摩天楼の星   作:サマエル

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Family~孤独にさようなら~

ニューヨーク、ベイエリア。

リバティ島が見渡せる紐育屈指の港町。

裁判所や証券取引所、果ては巨大な国営銀行といった、紐育の公的機関が軒並み名を連ねた場所でもあり、今日もウォール街には営業のサラリーマン達が闊歩している。

その真ん中に紛れるように、ハワード=アンバースンはホットドッグを片手に歩いていた。

隣には同様にホットドッグにかぶりつく新次郎の姿がある。

 

「ラチェットさん、遅いですね。」

 

「ああ、とっくに終わってると思ったんだが………。」

 

未だ銀行から姿を見せない副司令に、ハワードは脇に抱えた三本目のホットドッグに目をやる。

二人は銀行から経費をおろすラチェットの付き添い兼護衛として、この港のオフィスに来ていた。

が、どういう訳かラチェットが銀行から戻らず、小腹の空いたハワードの提案で新次郎がサジータに聞いたという喫茶店に寄り道したという訳だ。

 

「………それにしても、よくあの法律女が教えてくれたな。」

 

「裁判で勝ったら必ず食べるのが習慣らしいですよ?日替わりやオススメまで教えてもらっちゃって。」

 

サジータらしからぬ大盤振る舞いに、ハワードは手元のホットドッグをかじりつつ意外とばかりに相槌を返した。

自分には相変わらず法律を喧しく並べ立てて来るが、最近の彼女はこと新次郎に対しては手の平を変えたように優しくなった。

先月のハーレム地区での一件が少なからず関わっているのだろうが、僅か一ヶ月の間でここまで変わるものか。

 

「………。」

 

ホットドッグにかじりつくふりをして、ハワードはチラリと横を歩く青年を見る。

自分と一つしか違わないのに、その佇まいは自分と全くと言って良い程違う。

幼いというか頼りないというか、何とも形容しがたい印象だ。

もしかしたらそのあどけない子供のような印象が、姐御肌的なサジータの母性本能とやらにでも訴えかけたのかもしれない。

最も、そうだとすれば自分が参考に出来る余地はない。

参考にする気もさらさらないが。

 

「………ハワードさん、どうかしました?」

 

一人白けて笑うハワードに新次郎が気付いたのは、その時だった。

何でもないとはぐらかし、最後の一口を放り込む。

 

 

 

 

 

 

その時、突如銃声が一帯に轟いた。

 

 

 

 

 

 

「な、何だ!?」

 

「大方銀行強盗だろ。ここら辺の銀行は大手ばかりだからな。」

 

「何呑気な事言ってるんです! 早く被害を抑えないと!!」

 

何事もないようにタバコを吹かすハワードに、新次郎が正論で突っ込む。

すると、そんな二人の足元を何かが通り過ぎた。

 

「ん?」

 

見るとそれは、まだ子供のフェレットだった。

白く短い毛で、首に巻いた赤いリボンと右側の頭にある星型の黒模様が特徴的だ。

それにしても住宅街でもないこんな都会に、フェレットが一匹でいるものだろうか。

そんな事を考えているハワードの背中に、今度は何かがぶつかった。

 

「ふげっ!?」

 

「どけ、お前邪魔だぞ!!」

 

「ええっ!?」

 

突き飛ばされたハワードはともかく、新次郎はその正体に戸惑いを覚えた。

何故ならそれは、緑色のスカーフを巻いた10歳くらいの女の子だったからだ。

栗色の髪を三編みにしたその姿は、ニューヨークに来て僅か二ヶ月の新次郎から見ても不自然である。

しかしこの後、新次郎は更に驚くべき光景を目にする事となる。

 

「強盗は悪い奴! リカ、撃っとく!!」

 

入口前で立て篭もっていた強盗を睨むや、リカと名乗った少女はスカーフの影から二丁の拳銃を取り出した。

金と銀に塗り分けられた銃を揃えて構える様は、何処となく西部のガンマンに見えなくもない。

 

「な、何だこのガキは!?」

 

「邪魔するんじゃねぇっ!!」

 

まさかこんな小さい女の子が銃を向けるとは思わなかったらしく、強盗も一瞬間を置いて銃を突き付ける。

が、この少女を前にしてのそれが一番の間違いである事を、彼らは身を以って知る事になる。

 

「ふんっ!」

 

「げっ!?」

 

「うりゃ!」

 

「なっ!?」

 

「それっ!」

 

「ひっ!?」

 

その場にいた誰もが、一瞬何が起きたのか分からなかった。

三発の銃声の後、三人の強盗の手から銃が忽然と消えているではないか。

それは紛れもなく、リカと名乗る少女によるものだった。

 

「ってぇ………、ああ?どうなってんだこりゃ?」

 

少女に突き飛ばされたハワードが雑踏を掻き分けて来たのは、丁度強盗が降参した時だった。

 

「あ、ハワードさん。実は………。」

 

ようやく戻って来たハワードに状況を説明しようと、新次郎が少女を指差す。

だがその前に、別の声が割って入った。

 

「リカ! 駄目でしょ、勝手にいなくなっちゃ。」

 

「いしししし、見ろラチェット! リカ、強盗やっつけた!」

 

何と、それは今の今まで自分達を待たせていた張本人だった。

互いに名前で呼び合っている所を見ると、知り合いか何かだろうか。

最もそんな知り合い、ハワードは聞いた事もないが。

 

「おいラチェット! さっきから戻って来ねぇと思ったら、何でお前が子守なんかやってんだ!?」

 

「ラ、ラチェットさん、その子は一体………。」

 

散々待たされた上に道の往来で転ばされたハワードは、八つ当たりとばかりにラチェットに噛み付く。

すると、噛み付かれた本人も困り顔で応えた。

 

「ご、ごめんなさい。サニーから連絡は貰ってたんだけど、まさかよりによって今日連れて来いなんて言って来るから………。」

 

「連れて来るって………、その子をですか?」

 

先程のフェレットとじゃれる少女を指差す新次郎。

すると、少女は何故か胸を張って答えた。

 

「リカリッタ=アリエス! みんなリカの事、リカって呼ぶ!!」

 

「キュー。」

 

「この子はノコ! リカの相棒な。」

 

そう言って、リカはノコと呼んだフェレットを目の前に突き出す。

サニーサイドはこんな子供に何の用があるというのか。

疑問だらけの二人を余所に、リカは満面の笑みを見せた。

 

「いししししっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………という訳で、今日から星組に加わる事になったリカリッタ=アリエスだ。」

 

「リカリッタ=アリエス! みんなリカって呼ぶからリカでいいぞ。コイツはノコ。リカの相棒な。」

 

支配人室に集まった五人を前に、改めて自己紹介をするリカ。

いちいちフェレットの紹介もしてやる所が健気で可愛らしい。

が、一人異を唱える者がいた。

ハワードである。

 

「おい、ちょっと待て。って事は例の新型スターに乗るのはこのガキな訳か?」

 

「当たり前じゃないか。何か問題ある?」

 

「大有りだ!! ようやく完成したって時に、乗る奴がチビなんて聞いてねぇぞ!!」

 

さも当然のようにいうサニーサイドに、ハワードが噛み付いた。

ハワードは星組隊員であると同時に、王先生と並ぶメカニックチーフだ。

従って舞台の片手間、スターの整備にも追われている。

確かにサニーサイドから新型スターの発注は受けていたが、こんな子供が乗ると言うのは初耳だ。

これではコックピットの関係上、ほぼ全ての整備作業をやり直さなくてはならない。

 

「ガキとかチビとか言うな!リカはリカだっ!」

 

すると、サニーサイドが答える前に足元のリカが銃をぶっ放した。

 

「おわあああっ!!」

 

反射的に身体を後ろに反らして銃弾をかわすハワード。

こんな至近距離から撃たれれば、間違いなく星組に欠員が出来てしまうだろう。

 

「こう見えても、リカは名うての賞金稼ぎなの。戦力としては問題ないわ。」

 

「なるほど、賞金稼ぎの名前は本物という訳か。」

 

「ウォール街でも強盗を捕まえたって聞くしな。」

 

が、残る面々は綺麗さっぱり流して話を進める。

少しは心配しろと叫ぶハワードだが、それを無視してサニーサイドが口を開いた。

 

「さて、こっちの自己紹介だ。僕はサニーサイド。一番偉い人だ。」

 

「ふむ………、サニーサイド、一番『偉そう』な奴………。」

 

「いや、違う違う。本当に『偉い』んだよ………!」

 

何やらリカに変な解釈をされ、慌てて説明するサニーサイド。

すると、昴が付け加えるように呟いた。

 

「昴は納得する。………子供は正直だ。」

 

「正直?それ、何だ?」

 

「素直で嘘をつかない事だよ。リカは本当の事が言えるいい子なんだ。」

 

そう言って優しくリカの頭を撫でてやる昴。

それを見て、サニーサイドは眉をひくつかせて必死に笑顔を作った。

 

「………昴。君、僕の事嫌いでしょ………。」

 

「別に好き嫌いは問題じゃない。それより早く僕達も紹介してくれないか?」

 

済まし顔でかわす昴に更に眉をひくつかせたものの、サニーサイドは五人の紹介を始めた。

 

「それじゃあリカ、こっちからラチェット、サジータ、昴、ハワード、新次郎だ。仲良くしてね。」

 

一体どれだけやる気がないのか、アバウト極まりない紹介を済ませるサニーサイド。

すると、リカはサニーサイドに紹介された順番に一人ずつ顔を確認した。

 

「ふむ………、ラチェット、サジータ、昴、ハワード、新次郎………。」

 

そして、最後の新次郎に目を合わせると、何やらニッコリと笑う。

 

「新次郎が一番優しそうだな。決めた、新次郎リカの友達だ。」

 

「よ、よろしく………。」

 

