摩天楼の星   作:サマエル

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ULTRA STAR~最終章Ⅲ:さらば愛しき人よ~

自分達は悪い夢でも見ているのだろうか。

誰もがそう思わずにはいられなかった。

頭上の夜空を埋め尽くす程に巨大な星。

半透明に見えるそれは実物ではないにしろ、見るもの全てを圧倒する。

 

「………遊星ジュラン。いや、今は我らの居城。惑星要塞『バルタニコス』。」

 

「遊星………? まさか、星そのものを………!?」

 

「空蝉………、貴様一体………!?」

 

先程までの覇気は、完全に消え失せていた。

ただこちらを見下ろす天体と、その前に浮かぶ忍に気圧されるばかり。

これまで相手にしてきた者達とは次元が違う。

そう確信を抱かせる程に。

 

「………今は無きバルタン星の生き残り。外宇宙には、『宇宙忍者』の名で通っている。」

 

「う、宇宙忍者だって!?」

 

その通り名に、新次郎は聞き覚えがあった。

今から14年前、遥か東の故郷を襲った外宇宙の侵略者。

記憶が正しければ6年前の聖魔城の戦いで、ウルトラマンジャックの前に破れ去ったはず。

目の前の宇宙忍者は、そのバルタン星人の同族と言うべき存在だった。

 

「そうか………、これまでの怪獣は皆、貴様の差し金か!」

 

「如何にも。ついでに言うならば、虚数空間の実験も兼ねていたのだが。」

 

それまで謎に包まれていた怪獣軍団の出生が、遂に明るみに出た。

リバティ島のガイガレードに始まる強大な力を持つ大怪獣。

それらは皆、目の前の忍が人為的にけしかけて来たものだった。

恐らく虚数空間の先にある、あの惑星要塞から。

 

「信長以下、悪念五人衆には感謝している。奴らの存在は我らの計画の良い隠れ蓑だったからな。」

 

「まさか………、このために信長達を利用していたのか!!」

 

「それだけではない。このジュランは1000年に一度、この地球の大気圏まで接近する天体だ。本来ならば目の前にある所を強引に虚数空間内部に引き込んでいる。………この仕組み、聞き覚えがあるだろう?」

 

「………、第六天………!!」

 

確かに聞き覚えのある話だった。

遥か冥界より空間をねじ曲げ現れた信長の居城、第六天。

それは虚数空間の果てから直接大気圏内に召喚された魔の天体。

空蝉の狙いはそのデータを科学的に分析し、虚数空間内部に引き込んでいたジュランを元の座標に戻す事にあったのだ。

恐らくかの星に控える魔の軍勢で、大挙して地球に攻めいるために。

 

「だが、問題は全て解決した。虚数空間を用いた第六天の召喚地点、これを応用すればバルタニコスもこの大気圏内に呼び出せる。このようにな。」

 

「何故だ………? 何故そうまでして紐育を、この星を狙う!?」

 

新次郎が問いただした。

かの忍の正体が遠い宇宙のバルタン星人であり、今またこの星を侵略しようと企てている事は分かった。

だが、未だに分からないのはその目的だ。

別段彼らに恨みを買うような事はしていないし、宇宙開発に役立つ程まで文明も発展している訳ではない。

一体何故、彼らはここまで大規模にこの星を狙うのか。

その答えは、至極単純だった。

 

「………この星の生物を根絶やし、バルタン一族を今一度蘇らせる。………この地球を、第二のバルタン星として。」

 

「な、何だって!?」

 

新次郎を始め、その場の全員が耳を疑った。

今は無きバルタン星と、その一族の復興。

目の前の侵略者は、そう答えたのだ。

 

「太陽系第三惑星地球。青く輝く世界に無数の命が生きるこの星は、この広大な宇宙でも特に価値の高い天体。我ら一族の繁栄に、これ程適した存在はない。」

 

「まさか………、たったそれだけの事で………!?」

 

「それだけだと? 他にどんな理由がある。このジュランとて、地球侵略のために根絶やしにしたに過ぎんというに。」

 

ぬけぬけと言い放つ空蝉。

そのあまりに常識を逸した事故中心的極まりない物言いを理解したとき、混乱は怒りへと姿を変えた。

 

「ふざけんな!! そっちの都合でいいように押し切られてたまるか!!」

 

「パパ言ってた! 理由もないのに誰かをいじめるのは一番悪い奴! リカ、お前許さない!!」

 

「貴方は………、命ある者として他者を慈しむ心はないのですか!?」

 

口々に叫ぶ隊員達。

だがその全てを、空蝉は表情一つ変えずに嘲笑で返した。

 

「命?………分からない。命とは何か。」

 

「何………!?」

 

「我らの星となれば他の者は廃棄物同然。何ゆえ慈しむ必要がある。存在する必要のなくなった者達に、何故そのような概念を持たねばならん。」

 

最早奴らに、他の種族に対する意識はないに等しかった。

豊かな資源さえあれば、その星の命など少しも省みずに滅ぼし、支配する。

それは、まるで生殖本能で動く動物のようだと新次郎は思った。

 

「仮にあるとして、どうせ残り僅かの命。価値のない、下らない存在だ。」

 

「僕達を見くびるな! 紐育華撃団のある限り、貴様の好きにはさせないぞっ!!」

 

「小賢しい。高が数名の組織で何が出来る。対魔防衛兵器も無くした、今のお前達に。」

 

「くっ………!!」

 

痛いところを突かれ、言葉を詰まらせる新次郎。

そうだ。

対魔防衛兵器『ネオマキシマ砲』。

人造ウルトラマン『メカロイド』。

外宇宙からの侵略者を迎え撃つ二つの要は、いずれも今の戦闘で破壊してしまった。

これこそ今回の侵略における、空蝉の真の狙いだった。

鉄壁を誇る天下布武すら一撃で沈めたネオマキシマ砲。

イギリスの負の遺産から生まれた人類最強の防衛兵器、メカロイド。

これらを乗っ取る事で地球側の戦力を駆逐、それが出来なくとも、二つの兵器を失うこちらの痛手は大きい。

宇宙史上最悪と呼ばれる侵略者の、綿密且つ周到に仕組まれた策略だった。

 

「今から7時間後、ジュランの座標は地球の大気圏内に到達する。その瞬間、この幻は現実に変わる。貴様らの最期を以てな。」

 

「くっ………!!」

 

「残された最期の時間、精々足掻くがいい。」

 

死刑宣告を言い渡し、煙のように姿を掻き消す空蝉。

絶望への、カウントダウンが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リバティ島に停泊中の大型武装船、エイハブ。

その臨時作戦司令室は、今までにない程に重く、暗い空気に包まれていた。

 

「………そうか。やはりエイリアン・バルタン。こちらの情勢をよく研究している。」

 

帰還した星組から事の一部始終を聞かされたサニーサイドは、僅かに沈んだ表情で相槌を打つ。

占領した惑星要塞バルタニコスからの、バルタン星人の一斉攻撃。

敵の兵力規模をうかがい知る事は出来ないが、恐らく現在の自分達が真正面からぶつかる事の出来ない相手である事は間違いない。

何せこちらは先程の戦闘でネオマキシマ砲とメカロイドを失い、更に頼みの綱であるスターでさえ破損が酷く、満足に戦えない状態だ。

考えれば考えるほど、状況は絶望的と言わざるを得なかった。

 

「どうしよう………。このままじゃ、紐育どころか世界が滅茶苦茶に………。」

 

「諦めるのは早い! 何か………何か方法を見つけるんだ。」

 

「無茶だ。相手は虚数空間の向こう側。それもその瞬間まで何処に現れるか分からないんだぞ?」

 

思わず弱音を漏らすジェミニを勇気づけるサジータだが、昴の正論を前に言葉を失う。

 

「リカ、やだ………!! みんな死んじゃうなんて、そんなの………やだ………。」

 

「大河さん………。」

 

今にも泣き出しそうなリカリッタを見ていられず、ダイアナも新次郎を見る。

みんな同じ気持ちだ。

信長の魔の手からこの街を解放し、新たなスタートを切ったばかりの紐育。

その最期がこんな悲惨な形で訪れるなど、認めてはならない。

だが、今回ばかりは根性だけでどうにかなるような相手ではない事もまた事実だった。

 

「(どうする………、どうすればいい………!?)」

 

これまで大して働かせて来なかった頭を必死に回転させ、何か突破口に成りうるものを探す新次郎。

その時、唐突に口を開く人物がいた。

 

「………確実ではないが、一つだけ有効な手段がある。」

 

「ほ、本当ですかっ!?」

 

その人物は、他ならぬ星組総司令だった。

それまで不安に押し潰されていた隊員達が、一斉に視線を向ける。

 

「空蝉………、バルタンが信長を利用した目的は二つ。虚数空間による怪獣召喚と、惑星規模の召喚プロセスを確立するためだね。」

 

「はい。それが………?」

 

「逆に考えてみよう。何故空蝉は、わざわざ信長を蘇らせる必要があったんだろうか。ともすれば今相対しているのは、あの不死身の魔王だったかも知れないのに。」

 

それは確かにおかしな話だった。

空蝉は怪獣召喚の実験と、虚数空間による惑星召喚を確実にするために信長と五人衆を利用していた。

だが、わざわざそんな手間のかかる工程を踏む必要があるのだろうか。

リバティ島で最初にガイガレードを召喚した時点で、虚数空間によるテレポートは確立されている。

やろうと思えば、直ちにバルタニコスを呼び出して紐育を攻撃させる事だってできたはずだ。

にも関わらず、空蝉はそれをしなかった。

一体何故。

その答えを、サニーサイドはこう分析していた。

 

「恐らく奴の言う惑星単位のテレポートは、まだ完成していないのかも知れない。だから第六天を召喚した時のデータが必要だった。その座標を元に計算すれば、少なくとも大気圏外で燃えてしまう事はないんだから。」

 

惑星を大気圏内に召喚する際、空蝉が最も恐れているのは空間転移による隕石化である。

何せ大気圏から地表にくるまでに激しい炎に撒かれる事になるため、余程大きな隕石でない限り塵も残らない。

しかし第六天は大気圏内、それも妖力のオーラに守られているからでもあるが、ほぼ出現時の姿のまま、紐育の大地へと迫っていた。

細かい計算は分からないが、少なくともその座標に従えば、大気圏の炎に燃やされる心配はなくなる。

つまり………、

 

「ボクの予想が正しければ………、惑星要塞バルタニコスは、第六天と同じ座標に現れる。前者を模した規模の虚数空間によってね。」

 

「それで、僕達はどうします?」

 

「敵の出現位置は特定出来た。そこに紐育華撃団星組はスター各機で囲み、切り札を発動する。東洋の神秘、五輪のもう一つの切り札だ。」

 

「………なるほど。『六破星降魔陣』か。」

 

六破星降魔陣。

それは明智光秀と五輪の戦士が操る、五輪曼陀羅に並ぶもう一つの大魔術だ。

五輪曼陀羅同様に陣を描き、周囲一帯に激しい霊力の奔流を以て攻撃を仕掛けるその破壊力は計り知れない。

6年前の帝都も、この魔術において甚大極まりない被害を被った。

敵として考えるとこの上ない驚異だが、味方に転じればこれ程心強い攻撃法はない。

 

「そしてそこに、ボク達紐育華撃団星組、最強のカードを送り出す。摩天楼の巨人、ウルトラマンタロウを。」

 

「ハワードさんを?」

 

サニーサイドの作戦はこうだ。

まず今から7時間後、かつて第六天が出現した地点と同じ座標に虚数空間が現れ、バルタニコスが姿を表す。

その直後に待ち構えていた星組が六破星降魔陣を発動し、先手を仕掛ける。

そこへすかさずハワードが虚数空間の向こう側に突入し、全ての元凶たるエイリアンを仕留めるというものだ。

 

「………だが、それでもバルタニコスは敵の本拠地。どれだけの戦力が保持されているか、ボクも全く想像出来ない………。」

 

しかしながら、これだけの分析を以てしても勝利を掴み取れる可能性は、ほんの僅かでしかなかった。

まずサニーサイド自身が述べた通り、敵の戦力がどれ程のものかは皆目見当がつかない。

少なくとも言えるのは、星一つを捻り潰すだけの力。

人工的に怪獣を産み出している科学力を鑑みるに、恐らく多数の怪獣兵器を要していると考えるのが妥当だ。

更に言えば、本当に第六天と同じ座標でしか虚数空間が出現しない事を示す決定的証拠も存在していない。

もし別の座標で惑星要塞を出現させたら、あるいは同時に複数の虚数空間を発生させたら、こちらに打つ手はない。

こうなっては最早作戦というより、質の悪いギャンブルだ。

それも紐育の、引いては世界の命運という途方もなく巨大な一枚のチップを賭けた、一世一代の大博打である。

 

「万に一つ上手く行ったとしても、虚数空間の先は宇宙空間………。ボクらの科学力では到底理解しえない現象が山のように起こる世界だ………。果たしてそんな戦場で満足に戦えるか………、戦えたとして、無事に帰って来られるか………一つとして保証出来ない………!!」

