摩天楼の星   作:サマエル

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Project T~最終章Ⅱ:拝啓ウルトラマン様~

「インペライザーを破ったか。些か侮り過ぎたやも知れんな。」

 

タイムズスクエアにおけるインペライザーとウルトラマンタロウの死闘。

その一部始終をモニターで確かめ、空蝉は相変わらずの鋭い眼光で呟く。

これまでの戦闘データをもとに設計し、送り込んだ対ウルトラマン抹殺兵器。

それがまさか向こうの自爆に巻き込まれて倒されることになるとは、流石の空蝉も予想してはいなかった。

最も相手の自爆というのもデータに存在しないのだから無理のない話ではあるが。

いずれにせよこれで計画に邪魔なウルトラマンは始末出来たのだから、結果オーライだろう。

 

「あとは………、奴らだな。」

 

猛禽の如く鋭い目が、空を飛び立つエイハブを貫く。

彼らは知る由もないだろう。

このインペライザーの襲撃さえ、これから始まる悪夢のプロローグでしかないという事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1929年3月2日。

 

タイムズスクエアは、1日にして焼け野原と化した。

真紅の巨人と相打った正体不明のロボットは、残骸となって発見。

そして………、爆発地点の中心に、昏睡状態の青年が一人発見された。

 

ハワード=アンバースン。

 

紐育華撃団星組の隊員にしてメカニックチーフ。

そして何を隠そう、摩天楼の守護神たる光の巨人、ウルトラマンタロウその人である。

発見された時は既に意識不明に陥っていたハワードは、すぐさまエイハブ船内の医療ポッドに収容。

霊力補給による救命措置が開始された。

 

「………。」

 

酸素マスクに口元を覆われ、黙するばかりのハワード。

その眼前に、一人の男が立った。

胸元に流星のマークが刻まれた日本陸軍を思わせる軍服。

そして、かつて陸軍にその名ありと謡われた稀代の策士。

 

「オーブよ………、何故………?」

 

僅かに目を細め、低い声で呟く。

理解出来なかった。

かつては自身と共にあったはずの宝玉。

それが何故、突飛な才能さえ持たない異星の人間を継承者に選んだのか。

 

「………ブレスレット。お前もか………。」

 

その手に持つ神秘の腕輪に視線を落とし、呟く。

かつて自らの弟と共に東の都を守った秘宝。

それらは互いに求め合うように、輝く。

まるでブレスレットまでもが彼を認め、その恩恵を授けんとするかのように。

 

「………。」

 

何故だ。

何故光は彼を選ぶ。

何故これ程までに過酷な道を、彼に強いろうとする。

その答えは、陸軍一の切れ者たる頭脳をもってしても、導き出す事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生きた心地がしなかった。

昔馴染みの変わり果てた姿を見た時は、絶望の余り卒倒しそうになった。

それから何があったのか、自分ではよく覚えていない。

気付けば自分は仲間たちに連れられる形で、ここに来ていた。

エイハブ船内の、緊急処置室前。

この奥に、今尚眠り続ける彼がいる。

 

「ハワード………。」

 

掠れきった声で、うわ言のように呟く。

彼のために何一つしてあげられない自分が、とかく惨めに思えた。

自分に霊力が無くなりつつあると知った彼も、こんな気持ちだったのだろうか。

大切な人の苦しみを背負う事も、そこから救い出す事さえできない無力感。

あの時彼を止められていたら。

そう思うと枯れたはずの涙がまた溢れだし、世界をにじませる。

憎い。

彼にこんな業を背負わせた世界が、それを知って何もできなかった自分が憎い。

何故彼がウルトラマンなのだ。

何故彼が、こんなにも苦しまなければならないのだ。

誰の目にも止まらず、誰にも称賛を受ける事のない戦い。

その地獄も同然の中を戦い続けて来た彼の苦しみは計り知れない。

 

「ねぇ、教えて………。私、どうすればいいの………?」

 

扉の向こうに眠る彼に語りかける。

返事は、ない。

 

「貴方がいなくなったら私………、私……もう………!!」

 

譫言は次第に嗚咽に変わり、その心を蝕む。

人は愚かだ。

今より優れた自分や満ち足りた明日を望み、前に進み続ける。

そのくせ身近にある幸せに限って、失う時まで気づかない。

こんな事になるなら、もっと早くに伝えれば良かった。

そうすればこの胸の痛みも、少なからず和らいだに違いないのに。

 

「目を開けて………! 一人にしないで………! お願いよ………ハワード………!!」

 

今ならハッキリ分かるこの気持ちを伝えたい。

全てをさらけ出して、あの逞しい温もりに満ちた胸に飛び込みたい。

才女の悲痛なまでに純粋な願いは、鋼鉄の隔たりに冷たく吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タイムズスクエアの一件を機に、紐育全域には緊急避難命令が発令。

無人となった紐育の街には活気が消え、不気味な沈黙が木枯らしとなって吹き抜ける。

それと時を同じくして、紐育華撃団星組はリトルリップシアターを放棄。

エイハブをリバティ島に移動させ、そこを臨時の作戦本部として使用する事にした。

当事の空蝉の様子を見るに、敵は確実に自分達の本部と理解した上でタイムズスクエアを襲撃している。

この行動自体が先読みされている可能性も否定は出来ないが、二の舞になるよりはマシだ。

だが事件から一週間がたった今現在、紐育は不気味な沈黙を保ったまま。。

幸い設備等は揃っているため不自由はないが、状況は未だ予断を許さない。

 

「………さて、そろそろ話を聞かせてもらおうか。」

 

そんな中、臨時の作戦司令室では星組と総司令が顔を揃えていた。

誰の表情も険しい。

その視線は、揃って司令席に座る一人に突きつけられていた。

 

「話っていうのは………、ハワードの事だね。」

 

向こうもそれを理解しているらしく、 何食わぬ顔で尋ね返す。

アウェーの立場でも変わらないその勘の鋭さは流石といった所か。

 

「単刀直入に聞く。サニー、アンタはいつから知っていた? 彼が………ハワードがウルトラマンであると。」

 

それは誰もが最初に思い浮かんだ疑問であった。

サニーサイドは普段おちゃらけているように見えて、実際は誰よりも迅速かつ正確に状況を分析し、いち早く解決策まで用意している切れ者である。

その彼が、今の今までハワードの正体に気付かないはずがない。

ただでさえ他のスターにはない自動操縦機能の存在や、通信記録などの状況証拠のそろったこの状況。

明らかに目の前の指令は知らなかったのではなく、知っていて黙っていたと考えるのが極めて自然だ。

すると件の総司令も言い逃れの余地がないと判断したのか、存外素直に口を割った。

 

「………正確には、このリバティ島での戦闘だ。あの時、ウルトラマンが現れたのはバーニングスターが海に沈んだ直後。その時に確信したんだ。彼が、光を受け継いだとね。」

 

「受け継いだ? どういう事ですか?」

 

不可解な回答に、新次郎が眉を寄せた。

ハワードがウルトラマンになったことはわかるが、なぜ彼である必要があるのかはわからない。

だがサニーサイドは今、ハワードが何者かから光を受け継いだと言った。

いったい誰が、どうやって。

すると星組総司令は、いよいよ肩をすくめて観念したように口を開いた。

 

「君たちは理由もなくハワードがウルトラマンになったと思ってるみたいだけどね、それは違う。必然だったんだ。彼が光を得てウルトラマンになるというのは。」

 

「必然………。ではおじ様は、かなり前の時期からご存じだったのですね?ハワードさんがウルトラマンになるということを。」

 

「正確には、そう仕向けたのさ。今からちょうど1年前の、巴里遠征のときにね。」

 

巴里遠征。

それは1928年3月。

闇の邪神ガタノゾーアに決戦を挑む巴里華撃団とウルトラマンティガの支援のために、結成間もない紐育華撃団星組が駆け付けた事件だった。

当時の隊員はわずかに3名。

ラチェットに昴、そしてハワードだ。

特にハワードは単身ガタノゾーアに特攻し、ティガ復活の時間稼ぎに大きく貢献したことは誰もが知るところである。

 

「元々スターには光武と流星、双方の性能を備えさせている。これは陸空双方の戦闘に柔軟に対処するのももちろんだが、もう一つ目的があった。」

 

「自動操縦機能を備えるためだな。この中の誰がウルトラマンになってもいいように。」

 

言葉の先を読み、昴が言い放った。

同時に星組の誰もが、驚愕と怒りを持ってサニーサイドを見る。

もしかしたら自分が今のハワードのようになっていたかもしれない。

この男は部下をなんだと思っているのか。

すると、サニーサイドは特に言い逃れることもなくそれを受け止めた。

 

「ハワードはもちろん、みんなにも済まないと思っている。ただ、これは僕たちの独断じゃない。賢人機関からの命令なんだ。」

 

「賢人機関からの?」

 

予想外の名前に、星組はまたも困惑の表情を浮かべた。

賢人機関とは国際連盟とは別に各国の重要都市を防衛する特殊部隊設立および運営に携わる国際機関だ。

とは言うものの都市防衛構想自体の具体的な内容はその都市の組織に一任されることがほとんどであるため、その賢人機関から直々に命令が下されることはきわめて少ない。

この命令こそ、サニーサイドが巴里遠征を決断した本当の理由だった。

 

「コードネーム『Project T』。またの名を、『ウルトラマン計画』。」

 

「ウルトラマン計画?」

 

「帝都、巴里に現れた光の巨人、ウルトラマン。それを、人類自らの手で作り出す計画さ。」

 

何度目かわからない衝撃が、星組を襲った。

人がウルトラマンを作る。

そんなことが、本当に可能なのか。

するとサニーサイドは、手元のコンピュータを操作してモニターにあるものを映し出した。

 

「これは………、彫刻ですか?」

 

「昴は覚えている。巴里の巨人ティガの、スパークレンスだな。」

 

モニターに映し出された、翼を象った彫刻。

それこそ巴里華撃団隊員ダイゴ=モロボシがティガの力を覚醒させるための光の証。

翼の紋章、スパークレンスだった。

 

「一見するとこの彫刻は青銅製。だが調査に結果、それとは違ういくつかの鉱石成分が検出された。これまでのどの鉱石にも属しないもの。僕たちは『アーク』と名付けているがね。」

 

「アーク………? リカ、聞いたことねーな。」

 

「で、その未知の鉱石とやらがどうしたってんだよ?」

 

「鉱石成分が一致したんだよ。ルルイエ跡から出土した、超古代の巨人と思われる石像の破片とね。これが何を意味するか、分かるかい?」

 

かつてティガの力を覚醒させるカギであったスパークレンス。

その構成がかつてウルトラマンであった石像と同じであった。

それは星組を、ある結論に帰結させた。

 

「じゃあまさか………、これと同じ鉱石を混ぜて………。」

 

「そう。スパークレンスとイコールの石像を作り、そこにハワードの得た光を注入する。そうすればティガと同じ原理が働き、その石像はウルトラマンとして覚醒する。これがウルトラマン計画だ。」

 

巴里遠征の真の目的。

それは霊的組織の最高機関ともいうべき賢人機関からの、壮大に過ぎる計画だった。

自分達にとっては神にも等しいウルトラマン。

それを自分達の手で生み出す事に、新次郎はある種の禁忌に近いものを感じずにはいられなかった。

まるで決して手を染めてはならない聖域を侵すような、大罪にさえ思えたのだ。

 

「しかし、それでも納得出来ません! ハワードさんにこれ程の負担が掛かる事をご存じだったなら、たとえおじ様であっても軽蔑します!」

 

堪り兼ねたように立ち上がり、ダイアナが怒りを露にサニーサイドを睨み付けた。

確かにそうだ。

いくら世のため人のためと謳った所で、罪無き命を危険を晒す事は断じて許されてはならない。

すると、サニーサイドは僅かに眉間にシワを寄せ、溜め息をついた。

 

「そう。それこそが唯一にして最大のミステイクだった。まさか光が………、彼の命を蝕んでいたとは思わなかった。」

 

切れ者のサニーサイドが唯一見逃した盲点。

それは、光の宿主となったハワードへの身体的負担だった。

光の巨人、ウルトラマンの寿命は自分達に比べて桁違いに長い。

帝国華撃団に入隊したばかりの御剣秀介でさえ、当事で既に7000歳である。

彼らはその永い寿命を僅かに削る事で、神秘に等しい技の数々を繰り出している。

それを人間が、何の特別な力もない一般人が使えばどうなるか。

これまでの宿主であった者達がいずれも特異な立場にあった事に気づいていれば、十分見抜けるはずだった。

かつて対降魔部隊と共に戦ったゾフィーを始め、幾人もの巨人へ受け継がれて来たプラズマ=オーブ。

それを地球の人間が使った結果、皮肉にも強大極まりない力と引き換えに、その命を限界まですり減らしてしまったのである。

 