唐突に友達を宣言され、思わず呆気に取られる新次郎。

どうせこれからみんな仲間になるのだから大した意味にはならないのだが、リカはそんな事お構いなしにはしゃいでいた。

その様子だけ見ると、とても彼女が賞金稼ぎなどという危険な仕事に付いているとは思わないだろう。

 

「で、ゴハンは?リカ、強盗やっつけたからご褒美のゴハン。」

 

ふと、リカが希望に満ちた眼差しをラチェットに向けた。

が、ラチェットは少々困り顔で答えた。

 

「もうちょっとだけ待っててくれる?色々大変な手続きがあるから。」

 

「………ゴハン、食べられないのか?」

 

「もうちょっとだけだからね、我慢して。」

 

諭すようにラチェットが念を押した。

何せ命を張る秘密部隊に、まだ10歳を迎えたばかりの少女が加わるのだ。

かつて帝国華撃団や巴里華撃団でも同様にして小さな少女が所属した経歴があるが、ことリカリッタの場合は入隊する根拠が薄い。

特に彼女が加わる理由は、星組の間でもよく分からないのだ。

最もサジータをスカウトしたのもサニーサイドの独断なので、最早誰も気にしなくなってしまったが。

 

「ううん、我慢しない。ノコ、こっちおいで。」

 

リカは何を考えたか、相棒のフェレットを近寄らせる。

と、リカはここから誰も予想しない行動を見せた。

 

「お別れだね、ノコ。ゴハンがないから、リカのゴハンになってね。」

 

「キュー!?キュキュー!!」

 

何と、相棒とまで言ったノコの顔面に銃を突き付けたではないか。

まさかとは思うが、そうとしか考えられない。

リカは代わりにノコを食べようというのである。

 

「お前バカか!? 何が悲しくて相棒を殺るってんだ!!」

 

「殺すんじゃないぞ。ノコはもしものゴハン。食べるだけだ。」

 

世にも恐ろしい事を平然と言ってのけるリカ。

表情が無邪気なだけに、言葉の恐ろしさに拍車がかかっている。

昔よほどひもじい思いでもしたのだろうか。

 

「相棒兼非常食とは………。今にまいっちまうね、あのフェレットは。」

 

「しかし非常識だが、非常に合理的だ。」

 

「何納得してるんですか!!ラチェットさん、ゴハンの用意を!!大至急です!! 」

 

「分かったわ! リカ、すぐに用意するから、その子を食べちゃ駄目よ!!」

 

かくして星組は、ノコの命を守るべくゴハンの準備に奔走する事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美味い、美味い!ほら、ノコも食え!!」

 

支配人室での騒動から数分後、屋上のサロンにて臨時の食卓が用意された。

プラムに杏里、更には非番だったジェミニまで出動し、リカの前には山盛りのゴハンが積まれている。

超ボリュームのステーキにハンバーグ。

コロッケにシーザーサラダ。

何やら見ているこちらが腹一杯になりそうだ。

 

「こ、これ………本当に一人で食べるのか?」

 

「凄いというか、凄まじいというか………。」

 

「確かに、明らかに胃袋の許容量を超えている。過食ではないとは思うが………。」

 

そしてその全てを一人でやすやすと平らげる少女に、誰もが驚愕の視線を送る。

相棒兼非常食のフェレットに、驚異的な銃の腕と更に驚異的な食欲。

ここまで個性が爆発しては、最早何と言って良いか分からない。

 

「やあリカ、満足してくれたかい?」

 

サニーサイドがサロンに顔を出したのは、食卓のものをリカがあらかた食い尽くした時だった。

文字通り腹一杯食べて満足したらしく、リカは大きくなった腹をさすりつつ答えた。

 

「満足した~。こんなに食べたの久しぶりだからな。」

 

「それは良かった。ねぇリカ、君さえよければ、これからもゴハンご馳走するんだけど………。」

 

「ホントか!? サニーサイドいい奴だな!!」

 

これだけ食べてまだ食欲が尽きないのか、サニーサイドが言い終わる前に瞳を輝かせて立ち上がるリカ。

しかしサニーサイドは、大して驚きもせず続けた。

 

「ああいいとも。その代わり、星組の仕事と一緒に今日のショーに出てくれないかな?」

 

それはある意味、口頭での雇用契約だった。

ゴハンをご馳走するから星組に入れ。

サニーサイドは遠回しにそう言っているのである。

 

「リカ、ショーなら得意だぞ! サニーサイド、任せとけ!!」

 

それを分かっているのかいないのか、あっさり了承するリカ。

すると、ここで異論の声が上がった。

ラチェットである。

 

「でもサニー、リカに出来る役柄なんてあるの?」

 

それは常識的に考えても普通の意見だった。

リカはまだ10歳で、演技の勉強もしていなければ才能がある訳でもない。

本人はショーの経験があるとは言うものの、その実力が如何程のものかは自分達も分かり兼ねる。

果たしてそんな彼女を、ほとんどぶっつけ本番の状態で舞台に立たせて良いのだろうか。

 

「あるに決まってるさ。だから今月はライブイベントにしたんだよ。」

 

そんなラチェットの疑問に、あっさりな答えを返すサニーサイド。

その言葉に、誰もが思わず納得させられた。

現在星組が行っている演目の名は『ジャングルレビュー』。

ウサギやらトラやら野生の動物に扮した舞台や衣装でダンスや歌を披露するだけのシンプルな舞台だ。

これならサジータと昴の出番を僅かに削り、リカをゲストに入れる事が出来る。

ラチェット達は今に至り、サニーサイドがジャングルレビューをチョイスした理由を理解した。

 

「昴は了承する。リカも星組隊員なら、舞台に立たせるべきだ。」

 

「アタシも同感だよ。まあ安心しな、リカ。しくじってもアタシらがフォローしてやるからさ。」

 

サニーサイドの考えに同意したキャストも、リカの加入に合意する。

その時、リカの表情が僅かに強張った。

 

「ううん、リカ平気………。失敗………、絶対しないから………。」

 

一見すれば自信に満ちた答え。

しかし一同の内、少なくとも新次郎だけはリカの言葉に違和感を感じた。

初めて会った時から元気の塊だったリカが、急に表情から勢いを無くしたのだ。

 

「(何だろう、リカの表情から明るさが消えた………?)」

 

恐らく初めてでないにしろ久しぶりの舞台に少なからず緊張しているのだろうか。

出会ったばかりで彼女の事をろくに知らない新次郎は、元気の消えた理由をそう考えるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

公演終了後、楽屋は険悪極まりないムードに包まれていた。

サジータも昴もハワードも、ジェミニでさえも怒りに震えている。

その理由は、楽屋の隅で小さくなっている子ザルだった。

 

「何やってんだ、クソガキ!! 舞台はお前のためだけにあるんじゃないんだぞ!?」

 

「で、でもお客さん喜んでた。拍手一杯してくれた。」

 

「だが、レビューは予定の半分も演じられなかった。何処かの馬鹿な子ザルが40分も舞台を独占したおかげで。」

 

「だ、だってお客さん喜んでた………。もっとやれって言ってた。」

 

「本物の銃で撃ちまくったおかげでセットも照明も目茶苦茶だよ!? 明日からの公演はどうするのさ!!」

 

「で、でもリカ、ショーはいつも銃使ってた。………今日は、使うなって言われなかった………。」

 

「撃つしか能がねぇのかてめぇは!? んな非常識が通用する訳ねぇだろうがっ!!」

 

「ふ、ふぇぇ………。」

 

四人から容赦なく罵詈雑言を浴びせられ、完全に涙目で怯えるリカ。

その様子を、新次郎は後ろから見守る事しか出来なかった。

 

「リカ………。」

 

事の起こりは、リカが舞台に立ってすぐだった。

薄っぺらい台本に従った台詞回しもそこそこに、自慢の銃の腕を披露するリカに、すぐに拍手喝采が浴びせられる。ここまでは良かった。

しかしその後が最悪だった。

リカは更に得意になり、予定の空砲が無くなるや手持ちの実弾を銃に装填して撃ちまくったのだ。

おかげでセットのほとんどは大破。

ようやくサジータと昴に出番が回る頃には、もはやジャングルは目茶苦茶になっていた。

 

「分かってるの、リカ?貴女はみんなに迷惑をかけたのよ?」

 

「うぇっ………、ぐすっ………、新次郎………。」

 

ラチェットにまで厳しい指摘を突き付けられ、リカは遂に新次郎に泣き付いた。

余程みんなに怒られたのがこたえたのだろう。

最初の元気が塵ほども無くなっている。

 

「リカ………、みんなに謝るんだ。そうすればみんな許してくれるから。」

 

優しく頭を撫で、涙を拭いて諭す新次郎。

リカはしばらく新次郎にくっついて嗚咽を漏らしていたが、やや躊躇いがちに振り向いた。

 

「………ごめんなさい………。リカ、もう勝手な事しない………。」

 

「フン、せいぜい気をつけるんだな!」

 

「昴は忠告する。二度目はない。その時にはこちらにも考えがある。………肝に命じておけ。」

 

未だ泣き止まないリカに冷たく言い放ち、四人は早々に楽屋を去る。

先程までの罵声が消え失せた楽屋には、暗く沈んだリカと困り顔の新次郎。

そして何か考えるそぶりのラチェットだけが残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………くくく、何て良きかな、この街は。」

 

暗い倉庫の一角にて、妖怪が一人呟いた。

周囲に人の気配はない。

最もあった所で、残らず鎌の餌食にしてしまうだけの話だが。

 

「我等が主に捧ぐ黄金が山のようにあるじゃないか。誠、良きかな。」

 

「ならば、主殿を以って『脳金』則ち金の脳と言わせしめた頭脳を持つ俺様が、華麗に奪い出してやろうではないか!!」

 

