摩天楼の星   作:サマエル

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New Hero~新たなる光~

自由の象徴たる国、アメリカ。

国境や人種の垣根を超えた、移民達の国が求めたのは、『進化』だった。

かつての自分達がそうであったように、世界の様々な文化を分け隔てなく受け入れる。

そのアメリカに、一際大きな変化をもたらす進化があった。

 

スチームレボリューション。

 

日本やドイツに始まる蒸気革命。

蒸気の力はアメリカの様々な発展を飛躍的なものに変えた。

その中、自由の街ニューヨークにおいて、蒸気の力を用いた秘密組織があった。

 

その名………、

 

「に………、紐育華撃団!?」

 

アメリカより遠く離れた島国、日本。

その首都東京にある大帝国劇場の支配人室において、驚きの声が上がった。

それは、一人の若々しい海軍少尉の声だった。

まだ幼さの残る顔立ちの青年の名は大河新次郎。

若干19歳という若さで士官学校を首席で卒業した、海軍きってのエリートだ。

その新次郎を驚かせたのは、目の前の椅子に腰掛ける帝国華撃団総司令にして新次郎の叔父、大神一郎だった。

 

「そうだ。新次郎、お前にはニューヨークにある紐育華撃団星組に配属してもらう。」

 

驚く甥を尻目に、大神はハッキリと告げた。

帝都、巴里に続いて設立された三番目の霊的組織。

それが紐育華撃団星組だった。

 

「彼らはまだ若い組織だ。お前には彼らをまとめあげ、帝都や巴里に負けない立派な華撃団に育てて欲しい。」

 

「は、はい!」

 

肩に置かれた手を重く感じながら、新次郎はやや引き攣った表情で答えた。

無理のない事ではあった。

新次郎は当初、帝劇に呼ばれた事を花組に配属されると勘違いしていたからだ。

まさか自分が海を越えて本場アメリカに行く事になろうとは………。

考えもしなかった事態に、新次郎は不安を募らせる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ここが、ニューヨーク………。」

 

長い船旅を終えて新天地に降り立った新次郎は、目の前に広がる光景に驚きを隠せずにいられなかった。

そこにあるもの全てが、巨大と言って過言ではなかった。

目の前にそびえ立つ巨大なビル郡。

街を行き交う自動車。

常に時代の最先端を行く街、ニューヨーク。

まだうら若い青年将校は、一目でその虜になってしまった。

 

「ここが、僕の守るべき街………。よし、やってやるぞ!!」

 

新次郎は周囲の目を気にする事なく、両の拳を空に突き上げた。

空は輝かんばかりの青空だった。

まるで、新次郎の澄み切った瞳のように。

 

「僕はでっかい男になるんだ!サムライの意地、見せてやります!!」

 

大河新次郎。

後に摩天楼のサムライの異名を持つ事になる彼の、波乱に満ちた物語が、幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新次郎がニューヨークに到着したその頃、タイムズスクエアに位置するリトルリップシアターにおいて、盛大なため息をつく人物がいた。

歳はちょうど20歳になったばかり。

短い金髪と鋭さを感じさせる三白眼。

歳よりやや大人びた風貌の彼の名はハワード・アンバースン。

紐育華撃団星組の隊員である。

 

「………で、何でわざわざ俺なんだ?」

 

ウンザリした表情を隠す事もなくため息の理由を口にするハワード。

すると、目の前に座る眼鏡の青年はポーカーフェースで答えた。

 

「何って君一番暇そうでしょ?迎えに行くだけなんだからさ。」

 

「冗談じゃねぇ!まだセットは完成してねぇんだぞ!」

 

「そんなの本番に間に合わせればいいだけの話さ。」

 

「サニー………、お前一辺大道具係やって見ろや………!!」

 

こめかみに青筋を立てながら、ハワードは目の前の青年、マイケル・サニーサイドを睨みつけた。

サニーサイドはこの劇場、リトルリップシアターのオーナーを勤めるニューヨークでも指折りの大富豪だった。

噂では洞察力においてニューヨークで彼に敵うものはいないとされているが、目の前にいる当人からは全くと言っていいほどそんな様子が見受けられない。

普段から隙あらば仕事を抜け出そうとするし、何か始めたかと思えば行き当たりばったりの思い付きがほとんどで、いつもハワード達はその後始末やフォローに追われているのだ。

今回の新隊員の出迎えも、何やら唐突に決まった気がしてならない。

 

「それにさハワード。」

言葉の先を察したか、サニーサイドが口を開いた。

 

「別にできなくてもいいんだよ。今月の給料あげないだけだから。」

 

「………。」

 

その言葉に、ハワードは気が遠くなるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………えっと、確かこの辺りだよな………。」

 

新次郎は一度足を止めて、周りを見渡した。

一応渡米に向けて最低限の英語の知識はつけてきたが、それでもニューヨーク程の大都市となると、初めて来る人間は道に迷うのが普通な訳で………。

 

「おっかしいな………。」

 

首を傾げつつ、新次郎はよく地図を見た。

確か自分はタイムズスクエアを目指して歩いて来たはずである。

しかし目の前には銀行の並ぶウォール街。

どうやら方向を間違えて、ベイエリアに来てしまったようだ。

 

「う~ん、ニューヨークって建物が高すぎて分からないよ………。」

 

困り果てた表情で呟いたその時、背後から銃声と悲鳴が聞こえて来た。

 

「な、何だ!?」

 

驚いて振り向くと、大きなドル袋を担いだいかにも強盗らしい二人組がウォール街を走り去る様子が見えた。

多分見た目通り銀行強盗だろう。

白昼堂々、よくこんな真似が出来たものである。

 

「待てっ、強盗野郎!!」

 

叔父譲りの持ち前の正義感が唸り、新次郎は強盗を追い掛けた。

しかし相手はこの辺りの地理を知り尽くしているらしく、簡単に人混みを掻き分けて距離を離していく。

その時、人混みの奥に何かの影が過ぎった。

 

「う、馬!?」

 

それは、西部劇を連想させる馬に乗った少女だった。

驚いた事に、背中には日本刀を下げている。

 

「ハァッ!!」

 

猛スピードで馬を走らせ、少女はすれ違い様に強盗を刀で切り伏せた。

いずれも脳天を直撃したらしく、強盗は揃ってのびている。

 

「(あの太刀筋………、何て腕前だ………。)」

 

一瞬の出来事に戸惑いながら、新次郎は冷静に目の前の少女を見た。

テンガロンハットと怪傑風の仮面。

よく見ると、彼女の跨がった馬も同じ仮面をつけている。

 

「………イッツみね打ち。」

 

刀を納めつつ、少女が呟いた。

強盗の頭に怪我がない事から、刀の背で殴っただけである事が分かる。

やはり向こうも、無益な殺傷は好まないらしい。

 

「あ、あの………!」

 

話し掛けようと新次郎が口を開きかける。

が、その前に馬が後ろ脚でドル袋を蹴りたくった。

 

「え………?」

 

「悪いが無駄に話す時間はない。………さらばだ。」

 

戸惑う新次郎にそう吐き捨てると、少女は風のようにウォール街から消え失せた。

 

「な………、何なんだ………?」

 

沸き立つ群集の中、新次郎はそう呟くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、スマンが君。」

 

新次郎の肩に手が置かれたのは、それからすぐの事だった。

 

「は、はい。何ですか?」

 

振り返った新次郎は、目の前の人物が見せたものに驚きのあまり固まった。

それは、アメリカ市警の警察手帳だった。

よく状況を整理したい。

強盗を倒した仮面の剣士は既にいない。

強盗は地面にのびたまま。

そして新次郎の手には馬が蹴りたくったドル袋。

つまり………、

 

「私はニューヨーク市警のソルトという者だ。銀行強盗の現行犯として、君を逮捕する。」

 

「わひゃあ!?ち、ちょっと待って下さいよ!!」

 

言われのない罪を押し付けられ、情けない声を出す新次郎。

一方のソルト警部は容赦なく新次郎に手錠をかける。

ニューヨークについて一時間もしない内に絶体絶命のピンチに陥った新次郎。

しかし、そこに救いの神ともいうべき人物が現れた。

 