「既に準備は万全。後はハワード自身の回復を待って計画を実行するつもりだったが………、遅かったようだ。」

 

「万全………? じゃあ、もう完成してるの?ウルトラマンの石像も、光を注入する装置も………。」

 

「そうさ。そして何を隠そう、この二つはここにある。このリバティ島地下施設にね。」

 

またたび星組が目を丸くした。

何と今述べたアークの石像とエネルギー注入装置がこの施設内に保管されているというのだから、無理もない。

サニーサイドがわざわざエイハブを用いてまでリバティ島に本部を移したのも、ハワードの生命力が回復し次第、計画を完遂させるためでもあったのである。

 

「しかし、そんな物どうやって………? 貨物船一つは必須の量だぞ!?」

 

ここで疑問を呈したのは昴だった。

人工ウルトラマンを構成するアークは、少なく見積もっても3万トン近い量が必要不可欠だ。

仮にそのアークをアメリカで作る事が出来たとしても、ウルトラマンに対する知識が皆無に等しいアメリカに、光エネルギーを注入する装置など生み出せるだろうか。

その答えは、意外な所にあった。

 

「簡単さ。プリンセス・マンハッタンⅡに乗せてたんだよ。マキシマ砲と一緒にね。」

 

豪華客船の仮面を被り、裏でフランスより対魔防衛兵器を輸送していたプリンセス・マンハッタンⅡ。

だが実際はそれすらフェイク。

本当にアメリカに届ける予定だったのは、同時期に完成していた光エネルギー注入装置だったのである。

 

「でも、だったら待つ必要もないだろ?さっさと装置を起動させて、ハワードと光を分離すれば………。」

 

ここでサジータが、実に最もな事を口にした。

確かにそうだ。

ウルトラマンになった影響で命の危険に晒されているなら、その原因を取り除くのが手っ取り早い。

設備も揃っているなら、わざわざハワードの回復を待たずとも、早々に光を分離してしまえばいい話である。

だが、サニーサイドは首を振る。

それには、理由があった。

 

「そう出来たら良かったんだけどね。………ドーバー海峡で起きた事件を知ってるかい?」

 

それは今から半年以上前、フランスとイギリスを隔てるドーバー海峡で起こった。

巴里近海に沈んだ海底都市ルルイエ。

その中から辛うじて発見された巨人と思わしき石像に霊力を注入し、自分達の下部として覚醒させようと、イギリスがパリシィに由来する霊力を持つ人間を無作為に拉致した事件である。

確か巴里華撃団ととある私立探偵の手によって解決されたそうだが、それが一体どうしたというのか。

 

「今回輸入した光エネルギー注入装置………。これは件のイギリスが使用した物を独自に改造した物だ。」

 

「そ、それじゃあ………!!」

 

「ああ、中の人間への負担は大きい。………今のハワードでは十中八九耐えられないだろう。」

 

いよいよ八方ふさがりに追い込まれ、重苦しい沈黙が作戦司令室を包む。

今現在、ハワードは意識不明の状態だ。

先の戦いにおける最大規模の霊力爆発を行使した結果、その体に残っていた霊力がほぼ底を突き、最早生きているのか死んでいるのかすら判断しかねる状態だった。

そんな状態で唯一の命綱である光エネルギーをはぎ取ってしまえば、間違いなく彼の天命は終わりを迎えてしまうだろう。

 

「こればかりは神頼みだが………、医療ポッドで彼の意識が回復するまで霊力を送り続けるほかない。最も、その間に向こうが仕掛けて来なければの話なんだけどね。」

 

「空蝉………。奴は一体………。」

 

力なく呟く総司令の横で、新次郎もまた厳しい顔で呟く。

悪念将機はおろか天下布武さえ超える性能の侵略兵器を生み出した謎の忍。

奴は一体何者だというのか。

信長の敵討ちでないなら、奴は何故この紐育に牙を剥くと言うのだろうか。

幾ら考えた所で、説得力のある答えは見えない。

ただ一つ言えるのは、かの忍はともすれば、第六天魔王すら超えるほどの脅威を予感させるという事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、大河新次郎の姿はリバティ島に立つ自由の女神像前にいた。

アメリカの独立と自由を湛える永遠のシンボル。

それが以前巨大な鯉の大砲を以ってこの街を守ったことは記憶に新しい。

 

「………星だ………。」

 

ふと見上げれば、空には無数の星々が何事もなく輝いていた。

士官学校時代は航海の目印程度にしか覚えていなかった夜空のイルミネーション。

その存在に芸術的魅力を感じ始めたのは、アメリカで盛んに宇宙開発が謳われるようになった至極最近の事である。

 

「北極星は………、あれか。」

 

その一つ、北斗七星の末尾に輝くポーラースターを、新次郎は指差す。

いつか昴が教えてくれた、遥か古来より人々を導き続けた道しるべ。

こうして発展を続ける今ですら、人は遥か天空の光を頼りに、闇の中を進み続けている。

それはたゆみなき進化を思わせると同時に、今だ闇の中を抜け出せずに迷走を続けている事実を露呈しているように見えた。

だからだろうか。

今の荒みきった心さえ、見るだけで癒されていくのは。

 

「………これは、新次郎殿ですかな?」

 

ふと、その背中に声をかける人物がいた。

振り返ると、サニーサイドの執事にして星組の医療班及び整備班の指揮を執る王の姿があった。

 

「春先とはいえ風もまだ冷たい季節。あまり夜風に当たり過ぎますと、体を壊しますぞ?」

 

「いえ、平気です。………何となく、星が見たくなって。」

 

そう答えると、王は何かを思い出す様に笑い、頷く。

何かに納得したような、そんな表情だ。

 

「いや失敬。昔の知り合いを思い出させましてな。」

 

「お知り合いの方………ですか?」

 

「如何にも。彼もまた、こうしてよく星を見るのが好きな若者でした。ちょうど今の新次郎殿のように。」

 

その言葉に、新次郎はピンと閃くものを感じた。

自分と似た知り合い。

それに該当する人物に一人、心当たりがあった。

向こうもそれを知っていたのか、笑顔のまま頷いて見せた。

 

「そっとお教えいたしましょう。ハワード殿のお父上、ロビン=アンバースンは、私の古い技師仲間の一人です。正確なつながりを申し上げますと、その父、デイビット=アンバースンとの付き合いが最初ですが。」

 

「やっぱり、ご存じだったんですね。ハワードさんのご家族の事も。」

 

昼間に散々驚かされたためか、新次郎はそう驚かなかった。

王はサニーサイドの執事であると同時に、長年霊子甲冑の開発に携わってきた凄腕の技師である。

その彼が、アメリカのスタア開発の中核を担ったアンバースン親子を知らないはずもない。

王はハワードの祖父にして初期スタアを生み出した技師、デイビットの時代からこの世界に足を踏み入れていたのだ。

 

「ロビン殿は若くして天才と呼ばれておりましてな。僅か27の歳で父の開発したスタアの改良案を発見し、一躍時の人とまで謳われておりました。」

 

「すごい方だったんですね。ロビンさんって………。」

 

「ですが、私は彼の顔が満ち足りているようには見えませんでした。大きな事業の一つを成し遂げたと言うのに、その顔に達成感というものが感じられない。何かを思い描くように、夜中に空を見上げてばかりでした。」

 

それは以前、それを間近で見てきた息子の口から聞かされている。

戦争の道具である人型蒸気を生み出していながら、機械を人殺しに使うことをよしとしない反戦論者。

欧州大戦の整備班長の任を受けたのも、自らの生み出した人型蒸気が人殺しにならなくていい世界を作るためだったという。

恐らくロビン=アンバースンという人物は、優しい心の持ち主だったのだろう。

そしてその彼に少なからずの影響を与えるきっかけとなったのが、他ならぬ王であった。

 

「今から25年近く前、この紐育に『パーシー=ホワード』という知人のイギリス人技師が私を訪ねました。彼もまた、機械が人を殺す時代に憂いていたもので、もしやと思いロビン殿に紹介した所、意気投合いたしましてな。確信を抱きました。ロビン殿もまた、平和を強く望む技師である事を。」

 

パーシー=ホワード。

その人物の名前を、新次郎は聞いた事がある。

イギリス人でありながら日本の神戸に居宅を構える風変りな技師だと言う。

そして何より叔父の妻、『李紅蘭』の恩人と聞いた記憶もある。

 

「それから何を思ったか、ロビン殿もパーシー殿についてイギリスに渡りましてな。2年たって帰ってきた時には連れ合いとの間に一人息子を設けておられた。」

 

「それが、ハワードさんですね。」

 

「如何にも。ロビン殿の奥方は戦争で親を亡くされた娘でありました。だからでしょうな、欧州大戦の折にロビン殿は、ご自身の設計したスタア改の実戦投入を強く反対なされた。」

 

それも以前、ハワードから聞かされた話だった。

欧州大戦に活気立つアメリカの中にあって、只一人人型蒸気の投入に意を表明したロビン。

その結果がどうなったかは、考えるまでもない。

スタア改を自ら設計し、その使用に難色を示したロビンと、その夫に従順に付き従う妻の存在。

今に至り、新次郎はようやくそのつながりを理解した。

 

「当時まだ人型蒸気設計の最前線にあったデイビット殿は烈火の如く怒りましてな。息子に与えた職を奪い、経済的に息子を圧迫しました。稀代の技師として注目されるロビン殿に影響され、国内で反戦運動が起きては困りますからな。」

 

それはデイビット氏の環境や戦時中という時期を考えれば、仕方のない事ではあった。

当時諸外国に比べて人型蒸気の改良に大きな遅れをとっていたアメリカ。

そのアメリカにとって、唯一無二の改良案であるスタア改の存在は、救世主にも等しかっただろう。

そして反戦運動が起きるとなればデイビット自身の進退にも影響しかねない上、戦争に参加するアメリカ国内での治安悪化も懸念され、引いては他国にアメリカを侵略される可能性すら考えられるのだ。

そう考えれば多少強引に過ぎる手段を取ってでも戦争に勝つ姿勢を貫くほかなかったデイビット氏の行動は、僅かに理解を示す事が出来る。

早くから現実に目を向けていたデイビットと、それでも夢を信じて歩み続けたロビン。

同じ血をひいていながら実に対照的な親子だと、新次郎は思った。

 

「結局ロビン殿の意思は固く、欧州大戦については協力の意思を見せぬまま。デイビット殿は息子を何としてでもアメリカの勝利に貢献させるべく、知り合いの軍部にある事を依頼したのです。」

 

「それが、欧州星組整備班への派遣ですね。」

 

「まあ当時は欧州連合の情勢が圧倒的有利でした故。まさかあのような事になるとはデイビット殿も考えておいでではなかったのでしょう。」

 

その事件の詳細は、先週昴に聞いている。

ブルーメンブラッドの奇襲によって命を落としたアンバースン夫妻。

訃報を聞いたデイビット自身も精神に異常をきたし、ハワードが帰国した頃には廃人同然だったという。

 

「ロビン殿は実に不思議な方でございました。幼き頃の夢を捨てず、いつまでも叶うと信じ続ける。そう、今の新次郎殿のように。」

 

「そんな………、僕なんてまだ未熟者ですよ。」

 

「謙遜なさる事はないですぞ。ロビン殿も決して自身を奢る事をされなかった。そして、その姿は見る者達の心を掴まれる。どんな夢も、本当に叶うのではないかと、そのひたむきで真っ直ぐな瞳を見れば、信じずにはいられぬのです。」

 

かつてハワードに言われた言葉を思い出し、謙遜を返す新次郎。

だが王は、確信を抱いているようであった。

新次郎がかつて戦果の中に夢を追いかけた、一人の男と似ていると。

 

「それに新次郎殿。お気づきではないようですが、貴方もまた多くの者の心に影響を残しておられる。無論、ハワード殿にも。」

 

「ハワードさんにも………?」

 

「ご両親を亡くされたハワード殿は大戦後、ラチェット殿に手を引かれる形でこの街にこられた。その時の彼は正に希望を失っておられた。父の夢を信じていながら、心のどこかで諦めておられたのでしょう。」

 

それは、考えられる話ではあった。

欧州星組の隊員となったハワード。

当時10歳の少年の心から夢を奪うのに、その悪夢は十分すぎる衝撃だ。

叶えられない夢など見るものではない。

叶えられなければ意味がないから。

かつてハワード自身が口にした言葉に、新次郎は改めて彼の心の傷を慮った。

 

「そんな彼を、私は病床のデイビット殿の下へとご案内いたしました。どちらも初対面同然でございましたが、すぐに残された肉親だとお気づきになった。」

 

「………王さんだったんですね。ハワードさんをデイビットさんに会わせたのは。」

 