ふと、妖怪の背後からやたら巨大な大男が現れた。

髑髏を象った鎧に身を包み、先端が地面に減り込む程の重量のこん棒を軽々と振り回して見せる。

その様は黒龍姫とタメを張る身長も相まって、こと豪快を極めていた。

 

「………『脳筋』の間違いだろ?だから変なのが頭に生えるんだ。」

 

妖怪は呆れ顔を隠そうともせずに吐き捨て、大男の頭に刺さっている刀を鎌でつついた。

大男が兜で顔を隠しているため具体的な様子は分からないが、それでもこの刀は耳の辺りから刺さっているようにしか見えない。

この状態で生きているという事は、大男もまた人間とは掛け離れた魔の存在である事を示唆していた。

 

「ムガー! 馬鹿にするでない!! この髑髏坊様にかかれば、黄金の一つや二つ、チョチョイのチョチョイである。」

 

「………一つで済むならとっくに終わってるよ。本当に『脳筋』なんだから。」

 

「ガハハハハ! そんな面と向かって褒めるな。流石の俺様も照れてしまうのである。」

 

どうやら脳筋という言葉を褒め言葉と勘違いしたらしく、髑髏坊と名乗る男は得意げに笑う。

一方、妖怪はもう突っ込む気も失せたと言わんばかりに盛大なため息を吐いた。

 

「まあ、その腕っ節だけは認めるけどね。せいぜい頑張ってよ。」

 

「ガハハハハ、任せておけい!! この俺様の天才的作戦で、金銀財宝をガッポガッポと奪って来てやるのだ!!」

 

妖怪が向ける憐れみの視線に気付く様子もなく、髑髏坊はまだ何もしていないにも関わらず高笑いを上げる。

本当にこんな奴に任せて大丈夫だろうか。

妖怪は今更ながら、不安をため息と共に吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ここがリカの家かい?」

 

楽屋での騒ぎから1時間。

新次郎はリカを家に送る事を申し出て、ベイエリアに足を運んだ。

すぐ近くで建設中のビルからは絶えず騒音が響き、ウォール街の奥に位置するチャイナタウンではいくつものネオンが昼間のように明るく輝いている。

 

「うん、ここの一番奥。あそこがリカの家。」

 

その一番外れの倉庫街に、リカの住家はあった。

外から見ただけではただの倉庫と変わりないが、中を覗けば、なるほどリカのスカーフと同じ柄のカーテンが木箱の間に引っ付いている。

その奥に、簡素だがかろうじて人が生活出来る空間があった。

木箱の間に括り付けたハンモックに、テーブル代わりのドラム缶。椅子代わりのレンガ。

その全部を目の前の少女がたった一人でしたのだと思うと、新次郎はこの空間にある種の温もりを感じた。

 

「とっておき食わせてやるからな、ちょっと待ってろ。」

 

新次郎をレンガの椅子に座らせると、リカはレンガの中央の薪に火を付け、その上に鉄板を乗せた。

やはり誰かがいると嬉しいのか、火を起こす表情は実に楽しそうだ。

 

「肉焼くのは時間かかるからな。新次郎、好きにしてていいぞ?」

 

奥の袋から、何やら高級そうな肉を引っ張り出しつつ、リカが言った。

とは言うものの、特に暇を潰すような道具は持って来ていない。

何せ当初、新次郎はリカを家に送り届けたらすぐに帰るつもりだったからだ。

とは言え何もせずボーッとしているのも、それはそれで勿体ない。

新次郎は何か話題になるようなものはないかと辺りを見渡し、ある物を見つけた。

 

「………リカ、この銃は?」

 

そして壁にかけられた拳銃が4丁。

予備にしては、やや多い数だ。

すると、リカは新しい枝を火に焼べながら答えた。

 

「それ、半分リカの。上の半分はパパの。」

 

「………パパの?」

 

ふと、リカの声のトーンが変わった。

先程のサロンで一瞬見せた時と同じ、何かに悲しむような、元気を無くした声色だ。

まさかと思い、新次郎は尋ねた。

 

「リカ………、君のパパやママは………?」

 

これまでの話の内容から若干想像はつくが、リカ本人の口から聞くまで決め付ける訳にも行かない。

しかしリカの口から出た答えは、新次郎の予想と合致するものだった。

 

「………リカ、ママの事知らない。パパ、ママはリカを産んですぐ死んだって言った。パパ、すごく泣いてた。だからリカ、パパにママの話しなかった。」

 

ふと、リカがまた表情を変えた。

 

「パパ、リカに銃の使い方教えてくれた。ショーが成功したら、ゴハン食べさせてくれた。パパのホットケーキ、すごく美味しいんだ。」

 

淋しげな表情のまま、僅かに微笑むリカ。

恐らく記憶に残る父親の姿を思い出したのだろう。

 

「………でも、パパ、いなくなっちゃった。」

 

「いなくなった………?」

 

繰り返す新次郎に、リカが力無く頷く。

そして、その断片的な光景を説明し始めた。

 

「リカ、ショーで失敗した。パパ、足にケガしてた。そしたら夜、でっかい怪獣が現れた。」

 

「怪獣?」

 

「白黒のしましまで、鳥みたいに空飛んでた。パパがやっつけてくれたけど、そしたらアイツ、川を暴れさせた。」

 

俄かには信じられない話だろう。

川を暴れさせるような怪獣など、普通では有り得ない存在だ。

だが新次郎は、リカの言葉から怪獣にある推測を立てていた。

川を暴れさせた鳥のような怪獣。

それも恐らく、これまで自身が相対して来た妖怪達のしもべではないかと。

 

「パパ、リカに言った。来ちゃいけないって。辛くても苦しくても、生きる事を止めちゃいけないって。………そしたら、パパいなくなっちゃった………。」

 

恐らくリカを守るために、川に流されたのだろう。

ただでさえ足にケガをした状態で濁流に呑まれれば、まず助からない。

 

「リカが失敗したから………、パパ、いなくなっちゃった………。だから………。」

 

「リカ………。」

 

新次郎はようやく、リカの置かれている現状を知るに至った。

リカは父親の死が、自分の失敗によるものだと考えている。

その時の恐怖から、失敗というものを極端に恐れるようになったのだ。

 

「リカ………、それはリカのせいじゃないよ。」

 

「え………?でも………。」

 

優しく頭を撫でる新次郎を、リカが不思議そうに見上げた。

新次郎は、努めて穏やかに微笑んで見せる。

 

「確かにリカは失敗したかも知れない。けど、本当に悪いのはその怪獣だろう?リカは悪くないんだ。」

 

「新次郎………。」

 

赤い顔で目を細め、リカが新次郎を見つめる。

そして、何か思い付いたように口を開いた。

 

「新次郎、一つお願いしていい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………よし、始めようか。」

 

翌日の早朝、まだ誰も来ていないシアターのドリンクバーにて、いそいそと何かを作る二つの影があった。

 

「………でな、パパのホットケーキはリンゴが入ってるんだ。コロコロに切った奴。」

 

「コロコロって事はキューブ型だね。こんな感じ?」

 

「そうそう!! 新次郎スゲーな!! パパのと同じだぞ!!」

 

指示通りにリンゴを切る新次郎に、リカが満面の笑みを浮かべる。

昨日迷惑をかけたみんなにお詫びしたいというリカの要望で、新次郎はリカのパパが作っていたという絶品ホットケーキを作る事になった。

時刻は6時半。

どうやらまだ誰も来ていないらしい。

二人は普段プラムが使っているドリンクバーのキッチンを拝借し、ホットケーキ作りを始めた。

リンゴを生地に混ぜ込み、後は焼くだけだ。

 

「焼く前にフライパンは一回冷やすんだ。んで焼く、じっくりな。」

 

濡れふきんでフライパンを軽く冷まし、満遍なく生地を広げるリカ。

流石に間近で見てきたと言うだけあって、慣れた手つきで両面を焼いていく。

その時だった。

 

「………二人コソコソして、何やってんのかな?」

 

「わひゃあっ!? サ、サニーサイド司令!!」

 

不意に背後から聞こえた声に、新次郎が仰天した。

何せこんな朝早くから、よりによってサニーサイドが現れるなどとは夢にも思わなかったからだ。

 

「お、いい匂いがするね。朝ゴハンでも作ってたのかい?」

 

驚いてアタフタする新次郎を尻目に、フライパンのホットケーキに近づくサニーサイド。

すると、リカがいきなり銃を向けた。

 

「つまみ食いだめ! これ、みんなの。取ったら撃つぞ!?」

 

「アウチッ!?」

 

突然の発砲に驚き、サニーサイドが情けなくすっ転ぶ。

その時、大変な事態が発生した。

彼の手がコンロのツマミに当たり、フライパンが火に包まれてしまったのだ。

 

「にぎゃーっ!! ホットケーキが!!」

 

フライパンから立ちのぼる火柱に、リカが悲鳴を上げる。

その時、ようやく我に還った新次郎が素早くコンロのスイッチを切り、フライパンを引っ張り出した。

 

「ふう………、何とか間に合った………。」

 

ホットケーキの状態を確認し、新次郎はほっと胸を撫で下ろした。

火に蒔かれたせいで表面が黒くなってしまったが、幸い中まで焦げてはいないらしい。

 

「新次郎、リカ、また失敗した………。ごめんなさい………。」

 

「平気だよ。焦げた部分を取れば大丈夫さ。」

 

思い通りのホットケーキを作れず、不安を漏らすリカを、新次郎は優しく慰めた。

 

「おーい、新次郎。何やってんの?」

 

出勤して来たジェミニの声が聞こえたのは、その時だった。

見れば、彼女を筆頭に星組の面々が顔を揃えている。

 

「あ、ちょうど良かった。リカとホットケーキ焼いたんです。みんなで食べませんか?」

 

「へぇ、いいね。せっかくだし頂くとしようか。」

 

