摩天楼の星   作:サマエル

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SAKURA Wars~摩天楼のサムライ~:2/2

これで実に5度目の対決となる宿敵、森蘭丸。

育ての親を、引いては漸く辿り着いた新天地を襲う最大の仇を前に、不思議なほど冷静な自分にジェミニは驚いた。

師匠ミフネの最期を、あの瞬間を忘れたわけではない。

寧ろ今でも、思い出せばそれだけではらわたが煮えくり返るようだ。

だがその憎しみという名の感情に任せて振るう剣ほど弱く、脆いものはないと知るジェミニにとって、仇討などという肩書は意識していない。

戦友の行く手を阻むから戦う。

ただ、それだけだ。

 

「キャハハハ!! 全くお前の師匠といい姉といい、本当にしつっこいなぁ、アメリカのサムライってのは!」

 

気だるげに無駄口を叩きつつも、絶えず襟から放たれるガトリングの弾幕はかつての激しさそのままに眼下のロデオスターに迫る。

それを巧みな操縦で裁き、或いは右手に握る一振りで弾き、ジェミニはやがて来るであろう勝機をうかがっていた。

そして………、

 

「(………今だっ!!)」

 

激しく間隔の極めて短い襟の弾幕。

そこに時折見える一瞬のタイムラグを、ジェミニは見逃さなかった。

 

「ミフネ流剣法………、ランブリング・ホイール!!」

 

霊力を集中した刀身の一閃から、鎌鼬ならぬ灼熱の豪火球が飛び出した。

ランブリング・ホイール、日本語でいうならば『水車斬』。

水車の如く大ぶりなまでの動きで豪快に己が剣を振るい、その刃に尋常ならざる勢いを持たせて敵を両断するミフネ直伝の必殺剣である。

人並み外れた腕力を必要とするこの技は並ならぬ筋力を持つミフネだからこそその真価を発揮できるものであり、本来ジェミニの華奢な腕で扱える代物ではない。

だがジェミニは、その一撃に必要な一閃の勢いと威力を己の剣に練りこむ霊力で代用。

今や師のそれと双璧を成すほどの一刀へと磨き上げた。

弾幕と弾幕の間を滑り込むように飛び出す火球は発射寸前の妖力を直撃して爆発。

その爆発が更なる爆発を誘発し、伽藍の首回りを黒煙が包む。

火球が直撃した場所は、大きく抉れていた。

 

「どうだ! これがミフネの剣だっ!!」

 

予想以上の攻撃力に、得意げに剣を突き付けるジェミニ。

実の所、ジェミニの使う必殺技はこれまで姉共々ターニング・スワローの一点張りだった。

と言うのも、本来の水車斬には空気を切り裂くほどの勢いが必要であり、これまでジェミニはラリーに跨った状態で、ラリーの回転に己の剣を合わせる事でこの必殺技を使用してきた。

それゆえ今回のように、スターの乗っているとはいえジェミニ単独で使用するのは初めてであり、当たる見込みこそあったが当たった後の事については本人もよく分かっていなかったのだ。

所謂ぶっつけ本番と言うやつであるが、それでこれだけの戦果を挙げられるのも偏に彼女の持つ剣の才能と言っては買いかぶり過ぎだろうか。

 

「ハッ、嬉しいか? この程度でさぁっ!!」

 

対する蘭丸は、如何にも面白くないと言わんばかりの口調と表情で吐き捨てる。

刹那、それまで大人しかった右手の鎌がゆらりとその首をもたげ、猛然と襲い掛かってきた。

 

「アウチッ!?」

 

済んでのところで死神の鎌をかわし、すかさず刀をしまって飛行形態に変化し飛び上がる。

先ほどまではとにかく襟のガトリングが邪魔で蘭丸のいる上空に移動できなかったが、こうなればこちらのもの。

一気に伽藍の頭に居座る蘭丸を仕留め、この先で死闘を繰り広げているであろう新次郎の下へ急ぎ、加勢しなければならない。

状況は俄然こちらが有利。

こちらが分かるほどに相手が必死で攻撃を仕掛けているのが何よりの証拠だ。

この好機、逃すわけにはいかない。

 

「イッツ免許皆伝………!!」

 

先ほどのランブリング・ホイールを遥かに上回る霊力が、淡いオーラとなってロデオスターを包む。

やがてオーラは灼熱の馬を形作り、雄々しい嘶きを上げて赤目の死神目がけて殺到した。

 

「ターニング・スワロー!!」

 

 

 

 

 

だが………、

 

 

 

 

 

「フン、同じ手をそう何度も食らうかよ!!」

 

「!?」

 

嘲笑の言葉に、一瞬勝利を確信しかけたジェミニの顔がハッと強張り、同時に血が引いて青ざめた。

何故なら蘭丸目がけて突進するこちらを、伽藍の口から展開した砲台がアリジゴクのように待ち構えているではないか。

まさかと思った時にはもう遅かった。

 

「天魔招来………、亡魂観怨!!」

 

身震いするほどに邪悪な怨念の籠った一撃と灼熱の馬がぶつかり合う事一瞬。

激しい拮抗を破ったのは、怨念だった。

橙の星は全身から煙を上げ、安土の壁に叩きつけられる。

 

「ぐっ、ううっ………!!」

 

いくらスターに守られているとはいえ、今の衝撃で一瞬意識が飛んだ。

僅かに揺らぎかかった感覚が、重く鈍い痛みとなって全身を駆け巡る。

だがそれよりも今、ジェミニは驚愕に目を見開いていた。

 

「(そんな………、ターニング・スワローが………師匠の剣が、敗れた………!?)」

 

それはこれまで師の剣を頼りに生きてきたジェミニにとって、到底受け入れがたい現実だった。

確かにかの仇敵相手にこの奥義を披露したのは今回が初めてではない。

だがしかし、その強力無比の必殺技を逆に利用されるとは。

 

「キャハハハ!! いいね、その顔。己の信じるものに裏切られる絶望の顔。今のお前には最高にお似合いの顔だよ。」

 

「何………!?」

 

「そうだろう? お前は一人じゃ何もできない。大好きな師匠や姉や、仲間がいないと何もできない。そんな軟弱者が仇討とは、正に笑止千万!」

 

先ほどと打って変わって、脳裏に焼き付いて離れない醜悪な笑みでこちらを見下ろす蘭丸。

このまま屈したように黙る自分が憎い。

だが、言葉は何も出てこない。

何故なら目の前の死神の言葉に、正すべき間違いなどどこにも見当たらないのだから。

 

「固い絆?約束?そんな甘い覚悟で、我らが覇道を阻める思うかい?これが何よりの証拠さ。」

 

棘のように鋭い言葉が胸を貫くたびに、まるで奈落の底に沈むかのような心の倦怠感。

その甘い覚悟でここまで戦ってきた自分。

それを本気で信じ、揺るがすものなど何もないと本気で信じていた先ほどまでの自分を言い表す言葉は、一つしか思いつかなかった。

 

「(そうだ………、ボクは愚かだ………。師匠やお姉ちゃんが………、みんながいないと何もできない………。)」

 

思えば今まで、とかくジェミニ=サンライズという人間は孤独という状態に身を置いた事がなかった。

両親を亡くした後はミフネ。

ミフネ亡き後は姉。

そして今の紐育の仲間たち。

この17年の月日を生きてきて、自分がただの一度でも誰の前でなく、誰の手も借りずに何かを成し遂げた事があったか。

答えは、考えるまでもない。

 

「ククク………、師匠が馬鹿なら弟子は救いようのない馬鹿だな。」

 

幸か不幸か、蘭丸の侮蔑はもうジェミニの耳には届いていなかった。

心を渦巻く負の感情。

自分で立ったはずの脚はあまりに弱く脆く、冷たい現実と悲嘆の波に押し流されていく。

 

「勝負ありだ。師弟共々、醜く死ねぇっ!!」

 

伽藍の口がゆっくりと開き、破滅の光を再度讃え始める。

受ける気力も、避ける気力もない。

この街を守り、生きて帰る。

その約束を果たすのに、自分という存在はあまりに力不足だった。

寧ろ生き恥を晒すくらいならとさえ思え、乾いた笑みが毀れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ジェミニ………。」

 

真っ暗になった心のどこかで、微かに声がした。

小さくてよく分からないが、どこか懐かしさを感じる声だ。

よく耳を澄ませば、それは自分の名前を呼んでいた。

 

「………ジェミニ………。」

 

「………、お姉ちゃん………?」

 

少しだけ大きくなった声に、ジェミニはハッと顔を上げた。

姿はない。

だが胸の中に、温かい温もりがある。

その正体を、ジェミニは知っていた。

 

「ジェミニ………、剣を取れ。」

 

「お姉ちゃん………。でも、ボクじゃ………。」

 

ようやく会えた姉に僅かに心を躍らせるも、すぐに現実を思い出して微笑みを消す。

自分では必殺剣を以ってしても、あの蘭丸を倒す事は出来なかった。

霊力をほぼ失った今の自分に到底勝ち目はない。

だが、心の中の温もりはそれをはねつけるように言った。

 

「ジェミニ、己に負けるな! 師匠の剣は、強き心で振るってこそ強い。お前にも、きっと出来る筈だ!」

 

「お姉ちゃん………。」

 

「人は確かに弱い。だがそれは、誰しも一緒だ。だからオレ達は互いに助け、守り合いながら生きている。アイツが………、それを教えてくれた。」

 

不思議だった。

それまで心の中でとぐろを巻いて暴れていた負の感情が、瞬く間に小さく消えていく。

 

「そうだ………。」

 

自分は一人じゃない。

自分を見守る存在がいる事を、あの優しきサムライが教えてくれた。

根拠も理論も必要ない。

あるのは心。

何物にも揺るがない、鋼の如き信念ただ一つ。

 

「ボクは………、負けない! みんなが………新次郎が、ボクを信じてくれるから、ボクは負けないっ!!」

 

一度は消えかけた闘志が再び燃え上がり、腰の刀を抜き放つ。

眼前の魔光を見据える瞳に、もう先ほどの恐れは何処にもない。

 

「決して折れない強い心! 絶対にあきらめない信念!! これが………ミフネの剣だぁっ!!」

 

裂帛の気合と共に白銀に輝く太刀が一閃する。

刹那、信じられない事が起こった。

寸分の狂いなく放たれた破滅の光が、先の一閃の軌道に沿って真っ二つに断ち切られたのである。

光はそれぞれ左右に拡散し、後ろの壁に轟音を煙を立てて沈黙する。

 

「な………!?」

 

今度は蘭丸が驚く番だった。

そんなバカな。

今の伽藍の砲撃は、極限まで圧縮した妖力の塊だ。

物理的に考えて、とても切れるような代物ではない。

 

「チィッ!!」

 

一瞬遅れて意識を現実に引き戻し、憤怒の形相で鎌を振り下ろす。

だがそれがロデオスターを掻き斬る一瞬、またしてもありえない事態が蘭丸を襲った。

 

「………き、消えたっ!?」

 

何と鎌が横切る寸前、橙の星は幻のように掻き消えてしまったのだ。

慌ててその軌跡を追う蘭丸。

だが右を見ても左を見ても、その姿を捉える事は出来ない。

それもそのはず。

何故なら無双の星は今蘭丸の遥か頭上を跳躍していたからだ。

 

「くっ、いつの間に………!!」

 

それに気づいて再度大鎌が襲う。

だが、ロデオスターはその巨大な刃物を目にも止まらぬ一瞬の抜き打ちによって切り飛ばしてしまった。

 

