ロード・オブ・白御前   作:あんだるしあ(活動終了)

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第4話 再び、戦場へ

 

 

 騒動直後。

 コウガネと対峙した全ての顔ぶれがシャルモンに集まり、対策会議が開かれた――が。

 

 

『――――――』

 

 

 誰一人として建設的な意見を口にできないでいた。

 

 新しい敵が現れた。

 現れた敵は関口巴の体を乗っ取った。

 仲間を取り返し、敵を討つ。そのために必要な物は、貴虎も、誰もが分かっていた。分かっていたから何も言えなかった。

 

 ドライバーとロックシード。

 

 悪用を防ぐために迅速に全て破棄せよとの方針を掲げた過去の自分を、今は心から悔いる。

 

 凰蓮の戦極ドライバー、裕也とザックの量産型ドライバーは壊された。

 城乃内の戦極ドライバーと初瀬のゲネシスドライバーは、貴虎が全ドライバーを廃棄する時に返してしまって彼らの手元にない。

 

「――兄さん。碧沙の血から造った免疫血清って、今もある?」

 

 重い沈黙を破ったのは、誰あらぬ貴虎の弟だった。

 

「ああ。一時的に、ユグドラシルの提携先だった医療機関の××という病院に預けているが。血清がどうした?」

 

 光実は語る。変身したコウガネが、碧沙の血をわずかながら浴びて苦痛の様子を見せたことを。

 

「もしコウガネが“ヘルヘイムにまつわるもの”なら、免疫血清で関口さんの中からコウガネだけを弾き出せるかもしれない。昔、碧沙がフェムシンムの王妃に取り憑かれた時みたいに」

 

 しかし、あれは碧沙自身が強いヘルヘイム抗体保持者だから叶ったこと。

 関口巴がヘルヘイム抗体保持者か、そうでないとしたら免疫血清に耐えられるか。不安材料はいくつもある。

 その中でも最たる不安は。

 

「変身中のライドウェアの上からでは、普通の注射針程度では刺さらない。関口君……コウガネに変身を解かせなければならない。それはどうやって」

「ん。そこはちゃんと考えてあるよ」

 

 まるで光実がそう言うのを待っていたとばかりに、店のドアが開いて一人の男が入店した。

 

 

「角居!?」

「ちわっす。ご無沙汰してます、貴虎さん」

 

 ヘルヘイム災害が終結してからは会うこともなかった彼。今日までどこで何をしていたのか、問い質したいことは山ほどある。

 

 裕也は勝手知ったるとばかりに貴虎たちの輪にやって来た。その手には、中くらいの紙袋。

 

「話はミッチと碧沙から聞いてますよ。巴ちゃんが怨霊っぽいのに取り憑かれたんですって? てなわけで、これ」

 

 裕也が引っくり返した紙袋から出てきたのは、何とドングリのロックシードと量産型ドライバーだった。

 

「ありがとうございます。裕也さんなら絶対持って来てくれるって信じてました」

「お礼の件、お忘れなく?」

「碧沙との初デート、ですか。門限までに帰さなかったら――明日の朝日は拝ませませんよ?」

「ま、待て。光実、角居、話が見えん。あとその謝礼は私にも関与する権利があると思うぞ」

「火事場泥棒ってどこにでもいるんすよ、貴虎さん。世界の命運が懸かった戦いの最中でも、小悪党には稼ぎ時ってことです。トルーパー隊が捨ててったドライバー然り。シドから買って転売されたロックシード然り、ね。てなわけで俺、現在、自主回収の旅真っ最中なのです」

「……今回の件が終わったら、ドライバーとロックシードの回収組織を立ち上げよう」

 

 貴虎は本当に苦い苦い思いで頭を抱えた。

 

「このドライバーで誰かがライダーに変身して、コウガネと戦う。コウガネの変身が解けるくらいダメージを与えたとこで、免疫血清を注射する。シンプルな作戦でしょ?」

「つーわけだから頑張れよ、城乃内」

「え、俺!?」

「ドングリっつったらやっぱグリドンじゃん。なー、初瀬」

「――――」

「初瀬?」

「っあ……わり、考え事してた」

「初瀬ちゃんでも考え事とかするんだ」

「お前、俺のこと馬鹿だと思ってるだろ」

「猪突猛進だとは思ってるよ」

「はいそこー。火花散らさない場外乱闘しない。その怒りは巴ちゃん攫ってったコウガネにぶつけなさい」

 

 

 

 

 

 さく。ローファーが手入れされた芝生を踏む音。

 黒い長髪を揺らめかせて、少女は凭れていた“シャルモン”の店の壁を離れ、静かに敷地を出て行った。

 

 

 

 

 貴虎は屋敷に帰るなり、自室の金庫に保管していたアタッシュケースを取り出した。

 

 蓋を開ける。

 クッション材の上には、量産型ドライバーと、マツボックリのロックシード。

 

 貴虎はアタッシュケースの蓋を閉じ、それを持って屋敷を出て、車庫に向かった。

 

 

 ――コウガネに免疫血清を打ち込むのは良案だったが、そのためにはまずコウガネの変身を解かせなければならない。

 つまりコウガネと戦わねばならず、ならば同じライダーの力が必要だ。

 

 ドングリアームズはドンカチによる一点突破をバトルスタイルとする。

 元傭兵の凰蓮に鍛えられた城乃内といえど、彼一人ではコウガネとイナゴ怪人、両方の相手は荷が重い。

 かくなる上は貴虎自身が――

 

 

「それが予備のベルトとロックシードか?」

 

 

 足を止めた。貴虎の行く手を塞ぐように、初瀬亮二が現れたからだ。

 

「どうして分かった」

「城乃内が、あんたは用心深い性格だから1台だけは残しておいてる、って言ったから。自称策士は伊達じゃねえな」

 

 光実が前に「あれは『策士を自称する愛すべきお馬鹿さん』と呼ぶべきです」と城乃内を評していたが、その判定に異議を唱えておいたほうがよさそうだ。

 

「それ、貸してくれよ」

「君が戦うつもりか?」

「分かってる。あんたに任せるのが一番いいって。コウガネが乗っ取ってんのがトモの体じゃなけりゃ、そうしてた」

 

 初瀬は自身の右手を見下ろし、その手を拳の形に握り固め、また顔を上げた。

 

 

 ――かつて。

 こんなにもまっすぐに芯の通ったまなざしを貴虎に向けた者が、一人でもいただろうか。

 

 

「俺は昔、あいつに助けられた。今度は俺の番だ。トモをあの虫野郎から解放する。そのための力を俺にくれ。俺を信じなくていい。俺のトモへの想いを信じてくれ」

 

 

 アタッシュケースの中には、量産型ドライバーとマツボックリのロックシード。

 コウガネに対峙するための、形ある参戦の決意。

 

「――元はといえば、“黒影”は君の名だったな」

 

 貴虎はアタッシュケースを初瀬に差し出した。

 初瀬はアタッシュケースを受け取り、強く笑んだ。

 

 

「確かに返してもらったぜ」




 今回から、感想掲示板にコメントを頂いても返信しない方針を取ることにしました。
 楽しみにしてくださっている方がいるとしたら、申し訳ありません。

 さて本編。
 グリドンと黒影変身のお膳立てが整ったなら、後はどうなるか、皆様も想像がおつきになりますよね?
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