「………おい。お前が大河新次郎か?」

 

「え………?」

 

「む、何かね君は?」

 

振り向いた先にいたのは、新次郎より背の高い青年だった。

短い金髪に鋭い三白眼。

そして口元で吹かすタバコは、やや不良っぽい。

 

「は、はい。自分が大河新次郎ですが………。」

 

突然の事に戸惑ったまま、律儀に返事を返す新次郎。

すると、目の前の青年はあからさまにため息をついた。

 

「君は一体何者かね?何なら一緒に署まで来てもらいたいのだが?」

 

「テメェに用はねぇよ、オッサン。」

 

「なっ………!!」

 

怒りに身を震わせるソルト警部を尻目に、青年は新次郎の手にかけられた手錠を見た。

 

「何だ、お前何かやらかしたのか?」

 

「………いいえ!無実の罪です!!僕は強盗なんてやってません!!」

 

もしかしたら信じてくれるかも知れないと思い、必死に無罪を主張する新次郎。

すると、目の前の青年は新次郎が言い終わらない内に手を引き、人混みの奥にある自転車の荷台に新次郎を座らせた。

 

「き、君!待ちなさい!!」

 

「飛ばすぞ!しっかり掴まってろ!!」

 

「は、はい!!」

 

ソルト警部の声を無視し、青年はバイク顔負けのスピードで自転車を走らせた。

 

「逃がすな!纏めて逮捕する!!」

 

その後ろを、ソルト警部を先頭に無数のパトカーが追跡する。

どうやら先程青年にオッサンと言われたのがよっぽど悔しかったらしい。

かくしてウォール街を舞台に、今度は自転車とパトカーによる一代カーチェイスが展開される事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………よし、着いたぜ。」

 

周囲にパトカーがない事を確認し、青年は自転車を止めた。

あれから約30分。

青年は無数のパトカーを相手に壮絶なカーチェイスを展開したのである。

 

「あ、あの、ありがとうございました………。」

 

やり方はともかくとして、彼が助けてくれた事を変わりはない。

新次郎が礼を述べると、青年はタバコに火をつけながら答えた。

 

「構わねぇよ。どうせ俺も、お前に用があったからな。」

 

ややぶっきらぼうな返事を返すと、青年は何か思い付いたように新次郎を見た。

 

「そういや、自己紹介がまだだったな。俺はハワード=アンバースン。紐育華撃団星組の一人だ。」

 

「貴方が………。あ、自分は………!」

 

「大河新次郎だろ?もう知ってるからいいよ。」

 

言うや、ハワードは自転車から降りてシアターの入口に立った。

新次郎もそれに続き、シアターの中に入る。

すると、一人の女性が二人を出迎えた。

毛先だけウェーブのかかった長い金髪に、深緑の瞳。

ハワードと対照的と言っては失礼だが、理知的な魅力を持った女性だった。

 

「あらハワード、随分遅かったのね。」

 

「ちょっとサツに絡まれてな。お前こそ舞台の準備はいいのかよ?」

 

「私は大丈夫よ?それより貴方こそ、こんな所で油を売る暇があって?」

 

女性の一言に、ハワードの顔が凍り付いた。

何かまずい事を思い出した時のそれである。

 

「サジータが怒ってたわよ?債務不履行で訴えるぞって。」

 

「だぁ~、ったく!分かったよ畜生!あの女いっつも債務債務って………!!」

 

女性が言い終わらない内に、ハワードは客席の横にある通路に消えて行った。

何やら自分をここへ連れて来る他に仕事があったらしい。

 

「さて、ようこそ大河新次郎少尉。私は紐育華撃団星組の隊長、ラチェット=アルタイルよ。」

 

「は、はい!本日紐育華撃団星組に配属された、大河新次郎です!ラチェット隊長、よろしくお願いします!!」

 

隊員に続いて隊長に出会った事に興奮してか、カチカチに固まる新次郎。

その若者特有の姿に、ラチェットは思わず笑った。

 

「ふふっ、そんなに畏まる事ないわよ。それに秘密部隊なんだから、『ラチェットさん』でいいわ。」

 

「はい、ラチェットさん!」

 

新次郎の返事に微笑み、ラチェットは踵を返した。

 

「いらっしゃい、大河君。司令の所に案内するわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハワード!アンタもういっぺん言ってみな!!」

 

聞き慣れてしまった怒鳴り声に、ハワードはウンザリした様子でため息をついた。

対する黒人の女性は、憤怒の形相でハワードを睨みつけている。

 

「だから何度も言ってるだろ?サツに追われてたんだよ。」

 

「アタシが言ってるのはそういう事じゃない!自転車による法定速度は30キロ。しかも警察から逃げるなんて公務執行妨害だろ!!」

 

小型の法律書を片手に次々と法律専門用語を並べ立てる女性。

それもそのはず。

彼女、サジータ=ワインバーグは紐育華撃団星組の隊員にして、ニューヨークでも指折りの敏腕弁護士なのだ。

物事をみんな法律で解決し、二言目には法律と言うバリバリのキャリアウーマンは、ハワードと特に反りが合わなかった。

 

「昴、アンタも黙ってないで何か言ってやりな!」

 

サジータがふと真後ろに立つ人物を振り返った。

その人物は、サジータとハワードが長身なせいもあってやや背丈の低い日本人だった。

紫色のスーツとやや不釣り合いな半ズボンを身につけた人物は、愛用の鉄扇を開いて答えた。

 

「昴は言った。ハワードは仕事には支障をきたしていない。むしろ怒鳴りすぎで君の喉が心配だと。」

 

名前を一人称にする独特な口調で、昴は言った。

 

「なっ………!」

 

思いも寄らぬ返事に言葉を失うサジータ。

その姿を無感情な横目で見つめ、昴は続けた。

 

「役者が喉を壊しては一大事だ。そうなれば、君こそ履行不能で逆告訴されるんじゃないか?」

 

「………はいはい分かったよ。黙ってりゃいいんだろ?」

 

昴の話をウンザリした様子で相槌をうち、サジータは辺りを見渡した。

 

「………そういや、ジェミニは何処行ったんだ?」

 

「ワンペアと一緒に新入隊員の部屋を掃除してるはずだ。」

 

「え………?でもアイツ、最近来たばかりでニューヨークは右も左もわかんないって………。」

 

昴の言葉に、サジータは目を丸くした。

ジェミニとは、テキサスからやって来たシアターの掃除係だった。

まだ都会に馴染めていないらしく、初めて会った時は交差点のど真ん中を馬で突っ切って大渋滞を引き起こした事もある。

掃除も熱心にやってくれるのは嬉しいが、何処かドジな所があって何か一つは騒ぎが起きるのだ。

そんな彼女を一人でニューヨークに放り出せばどうなるか、想像に難くなかった。

 

「どうせサニーサイドの気まぐれだろ?大体俺を出迎えにやる方が間違いなんだ。」

 

「ハワード!そういう責任のなすりつけはやめな!」

 

すかさずハワードを睨みつけるサジータ。

その時、

 

「緊急事態発生!緊急事態発生!紐育華撃団星組は、作戦司令室に急行して下さい!」

 

シアター内に鳴り響く警報に、三人の表情が変わった。

 

「やれやれ、仕事みたいだね。」

 

「昴は言った。急げと。」

 

「ったく、タイミング最悪だろ………。」

 

三者三様の反応を見せ、三人は作戦司令室に急いだ。

紐育華撃団星組の幕が、上がったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニューヨーク、ミッドタウン。

豪華なアパートやデパートが立ち並ぶ住宅街に魔の存在が現れたのは、突然の事だった。

刀や銃を手に暴れ回る謎の機械兵。

閑静な街は、一瞬にして爆音と悲鳴に包まれた。

しかし、それを許さない者達がいた。

紐育華撃団星組。

正に空を駆ける流星のように颯爽と現れた三つのスターは、瞬きの内に暴れる魔の存在を討ち滅ぼした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、新次郎。この辺りじゃないかな?」

 