「ミフネ流剣法奥義………!!」

 

これで邪魔は何もない。

最後の抵抗と言わんばかりに伽藍が真上に砲台を構えるが、それより確実にこちらが速い。

刀を逆手に持ち、突きの姿勢で急降下するロデオスター。

既にほぼ霊力を使い果たしたはずのその体を、再び灼熱の馬が包んだ。

そして………、

 

 

 

 

「ターニング・スワロォォォ………!!」

 

 

 

 

まるで隕石の落下を思わせるような渾身の一撃が、凄まじいまでの轟音を以って眼下の死神に深々と楔を打ち込んだ。

そのあまりの衝撃と伽藍の重量に床が耐えられず、中心から瞬く間に亀裂が入る。

 

「ぐ………、が………、まさか………ここまで………とは………!!」

 

巨大な刀に胸を一突きにされた死神が、炯々と光る赤目でこちらを見た。

 

「森蘭丸………、勝負あったぞ。」

 

既に最期の瞬間の差し迫った往年の宿敵に、静かに言葉を投げかける。

だが、返ってきたのは意外な返答だった。

 

「勝負………? ククク………そうだね、ボクは負けた。だが、それでいい………。」

 

「………何?」

 

「そのままの………意味さ。………死合に負け………勝負に勝つ………。我が業………成れ………。」

 

意味深な言葉を残し力を失う体が、悪念将器と共に崩落した奈落に呑まれていく。

魔王の腹心、森蘭丸の、3度目の生涯が終わった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遥か天の頂に座する魔城、安土。

眼下に未だ灯火の絶えぬ街を望み、空を仰げば禍々しい混沌の星が妖しく光るその天守において、凄まじい剣戟が絶え間なく鳴り響く。

互いに一騎当千に値する者同士の一騎討ちは一対一でありながら、まるで一軍のぶつかり合いにすら匹敵する。

何物にも変えられぬ固い信念をその身に宿したサムライ同士の戦いは、見るもの全てを圧巻した。

 

「はああああっ!!」

 

その内の白いサムライ、フジヤマスターが怒号と共に太刀を震う。

まるで白虎の咆哮がごとき鋭く激しい霊力を込めた一撃。

だが相対する魔の将軍は、右腕に宿した金色の光剣を以て容易くいなして見せる。

文字通り魔王となった男には、聖獣白虎の牙すらこけおどしにもならないという事か。

 

「せいっ!!」

 

今度は魔王が仕掛けた。

体勢の崩れたスター目掛け、金色の剣を勢いよく突き出す。

だが、それは新次郎がわざと見せた隙だった。

 

「そこだっ!!」

 

「むっ!?」

 

装甲の隙間を縫うように突いた刃が、左手に忍ばせた短刀によって軌道を狂わされる。

そこから逆に突き返した所で、いち早く反撃を察知した信長は華麗に地を蹴り距離を取った。

 

「ククク………、やりおる。既に三十合は切り合うておるというに。」

 

振りだしに戻った大将同士の一騎討ちに、信長が笑う。

魔王と言うより一武人として、こうした死線を懸けた戦いが堪らなく楽しいように見える。

対する新次郎も、表情は固いながら冷静な面持ちで刀を構えた。

今の所互いに有効打はなし。

五分五分といった所だろう。

 

「その脇差しで何をするかと思えば、中々粋な技を見せる。貴様、二刀の使い手か。」

 

「二天一流。徳川の時代に生まれた二刀流だ。」

 

叔父の大神と同様、新次郎の剣術は江戸の剣豪、『宮本武蔵』の編み出した『二天一流』に悖る二刀流だ。

本来ならば両手で扱う前提の日本刀を、敢えて片手で操る事で敵の裏を掻き、より一撃を加えやすくしている。

大神と違って華奢な新次郎は、その片方を小回りの効く脇差しに変え、右腕の本差しをアシストするスタンスを取っているのだ。

 

「なるほど。その脇差しを以て右の太刀を光らせるとは、その若さで大したものだ。」

 

初めて見る剣術に、信長は僅かに感嘆の声を漏らした。

二天一流の祖たる宮本武蔵がこの世に生を受けたのが1548年初夏。

信長の死した後の時代なのだから、向こうが知らないのも無理はない。

 

「誠に惜しいぞ、小童。貴様が我が僕となればその剣、存分に振るえたであろうに。」

 

「生憎だが、僕は平和と正義のためにしか剣を取らない!」

 

遠回しに投げ掛けられた誘いの言葉を、容赦なく切り捨てる。

すると信長も大して期待はしていなかったらしく、納得したように笑った。

 

「やはりな小童………。貴様は若い。故に世界の理を知らぬ。」

 

「何………!?」

 

「だから平和と正義、安易な言葉を盾に自らの行いを濁す。それが自らの私欲を満たすためだと悟られぬように。」

 

「違う! 僕が戦うのは逃げるためでも私欲のためでもない!」

 

「ならば小童。貴様、何のために戦う。何ゆえ、ワシに刃向かうのだ?」

 

金色の刃を突き付け、魔王が問う。

新次郎は真正面から見据え、答えた。

 

「明日を、未来を平和にするためだ。世界中の人達が笑って暮らせるように、誰も苦しまない世界を作るために、僕達は戦うんだ! 僕達の他に誰も戦わなくていいようにするために、僕達は戦うんだ!!」

 

「………それは、生きる事に余裕のある者の言葉だな。」

 

だが、そのサムライの信念を前にして尚、信長は動じない。

 

「生きるとは厳しい。雨が降らねば渇き、作物が実らねば飢え、生きるために時に誰かと戦い、誰かを押し退け、明日を掴まねばならん。ワシは前世の全てを、そうして生きて来た。」

 

「それはお前の時代の正義だ。今は違う。今は互いに押し退けるんじゃない、互いに支え合って生きる世界だ!」

 

悲痛な面持ちで新次郎は叫んだ。

分からない。

何故目の前の男は、自分以外の他者という存在に対してこれ程までに冷徹でいられるのか。

新次郎は目の前の魔王が、人でありながら人である事を捨てたように思えて仕方なかった。

 

「信長! お前にも守るべき、愛すべき者達がいただろう!? 誰かを信頼し、愛する心がお前にはないのかっ!?」

 

「………ワシにそれを問うか?世継ぎのために、女子供のみならず実の弟さえ躊躇わず殺した、このワシに。」

 

その悲痛な叫びにすら、信長は嘲笑を以て返した。

 

「たとえあるとしても………、とうに捨てたわ。」

 

「それでか………、あの時蘭丸さえ見殺しに出来たのは………!!」

 

3日前にこの場所で起きた惨劇を思い出し、新次郎は歯を食い縛る。

あの時、腹心の部下の最期を前にして、信長は眉一つ動かさず矢を放った。

その蘭丸が今また、他ならぬ信長のために戦っているというのに。

 

「どうして頑なに一人で高みを目指し続ける!? そのために置き去りにされた者達を、どうして省みないっ!?」

 

「言うた筈だ、小童。ワシの望みはただ一つ。遥か前世より果たせぬ天下布武の悲願を果たす事。そのために消えたあやつらの命など、塵も同然。」

 

「ふざけるなっ!!」

 

冷徹極まりない言葉の応酬に、遂に新次郎が爆発した。

 

「自分のために部下ですら平気で切り捨てるお前にこの街は、天下は渡さない! お前の贖罪、この場で悔い改めろ!!」

 

「………良かろう。無用な話もこれまでだ。」

 

両手に握る二刀に力を込める新次郎。

それを前に、信長も不敵な笑みで応える。

混沌の空気が、再び冷たく張り積めたものに変わった。

 

「狼虎滅却………天、地、刃!!」

 

先程以上の激情から生まれる霊力を纏い、魔王目掛けて突進するフジヤマスター。

対抗せんと構える信長目掛け、猛然と右の太刀が唸る。

 

「行くぞっ………、暴虎氷牙っ!!」

 

猛り狂う虎のように鋭く冷たい、凍てつく一閃が炸裂した。

一閃はそれを受け止めんとした金色の剣を瞬く間に包み、砕け散る。

これで信長の身を守るものは何もない。

 

 

 

 

 

………と思われた。

 

 

 

 

 

「小賢しいわっ!!」

 

すかさず左の脇差しを突き出さんとした正にその時、尋常ならざる衝撃が正面からフジヤマスターを襲った。

前回と同じ左手からの波動の一撃。

咄嗟に右手の刀を地面に突き刺し踏みとどまるが、凄まじい圧力に身動きが取れない。

 

「………中々の余興であった。小童、貴様の名は覚えておこう。」

 

完全に身動きを封じ込められたフジヤマスターに、信長は右手に金色の槍を産み出し、逆手に握って狙いを定める。

このまま串刺しにされれば一巻の終わりだ。

しかし身動きの取れない今、それに気づいたとしても回避は不可能に等しい。

 

「大河新次郎。我が野望成就のため、ここで散れっ!!」

 

「(くっ………、ここまでか………!?)」

 

信長の手から放たれた槍を前に、無念に目を閉じる新次郎。

だがその時、横から凜とした声が割って入った。

 

 

 

 

「イッツ・ショータイム!!」

 

 

 

 

左の入り口から、六つの光が疾風の如く飛び込み、眼前を横切った。

灼熱の赤、疾風の黒、狩人の緑、慈愛の青、変革の紫、無双の橙。

金色の殺意を容易くへし折り一列に対峙した姿に、新次郎は一瞬言葉さえ失う。

何故なら彼らは………、

 

 

 

 

「「紐育華撃団、レディ・ゴー!!」」

 

 

 

 

「ジェミニ………、ハワードさん………、みんな、無事だったのか!!」

 

今の今まで絶望的とも言うべき死地で激戦を繰り広げていた仲間達。

その彼らが今、一人も欠ける事なく魔城の頂に集結した。

それが何を意味するか、考える間でもなかった。

 

「あの程度でこのアタシをどうにかできるとは、詰めが甘いね。」

 

「リカも勝ったぞ~! えっへん!」

 

「仲間を信じる心の強さが、私に勇気をくれました………!」

 

「既に五人衆も全滅した。残るは信長、貴様ただ一人だ!」

 

「ボク達星組がある限り、この街に悪は栄えない!!」

 

「そういう事だ。白旗上げるなら今だぜ、この時代遅れ。」

 

あちこちに見える死闘の傷痕をものともせず、口々に啖呵を切る仲間達。

既に悪念機はおろか懐刀の悪念五人衆さえ失い孤立無援の信長に対し、こちらは欠員なし。

戦況は完全にこちらに傾いた。

だがこの状況において尚、信長は微動だにしなかった。

いや、寧ろ先程より自身の勝利を確信したようにさえ見える。

 

「なるほど。互いに信じ、疑わぬ。それがお前達の強さか。」

 

自分を含め各々武器を手に対峙する七つの星を前に、確かめるように頷く信長。

その顔に、動揺の色は微塵もない。

まるで、こうなる事さえ事前に知っていたかのようだ。

 

「だが………それに縋る限りワシには勝てん。それを教えてやろう。」

 

言うや、信長の姿が陽炎に歪み、掻き消えた。

同時に安土全体を何やら不気味な震動が包む。

 

「こ、これは………!? 信長、何をする気だっ!!」

 

周囲に警戒しつつ叫ぶが、返事はない。

代わりに奥に見える蝋燭に照らされた、観音を思わせる石像が光を帯びた。

信長の魔を思わせる、不気味な金色の光を称えて。

 

「喜ぶがいいぞ、紐育華撃団。この力、前世の貴様らには未だ見せた事もないのだからな。」

 