「はい。死ぬ前に何としても果たさねばならぬ事があると。」

 

ハワード曰く、既に死の淵に瀕していたというデイビット氏。

もしかしたら彼の最後の願いは、愛した息子の忘れ形見の顔を拝む事だったのかもしれない。

そして記憶が正しければ………。

 

「私は席を外しておりましたので、お二人が何を話されたのかは存じませぬ。ですが、部屋を後にされたハワード殿は、何処かやり切れぬ顔をされておりました。その手に父の残された星をお掴みになって。」

 

ミレニアムスター。

ハワードの父が生まれて初めて作った星。

そして、デイビット氏がその時まで片時たりとも手放さなかった星。

それが忘れ形見の息子に何を伝えたのか、うかがい知る術はない。

 

「そして彼は星組に舞い戻られたが、夢を信じる事を恐れておられた。ロビン殿の息子とみられぬよう、さも才能のない調子者を演じ続けておられた。そんな彼を新次郎殿、貴方は変えたのですぞ。」

 

「僕が………ですか?」

 

「何度も申しあげておりますように、貴方はロビン殿によく似ておられる。その真っ直ぐな瞳、大きく描いた夢、論理や根拠無くしてそれを信じられる固く強い心。それを間近でご覧になり、ハワード殿は変わられた。貴方に倣い再び夢を信じ、追いかけるようになられた。」

 

その言葉に、新次郎はハッと目を見開いた。

脳裏に過ったのだ。

あの時の彼の言葉が。

 

「(お前を見てると、どんなに有り得ねぇ事でもホントになるような気がしやがる。………不可能が可能になるような、そんな気がな。)」

 

その言葉の真意は知らないままだった。

あれは自分に向けられた言葉であると同時に、自分の中に見た父に向けた言葉でもあったのだ。

諦めない限り、夢は必ず叶う。

生涯その生き方を曲げなかった、誇り高き父への。

 

「………さて、些か長話が過ぎましたな。」

 

思いにふける新次郎に声がかかったのは、その時だった。

 

「私はそろそろ戻ります。新次郎殿も、あまり長居されませんよう………。」

 

そう言い残し、施設内へ続く扉へ消える王。

その背中を追いかけようと踏み出し、ふと背後の星空を見る。

長き刻の中、遥か天空に燦然と輝く星々。

彼も見たであろう夜空に、一人呟いた。

 

「………僕も、信じてますよ。ハワードさん………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうどれくらいの時間こうしているだろう。

ふと右手首につけていた腕時計を見る。

時刻は午後9時。

部屋を出てから一日中ここで泣き腫らしていたようだ。

何度か記憶が途切れている。

もしかしたら意識を途切れさせたりしたかもしれない。

最早時間の感覚はおろか、記憶の中身さえあいまいになりつつある。

それでこの扉の先に見える光景も幻か記憶違いだったらと願わずにはいられない。

だが、もうそんな事は無駄だと自身の脳はとっくに理解していた。

こんな時だけ、やたら冴え渡る自分の聡明さが憎くなる。

 

「(………そろそろ、休まないと………。)」

 

幸い事情を考慮したサニーサイドらの心遣いのおかげで、自分はこれまでの人生で一番長い休暇が与えられている。

だが、いつまでもそれに甘えてばかりはいられない。

どんなに腐っても、自分は紐育華撃団星組副司令ラチェット=アルタイルだ。

新たな侵略者からこの街を守るため、自分は戦わなければならない。

最も、霊力もなければ精神力まですり減らした今の自分に出来る事など、高が知れているが。

 

「………?」

 

その時だった。

通り過ぎようとした緊急処置室から、何かが音を立てて開く音が聞こえたのだ。

そんなバカな。

緊急処置室は厳重に施錠され、ごく限られた人間しか開ける事が出来なかったはず。

悲しみに暮れて摩耗しきった五感が急速に冴え渡り、停止していた脳が一気に回転する。

 

「(まさか………誰かいるの?)」

 

本来なら中にいるのは医療ポッドの中に眠るハワードただ一人。

だが扉に耳を押し当ててみると、なにやらゴソゴソと何かがしきりに動く音が聞こえる。

考えられる可能性は二つ。

一つはハワードが意識を覚醒させた場合。

もう一つはハワードではない何者かが緊急処置室内にいる場合である。

しかし常識的に考えて、前者である事はまずありえない。

何せ医療ポッドは不用意に開けられないよう、開閉はすべて外部から行う構造になっている。

たとえ幸いにしてハワードが意識を取り戻したとしても、自力で外部に脱出する事は不可能に等しい。

ウルトラマンの尋常ならざる力を以って医療ポッドを力ずくで破壊する事も可能ではあるが、正規の方法に従わない開閉作業を行うと警報が鳴り響く設備になっているため、これも違う。

だとすれば………、

 

「(………こっちに来る!)」

 

一歩ずつ大きくなる足音に警戒し、急いで突き当りの廊下の曲がり角に身を隠す。

すると、およそ1分弱の沈黙を以って異変が訪れた。

誰もいないはずの緊急処置室の扉が、音をたてないようにゆっくりと開かれたのである。

 

「………!」

 

その光景に、ラチェットは思わず息をのんだ。

緊急処置室内に侵入者がいた。

警備システムが作動しない所を見ると、無効化させたうえで侵入して来たらしい。

まさか先週本部を襲った………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

それは太もも裏に忍ばせたナイフに手を伸ばしかけた時だった。

くぐもった低い声。

後頭部に押し付けられる冷たい鉄の感触。

その正体が何であるか、幼い頃より戦場に立っていたラチェットには手に取るように分かった。

 

「………何の真似かしら?」

 

「見られた以上タダで返すわけにはいかん。大事な男を死なせたくはなかろう。」

 

カチリと撃鉄の動く音が聞こえる。

セーフティが外れた。

これではナイフを掴んでも投げる前に鉛が飛んでくるだろう。

 

「………賢明な判断だ。」

 

両手を頭上に上げて降伏の意を示すと、背後の声が満足げに笑った。

聞き覚えのある低い声。

その正体を振り向かずともラチェットは知っていた。

だからこそ、信じられなかった。

 

「面白いものをお見せしよう。ついて来てもらおうか、ミス・アルタイル。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは、見覚えのある空間だった。

まるで閃光が包んだかのような、純白の白に包まれた空間。

そう、まるで光の中にいるかのような。

 

「ここは………、あの時の………。」

 

今からちょうど1年前。

欧州は遥か西の都で光を受け継いだ時。

今思えば、それがすべての始まりだった。

まだ幼さの残る少年、恐らくはティガの光を宿していたであろう少年からオーブを受け継ぎ、自分は人ではなくなった。

今ではタロウと名付けられた真紅の巨人となって、光に導かれるままに戦い続けた1年。

一度はあきらめたはずの父の夢を、もう一度思い起こすことになった1年。

そしてそれは、あまりに大きな代償を払い続けた1年でもあった。

 

「………君が、この地を守るウルトラマンか。」

 

背後の声に振り向く。

そこには、見慣れぬ軍服を身に着けた男が、穏やかな眼差しでこちらを見ていた。

見覚えはない。

ただ一つ言えるのは、目の前の人物は自分と同じ、光の存在であるという事である。

 

「ああ、ハワード=アンバースン。………アンタは?」

 

「私はウルトラマンゾフィー。 地球の呼び名では、一ノ瀬豊。」

 

聞き覚えのある名前だった。

ゾフィーといえば今から14年前、地球に初めて現れたウルトラマンの名前ではないか。

だとすれば、身に着けた服が日本陸軍の物である事も納得できる。

その先輩ウルトラマンが、自分に一体何の用か。

ハワードが尋ねると、豊は僅かに表情を強張らせ、告げた。

 

「単刀直入に言おう。ハワード隊員、私は君に新たな光の力を授けるために来た。」

 

「………新たな力?」

 

「そうだ。君は激しい戦いによって霊力はおろか生命力そのものを摩耗し、命の危機に瀕している。私は君に、それを僅かだが補うために来たのだ。」

 

その言葉にあの時の、記憶の中の最後の戦いを思い出す。

空蝉の放った侵略ロボット、インペライザー。

ストリウム光線さえ効かない強敵に、自分は自爆覚悟の特攻を仕掛けた。

そして今、目の前の男の話が真実なら、自分はそれによって生死の境を彷徨っていると言う。

 

「ハワード隊員。私も未だに信じられない。何故オーブが、純粋に地球人である君を継承者に選んだのか。そして何故、光の資格を持たない君がウルトラマンとなれたのか………。」

 

自分の思いを代弁するように、豊は呟いた。

そんな事はこちらが聞きたい。

何故オーブが自分を選んだのか。

そんな事自分が知るものか。

 

「恨んでくれても構わない。私達の齎した光が、結果として君の未来を蝕んでしまったのなら………。」

 

「いや………、そんな事はないさ。」

 

目の前の謝罪を切り、ハワードは言った。

 

「確かに何で自分がウルトラマンなのか、悩んだ事もある。望んでもない力を押し付けられて、苦しんだ事もある。」

 

光の証、プラズマオーブがハワードに与えた力は、目を見張るものがあった。

通常ではありえないほどの怪力をはじめ、それらは日常と非日常さえ問わずに自分を驚かし続けてきた。

強大すぎる力に戸惑ったこともある。

自分である理由が分からず、苦しんだこともある。

何故自分なのか、何故自分でなければならないのか。

主観的でない答えはハッキリ出すことが出来ないが、たった一つだけ、今のハワードにもはっきりとわかる事があった。

 

「でも、それでもこれだけは言える。光は俺を選んだ。他の誰でもない俺を。そしてその光があったおかげで、俺は今まで生きながらえる事が出来た。それだけは、確かだ。」

 

「ハワード隊員………。」

 

「理由があるとすれば、光が俺を選んだから。………それだけだ。」

 

かつて光のメシアであった者が、驚きを露に自分を見る。

ハワード自身、今の言葉が的を射ていない事位分かっていた。

光をその身に宿したために、自分は今この瞬間も死と隣り合わせなのだ。

本当なら恨み言の一つでも浴びせてやろうかと思っていたのだが、心の中の何かがそれを止めた。

その正体は知らない。

出来る事は、それを受け入れる事だけ。

 

「良い事ばかりじゃなかった。でも光は、俺にそれ以上の物を与えてくれた。仲間と、未来と、可能性………。そして、忘れかけてた………俺が無くしかけてた物を、呼び覚ましてくれた。だから、今の俺があるんだ。」

 

「何故だ………? 何故そこまで寛容になれる?」

 

「俺はウルトラマンだから………。オーブに選ばれた、光を継ぐ者だからだ。」

 

今となってはもう、何故自分がウルトラマンなのかなど大した問題ではなかった。

過去のことなど関係ない。

過去などそこにおいて行け。

今まで自分は、そうして生きて来たではないか。

 

「俺たちは過去には振り返らない。常に明日を、未来を目指す。今日がダメでも、明日が良けりゃそれでいい。それが、俺たち紐育の生き方だ。」

 

「それが、たとえ大きな代償を払う事になるとしても………?」

 

「俺は迷わない。理由なんて分からないけど、俺に誰かを………みんなを守る力があるなら、受け入れる。そう、決めたんだ!」

 

ハワードは即答した。

その眼差しに頷き、豊は懐から煌びやかに輝く一つの腕輪を取り出した。

ウルトラブレスレット。

かつて帝都を守護した光の巨人、ウルトラマンジャックの代名詞として知られる万能武器である。

 

「この腕輪を、君に託す。きっとオーブと共に、君の力となってくれるだろう。」

 

右手を伸ばし、腕輪を手に取る。

今まで見た事のない金属でできた、ずっしり重いブレスレット。

それは人ならざる光、ウルトラマンの、宿命の重さにも思えた。

 

「ハワード隊員………。オーブが何故君を選んだのか、私も少しだけ分かったような気がする。君の瞳には、揺るぎない輝きがある。何人も犯す事の叶わない、光が見える。」

 

「豊さん………。」

 

感慨深げな言葉に、思わず目の前の男に視線を送る。

と、周囲の閃光が俄かに輝きを増した。

 

「だからこそ言おう。ハワード隊員、どんな困難にあっても、決してくじけることなく戦いそして勝て。光の勇士、ウルトラマンとして………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閃光が消え、薄らと閉じていた瞼を開く。

最初に感じた異変は、両手首の妙な圧迫感だった。

 

「な、何だこりゃ………!?」

 

次第に意識を覚醒させ、ハワードは今自分の置かれている状況に戸惑いを隠せなかった。

両手を頭上で拘束する武骨な手錠。

ご丁寧に鎖で背後の壁に溶接され、とても力ずくで破壊できるような代物ではない。

更に自分を包む半透明のカプセルの向こうには、軍服に身を包んだ男たちが何やらせわしなく右往左往している。

見覚えがある。

あれはたしか、アメリカ海軍の軍服だ。

となると、ここは海軍基地か、それに準ずる場所という事になる。

 

「おいてめぇら! 一体何の真似だ!?」

 

カプセルごしに声を荒げ、叫ぶ。

だが士官たちはこちらのいう事を全く意に介さない。

聞こえていないというよりは、わざと無視しているようだ。

 

「返事しろよ!! 聞こえてるんだろっ!?」

 

わざと手錠を打ち付けて大声を上げる。

だが士官たちは時折こちらを見て訝しげにヒソヒソと囁き合うばかり。

一体どうなっていると言うのだろうか。

現状を把握できず困惑するハワードの耳に聞き覚えのある声が飛んできたのは、その時だった。

 

「ハワード!!」

 

「ラチェット………? ラチェットかっ!?」

 

開かれた扉から見えたその姿に、ハワードは驚きを露わにした。

無理もない。

何故ならカプセルの奥に見えたラチェットは、やはり海軍服の男たちに拘束されていたからだ。

 

「ようやくお目覚めかね、ハワード=アンバースン。いや、ウルトラマンタロウと呼ぶべきかな?」

 

「………てめぇは………!!」

 

ふてぶてしい物言いをする男に、ハワードは反射的に睨み返した。

胸に付けた勲章は海軍中佐。

彼こそサニーサイドと共にウルトラマン計画に着手していたアメリカ海軍のトップ。

キース=ラディッツ中佐だった。

 

「この野郎………、ラチェットに何しやがった!?」

 

「安心しろ、彼女にはこれ以上危害を加えん。それより、自分の心配をしてはどうかね?」

 

「何だと………?」

 

意味深な発言に眉を潜めるハワード。

一方のラチェットは何がされるか感づいたのか、激情を露わに叫んだ。

 

「まさか貴方………、独断で装置を作動させるつもり!?」

 

装置?

