巴の量産型ドライバーは、かつての戦いで壊れてしまった。
戒斗の、全人類を滅ぼし、最初から「弱者を虐げない」と設定した生命体で世界を満たすという目的を知った巴は、無謀にも一人で戒斗に挑み、耀子に返り討ちにされた。
幸運だったのは、小型爆弾を仕掛けたザックが起爆スイッチを押す時に、白鹿毛がマリカを引きつけておいたおかげで、爆弾は過たず戒斗を仕留めたという点だけだ。
それさえも戒斗は、落下中にヘルヘイムの植物でネットを編み上げ、落下のダメージを軽減したのだから、もう何のためにがんばったのやら、というやるせなさだった。
――前置きが長くなったが、巴はベルトを失ったわけではない。
親がゴミに出したものと思って諦めていた戦極ドライバーを、先日、母が、巴に見せたのだ。
答えは簡単。実は捨てたと見せかけ、両親は戦極ドライバーを隠していただけだった。
理由はその時も言ったように「インベスゲームなどしていると学校に知れたら悪い噂が立つし、内申点も落ちるから」だった。
「結局は成績や世間体しか考えてないのね。――でも、ありがとう。これだけは無くしたくなかったの。碧沙からの初めてのプレゼントだったから」
その時はそれだけを言い残し、巴は戦極ドライバーを持って自室に引っ込んだ。
…………
……
…
待ち合わせには10分前に着いておく。貴虎のポリシーである。
今日はシャルモンにて、先に買い物に行った光実と碧沙と、兄妹3人揃ってお茶会をするという約束をしていた。
テラスの4人掛けの席に一人座り、復興活動の資料を読みながら、弟妹を待つ。
待ち合わせ時間より早く来たため、当然、光実も碧沙もまだ来ていない。ここで一人先にケーキを頼もうものなら、碧沙が拗ねてしまう。
「あーら。メロンの君、今日は一人でいらしたの?」
凰蓮がテラスに現れ、注文したブラックコーヒーをテーブルに置いた。
「いや。弟と妹が後から来る予定だ。時間的にもうそろそろだな」
「あらあら。それじゃあ家族団らんにふさわしいケーキを、気合を入れて作らなくちゃね」
テラスに新しい客が入って来た。後ろからはすでに城乃内が、トレイに載せた水とナプキンを持って来ている。
「あれ。貴虎さんじゃん」
その客というのが、初瀬亮二だった。
初瀬は貴虎の隣のテーブルに座り、鞄を空いた椅子に載せた。その初瀬の席に、城乃内が水とナプキンを置いた。
「初瀬か。君も誰かと待ち合わせか?」
「いや。補講の課題。ここでやんのが一番捗るんだ。甘いもんも食えるしな」
「こっちとしては家か図書館行けって気分だけどね。――今日もブラマンジュでいい?」
「おう、頼むわ」
何のかんの言いつつも、城乃内は脇にトレイを挟み、伝票に注文を書き込んでいる。
ちなみに初瀬は今、ビートライダーズ活動にかまけて行っていなかった大学に再び通っているという話を、碧沙経由で聞いた。
「まったく。気になって仕事が手につきやしない」
「こっちだって必死なんだぜ? 大学ぐらいは出ておかないと、向こうの親御さん受け悪いぞって姉貴に脅されてんだから」
「うわそれ遠回しに惚気? あー、やだやだ、リア充はこれだから」
「悔しかったら彼女作れ、ダ眼鏡」
「うるさい、オタ芸スイーツ男子っ」
「おやめなさい! お客様の前でみっともない」
凰蓮がトレイで城乃内と初瀬の頭を平等にしばいた。
「ってえ~」
「やっぱり俺もかよ……っ」
漫才のような男たちのやりとりに、周囲の若い女性客がくすくすと笑い声を零した。貴虎自身、苦笑が隠せなかった。
――そんな雰囲気だったから、突然、客の一人が悲鳴を上げた時、何かの聞き間違いだとさえ思ってしまった。
悲鳴を合図にしたように、大量の青いイナゴがテラスを襲った。
テラスや窓際にいた客が悲鳴を上げて逃げていく。その中で貴虎たちは
「まさかインベス!?」
青いイナゴは密集し、人間大のイナゴの怪人に姿を変えた。
一番に動いたのは初瀬だった。
初瀬はテーブルの上のグラスを掴み、イナゴ怪人の顔面に水をぶちまけた。
「城乃内!」
「あいよっと!」
初瀬と城乃内が同時にキックをくり出した。
蹴られたイナゴ怪人はテラスの縁にぶつかる。そこを彼らは、イナゴ怪人の足を掴んでひっくり返し、店の前庭へ投げ出した。
(あれだけ言い合っていて、土壇場にこのコンビネーション……)
ある意味で馬鹿正直な性格である貴虎には、その「何のかんの言いつつ結局はいいコンビ」という関係が理解できなかった。
だが個人の理解不理解は、今は余分だ。
縁を飛び越えて前庭に降りた初瀬と城乃内を追い、貴虎も前庭に跳び降りた。
兄さん正直者だから「ツンデレ」とか「ケンカするほど仲がいい」は理解できないと思います。