刹那、観音の光が稲妻となって周囲に飛び火し、爆発する。

揺れは一層激しさを増し、金色の光は安土そのものを包み明滅を始めた。

まるでこの中に眠る何かの胎動を表すかのように。

そして………、

 

「時は来た。いざ目覚めよ! 天下布武っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紐育の街より、実に1万3千フィートに位置する魔城、安土。

金色の光に包まれた魔の居城は、やがて凄まじい轟音を残して爆煙の中にその姿を消す。

 

「………な、何だあれは………!?」

 

飛行形態に変型し、間一髪で崩落する安土からの脱出に成功した星組。

だが、その煙の奥に見えた光景に誰もが言葉を失わずにはいられなかった。

中心に佇むは、阿修羅の手を持つ観音像。

その全身を後光の如く包む六本の突起と、真下に揺らめく鋭い鞭。

遥か天を望む上のそれは、僅かに安土の屋根の面影を残しているばかり。

全身を金色に彩る余りに大きなその姿は、中心の観音も相まって神々しささえ感じさせる。

 

天下布武。

 

己が野望の名を授かりし、名実共に史上最強の悪念将機がそこにいた。

 

「何て大きさだ………、これじゃアタシらがまるでゴマ粒じゃないか………!!」

 

「うっ………!! 先程までとは比べ物にならない妖力です………!!」

 

まるで自分達がとてつもなく小さな存在に思わせる怪物に、ただ圧倒されるばかりの星組。

一方、その怪物に座する魔王は高らかに喝采を上げた。

 

「フハハハハ!! 礼を言うぞ小童共。ワシの策に嵌まり、まんまとこの力を目覚めさせたのだからな!」

 

「僕達が………? 何の事だ!?」

 

身に覚えのない事実に、誰もが眉を寄せる。

だがしかし、昴だけは何かに感づいたように目を見開き、血の気の引いた顔で答えた。

 

「そうか………、五人衆は足止めなんかじゃない。僕達に霊力を使わせ、天下布武を覚醒させるための囮だったんだ………!!」

 

最期の瞬間まで自分達の勝利に笑い続けた、東日流火や蘭丸の不可解な言動。

その意味が、今更ながらようやく理解出来た。

彼らは初めから自分達を倒すつもりなどなかった。

自分達にとことん霊力を放出させ、天下布武を覚醒させる霊力を送り込めれば、それで良かったのである。

安土は恐らく、そのための殼。

その中であれだけの死闘を繰り広げれば、これ程自分達を圧倒する霊力を蓄えられても不思議ではない。

絶対的振りな形勢を逆転したつもりでいた自分達だったが、実際は全て信長の計算の内。

言わば今まで、相手の掌の上でいいように踊らされていたのである。

 

「魔王と呼ばれたこの力、存分に見せてくれよう。来い! 紐育華撃団!!」

 

絶望の暗雲に、魔王の啖呵が轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六天に続き、混沌の空に降臨した悪念将機、『天下布武』。

エイハブすら裕に超える200メートルクラスの巨体から繰り出す攻撃の数々は、激戦に次ぐ激戦で疲弊した星組に取って手に余るどころの相手ではなかった。

まず何より、こちらの攻撃の一切が通用しない。

全体を包む妖力の壁に阻まれ、こちらの霊力弾が全て遮られてしまうのだ。

更に向こうは恐ろしいまでの範囲を豊富な攻撃手段と圧倒的火力で襲ってくる。

おかげで連携弾幕に巻き込もうとしても、それより先に纏めて潰されてしまうのだ。

ただでさえダメージが目に見えて蓄積したこの状態でまともに攻撃を食らえば、まず生きては戻れない。

そしてそれほどにこちらを圧倒する怪物は、星組の心に大きな揺さぶりをかけた。

自分達は向こうに取って、文字通りゴマ粒程度の存在でしかない。

そう思わせるかのように。

 

「ハーッハッハッハッ!! 弱い! 弱すぎる! これしきの力でワシを討つなど、片腹痛いわ!!」

 

完全に戦況を掌握し、信長の顔が狂喜に歪む。

するとそれに合わせて周囲の空という空が、大気そのものが震え始めた。

まるでこれから起きるであろう地獄に、恐れ戦くかのように。

 

「第六天に厄の立!! 天魔招来………三界六道!!」

 

観音の後光に、三重の陣が浮かび上がる。

血のように赤く禍々しい呪いの唄。

刹那、それは天下布武全体に拡散し、漆黒の炎となって七つの星に襲いかかった。

 

「みんな、大丈夫かっ!?」

 

間一髪の所で回避に成功し、新次郎が叫ぶ。

幸い空元気な返事が返って来たものの、状況は限りなく最悪だ。

エイハブを犠牲に安土に突入し、待ち構えていた五人衆を退けようやく掴みかけたはずの未来。

それが今、目の前にそびえ立つ牙城によって、無念にも阻まれようとしていた。

 

「小童。貴様ら如きにワシは止められはせん。ワシは天下布武の名のもとに、戦を起こさねばならん。」

 

「い、戦だと………!?」

 

「まもなく世界の国々全てを巻き込んだ、覇権を賭けた戦が始まる。故にこの街がワシを欲したのだ。覇王たるワシに、天下布武せよと。」

 

「まさか………、そんな下らない理由で紐育を襲ったのかっ!?」

 

何を戯れ言を。

第一次世界大戦が終わり、国際連盟と賢人機関を中心に世界が平和に向かいつつある今、何故また戦を始めなければならないのだ。

すると信長は、何かを悟るような面持ちで言った。

 

「小童、ワシが憎いか?よき顔だ。」

 

「何………!?」

 

「人が人である限り平和などあり得ん。己より優れた者を怨み、妬み、奪い、殺し、争う。それこそが人の本性だ。」

 

それは、戦国の世を生きた信長だからこその人生観だった。

血の繋がった親子ですら殺し合う事が常識であった昔。

いつ、誰が己の命を狙うかも分からない時代に生きていれば、他人を信用出来なくなるのも無理のない話だ。

しかしだからこそ、新次郎はその考えを認めたくなかった。

 

「それでも人は、己の過ちを正す心がある! 今、この世界の人達は争う事の無意味さを知った! 争わなくていい世界に向かってるんだ!」

 

「愚かな。信頼とは名ばかりに打算でしか動かぬ人間に、そのような神の業が成せる筈がなかろう。」

 

やはり力で相手を屈服させる事しか知らない人間に、それは理解出来ないのか。

言葉も力も通じない、根性だけでは超えられぬ存在に、新次郎は拳を握る。

 

「世迷い言は終いか? ならば貴様らの天命も終いにしてくれよう!」

 

トドメを刺すべく、信長が霊力を集中した。

再び後光に陣が現れ、空間が歪む。

 

「し、新次郎!!」

 

「くっ………!!」

 

打つ手を失い、眼前に迫る敗北と死に顔を歪ませる星組。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがその時、遥か下方より一声が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大河君!諦めるのは、まだ早いんじゃないかな!?」

 

 

 

 

 

「サニーサイド司令!?」

 

「あれは………、さっきの砲台か!?」

 

突然響き渡る場違いに明るい声に、その場の誰もが驚いた。

眼下に見えるリバティ島。

その上に立つ女神が握る、巨大な鯉の大砲。

それこそ安土突入の際にゲルカドンを粉砕したサニーサイドの切り札、『ネオマキシマ砲』である。

その照準は今、天下布武の中心に座する観音を向けられていた。

 

「魔王信長! いくら鉄壁と謡う貴様の装甲も、この圧縮霊力弾の直撃は受けきれまい! この街は、世界はまだ、ボク達の手の中にある!!」

 

ネオマキシマ砲の一撃は、都市に眠る霊力を極限まで圧縮し、超高速で相手にぶつける事で破滅的威力を実現させた代物。

いくら星組の霊力を吸収した天下布武を以てしても、この直撃に耐えられるとは思えない。

だがしかし、それを前にして尚信長は笑っていた。

 

「ククク………、撃てるのか? 仲間の命すら切り捨てられぬ程に甘い貴様らに、今のワシを撃てるのか?」

 

「何………? どういう事だっ!?」

 

再び不可解な言動を覗かせる信長に、新次郎は警戒心を剥き出しに問い質す。

まさか、まだ自分達の知らない隠し玉があるというのか。

言い知れぬ不信感に表情を曇らせる星組に、信長はさも楽しげに笑った。

 

「分からぬならば教えてやろう。こういう事だっ!!」

 

観音の口が開き、中から赤い宝玉のような何かが露出する。

ルビーのように半透明な色をし、よく見ると奥に何かが見える。

 

「な………!?」

 

だがその『何か』を見た瞬間、新次郎を始め、星組の誰もが、サニーサイドさえも目を疑った。

何故ならルビーの奥に見た『何か』は、とても信じられないものだったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………、ハワード………大河………君………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラ………、ラチェットさん!? ラチェットさんなんですかっ!?」

 

消え入るようなか細い声に、初めに我に還ったのは新次郎だった。

やはりそうだ。

見間違いなどではない。

天下布武の中心、あのルビーの中に捕らえられているのはシルバースター。

ラチェット=アルタイルだったのである。

 

「嘘………、嘘でしょ!? 何でラチェットさんが!?」

 

「まさか………、脱出が間に合わなかったのか!?」

 

口々に戸惑いの声を上げ、狼狽える星組。

だがその中で一人、ハワードだけは目を見開いたまま言葉を発せずにいた。

彼は知っていたからだ。

一足先にエイハブで脱出したはずの彼女が、何故今の今まで安土に残っていたのか。

 

「(そんな馬鹿な………!! 確かに、確かに脱出するって言ってただろうが!!)」

 

声にならない叫びを噛みしめ、拳を振るわせる。

もしそうなら自分のせいだ。

あの時自分が不甲斐ない姿を晒さなければ、こんな事にならずに済んだはずなのに。

 

「ハーッハッハッハッ!! どうした?ワシを倒すのではなかったのか、紐育華撃団!!」

 

「くっ、何て卑怯な………!!」

 

「卑怯だと。馬鹿め、人質は兵法の一手。捕まる者こそ愚かと知れ。」

 

憎々しげに睨む星組を、さも当然のように受け流す信長。

起死回生のネオマキシマ砲も、人質を取られたこの状況ではとても使用出来ない。

 

「大河君………、サニー………、みんな………、聞いて………。」

 

ノイズに混じってシルバースターが通信を繋げたのは、その時だった。

 

「天下布武の妖………防壁は………、六つの突起にストックした………貴方達の霊力よ………。それを破壊すれば………、そうすれば………、信長の鉄壁は崩れる………!!」

 

「ほう、まだ意識を残しておったか。思いの他強い精神だな、女。」

 

「お生憎様………、これでも軍人よ………。」

 

それは天下布武に取り込まれた事を逆用した、決死の情報提供だった。

いや、この様子を見るに、ラチェットはこうなる事すら読んだ上で留まったようにも見える。

しかし一体何故。

誰もが疑問に思う中、ラチェットは決定的な言葉を口にした。

 

「みんな………、今の通りよ。私に構わず………信長を倒しなさい………。」

 

「!? ラ、ラチェットさん………!?」

 

言い様のない衝撃が、星組を襲った。

ラチェットは、目の前に捕らわれた気心の知れた副司令は、自分を犠牲に信長を倒せと言ったのだ。

 

「そんな………、出来ません! ラチェットさんを犠牲になんて………!!」

 

