 家族という理解者も、心を許せる友人もいなかった。ずっと彼女は、ひとりぼっちだった。

 

 だからこそ、彼女は憧れた。

 

 村の外に広がる世界。テレビの中では、自分と同じ年頃の少女たちが麻雀を打って輝いている。とても眩い姿に、豊音は打ちのめされた。本来あるべき繋がりを、感じた。

 それでも村を出よう、という発想は生まれなかった。幼き頃に父と母から託された役割を放棄することなど、彼女にはできなかった。憧れだけが、胸の中に募っていった。

 

 ――その純粋さこそが、きっと彼女の間違いだった。

 

 

 ◇

 

 

 固い地面の上、豊音は痛みで顔を歪ませる。狭くなった視界の中に映るのは、妙齢の女性の姿。――ああ、知っている。彼女のこの目を、豊音はよく知っていた。

 

 まだ、終わらせてなるものか。

 そのためには――時間を、稼がなくてはならない。回復しなければならない。

 

「……いつから、気付いていたのー」

「最初から確信があったわけじゃないんだけどね」

 

 ぱきり、とトシが木の枝を踏み折る。

 

「そもそも山男が京太郎を疎んじたのなら、早々に始末しているはずよ。こんな世界を作り出し、魂だけ奪い取る力があるのなら簡単にできるだろう。山男という存在がまやかしなら、犯人は他にいない」

 

 トシは、淡々と答える。

 

「それに山男が夜に現れるなんて話自体、聞いたことがなかったからね。山男は、この世界を作ってから後付けで付け足したんだろう? だから時間帯も限定されて、姿さえ見せない中途半端な存在になったんだ」

「……」

 

 何もかも、見透かされていた。予感はしていた。だから彼女を排除しようとしたのだ。

 

「山男を夜に現れるようにしたら、今度はこの世界から昼間を取っ払った。私が現れたら、私を消す機会を手に入れるため次は昼間を生み出した。京太郎の時間の感覚も奪い取って、不自然な状況をそう思わせないように仕向けた。――この世界は何もかもあんたの都合の良いように進みすぎたんだ。子供の嘘は、いつまでも通じないよ」

 

 豊音、とトシは呼びかける。

 

「そうまでして京太郎をこの世界に……あんたの家に留めておきたかったのかい」

「分かったようなことを、言わないでー……」

 

 苛立つ、という感情を生まれて初めて豊音は覚えた。まだ感覚が戻りきらない腕を突っ張って、体を起こそうとする。

 

「無理しないほうが良いわよ。あんた、京太郎と違って生身なんだろう」

「うるさい」

 

 誰かに反抗したのも、初めてだった。豊音は立ち上がって、小柄なトシを見下ろす。体格差は普通の大人と子供以上。豊音の腕も大概細いが、膂力に任せれば負けるはずはない。

 

「あうっ」

 

 しかし――気付いたときにはもう、豊音は再びその場に転ばされていた。今度は膝から地面に着く。

 

 まるでトシは意に介さず、話を続けた。

 

「友達が、欲しかったのかい」

「……だったら、どうだって言うのー」

 

 地面についたてのひらを、豊音は拳の形に変える。爪の中に土が入ってきたが、全く意に介さなかった。

 

「やり方を間違えたね、豊音。――背向のほうを先負とすると、この世界は友引といったところかしらね。いずれにしろ、とてつもない力だわ。だけど、こんなことのために安易に使って良い力じゃない」

「こんな、こと?」

 

 違う、と豊音は叫びたかった。だが、上手く言葉にまとめ上げられなかった。

 ――求め、憧れた世界があった。人と人との繋がりのある世界。テレビの中で麻雀を打つ少女たちには、仲間がいた。ライバルがいた。友達がいた。みんな、ひとりぼっちなんかではなかった。向け合う瞳に、豊音がよく知る光はなかった。

 

 羨ましかった。自分にも、そんな絆を結べる相手が欲しかった。欲しくなった。

 そんなときに出会った少年が、京太郎だった。

 

 彼の目には、あの光は宿っていない。自分の出自を知らないのだから当然ではあるが、それでも豊音は嬉しかった。

 

 彼をこの世界に引きずり込んだのは、決してわざとではなかった。最初は、本当に豊音自身困惑していた。無意識の内に、この世界を作り出してしまったのだ。

 

 すぐにこの世界を壊さなくてはならない、と考えた。

 けれども、できなかった。

 

 妖しい霧が立ちこめても。

 村を出られないと分かっても。

 山男が現れても。

 自らが山女であると打ち明けても。

 村人がいなくなっても。

 昼夜が狂っても。

 ありとあらゆる全てがおかしくなっても。

 