そう言ってアパート前に出来た人だかりを指差すジェミニに、新次郎は頷いた。

先程ビレッジ地区で見かけた三つのスター。

あれは間違いなく紐育華撃団星組だ。

サジータの案の定迷子になっていたジェミニを案内していた新次郎は、空を疾駆するスターを目撃し、追い掛けて来たのである。

 

「あら、大河君じゃない。ジェミニも一緒だったのね。」

 

「ラチェットさん!」

 

背後から聞こえた突然の声に、二人は驚いて振り返った。

星組は既にスターで戦線を離脱したはず。

何故彼女がここにいるのか。

二人の疑問を察したラチェットは、澄まし顔で答えた。

 

「敵は僅か三体だったもの。私が出る間でもなかったわ。」

 

「そうなんですか………。やっぱり星組って凄いですね~。ボク、憧れちゃう………!!」

 

ラチェットの言葉に星組の勇姿を思い浮かべたか、ジェミニはうっとりした表情で呟く。

すると、今度は奥の方からギターの音色が聞こえて来た。

 

「ニューヨークはいいなぁ~!!………ビル高いけど。」

 

それは白いスーツとギターが特徴的な、大神と同年輩くらいの好青年だった。

オールバックの茶髪と黒い瞳から、日本人と分かる。

 

「あら加山君。早速調査かしら?」

 

顔見知りなのかくだけた感じで離しかけるラチェット。

すると、加山と呼ばれた青年は背景にしていた摩天楼の書き割りを片付けつつ答えた。

 

「ええ、こういった調査は人混みに紛れてやるのが一番なので。」

 

笑顔を見せつつ、青年は視線を新次郎に移した。

 

「君が大河新次郎少尉だね?大神から話は聞いているよ。」

 

「え!?一郎叔父をご存知なんですか!?」

 

大神を知っている事に素直に驚く新次郎。

すると、青年は胸を張って名乗りを上げた。

 

「俺の名は加山雄一。帝都、巴里、そして紐育の華撃団をバックアップする諜報部隊、月組の隊長だ。」

 

「加山さん………。貴方が………!」

 

加山の言葉は、今度は別の意味で新次郎を驚かせた。

帝国華撃団月組と、その隊長である加山については、新次郎も大神からよく聞かされていた。

都市を襲う魔の存在をいち早く掴み、正確な情報を迅速に提供する、ある意味実動部隊より危険な仕事をこなすプロフェッショナル。

今回も加山は、こうして敵の情報を探りに来たのである。

 

「………それで加山君。何か有益な情報はあって?」

 

自己紹介が済んだ所で、ラチェットが本題に入る。

すると、加山は表情を厳しいものに変えた。

 

「………残念ながら、今の所有益な情報はありません。ただ………、」

 

「ただ?」

 

「4年前に帝都に現れた脇侍と、何処となし似ているようです。」

 

脇侍。

それは、かつて帝都を襲った魔の存在『黒之巣会』の操る魔装機兵と呼ばれる機兵だった。

今回ニューヨークに現れた『悪念機』とは随所に違いが見られるが、魔の力で動く機械という点は同じだ。

 

「なるほど………。気をつけて調査を進めてね。」

 

「了解です。それじゃあ新次郎、アディオ~ス!」

 

そう言って加山は笑顔に戻り、現場を後にした。

 

「さて………、シアターに戻りましょうか。隊員達を紹介してあげるから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ハワード。支配人室に行かなくてよかったの?」

 

シアターの入口で新次郎と別れたジェミニは、客席の近くでタバコを吹かすハワードに声をかけた。

ラチェットは隊員を紹介すると言って新次郎と屋上に上がった。

つまり隊員達の紹介は屋上という事になる。

当然隊員であるハワードも行く必要があるのだが、

 

「俺なら大丈夫さ。何せアイツをシアターに案内したのは俺だからな。」

 

「へ~、珍しいね。ハワードって世話焼きタイプじゃないでしょ?」

 

ハワードの言葉に納得しつつ、ジェミニは正直な感想を述べた。

ハワードはかつてアイゼンクライトの開発に携わったアンバースン夫妻の息子だ。

両親に似て機械に詳しく、星組の隊員で且つメカニックのチーフも務めている。

しかし、彼自身が他人のために自分から何か行動を起こす事は極めて少ない。

基本的に何事にもアンニュイで、消極的なのだ。

しかしそれでも大概の仕事を期限までに仕上げてしまうから不思議だ。

今日もラチェット主役の舞台『クレオパトラ』の大道具準備を追われていたはずなのだが、気が付けばセットは完成し、本番を待つばかりになっている。

早い話、出来る人なのにしたがらない。

ハワードはそういう人物だった。

 

「珍しいも何も、サニーサイドが言い出した事だ。おかげでサジータにまた怒鳴られたぜ。」

 

今朝の出来事を思い出し、眉をひそめるハワード。

その時、奥の廊下でエレベーターの到着する音が聞こえた。

確か事務用の、屋上に繋がるエレベーターだ。

 

「あ、きっと新次郎だよ!」

 

そう言って廊下の方に笑顔を向けるジェミニ。

しかし、その表情は一瞬で消えた。

何故なら………。

 

「………。」

 

「………し、新次郎………?」

 

廊下の奥から現れたのは、確かに新次郎だった。

しかし、その表情に先程までの元気はなく、悲しみに満ちたものに変わっていた。

 

「新次郎、どうしたの?」

 

近付いて尋ねるジェミニ。

すると、やや遅れて新次郎が反応した。

 

「あ………ジェミニ………ハワードさん………。」

 

先程とは明らかに違う弱々しい声。

新次郎に一体何があったのか。

分からず戸惑うジェミニに対し、ハワードはその理由を察した。

 

「………期待ハズレ、とでも言われたか?」

 

刹那、新次郎の肩が僅かに震えた。

どうやら図星らしい。

一方、理由の分からないジェミニがハワードに尋ねた。

 

「ど、どういう事!?期待ハズレって………。」

 

「ジェミニ。本当はな………、新次郎じゃなくて叔父の大神一郎が、星組に来るはずだったんだ。」

 

「え………?」

 

ハワードは一瞬躊躇ったが、意を決して答えた。

 

「俺達星組は、まだ結成して間もない。だから、隊員達を纏める大黒柱が必要なんだ。」

 

「それで、大神さんが………?」

 

「ああ。だが、大神一郎は帝国華撃団の司令だ。だから新次郎が呼ばれたのさ。………だろ?」

 

ハワードの言葉に、新次郎は無言で頷いた。

当初、紐育華撃団の新隊員には大神が新隊長として迎えられる予定だった。

しかし、大神は今や帝国華撃団花組の総司令として、帝都になくてはならない存在となっている。

そこで、士官学校を首席で卒業した甥の新次郎を、大神自身が推薦したのである。

 

「でも………、そしたらラチェットさんは?星組の隊長はラチェットさんでしょ?」

 

ジェミニが最もな疑問を呈した。

実際に戦闘を見た訳ではないが、星組が今だかつて敗北を喫した事は一度もない。

ラチェットの指揮が的確なのは、これまでの星組の華々しい戦果を見て明らかだ。

なのに、わざわざ大神をニューヨークに呼び付ける必要性があるだろうか。

すると、ハワードは顎に手を当てて考えるそぶりを見せた。

 

「確かにそうだ。俺もラチェットの指揮は、完璧だと思ってる。しかし………、」

 

他人に聞かれては困るのか、ハワードはキョロキョロと辺りを見渡して耳打ちした。

 

「これはあくまで俺の予想だが………、ラチェットの霊力は弱っているみたいだ。」

 

「ええっ!?」

 

やはり知らされていなかったのか、ジェミニのみならず新次郎も表情を変える。

 

「俺とアイツは欧州星組からの顔なじみだ。あの時のアイツは、怖いくらいに強かった。」

 

今から8年近く前の欧州星組。

アイゼンクライトという鉄のドレスを身に纏い、舞い踊るように殺戮を繰り返すその凄惨な様子は、今でもハッキリ覚えている。

まだ悪念機程度に遅れをとる程ではないが、当時と比較すると明らかにラチェットの動きはキレがなくなっていた。

 