新次郎は反射的に叫んだ。

冗談ではない。

いくら信長を破る手段がそれしかないとしても、彼女を犠牲にしての勝利など考えられない。

みんな一緒に、生きて帰ると誓ったのに。

 

「大河君………、自分の立場を分かって?貴方は紐育華撃団の隊長………、この街を守らなければならないの………。」

 

ぐずる新次郎に、ラチェットは僅かに語気を強める。

確かにラチェットの言葉は正論だ。

鉄壁の守備力を得た天下布武を破るには、突起を破壊して中心にネオマキシマ砲を撃ち込む他ない。

それは分かっている。

しかし、それでも星組の誰もが動けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ瞬間、地上でも余りの衝撃に沈黙を余儀なくされる人物がいた。

サニーサイドである。

 

「………司令、ご決断下さい。」

 

背後に立つ加山の言葉に、サニーサイドは悔しげに歯を噛む。

分かっている。

紐育と人一人の命。

どちらが大事か天秤にかけるまでもない。

だが、頭では分かっているのに、それを認めたくない自分がいるのをサニーサイドは自覚した。

 

「(これは………、本当に総司令失格だな………。)」

 

我ながら何て様だとサニーサイドは思う。

部下にはあれだけ大口を叩いておいて、いざとなったら命令一つ下せない。

 

「ラチェット………。」

 

以前から彼女が自身の非力さを嘆いている事は知っていた。

しかしまさか、このような無謀に出るとは思わなかった。

その予兆を知りながら止められなかった自分が、たまらなく悔しかった。

 

「………発射準備を。」

 

胸が張り裂けんばかりの痛みを必死に隠し、告げる。

今まで生きてきて、今の自分は人生で一番最低だ。

そう思うと、レンズの先の景色が急にぼやけた。

 

「許してくれ………、ラチェット………。」

 

ぼやけて見えない遥か空に、サニーサイドはそう呟くのが精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………私は、みんなに謝らなければならないわ。」

 

地上で終焉のカウントダウンが始まる最中、ラチェットはふと通信に呼び掛けた。

信長はこの様子を楽しんでいるつもりなのか、攻撃の気配を見せない。

 

「私が無力なばかりに、まだ若いみんなに多くの負担をかけてしまった………。出撃の度に、胸が傷んで仕方なかった………。」

 

「ラチェット………。でも、それは………。」

 

仕方のない事だ。

そう言いかけるサジータを遮り、ラチェットは首を振った。

 

「それでも………私も力になりたかった。たとえ霊力が無くても………、戦う力が残っていなくても………、諦めたくない。無力だから仕方ないって、逃げたく………なかったの………。」

 

それは、悲壮なまでの前隊長としての責任感と贖罪だった。

だが彼女は、それに喜びすら感じていた。

 

「………ハワード、そんな顔しないで………。」

 

ふと、ラチェットが一人の隊員の名を呼んだ。

ハワード=アンバースン。

欧州星組時代から実に10年もの間、苦楽を共にした戦友。

その彼は今、悲痛な顔でラチェットを見ていた。

胸に込み上げる熱い何かを、必死に耐えながら。

 

「言ったでしょう?私は最初から………こうなる事を望んだの。それが、今まで支えてくれた………貴方への恩返しだから………。」

 

「ラチェット………、だからってこんな………!!」

 

「ハワード………、いつか聞いたわね?自分が知らない所で変わっても、受け入れてくれるか………。」

 

「!!」

 

その言葉に、ハワードはハッと目を見開く。

以前格納庫の押し問答で聞いた言葉。

知らない所で変わった、人ですら無くなった自分を、彼女は受け入れると言った。

ラチェットが口にしたのは、その理由だった。

 

「あの言葉………、私自身を指してるようだった。知らない間に霊力を失って、戦う事も出来なくなった私に………ハワード、貴方は変わらず接してくれた。」

 

「………、お前………!!」

 

ノイズのかかったモニターの奥の顔に、ハワードは驚きを隠せなかった。

ラチェットは泣いていた。

両目の目尻から透き通る涙の筋を残して、微笑んでいた。

 

「私………嬉しかった。役立たずになっても態度一つ変えないで接してくれた貴方が本当に心地よかった。………だから、愚問よ。私に貴方を拒むなんて出来ない………、出来ないわ………。」

 

それこそ愚問だと、ハワードは思った。

あの時、あの瞬間の彼女の言葉がどれだけ嬉しかったか。

昔の自分を支えてくれた事に、どれだけ救われたか。

心の中で呟くと、それまで耐えていた何かが咳を切ったように溢れだした。

止めようとしても、止まるどころか益々勢いを上げて心を埋め尽くす。

 

「今までありがとう………。だからハワード………。」

 

「ラチェット………、俺は………俺はっ!!」

 

「最後のお願いよ………。私の事は忘れて………。紐育で………、この街で幸せになって………。」

 

「ラチェットッ!!」

 

もう限界だった。

心を埋め尽くす何かに押し流されるまま、操縦捍を目一杯倒す。

刹那、灼熱の星が唸りを上げて、魔像の中心目掛けて飛び出した。

 

「ハワードさんっ!?」

 

誰かの止める声が聞こえたが構うものか。

エンジンが悲鳴を上げようが構うものか。

全身に深紅のオーラを漲らせ、バーニングスターが中心部のバリアに激突した。

 

「ハワードッ!?」

 

激しい衝撃が四方にスパークを起こし、灼熱の星はルビーの眼前で阻まれる。

目の前に見える銀色の星が叫んだ。

 

「ハワードやめて! 今の貴方じゃバリアは破れないわ! このままじゃ貴方も巻き添えに………!!」

 

「………ねぇ………!」

 

「今すぐ離れなさい! これは命令よ! ハワード!」

 

「関係ねぇ、そんな事はっ!!」

 

撤退を促すラチェットに怒鳴り返す。

最早自分が何を言っているか、何をしているかさえよく分からない。

分かるのはただ一つ。

彼女を、ラチェットをこのまま見捨てたくないという、はち切れんばかりの思いだけだ。

 

「あの時………、俺を受け入れてくれるって言った時、俺は堪らなく嬉しかった! さっきのお前に負けない位、泣きたい位嬉しくて堪らなかった!!」

 

「え………?」

 

「欧州の頃から今までずっと………、お前は俺の側にいてくれた! 親父とお袋が死んだ時も、こうして星組に入る前も、お前は俺を支えてくれた!それ以上いらねぇよ………、もう十分過ぎる位助けてくれたじゃねぇか!!」

 

バリアに阻まれながら、賢明に手を伸ばす。

刹那、スパークが激しさを増した。

コックピットにも火花が散り、激しい震動が襲う。

しかし、それでも今は、今だけは諦めない。

彼が、希望のサムライがそれを教えてくれたから。

 

「俺は今まで諦めてばかりだった………! 親父やお袋が死んだ時も、欧州星組が解散した時も、お前が………戦えなくなるって感づいた時も………! 俺はずっと諦めてた! 周りに偉そうに言って、自分は壁作って逃げてたんだ!!」

 

これまでの己を戒めるように、ハワードは叫ぶ。

悪いならば、それは自分だ。

今まで支えてくれた彼女を助けられなかった自分のせいだ。

それに背を向けて仲間を助ける事で、自分はその全てに目を背け続けて来た。

 

「でも今は、今だけは諦めねぇ!! このまま握り潰されようが、身体が燃えて炭になろうが、絶対に諦めてたまるかっ!!」

 

「………ハワード………!!」

 

「星組も紐育も関係ねぇ!! ラチェット、俺は………俺は今お前を………、お前だけを守りたいんだぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前だけを守りたい。

聞き違いでなければ今、目の前に迫る星はそう言った。

 

「ハワード………。」

 

胸が激しく、今までにない程に高鳴る。

このままではネオマキシマ砲の攻撃に巻き込まれる。

早く離れさせなければならない。

頭の中を目まぐるしく駆け回っていた全てが、胸の高鳴りに押しきられ、見えなくなった。

ただ目の前まで駆け寄る星にすがりたい。

差し出された手を取り、逞しいあの胸に飛び込みたい。

胸の鼓動に突き動かされ、気づけば自分も手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………、………え………?」

 

その一瞬、ラチェットはその聡明な頭脳を以て、何が起こったのか理解出来なかった。

急なノイズを残し聞こえなくなった声。

動きを止めたバーニングスター。

そして、その中心を下から貫く鞭。

 

「耳障りな男め、消えよ。」

 

「ハワード………? ハワード? ハワードッ!?」

 

その全てが理解出来たのは、頭上で信長の声が聞こえた時だった。

嫌だ。

自分のために、自分を助けようとして彼が死ぬなどあってたまるか。

だが目の前からゆっくりとバーニングスターが消えた瞬間、無慈悲な現実は突きつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハワードーーーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落下すると言うより、ふわふわと浮かんでいると言う方が、今の感覚に近かった。

真下からの不意打ち。

それはものの見事に霊子水晶を貫き、灼熱の星を物言わぬ鉄屑に変えてしまった。

自分の身体を串刺しにされなかったのは不幸中の幸いだろうが、この高度では助からない。

 

「(………やっぱり、俺は駄目なのか………?街も………仲間も………、惚れた女も………守れねぇのか………。)」

 

救いようのない程に無力な自身に、つくづく嫌気がさした。

人が無力なのは知っている。

故に支えあい、助けあうのも知っている。

だがせめて、自分の大切なものだけは自分の手で守り抜けなければどうするのか。

そう心の中で呟いた時、応えるように光るものがあった。

父の残した星。

そして自らの光の証、ミレニアムスター。

中心に輝くオーブは、自分に語りかけるように光る。

光を掴めと。

その瞬間、脳裏にあの言葉が蘇った。

 

「(最初に作った作品に、私は願いを託した。夢を追い続ける者を照らす、光になるように………。)」

 

「………そうか。だから俺が………。」

 

その言葉から何かに気づき、夢の星を掴む。

光が、俄かに強まった。

 

「親父………、こんな情けねぇ馬鹿息子だけどよ………。今だけ、俺を照らしてくれ………。守りたいものが………、死んでも守らなきゃならないモンが、俺にはあるんだ………!!」

 

応えるようにオーブが光る。

それを天高く掲げ、ハワードは叫んだ。

 

 

 

 

 

「俺に力を………、諦めない力をくれ!! タロオオオォォォ………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翼を失った灼熱の星が冷たい海に沈む寸前、それは起こった。

初めての時と同様に海面を真っ二つに割り、その手にバーニングスターを抱く真紅の巨人。

雄々しく燃え盛る炎の如きその姿に、誰もが言葉を飲み込む。

 

「………タロウ………!!」

 

微かな声で、誰かがその名を口にした。

ウルトラマンタロウ。

正体や目的、その全てが謎に包まれた光の巨人。

だが、それでもたった一つ、その場の誰もが分かる事があった。

彼は今ハワードを、自分達を、紐育を助けに来たのだと。

 

「ムンッ!!」

 

目の前の陸地に動かなくなった星を横たえ、遥か上空の魔王を睨む。

すると信長も、ここぞとばかりに笑い返した。

 

「貴様が噂に聞く光の巨人とやらか。面白い、我が前にその屍を晒してくれよう!!」

 

言うや、天下布武が仕掛けた。

先ほどバーニングスターを墜とした槍が、眼下の巨人目がけて音速の速さで殺到する。

しかしタロウはその音速すら超える、正に残像を残すほどの神速を以ってその一撃を回避。

間髪入れずにアロー光線を根元に打ち込み、槍を見事に破壊して見せた。

 

「ハッ!!」

 