一体何の事だ。

自分に何かしようとでもいうのか。

訳が分からず混乱するハワードに、キースはあからさまに蔑みの視線を送った。

 

「何もわかっとらんという顔だな。良かろう、何が起きるかお前にも見せてやる! おい、モニターに映せ!!」

 

威厳に満ちた檄が飛び、部下たちが大がかりな電子パネルを操作し始める。

刹那、目の前の大画面に驚愕の映像が映し出された。

 

「な、何だこれは………!?」

 

「まさか………、あれが………!!」

 

ハワードもラチェットも、驚きの余り声を発する事も出来なかった。

大画面の奥には、驚愕の光景が待ち受けていた。

大画面に移された円筒上の巨大ドーム。

その中に、青銅を思わせる岩石で作られた、巨人の石像が安置されていた。

胸に備え付けられたカラータイマー。

猛禽を思わせる鋭い目。

そして頭部に映える二本の角。

まるで光となったハワード自身をそのまま写したような巨人像が、ただひたすらに沈黙を守っていた。

これこそウルトラマン計画の要。

合成鉱石アークによって生み出された人造ウルトラマン、『メカロイド』である。

 

「どうだ、素晴らしかろう? これこそ我らの希望。正に人類最強の防衛兵器だ!」

 

「これが………ウルトラマン計画………!!」

 

「そうだ、人類がこの手で未来を守る! その理想を形にしたものだ!」

 

言うやキースは再び部下に指示をだし、パネルを操作させる。

すると画面には、これまでハワードが打ち破ってきた数々の怪獣の姿が流れるように映し出され始めた。

 

「見ろ。このリバティ島を始め、この紐育を脅かした怪物どもを! こいつらに我々人類は迎撃どころか満足な抵抗すら出来ん。いつだってウルトラマンに助けられてばかりだ! お前たち霊的組織はそうやってヒーロー気取りだが、実際は無力同然だ。その証拠にお前たちがウルトラマンに頼らず、実力で怪獣をねじ伏せた試しなどないだろう!」

 

いつにない激情に身を震わせ、力説するキース。

それは偏に、霊力と言う特異な能力に恵まれない者の、無力ゆえの叫びにも聞こえた。

 

「今やアメリカは宇宙へ、前人未到の世界へ足を踏み入れようとしている………。自らの星すらまともに守れん、貧弱に過ぎる今の状態でだ。」

 

そう吐き捨て、キースは机に置かれていた何かの破片を掴み、突き付けた。

 

「これが何だかわかるか!? 1週間前、貴様が倒したロボットの残骸だ! 見ろ!地球上には存在しない、未知の金属で構成されたこの科学力………。これこそ地球外生命体の侵略の証だ! にも拘らずアメリカ国民は………、いや、世界中の誰もが塵ほどの危機感も抱いていない!何故だか分かるか!?」

 

「それは………ウルトラマンが助けてくれたからよ。今まで、いくつもの都市で、幾度となく………。」

 

キースの問いに答えたのは、ラチェットだった。

遡る事14年前から、何度も地球の主要都市を襲ってきた数多の怪獣。

これまで無力同然の自分たちが今まで無事でいられたのも、偏に人知を越えた力を持つ彼らがいたからに他ならない。

 

「そうだ。光の巨人ウルトラマン。我々とは比較にならない力を持った彼らに我々人類は依存しきっている。どんな脅威が現れようとウルトラマンがいれば平気だと、根拠のない盲信を続けている。人は神ではない………。故に皆奴らを救世主と呼び、讃え、神同然に崇めている。」

 

キース自身もそれは理解しているらしく、何かに嘆くようにモニターの走馬灯を見る。

だがそれは一瞬で、すぐさま怒りを露にこちらを振り返ってきた。

 

「だが………だが奴らは神などではない! M78星雲の宇宙人………、あいつらこそエイリアンだぞ!? その気になればこの星の生命すら、容易く根絶やしに出来るだけの力を持っている! そんな得体の知れぬ奴らにこの街を、この星の未来を委ねるというのか!?」

 

「それは違うわ。ウルトラマンは広大な宇宙の平和のために尽くす善良な人達。今まで彼らと直に向き合ってきた私達なら分かる。」

 

「何故信じられる!? 根拠も証拠もなく、何故盲目的に信じられる!? そうしていつまでも奴らにしがみつき虚勢を張るつもりか!? それでも人々の命を守る霊的組織か!?」

 

「………何だよ、要するにひがみ根性じゃねぇか。」

 

それまで黙って事の成り行きを見守っていたハワードが口を開いたのは、キースがひとしきり喚き散らした頃だった。

カプセルの向こう側から、軽蔑するような冷めた目で見やる。

 

「得体の知れない宇宙人に助けられっぱなしなのが情けないから、自分達のいう事だけを聞く、番犬が欲しいって事だろ? 如何にも頭のお堅いタカ派の考えそうな事だ。」

 

「貴様………、私を侮辱するつもりか!?」

 

「そうだろ? そのロボットが怪獣と戦って勝てば、みんなの称賛は自然とアンタに向く。要は怖いんだろ? 得体の知れないウルトラマンに頼る自分達が、役立たずだって自覚するのが。」

 

半透明の隔たりを境ににらみ合う事数秒。

一度は怒りを露にしていたキースだが、次の瞬間には逆にハワードに対し嘲笑を返していた。

 

「役立たずか………、確かにな。だがそれはお前にも言える事ではないのか?」

 

「………何?」

 

「そうだろう。ウルトラマンの力なくして、お前が一体この街のために何をして見せた? ただの見苦しい墜落ばかりの戦績だ。これこそ役立たずと言わずして何とする。」

 

それについては反論の余地はない。

確かに自分はウルトラマンタロウとしてこの紐育を守ったことは何度もあるが、ハワード=アンバースンとして、この街に生きる一人の人間として功績を残したことはない。

あるとすれば、メカニックチーフとしてスター開発に貢献した程度だ。

とても目の前の男の喜ぶ結果にはなりえないだろう。

 

「まあいい。こんな押し問答を続けたところで時間の無駄だ。」

 

そう吐き捨て、キースは光エネルギー分離装置のレバーに手をかけた。

 

「ハワード=アンバースン。貴様のような輩にその力は相応しくない。我らが理想のために貴様の光、貰い受けるっ!!」

 

力いっぱいレバーを引き倒す。

刹那、カプセルを閃光が包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に感じた異変は、施設全体に広がる地揺れだった。

僅かだが断続的、それも規則的に続くそれは、およそ自然界の物とは考え難い。

そこまで考えが至った時、血相を変えて駆け出す人物がいた。

誰あろう、サニーサイドである。

 

「サニーさん! こ、これは………!?」

 

その後を追って来た新次郎以下星組の面々も、その光景に絶句した。

どういう訳か扉の開け放たれた緊急処置室。

その奥に安置された医療ポッドの中にいる筈の人物が、忽然と姿を消していたのだ。

 

「ど、どうなってんだ? ハワードはどこ行ったんだよ!?」

 

「ラチェットの姿も見えない。サニーサイド、何か心当たりがあるんじゃないか?」

 

狼狽える仲間を尻目に、昴が真っ先にこの部屋へ飛び込んだ総司令に尋ねる。

だが肝心のサニーサイドは、表情を強張らせたまま答えようとしない。

状況が分からず混乱していうのではない。

何があったのか理解し、その事実が受け入れられないのだ。

恐らく………、

 

「………急ごう。ここの地下に、例の装置が設置されている。」

 

その言葉に全てを察し、表情を硬くする星組。

昴は一人、自身の予想が当たってしまったことを痛感した。

 

「(ハワード………、ラチェット………、無事でいろ………!!)」

 

サニーサイドの案内で駆け出す仲間たちの背中を追いながら、昴は一人昔馴染みたちの無事を祈る。

この床の下から僅かに感じる、激しい霊力の奔流に一抹の不安を覚えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあああぁぁぁ………!!」

 

それは、黒焦げになるかと思う程の激しいエネルギーの奔流だった。

全身と言う全身から何かが無理やり引きはがされる、悍ましい感覚と尋常ではない激痛に絶叫が響く。

 

「ハワード!? 嫌っ、ハワードッ!!」

 

「う………ぐぅっ!! ラ………チェ………ッ!? うあああぁぁぁ………ぐっ、ぐあああぁぁぁっ!!」

 

半透明の壁の向こうに見える想い人の名を呟きかけるも、苦悶の声にかき消される。

キースはその様子を冷ややかに見て、言った。

 

「所詮は親の七光り。こんな軟弱極まりない男が今まで紐育を守っていたと思うとゾッとするな。」

 

「装置を止めて!! ハワードを殺す気っ!?」

 

今にも掴みかからんほどの形相でラチェットが叫ぶ。

だが両脇から二人掛かりで腕をねじ上げられた今の状態では体をくねらせるのが精々だ。

キースは眉一つ動かすことなく、言い放った。

 

「それがどうした。この街、引いてはこの世界が助かるなら役立たずの一人や二人、喜んで差し出してやるさ。」

 

「ふざけないでっ!! ハワードは役立たずなんかじゃない………! これ以上彼を傷つけたり侮辱するなら、許さないわよ!?」

 

「かつての才女も形無しだな? 何故そこまであの男に入れ込む? ウルトラマンである事以外、何の役にも立たないあの男だぞ。」

 

「分かる訳ない………。人の命をそうやって軽んじる貴方に、私と彼の繋がりが分かる訳ないわ!!」

 

いつもの冷静な自分は、影も形もなくなっていた。

実に1週間もの間生死の境を彷徨い、ようやくその意識を取り戻した矢先の出来事。

それが、自身の思い人であるなら尚更だ。

だが現実は無情にも、彼の命を蝕み続ける。

カプセル上部から伸びるケーブルから吸い上げた光エネルギーが、大画面に映る照射部から石像のカラータイマーに注がれていく。

そして………、

 

「え………?」

 

「見ろ! 遂に………遂に計画は成功だ!!」

 

その光景にラチェットは驚きの、キースは歓喜の表情を浮かべた。

大画面に写る人造ウルトラマン。

その全身を光が包み、石像を巨人へと変えた。

青銅一色だった体には赤い線が入り、両目は橙色に光る。

そして胸のカラータイマーには、空色の輝きが宿っていた。

まるでハワードの体に眠っていたウルトラマンタロウが、分離を果たしたかのように。

 

「ハワードッ!!」

 

全身の光を吸い尽くされ、がっくりと首を折るハワード。

悲痛な声で叫ぶが、返事はない。

まさか本当に………、

 

「ラチェットッ!!」

 

「ハワードさんっ!!」

 

入り口の扉からなだれ込むように星組の面々が飛び込んできたのは、正にその時だった。

余程急いできたのだろう。

サニーサイドを始め、全員が顔中に汗を拭き方を上下させている。

 

「な、何だあれ!? タロウ!? タロウか!?」

 

「あれは、人造ウルトラマン!? 間に合わなかったのか………!!」

 