「さっきの戦い、多分アイツは『自分が出る間でもない』とか言ってただろうが、本当は違う。アイツは、スターを動かせなかった。」

 

畳み掛けるような事実に、二人の表情は完全に凍った。

ラチェットはハワードの言う通り、『自分が出る間はない』と言っていた。

しかし『戦わなかった』のではない。

本当は『戦えなかった』のだ。

大神は、ラチェットが戦力外になる事を見越してサニーサイドが要求した人物だった。

 

「確かにサジータも昴も、ヘマをしない限り負けねぇ。だが、ラチェットの指揮がないという穴の大きさは理解している。それを埋められる人間が、限られている事もな。」

 

「………ハワードさんも、そう思いますか?」

 

ふと、新次郎が口を開いた。

 

「確かに僕は、一郎叔父ほどの力はないかもしれない………。でも………、でも、僕だって星組の隊員です!みんなと一緒に、この街を守りたいんです!!」

 

胸に詰まった思いを吐き出すように、新次郎は叫んだ。

すると、ハワードは穏やかな口調で尋ねた。

 

「………新次郎。お前に出来る事を………、お前にしか出来ない事をやって見せろ。」

 

「え………?」

 

「大神一郎ではなく、大河新次郎にしか出来ない何か。それを精一杯やるんだ。泣き寝入りは、それからでも遅くないぜ。」

 

そう言って、ハワードは口から煙を盛大に吐き出した。

 

「少なくとも俺は、大神って奴よりお前の方がいいな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少なくとも俺は、大神って奴よりお前の方がいいな。」

 

その言葉に、新次郎はとても救われた思いがした。

サジータは「ひよっこ」と言った。

昴は「代わりにはなれない」と言った。

サニーサイドは「期待ハズレ」と言った。

そんな中彼だけは、ハワードだけは違った。

ハッキリと、大神より自分が良いと言ってくれた。

 

「そうだよ新次郎!ボクも新次郎にいてほしい!だから………ね、元気出して!」

 

「ジェミニ………。」

 

ハワードに賛同するように、ジェミニが新次郎の手を握った。

その手が震えている事から、自分を慰めるために恥ずかしいのを我慢してくれていると分かる。

 

「ジェミニ………、ハワードさん………、ありがとう………。」

 

新次郎は、枯れたはずの涙が込み上げてくるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジェミニ、屋上の掃除終わったよ。」

 

「本当!?新次郎ありがとう!」

 

屋上の掃除から戻って来た新次郎を、ジェミニが笑顔で出迎えた。

二人の励ましを受けた新次郎は、サジータ達に認めてもらうべく、自分に出来る事を精一杯やる決心を固めた。

その手始めとして、ジェミニの掃除を手伝う事にしたのである。

 

「後は何処の掃除?」

 

「客席だけだよ。広いけど二人でやればすぐ終わるよ。」

 

そう言って、ジェミニは客席の扉を開けた。

しかし、

 

「あれ?電気がついてないね。」

 

電気がついていないせいで客席は真っ暗だった。

これでは掃除をしようにも手元が見えない。

 

「ダメ、ブレーカーも下がってる。これじゃ明かりがつかないよ………。」

 

ションボリした表情で俯くジェミニ。

しかし次の瞬間、何かに気が付いたように顔を輝かせた。

 

「あ、そうだ!いい方法があるよ!」

 

「本当?」

 

「うん、ついて来て!!」

 

そう言って、新次郎はジェミニに連れられて客席を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………で、客席の明かりをつけようとしてこうなったと………。」

 

「ご、ごめんなさい………。」

 

真っ暗になった楽屋で、ジェミニは小さくなった。

ジェミニが新次郎を連れていったのは、作戦司令室横にある管理棟だった。

シアター全体の電気管理をしている管理棟を操作して、客席の明かりをつけようと考えたのだ。

しかし適当に操作したために主電源そのものがショートし、シアター全体が停電状態に陥ってしまったのである。

 

「昴は警告した。公演まで時間がないと………。」

 

「全く毎度毎度アンタって奴は!いい加減クビにしたらどうだい!?」

 

「そ、そんな………!ここ追い出されたらボク………。」

 

容赦のないサジータの発言に、ジェミニが涙声で訴える。

すると、ここで名乗りを上げる者がいた。

新次郎である。

 

「待って下さい、まだ中止と決まった訳ではありません。僕が何とかします!」

 

その瞬間、楽屋の空気が変わった。

 

「何とかって、具体策はあるのかい?」

 

「い、いや、それはまだ思い付かないですけど………。」

 

サジータに痛い所を突かれ、返答に困る新次郎。

すると、今度はハワードは口を開いた。

 

「予備の蒸気タンクを使えば、2、30分はもつぜ?」

 

「なるほど、その間に主電源を修理するという訳か。」

 

納得した様子で、昴がハワードの主張をまとめた。

シアターには停電時の非常用として、予備の蒸気タンクが設置されている。

最も予備である以上、舞台装置に使用すればすぐになくなってしまうのだが、その間に主電源を修理すれば公演を成功させられる。

しかし、ここで一つ問題が残った。

 

「しかし、修理を誰がやるの?」

 

それを口にしたのはラチェットだった。

修理は公演中に行う。

従ってラチェットはもちろん、昴もサジータも舞台にいるのは必然的。

ハワードも大道具運搬の指揮等で、舞台袖に控えてなければならない。

となれば………、

 

「僕がやりましょう。」

 

新次郎が申し出た。

暗闇でよく見えないが、ラチェットやハワードには、その瞳がいつになく輝いて見えた。

 

「分かりました。今日は予定通り公演を行います。大河君、頼んだわよ。」

 

「はい!」

 

力強い返事で応え、新次郎は管理棟に急いだ。

 

「………。」

 

その足音を無言で聞きながら、ラチェットは一人考えていた。

大神の代理として現れた大河新次郎。

彼の一言で、絶望的な状況は一変した。

公演は中止と思っていたであろう面々が、公演をやる雰囲気に変わったのである。

ラチェットは大河新次郎という存在に、ある種の光を見出だしていた。

 

「彼には何かがある。大神一郎にもない、特別なサムシングエルスが………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………よし、これで公演はスタート出来る。」

 

ジェミニと共に管理棟に戻った新次郎は、予備タンクを起動させ、何とかシアターの電気を復活させた。

しかしここからが本番だ。

この予備タンクが起動している間に、主電源の修理を済ませなければならない。

 

「まずはバッテリーのカバーを外すのか………。」

 

「あ、新次郎。ひょっとしてこれじゃない?」

 

ジェミニが、一つのカバーを指差した。

確かに照明に繋がる導線がある事から、主電源のものと分かる。

 

「………、次はバッテリーの交換だな。」

 

「凄い新次郎。初めてとは思えないよ。」

 

テキパキと仕事をこなす新次郎の姿を惚れ惚れと見つめるジェミニ。

そんな状況じゃないと注意したい所だが、今は一刻を争う。

新次郎は無言でバッテリーの取り替えに集中した。

 

「………よし、これで完成だ。」

 

交換を終え、カバーを戻す新次郎。

まるで手術を終えた外科医のように、吹き出す汗を拭う。

 

「凄いよ新次郎!後は主電源に切り替えるだけだね!」

 

そう言って電源を予備から主電源に切り替えるジェミニ。

………ところが、

 

「あ、あれ!?急に真っ暗になっちゃったよ!!」

 

「そ、そんな馬鹿な!一体どうして!?」

 

予想外の事態に慌てる二人。

まだ公演の最中である。

こんな状況で中止など、たまったものではない。

その時、ジェミニがふと思い出したように口を開いた。

 

「あ………、そういえばボク、ブレーカー落としたままだったかも………。」

 

確か客席に来てすぐ、ジェミニはブレーカーを操作していた。

主電源が直った所で、ブレーカーが落ちていては意味がない。

 

「どうしよう………、ここからじゃ間に合わないよ………。」

 

ブレーカーは大道具部屋の一番奥にある。

管理棟からはエレベーターで降りて客席を横切り、廃材をよけて行かなければならないのだ。

とてもではないが間に合わない。

しかし、新次郎は諦めなかった。

 