 

それは、行ってしまえば特攻同然の作戦だった。

今の自分達の科学をして、何が起こるか分からない宇宙空間。

水も、音も、光さえ射さない果てなき暗闇の中を突き進み、やがて見えるであろう魔の星へたどり着かなければならないのだ。

十人が聞けば十人が拒否するような大博打に、首を振らない人間はまずいない。

だが………、彼だけは違った。

 

 

 

 

 

 

 

「………俺は行くぜ。」

 

 

 

 

 

 

 

「………、ハワードさん………!!」

 

作戦司令室の右奥から、声が上がった。

それまで沈黙を貫き、事の成り行きを見守っていたハワード=アンバースン。

その彼だけは、提示されたギャンブルに乗ると言ったのだ。

 

「宇宙空間だろうが、怪獣兵器が待ち構えていようが、俺は行くぜ。」

 

「しかしハワード!」

 

「そこに可能性があるなら俺は………、俺達は迷わねぇ。どんなに小さな光でも絶対に諦めずに手を伸ばし続け、掴みとる。………それが俺達、紐育華撃団星組のポリシーだ。」

 

迷いのない言葉が口火を切った。

残る6人の仲間達も、表情を変えて立ち上がる。

 

「アタシも信じる。判決は最終弁論が終わるまで分からない。だったら、勝訴を信じるだけだ!」

 

「リカ、この街が好き。リカを受け入れてくれたみんなが好き。だからリカ、戦う。みんながいてくれたら、リカ戦える!!」

 

「人は生きている限り、諦める事をしてはならない。私はそう教えられました。だからこそ私は今がある。それは、今も変わりません!!」

 

「昴は思う。どんなに僅かであったとしても、可能性は確かな未来の一つ。その光を必ず掴み、未来に変えて見せる。それが出来ると、昴は信じる!!」

 

「人は現実から逃げるためじゃなく、現実にするために夢を見る。だから、ボクもこの夢を終わらせない! みんなで笑って明日を生きる。それが、ボクの夢だから!!」

 

「司令、僕達は諦めません。この命ある限り、可能性がある限り、希望を捨ててはならない。昔、ある人に教えられた言葉です。」

 

「………君達………。」

 

「どんな困難であっても、どんなに可能性が低くても諦めない! 悪を滅ぼし、闇を消し去る礎となる。それが、僕達紐育華撃団星組です!」

 

目の前に見える光景に、サニーサイドは思わず言葉を失った。

それまで表情を暗く沈めていた部下達が、希望を抱き、その瞳を輝かせている。

まるで、夜空を照らす星々のように。

そしてサニーサイドもまた、その心に灯る暖かい何かを自覚し、確信する。

それこそこの150年、アメリカという国が発展し続けて来られた開拓者の魂。

何処までも続く見果てぬ夢、『フロンティア・スピリット』であると。

 

「………そうか。それがボク達の、アメリカの希望だったね。」

 

彼らの姿にかつての自分を思い返し、サニーサイドは静かに微笑む。

現実的に考えれば絶望的でしかないと分かる今でさえ、乗り越えられると思える心の強さ。

出身や人種の違う人々が唯一共有する心の強さを、サニーサイドは改めて実感し、確信する。

彼らならきっと、この苦難さえ乗り越えられると。

 

「分かった。これが最後のハラキリだ。紐育華撃団星組、ファイナルステージを開幕しよう!!」

 

「「イェッサーッ!!」」

 

今までにない気迫の籠った返事を返す星組。

そのファイナルミッションが、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に決行が決まった紐育華撃団星組ファイナルミッション。

その中核を成すハワードのバーニングスターは王の指揮の元、急ピッチで修理補強が進められた。

何せ大気圏はおろか、有人宇宙飛行に挑むのだ。

空気もなければ重力もない空間で、人一人を無事に運ぶだけの科学力は、ハッキリ言って足りないどころの騒ぎではない。

 

「………これか………。」

 

その補強作業の最中にある格納庫に、ハワード=アンバースンの姿はあった。

目の前に見えるのは、かつての相棒、バーニングスター。

数ヶ月前の戦いで大破した深紅の装甲は最早単独での運用が絶望視され、新たに白銀の装甲が合わさるように取り付けられる事となった。

シルバースター。

この世で最初に産声を上げた星であり、想い人の相棒でもあった白銀の星。

今やそれは、自身のスターと混ざり合い、新たなる一つの星となっていた。

 

「如何ですかな? 新たに生まれ変わった貴方の相棒は。」

 

「………ああ。最高だぜ、『ウルトラスター』。」

 

ウルトラスター。

それが、今目の前に写る新たなる星に与えられた名前だった。

ブースターの飛行速度。

シリウネス鋼の防御力。

そして右下に備えた、最新鋭の A・Iによって制御される自動操縦機能。

持ちうる科学の粋を結集した、名実共に史上最強を誇る霊子甲冑が、そこにはあった。

深紅と白銀の大河が鮮やかに彩るその姿は、大いなる光の巨人を想起させる。

 

「しかし、不思議ですな。」

 

ふと、王が口を開いた。

 

「かつてロビン殿が歩かれた道を、今またハワード殿が歩いておられる。まるで遠き日の彼が、貴方に宿られたかのように。」

 

「よせよ爺さん。俺なんてまだ、親父の足元にも及んじゃいねぇ。未だにスターの整備も、爺さんと二人三脚だったんだぜ?それに………」

 

父を知る技師の言葉に謙遜を返し、ハワードは懐かしむように続けた。

 

「昔、親父に聞かされた夢………。遠い星の彼方にある、光が宿る星。それが目の前にあるって、そう思えるんだ。」

 

「………『ウルトラの星』ですな。」

 

遠い昔、まだ自分が10にも満たない頃。

欧州の戦場の空を見上げた父は、夜空の星を指さしこう言った。

 

『遥か東の島国に、遠い宇宙の使者が来た。その故郷が、この広大な宇宙の何処かにある。』

 

『その使者は自らをこう名乗った。M78星雲、光の国の宇宙人、ウルトラマンと。』

 

『この戦争が終わり、世界が平和になった時。私達は宇宙を目指すだろう。彼らの故郷、ウルトラの星を求めて………。』

 

初めて聞いた時は、風の噂だと信じなかった。

だがそれから10年が経ち、遥か西の巴里で直に巨人を見て、そして他ならぬ自身が光となる事で、ハワードは父の残した言葉が嘘ではないと理解した。

この広い宇宙の何処かにあるという神秘の星。

それを見ずして、この星の未来は終わらせない。

即ち、この星に明日をもたらす。

それが、ハワードの戦いだった。

 

「おや、どちらへ?」

 

ふと踵を返すハワードに、王が問う。

ハワードは背を向けたまま、肩をすくめた。

 

「ちょっと、顔を見せてやりたくなった。」

 

そう言ってそそくさと格納庫を後にする。

後ろの技師が、満面の笑みで呟く言葉にも気づかずに。

 

「サニーサイド様、相手が悪すぎましたな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見上げる空は、限りなく平穏という言葉に近い風景を描いていた。

漆黒のカーテンを彩る無数の星。

その星が、数時間もしない内に終焉をもたらす事になるなど、一体誰が思うだろう。

そう、思えてしまう程に。

 

「よ、こんな所にいたのか。」

 

ふと、背中に聞き慣れた声が飛んだ。

顔を向ける前に、彼は隣に腰を下ろす。

手元に酒があればいつもの風景だが、今回は違った。

 

「………もうすぐね。」

 

「ああ。」

 

夜空を見上げ、短い答えを返す。

いつもの彼だ。

視線を移せば、記憶と違わぬ彼がそこにいる。

普段と何一つ変わらない会話のやり取り。

それに喜びを感じていながら、ラチェットは胸の奥底に言い知れぬ苦しさを自覚せずにはいられなかった。

あと何時間かしたら、文字通り最後の作戦が始まる。

紐育の、この星に生きる全ての命をかけた戦いが幕を開ける。

それは即ち、紐育華撃団星組隊員ハワード=アンバースンの、今隣にいる昔馴染みの、敵地への特攻を意味していた。

 

「………なあ、覚えてるか? 俺達がこうして、夜中に星を見るようになったのは。」

 

「………ええ。」

 

唐突な昔話に、強張った顔が僅かに綻ぶ。

もう10年前になる欧州大戦。

その星組隊員となってから、ハワードは夜中に夜営のテントを抜け出し、夜空を見上げる事が多くあった。

それに気づいてテントに戻るよう促したのが、今日まで続く逢瀬のきっかけだった。

 

「あの頃はまだ親父の夢を忘れられなかったからな。おかげで星の名前まですっかり覚えちまってよ。」

 

「そうね。私も知らないような星を言い当てて、得意になってたものね。」

 

幼くして秀才という名を欲しいままにしていた欧州星組隊長は、少なからずのプライドを持っていた。

そんな彼女に、新米隊員はあの星の名前が分かったら大人しくテントに戻ってやると言い出した。

初めて彼女は衝撃を受けた。

少年が指差した星の名前を、彼女は知らなかったからだ。

その事が癪に障り、気づけば二人揃って星を指差しては名前を言い合うようになった。

そして気づけば………、

 

「あれね………、貴方の言ってた星………。」

 

ふと、夜空で一際美しく輝く一つの星を指差す。

M78、ウルトラの星。

この星を幾度も守り続けて来た、光の巨人が住まう星。

そして、秀才と呼ばれた自分が唯一彼に教えてもらった星。

 

「もし宇宙に出られたら、あの星まで飛べるかもな。」

 

「そんな………。」

 

10年という時間を共に過ごして来た青年は、やはり変わってしまったようだった。

戦場や、時には日常でも背中に庇って来た彼は、いつの間にかその身に光を背負い、世界を守る巨人となっていた。

もう昔の彼は戻って来ない。

そう思うと、今まで大事に守り続けていた何かが消えた気がして、胸がひどく痛む。

 

「………怖くないの?」

 

視線を逸らし、尋ねる。

彼は怖くないのだろうか。

これから、世界の命運をその身に背負って、文字通りたった一人で戦わなければならないというのに。

だが数秒の間を置いて返って来た返事は、意外なものだった。

 

「………怖いさ。」

 

「え………?」

 

「今でも怖いさ。誰も飛んだ事のない宇宙を、たった一人で飛んでいくんだ。………今でも震えが来るさ。」

 

僅かに陰りを帯びた視線は、こちらから意図的に外しているようだった。

ハワードは微笑んでいながら、それでいて哀愁の漂う顔を浮かべていた。

 

「でも………、そこで怖がってちゃいけない。俺に誰かを守れる力があるなら、それを迷ってはいけない。そう言い聞かせて、ずっと戦って来た。」

 

その言葉に、ラチェットは思わず身を竦めた。

今の言葉は欧州大戦で、自分が彼に投げ掛けた言葉だった。

人にはない霊力があるなら、それを使う事を恐れてはならない。

まだ戦う術さえ知らぬ彼を戦場へ駆り立てる言葉。

それは今でも、彼の胸の中に強く残っていた。

まるで自分が彼をここまで追い詰めたかのようで、強い自責の念がのし掛かる。

 

「………ラチェット?」

 

何かに感づき、彼が訝しげにこちらを見る。

刹那、無意識の内に身体を小刻みに震わせている自分を、ラチェットは自覚した。

 

「………寒いのか? だったら何か掛ける物………。」

 

言いつつ、ハワードがフッと立ち上がる。

途端に身体の左側に冷たい風が吹き抜けた。

隣から彼がいなくなる。

脳がそう理解した時、ラチェットの心の何かが外れた。

 

「ま、待って………!」

 

もう限界だった。

彼を追い詰めた辛さと、支えにもなれない無力感。

そして彼と離れ離れになる恐怖が押し寄せ、ラチェットは震える声で服のたもとを掴んでいた。

 

「………、ラチェット………!?」

 

「行かないで………、一人にしないで………。お願い………。」

 

次第にぼやけていく視界が恐怖に拍車をかけ、弱々しい声で懇願する。

普段は絶対に見せない自分の姿にハワードも戸惑っていたが、やがて隣に再び座りその逞しく暖かい胸の中に顔を埋めさせてくれた。

今まで恐怖に震えていた心を暖めてくれる温もり。

もう離すまいと、気づけば両手を背中に回し、身体そのものを強く押し付ける。

すると、彼はそれに応えるように、優しく髪を撫でてくれた。

その全てが堪らなく幸せで、気づけば涙が溢れていた。

 

「ハワード………。私も………、私も怖いの………。」

 

「怖い?」

 

「貴方を失いそうで………、私の隣から貴方がいなくなりそうで………、そう思うと、怖くてたまらないの………!!」

 

この10年に及ぶ付き合いの中で、恐らく初めて口にした本心。

それを自ら認識し、ラチェットは自覚した。

彼を愛していると。

自分は彼を、今まで隣にいてくれた彼を、胸が苦しくなる程に愛しくてたまらないと。

 