「昴も賛成する。朝の糖分摂取は、脳の目覚めにピッタリだから。」

 

新次郎の見せたホットケーキに、サジータや昴も思わず顔を綻ばせる。

一方、リカだけはやや不安げな様子で新次郎を見た。

 

「新次郎………。」

 

「大丈夫だよ、リカ。さ、早く食べよう。」

 

リカを勇気付けると、新次郎はリンゴの香しい香りを味わいつつエレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リカの心配を余所に、ホットケーキは大好評を受けた。

焦げた部分をあらかじめ新次郎が取ってくれた事もあるが、何よりも隠し味のリンゴが決め手だった。

 

「こりゃいいね。甘すぎなくてコーヒーにピッタリ合うよ。」

 

「リンゴの酸味が程よく広がっている。弱火で上手く焼かないと、この味は出せない。」

 

「うん、おかわり!!」

 

各々感想を述べつつ、ペロリとホットケーキを平らげる。

すると、まだホットケーキに手を付けていないリカが恐る恐る尋ねた。

 

「リカ、よく分からない。やっぱりマズかったか?」

 

「みんな美味しいって言ってるんだよ。ほら、リカも食べてごらん。」

 

「うん………。」

 

新次郎に促され、怖ず怖ずとホットケーキを口に運ぶリカ。

すると、曇ったままの表情がパッと明るくなった。

 

「美味しい………!! リカ、失敗したのに、何で?」

 

「そんなの決まってるよ。新次郎が協力してくれたからさ。」

 

心底不思議そうに呟くリカに答えたのは、最初にホットケーキを平らげたジェミニだった。

それに続くように、サジータと昴が答える。

 

「リカが失敗しても、新次郎が助けてくれたろ?それで美味いホットケーキが出来た。これが協力するって事さ。」

 

「そうだね。一人で出来る事には限界がある。だからこそみんなで互いに長所を高め、短所を補い合うんだ。」

 

「ま、これで昨日の分はチャラにしてやるぜ。もう勝手な真似すんじゃねぇぞ?」

 

「………、うん!!」

 

仲間達の言葉に胸のつかえが取れたらしく、ようやく笑顔を取り戻すリカ。

だが、朝ののどかな空気は突然の警報によって一変した。

 

「な、何だ!?」

 

「緊急事態だ。行くぞ、みんな!!」

 

先頭をきるサジータの言葉に仲間達は表情を変え、作戦司令室に急行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「連邦準備銀行が、悪念機の集団に襲撃された。直ちに出撃し、銀行を守ってもらいたい。」

 

「連邦準備銀行? あの最新防犯設備の銀行がやられたってのか?」

 

サニーサイドから齎された報告に、サジータが首を傾げた。

連邦準備銀行と言えば、ウォール街でも一際大きい規模を誇る国際銀行だ。

その地下倉庫は10層にまでなり、中にはサニーサイドを含めた政治界や経済界の資産が纏めて保管されている。

当然内部のセキュリティは万全で、蟻一匹入る隙間もないと言われていた程だ。

そんな要塞とも言うべき銀行を、一体どうやって襲撃したというのか。

すると、サニーサイドは半分呆れた表情で画面を操作した。

 

「こ、これは………!?」

 

映された銀行の映像に、隊員達は揃って驚きの声を上げた。

何故なら、その映像は常識的に考えて有り得ないものだったからである。

 

「とても想像出来ないよ。真正面からカナヅチで叩き壊してるんだもん。」

 

そう呟き、サニーサイドはため息をついた。

確かにセキュリティの要塞がカナヅチ一本で直接殴り込まれるなど、想像出来ない。

最も悪念機という人知を越えた存在が関わっているなら、それも頷ける話ではあるが。

 

「と言う訳で、悪念機を纏めて片付けちゃってよ。僕の預金もある事だしね。リカリッタ、初任務だけど大丈夫かい?」

 

無駄口を挟みつつ、改めて指令を与え、サニーサイドは初任務となるリカに目をやる。

これまで賞金稼ぎとして危ない橋を渡って来たとはいえ、こうした命懸けのやり取りは誰でも緊張するもの。

しかしサニーサイドの意に反し、リカはやる気満々の様子で答えた。

 

「任せとけ!! 悪い奴は撃つ、これリカの掟!!」

 

「なら安心だ。大河君、出撃命令を!」

 

「はいっ!!」

 

サニーサイドの言葉に頷いて立ち上がり、新次郎は出撃命令を出した。

 

「紐育華撃団・星組、出撃!! 銀行を防衛します!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガハハハハ!! この街の金塊は、全て髑髏坊様が頂くのである!!」

 

建築工事のような何かをしきりに打ち付ける音が止まない銀行の真ん中で、髑髏坊が高らかに笑った。

その周囲では、配下の悪念機達が鋼のハンマーを振り回して手当たり次第に銀行を壊して金目の物を奪っている。

 

「たとえ最新防犯設備とやらを備えた所で、この天才的頭脳を持つ髑髏坊様の前には張りぼて同然。流石は俺様である。」

 

ただ真正面からバカ正直に殴り込んだだけの作戦を天才的と呼ぶか力押しと呼ぶかはさておき、目的の物を奪って満足げに自画自賛する髑髏坊。

その時、建築工事の音を掻き消さんばかりの大声がウォール街上空に轟いた。

 

「イッツ・ショータイム!!」

 

「誰だ………?」

 

突然の声にハッと振り返る髑髏坊。

すると、今正に襲わんとしていた銀行を守るかのように、遥か天空から五つの光が舞い降りた。

 

「「紐育華撃団、レディー・ゴー!!」」

 

各々武器を構え、声を揃える五つのスター。

その姿に、髑髏坊は聞き覚えがあった。

確か一月前、黒龍姫を破ったという紐育の星達。

 

「お前が悪者だな! リカ、許さないぞっ!!」

 

一番右側にいた緑色のスターが、腰に備えた銃を突き付ける。

髑髏坊はそれに応えるように、自前の金棒を振り回して見せた。

 

「紐育華撃団………?面白い。この髑髏坊様が来たからには、黒龍姫の汚名、挽回してくれる! 覚悟はいいな!?」

 

敗れた仲間の弔いとばかりに宣言する髑髏坊。

が、返って来たのは僅かに痛い沈黙だった。

それもそのはず。

何故なら今の一言には、明らかにおかしい部分があったからである。

 

「汚名は『返上』するものだ。挽回してどうする。髑髏坊とやら、学がなさすぎるぞ。」

 

それを指摘したのは昴だった。

刹那、更に冷たく痛い沈黙が流れる。

 

「ムガーッ!! バカにするでない!! 紐育華撃団、一人残らず叩き潰してくれる!!」

 

「わひゃあ!! せ、戦闘態勢に入って下さい!!」

 

半ば逆ギレという形で襲い掛かって来る髑髏坊。

その恐ろしいオーラに若干気圧されつつ、星組は応戦に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新次郎の心配を余所に、戦闘は比較的穏やかに進んだ。

これまでのようにハワードが最前線で敵をせき止め、真後ろからリカが、左右からサジータと新次郎が、そして不意をついて昴が追い撃ちをかける。

主人に似て真正面から襲って来る悪念機には効果覿面で、瞬く間に雑魚は瓦礫と化してしまった。

 

「ムム、マズイのである!! これでは黒龍姫の二の舞ではないか!!」

 

あっさりやられてしまった手下達を見て、流石に髑髏坊も焦り始める。

すると、そこにサジータが挑発をかけた。

 

「ハッ、どうした?怖じけづいたか、バケツ頭!」

 

「バカにするな!! こうなれば、俺様の切り札を見せてやろうではないか。」

 

サジータに張り合うように言い返すと、髑髏坊は地面に思い切り金棒を突き立て、天を仰いだ。

 

「さあ来い、俺様の最強の切り札!! 有翼骨獣ゲランダ!!」

 

髑髏坊が叫んだその時、ウォール街一帯を激しい震動が襲った。

星組は立っていられず、その場に膝をつく。

 

「な、何だ!?」

 

突然の天変地異に驚く新次郎。

だがその時、更に驚くべき事態が起こった。

 

「辺りが、急に暗く………?」

 

何とウォール街一帯が、今度は何かの影に包まれたように暗転したのである。

まだ朝早い時間帯だというのに、どうしたというのか。

それに最初に気付いたのは、昴だった。

 

「大河、上だっ!!」

 

「なっ………!?」

 

昴の言葉に上を見上げ、新次郎は絶句した。

何故なら巨大な一匹の怪獣が、ウォール街の上空からこちらを目掛けて落ちてきたからである。

 

「ビィーーーーッ!!」

 

巨大な二本の足が大地を揺るがし、凄まじい咆哮が空気を切り裂く。

その異様なまでの姿に、新次郎達は絶句した。

ワイバーンのような左右の翼。

図太い筋肉に覆われた、強靭な体。

上から獲物を睨めつける猛禽特有の鋭い視線。

そして何より、その全身に縁取られた人間の顔。

これこそ髑髏坊の従える魔の下僕、ゲランダであった。

 

「これが、髑髏坊の切り札………。」

 

「趣味の悪い体しやがって………! やるぞ、新次郎!!」

 

見た事のない奇怪な姿に気圧される星組だが、それで怖じけづいては都市防衛は務まらない。

ハワードの声に気持ちを奮い立たせ、新次郎は命令を出した。

 

「はい! 全機、怪獣を集中攻撃します!!」

 

「「イェッサー!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有翼骨獣ゲランダ。

この生きた壁とも言うべき鉄壁の体を誇る怪獣に、紐育華撃団は大苦戦を強いられた。

何せ地上から足元を攻撃しても、空中からミサイルを撃ち込んでも、まるでダメージが与えられないのだ。

この常識を完全に無視したでたらめな強さに、星組は終始圧倒された。

 