地上より1万3千フィートの上空で対峙する真紅の巨人。

その左右に、残る6つの星が集まる。

 

「まだ勝負は終わっていない! 信長、本当の戦いはこれからだっ!!」

 

「ほざくな小童! 僅かに傷を負わせた程度でのぼせ上がるな!!」

 

新次郎の啖呵に一喝で返し、凄まじい妖力を練りこむ信長。

だがそれより先に、タロウが両手を頭上で合わせ、エネルギーを集中させる。

そして………、

 

「ストリウム光線!!」

 

T字に組んだ両腕から眼前の観音目がけ、七色の眩い光線が発射された。

それは先ほどのバーニングスター同様、黄金色の壁によって阻まれる。

刹那、新次郎が叫んだ。

 

「今がチャンスですっ! 全機、6つの突起を攻撃してください!!」

 

「「イェッサー!!」」

 

天下布武の防壁は、6つの突起に蓄えた星組の霊力を逆用したもの。

それをこちらの攻撃に合わせてピンポイントに展開したため、こちらの攻撃は完全に中和され無効化の一点張りだった。

だが、そのどれにも当てはまらないウルトラマンの攻撃ともなれば話は別だ。

ストックした霊力での中和が不可能ならより高濃度のバリアで遮るしかない上に、相手の火力は星組の攻撃とはケタ違いの威力を持つ。

それを食い止めるともなれば全力にならざるを得ず、そうなれば他の部分にまでバリアを張る余裕など存在しない。

新次郎は、その一瞬に勝機を見出したのだ。

 

「狼虎滅却………、雲雷疾飛!!」

 

「イッツ免許皆伝………、ターニング・スワローッ!!」

 

「これがアタシの正義だ! ギルティ・ストライク!!」

 

「リカの必殺………、バッファロー・ゴー・ゴー!!」

 

「奇跡をここに………、メジャー・オペレーション!!」

 

「見えたかい? 走馬灯っ!!」

 

渾身の霊力を込めた必殺技が、ほぼ同時に天下布武を襲った。

6か所の突起がたちまち爆炎に包まれ、全身から七色の光が漏れだす。

その正体が何であるか、考えるまでもない。

 

「今だ、タロウ!!」

 

「デヤァッ!!」

 

新次郎が叫ぶより早く、タロウが中心のルビー目がけて飛び出した。

右手を突きだし、奥に囚われた星を掴まんと神速の速さで迫る。

だが………、

 

「図に乗るな、うつけ共ぉっ!!」

 

絶望の防壁が、再び巨人の神速を阻んだ。

先ほどより目に見えて薄くなってはいるものの、それでも目の前の星がたまらなく遠い。

 

「(負けてたまるか!! 今度こそ、今度こそお前を………、この手で助けて見せるっ!!)」

 

貫かれる寸前に見た、あの微笑み。

それが、薄くて厚い壁に隔たれた向こうにいる。

さっきの無力な自分では駄目だったが、今度は違う。

父が自分に夢をかなえる翼を、力を授けてくれた。

遥か西の都で受け継いだオーブ。

それが何故自分を選んだか、今ならハッキリとわかる。

父の願いを、自分は諦めた父の願いを、オーブは受け入れてくれたのだ。

父の願いを形に変え、その翼を、自分に与えるために。

 

「(あいつらが………そしてオーブ、お前が教えてくれた! 親父の夢も、俺たちの夢も、諦めない限り必ず叶うってな!!)」

 

地上の砲台が光る。

発射までもう時間がない。

拡散する波動に焼かれる全身に、タロウはありったけの力を込めた。

そして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タアアアァァァ………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魂の叫びが轟いた直後、鉄壁はガラスの如く粉砕された。

それまでルビーのあった場所には大穴が空き、その後ろには全身から煙をあげる巨人の姿がある。

胸の前に抱える手には、求め続けた星が抱かれていた。

そして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グアアアァァァ………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

成す術を失った魔王目がけ、地上より裁きの光が突き刺さった。

バリアを破られた直後のネオマキシマ砲の一撃にはさしもの天下布武も耐えられず、200メートルの悪念将機は見る影もない。

 

「グッ………、まさかこれ程までとは………!!」

 

ここに来て、遂に魔王の顔から余裕がなくなった。

無理もない。

悪念機も、部下も犠牲に生み出した最強のカードが、僅差のところで破られたのだ。

さしもの信長も、己の観音が破られるとまでは思っていなかったのだろう。

 

「信長、お前の負けだ!」

 

今にも地表に吸い込まれそうな天下布武を睨み、新次郎は言った。

 

「時代の流れに逆らい、過去の栄光に縋るお前に未来はない! これが何よりの証拠だ!!」

 

「ええい黙れ! これしきの事で負けを認めるワシではないわ!!」

 

先ほどまで威勢の良かった覇者の一喝も、ここまで来ると最早惨めな負け惜しみでしかない。

だが、絶望は三度星組を襲った。

 

「これは………!!」

 

ふと周囲に広がる影。

不審に思い空を見上げると、そこには恐れていた光景が広がっていた。

第六天。

紐育に破滅を齎す魔星が、眼前にまで迫っていたのである。

 

「………フハハハハ………、勝った………勝ったぞ、紐育華撃団………!! ハーッハッハッハッ!!」

 

対し、その瞬間を待ち望んでいた信長は狂ったように笑う。

まさかこの状況で、まだ切り札を隠し持つとでもいうつもりなのか。

天下布武ですら小粒に見えてしまう小隕石に、誰もが不安の色を隠せない。

 

「さあ第六天よ………! ワシを食らえ!! この地の全てを食らい、世界を混沌に包んでくれる!!」

 

肘から先を失った阿修羅の腕が、頭上の星を湛えるように仰ぎ見る。

すると、驚くべきことが起こった。

天下布武の体が光の粒子となり、頭上の魔星へと昇って行ったのである。

新次郎は反射的に叫んだ。

 

「信長を追いましょう! 奴が弱った今しか、倒すチャンスはありません!!」

 

「「イェッサーッ!!」」

 

サニーサイドが、ラチェットが、ハワードが、そしてタロウが命がけで繋いでくれた勝利の可能性。

自分達がこの街に未来という名の光を齎す。

その決意を示すかのごとく、6つの星は邪悪の星へと流れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずっと理不尽に思っていた。

何故自分は戦えないのか。

何故自分を人柱にはできないのか。

そして何故、まだ若い彼らがその重荷を背負わなければならないのか。

これまでの人生の多くを戦場と言う非日常の中で過ごしてきたラチェットにとって、それは耐え難い苦痛だった。

だから、自分は今回の暴挙とも言える行動に出た。

そうでもしなければ今の自分を、きっとラチェットは許せずにいたから。

しかし、だからこそその瞬間、ラチェットは今までにないほどにときめく自身を自覚していた。

少なくともその一瞬、秘密部隊の副司令の面影を無くした若い一人の女の顔で、隔たりの先にある彼を見ていた。

かつて自分が守って来た彼は、いつの間にか自分を庇い、守れるほどの男に変わっていた。

だからこそ、自身が最も心を許した彼だからこそ、あの言葉が嬉しかった。

 

「(お前だけを守りたい………。そんなの、ヒーローのセリフじゃないわよ………。)」

 

ふと、自らを抱く感触に僅かな振動が加わる。

巨人の脚が地に着き、自らを下ろした証拠だった。

 

「ラチェット!!」

 

ハッチを開けるや真っ先に見えたのは、こちらへ一目散に駆けてくるサニーサイド達だった。

彼らもまた地上で心配してくれていたのだろう。

プラムや杏里はもちろん、サニーサイドまでもが瞳を潤ませていた。

 

「ラチェット! よかった、無事だったのね!?」

 

「ネオマキシマ砲が撃たれた時、もうだめかと思ったんですから………!!」

 

「副司令、ご無事で何よりです!」

 

「みんな、ありがとう………。そしてごめんなさい………。こんなに心配かけて………。」

 

自分のした事が許されるなどとは思っていない。

独断で特攻まがいの暴挙に出たのだ。

その位は分かっている。

 

「そしてサニー………。ごめんなさい、約束………破ってしまったわ。」

 

しきりに喜びを口にするプラム達から、ラチェットは一歩離れた総司令に視線を向ける。

その顔は、思いのほか穏やかだった。

 

「それならボクも同罪さ。あの時………、キミを見捨ててでも撃とうなんてしたんだからね。謝るならボクの方だ。そして………、」

 

ふと、サニーサイドが上を見上げる。

そこにはこの絶望的窮地を打開してくれた、光のメシアが見下ろしていた。

 

「ありがとう。君がいなければ、この奇跡はありえなかった。君のおかげだよ、タロウ。」

 

先ほどのネオマキシマ砲の一撃。

ウルトラマンタロウの尽力もあって見事天下布武打倒という結果に帰結したが、あの発射はそこまで予見して行ったものではない。

漸く見えた勝利の瞬間をものにするため、ラチェットを犠牲にすることを決めた苦渋の決断だったのである。

もしもタロウの助けがなければどうなっていたか、今考えるだけでもゾッとする。

 

「タロウ………、貴方が誰で、何故私達を助けてくれるかは分からない。でも………。」

 

ラチェット自身も振り返り、目の前に立つ巨人を見る。

ウルトラマンであるという事以外何も分からない赤い巨人。

彼が何を望み、何のために自分たちを助けてくれるのか。

そんな事は知る由もないが、ラチェットには一つだけ確信できる事があった。

 

「もし貴方が私たちの力になってくれるのなら………、大河君たちを、みんなを助けて。この街の希望を灯す、光になって。お願い………!!」

 

両手を合わせ、神に祈るような仕草で語りかけるラチェット。

果たして巨人は重々しい頷きを以って応えた。

 

「ハッ!!」

 

今だ地上に迫りつつある第六天を見据え、巨人が再び地を離れる。

水しぶきと轟音を残し、巨人は瞬く間に赤い光となって、彼らの後を追うように消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六天。

この世の全てを闇に飲まんとする魔王の邪念が産み出した、破滅の星。

絶えず雷鳴が響き、細かな岩石が浮遊する空間に、無傷で足を着ける場所はあまりに少ない。

 

「ここが、第六天………!!」

 

最早この世のものとは言い難い空間に、新次郎は油断なく周囲を見渡す。

禍々しい漆黒のガラス片を散りばめたような僅かな大地は、外界の光を飲み込み外へ逃がさない。

霊力計は勿論、全ての計器がまともに機能していない。

流石は虚数空間に眠る異世界だけある。

 

「人間五十年………、下天のうちをくらぶれば………、夢幻の如くなり………。」

 

遥か頭上より低く謳う声が降り注いだ。

聞いたことがある。

日本で最も有名な幸若舞、『敦盛』の一節だ。

そして、ある武将が死の淵を前に口ずさんだ舞。

見上げれば、その姿はあった。

 

「信長………!!」

 

第六天魔王にして、かつて天下の頂きに最も近い存在であった男。

切り札である天下布武を失った今ですら、その顔に焦燥の色は見えない。

 

「見るがいい小童。これこそ我が第六天。冥界の怨念が蔓延る彼岸の星だ………。」

 

「冥界の怨念………? そんなものでこの街を………、世界を包むつもりか!?」

 

最早地獄という言葉さえ相応しい第六天の世界。

それがこの世界全体を包み込めば、未曾有の惨劇を生むのは火を見るより明らか。

何としても、ここで止めなければならない。

 

「小童よ。貴様は戦う理由をこう言うたな、誰も戦う必要のない世を作るためと。」

 