「ずっと、ずっと苦しかった………。貴方がウルトラマンだと知って、何も力になれない自分が悔しくてたまらなかった。」

 

「ラチェット………。」

 

「理不尽よ………。どうして!? どうして貴方ばかりがこんな重荷を背負わなければいけないの!? どうして貴方だけが苦しまなければいけないの!?」

 

今まで心の内に溜め込んでいた言葉が堰を切ったように溢れ出す。

もう限界だった。

立場も何も忘れて、思いの丈を全てぶつけて、楽になりたかった。

紐育華撃団副司令でも、欧州の秀才でもなく、一人の女性、ラチェット=アルタイルとして。

 

「こんなの………、こんなのあんまりだわ! 平和になったこの街で………、やっと貴方と一緒にいられると………、思ってたのに………!!」

 

感情に呼び起こされるままに、子供のように思いの全てを溢れさせるラチェット。

その刹那の事だった。

 

「んっ………!?」

 

不意にその口が、何かに塞がれてしまった。

思わず目を閉じてしまい、その正体はわからない。

ただそれが、柔らかく温かい何かだと言う事は分かる。

 

「(………え………?)」

 

恐る恐る瞼を開けた先に見えたのは、距離を無くした彼の顔。

右手が背中を抱き寄せ、左手は優しく頬に添えられて。

勘のいいラチェットには、それだけで十分に分かってしまった。

自分が今彼に、何をされているのかを。

 

「ん………ふっ………、あっ………。」

 

裕に1分は経ったのではないかと言う頃、それはようやく唇を解放した。

 

「あ………。」

 

そして間髪入れずに、更に抱き寄せられる感覚。

少し胸が苦しい。

でも、離れたいとは思わない。

何故なら今自分は、抱きしめられているからだ。

目の前の彼に力の限り、壊れてしまう程に。

 

「………ラチェット。」

 

耳元で彼が囁いた。

鼓膜をくすぐる甘美な声色に、胸が激しく高鳴る。

 

「俺は今まで一人で戦って来たんじゃない。今までずっと、隣にお前が居てくれた。離れた所にいても、お前は俺を信じて見守ってくれた。だから、俺は今まで戦えたんだ。欧州の戦場でも、この街の怪物どもとだって………。」

 

「ハワード………。」

 

「俺だって同じさ。こんなに居心地良くて心が満たされるのは、お前の隣でこうしてる時だけだ。誰にも………、渡したくない。」

 

背中に回された腕に、力がこもる。

もう離さないと、彼が言うかのように。

 

「だから約束する。俺は絶対に勝つ。そして、絶対に………、お前の隣に帰ってくる。」

 

「ハワード………。」

 

「そして、叶えよう。お前の夢を、俺たち二人で叶えよう。」

 

それは、あまりにも唐突過ぎて、すぐには理解できなかった。

自分の夢を叶える。

平和な町で素敵な人と共に生きる自分の夢を。

それは………。

 

「ハワード………、それって………。」

 

「今まで10年間、俺はお前には助けられてばかりだった。だから今度は、俺がお前を助ける。悪い奴らを追っ払って、そして………ずっとここに、お前の隣にいてやる。」

 

その言葉の先の意味を理解した途端、胸の中に積もった感情がまた爆発した。

どうして彼は、根拠もなしにこんなことが言えるのだろう。

どうしてこんなにも、自分を安心させてくれるのだろう。

 

「ハワード………。」

 

そっと名前を呼び、胸板を押して少しだけ体を離してもらう。

言葉だけでは怖い。

こんなに心をつかんで離さない彼を、自分も束縛してしまいたい。

そんな思いからか、ラチェットは右手に嵌めていた指輪を外すと、それを彼の左手に嵌めなおした。

何の変哲もない簡素な指輪だが、自分の半生を共にしてきた大事なものだ。

それを彼女は、自身の代わりとして彼に託したのだ。

 

「………いいのか、ラチェット?」

 

「そんな大事な約束は、言葉だけじゃだめよ。何か印を送って、形にするの。じゃないと………私も安心できないわ。」

 

意外と言う表情をありありと浮かべる彼に、頬を赤らめながら呟く。

本当なら向こうから送るべきところなのに、これではあべこべだ。

だが、これでいいとラチェットは思う。

彼にはもう、十分すぎるほどにいろんなものを貰ったから。

目には見えない、言葉では言い表せないほどに素敵なものを。

 

「約束よ、ハワード。必ず、生きて戻ってきて。私はあなたの事、信じてるから………。」

 

「ああ、約束する。俺は必ず生きて帰ってくる。生きて必ずここに………、お前の隣に帰ってくる。」

 

互いに見つめ合い、誓いを交わす二人。

夜空に輝く星をバックに、二つの影がまた一つになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それではこれより、最終作戦の確認を行います。」

 

出撃を10分後に控え招集された星組に、副司令のいつになく張り詰めた声が響く。

この一戦で紐育の、世界の未来が決まる。

信長戦を超えるほどの重圧に耐えるその顔は、いずれも硬い。

 

「紐育華撃団星組はエイハブにて虚数空間出現と予測される座標に接近し、スターで待機。予告時刻に虚数空間が出現した所で六破星降魔陣を発動。敵の虚数空間通過を阻止します。」

 

「そして、ウルトラスターが虚数空間を通過。バルタニコスを急襲し、黒幕であるエイリアン・バルタンを仕留める。」

 

こうして見ると、実に見切り発車な作戦と言わざるを得ないが、他に方法がない以上覚悟を決めるほかない。

だがこれまでだって決して高い確率で戦いに臨んでいたわけではない。

かつての第六天魔王をの戦いのように、どんなんい可能性が低くとも諦めずに戦う。

決意は、固かった。

 

「よし………、イッツ・ショータイム!! 僕らのファイナル・ステージだ。大河隊長、出撃命令を頼む!!」

 

その場の全員を、そして自らを鼓舞するかのように、サニーサイドが力強く叫ぶ。

新次郎は立ち上がると、それに負けない程の気迫で出撃命令を下した。

 

「紐育華撃団星組、出撃!! 平和を取り戻し、生きて帰りますっ!!」

 

「「イェッサーッ!!」」

 

未来か、それとも終焉か。

世界の命運をかけたファイナルステージが、遂に幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紐育マンハッタン島より15万フィート。

雲の広がる対流圏を遥か下方に見下ろし、オゾン層ギリギリの成層圏界面に、7つの星が漂っていた。

時刻は午前4時55分。

かの侵略者の予言が正しければ、間もなく邪の空間生まれる場所だ。

 

「………もうすぐだな。」

 

誰に言うとでもなく、呟く声があった。

ハワードだった。

この作戦の中核、最も危険なポジションに経つ人間だ。

いつでも作戦を実行できるように繋げたままの通信モニターには、普段と変わらぬ表情の彼がいる。

 

「………サジータ。」

 

ふと、ハワードが一人の名前を呼んだ。

 

「思えば前から、お前には散々絞られてたよな? 自転車は制限速度を守れだの、警察に追われたら大人しくしろだの。」

 

「ああ、そんな事もあったっけね。」

 

随分昔、まだ二人が顔を合わせるたびにいがみ合いを起こしていた頃。

二言目には法律が当たり前だったサジータにとって、自分というのは社会不適合者以外の何者にも映ってはいなかった。

それが今は、息の合った戦いで敵を圧倒する戦闘の中核をなしている。

そりが合わなかった彼女が、よくここまで自分を認めてくれたものだ。

 

「リカ、そういや去年からハンバーガー食う約束してたのに、行けんずくだったな。どうだ? 帰ってきたら勝ち祝いでパーッと食い歩くか。」

 

「ホントか!? リカ行く!! 絶対行く!! ハワード、約束だぞ!」

 

モニター一杯に目を輝かせるリカリッタ。

来てすぐはワンマンで協調性の欠片もなかったじゃじゃ馬も、すっかり妹分に定着してしまった。

無邪気にはしゃぐ様子を見ると、何だか本当に妹のようで、気づけば笑みが漏れる。

 

「ダイアナ、ここ半年は随分取り締まられたよな。今ここに一服あるんだが………だめか?」

 

「ええ、いけません。勝って………帰ってきた時まで取っておいてください。その方が、美味しいんでしょう?」

 

「ハハッ。違いねぇや。」

 

互いに最悪の第一印象から始まったダイアナ。

生きる希望を取り戻した彼女には、未だに頭が上がらない。

最期位はと淡い期待を抱いてみたが、そこまで甘くはなかったようだ。

 

「昴………、お前とは欧州からの付き合いだが、いい加減ハッキリさせたい事がある。」

 

「何かな?」

 

「お前………結局男か女どっちなんだ?」

 

「………秘密だ。無事に帰って来れたら教えてやるよ。」

 

今まで通り、だが僅かに嬉しそうな表情で、昴は意地悪く答えた。

そんなことを言われたら、意地でも帰って来なければいけないではないか。

どんなに丸くなっても食えない奴だと、ハワードは思う。

 

「ジェミニ、お前ん所の馬いたよな?」

 

「ああ、ラリーの事?」

 

「そうそう。あいつには自転車を抜かれて挙句鼻で笑われてんだ。リベンジするから伝えといてくれよ。」

 

モニターの奥の顔が思わず吹き出す。

ジェミニは、強い女性だと思う。

育ての親も、半生を共にした姉を亡くして天涯孤独でありながら、それを感じさせないほどに強く、たくましく生きている。

最もそれは、隣にいるサムライの存在なのだろうが。

 

「新次郎………、お前には礼を言わなきゃいけないな。」

 

「お礼、ですか?」

 

見当がつかないという表情の隊長。

心当たりがないのは当たり前だ。

これは彼の与り知らぬ所で与えられた恩恵なのだから。

 

「お前は、俺の尊敬する男に似ていた。理論や根拠がなくても、絶対に夢をあきらめない。どんなに現実に打ちのめされても、絶対にその意志を曲げない。俺が昔無くした何かを、お前は呼び起こしてくれた。」

 

「ハワードさん………。」

 

「可能性と希望があればいい。この命がある限り、決して諦めない。諦めずに進み続けて、夢を形にする。そう信じる強さを、お前は教えてくれた。………言ったろう?大神って奴よりお前がいいって。」

 

大河新次郎。

遥か東の島国からやって来た若きサムライは、思い出の父によく似ていた。

一生かけて叶えられるか分からない理想を掲げ、理論も根拠もなくただひたすらに夢だけを追い続ける。

どんな現実や正論に破られたとしても、諦めない。

どんなことでも、絶対に諦めない。

彼曰く、信念を貫き通すその生き様を『武士道』と呼ぶとの事。

ならば自分も、父より受け継いだ『フロンティア・スピリット』で応えよう。

諦めなければ、不可能さえ可能になる。

そう信じて。

 

「ハワード、約束だ。絶対に………絶対に生きて帰って来い。もし履行不能になったら、訴えてやるからな。」

 

「リカも! 嘘ついたら銀の銃でバッキューンだぞ? ハワード、約束だぞ!?」

 

「私たちの勝利は、貴方の命の輝きがあってこそ………。それだけは、決して忘れないで下さいね………。」

 

「昴は思う。君がウルトラマン足り得た理由は偏にその輝き。それが君を認め、力を与えたんだ。夢を掴む、不可能さえ可能にする力を。」

 

「ハワード、ボクも信じるよ。だって、ハワードは、ウルトラマンだもん。」

 

「ハワードさん。この世界の未来を貴方に託します。どうか………どうか生きて帰ってきてください!」

 

「ああ、約束する。明日を生きるために………、みんなで笑って明日と言う日を迎えるために、俺は必ず帰ってくる!!」

 

確固たる決意を述べ、モニター一杯のサムズアップを交わす星組。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その瞬間は訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらエイハブ!! 座標予想地点より、高濃度の妖力反応を確認。」

 

「これまでの虚数空間のデータと一致。恐らくビンゴよ!!」

 

始まりはエイハブの虹組からの緊急連絡だった。

サニーサイドの予想はズバリ的中した。

自分達の囲んだちょうど中央から、周囲一帯の空間が渦を描くように歪み始めたのである。

それが何の前兆か、星組の誰もが知っていた。

 

「みんな、手筈通りに霊力を練りこむんだ!!」

 

「「イェッサーッ!!」」

 

六破星降魔陣。

それは、強大な霊力を持つ者が特定の陣を組み、同様の呪文を繰り返し口にして霊力の波動を一致させる事で発動させる強力な魔法陣だ。

その射程は大都市一つを容易く飲み込み、破滅的な爆発を引き起こす事が出来る。

6年前の帝都でも光秀こと天海が地中にてこの術を発動し、一夜にして壊滅的な被害を引き起こした事例もある。

五輪曼荼羅と並んで五輪の戦士が操る、正に東洋の神秘だった。

 

「オンキリキリバサラウンバッタ………!」

 

「オンキリキリバサラウンバッタ………!」

 

「オンキリキリバサラウンバッタ………!」

 

「オンキリキリバサラウンバッタ………!」

 

「オンキリキリバサラウンバッタ………!」

 