 京太郎の目に、あの光が宿ることはなかった。共にいる自分に、疑いの目をかけることも、不気味に思うこともなかった。まやかしで作り出した絆でも、縋り付きたくなった。彼と、離れたくなかった。時間が経てば経つほど、離れることができなくなっていた。ひとりぼっちの山姫は、求めたものを手放せなかった。

 

「こんなこと、なんかじゃないよー……」

 

 呟かれた言葉は、トシの耳には届かなかった。

 もう一度、豊音は立ち上がる。帽子は地面に落ちて、膝も擦りむき、服はあちこち汚れてしまった。生身の体は、既に疲労困憊。

 

 過ちであろうと、罪であろうと。

 豊音にとっては、譲れないものだった。

 

「大人しくしなさい。悪いようにはしないから」

「――嫌」

「体罰は、主義じゃないんだけどね」

 

 溜息と共に、再びトシの手が伸ばされる。恐怖で豊音の体が竦み、彼女はぎゅっと目を瞑ってしまう。

 しかし、予想に反して痛みは訪れなかった。

 

「え……?」

 

 うっすらと、豊音は片目を開ける。

 そこにあったのは、大きな男の子の背中。

 

「姉帯さんに」

 

 割って入った少年は、

 

「手、出すな」

 

 荒い息を吐きながら、熊倉トシを睨め付ける。

 

 

 

 豊音は、呆然と立ち尽くす。終わりのときが来てしまったのだと、理解する。折角ここまで分断できていたというのに、見つけられてしまった。止める手立てが、見つからない。熊倉トシの口よりも、早くは動けない。彼に、全てを知られてしまう。

 

「京太郎」

 

 トシが、言い辛そうに、しかしはっきりと切り出した。

 

「よく聞きなさい」

「……て」

「あんたをこの世界に誘ったのは、山男なんかじゃない」

「……めて」

「あんたが今、庇ってる――」

「……止めてー……!」

「姉帯豊音だよ」

 

 か細い制止の声は、意味をなさず。

 トシの言葉は、確かに京太郎の耳に届いただろう。

 

 ――いくら彼でも、もう駄目だ。犯人が豊音だと知ってしまえば、以前と同じようにはいかなくなる。

 

 くるり、と彼の首が豊音へと振り向く。

 

 ああ、と豊音は悲鳴を上げそうになった。

 彼の目にも、あの光が宿ってしまう。山女だと哀れむよりも、畏れられるよりも、もっと酷い光に満ちてしまう。

 

 顔を背けてはならない。それこそが罰なのだと、彼女は心の奥底では理解していた。彼にこそ、自分を糾弾する権利があるのだと。

 

 しかし、果たして。

 京太郎の目は、いつもと変わりなかった。――いつもの、彼だった。

 

 そして彼は、言った。

 

「やっぱり、そうか」

 

 豊音は、ぽかんと口を開ける。トシが、眉を潜めて訊ねた。

 

「気付いていたのかい」

「その可能性もある、くらいですけど」

「……だったらどうして、その子を庇うのかしら。分かっていたんだろう?」

「そう、だよー」

 

 トシに追従したのは、他でもない豊音だった。

 

「私が悪いんだよー。私が、須賀くんをこんなところに閉じ込めたんだよー。私のせいで、須賀くんはお家に帰れないんだよー……?」

 

 縋るように、豊音が京太郎の服の袖を掴む。彼女の紅い瞳には、涙が溜まっていた。

 しかし京太郎は、それこそ心外だ、と言わんばかりに顔をしかめて言った。

 

 

「言っただろ。何があっても、姉帯さんを守るって」

 

 

 豊音は、今度こそ何も言えなくなった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 豊音が犯人であったとしても、京太郎の覚悟は決まっていた。今更覆る余地はなかった。

 

 呆れたように、トシが苦笑する。

 

「全部分かっていてなお、どうしてそこまでできるんだい?」

「別に複雑な話じゃないですよ」

 

 京太郎は、そっぽ向きながら答える。

 

「たぶん、姉帯さんと比べたらぜんっぜん大したことないんだろうけど。――それでもやっぱり、ひとりぼっちは、嫌ってのは、分かるから」

 

 身勝手な共感だと、京太郎は思う。安っぽい同情よりも、酷いとも思う。

 けれど、豊音が感じていた孤独感の片鱗くらいは、分かるつもりだった。あの試合で負けて以降、友人たちと生まれた距離。気軽に声をかけられる相手がいない日々。豊音に比べたら短く、いくらでも修正が利くだろう独りの時間。

 

 それでもやっぱり、寂しかった。目の前に現れた誰かに縋り付きたくなる気持ちを、どうして否定できようか。

 