「ハワード!? ハワード、しっかりして!!」

 

大画面に映る巨人に驚く者。

カプセルの中に崩れる仲間に呼びかける者。

その彼らを蔑むように、キースは笑った。

 

「そいつはもう抜け殻だ。これで本当の役立たずとなった訳だな。」

 

「キース………、君ほどの人間が何故こんな………!!」

 

有人の変貌に、サニーサイドはかつてないほどの怒りに満ちた顔で睨み返す。

かつて彼がこれ程怒りを露にしたことがあっただろうか。

そう思わせるほどに。

 

「決まっているだろう。いつまでたっても踏ん切りのつかんお前を見かねて、私が決断を下したまでの事。何の不思議もあるまい。」

 

「彼の生命の安全を確保するためだ! この装置がどれだけの命を奪ったか、君も分かっているだろう!?」

 

光エネルギー分離装置。

正確には、『生体エネルギー照射装置』というのがイギリス時代の正式名称だ。

当時の使用目的は霊力の抽出。

その対象となったおよそ30人近いパリジェンヌは一部を除き、いずれも無惨な死体となって発見されたと言う。

ウルトラマン計画に用いられたこの装置は、被験者の命をも吸い取る危険が大いにあり得た危険極まりない代物だった。

だからこそサニーサイドは1週間の間、少しでもハワードの霊力を回復させようと努めたのだ。

この装置による死亡のリスクを、少しでも軽くするために。

 

「この1年で随分と腑抜けたな、サニーサイド。切れ者のお前らしくもない。」

 

「自分の部下を切り捨てる事だけはしないと、誓っているんでね。………その部下に、随分な事をしてくれたみたいだが。」

 

「そう睨むな。計画は成功した、少しは喜んだらどうだ?」

 

悪びれもしない態度にサニーサイドが更に物申そうとした、正にその時だった。

施設全体に非常事態を知らせる警報が鳴り響いたのである。

それは十中八九、先週の忍の侵略を意味していた。

 

「何事だ?」

 

「報告致します! ベイエリア地区近海に、虚数空間を確認! 怪獣が出現しました!!」

 

報告と同時に映し出されたベイエリア近海の映像。

そこには海に面した臨海公園をわが物顔で踏み荒らす、一体の怪獣の姿がある。

インペライザーに続く刺客。

キースはニヤリと笑みを見せると、言った。

 

「ちょうどいい。この人造ウルトラマンの力、お前たちにも見せてやる。メカロイドを起動させろ!!」

 

威厳あるがなり声に、士官たちが一斉にパネル操作を開始する。

そして画面の奥の巨人に、興奮を抑えきれぬ顔で叫んだ。

 

「さあ、目覚めろ! 人類最強の防衛兵器、ウルトラマンよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リバティ島、自由の女神像の眼前に開いた漆黒の穴から、それは現れた。

実に1年に及ぶ計画の果てに完成した人造ウルトラマン、メカロイド。

全身の各関節に制御用の金具が装着されている事を除けば、その姿はかの光の巨人と何ら変わりない。

あるとすれば、その行動すべては海軍側のコンピュータに依存しているという事だろうか。

 

「デュッ。」

 

3万トンに匹敵する超重量が空を飛び、遥か遠くのベイエリアを荒らす怪獣へと殺到する。

 

「デュッ。」

 

上空から両手を突きだすメカロイド。

するとその指先からアロー光線を思わせる矢じり状の光弾が発射され、眼下の怪獣の背中を狙い撃った。

 

「ビィーーーッ!?」

 

不意を突かれた怪獣は体制を崩し、魔の前の建物を巻き込んでうつぶせに倒れこむ。

その近くに、巨人はその両脚を豪快に叩きつけた。

 

「ビィーーーッ!!」

 

起き上がった怪獣は、怒りを露に頭の三本角を突出し、突進攻撃を仕掛ける。

だがメカロイドはあっさりと右にかわし、怪獣は頭から目の前の海に墜落した。

そこへ、メカロイドは再度アロー光線を撃ち込んだ。

 

「デュッ。」

 

先ほどと同様の箇所から再び火花が上がる。

怪獣はその衝撃で立ち上がり、ひときわ大きな咆哮を上げた。

 

「ビィーーーッ!!」

 

三本角が光り、激しい稲妻が襲う。

だがメカロイドはそれを物ともせず、平然とした様子で対峙するばかりだ。

そしてお返しとばかりに三度アロー光線を怪獣の顔面に打ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フハハハハ!! どうだこの圧倒的な攻撃力! これこそアメリカが欲していた、史上最強の力ではないか! 勝てる、勝てるぞ! 人類が、自身の手で怪獣を倒せる!!」

 

モニターに映るメカロイドの雄姿に、喝采を上げるキース。

だがその後ろで、サニーサイドはある種の危惧を感じずにはいられなかった。

 

「(おかしい………。あんな単調な攻撃に苦戦している………?)」

 

メカロイドの連発するアロー光線に、ただただ圧倒されるばかりの怪獣。

いくら闘争本能に忠実な怪獣と言えども、最低限の自己防衛と学習能力は備えているはず。

ロボット同然のワンパターンな攻撃にいつまでも翻弄されるとは考えにくい。

そして、まるでメカロイド完成を見計らっていたかのような出現のタイミング。

それもよりによって、ここから紐育本土に最も近いベイエリアである。

ただの偶然と位置付けてしまえばそれまでの話だ。

だがこれまで幾度となく大怪獣の脅威に直面してきた総司令の勘は、危険信号を発していた。

まるであの怪獣は、こちらを倒す気はない。

それこそメカロイドのいいように暴れさせているかのようだ。

何かほかに狙いがあると言うのだろうか。

 

「このまま一気にケリをつけてくれる。ストリウム光線を発射させろ!!」

 

そんなサニーサイドの心配をよそに、キースは部下に更なる指示を出した。

すると画面のウルトラマンが両手をぎこちない動きでT字に組み、音声を発した。

 

「ストリウム・コウセン。」

 

全身からチャージした虹色の光線が、一直線に怪獣を狙い撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビィーーーッ!!」

 

七色の光線が直撃する寸前、信じられない事が起こった。

怪獣が天を仰いで叫んだ瞬間、怪獣の目の前の空間に歪みが生じ、ストリウム光線が完全に遮断されてしまったのである。

 

「構うな! バリアを突破できるまで撃ち続けろ!!」

 

「デュッ。」

 

キースの命令で再びT字に組んだ腕から七色の光線を発射するメカロイド。

だが光線は再度出現したバリアに阻まれるばかり。

それでも命令に従いひたすらに光線を撃ち続ける。

その鍔迫り合いが1分弱続いた所で、それは起きた。

 

「ちゅ、中佐!! メカロイドの貯蓄エネルギーが、急激にダウンしています!!」

 

「何だと!? そんなバカな!!」

 

ここにきて初めてキースの表情から喜びが消えた。

貯蓄エネルギーの減少。

それは言わずもがな、ハワードから根こそぎ吸い上げたエネルギーが、もう底を尽きかけていることを示していた。

そんなバカな。

戦闘開始から3分程度しかたっていない状況で、そんな事が起こりえる筈が無い。

だが報告した部下を押しのけてメーターを見ると、それが事実だと認識せざるをえなかった。

1と0の間を行ったり来たりを繰り返すエネルギー残量を示すメーターの針。

そしてそれを証明するかのごとく、メカロイドの胸部に備えられたカラータイマーが赤く点滅を始めた。

それに伴い、発射され続けるストリウム光線の勢いが、瞬く間になくなっていく。

一方、それを好機と見た怪獣はニヤリと口角を上げ、三本角を突きだした。

 

「ビィーーーッ!!」

 

先ほどより数段激しい光量のスパークがストリウム光線を易々と押し返し、メカロイドに直撃した。

3万トンもの巨体が軽々と宙を舞い、真後ろの鉄骨を巻き込みながら轟音を立てて大地に沈む。

 

「デュッ………。」

 

それでも怪獣に立ち向かわんと、上半身を僅かに起こしかけるメカロイド。

だが、その目の光が消えると同時に、力を失った腕が地に落ちる。

アメリカ海軍が威信をかけて生み出した人造ウルトラマン・メカロイド。

その最初の役目を完遂できぬまま、人類最強と銘打たれた防衛兵器は活動を停止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「有り得ない………! 私のウルトラマンが、人類最強の………、希望の兵器が………!!」

 

目の前で起きた現実を受け入れられず、呆然と立ち尽くすキース。

その一方で、サニーサイドは自身の予感が当たってしまった事に顔を歪めた。

やはりあの怪獣はメカロイドを誘い出すための囮。

そして首謀者は恐らく………。

その全ての正体が明るみに出たのは、その時だった。

 

「………中佐! ベイエリア戦闘区域より、高濃度の妖力反応を感知!! モニターに表示します!!」

 

「こ、これは………!!」

 

その光景にキースを始め、その場にいる誰もが息をのんだ。

無理もない。

何故ならそこにいるのは、これまで幾度となく自分達を窮地に追い込んで来た黒装束だったからである。

 

「空蝉………!! やっぱりアイツの仕業か!!」

 

「司令、直ちに出撃しましょう! このままではベイエリアが………!!」

 

新次郎の言葉に一瞬試案するサニーサイド。

ハッキリ言って現状は最悪だ。

ウルトラマンもない状況であの怪獣を倒せる可能性は、ほぼ皆無に近い。

だがそれを伝えた所で、彼らは独断でも出撃するだろう。

可能性と言うものを信じる彼らの取って、理論的な数字など何の意味もなさない事を、サニーサイドは知っていた。

 

「………分かった。紐育華撃団星組、出撃を許可する。条件は一つ、必ず生きて帰ってくることだ。」

 

「はい!! 紐育華撃団星組、出撃!! ベイエリアの怪獣を撃破します!!」

 

「「イェッサーッ!!」」

 

力強い返事を残し、一斉に地下施設を飛び出す星組。

やがてモニターに、ベイエリア目がけて疾駆する6つの星が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

邪魔者を始末し、お返しとばかりに暴れ始める怪獣。

その一部始終を、ウォール街の一角から眺める人物がいた。

インペライザーに始まる紐育襲撃の首謀者、空蝉である。

 

「馬鹿め。光線技の一点張りで、アーウォンを倒せるとでも思っていたか?」

 

インペライザーに続いて用意された怪獣兵器アーウォン。

敵の攻撃を虚数空間を利用した亜空間バリアに吸収し、己のエネルギーに変えてしまう恐るべき怪獣である。

空蝉はこのウルトラマン計画を何らかの方法で見抜き、メカロイドをおびき出したのだ。

計画の障害となるであろう人造ウルトラマンを、先手を打って倒すために。

そして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッツ・ショータイム!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天空を切り裂く声と共に、それは現れた。

華麗に勇ましく空を舞う、紐育の希望の星々。

その名、

 

「「紐育華撃団、レディ・ゴー!!」」

 

遥か遠くのリバティ島から、このベイエリアに疾駆する6つの星。

以前インペライザーに破壊された傷を修復したそれは、かつてのそれと変わらぬ光に満ちている。

 

「やはり来たか、紐育華撃団。」

 

「空蝉、その怪獣もお前の差し金かっ!?」

 

その中央に立つ新次郎が、白銀に映える刀を突きつける。

すると、真上に立つ忍は鋭い眼光をさらに細めた。

 

「無論だ。ウルトラマンを失った貴様らが何か企んでいると読んでいたのでな。最も、此処まで弱いとは思わなかったが。」

 

真横に倒れる物言わぬ巨人に、あからさまな蔑みの視線を送る空蝉。

やがてそれは、自分達に向いた。

 

「最も、性懲りもなく死地へやって来た貴様らもまた、愚かと言うほかないが………。」

 

「この命ある限り、僕達は逃げない! 可能性がある限り、何処までも挑み続ける!! それが僕達の、フロンティア・スピリットだ!!」

 

死刑宣告同然の言葉を真っ向から撥ねつけ、白虎が吼える。

そうだ。

可能性がある限り、自分達は決してあきらめない。

たとえ目の前の壁がどんなに分厚く、手ごわくても、必ず乗り切って見せる。

これまでの戦いのように。

 

「空蝉! お前の狙いは何だ!? この街で、一体何を企んでいる!?」

 

「………よかろう。この死地を乗り切れたその時、教えてやる。」

 

「ビィーーーッ!!」

 

それまでこちらには目もくれず暴れていたアーウォンが、星組目がけて進撃を開始した。

1929年3月9日。

ニューヨーク、ベイエリア海岸にて、2度目の死闘が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脅威の吸収能力でメカロイドを一蹴した怪獣兵器アーウォン。