「ガハハハハ!! このまま一気に巻き返すのである!!」

 

「ビィーッ!!」

 

高らかに勝ち誇る主人に応えるかの如く、ゲランダが口を大きく開けて火球を生み出す。

だがその時、反撃に転ずる星があった。

リカリッタ=アリエスの操るシューティングスターだ。

 

「見つけた………!! コイツ、コイツパパの敵!!」

 

今まで見せた事のない怒りの表情で、ゲランダの全身に弾丸をぶち込むリカ。

その言葉に、新次郎はハッと昨夜のリカの話を思い出した。

川を暴れさせ、リカの父親を死に追いやった怪獣。

それこそ、今目の前にいるゲランダだったのだ。

 

「悪い奴は撃つ、これリカの掟!! モア・モア・ショット!!」

 

無数の星のシルエットを散りばめた弾丸が、膨大な霊力を帯びて発射された。

弾丸は七色の光を放ち、ゲランダの体にある顔の模様の一つに直撃する。

 

その時だった。

 

「ひぎゃあああぁぁぁ!!」

 

その光景に誰もが、リカですら驚きに固まった。

突然、模様がカッと目を見開き、断末魔の悲鳴を上げたのだ。

それだけではない。

その周りの顔という顔が、一斉に恐怖に呻き始めたのだ。

 

「ひ、ひぃぃ………!!」

 

「殺される!みんな殺される!!」

 

「助けて、助けてくれ!!」

 

「………殺したな?」

 

悲鳴が飛び交う中、髑髏坊が徐に呟く。

そして、自身の金棒をリカに突き付けた。

 

「分かるか小娘。貴様は今、人間を殺したのであるぞ?」

 

「え………、リカが………?」

 

その言葉に、リカは思わず動揺する。

無理もない。

敵の怪獣を攻撃したと思った矢先、人間を殺したと吹き込まれたのだから。

 

「この顔は皆、コイツに食われた者達の憐れなる魂。死ぬ事も生きる事も出来ず、もがき苦しむだけの存在である。」

 

「なるほど………、肉体を喰らい、魂を盾にするつもりか。」

 

「ふざけるな、人殺し!! 今すぐその人達の魂を解放しろ!!」

 

怒りを露に太刀を突き付ける新次郎。

すると、髑髏坊は不敵に笑った。

 

「何を言うか。俺様は殺したのではない。『喰わせた』だけだ。」

 

「チッ、ぬけぬけと………!!」

 

マヌケな性格に似合わない凶悪な戦法に、星組は手詰まりに追い込まれた。

ゲランダを倒さなければ、ウォール街は破壊される。

しかしゲランダを倒すという事は、その体内に閉じ込められた罪のない人々を、文字通り殺す事を意味していた。

彼らを見殺しには出来ない。

しかしこのまま銀行を荒らされてはならない。

使命と人情の狭間に葛藤する隊員達。

そこへ、髑髏坊が更なる追い撃ちをかけた。

 

「せっかくだ。小娘、お前の知り合いに会わせてやろう。」

 

「え………? リカの知り合い?」

 

「まさか………!!」

 

髑髏坊の言葉から、新次郎はある予測を立てる。

あの怪獣が敵と言ったリカ。

怪獣からリカを守って亡くなったリカの父親。

果たして新次郎の予測は現実になった。

 

「さあ、感動のご対面である!」

 

髑髏坊の金棒を真上に振り上げる。

すると、リカが撃ち抜いた顔が生々しく左右に引き裂け、中から一際大きな顔が現れた。

刹那、リカが叫んだ。

 

「パ、パパ!!」

 

「何だって!? じゃああれが………!!」

 

リカの言葉に誰もが驚き、新次郎は予測が当たってしまった事を痛感した。

恐らくリカの父親をゲランダに喰わせていたのだろう。

肉親まで人質に取られては戦い様がない。

そう焦る新次郎を嘲笑うように、髑髏坊はリカに揺さぶりをかけた。

 

「ガハハハハ! どうだ小娘。貴様がコイツを殺せば、貴様の大事なパパも殺してしまうのだぞ?」

 

「や、やだ………! パパ………!!」

 

「くっ………、何て卑怯な………!!」

 

卑劣極まりない髑髏坊の戦い方に、星組の誰もが憤る。

が、当の本人はにべもなく笑った。

 

「ガハハハハ! 外野の声なんぞ聞こえないのである。さあ小娘、お前は父親をまた殺すのか?」

 

「リカ………、リカ………!!」

 

突き付けられた現実に、リカは既にパニックに陥っていた。

目の前の怪獣は敵だ。

父親を殺した憎き仇だ。

だがそれが自分の父親だというのだ。

仇と一心同体になってしまった父親を前に、自分は一体どうすればいいのか。

まだ齢12もない少女にとって、それはあまりに過酷な決断だった。

 

「惑わされるなリカ! 奴の言葉はまやかしだ!!」

 

「駄目………、リカ、パパ撃てない………。」

 

新次郎の呼びかけも虚しく、リカの手から拳銃が落ちる。

刹那、それを待っていたかのように髑髏坊が叫んだ。

 

「今が好機なり! ゲランダ、あの小娘から始末しろ!!」

 

「ビィーーーーッ!!」

 

主に応えるように咆哮を轟かせ、ゲランダが大きく首をもたげる。

直後、その口から超巨大な火球をシューティングスター目掛けて吐き出した。

 

「リカッ!!」

 

反射的に叫び、リカを逃がそうとする新次郎だが、リカは完全にパニックになって動こうとしない。

サジータも昴も、一瞬で焼き尽くされるリカの最期を想起する。

が、それは赤い炎の星によって遮られた。

 

「ナメんじゃねぇ、こなくそっ!!」

 

「ハワードさんっ!!」

 

新次郎達は、今度は別の意味で驚いた。

無理もない。

ハワードのバーニングスターが、体中から火花を散らしてゲランダの火炎からリカを守っているのだから。

 

「新次郎、これ以上は不利だ! 退却命令を出せ!!」

 

「は、はい! ラチェットさん!!」

 

ハワードの言葉に頷き、新次郎は素早くエイハブで待機するラチェットに通信を繋げた。

現時点でハワードのみならず、自分達のスターも少なからず負傷している。

正常な思考を欠いたリカを庇いながら髑髏坊達と戦うには、あまりにもリスクが高すぎた。

 

「了解よ。プラム、杏里、緊急下降して。」

 

「「イェッサー!」」

 

ラチェットの指示で、エイハブが銀行上空に下降する。

新次郎達はすかさず空戦形態に変形し、エイハブの格納庫に収容される。

 

「リカ、お前も早く逃げろ!」

 

それを確認し、ハワードは未だ背後で怯える少女に叫んだ。

既にバーニングスターの装甲は限界だ。

後30秒も火炎を防御し続ければ、たちまち両腕が溶解してしまうだろう。

 

「ハワード………、でもパパが………。」

 

「いい加減にしろ!! お前がいると邪魔なんだよ!!」

 

ぐずるリカに、ハワードは舌打ちと共に怒鳴り付けた。

戦闘続行どころか退却すら可能か分からない極限状態だ。

これ以上無駄な時間が重なれば、それこそ命に関わりかねない。

 

「………!!」

 

モニターから見えるリカは一瞬ショックとも取れる表情を見せ、目に涙を溜めてエイハブに向かう。

その直後、バーニングスターの両腕がドロドロと溶け崩れた。

 

「ギリギリって所か………。」

 

自身の武器を失い、ハワードは自嘲気味に笑う。

恐らくもうスターでは勝ち目がないだろう。

そう、スターでは。

 

「結局、使うしかねぇんだな………。」

 

スターを自動操縦に切り替え、ハワードは左袖の星を手に改めて怪獣を睨んだ。

 

「タロオオオォォォゥッ!!」

 

裂帛の叫びと共に、ウォール街は閃光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デヤァッ!!」

 

閃光の中から現れた紅の巨人が、空中から華麗にゲランダを蹴飛ばした。

ウルトラマンタロウ。

紐育に降臨した新たなる光の巨人。

 

「来たか、ウルトラマンタロウ。待ち焦がれていたのである。」

 

ゲランダと対峙するように立ちはだかるタロウに、髑髏坊は獲物を見つけたように笑った。

余程自信があるのか、その佇まいには余裕すら溢れている。

その様子に、タロウは底知れぬゲランダの強さを想起した。

 

「今こそ勝負! 我が最強の下僕ゲランダよ! あの大男をぶっ飛ばすのである!!」

 

「ビィーーーッ!!」

 

「ムンッ!!」

 

それでも負けじと迫ってきたゲランダに猛然と掴みかかるタロウ。

そのとんでもない質量に一瞬圧倒されるも、タロウは髑髏坊おして最強怪獣と言わしめたゲランダを高々と持ち上げ、勢いよく地面に叩き付けた。

 

「ビィッ!?」

 

「ムムッ!? 俺様のゲランダを投げ飛ばしただと………!!」

 

力が自慢だっただけに力で競り勝ったタロウに、僅かだが髑髏坊の顔から余裕が消える。

一方、タロウはようやく掴んだ流れを覆される前に一気に畳みかけた。

 

「ストリウム光線!!」

 

七色に輝く眩い光線が、一直線にゲランダの巨体に炸裂した。

 

「ビギィィィ………!!」

 

大気を揺るがす断末魔。

腹部に顔があったかすら分からない程の巨大な風穴から焦げ臭い煙を吐き、巨体が音を立てて仰向けに倒れる。

刹那、その巨体は爆発音と共に激しい爆炎の中に消えた。

 

「ムンッ。」

 

その最期を見届け、タロウもまた宙の彼方へと飛び去る。

 

 

 

 

 

 

その様子を物影から眺める、もう一人の魔に気付かずに。

 

 

 

 

 

 

 