「間に合うかは問題じゃない!何としても芝居を成功させるんだ!!」

 

言うや、新次郎は風の如く走り出した。

観客達が演出と勘違いしてくれる時間は、僅かに1分弱。

理論的に間に合う距離ではないのだが、新次郎は驚くべきスピードで大道具部屋にたどり着いた。

その所用時間は45秒。

火事場の馬鹿力とは、正にこの事である。

 

「よし、こいつか!!」

 

暗闇の中に黒光りするブレーカーのレバーを見つけた新次郎は、力一杯レバーを持ち上げた。

すると………、

 

「あ、照明が………!!」

 

ジェミニが歓喜の声を上げた。

たちまち光に包まれるシアター内。

新次郎は間一髪、ブレーカーを上げて観客の目をごまかす事に成功したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ見て、新次郎。お客さん達、喜んでるみたい。」

 

舞台袖からこっそり客席をのぞき見て、ジェミニが囁いた。

幸いアクシデントには気付かなかったらしく、満足げに拍手を送っている。

 

「よかった………。」

 

新次郎は感動した様子で舞台を見た。

観客と舞台が一つの感動に包まれたような一体感。

それに少なからず自分が貢献出来た事に、新次郎は何物にもかえがたい喜びを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、公演が終わって観客達が帰った直後、シアター内に警報が轟いた。

 

「緊急事態発生!緊急事態発生!紐育華撃団星組は、作戦司令室に集合して下さい!!」

 

「緊急事態!?まさか、敵が現れたのか!?」

 

そのまさかだった。

紐育華撃団本来の任務が、始まったのである。

 

「新次郎、早く行かなきゃ!」

 

ジェミニの言葉に駆け出そうとした新次郎だが、その一瞬脳裏にあの言葉が過ぎった。

 

「期待ハズレ」

 

「(僕が………、行っていいのか?)」

 

またあんな形で罵倒されるのは御免だ。

しかし、自分も星組の一人としてニューヨークの平和を守りたい。

理想と現実のジレンマに葛藤する新次郎。

しかし、それを一蹴する声が上がった。

 

「大河君!さあ、貴方もいらっしゃい!!」

 

「ラチェットさん!」

 

それは、何とラチェットだった。

 

「今回の舞台への貢献、素晴らしいものだったわ。大河君、私の責任で貴方の出撃を許可します!」

 

「新次郎おめでとう!星組に認めてもらえたんだね!!」

 

新次郎がラチェットの言葉の意味を理解したのは、ジェミニの賞賛を受けてからだった。

間違いではない。

自分は今、紐育華撃団星組に認めてもらえたのである。

 

「期待しているわよ大河君。貴方のサムシングエルスに。」

 

「は、はい!サムライの意地、見せてやります!!」

 

興奮を抑えきれないまま、新次郎はラチェットの後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紐育華撃団星組、全員到着しました。」

 

そこは、管理棟の奥にある巨大な部屋だった。

辺りにはメカニックな設備が至る所に設置されている。

 

「坊や!何でアンタまで………!」

 

新次郎が突然現れた事に、驚きの声を上げるサジータ。

見ると、昴やハワード、そしてサニーサイドも定位置の椅子に腰を下ろしていた。

最も新次郎に驚いているのはサジータだけで、残りの隊員達は無言のままだ。

 

「別に驚く事じゃないさ。大河君の事はラチェットに一任している。………いいんだね、ラチェット。」

 

「はい。私の責任で、大河君の出撃を許可します。」

 

サニーサイドの言葉に、ラチェットは即答した。

すると、それをフォローするように昴とハワードが口を開く。

 

「昴は言った。大勢に影響はないと。」

 

「初陣だな。頑張れよ、新次郎!」

 

「はい!」

 

「さて………、状況はどうなっているのかな?」

 

真ん中の隊長席に座るラチェットに、サニーサイドが尋ねた。

いつもの脳天気な口調は変わらないが、その表情は今までになく厳しい。

 

「多数の悪念機が、リバティ島に出現。破壊活動を行っています。」

 

「なるほど。ここは我等がスターの出番だね………。」

 

「スターって、あのアパートで戦っていた………?」

 

サニーサイドの言葉に昼間見た機体が脳裏を過ぎり、新次郎が尋ねる。

すると、サニーサイドは得意げに笑った。

 

「そうさ。見せてあげよう、これがスターだ。」

 

すると、目の前のモニターに巨大な霊子甲冑が浮かび上がった。

 

「かつて欧州星組の使用していたアイゼンクライトを素に、王先生とハワードの協力で開発した新型霊子甲冑さ。色々詰め込んだ分、光武や神武より大きくなっちゃったけどね。」

 

「い、色々って………。」

 

サニーサイドの言葉に何を想像したのか、冷や汗をかく新次郎。

すると、サニーサイドの後ろから一人の中国人とおぼしき老人が現れた。

 

「それについては、私から説明いたしましょう。」

 

「え………?じゃあ貴方が………。」

 

「はい、王行智と申します。以後、お見知り置きを………。」

 

軽く挨拶を済ませ、王は説明を始めた。

 

「我等が紐育華撃団のスターには、これまでの陸上戦に加え、流星のデータを素に空中戦を視野に入れた設計を施しています。」

 

流星。

それはかつて、帝国華撃団と共に黒之巣会やバルタン星人と戦った、光武と対を成す戦闘機の名前である。

スターは光武のような陸上戦のみならず、流星のような空中戦も可能な、正に新世代の霊子甲冑なのだ。

現在紐育華撃団が所有するスターは五機。

隊長であるラチェットの操るシルバースター。

昴の操るランダムスター。

サジータの操るハイウェイスター。

ハワードの操るバーニングスター。

そして、新次郎の操るフジヤマスター。

 

「新次郎殿のフジヤマスターも準備は万全。存分に暴れて下され。」

 

「は、はい!」

 

王の激励に興奮気味に応える新次郎。

しかし、まだ疑問に残る事があった。

 

「しかし、リバティ島を襲っている悪念機とは何者なんですか………?」

 

それは至極当然の疑問だった。

戦いにおいて、敵の能力を知っているいないでは、勝率はかなり違う。

敵を知ればその分、心に余裕が生まれるからだ。

しかし、新次郎の求めていた答えは得られなかった。

 

「………残念だが、敵さんの情報は分かっていない。加山君が調査中だ。」

 

そう言って、サニーサイドは話を本題に戻した。

 

「それで今回の任務だがね。リバティ島の自由の女神像を悪念機が襲っている。市民の避難は完了しているから、派手に潰しちゃってよ。」

 

そう言った時、作戦司令室に二人の女性が現れた。

一人は長身の金髪美人。

もう一人は日本人に近い少女だ。

 

「司令、エイハブ発進準備完了しました。」

 

「プラムさん!杏里くん!」

 

二人の姿に、新次郎は驚いた。

無理もない。

彼女達はシアターの売店とドリンクバーで働いていたシアターのスタッフなのだから。

 

「彼女達は紐育華撃団虹組。君達を現地へ直行させてくれるスタッフだ。」

 

「ニューヨークの何処だろうと、私達が責任を持って送り届けます!」

 

「私達のプロデュースする空の旅に、狂いはなくてよ。」

 

サニーサイドの紹介に、胸を張るプラムと杏里。

全ての準備は整った。

 

「よし、出撃だ!人生はエンターテイメント!ラチェット、出撃命令を!」

 

「了解!紐育華撃団星組、出撃よ!!」

 

「「イェッサー!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マンハッタン、リバティ島。

ニューヨークの象徴たるこの島に轟音と爆撃が轟いたのは、突然の事であった。

何処からともなく湧き出た悪念機。

その様子を、上空で眺める影があった。

 

「フン、自由の島なんてくっだらない………!!」

 

それは、異形ともいうべき存在だった。

夜空の中でもうっすらと見える白い肌。

その肌に似合う、兎を思わせる長い耳。

そして血のように赤い目と、殺意に満ちた大鎌。

見るからにそれは、悪念機を操る魔の存在だった。

 

