凰蓮と城乃内が胴にしがみついて動きを止めた所を、初瀬と貴虎でパンチをくり出した。
だが、イナゴ怪人は両者のパンチを軽くいなし、手首を捻り上げて転がした上、しがみついていた城乃内と凰蓮も掴んで放った。
集団攻撃でだめなら――初瀬たちは一人ずつ順にイナゴ怪人に飛びかかった。だが、7ヶ月前までの戦いで修羅場をいくつも潜ったというのに、このイナゴ怪人には誰一人として攻撃が通じず、地を舐める結果となった。
「どうした、アーマードライダーども。変身しないのか?」
現れた少女に、初瀬は言葉を失った。
戦極ドライバーを装着して初瀬たちを嘲笑っている少女は、関口巴だった。
「簡単には楽にしてやらんぞ。守ろうとしていたものが壊される様を、その目に焼きつけろ。フェムシンムのように滅んでいけ。猿どもめ」
(違う。トモはこんなイントネーションじゃない。こんな表情はしない。けど俺は、俺とヘキサだけは、トモを見間違えない。なら、目の前のこの子は……まさか)
少女は邪悪な笑みを刷き、黒とマゼンタのリンゴの錠前を開錠した。
「変身」
《 ソイヤッ ダークネスアームズ 黄金の果実 》
黒紫のリンゴの鎧が巴を装甲した。
『さあ。狩りの始まりだ』
黒紫のライダーは無双セイバーを抜き、一番近くにいる初瀬へと歩いてくる。
初瀬はどうにか逃れようとしたが、頭の隅では無理だということも分かっていた。
無双セイバーが高く掲げられた。
「初瀬さん!」
初瀬に向けて無双セイバーが振り下ろされる――寸前で、止まった。
碧沙が初瀬を庇って両者の間に割り込んだからだ。
「兄さん! 皆さん! 大丈夫ですか!?」
光実まで現れ、彼は貴虎のほうへ駆け寄った。その首には、絞められたような紫のアザ。
『体がっ……く、馬鹿なっ』
黒紫のライダーの手から無双セイバーが落ちた。
黒紫のライダーはもう片方の手で、震えながら、ロックシードを閉じて変身を解いた。巴の姿に戻った。
「これは、わたしの、体よっ。どこのどいつか知らないけれど、碧沙と亮二さん、だけは、傷つけさせないん、だから……っ」
彼女は自身の左手首を右手で掴み、外した黒いリンゴの錠前を再びバックルにセットしようとする片腕を押し戻している。
「トモ――お前、トモなんだな!?」
巴は答えない。自身の手との闘いに全神経を傾けていて、答える余裕がないように見えた。
化けているわけではない。これは関口巴本人だ。
『ほう……? アーマードライダーなのにあの世界にはいなかったゆえ妙だと思っていたが、まさか同じアーマードライダーと深い仲とはな。ますます利用価値が……ぐ!?』
「だからッ! 勝手にしゃべんなっつってんだろ虫けら野郎!!」
ついに巴の右手は黒いリンゴロックシードを持つ左手を押し返した。――その左手を、奇妙な方向に曲げて。
「と、もえ……」
「ふ、ふふ……やだなあ。洗脳されるわ素の口調知られるわ。ほんっとみじめすぎて笑えないんだけど。うん。あんまりみじめだから、このまま大人しく消えることにするわ」
――そこには、いつもの雅やかさも慎ましさもない、剥き出しの「女の子」の巴がいた。
イナゴ怪人が巴の後ろに立ち、大量のイナゴが彼女たちを包んだ。
「だからね、お願い、わたしを殺して? コウガネをわたしの中に閉じ込めていられる内に」
イナゴが一斉に飛び散った時、そこに巴の姿はなかった。
事態と残された巴の言葉に、場の全員が呆然とするしかなかった。
…
……
…………
戦極ドライバーを再び手にした夜。それらは巴に襲来した。
青いイナゴの群れが巴にたかり、どうやってか体内に侵食した。
悲鳴を上げることもできなかった。意識という幅を徐々に失くしていく感触は筆舌に尽くしがたかった。
残った一欠けらの意識で、巴は思った。
(きっとこれは罰だ)
碧沙しか見なかった。碧沙のことしか考えなかった。
碧沙が助かったのだから、後の世界の運命など、他の連中が勝手に争えばいい。
碧沙と初瀬さえ健やかに在るなら誰が支配者だろうが構いやしない。
戒斗を一度は止めようとしたのも、碧沙たちが滅ぼされてしまうと思ったからで、戒斗の理想や目的など酌量しなかった。
紘汰と舞がヘルヘイムにまつわる全てを連れて旅立ったと知っても、その中に碧沙と初瀬が含まれていなくてよかった、としか感じなかった。
(あの時、自分の大事なもの以外はどうでもいいと思ってた、わたしへの罰)
今ある一欠けらもなくなれば、きっと自分は大事な碧沙にさえ悪意を向ける者になるのだろう。
そんなことになるのなら、いっそ――こんな自分など、死んでしまえばいい。
その思考を最後に、巴の意識は完全に塗り潰された。
コウガネに憑かれたはまさかの(拙作)主人公。
だからといって、ここで初瀬がナイトよろしく奮闘してお姫様を救出する、という流れにはなりませんよ。それはもう碧沙でやりましたからね。
それに、巴はこの物語の主人公なのですから。