「オンキリキリバサラウンバッタ………!」

 

目を閉じて意識を集中し、14の文字からなる短い呪文をひたすらに繰り返す五輪の戦士。

やがて歪みの中心に黒点が生じ、次第に大きく広がっていく。

刹那、それを阻むように、神々しい黄金色の陣が鮮やかに浮かび上がった。

 

「「五輪の戦士の名の下に、いざ! 魔を滅せよっ!!」」

 

極限まで練りこんだ霊力の奔流が、目の眩まんばかりの閃光となってブラックホールを照らし出した。

激しいスパークと、鳴り止まぬ爆発音。

間違いない。

この先に奴らの本拠地、バルタニコスがある。

確信を胸に、神秘の星が飛び出した。

 

「見せてやるぜ………、今世紀最高の大魔術をな!」

 

万物を滅ぼしつくす閃光の中心を、ウルトラスターが駆け抜ける。

その姿が見えなくなる刹那、エイハブのモニターで見守っていた一人の技師が、思いにふける様子で呟いた。

 

「見ておられるか、ロビン殿………。貴方の、息子ですぞ………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閃光の果てに見えたのは、どこまでも続く広大な宇宙だった。

水も、音も、空気も、光さえ射さない暗闇の空間。

その真っ只中に、神秘の星はあった。

 

「………これが………宇宙なのか………?」

 

遥か昔、思い出の中の父が憧れた宇宙。

その中に今自分がいるのだと思うと、何となく感慨深い感情が湧き上がってくる。

 

「………っと、早速歓迎してくれるみたいじゃねぇか。」

 

だが、侵略者はその僅かな感動さえ許してはくれなかった。

目の前には視界を埋め尽くさんばかりの、見た事もない形をした無数の円盤群。

恐らくバルタン星人の差し金か同族だろう。

霊力や蒸気機関もなしにどうやって浮遊しているか実に不思議だが、今はそんなことを考えている場合ではない。

一刻も早くこの守りを突破し、本拠地であるバルタニコスに辿り着かなければならないのである。

 

「行くぜ、ウルトラスター。」

 

生まれ変わった相棒に語りかけ、ハワードは操縦桿を目一杯前に倒す。

神秘の星が、唸りを上げて宇宙空間を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

広大な宇宙を舞台にしての、文字通りたった一人の最終決戦。

こちらを迎え撃たんと待ち構える数えきれないほどの円盤群を相手に、ウルトラスターは真正面からの突破を敢行した。

別に敵の全てを相手にする必要はない。

この厳重な防衛網を突破し、敵の根城にて大将を討てばそれでいいのだ。

そしてその戦闘も、恐らくウルトラの力に頼る事になる。

言うなれば、ここでハワード自身の霊力を出し惜しむメリットは何もなかった。

 

「邪魔だ、こなくそぉっ!!」

 

怒号と共に打ち出されたミサイルが、眼前にて待ち構える円盤を爆砕する。

だが直後に脇からリング状の破壊光線を撃ち込まれた。

何とか紙一重で回避に成功するも、無効は数に物を言わせて立て続けに多種多様な怪光線で襲い掛かってくる。

如何に操縦の腕が超一流であったとしても、大勢の敵に囲まれた状態に単機で突入するのは自殺行為。

多勢に無性とはこの事だろう。

だがしかし、その身に光を宿したこの男は、それを自身の腕と度胸だけで乗り切って見せた。

 

「幻の一閃………、ソニック・イリュージョン!!」

 

赤と銀で塗り固められた一つの星が幾重もの残像を残し疾駆した。

その軌道に巻き込まれた円盤は一斉に炎に包まれ、その炎が周囲に飛び火してさらなる大爆発を起こす。

残った数機の円盤がこちらを追跡しようとするも、霊力ブースターを全開にして加速状態に入ったスターには追いつけないのか、みるみる速度を離していく。

 

「こんな所で落とされてたまるかよ! 俺はまだ、くたばる訳にはいかねぇんだからな!!」

 

誰に言うとでもなく、霊力ブースターをさらに加速させるハワード。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがこの時、彼は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の帰りを待つ町と仲間が今、かつてない窮地に立たされている事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはウルトラスターが虚数空間内部への突入を成功させた直後、他ならぬ虹組からの緊急報告がきっかけだった。

 

「き、緊急報告!! 紐育上空に、小規模の虚数空間が出現! その数、およそ300!!」

 

「虚数空間内部より強力な妖力反応が5か所! いずれも怪獣レベルだわ!!」

 

その報告は、最初の作戦に安堵した星組を震え上がらせるに十分すぎた。

不覚だった。

やはり相手は、一度に複数の虚数空間を生み出す技術を用意していたのだ。

 

「まさか………、ハワードがいなくなった隙を狙って………!!」

 

「それだけじゃない。僕達もこの空間を抑える以上、この場から離れる事が出来ない。………万事休すだ………!!」

 

既に下方では怪獣と思しき方向と共に、何かが爆ぜる音が絶え間なく聞こえてくる。

完全にしてやられた。

このままではハワードが戻る前に、紐育本土が焦土と化してしまう。

万策尽きて、成す術を失う星組。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがしかし、彼らはもちろんバルタン星人さえ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この街に今、大いなる光の奇跡がもたらされるという事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紐育とアメリカ本土を繋ぐ架け橋の一つ、ブルックリン橋。

その中央から怪物たちに蹂躙され始める世界屈指の大都市を見つめる、一つの影があった。

厳かな雰囲気を感じさせる、日本帝国陸軍の軍服。

その胸の階級は、大尉。

 

「やはり………、そうしかけて来たか。」

 

まるで相手がそうする事を事前に予測していたかのような口ぶり。

事実、彼は知っていた。

今、この街を脅かす侵略者が、残虐かつ卑劣の極みを行く存在であることを。

 

「だが、その唯一の誤算がある。………この私が、この星に留まっていたということだ。」

 

空間の裂け目の向こう側にいるであろう宿敵を睨み、右手を高く掲げる。

刹那、目の眩まんばかりの選考がブルックリン橋を飲み込んだ。

 

「今一度見せてやろう、バルタン星人!! 我らウルトラの光を!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、見渡す限りが岩に覆われた不毛の世界だった。

遊星ジュラン。

1000年に一度、水と緑の星に近づく大きな流れ星。

そして、広大な自然と無数の命が生きていたと言われていた星。

だがそれは、もう過去の物へと成り代わっていた。

ジュランは、死んでいた。

血も涙も、一欠けらの慈悲さえ持たない、侵略者の手によって。

 

「………来たか。」

 

息絶えた星に足を下ろしたウルトラスターに、低く鋭い声が突き刺さった。

その正体が誰であるかなど、考えるまでもない。

 

「来るとすれば貴様だと思っていた。あの星の科学の遅れ具合では、とても無重力の空間を行き交う事など出来まい。だとしたら生きてここまで来られるのは、人ではない存在だけだ。」

 

「その大口は変わってねぇな、エイリアン! お前なんざ俺一人で十分だってんだよ!!」

 

モニターの前に現れた侵略者を前に、負けじと言い返すハワード。

敵はこちらも驚くほどの策略家だ。

当然これまでのように何等かの罠を何重でも仕掛けている事だろう。

だがハワードの目は、自信にあふれていた。

遠い宇宙の果てでも、大事な仲間が見守ってくれている。

自分は一人ではない。

そう思うだけで、心に巣食う恐怖や疑心と言った感情は、跡形もなく消えてしまっていた。

約束したからだ。

必ず生きて帰ると。

この世で一番大切な人の夢を、共に叶えると。

 

「ククク………、果たしてその威勢がいつまでもつかな?」

 

覆面の下で薄気味悪く笑い、空蝉は懐から一枚の札を取り出した。

地面に叩きつけられた札は砂塵を巻き上げ、眼前の忍びを飲み込んだ。

やがて砂塵は巨大な大竜巻へと変わる。

反射的に体が強張る。

あれは確か、怪獣を呼び出す際の道具だったはず。

やはりまだ隠し玉が残っていたか。

身構えるウルトラスター。

だがしかし、その札が呼び寄せたのは予想外の怪物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フォッフォッフォッフォッ………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、これまで生きてきた中で見た事もないような化け物だった。

鋭いハサミを模した両腕。

亀の甲羅を思わせるほどに難い外骨格。

そして蝉を思わせる顔と、その中心に炯々と光る二つの複眼。

これこそ紐育の街を脅かし、14年に渡って地球を執拗に襲い続けた史上最悪のエイリアン。

 

宇宙忍者、『バルタン星人』だった。

 

「とうとう正体見せやがったな、エイリアン………!!」

 

機械極まりない怪物を前に、ハワードは左袖に固定させていた星、ミレニアムスターを掴む。

思えばこの光を手にして1年。

自分が人というカテゴリーから外れ、光と言う未知の世界へ足を踏み入れて長い年月が過ぎようとしている。

これは恐らく、その最後の戦い。

中央に輝くその紅い輝きは、持てる力の全てを存分に振るえと、自分に語りかけてくるようである。

 

「(親父………、ラチェット………、行って来るぜ。)」

 

心の中に過る顔にそう告げ、ハワードはキッと目の前の侵略者を睨む。

そして右手の星を高々と掲げ、その名を叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タロオオオォォォゥッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

広大な宇宙の果てに、それは一条の光を伴って現れた。

神秘の星を包み込むは、闇を切り裂く光の柱。

やがて光は一つの巨人を形作り、死に絶えた大地の再び足を叩きつける。

燃え滾る灼熱の業火の如き赤い全身と、雄々しき猛禽の如き鋭い眼光。

そして頭に映える二本の角と、胸に輝く空色のカラータイマー。

それはこれまでの巨人たちとは一線を画するとさえ言われた、光の巨人。

 

摩天楼の守護神、ウルトラマンタロウだった。

 

「デヤァッ!!」

 

豪快に地面を踏みしめ、往年の宿敵に相対するタロウ。

バルタン星人はその様子に怖気づく事はなく、不敵な笑い声を以って返した。

 

「忌々しい光の巨人め………。だが我らとて以前のままではないぞ?」

 

「昔なんざ知るか! 今のお前を倒せりゃそれでいいんだよ!!」

 

「面白い。行くぞ、ウルトラマンタロウッ!!」

 

言うや、バルタン星人が仕掛けた。

突きだされた両のハサミから妖しく紫に光る邪念の光弾が、疾風の如く飛び出す。

 

「ハッ!!」

 

それに反応するかのごとく、タロウも突き出した両手の先からアロー光線を発射した。

威力、速度共に互角の光弾同士は中央で相殺され、激しいスパークを残して跡形もなく消え失せる。

 

「ムンッ!!」

 

「フォッフォッフォッ………!!」

 

その煙幕が消えるか消えぬかの間に駆け出し、一気に間を詰めるタロウ。

すると向こうも接近戦に自信があるのか、真っ向から突進攻撃を仕掛けてきた。

 

「ハッ!!」

 

煙幕を突き破っての正拳突き。

だがそれは、煙の奥の固い何かに遮られて不発に終わった。

晴れてみるとそこには、図太いハサミの腹で器用に拳を食い止めるバルタンの姿があった。

 

「フォッ!!」

 

お返しと言わんばかりに両手のハサミを突きの構えで突きだすバルタン。

タロウはそれを内側から伸ばした両手で遮り、がら空きになった腹部に強烈なミドルキックをぶち込んだ。

 

「デヤァッ!!」

 

更に追い打ちとばかりに固く握った左の拳を豪快に顔面に叩きつける。

もんどりうって倒れるバルタン星人。

その腹へ馬乗りになるや、パンチの嵐が降り注いだ。

だが形勢が傾いたと思った矢先、唐突な反撃が襲い掛かった。

 

「フォッ!!」

 

何発目か分からないパンチを浴びせんと拳を振りかぶったその時、眼前の宇宙人の目が突然眩い閃光を放ったのである。

一瞬視界を遮られ、攻撃の手が止まるタロウ。

その隙を突き、バルタン星人は至近距離から光弾を直撃させた。

 

「デェッ!?」

 

防御を固める間もなく、5万トンの巨体が遥か後方まで吹き飛ばされ、大地に沈む。

そこへ更なる追撃が加えられた。

 

「フォッフォッフォッフォッ………!!」

 

勝ち誇ったかのような笑みを浮かべ、両手のハサミを地面に突き刺すバルタン星人。

刹那、驚くべきことが起こった。

ハサミから怪しい光が地面に注がれたかと思うと、タロウの周囲を囲むように無数の半月上の刃が、まるでサメの背びれの如く突き出てきたのである。

四方八方を囲まれたこの状況では、逃げ場はないに等しい。

 

「このまま挽肉にしてくれるっ!!」

 

バルタン星人の指令を合図に、無数の刃がその身を刻まんと一斉に襲い掛かる。

するとタロウは、両腕を斜め上に上げてY字を作り、そのまま高速回転を始めた。

超高速回転で周囲に激しい竜巻を引き起こす、タロウスパウトである。

 

「ムンッ!!」

 