ふと、信長が口を開いた。

 

「貴様らは若い。故に知らぬ。人が群れるは、己の理想のため。他者と馴れ合うのもまた、互いに利用し合うために過ぎん。その人の生きる世において、戦の要らぬ世界が何故生まれようか。」

 

「それはお前が信じないからだっ! 自分が信じられなければ、応える者なんてない。 人を憎み続けるお前に、誰が応えてくれるんだ!?」

 

最早平行線にも等しい押し問答。

やはり400年も昔、人を憎み殺しあう世界を生きた信長には、理解出来ない事なのだろうか。

返ってきた言葉は、嘲笑だった。

 

「ワシが何も知らぬと思うか?今、この世界を取りまとめる者達ですら、その目的は己が国の益のため。貴様らの言う信頼など、微塵も存在せん! 貴様らの言葉など、戯れ言に過ぎんのだ!!」

 

「でも………、それでも僕達は信じる! どんなに小さな可能性でも、僕達は絶対に諦めない!! それが僕達の………紐育の生き方だっ!!」

 

信長の言葉に間違いはないだろう。

かつて戦国の世がそうであったように、人は誰かを憎み、恨み、傷つける事がある。

その全てを強大な力を以て押さえ込めれば、小競り合いのない世界は生まれるだろう。

だがしかし、それは果たして平和な世界なのか。

新次郎はその問いに、首を振る自信があった。

人の絆は互いに信じあう事で初めて生まれ、形になるもの。

自分が誰かを信じなければ、絶対に信頼は生まれない。

だから自分達は人を信じ続ける。

たとえその信頼が、何百回裏切られようと。

 

「一人の覇王が世界を掴まねば、戦は終わらぬ。故にワシは戦う! 悪と、魔王と呼ばれようと戦い、平定をもたらす事がワシの正義。それを認められぬならば、ワシへの憎しみを糧に戦って見せるが良い!!」

 

魔王が両手を拡げ、世界を仰ぐ。

刹那、周囲を駆け巡る稲妻が激しさを増し、魔王の身体を邪念の陽炎が漂い始めた。

 

「いざ、第六天よ! 第六天魔王、織田信長の名において命ずる! その身に宿す全ての憎悪を解き放て! 我が肉となり、牙となり、一体となり、世界を包まん!! 天下布武の名のもとに、いざ来たれ、第六天よっ!!」

 

万物を震わせる一喝するすら掻き消す落雷が魔王を包み、爆音と閃光が五感を一瞬支配する。

やがて目を開けると、爆煙の奥にそれはいた。

 

「ガフゥゥゥ………!! フゥッ………、フゥッ………!!」

 

それは、今まで見たこともないような怪物だった。

全身を覆う白い筋肉と、細かく浮き出た赤い血管。

消え失せた左手に代わり肥大化した右の豪腕と、背中に生えた猛禽の如き翼。

そして、顔面全てを多い尽くす巨大な青の一つ目。

これこそ400年に及ぶ怨念の全てと一体化した信長の最終形態。

第六天魔王ノブナガ。

その真の姿がそこにあった。

 

「ルゥゥゥォォォッ!!」

 

最早人ですらなくなった魔王の醜悪なる咆哮が、地獄を揺るがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六天そのものと一体化し、正に魔王の二つ名にふさわしいまでの力を得たノブナガ。

その常識の一切を覆す反則的な戦闘力は、満身創痍に等しい星組に容赦なく牙を剥いた。

 

「クルオオオォォォッ!! ムニ………カァエェルェェェッ!!」

 

右から横に一閃する剛腕。

大ぶりで隙だらけの動きを紙一重でかわすも、それは直後にあらぬ方向に曲がり不意を突いて追撃してくる。

 

「させるかっ!!」

 

剛腕の自由を封じるべく、サジータの放った鎖が雁字搦めに締め付ける。

だが、その剛腕の生み出す怪力はそんなもので抑えられるものではなかった。

 

「クルオオオォォォッ!!」

 

「なっ!?」

 

何とノブナガは鎖のついたままの腕を豪快に振り回し、そのままハイウェイスターを投げ縄の如く大回転させたではないか。

 

「まずい! リカ、ジェミニ、サジータさんを助けるんだ!!」

 

「「イェッサー!!」」

 

スターを軽々と振りまわす怪力に加えて遠心力のかかった今の状態で地面に叩きつけられてはただでは済まない。

新次郎の指示で飛び出したリカリッタが鎖の一部に銃弾を撃ち込み、脆くなった所にジェミニがすかさず切り込む。

見事鎖が切断され、サジータは間一髪着地に成功した。

 

「奇襲をかけます。昴さんっ!!」

 

「分かった!!」

 

攪乱専門の昴に指示を飛ばし、二刀を抜いたフジヤマスターが猛然と突っ込む。

恐らく正攻法では勝てない。

そう判断した新次郎は、自らを囮に昴が背後から不意を突く奇襲攻撃を仕掛けたのである。

だが………、

 

「何っ!?」

 

「き、消えた!?」

 

何と、全長も何もなくノブナガの姿が忽然と掻き消えたのである。

刹那、真後ろのダイアナが叫んだ。

 

「大河さん、上です!!」

 

言われて上を見上げ、新次郎は絶句した。

自分たちの頭上に、醜悪の魔王はいた。

剛腕に、身震いするほどの妖力を湛えて。

 

「クルオオオォォォッ!!」

 

妖力を波動に変えた無差別爆撃。

たちまち全範囲に爆発が起こり、6つの星は成す術もなく爆炎に呑みこまれる。

 

「畜生っ………、何てバケモンだ………!!」

 

今だ煙が立ち込める中、サジータが毒づいた。

安土の猛攻に始まり、五人衆、天下布武、それだけの激戦を経て尚この状況。

何度手繰り寄せてもたちまち消される勝利の可能性は、星組に言い知れぬ敗北の予感を植え付ける。

 

「クルオオオォォォッ!!」

 

その追い打ちの如く、魔王の咆哮が第六天を揺るがした。

直後、新次郎の目に絶望の光景が映る。

 

「あれは………、隕石か!?」

 

それは、第六天の一部をはぎ取って作り出された即席の小隕石だった。

小さいとはいえ魔王の妖力を帯びたその破壊力は計り知れない。

 

「くっ、万事休すか………!!」

 

飛行形態になって破壊するにしても、地上で迎え撃つにしても、スズメの涙しか霊力の残っていないこの状況では不可能。

正しく絶対絶命。

成す術がなかった。

 

「(ここまでなのか………? こんな僕達は終わってしまうのかっ!?)」

 

遂に訪れた限界に、誰もが無念の思いで歯を噛む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、光は彼らを見捨ててはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タアアアァァァッ!!」

 

 

 

 

突如として飛び込んだ光が、今にも墜落せんとした隕石に直撃した。

その衝撃で隕石は粉砕し、辺りに破片となって散らばる。

すると、その真ん中に両脚を叩きつける者がいた。

先ほどの光の正体にして摩天楼の守護者、ウルトラマンタロウである。

 

「デヤァッ!!」

 

大股を踏み、頭上の魔王を睨む。

そして強く大地を踏みしめ、神速の速さで突進した。

 

「グルォッ!?」

 

勢いそのままに胸倉に体当たりし、そのまましがみつくタロウ。

そのまま空中で乱回転し、勢いよく投げ飛ばす。

そして間髪入れず、隙だらけの胸倉に跳び蹴りを叩きこんだ。

 

「グルォォォッ!?」

 

完全に隙を突かれたノブナガは、体勢を立て直す間もなく星組の待ち構える大地に墜落する。

そこへ、ここぞとばかりに追撃が加えられた。

 

「デヤァッ!!」

 

通常より急角度且つ高速のスワローキックが、巨大な目に炸裂した。

直撃所からは火花が上がり、魔王の体は豪快に地面を転がる。

 

「タロウ………、来てくれたのか………!!」

 

「ムンッ。」

 

またしても窮地を助けてくれた真紅の巨人に、新次郎は歓喜のまなざしを向ける。

そうだ、諦めるにはまだ早すぎる。

霊力が尽きても、スターがボロボロになっても戦うと、紐育に光を取り戻すと誓ったではないか。

まだ負けたと認めない。

認めるとしたらその時は、この命が終わりを告げた時だ。

 

「行きましょう、皆さん!! このまま一気に押し切ります!!」

 

己の限界をも吹き飛ばさんばかりの呼応に、6つの星が再び立ち上がる。

どんな苦難を前にしても、絶対にあきらめない。

それが自分達、紐育華撃団星組だ。

 

「タロウと共に、この戦いに決着をつける! 紐育華撃団、レディー・ゴー!!」

 

「「イェッサー!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウルトラマンタロウの乱入により、戦況はまたたびこちらへ戻りつつあった。

ノブナガの巨体とタメを張るタロウが真正面から組みつく隙に、自分たちが一方的に攻撃を仕掛ける事が出来るのだ。

あちこちの装甲がきしみ始めるスターが耐え凌ぐことを祈りつつも、星組は待ったなしの大攻勢を仕掛けた。

 

「サジータ!!」

 

「決めるよ、昴!!」

 

「リカも行くぞぉっ!!」

 

残された片方の鎖を腕に巻き付け、昴とリカリッタが同時に攻撃を加える。

鎖を伝えに炎が走り、剛腕が一瞬業火に播かれた。

 

「デヤァッ!!」

 

その瞬間、痛みで力が緩んだ一瞬を見逃さず、タロウがノブナガを頭上に抱え上げ、脳天から地面に叩きつける。

そこへ、星組から更なる追い打ちがかけられた。

 

「ジェミニッ!!」

 

「オッケー!!」

 

「ここが見せ場ですっ!!」

 

真下で待ち構えていたジェミニと新次郎が同時に両翼の翼を斬りつけ、傷口目がけてダイアナのケミカルランチャーが炸裂する。

魔王の翼が無残に引きはがされ、地面に転がった。

これで相手は空中には逃げられない。

一度は絶望視された戦況が、遂に逆転した。

 

「グルオオオォォォッ!!」

 

それを認めないとばかりに、魔王がひときわ大きい咆哮を上げる。

そして、大きく後ろへ飛んで距離を取ると、黒く変色した剛腕をこちらへ突き付けた。

 

「ガフゥゥゥッ………!! テェンマァァァ………ショォォォライィィィ………!!」

 

ハサミのように開かれた右腕に、禍々しい光が宿る。

恐らくあの一撃で、こちらを纏めて潰すつもりだ。

 

「ムンッ!!」

 

それに対抗すべく、タロウも頭上で手を傘重ねてエネルギーを集中する。

そして………、

 

「他化自在………王道楽土ォォォッ!!」

 

「ストリウム光線っ!!」

 

極限まで圧縮された超エネルギー同士が、互いに真っ向からぶつかった。

怨念を宿した破滅の力と、希望を齎す神秘の力。

中央で競り合うまま数秒、先に限界を迎えたのは後者だった。

 

「デェッ………!?」

 

「マズイ、カラータイマーが!!」

 

著しい消費で遂に底を付き始めたエネルギーに、カラータイマーが点滅を始める。

このままではタロウも危ない。

その時、一人立ち上がる男がいた。

紐育の未来を背負う摩天楼のサムライ、大河新次郎である。

 

「タロウ、僕も加勢するぞっ!!」

 

言うや、新次郎は二刀を手に飛び出した。

ストリウム光線と拮抗し合うノブナガ目がけ、渾身の霊力を練り込んだ一撃を叩きこむ。

 

「てやあああぁぁぁっ!!」

 