その恐るべき怪獣兵器に、星組は得意のチームワークを武器に真っ向から立ち向かった。

とはいっても、何の策もなしに挑んでいる訳ではない。

先ほどのメカロイドの戦闘から、新次郎はある秘策を見出していた。

 

「リカ、怪獣の正面からミサイルを!」

 

「イェッサー!!」

 

新次郎の指示でリカリッタのシューティングスターが加速し、エイハブから射出された巨大ピストルを装備する。

毎度毎度どういうシステムで装着するのか不可解極まりないが、今度ばかりはそんな事までいちいち考えている余裕はない。

 

「リカの必殺、「バッファロー・ゴー・ゴー!!」

 

超必殺レーザーの一撃が、真正面から怪獣を狙い撃った。

刹那、怪獣はやはり空間を捻じ曲げ、その一撃を吸収する。

だがそれこそ、新次郎が狙っていた瞬間だった。

 

「今だ、全機一斉攻撃!!」

 

「「イェッサー!!」」

 

残る5機のスターが、前後左右から一斉に怪獣目がけてミサイルを連発した。

先ほどの戦闘で見せたアーウォンの吸収能力は確かに脅威そのものだ。

だがその能力が使用されたのはストリウム光線が使用された1回のみ。

それ以外の主に背中を狙ったアロー光線は防げずにダメージを受けている。

それは恐らくバリアを張らなかったのではなく、張れなかったから。

その1点からアーウォンのバリアは正面からしか張れないという弱点を、新次郎は見抜いていたのである。

 

「ビィーーーッ!!」

 

その攻撃に対応する間もなく、全身を炎に包まれ、倒れ伏すアーウォン。

新次郎の作戦と星組のチームワークが、見事外宇宙の脅威を打ち破った瞬間だった。

 

「アーウォンは倒した。残るは空蝉、お前だけだ!!」

 

沈黙した怪獣を背に、黒幕に刀を突きつける新次郎。

だが、彼らは気づいていなかった。

今この状況さえも、目の前の忍の想定の範囲内であるという事に。

 

「流石は紐育華撃団………と言いたいところだが、その程度でもう勝ったつもりか? 甘いと言わざるを得んな。」

 

「何………?」

 

怪獣を撃破されて尚余裕を崩さぬ空蝉の態度を訝しむ新次郎。

その時、驚くべき事が起こった。

 

「し、新次郎!? あれ………!!」

 

最初に異変に気付いたのはジェミニだった。

遠く離れたリバティ島。

その自由の女神像の眼前の海を割り、巨大な砲台がその姿を現した。

かつてその圧倒的破壊力を以って天下布武を粉砕した史上最強の退魔防衛兵器、『ネオマキシマ砲』である。

一体なぜこのタイミングで起動するのか。

それもそのはず。

巨大な鯉の大砲を呼び起こしたのは海軍でもサニーサイドでもない。

目の前の忍びなのだから。

 

「以前の戦いからあの大砲のデータも十分に取らせてもらった。珍妙な格好の割に、中々有益そうでな。」

 

そう言いつつ空蝉は、懐から何かを取り出した。

 

「てめぇ………、この期に及んで何をするつもりだっ!?」

 

「教えてやろう。貴様らは所詮、この空蝉の手の中でしかないという事をな。」

 

意味深な言葉を残し、空蝉はそれを夜空へと放り出した。

それは、黒い墨で何か文字が書かれた三枚の札だった。

すると遥か天空から稲妻が迸り、札を閃光が包む。

そして………。

 

「本当の地獄を見せてやろう、紐育華撃団!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻リバティ島地下施設。

その最深部に位置する指令室も混乱の極みに達していた。

 

「何をしている!? ネオマキシマ砲の起動を指示した覚えはないぞ!?」

 

かつて第六天魔王の最終兵器すら一撃の下に大破せしめた最終兵器。

それをこんな街中目がけて発射したら、とんでもない被害が発生するのは火を見るより明らかだ。

だがそれを起動させたはずの海軍士官たちから返ってきたのは、戸惑いの声だった。

 

「いえ、こちらの操作ではありません!! 何者かが外部から操作している模様です!!」

 

「何だと!? 収納操作は出来んのか!?」

 

「駄目です! こちらの操作を受け付けていません! 回線そのものが遮断されています!!」

 

最早何が起こっているのか、理解しがたい状況だった。

威信をかけて送り込んだメカロイドは軽くねじ伏せられ、ネオマキシマ砲の主導権を奪われたこの状況。

一体何が起こっていると言うのか。

それは、画面の奥の忍が見せた行動によって明かされた。

 

「………あれは!?」

 

空蝉の手から空へ放たれた三枚の札。

それが稲妻を浴びて怪しげな光を放ち、一斉に散らばったのだ。

一つは沈黙した怪獣兵器アーウォンに。

一つは退魔防衛兵器ネオマキシマ砲に。

一つは人造ウルトラマンメカロイドに。

やがて札の光はそれらを包み、激しい閃光を発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、本当の地獄が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

「な………、何だこれは………!!」

 

目に映った全てに、目を疑った。

何故なら閃光の果てに、恐るべき光景が映し出されたからである。

アーウォンは全身を岩のような外骨格に包まれた屈強な姿に。

ネオマキシマ砲は原形をとどめないほどの変形で2足歩行型の巨大ロボットに。

そしてメカロイドは、見る者全てを恐怖させる醜悪な魔人へと変貌していた。

 

「そんなバカな………!? 怪獣化しただと!?」

 

「そうか………、メカロイドをおびき寄せたのはこのためだな………!!」

 

「その通り。光の巨人の力が加われば正に鬼に金棒。これでお前たちの身を守るものは何一つなくなったという事だな。」

 

ようやく真実を悟った新次郎たちに、黒装束は勝ち誇ったように笑った。

信長との決戦で姿を見せなかったのは、リバティ島のネオマキシマ砲の存在と能力を確かめるため。

そしてメカロイドの存在を知っていたにもかかわらず、アーウォンを擁しておびき寄せたのは、向こう化させたうえでネオマキシマ砲諸共己の支配下に加えるため。

アメリカが一年かけて遂に成功にこぎつけた計画さえ、空蝉にはその全てを利用されていたのである。

 

「今の貴様らでこれだけの数、一度に相手には出来んだろう。精々、足掻くがいい。」

 

「グオオオオッ!!」

 

「ピポポポポ………!!」

 

「グゥゥゥ………、ゼアァッ!!」

 

史上最悪の三大怪獣が、一斉に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、正に悪夢と言うほかない光景だった。

怪獣兵器アーウォンを進化させた超怪獣兵器『ワンゼット』。

ネオマキシマ砲を変形させた電脳魔人『デスフェイサー』。

そして暗黒に墜ちた超合成魔人『オメガロイド』。

人類の希望が、ウルトラマンさえもが、あろう事か紐育の町に牙を剥く。

どこまでも絶望的な世界が、ただ広がっていた。

 

「何て事だ………、私の、人類の夢が………!!」

 

星組の抵抗空しく瞬く間に破壊され尽くす紐育。

このままでは紐育全土が瓦礫の山と化すまで、一晩と掛からないだろう。

 

「中佐! 我々も出撃しましょう!! 紐育華撃団に加勢し、街を守らなくては!!」

 

その中の一人の仕官がキースの前に進み出たのは、その時だった。

胸の階級は一等兵。

まだアメリカ海軍に入りたての新人だ。

若いその瞳には、強い情熱が光っている。

 

「馬鹿を言え。相手は人智を超えた怪物だ………。霊力さえ持たん我々に勝ち目などない。」

 

「そんな事は関係ありません!! 我々はアメリカ海軍、アメリカ国民の自由と平和を守る責務がある! 今こそそれを完遂する時ではありませんか!!」

 

「どう立ち向かうつもりだ!? 武器も策も何もないこの状態で、どうやってあの怪物と戦うつもりだ!? 今すぐ持ち場へ戻れ! これは命令だぞ!!」

 

「嫌です!! 中佐が命令を下さらなければ、自分は一人でも出撃します! なあ、みんなだってそうだろう!!」

 

新人一等兵がそう振り返った直後だった。

それまでパネルの前で表情をゆがめていた士官たちが、次々に立ち上がり、自分たち海軍将校の誓いを口ぐちに唱え始めたのである。

 

「行きましょう!! 偉大なる我らがアメリカのために!!」

 

「「うおおおぉぉぉ………!!」」

 

そこには作戦も階級もない。

あるのは、『誇り』。

国と人々を守る使命を帯びた自分達の、決して失ってはならない海軍としての誇りだけだ。

 

「なっ………!? も、戻れ貴様ら!! 上官命令だぞ!?」

 

だからだろう。

その場を後にする海軍士官たちは誰一人として、中佐の指示には聞く耳さえ持たなかった。

それだけではない。

一人の仕官がパネルを操作し、ハワードの囚われていたカプセルを開放したのである。

 

「ハワードッ!!」

 

途端にグッタリ倒れこむハワードに駆け寄り、肩を貸して支えるラチェット。

仕官は一瞬だけ微笑むと、「後は頼みます」と言い残して飛び出していった。

 

「ハワード! ハワードしっかりして! 私が分かる!?」

 

「………ぅ………くっ………。ラ………ラチェット………?」

 

返ってきた確かな答えに、ラチェットはホッと胸を撫で下ろした。

全身から汗を拭きだし、意識も朦朧としているが、少なくとも今、彼は生きて自分の腕の中にいる。

それが今まで満足に彼に触れる事すらできなかったラチェットにとって、それがどれだけ嬉しいか。

その様子に優しい眼差しを送り、サニーサイドはキースを改めて見やった。

 

「………キース。まだ僕たちは何も失ってはいない。失ったとすれば、それは君の海軍としての………いや、人としての誇りだ。」

 

「何………?」

 

「人造ウルトラマン………、ネオマキシマ砲………、確かに僕たちの力になるはずだった存在は消えた。だが、それが何だ? 僕たちアメリカは、そいつらに頼らなければならないほど弱い人間だったか?」

 

その問いに、断じて違うと断言する自信が、サニーサイドにはあった。

かつては移民の集まりでしかなかったアメリカ。

それが独立戦争を経て150年、世界屈指の街へと変貌を遂げた。

それを叶えたのは、偏にその時代の人。

多くの戦火に見舞われ、幾多の困難に立ち向かいながら、決して諦めずに夢を掴み続けた数えきれないほどのアメリカ人だ。

理屈も根拠も必要ない。

そんなものが無くとも、自分達は困難を乗り越えてきた。

それこそ自分達が絶対に失ってはいけないもの。

僅かな可能性を信じて突き進み続ける不屈の魂、『フロンティア・スピリット』である。

 

「確かに外宇宙の脅威に対し、僕たちはあまりに無力だ。だがそれでも、安全になるまで待ち続けるつもりか? どんな危険が待ち受けているとしても、それを承知で突き進まなければならない事がある。………昔、他ならぬ君が言っていた事じゃないか。」

 

「サニー………。」

 

かつての友人の言葉に、キースは何かを思い出す様に視線を逸らす。

だがそれは一瞬で、すぐに頭を振って否定した。

 

「だがしかし、今度は話が違う! 相手は外宇宙のエイリアン………、あのウルトラマンだ! 信念だけでどうにかできる相手では………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………出来るさ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

返ってきたのは、僅かに息の荒い声だった。

その場にいた誰もが、驚きの顔で見やる。

そこには昔馴染みに肩を支えてもらいながら辛うじて立つ、星組隊員の姿があった。

ハワード=アンバースン。

紐育華撃団星組隊員にして、摩天楼の巨人、タロウの光を備えた青年。

 

「エイリアンだろうが………、ウルトラマンだろうが………、絶対に止められる。俺はそう信じる。」

 

「何故だ………? 何を根拠にお前はそう信じられる?」

 

「根拠なんざねぇ。理由も何もいらねぇ………。大事なのは力でも理論でもない………、そう信じられる心だ。心は、何よりも強い。」

 

言うやハワードはラチェットの手を離れ、左袖の星を掴んだ。

ミレニアムスター。

今も忘れぬ父、ロビン=アンバースンの残した夢の星。

そして、今まで幾度となくこの街の夢を守り続けてきた光の証。

 

「それをみんなが………、親父が教えてくれた。だから俺はあきらめない。何があっても絶対にあきらめない。………それが、俺の生き方だから。」

 

「ハワード………。」

 

隣で見つめる昔馴染みに一瞬優しく微笑みかけ、ハワードは星を力強く握り、叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タロオオオォォォゥッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一瞬、リバティ島の周囲一帯を眩い閃光が包み込んだ。

まるで神の軌跡を思わせる程に神々しく、力強い光。

やがて光は巨人の形を描き、ゆっくりと消え失せる。

そして、奇跡は起こった。

 

「………タロウ………。」

 

