沢芽市内のある大病院で、騒乱は始まった。
大量に飛び交うイナゴ。逃げ惑う患者やナース。
中には、足腰の立たない老齢の患者が廊下に座り込んでいたり、逆に病室の中でベッドの上で布団にくるまって震える患者がいたり。
大量のイナゴを先触れに院内を闊歩するのは、イナゴの形をした怪人と、リンゴの甲冑を纏った紫暗のアーマードライダー――コウガネ。
「好き勝手やってんじゃねえッ!!」
コウガネの背中へ叩きつけられたのは、怒号。
発したのは、二人の男。
汗を浮かべ、息を切らし、それでも一度も速度を緩めることなく全力疾走で駆けつけた、初瀬亮二と城乃内秀保。
免疫血清を保管してあるこの病院までは貴虎に車で送ってもらったが、そこからは城乃内も初瀬も自身の足で走って、混乱の中にある院内からコウガネを探し出すしかなかった。こういう時、大規模な建物は厄介だと痛感した城乃内である。
凰蓮の修業のおかげで消耗はまだない城乃内だが、ダンスを離れて長い初瀬は、隣でまだ苦しげに息を荒げている。
それでも、初瀬からは闘志が消えないどころか、コウガネを見つけたことで、今にも飛びかからんばかりに凶暴な感情を剥き出しにしている。
「トモを返せ」
『それはできん。ここにある免疫血清とやらを破壊せねばならないからな』
「やっぱり知ってたか……!」
コウガネたちの行く先に、視線だけを向ける。――「第4薬品庫」のプレートがかかったドア。
初瀬が汗を腕でぬぐい、量産型ドライバーを装着した。城乃内もそれに続いた。
「行くぜ、城乃内」
「オーケー。いつでもいいよ、初瀬ちゃん」
男たちは勢いよく、上下に、マツボックリとドングリの錠前を振り上げ、開錠した。
《 マツボックリ 》
《 ドングリ 》
「「変身!!」」
――もう思い出しても霞む思い出。初めて初瀬と共にライダーに変身し、戒斗に弓引いた瞬間。
あの時の自分たちの、何と器の小さかったことか。
《 ソイヤッ マツボックリアームズ 一撃・イン・ザ・シャドウ 》
《 カモン ドングリアームズ ネバー・ギブアップ 》
城乃内をドングリの甲冑が、初瀬をマツボックリの鎧が、それぞれ装甲した。
アーマードライダーグリドン&黒影、ここにコンビ復活だ。
両者は同時におのおのの得物を構え、コウガネへと駆け出した。
『もっかい言っとくけど! 変身解除するまでは手加減なしだからね!』
『分かってるッ!!』
――初瀬亮二にとって特別な関口巴に対し、無意識にでも手を抜かないように。城乃内は口を酸っぱくして初瀬に事前に幾度となく言い含めた。
『手加減する暇なしに――一撃で決めりゃいいんだろ!』
《 マツボックリスパーキング 》
黒影がカッティングブレードを3回、切り落とした。
『ちょ、初手から必殺!? それはそれで悪手……!』
『うおりゃあああああ!!』
槍を垂直に持った黒影の体がドリルのように回転し、その身を投擲槍へ変えて、コウガネへと突進した。
コウガネは黒影の全力の突撃を、マゼンタの大橙丸と無双セイバーを交差させて防いだ。
『雑魚が。笑わせてくれる』
イナゴ怪人が出てこようとしたので、グリドンもそれ以上は黒影を諌めておれず、イナゴ怪人へとドンカチを揮った。
『でぇ――りゃあ!』
殴る。殴る。上から。下から。イナゴ怪人を。それでも足止めが精一杯だ。
(こいつら、基本スペックからして俺らと違う! しかもコウガネのほうはそれにアーマードライダーの力が上乗せされてる。こいつがいなけりゃ二人がかりでいけたのに)
『ぅおわ!!』