「粉々に砕いてやるよ。惨めに………、醜くな!!」

 

可愛らしい外見からは想像もつかない残忍な言葉を口にして、鎌を振り上げる怪物。

しかしその時、何処からともなく照明が照らし出された。

 

「イッツ、ショータイム!!」

 

その声に怪物は上空を見上げ、そして見た。

摩天楼に輝く夜空を華麗に舞う五つの星。

 

「紐育華撃団、レディーゴー!!」

 

紐育華撃団星組を。

 

「アタシらの自由の女神に手を出すとは、いい度胸じゃないか。」

 

「敵の総数10弱、多い数ではない。」

 

これまでの連勝から、余裕の表情を見せる二人。

一方、ハワードは隣に立つラチェットが気になった。

 

「………ラチェット、大丈夫か?」

 

「………。」

 

通信に返事は返ってこない。

いや、返ってはきた。

 

「………え?ハワード、どうかしたの?」

 

モニターのラチェットが、ハッとした様子で答えた。

彼女らしくない反応の遅さ。

それに、サジータや昴も疑問を抱いた。

 

「どうしたんだいラチェット?考え事なんて珍しい。」

 

「昴は忠告する。不調なら後方に下がった方が良い。」

 

戦闘中の考え事は極めて危険だ。

何故なら先程のように、周囲への注意が散漫になるからである。

戦場では一瞬の油断が死に繋がる。

それを誰より知るラチェットが、一体どうしたというのだろうか。

 

「ありがとう、私なら大丈夫よ。」

 

しかし、ラチェットは三人の心配を振り払うように笑顔を見せた。

その笑顔が作ったものである事は誰の目にも明らかだが、それより先に外ならぬラチェットが命令を出した。

 

「目標、敵悪念機の殲滅。一気にカタをつけるわよ。」

 

「「イェッサー!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

ハワードらの心配をよそに、戦闘自体は終始安定して進んだ。

接近戦に特化したハワードが最前線で敵を一カ所におびき寄せ、左右から昴とサジータが挟み撃ちにする。

更に討ち漏らした敵を新次郎とラチェットが的確にトドメを刺し、2分もしない内に悪念機の数は半数にまで減少していた。

しかし初陣の新次郎はともかく、長年ラチェットと組んで来たハワードと昴は有利な戦況にも関わらず厳しい表情を緩めなかった。

 

「………なあ昴。ラチェットの奴………。」

 

「ああ、動きにキレがない。まるで別人のようだ。」

 

ハワードが言い終わらぬ内に、昴が口を開いた。

ラチェットは欧州星組時代から、昴と並んで天才と呼ばれていた。

特にナイフの腕は一流で、ほとんどの相手の急所を寸分狂わず刺し貫ける程だ。

しかし先程の攻撃には、彼女特有の鋭さがない。

悪念機一体にナイフを五本も使い、その全てが急所を外れている。

どう見ても今の攻撃は、かつて天才と呼ばれたラチェット・アルタイルのものとは思えなかった。

 

「二人共、戦闘中の私語は慎みなさい。」

 

その二人の通信に割り込んだのは、ラチェットだった。

普段の様子を装ってはいるが、やはり雰囲気が違う。

まるで自分達に何かを悟られまいとしているかのようだ。

 

「ラチェット………。」

 

「待て、ハワード。………済まないラチェット、通信を終了する。」

 

ハワードは何か言おうとしたが、昴が先に通信を遮断した。

ハワードの言いたい事は分かる。

自分だって心配だ。

しかしラチェットに尋ねた所で納得いく答えが得られるとは思えないし、戦闘に集中する事は正論だ。

昴はそう判断したのである。

 

「(せめてこの戦いだけでも切り抜けられれば………。)」

 

口には出さないが、昴は心の中で不安をもらした。

そしてこの不安は、見事に的中する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………フーン、アイツらが僕らの邪魔をしてたのか………。」

 

リバティ島の悪念機がほぼ全滅した頃、女神像の上にいた怪物がニヤリと笑った。

 

「キャハ!………僕も入れてもらおうかな………!!」

 

殺意に満ちた凄絶な笑みと共にスターを見下ろし、怪物は手に持った鎌を空高く放り投げた。

刹那、リバティ島上空に雷鳴が轟き、空から巨大な影が舞い降りた。

自由の女神像に匹敵する巨大な機械兵器。

操る怪物に相応しく、左手には巨大な大鎌が握られている。

悪念機を束ねる悪念将機。

その名を、『伽藍』という。

 

「な、何だあれは!?」

 

上空からこちらを見下ろす巨大な悪念将機に、サジータが驚きの声を上げた。

何しろ相手は自由の女神像とタメを張る大きさである。

圧倒されない訳がない。

 

「キャハハハハ!何?あのくらいで勝ったつもり?バカな奴ら!」

 

「貴様、一体何者だ!?」

 

サジータらを嘲笑う怪物に、新次郎が問い質した。

しかし、怪物はやはり嘲笑を返した。

 

「知ってどうするのさ?ここで死ぬのに!!」

 

言うや、伽藍が大鎌を振り上げた。

巨大な刃が宙を舞い、空気が震える。

 

「散れっ!!」

 

いち早く伽藍の攻撃を察知した昴が叫んだ。

その言葉を合図に、スターは襲い来る大鎌をかわす。

だが、一機だけ動かないスターがあった。

それは、ラチェットのシルバースターだった。

 

「ラチェット!?」

 

サジータが叫ぶ中、昴は悔しげに顔を歪めた。

ラチェットがこの状況で動かないはずがない。

則ち、動けないのだ。

ハワードの危惧していたラチェットの霊力低下。

それが、最悪のタイミングで形となったのである。

 

「(こんなに早く霊力が尽きるなんて………!お願い、動いて!!)」

 

必死にスターを動かそうと意識を集中するラチェット。

しかし、冷たい刃は容赦なく白銀のスターに襲い掛かった。

 

「くっ!?」

 

凄まじい衝撃がコックピットを襲った。

真後ろに大きく吹き飛ばされるシルバースター。

その機体が後ろの壁にたたき付けられるという時、一つの影が疾風の如く滑り込んだ。

 

「ラチェット!!」

 

それは、ハワードのバーニングスターだった。

大鎌がシルバースターに牙を剥く寸前、ハワードはラチェットを受け止めるべく疾風の速さで飛び込んだのである。

 

「キャハハハハ!これで終わりと思うなよ!!」

 

間髪入れずに、伽藍の襟の大砲が火を噴いた。

たちまち二人のいる地点が爆炎に包まれる。

 

「ラチェット隊長!!ハワードさん!!」

 

その時、バーニングスターとは別の機体が風のように二つのスターを庇うようにして救出した。

それは、新次郎だった。

 

「お二人共、大丈夫ですか!?」

 

必死に心を落ち着かせながら尋ねる新次郎。

すると、ハワードが答えた。

 

「俺なら大した事ぁねぇ。それよりラチェットだ。」

 

「はい!」

 

ハワードに促され、新次郎は驚くべき行動に出た。

 

「なっ!?坊や、何してんだい!」

 

サジータが慌てて叫んだ。

何と新次郎は、伽藍を前にしてスターのコックピットから飛び降りたのである。

 

「ラチェット隊長、大丈夫ですか!?」

 

サジータの声を無視し、シルバースターのコックピットを開く新次郎。

コックピット内のラチェットは余程の衝撃に襲われたのか、意識が朦朧としていた。

 

「どうだ、新次郎?」

 

「命に別状はないみたいです。エイハブに救助してもらうべきかと。」

 

尋ねるハワードを安心させるように答え、新次郎は再びラチェットに呼び掛けた。

 

「ラチェット隊長、ラチェット隊長!!しっかりして下さい!!」

 

「う………。」

 

閉じられた瞳が、僅かに開かれた。

 

「ラチェット隊長!」

 

意識を取り戻した事に安心する新次郎。

すると、ラチェットが途切れ途切れに口を開いた。

 

「どうして………?」

 

「え?」

 

「どうして、こんな無茶をしたの………?」

 