その全身を包む風の壁に阻まれた背びれたちは逆に風の生み出す刃に切り刻まれ、ものの数秒もしない内に砂塵へ還る。

やがて竜巻が止むと、無傷の巨人が姿を現した。

 

「やってくれる! こうでなくては面白くないわ!!」

 

負け惜しみを吐き捨て、空高く飛び上がるバルタン星人。

陣取った遥か頭上から、こちら目がけてハサミを突きだす。

 

「ハッ!」

 

突如襲いくる光弾を側転で避ける。

だが相手は距離が取れたのをいい事に立て続けに光弾の嵐を浴びせてきた。

タロウも負けじとバリアを張り、光弾を弾く。

そうしてひとしきり避け続けるタロウに業をにやし、バルタン星人は光弾を連射しながら自身も弾丸の如く突っ込んできた。

 

「デェッ!?」

 

弾丸がバリアを突き破り、タロウの両腕を挟み込んだ。

その勢いで突き進み、真後ろの切り立った崖の麓に叩きつける。

衝撃で僅かに崖が崩れ、後ろ半身が飲み込まれる。

 

「忌々しい巨人共。貴様らに消された我が同族の恨みを晴らすこの瞬間をどれだけ待ち望んだことか。」

 

「同族………?」

 

タロウは眉を寄せた。

当初、バルタン星人の目的は地球侵略だったはず。

いつの間に同族の仇討などと言うものに話がすり替わっていると言うのだろうか。

その答えは、6年前の帝都における聖魔城決戦にあった。

 

「忘れたとは言わせん。6年前にこの星を征服するべく暗躍した我らの長を殺したのは、他でもない貴様らM78ウルトラ族。目前に迫る我らの悲願も、貴様らによって潰されたのだ!!」

 

「………何だよ、要するに逆恨みじゃねぇか。」

 

鋭い眼光が、蔑みの視線を送る。

元々侵略を始めたのは向こう側だ。

何の落ち度もないこちらは被害者と扱われるならまだしも人殺し扱いされる謂れはない。

 

「侵略してきたのはそっちだろうが、この蝉野郎………! そんな奴らに同情する気はさらさらねぇっ!!」

 

言うや二本の角からブルーレーザーが飛び出した。

不意を突いた攻撃にたじろぐバルタンの腹を蹴りつけて拘束を解く。

 

「フォッ!!」

 

後ろへ追いやられながらも光弾で牽制を仕掛けるバルタン星人。

だが、目の前に打ち出された光弾は、巨人を狙い撃つ事は叶わなかった。

何故ならその瞬間、タロウはかの宇宙人の頭上を華麗に跳躍していたからだ。

 

「ハッ!!」

 

空中を乱回転し、スワローキックの一撃を叩きこむ。

完全に攻撃の隙を突いたカウンターには対応しきれず、顔面に蹴撃を食らったバルタン星人は真後ろへと吹き飛ばされる。

現状は五分五分。

勝負は再び振り出しに戻った。

 

「生憎だが、俺はこんな所で終われない身なんでな。俺も、あの星も、お前の好きにはさせらんねぇんだ!」

 

勇ましく構え直し、タロウが啖呵を切る。

他の命を何とも思わない侵略者に、地球とそこに住まう人達の未来を壊されてはいけない。

それを食い止め、明日を齎す事が出来るのは、他ならぬ自分だけなのだ。

今更怖気づくような真似はしない。

どんなに追い詰められようと、何処までも足掻いて勝利を掴んでみせる。

かつて誰より尊敬した父が、そう生きたように。

 

「元より同情を受けるつもりもない! ようやく掴みかけた我らバルタンの繁栄を今一度齎すために、ウルトラマンタロウ! まずは貴様から死んでもらう!!」

 

言うや、周囲一帯を激しい震動が襲う。

これ以上、一体何をしようというのか。

得体の知れぬ不審感に周囲を警戒するタロウ。

刹那、その眼前の大地が裂け、中から想像を絶する怪物が姿を現した。

肉食獣を思わせる凶悪な面構えと、自分にタメを張れる程に大きな左右の角。

五角形の不気味に湿った腹部と、針千本を想起させる程に棘地獄の背中と尾。

鋭い鎌状の左腕と、鉄球の右腕。

そして背中に生えた昆虫特有の見覚えのある羽と、何より自身の2倍以上を誇る超巨体。

見覚えがあった。

星組設立直後、大久保長安が召喚したとされる史上最強にして最悪の破滅の使徒。

 

「見るがいい、ウルトラマンタロウ! これぞ我がバルタン一族最高傑作!! 究極怪獣兵器ネオタイラントだ!!」

 

「グエエエェェェンッ!!」

 

喝采を上げる主に応えるかの如く、聞く者全てを震え上がらせる破滅の咆哮が轟く。

かつて帝都を大いなる怨念と共に震え上がらせた悪夢の怪獣。

その地獄が、遠い辺境の宇宙に蘇った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暴君怪獣タイラント。

暴君を意味するその言葉を冠する怪獣の存在を知ったのは1年前、星組結成間もない頃だ。

大久保長安の反魂の術によって集められた無数の怨念によって誕生した、史上最強にして史上最悪の大怪獣。

それが1年半の月日を経て更なる進化を遂げているとは、予想だにしないことであった。

当時でさえウルトラマン3人がかりでやっと倒せたほどの酷烈な戦闘能力と強靭な生命力を併せ持つ怪物である。

それにたった一人で挑むなど、常識的に考えなくとも無謀以外の何物でもない。

 

「デヤァッ!!」

 

しかしそれでも自分が、ウルトラマンが逃げる訳にはいかない。

覚悟を決めて真正面からアロー光線を浴びせるタロウ。

だがその鉄壁を誇る頑丈な皮膚は、牽制球に過ぎないアロー光線を事もなく弾き返してしまう。

こちらを見下ろす蔑みの目。

まさか、効いていないのか。

 

「グエエエェェェンッ!!」

 

お返しとばかりに大怪獣が天に吼える。

刹那、その大きく開けられた口に灼熱の陽炎が見えた。

 

「グエエエェェェンッ!!」

 

鋭利な牙が揃う顔がこちらを睨む。

その直後、万物を焼き尽くす灼熱の業火が津波の如く襲い掛かった。

 

「ハッ!!」

 

間一髪跳躍でそれをかわし、背中に回り込む。

すると今度は、大蛇の如く長い尻尾が体に巻きついてきた。

 

「デェッ!?」

 

完全に不意を突かれ、身動きの一切を封じられるタロウ。

ネオタイラントはその巨大な体を豪快に一回転させ、凄まじい遠心力を以って巨人を先ほどの崖の麓に叩きつけた。

たちまち崖が崩壊し、真紅の体が灰色の大地に沈む。

 

「フォッフォッフォッフォッ………!!」

 

そこへすかさずバルタン星人の光弾が襲いくる。

だがしかし、真紅の巨人の魂はこれしきの事では消えない。

 

「デヤァッ!!」

 

再び地中から飛び出し、大怪獣の頭上目がけてスワローキックを繰り出す。

だがその一撃が食い込まんとした瞬間、思いも寄らぬ反撃がタロウを襲った。

 

「デェッ!?」

 

何と、眼前の角から高圧電流が迸り、タロウの全身を包み込んだのだ。

予想外のカウンターに意表を突かれ、そのまま落下するタロウ。

その横から、容赦なく鎌の一撃が見舞われた。

 

「デェッ!?」

 

まるで隕石が直撃したかのような、とても形容しがたい全身を砕かれるかのような衝撃に一瞬意識が飛ぶ。

5万トンの重量を誇る体がボールのように地面を跳ね、大地に沈んだ。

 

「どうだウルトラマンタロウ! 如何にオーブとブレスレットを身に着けた所で、この科学の粋を集めた究極の怪獣兵器に勝てる筈もあるまい!!」

 

圧倒的優勢な戦況に既に勝利を確信したのか、満面の笑みで喝采を上げるバルタン星人。

確かにこの強さは反則だ。

無数の怪獣の遺伝子を合成した事による多種多様な攻撃手段に、その全ての威力を助長するバイタリティ。

先週のインペライザーがかわいく思えるほどである。

 

「ムンッ………!!」

 

しかし、それでもタロウは立ち上がった。

自分は彼らと約束した。

必ず勝ち、生きて帰ると。

大切な人の願いをかなえ、共に生きていくと。

その未来をこんな形で閉ざされてたまるものか。

 

「(諦めねぇ………、まだ諦めねぇぞ!!)」

 

両手を頭上で合わせ、残されたエネルギーを一気に練りこむ。

これは最早賭けだ。

通じなければ終わり。

躱されても終わり。

しかし、最早考え付く有効な攻撃手段はこれしかない。

この一撃に、全てを賭けた。

 

「ネオストリウム光線!!」

 

全身に残されたすべてのエネルギーを両腕に集中させ、×字を組み一気に解き放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グエエエェェェンッ!!」

 

ネオタイラントの腹部の五角形が、待ち構えていたかのように大きく開く。

すると、驚くべきことが起こった。

オメガロイドさえ敗れなかったネオストリウム光線の一撃が、五角形に事もなげに吸い込まれてしまったのである。

それだけではない。

度重なるダメージと今の大技の使用で、遂にカラータイマーが点滅を始めたのである。

 

「デェッ………!」

 

途端に押し寄せる疲労感に膝を突き、両手で辛うじて体を支えるタロウ。

冗談ではない。

頼みの綱のネオストリウム光線が通用しなければ、最早こちらに攻撃手段は残されていない。

敗北、そして絶望。

これまで希望と言う言葉を盾に振り払い続けてきた最悪の未来が脳裏を過る。

 

「グエエエェェェンッ!!」

 

暴君は何処までも容赦なかった。

まともに動けないタロウの体に右の鉄球から鎖を放ち、右腕に巻き付けたのである。

その一瞬、バランスを崩してうつぶせに倒れるタロウ。

すると大怪獣は大地を踏み鳴らし、まるで罪人を引き回すかのごとく走り始めた。

抵抗はおろかまともに動く体力すら残っていないタロウは、成す術なく引きずられて行く。

紐育の人々が見れば即座に希望を失ってしまうような地獄絵図が、そこには広がっていた。

 

「グエエエェェェンッ!!」

 

トドメとばかりに右手を大きく振り回し、巨人の体が三度地面に沈められた。

その怪力に周囲の地面が抉れ、巨大なクレーターをも生み出す。

 

「何が希望だ。何が信じる心だ。今のその惨めな姿を見るがいい。」

 

嘲笑の声が冷たく響く。

痛みを通り越して全身の感覚が感じられない。

どうやら神経も何が起こったか理解していないらしい。

 

「ムンッ………!!」

 

それでも何とか起き上がろうと両の手を地面に押し付けて体を押し上げるタロウ。

すると、侵略者は僅かに声色を驚きに変えた。

 

「ほう、まだ動けるのか。最もここまでくると、滑稽でしかないがな。」

 

「………言ってろ………! 体が砕かれようが………そのデカ物に踏み潰されようが、俺は………俺は負けねぇ………!!」

 

やっとの思いで上半身を起こし、挑発を返す。

 

「約束したんだ………!! あいつらのためにも絶対諦めない!! 必ず………生きて、帰ってくるってな!!」

 

「ほざけ。その仲間とやらが今どうなっているかも知らぬくせに何が守るだ。」

 

「………何………!?」

 

その一瞬、全身を駆け巡る痛みを自覚する事さえできなかった。

何故なら今、聞こえてはいけない言葉が聞こえた気がした。

 

「少しは不思議に思わんのか? 貴様が撃ちこぼしてきた我が同胞が、何故ここまで追って来ないか。なぜわざわざこのバルタニコスで貴様を待ち構えていたか。」

 

言葉が出ない。

その問いの答えなら分かる。

その疑問の全てを一言で説明できるだけの回答は、今脳内にある。

しかしそれは同時に、絶対に認めてはならない回答でもあった。

もしそうだとすれば今頃紐育は………、

 

「馬鹿な………!! 虚数空間は星組にふさがれている筈………!!」

 

「馬鹿は貴様らだ。我々の召喚できる虚数空間が一つなど、誰が言った?」

 

その言葉が、回答を暗に示していた。

同時に展開できる虚数空間は一つではない。

つまり向こうは、同時に複数の虚数空間を生み出す事が可能という事になる。

つまり………、

 

「教えてやろう、ウルトラマンタロウ。このバルタニコスこそ、貴様を誘い出すための囮だ。我が僕の怪獣軍団が、貴様の生まれ故郷を荒らしつくすためのな!!」

 

「なっ………!!」

 

目の前が真っ暗になった。

自分をこの星に誘い出している隙に、怪獣軍団を紐育に差し向けた。

聞き違いでなければ、目の前の侵略者は確かにそう言った。

星組はあの巨大なブラックホール前で待ち構えるのが精いっぱい。

ただでさえ昨夜のダメージが補修できていない彼らに、複数の怪獣兵器を相手に出来る筈が無い。

まさか………。

暗い予感が脳裏を過る。

 