「………なるほど。リカにそんな事が………。」

 

「ええ、私達もついさっき大河君に聞いたばかりで………。」

 

シアターに戻ってすぐ、ハワードはラチェットからリカの過去について聞かされた。

生まれてすぐに母親を亡くし、父親と二人で生きてきた事。

アメリカに来る途中で怪獣に襲われ、父親までも亡くした事。

そして、その正体こそ先ほどの髑髏坊である事。

 

「なるほどな………。」

 

ラチェットの話に、ハワードは意外な印象を受けると共に、心のどこかで納得していた。

リカは第一印象の通り、明るく無邪気な性格だ。

しかしその何処かに、暗く冷たい影が潜んでいた。

それが家族を失った孤独感にあるとすれば、充分納得できる。

リカが怪獣に父親の面影を見て戦意を失った事や、何より見覚えがあった事が証拠だ。

 

「幸い、ウルトラマンが怪獣を撃破してくれたからいいけど………。」

 

「………ああ。」

 

ラチェットの言葉にとりあえず生返事を返すが、ハワードは心の奥底に何か引っかかる物を感じていた。

 

「(そうだよな………。木端微塵にしたんだ、生きてるはずがねぇ………。)」

 

それは、長年霊的組織に属した経験から来る一種の勘だった。

頭の良い指揮官というのは、作戦の巧妙さもそうだが、それと同時に危険に見舞われた際の保険も用意しているものだ。

よほど気高い心を持つ者でも、自分の命が一番大事という本能は消しようがないからである。

こと髑髏坊に関しても、それと同じ理論が言えた。

リカの心の傷につけ込んだ絞滑な戦法。

見た目や言動のアホらしさで隠されたように見えるが、明らかにその戦い方は優れた武将のそれと言う事が出来るだろう。

そして、それだけの策を弄して星組を撤退させたにも関わらず、ストリウム光線の前に不自然な程あっさり敗退したゲランダ。

それまで星組の攻撃がろくすっぽ通用していないというのに、そんな事がありえるのだろうか。

しかし反面、その怪獣兵器が爆発四散する決定的瞬間は、他ならぬハワード自身が見届けている。

その事実を受け入れる事で、ハワードは未だ心に残る不安にも似たわだかまりを取り払おうとしていた。

 

が、それが決定的な間違いである事を、ハワードはほどなく思い知らされる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リカ………、一体どこにいるんだ?」

 

夜もだいぶ更けた頃、新次郎の姿はベイエリアにあった。

昼間の被害がそのまま残るウォール街を傷心の思いで走り抜け、海の見える臨海公園に足を運ぶ。

閉店したシアターからリカを探しに出かけて1時間。

既に紐育はあらかた一周した所だ。

サジータや昴は大して心配する様子がなかったが、新次郎だけはどうしても軽視する事が出来なかった。

リカ本人から話を聞いた事もそうだが、何よりサニーサイドから釘を刺されていたからだ。

 

「大河君、ハラキリってした事ある? ない? ならよかった。ハラキリってのは責任を逃れる事だろ?君も見習いとはいえ、体調なんだから責任を全うするんだ。リカの心の壁を壊したのは、君なんだから。」

 

入口でサニーサイドが投げかけた言葉。

優しさというものは、時として毒になる。

恐らくサニーサイドも、彼なりにリカを心配しているのだろう。

 

「キュッ!」

 

そんな新次郎の前に見覚えのあるフェレットが現れたのは、チャイナタウンに通りかかった時だった。

白い体に星の形の黒模様。

リカの相棒、ノコだ。

 

「ノコ!? お前、どうしてこんなところに………?」

 

「キュッキュキュー!!」

 

驚く新次郎をよそに、ノコは倉庫街に向かって走り出す。

まるで、ついて来いといわんばかりだ。

その様子に、新次郎はハッと気付くものがあった。

 

「もしかして、案内してくれるのか?」

 

「キュー!」

 

当然の事ながら、新次郎にフェレットの言葉はわからない。

しかしそのニュアンスから、新次郎は確信した。

ノコが行く先、必ずリカがいると。

 

「………よしっ!」

 

一縷の希望を見出し、新次郎は駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おのれ、ウルトラマン! 俺様の怪獣を、マグレなりとも倒すとは………!! おかげで作戦に大幅な遅れが出来たのである。」

 

人気のない倉庫街にて、髑髏坊は怒りを露に金棒を地面に突き立てた。

その衝撃でコンクリートの地面はたちまち波打つように砕けるが、本人は一向に気にする様子がない。

 

「ほっほっほ………、何事じゃ、騒々しい。」

 

その後ろから声がしたのは、髑髏坊が荒い息で金棒を下した時だった。

 

「………夢殿か。俺様に用か?」

 

「あるから来たのであろう。真に『脳筋』とはよくこそ言ったものじゃ。」

 

「ガハハハハ!! こんな時に褒められても、嬉しくはないのである。」

 

「………まろにはそうは見えんがの。」

 

呆れた口調で暗闇から現れたのは、織物を幾重も身に纏った妖しい雰囲気の女性だった。

深く被った笠で顔は見えないが、その佇まいは古い時代の貴族を思わせる。

 

「して、要の黄金は集まったのか?」

 

「うむ、色々と妨害が入ったが、後少しで充分な量である。」

 

そう言って、髑髏坊はどこから取り出したのか、自慢げにかっぱらった紙幣を並べる。

一体どれくらい必要なのかは分からないが、結構な量ではあるらしい。

 

「小判ではないのか? 世も変わるものじゃな………。」

 

「して、夢殿よ。この俺様に何の用だ?」

 

髑髏坊が話を戻す。

すると、夢殿と呼ばれた女性は口元を僅かに上げて笑って見せた。

 

「心して聞くがよい。主の業………まろが少しばかり手伝ってやろう。」

 

刹那、暗闇に何かが蠢いた。

 

「この町は多くの邪が満ちておる。まろの手ごま達も有り余っておるでな。ほっほっほ………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見た。

久しぶりに、あの日の夢を見た。

咆哮と共に現れた怪獣。

深手を負いながら、怪獣を追い払った父親。

そして、暴れる川に呑まれて消えた父親。

 

『パパッ!!』

 

『来るな、リカッ!パパの事はいい………、お前一人でもアメリカに向かえ………!!』

 

『やだっ!! リカ、パパと一緒じゃなきゃやだっ!!』

 

『甘えるな! ………いいか、リカ。これから先、一人で苦しくても、ちゃんと我慢するんだ。傷つけられても、騙されても、一生懸命生きるんだ………!!』

 

『パパッ!! パパーーーーッ!!』

 

「………パパ………。」

 

これまで幾度となく記憶によみがえるあの瞬間。

あの悲しみを自分はもう克服したと思っていた。

人を傷つけたり、嘘をつくような悪者は、片っぱしからやっつけて来た。

だがあの瞬間、みんながあの怪獣にやられた瞬間、リカの心には言いようのない恐怖が沸き上がった。

身の毛がよだち、視界が霞み、僅かに意識が遠のくような感覚。

一人でこの町に来て、一人で過ごしている間は、そんな事は一度もなかった。

だからだろうか。

気がつけば、リカは自分の部屋の片隅で、震えるように固まっていた。

そうしなければ新次郎達がいなくなるような、あの日のパパのようにいなくなるような、そんな気がしたからだ。

 

「ごめんね………、新次郎………。」

 

今までで一番優しかった青年の顔を思い出し、リカが呟く。

その時だった。

 

「リカッ!!」

 

誰かが勢いよく部屋に飛び込んでくる。

その少し小柄なシルエットにリカは見覚えがあった。

 

「新次郎………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リカッ!!」

 

ノコに案内された新次郎はリカの姿を認めるや叫んだ。

倉庫街の一角にあるリカの住まい。

その人目につかない閉鎖された空間に、リカはいた。

 

「………新次郎………。」

 

弱々しい声が、狭い空間を震わせた。

声は部屋の中だけに反響し、外には聞こえない。

新次郎には、それがまるでリカの心をそのまま表しているようにすら思えた。

 

「リカ、帰ろう。みんな心配してるよ?」

 

それを顔に出さないよう意識しながら、普段と変わらない態度で手を差し伸べる。

が、リカはそれを拒んだ。

 

「………駄目。リカ、一緒にいられない………。」

 

「どうして?みんな怒ったりしないよ?」

 

新次郎が尋ねるが、やはりリカは首を横に振った。

ならば、一体何を理由に戻れないと言うのか。

それは、やはりリカの過去に関わるものだった。

 

「………怖い………。」

 

「え?」

 

「リカ、怖い………。また、新次郎やみんながいなくなりそうで………、パパみたいにいなくなりそうで怖い………。」

 

それは家族を失う悲しみと、孤独から来る恐怖だった。

昼間のピンチの瞬間、リカは父親を失ったあの瞬間を思い出したのだろう。

そして恐れたのだ。

父親の時と同じように、自分達がリカの前からいなくなる事を。

 

「リカ、誰もいなくなってほしくない………。初めから一人なら、誰もいなくならない。だからリカ、みんなの所にいけない………。」

 

それは、ろくに勉強する機会もなかった少女の導きだした、精一杯の考えだった。

新次郎は痛感した。

初めて会ったリカがあんなに逞しかったのは、一人で生きる決意を固めていたからだと。

そしてその決意こそ、新次郎が壊してしまった壁なのだと。

 

「リカ、聞いて………。」

 

新次郎は、震えるリカの肩にそっと手を置いて語りかけた。

 

「パパがいなくなった時、確かにリカは怖かったと思う。でもね、リカが怖いように、僕達もリカがいなくなるのは怖いんだよ………?」

 

「え………?」

 

消え入るような声で、リカが怖ず怖ずと顔を上げる。

新次郎は出来る限りの優しい声で、リカを安心させるように続けた。

 