誰かがその名を呟いた。

摩天楼を守護する光の巨人、ウルトラマンタロウ。

その内に秘められた不屈の魂が、今正に目覚めた瞬間だった。

 

「有り得ない………。奴にエネルギーは………、光は残っていなかったはず………!!」

 

驚愕の表情を以って画面に映る真紅の巨人を凝視するキース。

だがその後ろに立つ二人は、その理由を知っていた。

 

「心よ。」

 

「心………だと?」

 

「明日を目指して走り続ける、どんなに転んでもあきらめない心。それがハワードの強さであり………、夢なの。」

 

ラチェットは思う。

光の全てを吸い尽くされた彼がこうして今再びウルトラマンになれた事。

それは偶然でも奇跡でもない、必然であると。

何故なら彼には、いつ何時も、何があっても消えない魂があるからだ。

かの若きサムライと、尊敬する父から教えられた、『フロンティア・スピリット』が。

 

「キース。君は彼を、何のとりえもない役立たず………そう糾弾したね。」

 

ラチェットに続き、サニーサイドが口を開いた。

昔の友人を見るような、穏やかな微笑みを湛えて。

 

「これがその彼にあり、先のメカロイドになかったものだ。光とは、力じゃない。決して潰える事のない熱い魂の輝き。それがなければどんな力も、正義にはなりえないんだ。」

 

「それが………光か………。」

 

「ハッ!!」

 

再び画面に視線を戻す。

巨人の体が、はるか遠くの戦場目がけ、今飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

縦横無尽に怪獣軍団が暴れ回る地獄に、彼はやはりやって来た。

冷たい夜の空を切り裂き、勢いそのままに突進を仕掛ける。

 

「タアアアァァァッ!!」

 

「グアアッ!?」

 

実に5万トンを誇る重量の直撃を受け、数メートル先まで吹き飛ばされるオメガロイド。

そしてそれは、再び紐育の地に足を着いた。

 

「ムンッ!!」

 

それは、かつて爆炎に消えた勇者。

先の瞬間まで、その命すら危ぶまれていた青年。

見間違いでは決してない。

彼は今、目の前にいた。

この地を守る光の巨人、ウルトラマンタロウとして。

 

「タロウ………、ハワードさん………!!」

 

「わーい!! タロウだ、タロウ!! タロウが帰ってきたーっ!!」

 

「やはり………、光はまだ彼の中にあったか………!!」

 

一度は絶望視された光の姿に、誰もが失いかけた勝利への闘志が再び激しく燃え上がる。

光がこの手にある限り、どんな強敵にもきっと勝てる。

そう、誰もが確信を抱けるほどのカリスマが、真紅の巨人にはあった。

 

「グオオオオッ!!」

 

「ピポポポポ………。」

 

「ウアアアァァァッ!!」

 

「デヤァッ!!」

 

立ちはだかる怪獣軍団目がけ、猛然と挑みかかるタロウ。

その姿に、星組もまた一斉に奮起する。

口火を切ったのは若き隊長だった。

 

「紐育華撃団、レディー・ゴー!! ウルトラマンタロウを………いや!! ハワード=アンバースンを援護せよっ!!」

 

「「イェッサーッ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奇跡の復活を果たしたウルトラマンタロウの登場に勢いを取り戻す紐育華撃団ではあったが、戦況は未だ限りなく相手に傾いている状態だった。

何せ向こうは一騎当千を誇る強敵3体に対し、こちらの戦力となりうる存在はウルトラマンタロウただ一人。

しかもウルトラブレスレットを得て復活したとはいえ、そのバイタルは万全ではなく、ハッキリ言って満身創痍以外の何物でもない状態だ。

だが、それでも彼らに退くという選択肢はなかった。

どんなに小さな可能性も、絶対に諦めずに掴み取って見せる。

それが今まで一度も曲げた事のない、紐育華撃団の、フロンティア・スピリットの魂だからだ。

 

「デヤァッ!!」

 

勢いをつけたドロップキックを、眼前のワンゼットに見舞う。

胸倉に深く食い込んだ脚から一瞬スパークが迸り、6万トンを誇る巨体を紙屑の如く吹き飛ばす。

後方の建物を巻き込みながら仰向けに倒れるワンゼット。

 

「ゼアァッ!!」

 

だが追い打ちをかけようと馬乗りになったその時、背後から飛んできたオメガロイドの光弾がタロウの背中を直撃した。

 

「デェッ!?」

 

不意打ちを食らって転がるように倒れるタロウ。

そこに続けざまに光弾をぶつけんとする超合成魔人目がけて、一斉にスターが飛来する。

 

「させるか! 一斉攻撃だ!!」

 

「「イェッサーッ!!」」

 

新次郎の指示の下、6機のスターから次々とミサイルが撃ち込まれ、オメガロイドの攻撃の手が止まる。

その瞬間、タロウが反撃に出た。

 

「ハッ!!」

 

空中へと飛び上がり、乱回転で遠心力を加えたスワローキック。

ミサイル攻撃に怯んでいたオメガロイドは避けるどころか気付く間もなく、顔面を蹴飛ばされて地面に沈む。

その時だった。

 

「ピポポポポ………。」

 

それまでタロウの動きを追っていたデスフェイサーが、ぎこちない動きでガトリングガンと化した左腕を突き付ける。

だが今度は、タロウもそれに気づいていた。

 

「ムンッ!!」

 

両手を胸の前で交差し、半透明のバリアで無数の弾丸を弾く。

しかし弾丸をいなしきった次の瞬間、思いも寄らない追撃がタロウを襲った。

 

「デェッ!?」

 

何とハサミ状に変化していたデスフェイサーの右腕が投げ縄のように発射され、バリアの横からタロウの首を捕えてしまったのである。

それに気づき、残る怪物たちもここぞとばかりに反撃を仕掛けてきた。

 

「グオオオオッ!!」

 

「ゼアァッ!!」

 

ワンゼットの三本角から、タロウの足元目がけて光線が浴びせられた。

刹那、驚くべきことが起こった。

タロウの腰から下が岩に覆われ、身動きが取れなくなってしまったのである。

更にそこへ、待ち構えていたかのようにオメガロイドの光弾の嵐が容赦なく襲いかかった。

それに便乗するかのごとく、デスフェイサーのガトリングが火を噴き、ワンゼットの角から電撃が迸る。

激しい攻撃に晒され、遂に胸のカラータイマーが点滅を始めた。

 

「まずい! ハワードさんを助けるんだ!!」

 

フジヤマスターを先頭に、次々と弾幕の飛び交う死地へ飛び込んでいく星組。

だがミサイルを撃ち込んでも怯ませる程度しか効果がなく、逆にこちらが撃墜寸前まで追い詰められている状況だ。

 

「チッ!! 何て隙の無さだ………!!」

 

「ど、どうしよう新次郎! このままじゃ………!!」

 

「諦めるな!! 霊力と根性が続く限り撃ちまくれ!! 何としてもハワードさんを助け出すんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠い昔に失った何かを、思い起こされた気分だった。

 

「(要は怖いんだろ? 得体の知れないウルトラマンに頼る自分達が、役立たずだって自覚するのが。)」

 

「(我々はアメリカ海軍、アメリカ国民の自由と平和を守る責務がある! 今こそそれを完遂する時ではありませんか!!)」

 

「(光とは、力じゃない。決して潰える事のない熱い魂の輝き。それがなければどんな力も、正義にはなりえないんだ。)」

 

「(根拠なんざねぇ。理由も何もいらねぇ………。大事なのは力でも理論でもない………、そう信じられる心だ。心は、何よりも強い。)」

 

この部屋にいた人間の中で、自分を除く全員がある一つの点に共通していた。

いや、自分だけが失っていたと表現した方が正しいかもしれない。

若い時は自分も抱いていたであろう、あくなき情熱。

それを胸にアメリカのために尽くし続けた自分は、いつしかその手に余る脅威を恐れるようになった。

根拠のない信念、若い故の情熱。

それだけではどうにもならない物があると知った時、自分は情熱を捨てた。

人は神ではない。

人は所詮、無力な生き物でしかない。

それを知恵や工夫、そして互いに助け合う事で、自らの力で乗り越えてきた。

だからこそ彼の言うとおり、素性も目的も分からぬ宇宙人に全てを委ねる事が出来なかった。

昔の自分なら、決断まで一瞬の時間すら要していなかったと言うのに。

 

「(そうだ………、人は神ではない。故に、信じる事が出来る。まだ見ぬ明日………未来を生きる自分達の可能性を。)」

 

誰も完成した、完全な未来など求めてはいなかった。

まだ見ぬ世界に、安全を約する事など、自分以外に誰も求めてはいなかった。

この国の人々が求めていたのは、可能性。

未来の事、やがて来る明日さえ、誰も分からない。

分からないから人は希望を抱き、夢を見る。

そしてその夢の光を道しるべに、先の見えぬ未来を照らすのだ。

それが、遠い日にどこかへ忘れてしまった、アメリカの魂、『フロンティア・スピリット』だった。

誰かが歩いた道など辿りたくはない。

誰も歩いたことのない道を歩くから、新たな道を作る事が出来る。

それこそアメリカの原点、開拓者ではないか。

 

「(撤回しよう、ハワード=アンバースン。お前は、大した男だ。)」

 

操作する手は止めぬまま、ふと画面に見える巨人を見る。

ウルトラマンタロウ。

これまで素性、目的、正体すら謎に包まれていた光の巨人。

その正体が紐育華撃団星組隊員であったと聞かされた時のキースの衝撃は大きかった。

さぞかし優秀なパイロットかと思いきや、蓋を開けば出てくるのはふがいないバーニングスターの戦績ばかり。

何故こんな男が、ウルトラマンなのだ。

こんな頼りない男にこの街の未来を委ねていいのか。

だが、今ならその理由がハッキリ分かる。

彼には、明らかに人造ウルトラマンにないものがあった。

そして、この人生で己さえ失っていたものがあった。

僅かな可能性を信じ、決して諦めない。

それは偏にアメリカの生き方であると同時に、彼がウルトラマンたる所以とも思えた。

そして彼もまた………、

 

「………よし、照射準備は出来た。」

 

「この距離だけど、信頼できるのかい?」

 

「そこは安心しろ。こいつの照射システムはリボルバーカノンを採用している。ベイエリアまでなら自動修正も可能だ。」

 

後ろに立つかつての旧友に、覇気のない声で答える。

彼は自分が何をしようとしているか、本当に理解しているのだろうか。

そう尋ねると、素っ気なく返事を返された。

 

「もちろんさ。今回ばかりはイギリスに感謝しないとね。何たってボクには、霊力なんてものはないんだから。」

 

苦戦するタロウを助けるためにサニーサイドが急遽立案した作戦。

それは、自身が光エネルギー分離装置に入り、その生命力をタロウのカラータイマーに照射すると言う、最早作戦とは到底呼び難いものだった。

確かに元は人の生命力そのものを抽出し、根こそぎ奪い取る装置。

その悪魔の側面をもってすれば、さして霊力の無い人間からでも光を引きはがす事は可能だ。

最も、生存率が天文学的数値である事に間違いないが。

ふと、画面を見つめる星組総司令を見る。

いつものすまし顔。

もうすぐ死ぬというのに、何故こうもポーカーフェイスを貫いていられるのだろうか。

 

「サニー………。」

 

後ろで事の成り行きを見守っていたラチェットが、悲痛な面持ちで口を開きかける。

だがそれを、サニーサイドはそっと止めた。

 

「ラチェット、いくら君の頼みでも、こればかりは聞けないよ。君を失えば、彼は今度こそ生きる意味の全てを失ってしまうだろうからね。」

 

「サニー、でも………。」

 

「今まで君たちには情けない所しかみせられなかったんだ。………最期位、僕にも紐育を………みんなを守らせてくれよ。」

 

それは、星組総司令と言う立場に立つ、サニーサイドなりのけじめと言うものだった。

まだ結成からようやく1年という若い星達を導く者として、たとえ命令であっても彼らをモルモット同然に扱う事を、彼は認めようとはしていなかった。

今回の事も、彼なりの責任と言うものを取ろうとしているのだろう。

実に1年に及ぶ贖罪を、この手で償うために。

 

「ラチェット。それにキース。悪いが、これがボクの戦い方だ。後は、頼んだよ。」

 

「サニーサイド………。」

 

その一瞬、キースの脳裏を何かが過った。

このまま行かせていいのか。

未だ意識不明にあったハワードを強引に装置に掛けたのも、人造ウルトラマンを独断で起動させたのも、他ならぬ自分だ。

自分に霊力はない。

よって自分は無力、ただ見ているしかない。

だが、本当にそれでいいのか。

それは遠い昔、思い出と共に捨てたはずの、妙に懐かしい感情だった。

 

「さて、マイケル=サニーサイド、最期のショータイムと………。」

 