やや非難めいた口調で、ラチェットが言った。

確かにラチェットとハワードを助けたのは新次郎の独断だ。

更に戦闘中にコックピットを離れるなど、危険極まりない。

しかし、新次郎はラチェットにハッキリと告げた。

 

「隊長、僕の事は後で如何様にでも処分して下さい。だけど、貴女を見捨てる事は絶対に出来ません!」

 

ラチェットは、驚きの思いで新次郎を見た。

あのサムライに似て、何と真っすぐで迷いのない表情だろう。

目の前の状況を理解出来ていないのか。

いや、そうではない。

新次郎にとって、現状など関係なかった。

ただラチェットがピンチだったから助ける。

ただそれだけの事なのである。

 

「サニーサイド司令!ラチェット隊長及びシルバースターの救助をお願いします!」

 

新次郎はラチェットを抱き上げ、無線でエイハブにいるサニーサイドに連絡を入れた。

すると、ものの数分もしない内にエイハブがリバティ島の側に降りて来た。

 

「大河君、ハワード、ご苦労だった。ラチェットの事はボクらに任せてくれ。」

 

直ちに王直属の医療班が担架を手に駆け付ける。

その時、ふとラチェットが口を開いた。

 

「大河君………。」

 

「ラチェットさん、喋っちゃ駄目ですよ。」

 

慌てて注意する新次郎。

だが次の瞬間、新次郎は自分をしっかり見つめるラチェットの視線に射抜かれた。

 

「大河君………。貴方のサムシングエルス、充分に見せてもらったわ。貴方は、やはり彼が推薦するだけの人物だった。」

 

「隊長………。」

 

ラチェットは頷き、ハッキリと告げた。

 

「大河君、これより私の隊長としての全権を、貴方に委任します。」

 

「え………、ええっ!?」

 

「正気か、ラチェット!?」

 

突然の言葉に、新次郎やサジータは驚きの声を上げた。

まさか今回が初の実戦である新次郎に隊長の立場を預けるなどとは、通常では考えられない事だからだ。

しかし、驚く二人とは対照的にハワードと昴、そしてサニーサイドは意味深な笑みを見せた。

 

「昴は認めよう。大河、君の指示に従う。」

 

「暴れるとしようぜ、大河隊長!」

 

「チッ、せいぜい頑張るんだね!」

 

昴とハワードの言葉に舌打ちし、サジータも腑に落ちないながらも承諾の意思を示す。

三人の仲間に頷き、新次郎は再びフジヤマスターのコックピットに乗り込んだ。

 

「行きましょう!紐育華撃団星組、出撃です!!」

 

「「イェッサー!!」」

 

返事と共に、四人はコックピットの手元にあるレバーを同時に引き倒した。

すると、スターが瞬く間に形を変え、光武のような霊子甲冑から流星のような戦闘機になったからである。

帝都にも巴里にもない、スターの空中戦形態だ。

 

「目標、巨大悪念将機!!鎌と大砲に気をつけてください!!」

 

「「イェッサー!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怪物の操る悪念将機『伽藍』との空中戦は、地上戦と比較にならない程激しいものとなった。

襟の大砲が無差別に火を噴き、それに気をとられていると、シルバースターを大破させた大鎌が襲い来る。

攻めあぐむ仲間達に、新次郎が叫んだ。

 

「一カ所に固まったら危険です。不規則に動いて敵の注意を分散させましょう!!」

 

二兎を追うものは一兎をも得ず。

四人が敢えてバラバラに動く事で、敵の狙いをブレさせる事にしたのである。

この作戦は上手くいき、伽藍は四人に攻撃を命中させる事が出来ないでいた。

 

「くそっ、ちょこまかとすばしっこい………!!」

 

案の定冷静さを欠き始めた怪物。

その一瞬こそ、新次郎が狙っていた瞬間だった。

 

「今です、ハワードさん!」

 

「任せろ!!」

 

新次郎の合図で、二つのスターが大鎌を持った伽藍の右腕を一斉に攻撃する。

ちょうど意識が目の前の昴にいっていた伽藍は、不意をついた強烈な一撃に鎌を右腕ごと落としてしまった。

 

「チッ、負けるかよっ!!」

 

いきり立った伽藍は雄叫びと共に大砲を撃ち鳴らす。

その時、背中にある蒸気ユニットから煙が吹き出たのを、昴は見逃さなかった。

 

「サジータ!!」

 

「キメるよ、昴!!」

 

無数の大砲をかわし、左右から同時にミサイルを撃ち込む。

その的確に狙い呼吸を合わせた一撃は、蒸気ユニットを大破させるには充分だった。

 

「し、しまっ………!!」

 

気が付いた時には遅く、エネルギー源の蒸気ユニットを破壊された大砲は完全に沈黙する。

そうなれば、もう新次郎達の攻撃を遮るものはなかった。

 

「敵の頭部に霊力反応あり。おそらく奴のコックピットだ。」

 

「やれ、新次郎!!」

 

昴が言い終わらない内に、ハワードが叫んだ。

それに応えるように、新次郎のフジヤマスターは一直線に伽藍の頭部へ殺到する。

 

「狼虎滅却………、

雲雷疾飛!」

 

青白い霊力が翼のようにフジヤマスターの左右に展開され、文字通り疾風の速さで伽藍の頭部を一閃する。

たちまち伽藍は全身が小爆発を起こし、女神像の前に墜落した。

 

「………や、やったのか………?」

 

先程までの激戦から一転して沈黙する伽藍に、肩を上下させる新次郎。

だが次の瞬間、煙を上げる頭部から笑い声が聞こえて来た。

 

「キャハハハハ………!この程度で勝ったつもりか?」

 

「何!?」

 

機能を停止したはずの伽藍から聞こえる笑い声を訝しむ新次郎。

だがその時、何かに感づいた昴が上を睨んだ。

 

「強力な霊力反応あり。上空に別の何かがいる!!」

 

その言葉に反応して、上空に目をやる三人。

すると、驚くべき光景が飛び込んで来た。

 

「あ、あれは!?」

 

最初に声を出したのは新次郎だった。

何と、リバティ島上空にポッカリと巨大な穴が開いていたのである。

奥に見えるのは夜空より黒い漆黒。

そこから感じる冷たく歪んだ空気に、新次郎は身震いした。

そして数秒の後、穴の中から咆哮と共に巨大な影が降ってきた。

 

「ガアアアアッ!!」

 

肉食獣を想起させる獰猛な顔付きに、両手の鋭い爪。

そして、伽藍に匹敵する巨大な身体。

彗星の如き速さで獲物を襲う、彗星怪獣『ガイガレード』だ。

 

「か、怪獣………!?」

 

かつて大神にも聞いた事がある。

帝都や巴里に現れた脅威の生命体。

それが今正に、このニューヨークに現れたのである。

 

「キャハハハハ!約束の日は近い………。せいぜいもがき苦しむんだね!!」

 

勝ち誇ったように捨て台詞を吐き捨て、怪物は消えた。

それと同時に、ガイガレードの雄叫びが木霊する。

 

「チッ、随分厄介な置き土産だね………。」

 

「昴は忠告する。………奴は先程の悪念将機より強い。」

 

「さて。どうする、新次郎?」

 

悪態をつくサジータと、冷静に状況を分析する昴。

ハワードに尋ねられた新次郎は、一瞬考えた後答えた。

 

「無策に攻撃するのは危険です。まずは怪獣の特徴を探りましょう。」

 

これはかつて士官学校でも教えられた、何らかの形で相対した強敵への対処法だった。

例えば敵が爆弾で攻撃して来る場合、爆弾の構造や輸送手段が重要になる。

飛行機の輸送ならその飛行機を先に撃墜させれば良い話だし、構造が判れば被害の範囲を想定する事が出来る。

これをガイガレードに応用しようと考えたのだ。

怪獣と一口に言っても、様々な特徴がある。

力が強かったり、動きが俊敏だったり、飛行能力があったり。

そういった情報をかき集めてから戦闘に臨めば、少なからず有利になる。

 

「で、アタシらはどうするんだい?」

 