助走で勢いをつけた突きの一閃。

だがその刃先が食い込む寸前、ノブナガの目がギラリと光り、妖力のシールドを出現した。

相次ぐ激戦に疲弊したフジヤマスターは、そのバリアに無念にも阻まれる。

だが、サムライは諦めなかった。

 

「このまま終わってたまるか………!! みんなの思いを………紐育を思う力を、僕に貸してくれぇっ!!」

 

そう叫んだ時だった。

真後ろに控える5つのスターを淡い光が包んだのだ。

 

「やっちまいな新次郎! 今のアンタなら出来る!!」

 

真実を見逃さぬ烈風の星、サジータ。

 

「私たちの命の輝き………、貴方に託します!!」

 

命の全てを愛し守る慈愛の星、ダイアナ。

 

「昴も同意する………大河、これで決めろ!!」

 

無限の進化を続ける天才にして変革の星、昴。

 

「新次郎、リカの力持ってけ!!」

 

二つの引き金で獲物を逃さぬ狩人の星、リカリッタ。

 

「ボク達の、紐育の未来を守って!!」

 

未来を生きる事を約した無双の星、ジェミニ。

もう残された霊力は残りわずか。

恐らくこれがノブナガを倒す、最期のチャンスだ。

5人の霊力が光となって集まり、フジヤマスターを包む。

そして………、

 

「狼虎滅却………、超新星ーーーッ!!」

 

烈風、慈愛、変革、射手、無双。

5つの光は希望の白と溶け合い、一閃を以って凄まじい爆発を起こす。

 

「クルォォォッ!?」

 

残された霊力を込めた星組最後の一撃。

即席のバリアがそれに耐えられるはずもなく、6色の光はノブナガの無防備な側面を深々と切り裂く。

そして、それをきっかけとして拮抗は遂に破られた。

 

「デヤァァァッ!!」

 

気合の籠った声と共に、ストリウム光線が勢いを増す。

ノブナガも負けじと押し返そうとするが、深手を負ったこの状態ではとても耐えられない。

 

「クルオオオォォォッ!!」

 

顔面を直撃したストリウム光線が、二発目の火花を上げた。

瞬く間に全身を爆発が包み、遂に魔王が倒れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何だ!?」

 

それはノブナガの体があおむけに倒れ、動かなくなった直後に起こった。

何の前触れもなく、第六天そのものが激しい振動を始めたのだ。

刹那、驚愕の光景が飛び込んできた。

 

「し、新次郎! ノブナガが………、ノブナガが………!!」

 

「何? こ、これは………!!」

 

最早信じがたい光景に、新次郎は目を疑った。

それは400年の月日を挟み尚も枯れぬ執念か。

完全に沈黙したはずのノブナガが、第六天全体から妖力を送り込まれ、何事もなかったかのように立ち上がったのだ。

 

「嘘だろ………? 傷一つ残ってねぇじゃねぇか………!!」

 

「第六天がある限り、奴は不死身なのか………!?」

 

「グフゥゥゥッ!シィナァヌゥゥゥ………、メッサヌゥゥゥ………!!」

 

驚愕の余り半ば放心状態の星組を尻目に、再び妖力を圧縮するノブナガ。

そして、破滅の波動が再び襲った。

 

「クルオオオォォォッ!!」

 

「グハッ!? くっ………、何て奴だ………!!」

 

慰めの防御もままならないまま、星組のみならずタロウまでもが吹き飛ばされる。

このままやられてたまるものか。

再度超新星をぶつけようと試みる新次郎。

しかし、現実は何処までも非情だった。

 

「………スターが、動かない………!?」

 

何と、今まで3時間に及ぶ激闘を乗り越えてきたスターが、遂に活動限界を迎えてしまったのだ。

いくら操縦桿を操作しても、全く動く気配を見せない。

これでこちらは反撃どころか、撤退すら不可能という事態に陥った。

いっそ玉砕覚悟で生身で特攻を仕掛けるか。

操縦席に忍ばせた愛刀を握り、ハッチに手をかける新次郎。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがその時、新次郎より先に、不死身の魔王に挑む人物がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおぉぉぉっ!!」

 

雄々しき雄叫びを上げ、一条の光が猛然と斬りかかった。

橙色の光。

よく見るとそれは、うっすらと人の形をしている。

そしてその手に握られた刀と、見覚えのある太刀筋。

まさか………、新次郎の脳裏に一つの影が過った。

 

「まさか………、ジェミニン! ジェミニンかっ!?」

 

思わず叫んだ名前に、星組の誰もが驚きを露わにした。

今ノブナガに挑みかかる橙の光。

それはジェミニの中に眠っていた姉人格。

ジェミニン=サンライズだったである。

妹とそっくりの太刀筋、見間違いではない。

 

「クルオオオォォォッ!!」

 

振り払うように繰り出された剛腕の一閃を華麗に跳躍して背後に回り、握りしめた愛刀サンレッドを心の臓に突き立てる。

最早不死身の身体を得たノブナガに通じるはずもないというのに、何をしようというのか。

その驚くべき答えは、ジェミニンによって明かされた。

 

「新次郎! オレがこいつを押さえる。その間にアレを………、五輪曼陀羅を使え!!」

 

「ご、五輪曼陀羅!? でもジェミニン、あれは………。」

 

「気にするな。元より覚悟の上だ!!」

 

その言葉に、今度は耳を疑った。

ジェミニンは自分達にあの術を、五輪曼陀羅を使えというのだ。

恐らくジェミニと分離した今の自分を、人柱にして。

 

「お、お姉ちゃん!? ダメ、ダメだよそんなの!」

 

最初に言葉を発する事か出来たのは、ジェミニだった。

そうだ。

誰の犠牲も出さずに奴を、ノブナガを倒すと自分達は誓った。

いくら実体のない人格だからといって、こんな形で命を落としていいはずがない。

だがジェミニンの、もう一人のサムライの意思は固かった。

 

「もうお前達に戦う力は残っていないだろう。五輪曼陀羅で封印する以外、この魔物を止める方法はない。」

 

「しかしジェミニン、君は五輪の戦士では………。」

 

昴がそう言いかけた時だった。

ジェミニンの右腕に、アザが見えたのだ。

五輪の戦士の証であるアザが。

 

「え………? そんな………、お姉ちゃん、何で………?」

 

慌てて自身の袖口を捲って確かめるジェミニ。

しかし、そこにアザはない。

それは一体化した姉の人格の影響で、あるように見えていたから。

本当の最後の五輪の戦士。

それはジェミニではなく、ジェミニンだったのである。

 

「ジェミニン早まるな! そんな事されてもリカ嬉しくない!」

 

「いけません! そんな、ご自分で命を投げ出すなんて………!」

 

「アタシらはみんな、誰一人欠けずに帰るって約束したんだ! アンタだって死なせてたまるか!」

 

「お願い、止めてお姉ちゃん!! こんなの………こんなのボク、嫌だよ………!!」

 

口々に叫ぶ仲間達。

だがジェミニンの言う通り今の自分達には、もう信長と戦うだけの力は残されていない。

だが、自分達はこんな勝ち方を望んではいない。

誰一人欠ける事なく、みんなで生きて帰る。

それが出来ると信じ、それを糧に戦って来た。

それなのに、こんな結末なんてあまりに残酷過ぎる。

目前の勝利と悲しい現実の間に葛藤する星組。

だが非情な現実は、その葛藤すら許してはくれなかった。

 

「急げ新次郎! オレの身体は少ししかもたない………! チャンスは今しかないんだ!!」

 

「な、何だって!?」

 

見ればジェミニンの身体は、先程より明らかに輝きを薄くしていた。

無理もない。

今のジェミニンはジェミニに残された僅かな霊力を媒体に生み出された精神体だ。

宿主の身体を離れて行動出来るのは、ほんの僅かな時間でしかない。

これ以上時間を浪費すれば、それこそジェミニンは無駄死にしてしまうのだ。

 

「新次郎、あれからオレはずっと考えていた。妹を守る他に、何が出来るのか。人は何処から来て、何処へ行くのか………。」

 

「まさかこれが、死ぬ事がその答えだって言うのか!?」

 

「ただ死ぬんじゃない。こうして紐育を守る事が出来る。妹だけじゃなく、大勢の未来を守る事が出来る。こんな………、こんな凄い事はない!」

 

それが嘘だとは、とても思えなかった。

ジェミニンは喜んでいた。

自分の足で立てたジェミニにとって不要となった自分の可能性を見出だせた事を、心から喜んでいた。

たとえそれが、命を対価にする事であっても。

 

「くっ………!!」

 

時間がない。

しかしジェミニンを犠牲にしたくない。

心の中で葛藤を続ける新次郎の脳裏にあの言葉が過ったのは、その時だった。

 

「(新次郎。酷かもしれないが、お前は星組の隊長である事を忘れるな。隊長として決断しなければならない時、お前は迷うな。そして決断を下し、納得のいかない最後を迎えたとしても、決して目を背けるな。自分のして来た事、許せない事も、真っ直ぐ背負って前に進むんだ。)」

 

「(加山さん………!!)」

 

認めたくはない。

だが、認めるしかない。

五輪曼陀羅がなければ信長は倒せない。

紐育も、世界も、未来も全てが失われてしまうのだ。

これまで何事も、どんな苦難も諦めずに乗り越えて来た新次郎。

そんな自分が今、世界のために諦めなければならない時が、来たのである。

 

「新次郎。オレを………、オレという存在を慈しんでくれるのなら、オレのために曼陀羅を使え。オレに………、みんなを守らせてくれ………。」

 

「………みんな。やりましょう………、五輪曼陀羅を!」

 

彼女の言葉が引き金となった。

隊員達の視線が一斉に集まる。

当たり前だ。

みんなで生きて帰ると最初に言ったのは、他ならぬ自分なのだから。

しかし今、自分は大河新次郎ではなく星組の隊長として、紐育を守らなければならない。

それが罪だというなら、一生涯をかけて背負ってやる。

新次郎は、涙を溜めて叫んだ。

 

「このままジェミニンを、彼女の決意を無駄死にさせるな! 曼陀羅陣を組むんだっ!!」

 

言うやハッチを開け、微動だに出来ぬノブナガに駆け寄る。

するとその姿に覚悟を決めた仲間達が飛び出し、ジェミニンを中心に曼陀羅陣を完成させた。

 

「ジェミニン、僕は忘れない! 君の決意も、君の存在も、一生忘れないからな!!」

 

溢れ出る涙を拭う事もせずに叫び、残された霊力を再び集中する。

刹那、五輪の戦士を光が包む。

 

「魔を縛るは………、風!」

 

「魔を焼くは………、火!」

 

「魔を封じるは………、土!」

 

「魔を清めるは………、水!」

 

「魔を滅するは………、空!」

 

それぞれの司る元素の呪文を唱え、中心部の一点に集める。

そして………、

 

 

 

 

 

「今こそ、魔を封滅すべしっ!!」

 

 

 

全てを飲み込む渦潮が大口を開け、閃光が邪悪の星を包んだ。

 

「クルオオオォォォッ!? ゴ、ゴリン………、マンダラァァァ………!!」

 

断末魔の叫びを残し、閃光の中に消える第六天魔王。

その叫びすら飲み込み、閃光は世界を包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ありがとう………。お前達と生きたこの人生………、本当に幸せだった………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ジェミニ………、幸せに生きろ。お前を守る者を守り、お前を愛する人達を愛し、お前の隣に立つ男と共に、歩いていけ………。それが………、オレの最期の願いだ………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………終わったんですね。」