 トシは、微笑んで京太郎にもう一つ質問する。

 

「怒ってないのかい?」

「姉帯さんが山女として育てられたのは、本当なんでしょう? 今の状況の原因を突き詰めればそこに行き当たると思います。姉帯さん本人を責めても仕方ない。熊倉さんだってそう思いませんか」

「……豊音に責任が全くないとは言えないし、因習に口を挟めるほど私は偉くもないよ。だけど、あんたにそう言われたらどうしようもないねぇ」

 

 両手を上げて、トシは言った。

 

「私の負けよ。それから豊音、あんたも負け」

「……熊倉さん」

「分かってるね、豊音。男を見せられたんだ、あんたもそれに応えなくちゃいけないよ」

 

 京太郎の背中に、暖かいものがぶつかる。

 背後から抱きすくめられ、京太郎は一瞬狼狽えるが、すぐにされるがままになった。恥も外聞もなく、豊音が涙していた。少女の泣き声が、山に響き渡った。

 

「わぁぁあぁ」

 

 霧が、晴れてゆく。あれだけの濃霧が、一瞬でどこかに引いていく。

 この何もない、空虚な世界こそが彼女の心の象徴だったのだと、京太郎は知った。独りだけの、命も感じられない寂しい世界だった。とても息苦しかった。目の前もまともに見えず、踏み出す一歩さえ怖かった。

 

 けれども、こうして霧が晴れてみれば。

 見上げる空はとても青く、とても美しかった。

 

「ごめんなさい」

「ああ」

「ごめんなさい」

「……ああ」

 

 何度も何度も豊音は謝り、京太郎はその度に頷く。トシはそっと、その場から離れた。

 

 京太郎を抱き締める豊音の力は強まり、京太郎は静かにその腕に自らの手を添える。小一時間ほど、二人はそうしていた。

 

 やがて豊音が落ち着き、ゆっくり京太郎から離れる。

 

「ありがとー、須賀くん」

「こっちも、ありがとう」

「な、なんで須賀くんがお礼を言うのー?」

「俺も、色々教わったから」

 

 自分がどれだけ甘えていたか、理解した。格好悪くて仕方なかった。

 

「だから、ありがとう」

「……うんー」

 

 豊音が笑ってくれる。京太郎の心は、それだけで暖かくなった。

 やがて、姿を消していたトシが戻ってくる。

 

「帰ろうか」

 

 彼女はいつもの調子で、気軽にそう言った。豊音はこっくりと頷いた。

 行き道と同じく、トシが先頭で山を降る。後ろの京太郎の右手は、しっかり豊音の左手に繋がれていた。

 

「で、結局どうやったらここから出られるんだ?」

「え、えーっと」

「……もしかして、姉帯さんにも分からない?」

 

 目を逸らされた。京太郎の頬が引き攣る。

 

「大丈夫さ」

 

 トシが悪戯っぽく笑って、

 

「なんとかするって、言っただろう?」

 

 頼もしく、彼女は言った。

 

 山を降り、豊音の家を通り過ぎ、村を抜け、辿り着いたのは例のトンネルだった。ここだけは相変わらず、

 

「ここから帰るんですか? でも」

「ここから入ってきたんだから、ここから帰るのが筋というものだよ」

 

 トンネルの入口を背に、トシは二人に言い聞かせる。

 

「ただし、行くのは京太郎一人だけ」

「え?」

「豊音、あんたはここで京太郎を見送るんだよ。ちゃんとお別れを言って、自分の気持ちに決着を着けるんだ。そうすればきっと、京太郎はこの世界から去って行ける」

 

 ほら、とトシに促され。

 京太郎は豊音と顔を見合わせ――それから、右手を差し出した。おずおずと豊音は、それに応える。

 

「……あのね須賀くん。お願いがあるんだー」

「なに?」

「身勝手だっていうのは、分かってるけどー。また、会いに来てくれないかなー?」

「それ、は」

 

 京太郎は、すぐに返事をできなかった。どう答えるべきか、簡単に結論はでなかった。見かねたトシが、助け船を出す。

 

「京太郎には既に言っておいたけれどね」

 

 残念だけど、と彼女はひとつ前置きしてから言った。

 

「おそらく、向こうで目覚めた後、京太郎はここでのことを覚えていない」

「え……」

「生身の私や豊音と違って、京太郎は今魂だけの存在。言うなれば、体は夢見てるのと同じような状態なんだよ。夢の中の出来事を、人は記憶として中々定着させられない。全てを覚えている、というのは余程都合が良くない限りないだろうね」

 

 それに、とトシは付け加える。

 

