ロード・オブ・白御前   作:あんだるしあ(活動終了)

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エピローグ

 

 

 変身を解いた巴は、桃色のソニックアローが飛んで来た方角に向けて、一礼した。相手に視えているかは分からないが。

 

 

「巴っ」

「碧……」

 

 沙、と続けようとする前に、碧沙は巴に抱きついた。

 

「よかった、よかった。巴、巴――」

「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫だから。痛い思いをさせて、ごめんなさい」

 

 浅くとはいえ、碧沙の柔肌を斬ったのは巴なのだ。当の碧沙が許しても、巴はその罪を一生忘れるつもりはない。

 

 巴は碧沙と離れ、自分とコウガネの戦いを見守っていた初瀬と城乃内に歩み寄った。

 

「亮二さんも秀保さんも。ご迷惑をおかけしてすみませ」

 

 今度もまた最後まで言い切ることはできなかった。それより早く、初瀬が巴の手首を掴んで引っ張り――デコピンを食らわせたからだ。

 

「痛っ!? 亮二さんっ?」

「二度とあんなこと言うなよ」

「あんなこと?」

「わたしごと殺して、みたいに言っただろうが」

 

 巴は思い出し、納得した。開き直る前の自罰意識が強かった頃だったから、コウガネに憑かれた自分がコウガネごと殺されるのが正しいと思い込んでいた。

 

「――はい。もう言いません」

 

 今の巴には、それが言わなくてもよかったこと、そして、関口巴を大切に想ってくれている人たちのために言ってはいけなかったことなのだと、分かる。

 

 

「みんなー!」

 

 

 ふいに光実の声がして、巴たちは全員が、こちらへ走ってくる光実を向いた。

 

「あっちの怪人のほうは紘汰さんと二人でパパッと片付けたから。こっちも加勢すべきかと思ったけど――紘汰さんが『大丈夫だ』って言ったから。本当に心配要らなかったや。関口さん、すごいね。単騎であのコウガネに勝つなんて」

「皆さんの助けあってこそです。わたしは全ての“助け”を束ねてぶつけただけ」

 

 巴の身に巣食ったコウガネを外へ追い出したのは紘汰。

 巴が戦うために必要なアーモンドのロックシードを調達したのは裕也で、届けてくれたのは碧沙。

 イナゴ怪人を引きつけてコウガネとの一騎打ちに横槍を入れさせないよう立ち回ったのは光実。

 

「光実さんも。心からお礼申し上げます」

 

 頭を下げて、上げて、ふと巴はいるはずの人物がいないことに気づく。

 

「あの、紘汰さんは?」

「紘汰さんなら、『邪魔しちゃ碧沙ちゃんと初瀬に悪いから』って、もう行っちゃった」

 

 光実は寂しげな表情を浮かべた。

 7ヶ月も別れていた兄貴分の一人と再会できた時間が短く終わったことを、残念がっているのだろう。

 

「よかったの? 光実兄さん」

「うん。本当なら“神様”が“個人”を救うこと自体、いけないことだよ。なのに紘汰さんは、僕たちのために来てくれた。これからはむしろそんな事態が起きないようにしていかないと。遠くにいる紘汰さん(かみさま)に、僕らは大丈夫だって伝わるくらい、がんばってかないとね」

 

 言い切った光実の(おもて)は晴れ晴れとしていた。

 

 

 ぱんっ、とそこで碧沙が両手を打ち鳴らした。

 

「光実兄さん。今度こそシャルモンに行きましょうよ。貴虎兄さんも一緒に。巴も、初瀬さんも、ザックさんも。みんなでお茶会しましょ? 巴が帰ってきたお祝いと、これから皆々さんが『頑張る』前の壮行会に」

 

 悪くない、それはいい、そうしよう。そんな流れが生まれ、その場にいた全員がシャルモンの方向へと歩き始めた。

 

「ほら、巴も」

「ええ」

 

 碧沙が差し出した手に、巴はそっと手を重ね、二人は手を繋いで歩き出した。

 

 …………

 

 ……

 

 …

 

 鎮守の森跡地で、復活した巨大なご神木の傍らに立つ戒斗を、舞は見つけた。

 

「どう、戒斗? みんな過去を乗り越えて、前へ進もうとしている」

 

 

 罪滅ぼしをしなければならないと己を律していた貴虎は、そのためのドライバーを初瀬に託した。

 

 過去に盛大に決裂した城乃内と初瀬が、そのしがらみを超え、再び並んで戦場に立った。

 

 ずっと独りぼっちの戦いを選び続けた光実は、紘汰と共闘することで、誰かと力を合わせることを知った。

 

 戒斗を盲目的に見つめた耀子が、戒斗の破滅の一因となった巴を、変身してまで助けた。

 

 

『あいつらがどの道をどう進もうと、もう俺には関係ない。間違えるならそれまでだ』

「大丈夫。間違えても、そこで終わりじゃない。間違えたって、やり直せる」

 

 戒斗は遠くを見るような目をしてから、瞼を閉じた。

 

『耀子は俺の強さを見届けた。その強さを、今日、関口に継いだ。だから俺が信じたものも、耀子と関口が死なない限り無くならない』

「――そうね。そうやって、受け継いで、受け継がれて、過去に散った命も今に未来に、息づき続ける。それを支えにして、糧にして、生きていくのが人類。あなたが貫いたものは、誰もがきっと知らず知らずの内にしている、命の営み」

 

 戒斗は小さく、本当に小さく、微笑した。

 

『やはりお前は強いな』

 

 その一言を最後に、駆紋戒斗は空気に透けるように消えていった。

 

「さようなら、戒斗」

「――じゃあな。駆紋、戒斗」

 

 舞は紘汰をふり返った。

 

「舞。俺たちも自分の未来へ進もう」

「うん」

 

 紘汰が腕を上げ、大樹の幹にクラックを縦に開いた。

 

 クラックの向こう側の暗黒の宇宙の中で、一つだけ、青く輝く星がある。あれが紘汰と舞が辿り着いた、新たな惑星(せかい)

 

 

 

 

 

 ――行こう。

 ――間違えながら、それを正しながら。

 ――この青い惑星で、たった一つしかない命で生きて行こう。




 これにて「ロード・オブ・白御前」を完結といたします。
 凍結したり長期間放っておいたり、思えば失礼な仕打ちをたくさんしてきたのに、こうして最後まで読んでくださった方がいるというのは感無量です。
 本当にありがとうございました。

 白御前(ともえ)(ロード)は決して主人公らしくなかったでしょう。ですが、この青さや泥臭さというか、そういうものを書けて作者は満足です。

 最後まで書かせてくれて、読者の皆様、ありがとうございました。
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