黒影がコウガネに弾き返された上に、マゼンタの大橙丸の敏捷な二太刀を受けてのけぞった。
コウガネはさらに大橙丸を突き出し、黒影の量産型ドライバーを剣先で砕いた。
ドライバーとロックシードの破損によって変身を強制解除された初瀬が、床に転がった。
『っ、初瀬ちゃん!』
「んのヤロ…っ」
初瀬に気を取られたのがいけなかった。
グリドンはイナゴ怪人にフェイスマスクを引っ掻かれ、その隙を突かれてドンカチを奪われた。
『しまっ……』
「城乃内ッ!」
一打。二打。グリドンは彼自身の武器によってイナゴ怪人に殴られた。特に二打目が鳩尾にもろに入ったせいで、体を「く」の字に折って完全に無防備となった。
そこで背後からコウガネに首を掴まれ、廊下に頭から叩きつけられた。
『か…っ、は…』
コウガネは転がったグリドンの量産型ドライバーに大橙丸を突き刺した。
城乃内の変身が解けた。
腹から、壊れたドライバーとドングリのロックシードが滑り落ちた。
『ふん。前座にもならなかったな』
コウガネは阻む者のない廊下を悠然と歩いていき、薬品庫のドアを、ついに、開けた。
そこで、初瀬がスロープに掴まって立ち上がり、ふらつきながらもコウガネを追って歩き出した。
「と、もえ……」
――彼にとって大事でたまらない少女の、ために。
城乃内も両肘で上体を起こし、どうにか手近なスロープに掴まって立ち上がった。
どちらともがドライバーとロックシードを破壊された。
二人とも、もう変身できない。
(あの子は初瀬ちゃんの特別な子なんだ。ダチの俺が
『何だ? まだやられ足りないのか。ならば存分にいたぶってやろう。この忌々しい毒を貴様らの目の前で叩き壊した後で、じっくりとな』
コウガネがカッティングブレードを1回切り落とした。
《 ダークネススカッシュ 》
――その瞬間、城乃内はコウガネの行動に疑念を覚えた。
闇色のソニックブームをまとった大橙丸と無双セイバーが、左右に振り抜かれ、薬品を保管していたガラス棚が派手に砕け散った――そう、
宙に投げ出される、割れた試験管。当然、そんなことになれば、中身は外へ溢れ出る。
『――待ってたわ』
コウガネの手がドライバーに嵌ったロックシードを閉じた。
変身が解け、巴の姿があらわになる。
割れて溢れた免疫血清を、彼女は頭からまともに浴びた。
「ぐわあああああっ!! 貴、様ッ…初めから…! オ、オォ…!」
ここまで来て分からない城乃内ではない。
(そうだ。免疫血清を壊すだけなら、病院ごと吹き飛ばせばいいのに、わざわざ薬品庫まで来た。巴ちゃんはずっとコウガネの無意識下でコウガネを逆に操ってたんだ。初めから、免疫血清を浴びるためにここを襲撃して、薬品棚を壊したんだ)
リスクも高く、犠牲者も辞さない、捨て身の策。
いや、これはもはや策ではなく、賭けだ。
「――これが、罰? わたしへの? はっ、馬鹿じゃねわたし。草生やしてワロスだわ」
かしゃん。バックルにあったリンゴのロックシードが、巴の戦極ドライバーからひとりでに落ちた。
震えながら上がった巴の顔は、勝ち誇った者のそれだった。
「お前なんかが、わたしの『罰』なわけ、ない。わたしに下る罰があるとしたら、っ、それ、は……碧沙と、亮二さんにっ、本気で嫌われることだけよ!!」
浴びるだけでいいんなら王妃の時もそうすりゃよかったんじゃね? とお思いの皆様。
よくよくご覧ください。まだ巴の中にはコウガネが巣食ったままです。
ここまで来れば「誰が」巴の中からコウガネを引きずり出すか、もう見当がおつきかと思いますので、ついに次回は「彼」の出番です。