 

空を見上げ、最初に呟いたのは加山だった。

閃光に包まれた第六天は、無数の光の粒となって散らばり、地上へと降り注いだ。

その一部は天高くそびえる安土に積もり、淡く光輝く。

それはまるで、遥か東の島国に咲き誇る、満開の桜に見えた。

 

「わぁ、綺麗………!!」

 

「摩天楼に桜舞う………。やったのね、大河君達が。」

 

舞い散る光の桜に、ラチェットが呟く。

今から1年前、帝都で見た日本の象徴。

それがまさか、この紐育で見られるとは。

 

「寧ろこれからだというのに、気の早い事だな。」

 

「あら、派手でいいじゃない。私は好きよ?」

 

現実的な立場から苦言を呈するキースに、軽く言い返すプラム。

すると、サニーサイドは穏やかな笑顔で呟いた。

 

「ザッツ・オールライト。今は喜ぼうじゃないか、彼らの最高のショーダウンをね。」

 

いつものポーカーフェイスではなく、心から笑う。

曇天が消え晴れ渡る空に、6つの星が輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六天魔王信長と紐育華撃団の死闘は、五輪曼陀羅による信長の再封印という形で終演を迎えた。

第六天の破片から生まれた桜は日没まで紐育を癒し続け、やがて主を失った魔城と共に消え失せた。

それから一日が過ぎ、紐育に新しい朝日が登った。

信長の残した爪痕は深く根強い。

だが誰もが思う。

元は移民達が文字通り0から作り上げたのが紐育。

自分達がそれを受け継ぎ、蘇らせて見せる。

そこにあるのは、如何なる困難にも敢然と立ち向かい、道を切り開くフロンティア・スピリット。

開拓者達の生きるこの街の未来は、果てしなく明るいものに思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12月31日。

ニューイヤーを目前に控えた紐育は、例年を遥かに凌ぐ熱狂ぶりを見せた。

何せ2日前の奇跡が起こらなければ、迎えられなかったかもしれない新年だ。

今この瞬間を生きている事に喜び、感動する人々の姿は、ネオンの輝きを失った今でも紐育を明るく照らす。

 

「………ったく、人がこう多くちゃ進めやしねぇ。」

 

その人々の波を縫うように進む一台の自転車に跨がり、ハワードがぼやいた。

これから21:00に、ベイエリアに停泊してあるサニーサイド所有のクルーザーで新年を祝う船上パーティーが行われる。

現在の時刻は20:55分。

既にウォール街に差し掛かっているため、もしかしなくても遅刻の心配はない。

ならば何故ハワードは不機嫌な態度を改めないのか。

その原因は、偏に荷台に座る昔馴染みにあった。

 

「そんなに慌てなくていいわよ? 時間ピッタリ、予定通りじゃない。」

 

「お前は良くても俺は良くねぇ! 大体な、何が悲しくてドレス姿のお前を乗せてスーツで自転車こがにゃならんのだ!!」

 

買ったばかりなんだぞと吐き捨て、必死の形相でペダルを踏む足に力を加える。

と言うのもこの日、ラチェットが送って欲しいと頼まれたハワードは、あわよくば彼女の車を使えると高を括って普段は絶対に着ないであろう洒落たスーツを購入。

ところがいざ出迎えれば相手は手ぶら。

挙げ句の果てには自分の自転車の荷台に乗せろと来たからたまったものではない。

おかげでコートを脱ぎ捨てるのはもちろん、シャツも腕捲りしてミッドタウンからベイエリアまで疾走する羽目になった。

万人を受け入れる紐育においても目につく突飛な姿と荷台に乗せた麗人は当然人々の視線を集め、ハワードは二重の意味で汗をかく事となった。

 

「車が使えないから貴方を頼ったの。少し考えれば分かるでしょ?」

 

「じゃあせめてもっと早く来いよ。そしたら歩きでも間に合っただろ?」

 

「歩いたら送る意味ないじゃない。貴方の自転車が頼りだったんだから。」

 

「何だよ、俺は便利屋でもなきゃ運転手でもねぇぞ! 見ろ、これじゃ俺だけ晒し者じゃねぇか。」

 

「少しは自分に自信を持ちなさい。貴方だって整えればそこら辺のキザなんか目じゃ………ないわよ?」

 

「何だ今の間は!? 説得力ねぇわ!」

 

軽口を交わしつつ、一路クルーザーの待つベイエリアを目指す。

と、後ろのラチェットがふと尋ねた。

 

「ねぇ、ハワード。」

 

「ん?」

 

「………ううん、ごめんなさい。呼んでみただけよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に感じたのは、意外という感情だった。

この日、新次郎はラチェットに頼み込み、ある人物を送るために車を貸してもらった。

それは、この戦いの勝利を唯一心から喜べないであろう戦友。

そして、今は亡き人物から託されたガールフレンド。

自分は彼女に唯一残されていた姉を、間接的にも死に追いやった。

たとえ許されないとしても、せめてもの償いとして詫びよう。

そう思って訪れた新次郎を迎えた彼女は、笑っていた。

普段より洒落た姿で、あの艶やかな微笑みを返してくれた。

悲しくはないのか。

自分を恨んではいないのか。

そう尋ねると、彼女はハッキリ否定した。

曰く、姉は新次郎を苦しませるために犠牲になったのではない。

曰く、誰より自分を愛し守ってくれた新次郎を嫌いになるはずがない。

実に情けない話だが、その時ばかりは感激のあまり泣いてしまったのは忘れたい思い出だ。

 

「………新次郎?」

 

ふと、右側に座る彼女に視線を移す。

チェックの入った赤茶色の帽子が落ち着いた雰囲気を醸し出し、いつもよりやや大人しめで柔らかい微笑みを見せる。

いつまでも見ていたい。

無意識にそう、思わせるように。

 

「………好きだよ、ジェミニ。」

 

短い言葉を投げ掛けると、途端に頬を赤らめ、小声で「ボクも」と答える。

心がくすぐられるような、妙に甘酸っぱい感覚に酔しれながらも、新次郎はかの英雄に心の底から感謝する。

彼女がいなければ今の紐育も、自分も、この瞬間さえなかっただろうから。

 

「(ありがとう、ジェミニン………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて諸君、3つの事に乾杯しよう。」

 

時刻は21:30。

豪華な装飾と料理の並ぶデッキの上で、パーティーの主催者がグラスを手にマイクを取った。

 

「我らがヒーロー、ウルトラマンタロウと共に紐育を守りきった紐育華撃団と………、危機を耐え抜いた紐育市民と………。………そして、生きて帰ってきた星組に!!」

 

「乾杯っ!!」

 

合わせたグラスが小気味良い音を立て、中のシャンパンが揺れる。

思いきって流し込むと、喉が焼けるような熱い感触に思わず顔をしかめた。

 

「にゃうっ!? た、大河さん大丈夫ですか!?」

 

「あらあら、タイガーったら無理しちゃって………。」

 

「す、すみません………。」

 

平謝りを返しつつ、プラムから受け取ったレモネードで熱くなった喉を冷やす。

すると、早くも酔っ払ったサニーサイドが豪快に笑った。

 

「はっはっはっ!! 無礼講、無礼講。みんなも気にせず飲みたまえ!!」

 

「サ、サニーサイド様、未成年に酒を飲ませるのは………。」

 

「ご心配なく、王先生。副司令のご要望で、ちゃんとノンアルコールカクテルを用意しています。」

 

「サニーったらすぐ飲ませたがるんだもの。そこがたまに傷よね。」

 

既に出来上がっているらしく、ラチェットの批評にも笑い声しか返さないサニーサイド。

最も、それだけ彼もこの瞬間を喜んでいるという証明なのかもしれないが。

 

「よう新次郎、その様子じゃシャンパンはまだ早いみたいだな?」

 

「ハワードさん、みんなも………。」

 

ちょっとした騒ぎになったのか、あちらこちらで談笑していた仲間達が揃って集まっていた。

ダイアナの手に封を切っていないタバコの箱が握られている所を見ると、どうやらまた取り締まりを受けたらしい。

 

「慣れない酒なんて飲まなくていいさ。アンタはまだグリーンティーが似合ってるよ。」

 

サジータは年明け、いよいよ仲間の冤罪を晴らす裁判に挑む事が決まったらしい。

ハーレムの仲間ともよりを戻し、近い内にツーリングにも付き合う予定だとか。

 

「リカ、ジュースもらって来た~! シャカシャカ振ってて面白かったぞ!!」

 

リカリッタは相変わらず、ノコと二人で紐育中を駆け回っている。

ただ、最近ではノコを非常食と言う事はなくなったらしい。

本人曰く、「バカに思われそう」との事。

 

「でも、何だかまだ夢心地です。本当に紐育が平和になるなんて………。」

 

ダイアナは今朝になって、ある重大なニュースを伝えて来た。

何と、霊力の暴走から解かれた身体を快復させる手術を受けるというのだ。

確かにセントラルパークの一件から車イスの生活から脱却出来たものの、肝心の身体の負担が消えた訳ではない。

彼女の生きる戦いは、寧ろこれから始まるのだろう。

 

「それでもいいんじゃないか?紐育は夢と希望に溢れた街。今日位、その夢心地に浸ってても。」

 

結局の所、九条昴という人間について、新次郎は何も分からなかった。

最も10年の付き合いになるラチェットやハワードも年や性別を知らないというのだから、分かる方が無理なのかもしれないが。

 

「これから色々大変だけど………、紐育ならきっと元の町並みを取り戻せるよね。」

 

この戦いの真の功労者とも言うべき姉の死を、ジェミニは強い心で受け止めていた。

聞けば愛刀サンレッドには、覇者の剣と同じ紋様が浮き出ていたという。

そこに姉の生きた証が残ると思うと、僅かに喜びを感じ得ないとの事だ。

天涯孤独となっても気丈に生きるサムライ娘。

その背中をそっと支えてやりたいと、摩天楼のサムライは密かに思う。

 

「………あ、音楽が………。」

 

今まで支えてくれた仲間達一人一人に思いを馳せた時、ふと船内を包む軽快な音楽が、優しいバラードを思わせるロマンチックなものに変わる。

 

「さあ、ここからはニューイヤーのカウントダウンダンスだ。好きな人と踊って、素敵に年明けを祝おう。」

 

1929年1月1日。

クリスマスから近いようで遠かった新しいスタートに、盛大な花火が上がる。

支えてくれた、或いは助けてくれた人達のために、平和な年にしてみせよう。

歓声の包む摩天楼に、新次郎はそう決意を新たにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇に包まれた室内で、それはしきりに目の前のパネルに凄まじい早さでデータを入力する。

目の前のディスプレイに写るのは3日前の安土城決戦。

天下布武を相手に死闘を繰り広げる紐育華撃団と、真紅の巨人の姿が見える。

 

「………必要なデータは、全て集まった。」

 

低い声を残し、ディスプレイが閉ざされる。

室内は、完全な闇に包まれた。

 

「長かった。だがこれで我らが悲願、遂に果たされる………!!」

 

闇の中に、赤い二つの目が光る。

ネオンの輝く摩天楼に生きる、熱き魂を持つ人々の街、紐育。

その影に潜む本当の闇を、彼らはまだ知らない。

 

<続く>

 




《次回予告》

忘れない。

これまで貴方と過ごした日々。

失いたくない。

貴方と生きるこれから。

なのに………、なのに何故………?

次回、摩天楼の星最終章。

《Revenger》

ハワード………やはり貴方は………

摩天楼にバキューン!!
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