「約束する。僕は絶対にリカの前からいなくなったりしない。みんなも、きっと同じ事を言うと思う。」

 

「新次郎………。」

 

「それにリカのこんな寂しい姿をみたら、パパも悲しいよ。大事な娘が寂しい思いをして、苦しくない父親なんていないもの。」

 

「パパが?」

 

その言葉に、リカの表情が一瞬明るくなる。

しかしそれは一瞬で、リカは頭を振って否定した。

 

「ううん、パパ、リカに我慢しろって言った。だからリカ、我慢する………。」

 

「違うよ、リカ。みんなといるのを我慢するんじゃない。怖いのを我慢するんだ。」

 

「怖いのを、我慢………?」

 

さっきのそれより、明らかに強い驚きの表情で、リカが新次郎を見た。

 

「僕達が、星組がリカの新しい家族になる。辛い思い出から立ち上がれるように、僕達みんなで支えてあげる。だからリカ、僕達を信じて。」

 

「新次郎………。」

 

失ったなら、新しい何かで補えばいい。

人の心の傷は、そう簡単には癒えないだろう。

それでも、辛い過去を暖かい未来で塗り替える事だって出来る。

それが自分達の使命だと、新次郎は確信していた。

 

「リカ………、僕達も、僕もリカが大好きなんだ。だから………、戻って来てくれるかい?」

 

いつの間にか瞳に溜まった涙を拭いてあげながら、新次郎が尋ねる。

すると、リカは笑った。

 

「………、うん。」

 

いつもの満面の笑みではなく、仄かに頬を赤く染めた可愛らしい微笑み。

その微笑みに、新次郎もまた顔を赤くする。

 

その時だった。

 

「な、何だ!?」

 

突然の激しい震動が倉庫街、いや、ベイエリア全体を揺るがした。

まるで何かを叩き付けるように、断続的に続くそれは、明らかに人為的なものだ。

新次郎が異変の正体を推測するのに、それ以上の情報は必要なかった。

 

「新次郎、もしかしてまたバケツ頭か!?」

 

同じ事を考えていたらしく、リカも表情を変える。

 

「間違いない。リカ、作戦司令室に急行だ!」

 

「イェッサー!!」

 

新次郎の言葉に、力強い返事を返すリカ。

その顔に、先程までの影は塵程も残ってはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………全員、集まったようだね。」

 

リトルリップシアター地下の作戦司令室にて、サニーサイドが揃った隊員達を見渡す。

欠員はない。

座席には新次郎以下五人の隊員が顔を揃えていた。

 

「リカ、みんなに言う事があるんだよね?」

 

「うん、リカ、みんなに心配かけた。ごめんなさい。」

 

新次郎に促され、リカが仲間達に謝罪する。

謝った程度で許される事ではない。

しかしリカが星組の一員となる上で、これは必要不可欠なスタート地点だった。

 

「リカ、もう逃げない。みんなと一緒にいたい。だから、みんなもリカと一緒にいて。」

 

「ああ、もちろんさ。帰ったらソウルフードご馳走してやるよ。」

 

「その言葉を待っていた。昴は約束する。リカを信じる。」

 

「あのバケツ頭、今度こそのめさねぇとな。」

 

素直なリカの言葉を認め、仲間達も暖かい言葉を返す。

紐育華撃団が、真に一つになった瞬間だった。

 

「さて、出撃だ。大河君、出撃命令を頼むよ!」

 

「はい!! 紐育華撃団・星組、出撃!! 悪念機を撃破します!!」

 

「「イェッサー!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベイエリアに位置するウォール街。

昼間の惨状もそのままに、悪魔の使者達は再び現れた。

完全に機能を奪われた銀行からは、次々と金品が奪われていく。

 

「ガハハハハ!! 流石は俺様。仕事の速さは一番なのである!!」

 

好調に仕事を進め、昼間より二割増し上機嫌な髑髏坊。

最も昼間の内に散々暴れたのだから、はかどるのは当たり前と言えば当たり前だが。

 

「これならば、夢殿の助けを借りる事もなかったのである。流石、俺様である!!」

 

すっかり自分に惚れ込み、自画自賛して高笑いを上げる。

その時、遥か天空から高笑いを掻き消す声が響き渡った。

 

「イッツ・ショータイム!!」

 

「誰だっ!? せっかくの気分を台なしにする奴は!!」

 

上機嫌だった髑髏坊が一転、怒りの表情で後ろを振り向く。

刹那、ウォール街に正義を司る五つの流れ星が現れた。

 

「「紐育華撃団、レディー・ゴー!!」」

 

「き、貴様らは………!!」

 

その姿を認めるや、髑髏坊の表情が驚きに変わる。

何故なら彼らは………、

 

 

 

 

 

 

 

 

「………誰だ?」

 

 

 

忘れ去られていたからである。

その突拍子もないボケた答えに、星組は思わずズッコケた。

 

「本っ当にバカだなっ!! 紐育華撃団だっつってんだろ!!」

 

「昼間に戦った相手も覚えていないとは………、貴様の脳みそはまともか!?」

 

「う、煩い!! ど忘れである! ついである! わざとである!!」

 

ようやく思い出したらしく、みっともない言い訳を並べる髑髏坊。

ハッキリ言ってなんの言い訳にもなっていないが、ここまでボケ倒されると、最早ツッコむ気力も失せてしまう。

 

「この俺様に二度も恥をかかせるとは、許さん!! 紐育華撃団、覚悟するのである!!」

 

どう聞いても逆恨みか逆ギレにしか聞こえない丹舌を切り、金棒を地面に叩き付ける髑髏坊。

刹那、またたび地面が激しく揺れたと思うと、地中から何かがアスファルトを突き破って飛び出して来た。

 

「ビィーーーッ!!」

 

「なっ………!?」

 

「馬鹿な………、ゲランダだと!?」

 

その姿に、紐育華撃団は驚きを隠せなかった。

何故なら地中から現れたのは、昼間ウルトラマンに倒されたはずの怪獣兵器、ゲランダだったからである。

悍ましさ極まる全身には、傷一つない。

この怪物は不死身か。

そう思える程に。

 

「さあ行け、我が最強怪獣!! 紐育華撃団を、今度こそギッタギタにするのである!!」

 

主の命を受け、怪獣は咆哮を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リカの父の仇でもある髑髏坊とのリターンマッチ。

紐育を蹂躙すべく今再び現れた大怪獣ゲランダを前に、星組はまたしても窮地に立たされた。

ゲランダや悪念機達の攻撃が激しい事ももちろんだが、何せ昼間のスターの損傷が完全に修復されていないのだ。

特にハワードのバーニングスターに至っては、片腕しか装備できていない状況である。

これだけのハンディを抱えて且つ戦況を好転させるというのは、いかなる軍師といえども困難だ。

増してや隊長に赴任して経験の浅い新次郎に、そんな手腕が発揮できるはずもない。

故に星組は善戦こそすれ、圧倒的不利な現状を打破するにはいたらなかった。

 

「くらえっ!!」

 

ゲランダの吐き出す炎を巧にかわし、白銀の二刀で悪念機を真っ二つに両断する。

だが次の瞬間、不意に現れた金棒がフジヤマスターの横っ腹を容赦なく殴りつけた。

 

「ガハハハハ、油断したな。お前達如きが何人集まった所で、俺様に勝ち目はないのである。」

 

「く、くそっ………!」

 

余裕を崩さない髑髏坊を前に、新次郎は悔しげにモニターを見る。

サジータ、昴、ハワード………。

どのスターもすでにダメージが40%を超えている。

このままダメージを受け続ければ、戦闘どころか移動もままならなくなるだろう。

絶体絶命とは、正にこの事だった。

 

「やめろっ!! これ以上新次郎達をいじめるなっ!!」

 

その時、一番後方にいたスターが髑髏坊めがけて弾丸の嵐をぶつけた。

リカリッタの操る、緑色のシューティングスターである。

前回の戦闘のダメージが比較的軽微だったシューティングスターだけは、ハワードの尽力もあって完全な修復がなされていたのだ。

 

「悪い奴は撃つ。これリカの掟!! 「モア・モア・ショット!!」

 

星を象った霊力を弾丸が次々と悪念機を撃滅させる。

見れば悪念機は、もうまばらにしか残っていない。

これには流石の髑髏坊も焦りを覚えた。

 

「ムムッ………!? 俺様の手下どもがまたしても全滅とは、少し油断したのである。」

 

「覚悟しろ、髑髏坊!! 今度はお前の番だ!!」

 

銃口を突き付け、リカが叫ぶ。

すると、髑髏坊は再び姑息な手段に走った。

 

「出来るのか、小娘? 忘れたとは言わせんぞ? お前の父親が、ここにいるという事を………。」

 

刹那、再びゲランダの腹部に昼間と同じ顔が現れた。

 

「………リカ………リッタ………。」

 

語りかけてくる父親に騙されまいと、リカは瞳を閉じて沈黙を守る。

すると、変わり果てた父はさらに語りかけて来た。

 

「何も怖がる事はない………。パパはここにいるじゃないか………。」

 

「………。」

 

「このままいつまでも一人でいる事はない………。さあ、パパの所においで………。」

 

「………。」

 

「今まで寂しかったろう………。さあ、パパの所においで………。」

 

「パパ………。」

 

いく度目かの囁きに、リカがハッと目を見開く。

そして………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リカ……… 「ごめんね、パパ………。」 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

囁きを、一発の銃声が遮った。

その一瞬、誰もが何が起きたのか分からず困惑する。

しかし腹部に風穴を開けられたゲランダのうめき声と、その風穴の向けられたリカの拳銃に、誰もが全てを理解した。

 

「バ、バカな!? 実の父親に銃を向けるとは………!!」

 

「………お前、嘘ついた。」

 

