ロード・オブ・白御前   作:あんだるしあ(活動終了)

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後日談
第1話 ショッピングのちデンジャラス


 ひらひらのロングワンピースを着た碧沙は、チーム鎧武のチームユニフォームを着た光実と手を繋ぎ、復旧した駅前ショッピングモールに来ていた。

 

 それというのも、碧沙は指で数えられる程度の数しかしたことがない「おねだり」で、光実と一緒の買い物を頼んだからだ。

 

 

 発端はやはり、親友の巴だった。

 

 無事、碧沙と同じ高校に入学した巴に、初瀬は「入学祝い」として彼のアパートの合鍵を渡したのだという。

 初瀬との仲は後日みっちり問い質すとして、碧沙は単純に「入学祝いの品を貰う」という行事に憧れた。親からも兄たちからも、そんな物を貰った思い出は、碧沙にはなかった。

 

 だが相手が誰であれ、プレゼントを貰いたいとねだるのは、はしたないという認識もあった。

 

 悩んでいた碧沙に声をかけたのが、光実だった。

 そこで碧沙は思いきって、光実に「おねだり」したわけである。

 

 

 

 

 

 女子向けのファンシーな雑貨店に入り、目を輝かせてあちこちの棚の商品を見回している碧沙は、光実の欲目を引いても可愛らしいと思う。

 

 こういう店に通ってもおかしくない年頃だった妹もまた、「呉島の娘」という縛りによって、行動を自ら制限していた。それが解禁になったのだ。楽しくて堪るまい。

 

(切羽詰まった顔で「一緒に買い物に行って」って言われた時は、ほんっと肩の力抜けたなあ。思えばこんなふうに兄妹水入らずって……碧沙が被験者生活してた頃以来、だな)

 

 碧沙がじぃっと見つめ、手に取ったのは、一つのバレッタ。

 

 布のカバーに、地味ながら丁寧な刺繍。豪奢な柄物より、宝石で飾った物より、ずっと碧沙の心を惹いたようだった。

 

「貸して」

 

 髪をまとめて試着しようとして苦戦する碧沙を見かねて、光実は碧沙の手からバレッタを攫い取った。

 光実は碧沙の後ろに回り、髪を一束ねにし、かち、とバレッタで留めた。

 

「どうかしら」

「よく似合うよ。碧沙は背も高いし大人っぽいから、ちょっと年上向けくらいのデザインのほうが映えるね」

 

 碧沙が店員を呼んだ。

 

「こちらを頂けますか?」

「いいの? 鏡、まだ見てないでしょ」

「光実兄さんが選んでくれた物だもの。鏡なんて見るまでもないわ」

「もう。後になってやっぱり気に入らないとか言わないでよ」

 

 光実は再び碧沙の背後に回り、長い髪からバレッタを外し、レジに持ち込んだ。

 清算をすませ、レジの店員にバレッタの値札をその場で外してもらってから、光実と碧沙は店を出た。

 

 光実は店の近くのベンチに碧沙と並んで座り、バレッタで改めて碧沙の髪を束ねて留めた。

 

「改めて、高校入学おめでとう」

 

 碧沙は穏やかな笑みを湛えて光実の肩に頭を預けた。

 

「――今でも夢みたいだわ。わたしがただの女子高生になったなんて。これも兄さんたちが頑張ってくれたからね」

「僕の場合は……ものすごく迷走してたけどね」

 

 “碧沙のため”を免罪符に、大勢の市民を恐ろしい目に遭わせ、苦しめた。

 大切な舞にも裕也にもひどい仕打ちをした。

 裕也が体を張って諭してくれていなければ、次は“舞のため”を免罪符に、どんな非道を行ったか。想像するだに恐ろしい。

 

「だとしても、わたしを救おうとしてくれて、でしょう? だから、被害者の人たちが光実兄さんを怒ったって、わたしは光実兄さんの味方をするわ」

「それは……心強いや」

 

 光実は肩にかかる碧沙の頭を優しく撫でた。

 

(分かってる。僕の罪はなくならない。それでもどうか、神様がいるなら、今日だけは。この妹と過ごすかけがえのない時間だけは、許してください)

 

 

 ――神がいるなら、その祈りは無情にも。

 ――神がいないなら、その願いは間が悪く。

 

 大量の青いイナゴの襲来によってぶち壊された。

 

 

 

 

 

 光実はとっさに碧沙を抱き締め、盾になるようにイナゴの群れに背を向けた。

 

 するとどうしたことか、イナゴの群れは光実と碧沙を避けるように飛び、去った。

 

『久しぶりだな』

 

 はっとしてふり返った先から歩いてくるのは。

 

「アーマードライダー……?」

 

 黒とマゼンタに彩られたリンゴの鎧をまとった、光実の知る誰でもないライダーだった。

 

『私のことを忘れたか?』

 

 黒紫のライダーは一瞬にして光実の前まで距離を詰め、光実の首を掴んだ。

 

「光実兄さんッ!」

 

 碧沙の悲鳴に応えることもできない。

  

『私だ、コウガネだ! ここまで力を取り戻すのに苦労したぞ』

「コウ、ガネ……誰だ……?」

『そうか。お前にとってあれは夢の中の出来事か。だが私には耐えがたい屈辱だったぞ!』

 

 コウガネと名乗ったライダーは光実を乱暴に投げ飛ばした。

 

「兄さん!」

 

 コウガネはマゼンタの大橙丸で光実に斬りつけた。だが、その刃が光実を傷つけることはなかった。

 

「…っ」

「碧沙ッ!!」

 

 光実を庇ってしがみついた碧沙が、代わりにその刃によって肩に傷を負い、小さな血飛沫を飛ばした。

 

 途端、コウガネはその血飛沫を浴びた顔を押さえ、マゼンタの大橙丸を落として後ずさった。

 

 顔を上げたコウガネは、フェイスマスク越しにも分かるほど忌々しげに光実と碧沙を睨み、青いイナゴの群れに分解して飛び去った。




 活動報告で行ったアンケートにより、「最終回の時間軸で巴たちがどうなったかを描く」という方針を決めました。

 まずは呉島弟妹から。
 合鍵の件は初瀬を問い詰めてくださいませ(笑)
 碧沙が裕也と二人きりでらぶらぶなショッピングに来ると思った方々、残念!
 何を隠そう、裕也にとって一番の恋敵というのが兄・光実だったのです。

 裕也は裕也で、ちゃんと大事な役回りで出てくるのでしばしお待ちを。
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