だからだろう。

気付けば自分は側に置いていた未知の金属片を掴み、その後頭部を殴打していた。

 

「なっ………!? 貴方、この期に及んで何を………!!」

 

反射的にナイフを構えるラチェット。

キースは感情に支配されるまま、叫んだ。

 

「どんなに腐っても、私はアメリカ海軍中佐、キース=ラディッツだ!! このアメリカを荒らし、人々を脅かす奴らを、見過ごす訳にはいかんっ!!」

 

こんな事をして全ての罪が許されるとは思わない。

ネオマキシマ砲。

メカロイド。

自分の生み出した者達があろう事かアメリカを脅かしているこの現状。

その償いが自害の他に出来るのは、今この時しかない。

キースは、躊躇わなかった。

 

「………キ、キースッ………!!」

 

後頭部を押さえたサニーサイドが、苦悶と言うより驚きに満ちた表情で顔を上げる。

当たり前だ。

何せ自分が入るはずだった装置のカプセルに今、他ならぬ旧友が入っているのだから。

 

「悪いな、サニー。この街には、まだお前が必要だ。それに………、自分の始末は自分でつける。それが、私の戦い方だ。」

 

「キース! よせっ!!」

 

まだ痛むであろう頭を押さえて立ち上がろうとするサニーサイド。

だが平衡感覚まではそうもいかないらしく、後ろへよろけてラチェットに支えられている始末だ。

これでは自分を止めることなど敵わないだろう。

最も、ここで彼の言葉を聞く気もないが。

 

「もう少し離れておけ。装置の出力は最大レベル。あまり近いと巻き込まれるぞ。」

 

「キースッ、何故だ!?」

 

「言ったはずだ。お前はここで終わるべき男ではない。………心配するな。この街を思う強さなら、私とて負けはせん。」

 

遂にカプセル内部が閃光に包まれ始めた。

これまで幾人もの命を奪い、貪りつくしてきた死の光線。

全身を焼くこの世のものとは思えない激痛が体を走り抜け、思わず悲鳴が漏れだす。

 

「ぐぅっ………くっ! 我が………偉大なるっ………アメリカに………、未来をおおおぉぉぉ………!!」

 

その絶叫をひたすら押し殺し、最期の力を振り絞って叫ぶ。

刹那、カプセルのキャパシティが限界を迎え、激しいスパークと伴って大爆発した。

 

「キースーーーーーッ!!」

 

その身が粉微塵に爆ぜる寸前、キースはかつて志を共にした友の声を聞いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは突然の出来事だった。

突如としてリバティ島から飛んできた一条の光が、猛攻にさいなまれるタロウのカラータイマーに注がれたのだ。

まるでこの国を絶えず見守る女神が、巨人に立ち上がるチャンスを与えてくれたかのように。

やがて光を取り戻したカラータイマーが点滅を止め、元の空色を取り戻す。

刹那、全身を駆け巡る熱い力の奔流をタロウは感じた。

 

「ムンッ!!」

 

未だ首を捕えたままのハサミを掴み、渾身の力を込めて引っ張る。

刹那、信じられない事が起こった。

6万トンを裕に超えるデスフェイサーの巨体が、ジャイアントスイングの要領で振り回されているではないか。

砲丸投げのように振り回される怪獣がバリケードの役目を果たし、僅かに残る2体の攻撃が弱まる。

その瞬間を、新次郎は見逃さなかった。

 

「今だ!! 全機、足元の岩を攻撃してください!!」

 

「「イェッサーッ!!」」

 

残る霊力を振り絞り、6つの星が唸りを上げて下半身を固める岩肌に霊力弾を浴びせる。

やがてその身動きの一切を封じ込めていた岩肌は瓦解。

タロウは勢いそのままに、一気に反撃に出た。

 

「デヤァッ!!」

 

ひとしきり振り回した電脳魔人の右腕が、音を立てて引きちぎれた。

支えを失ったデスフェイサーは、その先にいたオメガロイドを巻き込んで倒れこむ。

さしもの人造ウルトラマンも、6万トンの砲丸をどうにかできる術など持たない。

従ってオメガロイドは、見事にデスフェイサーの下敷きとなる。

 

「グオオオオッ!!」

 

そこへ、残るワンゼットの咆哮が轟いた。

三本角を突き付け、激しい稲妻がタロウを襲う。

だがその寸前、タロウは徐に左手を顔の横に翳し、手首に嵌められた腕輪を外した。

ウルトラブレスレット。

更なる光の力としてかの宇宙警備隊長より送られた、もう一つの光の証。

かつて帝都を守護していた光の巨人、ウルトラマンジャックの使っていた、攻守万能の強力武器である。

それを野球のピッチングの如く、大きく後ろに振りかぶる。

刹那、腕輪が鋭い投擲用の槍へと姿を変えた。

 

ブレスレットランサー。

 

その名の通りブレスレットを両刃の槍に変え、怪力を込めた投擲によって相手を串刺しにする、タロウの新必殺技である。

 

「ハッ!!」

 

大きく左足を踏み込み、右手に握った槍が光を纏って殺到する。

だが、やはりワンゼットの生み出す虚数空間に呑みこまれ、かき消されてしまった。

 

 

 

 

 

だが………、

 

 

 

 

「グオオオオッ!?」

 

それまで平然としていた超怪獣兵器が、何の前触れもなく突然苦しみ始めた。

そして全身が光に包まれ、大爆発してしまったのである。

一体何が起こったと言うのか。

それに気が付いたのは、タロウの下に先ほどのブレスレットが戻ってきた時だった。

 

「そうか、あれは突き刺すための攻撃じゃない。わざと吸収させて、相手を内部から破壊する狙いがあったんだ!!」

 

それを最初に指摘したのは、やはり星組一の天才だった。

タロウは相手に吸収されることを見越してブレスレットを投擲。

相手の体内に吸収されたところでその光を解放し、内部から爆発させたのである。

だが安心はできない。

何せ敵怪獣はまだ2体残っているのだ。

 

「ゼアアアァッ!!」

 

先に向かってきたのは、デスフェイサーを押しのけて立ち上がったオメガロイドだった。

全身を醜く肥大化した皮膚に覆われ、獣の如き咆哮を上げるその姿に、最早光の面影は何処にもない。

真の光の巨人は、真正面から掴みかかった。

 

「ムンッ!!」

 

「グウゥッ!!」

 

互角の力のつばぜり合いが続く事数秒。

拮抗を破ったのは、不屈の闘志を持つウルトラマンだった。

 

「デヤァッ!!」

 

豪快に怪物を持ち上げ、頭から地面に叩きつけるタロウ。

すると今度は、起き上がったデスフェイサーが左手のガトリングをこちらに向けて乱射する。

だが、そう何度も同じ手を食らうタロウではない。

 

「ハッ!!」

 

再び空を華麗に舞い、天空よりスワローキックが炸裂した。

光を帯びた右足は左腕を直撃し、ガトリングガンを腕毎粉砕する。

これでデスフェイサーの攻撃手段は完全になくなった。

 

「ゼアァッ!!」

 

だがここぞとばかりに反撃に移ろうと馬乗りになったその時、不意を突いて背中に光弾が直撃した。

オメガロイドの不意打ちである。

 

「デェッ!?」

 

その勢いに慌てて受け身を取り、再びオメガロイドと対峙するタロウ。

どうやら先にこちらのケリをつけるしかなさそうだ。

そう判断し、タロウは両手を頭上に翳してエネルギーの集約を始めた。

するとそれに気付いたオメガロイドも、両の手を天に仰いで禍々しい力を集中する。

その時、リカリッタが何かに気付き、叫んだ。

 

「新次郎、大変!! ロボットの胸からなんか出てきた!!」

 

「あれは………、ネオマキシマ砲かっ!?」

 

それは、何と一撃必殺の退魔防衛兵器だった。

本来なら鯉の口にあるはずだった大砲がこんなところにあるとは驚きだが、笑っている場合ではない。

胸の装甲を左右に割って現れたネオマキシマ砲が、こちらに狙いを定めてチャージを始めたからである。

先の戦いでは遥か天空に漂う鉄壁を誇る天下布武さえ一撃で沈めたあの威力。

こんな街中で使おうものならどうなるか、想像に難くない。

 

「くそっ! そんなことさせるか!!」

 

最早臨界点に達しつつあるフジヤマスターが、唸りを上げて飛び出した。

瞬く間に光を充填させていくデスフェイサー目がけ、一気に突進する。

そして………、

 

「新次郎!!」

 

「行っけぇー!!」

 

「大河さん!!」

 

「頼む!!」

 

「お願い、新次郎!!」

 

「狼虎滅却………、超新星!!」

 

仲間たちの霊力を一緒に身に纏い、白虎の星が疾風の如く突き抜けた。

それまで響いていたネオマキシマ砲のチャージ音が、嘘のように消え去る。

それもそのはず。

何故なら胸に備えられたネオマキシマ砲は、白き一つの流れ星によって、風穴に変えられてしまったからである。

 

「ピポポポ………ポポ………ポ………。」

 

顔面をせわしなく動いていた赤い線が次第に動きを鈍らせ、仰向けに倒れる。

そしてそれは、二人の巨人の決着の瞬間でもあった。

 

「ゼアアアァァァッ!!」

 

「ネオストリウム光線っ!!」

 

二人が光線を発射したのは、ほぼ同時だった。

だがタロウはそれまでのT字ではなく、ブレスレットを支点にX字を組んでいる。

 

ネオストリウム光線。

 

それまで発射形態にムラがあったストリウム光線の欠点を改良し、新たに加わったブレスレットの力を加える事で、その攻撃力を倍近くにまで引き上げた新必殺技である。

激しい閃光と轟音を伴ってぶつかり合う光と闇。

やがてその数秒の拮抗を制したのは、やはりウルトラマンだった。

 

「タアアアァァァッ!!」

 

気迫の籠った大声に合わせ、七色の光が一気に紫色の光線を押し戻し、オメガロイドを包む。

闇へと落ちた巨人を包む閃光。

それは凄まじい爆発を以って、戦いの終焉を知らせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………終わったか………。」

 

戦いの一部始終を見届け、サニーサイドは小声で呟いた。

戦いは終わった。

紐育を地獄に変えた怪獣軍団は、紐育の希望の星達と、大いなる光の巨人によって倒された。

 

「キース………。」

 

この戦いのもう一人の功労者の名を、小さく呟き、思いをはせる。

共にこの国を守る志を立てた友人。

そのあまりに急すぎる名誉の死に、流石のポーカーフェイスも崩れざるを得ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、現実は何処までも非情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………サニー!! あれ、あれを見て!!」

 

「何………? こ、これは………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かの信長事件すら超えるベイエリアでの決戦は、紐育華撃団とウルトラマンタロウの大勝利によって幕を閉じた。

実に一週間ぶりの復活を果たした摩天楼の巨人に、誰もが喝采を送る。

その時だった。

 

「ほう、まさかここまで我が僕を破るとは思わなかったぞ。」

 

「貴様、空蝉!!」

 

それまでいずこかへ姿を消していた忍が、気づけば自分達の遥か頭上にてこちらを見下ろしていた。

その視線に若干の驚きはあれど、余裕の佇まいは変わらない。

 

「性懲りもなく威勢だけは一著前だな! いい加減棄却したらどうだい!?」

 

「お前の放った怪獣は全滅した。それ以上の虚勢は、惨めと言うほかないぞ?」

 

「今のお前に、もう勝ち目はない。空蝉、お前の負けだ!!」

 

口々に叫ぶ仲間たち。

だがかの忍はその様子すら冷ややかに見下ろし、言った。

 

「これで勝ったつもりか? 貴様らこそ、いい加減その単純さを改めてはどうだ?」

 

「何だと………? 空蝉、どういう事だ!? この期に及んで何を企んでいる!?」

 

意味深な発言に何かを感じ、猛虎の如き覇気を以って問いただす新次郎。

すると、忍は口布の下で冷めた笑いを浮かべて見せた。

 

「いいだろう、約束通り教えてやる。我らの計画の全ては、これだっ!!」

 

そう叫び、両手を空に掲げる空蝉。

刹那、誰も予想だにしない、恐るべき光景が飛び込んできた。

それこそ今の勝利さえ一瞬で吹き飛ばす。無限の絶望を秘めたその光景に、誰も、タロウさえも言葉を発する事が出来なかった。

無理もない。

何故ならそれは………、

 

 

 

 

 

 

「あれは………、星………?」

 

<続く>




《次回予告》

人は夢を見る。

まだ見ぬ明日を願い………。

未来を希望で灯すために。

だから、俺は諦めない………。

みんなと一緒に、明日が見たい!!

次回、サクラ大戦V最終回。

《ULTRA STAR》

さらば、愛しき人よ………。

摩天楼にバキューン!!
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