「まだ信じられんと言う顔だな。いいだろう、貴様にもとくと見せてやる。地獄とかわった摩天楼をな!!」

 

バルタン星人が右のハサミを天に掲げた。

すると広大な宇宙の空に半透明の巨大スクリーンが投影され、煙と咆哮の轟く紐育の街を映し出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………、………何………?」

 

その光景に驚きの声を上げたのは、何とバルタン星人の方だった。

無理もない。

何故ならスクリーンに映っていたのは怪獣たちによって蹂躙される紐育の姿ではない。

その怪獣たちに果敢に立ち向かう、もう一人の光の巨人の姿だったからだ。

 

「豊さん………!!」

 

思わずその名を呟くタロウ。

そこにいたのは14年もの昔に地球を守った、史上最強のウルトラマン。

一ノ瀬豊、ウルトラマンゾフィーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

守る者の無き紐育を踏み荒らさんと、ブラックホールから襲いくる怪獣軍団。

誰もが驚愕と絶望に震えたその時、はるか南方のブルックリン橋から一条の閃光を伴い、それは現れた。

赤と銀の神秘的で力強い体色。

胸の輝くカラータイマーと、宇宙警備隊長を示すスターマーク。

誰よりもこの星を愛し、守り抜くことを誓った最強無敵の光の巨人。

ウルトラマンゾフィーがそこにいた。

 

「ダァッ!!」

 

低く力の籠った掛け声とともに空を舞い、目の前の怪獣目がけてキックを浴びせる。

かつて帝都銀座にて弟を苦しめた放電怪獣エレキングⅡ。

頭の角が鋼鉄製に改造されている所を見るに、どうやらかの侵略者によって改造されているのだろう。

 

「ガーーーッ!!」

 

突然の奇襲に対応できず、周囲の建物をなぎ倒しながらもんどりうって倒れるエレキングⅡ。

すかさず馬乗りになって追い打ちをかけようとするゾフィーだが、そこへ不意打ちによるカウンターが加えられた。

 

「ムッ!?」

 

突如後方から飛来した光弾が背中を直撃し、その衝撃で前のめりに倒れる。

起き上がってみると、光弾を放った正体が両手の先から煙を上げてこちらを睨んでいた。

魔城安土で星組を待ち構え、グラマシー地区を襲った怪獣兵器モンスアーガーⅡだ。

かつて弱点だった頭の皿の部分は、何やら一本角にとって代わり、光弾を発射する両手はやはり鋼鉄製に改造されている。

 

「グオオオオッ!!」

 

更に立て続けに両手から光弾を浴びせてくる怪獣兵器。

ゾフィーはそれを跳躍で華麗にかわし、即座に反撃に移った。

 

「シュワッ!!」

 

空中一回転で勢いをつけての手刀。

縦に一閃したそれは頭の一本角を直撃し、へし折って見せた。

 

「ダァッ!!」

 

そのショックで怯んだ怪獣を持ち上げ、ようやく起き上がりかけたエレキング目がけて叩きつける。

そして両腕を胸の前で合わせて内側から一回転させると、再び胸の前に合わせて同時に突き出した。

 

Z光線。

 

激しい稲妻を迸らせて複数の敵を一度に攻撃する必殺技だ。

本来なら小威力の牽制技であるのだが、ゾフィーはこの技でさえ先ほどのチャージで一撃必殺にまで磨き上げているのだからたまったものではない。

 

「ガーーーッ!?」

 

「グオオオオッ!?」

 

全身を凄まじい高圧電流に焼き尽くされ、同時に爆発する二大怪獣。

だが息つく暇もなく、ゾフィーは続く刺客に対峙した。

遥か西の巴里より現れた怪人カルマールの僕、レイキュバスⅢ。

甲殻類特有の外骨格に加え、両手にハサミが金属製の刃物に挿げ替えられている。

 

「ギィーーーッ!!」

 

以前の火炎弾をも凌ぐマグマの塊を吐き出す超古代怪獣。

ゾフィーはそれを再度ジャンプして回避し、レイキュバスⅢの横っ腹目がけて低空飛行から突進パンチを浴びせた。

7万トンの巨体が高々と宙を舞い、そのまま住宅街から外れてハドソン川沖に放り出される。

 

「ギィーーーッ!!」

 

怒りを露に口から今度は冷却ガスを吐き出すレイキュバスⅢ。

ゾフィーは再び空中へと飛び上がり、必殺技を放つべくエネルギーを集中し始める。

その時、思いも寄らぬ反撃が襲い掛かってきた。

何とレイキュバスの右のハサミがロケットの如く射出され、ゾフィーの首を挟み込んだのである。

 

「ムッ!?」

 

突然の不意打ちに反応できず、攻撃の手が止まる。

そこへ下方からレイキュバスⅢの火炎弾と共にゾフィーを狙い撃つ影があった。

タイムズスクエアを瓦礫に山へと変えた無双鉄神インペライザーⅡである。

 

「コォォォォッ!!」

 

三連装ガトリングガンがらストリウム光線とも相打った威力のレーザー。

だがそれを逆用し、ゾフィーはレーザーにハサミから伸びるワイヤーを当てて焼き切った。

 

「ダァッ!!」

 

更にコントロールを失ったハサミを引きはがすと、眼下のレイキュバス目がけて投げつける。

光エネルギーを纏ったハサミは光の槍となり、超古代怪獣の顔面の外骨格を割って深々と突き刺さる。

 

「ギィィィ………!!」

 

そのまま光が全身に伝達されてスパークを引き起こしたレイキュバスⅢは、仰向けに倒れるや轟音と共に爆炎の中に消えた。

これで残る怪獣兵器は、インペライザーⅡのみ。

ゾフィーは一気に大攻勢を仕掛けた。

 

「シュワッ!!」

 

両肩のマシンガンが火を噴く前に急接近し、豪快にボディタックルで叩き伏せる。

更にそのまま頭と股を掴んで持ち上げ、脳天から地面に叩きつけた。

 

「コォォォォ………!!」

 

それでも再生能力は健在なのか、立ち上がるや否や火花を散らす頭部が瞬く間に修復再生される。

通常の打撃技では効果がない。

そう判断したゾフィーは僅かに後方へ跳んで距離を取り、胸の前で手を合わせて右手を大きく振りかぶった。

すると右手に集まったエネルギーが回転鋸を形作る。

 

ウルトラスラッシュ。

 

通常では光線として操る光エネルギーを円盤形の鋸に変化させて敵を両断する変則業である。

 

「ヘッ!!」

 

裂帛の気合を込めた一刀が、唸りを上げて鋼鉄の装甲に食い込んだ。

刹那、光の輪は中心から左右真っ二つにロボットを切り裂く。

その中心で怪しく発光する何かを、ゾフィーは見た。

あれこそインペライザーⅡの頭脳にして再生能力を司る核。

ゾフィーは三度胸の前に両手を合わせ、全身のエネルギーを一気に練りこんだ。

 

M87光線。

 

ウルトラ史上最高の威力を持つと言われる、ゾフィーの代名詞にして最強の必殺光線だ。

 

「ダアァッ!!」

 

突きだされた右手から、超高温のエネルギー光線が寸分違わず核を狙い撃つ。

やがて核そのものを光線の光が包み込み、レイキュバスⅢ以上の凄まじい爆発を以って終焉を齎す。

遥かM78星雲の宇宙人による大いなる光の奇跡。

魔の巣窟より放たれた怪獣軍団の全滅を確かめると、ゾフィーは右手に小さな光を宿し、巣窟の一つに向かって放った。

 

ウルトラサイン。

 

遠く離れた宇宙の仲間へ送る、光を用いた連絡手段である。

放たれた光は、宇宙の果てにて文字を成す。

そこには、こう記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハワード隊員………いや、光の巨人ウルトラマンタロウ。地球の防衛は私が引き受けた。君はそこにいる侵略者を倒せ! 決して最後まで諦めずに立ち向かい、不可能を可能にする………。それが私達、ウルトラマンだっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な………!! 何故だ、何故ゾフィーが地球に………!?」

 

その光景に、バルタン星人も遂にその表情から余裕を失った。

無理もない。

これで文字通り、自分は孤立無援となってしまったのだから。

形勢は、最早逆転したも同然だった。

 

「………ヘッ、これならわざわざ見せない方が良かったかもな?」

 

横から飛んできた挑発にハッと我に還り振り向く。

そこには、今まで倒れ伏していた筈の真紅の巨人が、こちらに仁王立ちとなっていた。

まるで消えかけた闘志が、今また再び熱く燃え上がり始めたかのように。

 

「本当の戦いはこれからだ! 覚悟しろ、蝉野郎!!」

 

「ええい黙れ!! まだこちらには究極怪獣兵器がいる! 貴様を血祭りに上げた後で地球も破壊するまでだ! タロウを踏み潰せ、ネオタイラントッ!!」

 

「グエエエェェェンッ!!」

 

主の命令に従って攻撃を再開するネオタイラント。

だが今のタロウに、最早常識と言う言葉は通用しなかった。

 

「デヤァッ!!」

 

何と先ほどは回避を余儀なくされた火炎の絨毯を、タロウは構うことなく突進してきたのである。

全身を火に包まれていながら平然と突っ込むこの状況には、さしものバルタン星人も驚きを禁じ得ない。

 

「ハッ!!」

 

体に炎を纏ったまま至近距離で飛び上がり、顎に強烈なアッパーを決める。

更にそのまま頭上を回転し、スワローキックを叩きこんだ。

 

「タアッ!!」

 

顎をやられた直後で反応に遅れたネオタイラントは、電撃による反撃もままならないまま角をへし折られる。

更にタロウは続けざまに背後へ足を突くと、その大蛇の如く長い尾を掴んで持ち上げ、豪快に振り回し始めた。

実に10万トンはあろうかという大怪獣を事もなげに振り回すタロウ。

先ほどまで満身創痍だった奴のどこにこれほどまでの力が眠っていたと言うのか。

そんなバカな。

有り得ない。

計算上、もう相手の体力もエネルギーも底を突き、残った精神力さえ削り取ればもう勝ったも同然のはずだった。

だが現状はどうだろう。

ウルトラマンゾフィー。

予想だにしないたった一人のイレギュラーの存在によって、計画は全て瓦解していた。

紐育に差し向けた怪獣軍団は全滅。

切り札のネオタイラントでさえ、劣勢に追い込まれているではないか。

何故だ。

何故長を始め、この星を乗っ取る事が出来ない。

なぜこれほどまで緻密な計画を立てて挑んでも、悉く阻まれるのだ。

まるで、この世界そのものがあの星を守らんとしているかのように。

 

「デヤァッ!!」

 

その思考が途切れたのは、眼前に投げ飛ばされた怪獣の背中がこちらに迫った時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に体の痛みと言うものを、体自身が忘れているようだった。

理性的な思考能力はあまり残っていない。

ただ脳裏にはあの約束と、負けてはならないと言う思いだけがしつこいくらいに木霊し続ける。

絶対に諦めない。

必ず生きて、帰ってくると。

 

「デヤァッ!!」

 

ひとしきり振り回していた大怪獣を、視界に過った侵略者目がけて投げつける。

避けられるかと思ったが、思いのほかあっさりと押しつぶされるバルタン星人。

どうやら自分の復活がまだ信じられなかったようだ。

無理もない。

描くいう自分自身も、何故こうして立ち上がれたのか分かっていないのだから。

 

「………、これは………?」

 

ふと、天空に浮かんでいた光の文字が再び宙を漂い、自身の体を包む。

優しく、温かく、どこか懐かしい光。

それはまるで、今まで失い続けてきた何かを補い、埋めてしまうかのような感覚を覚える。

それはかの巨人の奇跡か。

それとも………、

 

「(いや、違う………。この温もりは………そう、あいつらの………。)」

 

胸に感じる命の輝き。

それは言わずもがな、大切な仲間たちの光。

それがあのメッセージに乗って、自分を助けてくれたのだと、タロウは思った。

 

「(みんな………、今だけ俺に、力を貸してくれ!!)」

 

脳裏に写る仲間たちの顔。

その全てを守るために、これですべてを終わらせる。

かつてない闘志に燃える巨人の右腕に光が宿ったのはその時だった。

 

「コスモミラクル光線っ!!」

 

突きだされた右腕のみならず、右の半身全てから目の眩まんばかりの光線が打ち出された。

 

コスモミラクル光線。

 

タロウの内に燻る闘志と、仲間たちが託した命の輝きが一体となって生み出された、最強の合体奥義である。

その左腕に光るオーブの力で助長された光は煌びやかな黄金色の光線へと姿を変え、かの大怪獣を包み込む。

そして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グエエエェェェ………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

破滅の使徒の断末魔すら掻き消す、想像を絶するほどの大爆発が、遥か彼方の宇宙空間を揺るがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

惑星要塞バルタニコス。

その宇宙の果てに浮かぶ死に絶えた遊星における決戦は、ウルトラマンタロウに軍配が上がった。

全てはどんな逆境や絶望にあっても絶対に折れぬ強い心。

そして自らを信じる仲間を思う強さ。

その全てが、彼に味方をしたのかもしれない。

 