「まずは旋回しながら接近して見ましょう。何か分かるかも………。」

 

そう言いかけた時だった。

突然ガイガレードが空に飛び上がり、新次郎のフジヤマスター目掛けて突進して来たのだ。

 

「わひゃあっ!?」

 

突然の不意打ちに反応が遅れる新次郎。

しかしガイガレードの巨体が直撃する瞬間、何かが新次郎のスターを突き飛ばした。

そのおかげで、新次郎はどうにかガイガレードの不意打ちを避ける事が出来た。

だが、喜ぶ事は出来なかった。

何故なら不意打ちと同時に、一つのスターと通信がとれなくなったからだ。

 

「ハワードさん!!」

 

新次郎が叫んだ直後、真下の海に巨大な水柱が立った。

それがガイガレードにたたき落とされたバーニングスターと気付くのに、時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ………!!」

 

痛む身体に鞭を打ち、ハワードはまだ生きているモニターで状況を確認した。

そして、苦痛に歪む表情を更に歪ませた。

 

「くそっ、あのデカブツ………!!」

 

そこには、ガイガレードの猛攻を必死で凌いでいる三つのスターがあった。

空を自在に飛行する彗星怪獣は、スターに反撃の機会すら与えようとしない。

 

「(畜生、どうする………!?)」

 

先程新次郎を庇った時に動力部分がやられたらしく、バーニングスターは動く様子を見せない。

 

どうすればいい………?

 

必死に考えを巡らせるハワード。

その時、コックピット内に光るものがあった。

 

「………?こ、これは!?」

 

ハワードは仰天した。

何故なら、自分の左腕に固定したアクセサリー、『ミレニアム・スター』が光を発しているからだ。

神々しいまでの光。

ハワードはその光に、あの言葉を思い出した。

 

『オーブは次の継承者に、貴方を選んだ。貴方が、新たなる光になるんだ。』

 

「光………。」

 

かつて遠い巴里の町で、一人の少年から受け継いだ光。

それは、まるでハワードに力を解放せよと催促しているかのようだ。

 

「俺が………、新たなる光………。」

 

ハワードは徐にミレニアムスターを外すと、しっかりと握り締めた。

 

「ミレニアムスター………。お前の光を………、俺に貸してくれ!!」

 

懇願するように叫び、ハワードはミレニアムスターを持った右手を高々と掲げた。

刹那、オーブが凄まじい閃光を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、あまりに突然だった。

何の前触れもなくマンハッタンの海が揺らめいたかと思うと、いきなり海が轟音と共に真っ二つに割れたのだ。

そして、その溝の中に一つの光があった。

銀のラインが入った、炎のように赤い身体。

キリリと鋭い猛禽のような目。

鬼のような二本の角。

そして胸に輝く空色のカラータイマー。

海の中から現れた一人の巨人に、その場にいる誰もが驚いた。

何故ならそれは、伝説にその名を残す光の超存在だったからだ。

 

「………ウ、ウルトラ………マン………!?」

 

信じられない様子で、新次郎が呟いた。

そこにいるのは紛れも無く、帝都や巴里の危機を救った光の守護神、ウルトラマンだった。

 

「ガアアアアッ!!」

 

一方のガイガレードもウルトラマンに気付いたらしく、空をきって襲い掛かって来た。

 

「ムンッ!!」

 

ウルトラマンはその場でガイガレードを待ち構え、顔面を掴んで押さえにかかった。

そして、そのままジャイアントスイングの要領で投げ飛ばす。

 

「デヤァッ!!」

 

「ガアアアアッ!?」

 

ガイガレードの巨体が、海に激しくたたき付けられた。

更にウルトラマンは間髪入れず、ガイガレードに掴み掛かった。

 

「デヤァッ!」

 

しかし、ここで思わぬ反撃がウルトラマンを襲った。

 

「ガアアアアッ!!」

 

「デェッ!?」

 

何と、ガイガレードは腹部から無数の岩を発射したのだ。

予期せぬ反撃に、ウルトラマンも思わず後ずさる。

そこに、ガイガレードはすかさず追い撃ちをかけた。

 

「ガアアアアッ!!」

 

刃物のように鋭い爪が、ウルトラマンの両肩に突き刺さった。

ガイガレードは更に岩石弾を浴びせてくる。

 

「ムンッ………!!」

 

激しい猛攻に曝されながら、ウルトラマンはガイガレードの爪を掴んだ。

すると、握りしめる両手が赤く光った。

 

「(負けてたまるか!俺は………、俺は………、ウルトラマンなんだ!!)」

 

怪獣の爪が赤く光る両手に持ち上げられた。

やがて光は、更に激しい輝きを放つ。

 

「デヤァッ!!」

 

気合いの声と共に、ガイガレードの爪が握り潰された。

爪の破片が周囲へ飛び散り、ガイガレードの両手からは煙が上がる。

 

「ムンッ!!」

 

ウルトラマンはガイガレードから距離を置き、両手を頭上で重ね合わせ、左右の腰に下げた。

すると、ウルトラマンの身体を七色の光が包み込む。

そして………、

 

「ストリウム光線!!」

 

何と、ウルトラマンは必殺技の名前を叫びながら腕を偏ったT字に組んだ。

すると、T字に組まれた両腕から七色の光線が真っ直ぐにガイガレードを直撃した。

 

「ガアアアアッ!!」

 

最期の咆哮をあげ、仰向けに倒れるガイガレード。

その巨体は海に沈むと同時に、大爆発を遂げた。

 

「ハッ!」

 

怪獣の最期を見届けた後、ウルトラマンは夜空に飛び立って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハワードさん!!」

 

自由の女神像の前に降り立ってすぐ、新次郎はそこに佇むハワードを見つけた。

 

「よう新次郎、無事だったみてぇだな。」

 

「ハワードさんこそ!心配だったんですよ!」

 

「昴は言った。………無茶をし過ぎだ。」

 

「損害賠償請求してやろうか?アンタって奴は。」

 

何とも呑気なハワードに口々にいう星組。

そこへ、ラチェットが現れた。

 

「大河君、ご苦労様。」

 

「隊長!もう大丈夫なんですか!?」

 

新次郎が尋ねると、ラチェットは元気そうな表情で笑って見せた。

 

「ええ。大河君、これもみんな貴方のおかげよ。」

 

「え………?」

 

「危険を省みず私を助けてくれたし、私の代理で星組を指揮して、勝利した。貴方のサムシングエルス、見せてもらったわ。」

 

「そ、そんな………。」

 

ラチェットに褒められ、やや赤い顔で照れる新次郎。

そんな初々しいサムライに微笑みつつ、ラチェットが言った。

 

「それじゃあいつものアレ、やりましょうか。大河君もいらっしゃい。」

 

 

 

 

 

 

 

「勝利のポーズ、決め!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニューヨーク南に位置する港街ベイエリア。

その海の見渡せる臨海公園の隅に、その場の風景と明らかに不釣り合いな人物がいた。

目以外の全てを黒い布で覆い隠したその姿は、古い時代の忍者を想起させる。

 

「………ガイガレードはやられたようだな。」

 

女神像の奥に立ち上る煙を見て、忍者が呟く。

すると、その背後から声がした。

 

「いいのか?あの怪獣死んじゃったけどさ。」

 

それは、先程伽藍で新次郎達と戦った怪物だった。

念力で宙に浮かべた大鎌に乗り、忍者を見下ろしている。

 

「構わん。所詮はただの噛ませ犬だ。」

 

忍者はさして驚く事もなく答えた。

 

「ウルトラマン………。忌まわしき光の巨人………。この次会う時を楽しみにしているが良い。」

 

忍者の視線が鋭さを増した。

その殺気に、怪物もまたニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべた。

 

「(まあいいさ。精々僕らの主の復活に、利用させてもらうから。)」

 

<続く>




《次回予告》

ニューヨークでは法律こそが全て。

人は法律の下でしか、正義を貫く事は出来ない。

法に背く者は全て排除する。
たとえ、昔の仲間でもね。

次回、サクラ大戦5!

《Justice》

これがこの世のルールさ!

摩天楼にバキューン!!
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