「京太郎の親も、子供が倒れた土地にわざわざまた送り出さないだろう」

「……そう、ですかー」

「姉帯さん……」

 

 見るからに肩を落とす豊音に、京太郎は何と声をかければ良いか分からなかった。何を言っても、虚しくなるだけだった。彼女は記憶を保ったまま、京太郎だけが忘れてしまう。酷い仕打ちであった。しかしトシは、厳しく声をかける。

 

「これがあんたにとっての罰なんだよ、きっと」

「――はい」

 

 あらゆるものを飲み込んだ表情で、豊音は頷いた。

 

「熊倉さん、お世話になりました」

「私はちょっと手伝っただけだよ」

 

 トシはさらっと言ってのける。性別こそ違うが、こんな大人になりたいものだと京太郎は思った。

 

 そして。

 京太郎と豊音の手が、離れる。

 

「そろそろ、行くよ」

「うん。ちゃんと、見送るねー」

 

 笑顔を作る豊音に、一度京太郎は目を伏せて――それから、微笑み返した。

 

「またな、姉帯さん」

「――っ、うん……!」

 

 京太郎は、豊音とトシに背中を向けて歩き始める。

 

 霧が晴れても、トンネルの中は暗かった。肌寒く感じる。どうにも慣れない感覚だが、何度も味わったおかげで足は止まらない。

 

 闇の中、奥底へと京太郎は歩き続ける。

 戻るべき世界が、そこにあると信じて。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 世界が、崩れ始めた。

 

 そうとしか、豊音には表現できなかった。村が、山が、家が、畑が、看板が、電柱が、あらゆるものが光の塵になって空へと還ってゆく。幻想的で、心が凍える光景であった。

 

「どうやら、京太郎は無事に帰れたみたいね」

「良かったー」

 

 ぽつり、と豊音は呟き、それからはっと気付く。

 ポケットの中から取りだしたのは、一枚の紙片。ここに、京太郎の名前と連絡先を書いて貰ったのだ。

 

「あっ」

 

 けれどもその紙も、一瞬で光の塵に変わってしまった。彼の足跡は、永遠に失われた。分かっていても、やりきれなかった。

 

「さて」

 

 豊音の胸中を知ってか知らずか、トシは相変わらずマイペースに仕切り直す。

 

「今度はあんたが京太郎に会いに行く準備をしないとね」

「えっ」

「何を驚いているんだい、さっきの挨拶はそういう意味だろう?」

「で、でも私はー」

 

 山女として、この土地に縛り付けられている。出て行けるはずがない。我が儘を許されるとは、到底思えなかった。

 しかしトシはにやりと笑って、

 

「あんたは生身のままこの世界に来てるんだ。向こうでは当然、この一ヶ月半行方不明扱いなんだよ」

「……え、ええーっ」

「そこまで気が回っていなかったのかい? ともかく、あんたがいない間も村に災いなんかひとつも起きていなかったよ。あんたがいなくなったことが最大の事件さ」

 

 分かるかい、とトシは豊音に語りかける。

 

「あんたは山女なんかじゃ、ない。伝承はただの伝承さ」

「……っ!」

「もっともすぐには理解して貰えないだろうから、しばらく交渉が必要だね。その辺は、私に任せなさい」

 

 豊音は眉根を寄せて、純粋に湧いて出てきた疑問を口にする。

 

「熊倉さんは、どうしてそんなに良くしてくれるんですかー? 私、酷いことをしたのに」

 

 トシは、さらりと答えた。

 

「教師なんだから、当然だよ。子供の間違いは怒って諭して許すものさ」

「教師、せんせい?」

「来月からだけどね」

 

 いよいよ、豊音たちが立つ地面も光の塵となりはじめる。京太郎が入っていったトンネルもまた、音もなく崩れ始めていた。

 

「それに、逸材を逃すのも性に合わないしね」

「い、逸材ー?」

「こっちの話さ。ああ、村から出るには他にも条件があるよ。まずはその友引を制御できるようにならないとね。いきなり男の子はハードルが高かったんだろうねぇ。同性の同級生あたりから始めるべきかね」

「はぁ……」

 

 一人トシが呟いているが、内容がよく分からず豊音は曖昧に相槌を打つ。されど、希望の灯は確かに点っていた。この土地を出て、まだ見ぬ世界に飛び込む可能性。京太郎と、もう一度出会える可能性。想像するだけで、わくわくした。

 

 全てが崩壊する直前、豊音はトシに頭を下げた。

 

「よ、よろしくお願いしますー、熊倉先生」

「ああ、よろしくね、豊音」

 

 かくして師弟関係は結ばれ。

 二人はこの世界から、立ち去った。

 

 

 




次回:最終回 世界を開いて

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