「………終わったか………。」

 

目の前に広がる光景に、タロウは穏やかな表情で呟く。

自身の3倍はあろうかと言う究極怪獣兵器は、跡形もない。

目の前には、巨大なクレーターが広がっているだけだった。

戦いは終わった。

もうエネルギーも残っていないが、戦う必要がないならその心配も杞憂だろう。

あとは虚数空間が消える前に、自身を待つであろう星へ戻らなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、悪夢はまだ終わってはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フォッフォッフォッフォッ………!!」

 

「!?」

 

突如として響き渡る笑い声に、ハッとして振り返る。

そんなバカな。

侵略者は自身の最高傑作諸共吹き飛んだはず。

もう生きているはずはない。

それともまだ生き残りがいたのか。

それに答えたのは、何処からともなく聞こえる声そのものだった。

 

「つくづく甘い奴め。このまま貴様らを許すとでも思っているのか?」

 

「往生際が悪いぜ蝉野郎!! 隠れてないで出てきやがれ!!」

 

姿を現さない宇宙忍者に痺れを切らし、タロウが叫ぶ。

だが相手はそれに嘲笑を以って返した。

 

「私の姿を探しても無駄だ。何故ならこれは、この星に中心部に備わったコンピュータのお音声。私が万一貴様に敗北し、天命を閉じた時に起動する自立システムだ。」

 

言うなればこの声は、惑星要塞そのものだった。

バルタン星人は自身が万一やられた時の保険として、この星の中心部にA・Iによる自立型コンピュータを用意していたのだ。

一体何のために。

その疑問に答えたのも、バルタニコスだった。

 

「知りたいかね、紐育華撃団。いいだろう、良く聞きたまえ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今からこのバルタニコスを虚数空間より地球に召喚。アルマゲドンを起こす。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何を言っているのか、一瞬信じられなかった。

地球に召喚。

アルマゲドン。

突然すぎてパニックを起こしかけたタロウが正気に戻ったのはその異変が現実に起きた瞬間だった。

今までにない激しい震動を伴い、星が移動を始める。

その瞬間、タロウは宿敵の最終作戦の全てを理解した。

奴は、あの慈悲の一片さえ持たない侵略者は、自身の要塞諸共地球そのものを破壊するつもりなのだ。

自分に刃向った星へ、最期の報復として。

 

「こうなれば貴様らも道連れ………、我らバルタンの恐ろしさに震えながら死ぬがいい!!」

 

「野郎………、ふざけんなっ!!」

 

心に湧き上がる焦燥を抑えきれぬまま進撃を続ける星を飛び立ち、空間の歪みに疾駆する。

だが、そうした所であの星をどうやって止める?

もう自身にエネルギーは残されていない。

あの星の進撃を止める術など持たない。

このままではどの道バルタニコスが地球に接触し、全てが消えてしまう。

何か、何か方法はないのか。

普段は大して使わない頭を必死で回転させるタロウ。

刹那、たった一つ、たった一つだが有効と言える手段が閃いた。

だがもしそれを使えば、恐らく今の自分ではもう………。

 

「(畜生………、どうする!? どうすればいい!? 教えてくれ、親父っ!!)」

 

何処までも非情に徹する現実に、広大な宇宙の真ん中で一人葛藤を繰り広げるタロウ。

その脳裏のあの言葉が蘇ったのは、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一番大切なのは、諦めない強さだ。絶対に出来る。そう信じる心は、何よりも強い。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「親父………。」

 

今は亡き父の残した言葉。

一度は諦め、されどこうして取り戻した言葉。

その言葉を何度も心の中で繰り返し、言い聞かせる。

やってやる。

そして絶対に、生きて帰ってきてみせると。

 

「もう一度、俺に勇気をくれ………!!」

 

巨人は再び宇宙を駆ける。

だがその顔に、もう迷いはない。

絶対に諦めない、決意を秘めた顔。

もしそれを王が見れば、感慨に顔をほころばせた事だろう。

何故ならこの瞬間の彼の顔は、稀代の技師『ロビン=アンバースン』のそれと、瓜二つだったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほ、星をそのまま激突させる!?」

 

虚数空間の果てから戻ってきた巨人の齎した言葉に、その場の誰もが驚愕の余り戸惑いを隠せずにいた。

無理もない。

数分もしない内に虚数空間の先から星が現れて地球と激突するなど、非現実すぎて受け入れられるはずもない。

何故ならそれは自分達以前に、目の前にある全てが宇宙の藻屑となるに等しいのだから。

 

「畜生!! とんでもない置き土産しやがって、あの忍者もどき!!」

 

「ど、どうしよう!! 早くあの星を止めるか壊すかしないと………!!」

 

「無茶だ。今の霊力の少ない僕たちでは六破星降魔陣を以ってしても星一つを消し去る事は出来ない。万一出来たとしても、スターが耐えられるか………!!」

 

「し、しかし………、このままでは何もかもが消えて………!」

 

「リカ止める!! みんないなくなるなんてやだ!! リカあの星止める!!」

 

流石に第六天を超えた絶体絶命に危機に混乱を起こす星組。

だがその中にあって、只一人冷静な口調で口を開く者がいた。

摩天楼の巨人、ウルトラマンタロウである。

 

「………俺に考えがある。」

 

その瞬間、騒然としていた周囲が一転して沈黙に包まれる。

この絶望的極まりない状況を打開する策はある。

問題は、彼らが受け入れてくれるかどうかだ。

 

「ハワードさん、その考えっていうのは………?」

 

尋ねかける新次郎を右手で制する。

いきなり話す事は恐らくできない。

その前に今一度、確かめなければならないことがあるからだ。

 

「みんな、今更かも知れねぇが答えてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺を………、ハワード=アンバースンを、信じてくれるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え………?」

 

やや湾曲的な問いに、答えを躊躇う仲間たち。

答えの言葉はあるに違いない。

何故それを今このタイミングで尋ねたのか、分からないだけだ。

一方、虚数空間の向こう側に立つもう一人の巨人は、今の言葉に何かを感づいた様子で口を開いた。

 

「タロウ………。まさか、アレをつかうつもりか………?」

 

流石は陸軍一の切れ者の異名を馳せただけのことはある。

タロウは、無言で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

惑星要塞バルタニコスは、尚も終焉を齎さんと進撃をつづけていた。

既にその姿は、この虚数空間の向こう側からでも僅かに見えるほどである。

 

「ねえ、ハワード………。」

 

ふと、定位置に待機するロデオスターが尋ねた。

 

「こんなことして、本当に平気? 本当に、無事に帰って来られるの?」

 

摩天楼の守護者が考えた、唯一無二の防衛方法。

それは地球目前まで接近したバルタニコスを、星組の霊力を合体したタロウが再びコスモミラクル光線を放ち、消滅させるというものだった。

だが激戦に次ぐ激戦で疲弊しきった今の自分達に、惑星一つを破壊するだけの霊力を注ぎ込めるだろうか。

もし出来たとして、未だ虚数空間の向こう側にいるタロウに危害は及ばないだろうか。

本当にこんな賭け同然の作戦がうまくいくのだろうか。

彼と自分たち星組のきずなを信じていない訳ではないが、それでも不安は尽きない。

だがそれに応える声は、存外明るかった。

 

「大丈夫だ。俺を信じろ、ジェミニ。」

 

「全く、何処からそんな自信が出てくるんだ? 危なっかしくて仕方ないね。」

 

その声に、今度はサジータが口を開く。

彼女の知る中でハワードと言う人物は、とかく理論的という言葉と縁がないようだった。

いつも行き当たりばったりで、特に何かを先読みして行動しているようでもない。

それでいて何事もうまくいっているのだから、不思議である。

だからだろうか。

今回も同様にうまくいくと、証拠もなしに信じてしまえる自分がいるのは。

 

「ハワード、絶対生きて帰って来い。もしこの履行が出来なかったら、損害賠償だからね。」

 

「分かってるよ。ったく、最期まで債務抱えてるな、俺は。」

 

「でも約束だぞ。ハワード、ちゃんと守れよ?」

 

リカリッタは少しだけ、自分の行いを後悔していた。

あまりハワードと遊んでない。

こんなに大変なことになるなら、もっと一杯遊んでおけば良かった。

でもだからこそ、信じなければとも思う。

彼が戻ってきて、また一緒に遊べることを。

 

「ハワード、リカも信じる。だってハワード、嘘ついたことないもんね。」

 

「ああ、じゃないと銀の銃でバッキュンだからな。」

 

その兄妹のようなじゃれ合いに微笑み、ダイアナは一人思う。

新次郎と共に自分に生きる意味に気付くきっかけを与えてくれた人。

最初は自分と全く違う世界を生きてきたと思っていたが、そういう訳でもないようだった。

寧ろ未来に希望を持てずにいた時期があったことは、自分とよく似ている。

だからこそ彼はあの時、辛辣な物言いをしてまで自分に気付かせようとしてくれたのかもしれない。

 

「ハワードさん、どうかご無事で………。」

 

「ああ。こんな所で終わるような俺じゃねぇよ。」

 

「確かに、今の君にまともな理論は通じそうにないね。」

 

そう口を挟みつつ、昴は思った。

ハワード=アンバースン。

一人を除けば誰よりも近くにいた彼の事を、自分はまるで理解できなかった。

いや、今でも理解できていると言う自信がない。

何故なら彼は、今の九条昴ですら理解しえない思考の持ち主だからである。

昔から何の根拠もなく当時の隊長に付き従い、理論ではなく感覚的に行動する、戦場では危険に見舞われて真っ先に早死にするタイプだ。

だが予想に反して、彼はこれまでの危険全てを事もなげに突破して見せた。

それも大した理論もなく、持ち前のバイタリティだけで。

だが今なら、それが彼だと納得できるかもしれない。

ハワード=アンバースンと言う人間は最早、常人ではおよそ理解しうる事の出来ない高みにいるのではないかと。

 

「昴は思う。ハワード、今の君ならたとえ不可能と言えることでも可能にかえてしまう気がする。根拠はないが………そう信じられるんだ。」

 

「根拠なしとは、お前らしくねぇな。まあ、悪い気はしないけどよ。」

 

そう軽口と共に笑うタロウ。

エイハブから声をかけられたのは、その時だった。

 

「ハワード………。」

 

自分と将来を約束した人を前に、ラチェットは何と声をかけてよいか分からなかった。

本当は行かないでと言いたい。

自分の傍からもう離れないでと伝えたい。

でも、そう心で思いながらも、彼を送り出そうとする自分がいる。

摩天楼を守るものとして、ウルトラマンとして戦いに臨む彼を、信じて送り出そうとする自分がいる。

自分はどんな声をかけるべきか分からぬラチェットの口から出たのは、たった一言だった。

 

「………行ってらっしゃい。」

 

「ああ………、行ってくる。」

 

戦場へ送り出すには、あまりに寂しい言葉の応酬。

だが、これでいい。

ここで変に取り繕った言葉を口にすると、本当に最後の別れになりそうな気がしたから。

 

「………バルタニコス、所定位置に到達しました。」

 

作戦開始の合図が聞こえる。

刹那、その場の全員の顔が緊張に包まれた。

紐育華撃団星組ファイナルステージ。

その最期のショーダウンの瞬間が、来たのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終焉の星は、もうここからでも見える位置にあった。

肉眼でもはっきりわかるほどにまで近づいた魔の巨星。

それをこの手で、必ず止めて見せる。

 

「覚悟しろよ蝉野郎………!!」

 

ワームホールを挟んで後ろに控える仲間たちから送られる霊力。

恐らく、これが最後の一撃。

この一発で、この星の未来が決まる。

出来るか出来ないかなど問題ではない。

必ずできると、信じているから。

 

「ムンッ………!!」

 

両手を胸の前で交差させ、エネルギーの集中を始める。

先ほどネオタイラントを仕留めた時とは比較にならない力の奔流。

その全てを両腕に集中し、タロウは右腕を突出し、叫んだ。

 

「コスモミラクル光線っ!!」

 

右半身から凄まじいエネルギー光線が発射され、一直線に迫りくる魔の星を狙い撃つ。

やがて星を丸ごと閃光が包み込み、そして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

想像を絶する爆発が宇宙空間を揺るがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、凄い………!!」

 

最初に口を開いたのは、新次郎だった。

ハワードの文字通り全身全霊をかけた一撃は、バルタニコス相手にもまざまざとその力を見せつけた。

虚数空間の奥に見える惑星要塞は、その球体の半分を既に消失していた。

まるで隕石にぶつけられたかのように大きくひしゃげ、中央には何やら金属のような設備が顔をのぞかせている。

 

「や、やった………!! バルタニコスが止まった………!!」

 

閃光の先に見えた光景に、ジェミニが歓喜の声を上げる。

地球に迫る魔の星を、彼は本当に止めてしまった。

奇跡は起こった。

それを現実だと理解した瞬間、巨人の背後から大きな歓声が上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ま、待ってください!! バルタニコスの座標、こちらに接近を続けています!!」

 

「な、何だって!?」

 

絶望に突き落とす杏里の報告に、歓喜の叫びは驚愕と絶望に変わった。

そんなバカな。

体積の半分を焼失した惑星が、尚も接近を続けられると言うのか。

だが実際に、バルタニコスは接近を続けていた。

虚数空間の奥からゆっくりと確実に、こちらに迫っていた。

 

「豊さん。」

 

たちまちパニックに陥る星組の隅で、タロウがゾフィーを見る。

するとゾフィーはその言葉と表情から何かを察したらしく、何かやりきれない表情で頷いた。

 

「まだだ………、まだ終わらねぇ!!」

 

言うや、タロウは両手の拳を頭上で組み、全身に今一度力を貯め始める。

やがて、驚くべきことが起こった。

真紅の巨人の体、灼熱の業火が包み込んだのである。

既にカラータイマーが鳴り響く中、本来ならばもうその体にエネルギーは残されていない。

だがどんな絶望的な状況にあっても決して諦めない不屈の闘志と、それを認めた神秘のオーブが、それを可能にした。

 

ウルトラダイナマイト。

 

自身の霊力を炎に変えて全身に纏い、相手諸共自爆するウルトラマンタロウ最終兵器。

 

「ダ、ダメ!! ハワード止めて!!」

 

「無茶だ!! 至近距離でぶつかれば、只では済まないぞ!!」

 

突然の行為に慌てて止めようと叫ぶ星組。

だがこれ以外に手段は残されていない。

あの星の中央に見える部分が恐らく自立型コンピュータの核。

あれさえ破壊できれば、バルタニコスは止まるはず。

それだけ分かれば、残りの事はどうでもよかった。

 

「俺は負けねぇ………!! 俺が俺である限り絶対負けねぇ………!!」

 

全身に炎を纏った紅の巨人が、魂の叫びを残して魔の巨星に特攻する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は俺だ!! 摩天楼の星……、ウルトラマンタロウだあああぁぁぁ………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

灼熱を纏う小さな星が、巨大な死の星の中心にぶつかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハワードーーーーーー………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先ほどを超える、想像を絶する爆発が、彼女の叫びを掻き消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星の綺麗な夜だった。

春先とはいえまだ肌寒い風の吹く夜。

横には、同じく空を見上げる父。

 

「ハワード、あの星が見えるか?」

 

指差した方へと顔を向ける。

数え切らないくらいの星の中に、それはあった。

周りの星よりずっと綺麗な星。

何て言うんだろう?

すると、父はそれを見つめたまま言った。

 

「あれはM78星雲。ウルトラの星と言われている。」

 

ウルトラの星。

M78星雲。

今まで聞いたことない星。

図鑑にも載って無かった星。

何で父だけが知っているのだろうか。

 

「今から3年くらい前、遥か東の島国に、遠い宇宙の使者が来た。その使者は自らをこう名乗った。M78星雲、光の国の宇宙人、ウルトラマンと。」

 

ウルトラマン。

聞いたことのない名前だった。

直訳したら凄い男の人。

よく分からない。

 

「この広大な宇宙のどこかに、彼らの故郷がある。この戦争が終わり、世界が平和になった時。私達は宇宙を目指すだろう。彼らの故郷、ウルトラの星を求めて………。」

 

「無理だよお父さん。宇宙はあんなに遠いのに、僕たちじゃジャンプしても届かないよ。」

 

「そんな事はないさ。一番大切なのは、諦めない強さだ。絶対に出来る。そう信じる心は、何よりも強い。」

 

父の言葉に、根拠などなかった。

口から出るのは理想ばかり。

どうやってと聞いても、信じる事しか教えてくれなかった。

でも、何故だか父の言葉が、間違いではないように思えてきた。

どんなに周りに不思議がられても、変人と後ろ指を指されても、自分の信念を絶対に曲げない父。

気付けば自分も、父の夢を信じて、父の夢を追いかけるようになった。

理由なんてない。

あるとしたら、それは………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に感じたのは、背中一杯に広がる懐かしい感触だった。

もう何年も乗りなれたシートの手触りに、思わず顔がほころぶ。

そう、まるで今、スターの中にいるかのように。

 

「う………?」

 

僅かに目を開きかけると、強い光に思わずまた目を閉じる。

光?

一体何の光だ。

そもそも自分は一体どこにいるんだ。

 

「………!!」

 

徐々に意識を覚醒しかけた瞼を開き、また驚く。

そこは乗りなれた相棒、ウルトラスターのコックピットだった。

目の前には操縦桿。

左側には通信モニター。

そして右下には、三色の自動操縦機能。

だがそのスターを包むのは、異様な光景だった。

 

「これは………?」

 

前後左右、上下に至るまで、そこは果てなき光のオーロラが続いていた。

今まで生きてきて一度も見た事のない世界。

思わず目を奪われる自身の目に一際眩い光が見えたのは、その時だった。

 

「………何だ、あれは………。」

 

ちょうど軌道の延長線上に光が見えた。

まるで自分を導くような、神々しいまでの輝き。

それに、ハワードは見覚えがあった。

 

「………そうか………、あれが………。」

 

その優しく、温かく、どこか懐かしい光。

それは記憶の果てに見た、あの星の光と酷似していた。

いや、それと同じ光は見た事がない。

あの星が今、目の前にあるのだ。

神秘の光が住まう星。

父が追い求め続けた、夢の星。

いつかたどり着くと父が夢見続け、自分がようやくたどり着いた夢の星。

 

「見えたよ、父さん………。俺と父さんが追い求めた星………。M78………、ウルトラの星が………!!」

 

感無量とはこの事だろう。

父の果たせなかった夢を、今この瞬間、自分は遂に叶えることに成功したのだから。

 

「行こう、ウルトラスター。俺たちの星へ………。希望に輝く、あの光の向こうへ………!!」

 

父の夢は果たせた。

だがその先にまだ、自分の知らない世界がある。

ならばそれを目指して進み続けよう。

何故ならそれこそ自分達アメリカの魂。

父が生涯貫き通し、自分もまた指針にした生き方。

『フロンティア・スピリット』なのだから。

 

「そうだ………、俺はまだ終わらない………!! ずっと先へ進み続けて、そしていつか………!!」

 

神秘的に美しく輝く光のオーロラを、一つの星が導かれるように飛んでいく。

その先に何が待つのか。

その答えはまだ、星だけが知っている。

神秘の名を冠した、赤と銀の星だけが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3月11日午後6時過ぎ。

それは、何の前触れもなく訪れた。

 

「!?」

 

それまで感じていた何ががフッと消え去る感覚。

その正体を想起し、ハッと表情を強張らせて立ち上がり、縁側から庭へと歩を進める。

 

「(何だ、今のは………!? まさか、光が消えた!?)」

 

その感覚を自分はよく知っている。

数年前には他ならぬ自身が守られてきた光。

その感覚が、何の前触れもなく消え失せたのだ。

 

「………秀介さん?」

 

部屋の奥から、自分を呼ぶ声が聞こえた。

刹那、膝元に置いていた飲みかけの湯呑が倒れていたことに気付く。

振り返ると、そこには見慣れた袴姿の妻が怪訝な表情でこちらを見ていた。

 

「どうかしたんですか? 急に立ち上がって庭に出るなんて………。」

 

「………いえ、何でもありません。お気になさらずに。」

 

漸く我に還り、心配する妻に平静を装う。

そうだ。

今の自分はもうかつての光の巨人ではない。

唯の地球人、御剣秀介でしかないのだ。

この感覚が嘘でないにしても、今の自分は無力でしかない。

 

「(オーブよ………。それが、貴方の出した答えなのか………。)」

 

見渡す限り変わりない仙台の空に、秀介はそう心に呟く事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3月11日朝。

まだ肌寒い早朝に、一人モンマルトルの上で朝日の出を見守る人物がいた。

ダイゴ=モロボシ。

かつて光を受け継ぎ、この街を守る光となった運命の少年。

懐のお守りにもう光はない。

だがかつて光であった頃と同じ感覚が、彼をこの時間にこの場所へ呼んだ。

 

「朝だ………。」

 

静かな声で呟く。

 

「一日の始まりを告げる、希望の光だ………。」

 

思い出すのは1年前のあの朝日。

この街を襲う闇の全てを打ち払い齎した、希望の未来。

しかしこの朝日は、思い出のそれとは違っていた。

 

「なのに………何故だろう? あの光はあんなに温かく優しいのに、とても………暗く、冷たく、悲しい………。」

 

その光に、ダイゴはいつもの温もりを感じる事が出来なかった。

この日、何か悲しい事が起こるような、そんな気がした。

まるで命尽きて消えゆく星の、最期の命の煌きのような、今日の朝日に………。

そうなれば………。

いや、そうならなければ………。

無意識に懐の翼の紋章を握りしめるダイゴ。

だが、その胸中の漠然とした不安は、消える事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウルトラスター、通信………途絶………。」

 

「虚数空間………消滅しました………。」

 

その瞬間、それまで追い求め続けていたものは現実へと姿を変えた。

迫りくる破滅の星は虚数の彼方へと消え、平穏は確かに戻ってきた。

だが、その顔に光はない。

何故なら、いないからである。

この瞬間、いるはずだった者が。

この瞬間、絶対に居なければならない者が。

 

「昴は………言った………。………悪い………、………冗談だ………っ!!」

 

「バカヤロウッ!! 帰ってくるって………、約束したじゃないかぁっ!!」

 

必死に冷静さを保とうとする昴の嗚咽に耐えられず、サジータが叫んだ。

両目に溢れんばかりの涙を溜め、弁護士の仮面もかなぐり捨てて。

 

「畜生………!! 帰って来い!! 帰って来いよっ!! ハワードッ!!」

 

「リカ………信じない………!! ハワード嘘つかない!! 約束、破ったりしないっ!!」

 

「ハワードさん………、こんな………、こんな事って………!!」

 

「新次郎………、嘘だよね………? こんなの………、こんなの嘘だよね………!!」

 

サジータの号泣を皮切りに、堪えていた涙を溢れされる仲間たち。

胸の顔をうずめるジェミニの髪を撫でる新次郎も、必死に歯を食い縛って耐え続けていた。

言葉など見つからない。

何故なら彼は、消えてしまったからだ。

あの爆発を最後に、虚数空間の向こう側へ。

 

「ハワードさん………。」

 

戻って来なかった唯一の戦友の名を呟く新次郎。

刹那、後ろから意外な人物の声が飛んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「信じましょう。彼が、生きて帰ってくることを。」

 

 

 

 

 

 

 

「………ラチェット。」

 

それは、他ならぬハワードの想い人、ラチェット=アルタイルだった。

誰もが涙を感じ得ない状況の中、彼女だけは普段の微笑みを以って空を見上げている。

 

「私には分かる。彼は、こんな所で終わる人じゃない。きっと今も、進み続けているはずよ。この広大な宇宙を、前を目指して。」

 

そう呟き、左手の指輪を祈るように手で包み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ウ、ウルトラスターより通信!!」

 

「何だって!? ハワードさんから!?」

 

それまで悲しみに暮れていた一同が、我先にと杏里の下に駆け出す。

モニターにはたった一言、短い一文が残されていた。

 

『一足先に、宙を飛んでるぜ』

 

「ハワード………。じゃあホントに………?」

 

「………まさか………、いるのか? この宇宙のどこかに………。」

 

俄かには信じられず、困惑する星組。

その時、夜空に一つ、ひときわ輝く星を見つけた。

 

「ウルトラの星………。もしそうなら………、彼も目指しているはずだ。」

 

その星の名前を呟き、豊が驚きを隠せぬまま空を見た。

彼はいる。

この宇宙のどこかで、あの星を目指して今も飛んでいる。

この星の目指すべき指針のポーラースター。

ウルトラの星を目指して。

 

「だったら、ボクらのステージは、まだ終わってはいない。目指そうじゃないか。あの星を追う彼を、僕たちの指針にして………。」

 

「行きましょう!! ハワードさんの待つ空へ!!」

 

「「イェッサーッ!!」」

 

サニーサイドの言葉に鼓舞するように、新次郎が夜空にサムズアップを交わす。

するとそれを見た仲間たちも、同様にサムズアップを交わす。

彼もまた、宇宙のどこかで交わしてくれる事を信じて。

そう誓う彼らの前に、地平線からもう一つの光が現れる。

明日だ。

彼の追い求め続けた明日が、この街にやって来た。

 

「(ハワード………、私も諦めないわよ。この遠い宇宙のどこかで、きっと貴方と………。)」

 

彼は教えてくれた。

一番大切な事は、絶対に諦めないことだと。

その心さえあれば、絶対に夢はかなうと。

だから自分も信じよう。

彼が齎してくれたこの未来を信じ、自分も、前に進み続けよう。

いつかきっと、この宙のどこかで巡り合えるその時まで。

 

1929年3月11日。

 

世界は、終わらない。

 

《摩天楼の星・完》

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