予想もしない展開に焦りだす髑髏坊を、リカは突き刺すように睨んだ。

それは11歳の無垢な眼差しでも、獲物を見つけた賞金稼ぎの眼光でもない。

父を奪われ、仲間を傷つけられた少女の純粋な怒りだった。

 

「パパ、リカに来るなって言った。我慢して生きろって言った。こっちにおいでなんて、そんな事言わなかった。」

 

娘の死を願う父親がどこにいるだろうか。

そんな事の分からないリカではない。

髑髏坊はこの瞬間、リカの逆鱗に触れた。

 

「お前、リカからパパ奪った………、パパに嘘付かせた………、新次郎達も傷つけた………!! 絶対許してやらないんだ!!」

 

「フン、別に許してもらわなくていいわい!! 既に必要な黄金は揃った。この町諸とも粉々にしてやるのである!!」

 

悪びれもせずに開き直り、ゲランダの背中の飛び乗る髑髏坊。

 

「今こそ生まれ変われ!! 髑髏坊、究極合体である!!」

 

その時、驚くべき事が起こった。

一瞬目が眩まんばかりの閃光が走ったかと思うと、ゲランダの腹の傷が、髑髏坊の顔によって覆われていたのである。

 

「な………、何だありゃ?」

 

「ガハハハハ!! 驚いたか紐育華撃団。これこそこの髑髏坊最終形態、『ネオゲランダ』である!!」

 

ぶっ飛び過ぎた姿に呆気に取られる星組に向かって、得意げに笑う髑髏坊。

名前に髑髏坊のどの字もない事に、果たして本人は気付いているのだろうか。

 

「紐育の空に、死の雨を降らせてやろう。覚悟は良いな、紐育華撃団!!」

 

「そんな事、リカがさせるかっ!! チェンジ、フライトフォーム!!」

 

夜空へ飛び立つネオゲランダを追うように、空戦形態にチェンジしたシューティングスターが弾丸の如く飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウォール街上空は、瞬く間に戦闘の爆音に包まれた。

四方八方で爆発と咆哮が轟く中、四機のスターが縦横無尽に空を駆ける。

 

「リカッ!!」

 

「行くぞ、新次郎!!」

 

新次郎の掛け声に合わせ、リカが左右から挟み撃ちをかける。

更に、そこへ残る二人が追い撃ちを仕掛けた。

 

「昴機、援護する!!」

 

「仕上げと行こうか!!」

 

前後左右からミサイルを撃ち込まれ、たちまち怪獣は全身から炎を上げる。

星組のチームワークもそうだが、雑魚が残っていなかった事が幸いした。

ネオゲランダの戦闘力は脅威だが、単体ならば勝ち目はある。

如何に力のある兵と言えど、複数を相手にすれば絶対的に不利なのだ。

 

「これで決める! 狼虎滅却………、雲雷疾飛!!」

 

一気にトドメを刺すべく、霊力を込めた翼を纏って殺到する新次郎。

だがその時、思いも寄らぬ反撃が返って来た。

 

「なっ………!?」

 

何と、炎の中から無傷同然の腕が飛び出し、新次郎の一撃を防いで見せたのである。

それだけではない。

ネオゲランダはそのまま腕を振り抜き、新次郎を吹き飛ばしたのである。

 

「新次郎!?」

 

「気をつけろ、大河。あの怪獣、昼間の時と何かが違う。」

 

何かが違う。

そう指摘した昴に答えたのは、炎の中にいる怪物だった。

 

「ほう、よく見抜いたな。褒めてやるのである。」

 

「髑髏坊!? アイツ、まだ生きてやがるのか!?」

 

サジータが驚愕に目を見張る。

あれだけの集中放火を喰らって尚平気でいられるなど、どれだけ生命力が凄いのだろうか。

 

「この怪獣は、元来魂を喰らう者。妖力の塊とも言うべき俺様とくっつけば、こうなるのである!!」

 

怒号と共に、炎が掻き消えた。

刹那、星組の目に信じられない光景が飛び込んで来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冗談だろ………。」

 

モニターに写された戦闘状況に、ハワードもまた驚きを呟くしか出来なかった。

全身を炎に包まれたはずのネオゲランダの身体が、瞬く間に再生していくではないか。

髑髏坊の妖力だけではない。

まるで細胞の一つ一つが自立して動いているような、そんな印象である。

いずれにせよ、不死身とも言える能力を得た敵に星組が勝てる確率は明らかに0に近かった。

 

「チッ………。」

 

悔しさの余り、ハワードは舌打ちを漏らした。

元から片腕を失っているバーニングスターに、空戦形態への変形は叶わない。

何故なら設計上両腕がそのまま翼になるため、片腕のないバーニングスターは事実上飛行能力がまるで期待出来ないのである。

我ながらとんだポンコツを作ったものだ。

自身にそう毒づきつつ、ハワードは袖からミレニアムスターを掴み取る。

ハワード=アンバースンとして、自分はもう戦う術がない。

しかし、自分の手にはまだ光が残されている。

この絶望的極まりない現状をひっくり返す事が出来るかも知れない、希望の光が。

 

「今度ばかりは………、託すしかねぇよな………。」

 

半分諦めたように呟く。

もう迷ってはいられない。

この状況を打破するには、光に縋る他ない。

諦めないために、諦める。

矛盾した結論に一人笑う一瞬、ハワードは夜空の戦場を睨み、光の証を突き付けた。

 

「タロオオオォォォゥッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、やはり一条の閃光と共に現れた。

 

「デヤァッ!!」

 

神速とも言うべき速さで空を舞い、勢いそのままにネオゲランダに殺到する赤い光。

紐育の守護者、ウルトラマンタロウである。

 

「ビィーーーッ!!」

 

咆哮と共に次々と吐き出される火球をかわし、勢いそのままに体当たりを仕掛ける。

 

「ビィッ!?」

 

「ムンッ!!」

 

そのままゲランダの身体を掴んで激しく旋回し、真下の地上目掛けて投げ落とす。

そして眼下の魔獣を見据え、タロウは必殺のストリウム光線を放った。

 

「ストリウム光線!!」

 

昼間のそれと同じく、七色の光線がダイナミックに怪獣を直撃した。

その光景に、星組の誰もが勝利を確信する。

しかし………。

 

「なっ………!?」

 

誰もがその光景に今度こそ驚いた。

無理もない。

怪獣の中心に開けられた大穴が、みるみる内に煙を立てて塞がっていくのだから。

昼間では爆死に追い込んだはずのストリウム光線の一撃は、ものの5秒もしない内に跡形もなく元通りになってしまった。

 

「どうなってんだ? ストリウム光線も効かないなんて………。」

 

「まさか、本当に不死身なのか?」

 

恐るべきゲランダと髑髏坊の再生能力に、思わずたじろぐ新次郎。

だが一人、昴だけはある事に気付いた。

 

「その割には、妖力の規模が明らかに小さい。まるで張りぼてを身に纏っているようだ。」

 

「………、まさか………!!」

 

その言葉に、新次郎が何かに気付いたように顔を上げた。

よく考えればおかしい話だ。

確かに昼間、ゲランダはタロウの手によって滅んだ。

その怪獣が、何故こうして不死身ともいうべき能力を以って今現れたというのか。

本当に不死身なら、昼間の時に粉砕する事もなかったはずなのに。

しかしそれも、今なら説明できる。

今脳裏を過ぎった予想が、もし的中しているとするならば。

 

「昴さん、奴の妖力が一番高い場所は!?」

 

「………、喉元だ。腹部の面で僅かに隠しているが、見え透いているな。」

 

「リカッ!!」

 

答えが終わらない内に、新次郎は叫んだ。

予想が正しいかどうか、この一発で決まる。

新次郎の言葉に、緑色のスターがネオゲランダ目掛けて殺到する。

その姿に、髑髏坊はほくそ笑んだ。

 

「馬鹿め、飛んで火に出る夏の虫とは、この事である。」

 

「させるかっ、昴!!」

 

「分かった!!」

 

「僕も手伝います!!」

 

正面から飛来するシューティンスターを迎え撃たんと構えるゲランダに、残る三機のスターが一斉に攻撃を仕掛けた。

次々とミサイルが爆発し、たちまちネオゲランダの周囲が爆炎に包まれる。

 

「ええい、小癪な! この程度の攻撃など無意味である!!」

 

とはいえ、ミサイル程度の攻撃が修復するまでは一瞬。

残念ながら致命傷には至らない。

だが、髑髏坊は気付いていなかった。

新次郎の真の狙いに。

 

「喰らえっ!!」

 

一瞬遅れて、煙の中から緑色のシューティングスターが飛び込んできた。

先ほどの三機の攻撃はただの連携ではない。

リカリッタへの注意を、攻撃の直前まで可能な限り逸らすための囮だったのである。

その狙いは的中し、シューティングスターの一撃は寸分違わず怪獣の喉元を狙い打った。

 

「ビィィィィィッ!!」

 

苦痛の色を伴った激しい咆哮が轟く。

その瞬間、リカは見た。

自らが開けた風穴に、暗くおぞましい妖力を纏った髑髏の姿を………。

 

「見つけたぞ髑髏坊! 覚悟しろ!!」

 

「ムムッ!? 俺様を見つけ出すとは、大した奴らなのである!!」

 

風穴から顔を覗かせた髑髏坊がギョッとした顔色で反応した直後、ネオゲランダはすぐさま翼を広げて飛び上がる。

しかし、それを許さない者がいた。

紅き光の巨人、ウルトラマンタロウである。

 

「ムンッ!!」

 

タロウは両腕を頭上に上げドリルのようにグルグルと体を回転させる。

すると、驚くべき事が起こった。

何とタロウの回転が速くなるにつれ、その体を中心に巨大な竜巻が発生したのである。

 

タロウスパウト。

 

自身の体を高速回転させて人工の竜巻を生み出し敵を巻き込むタロウの必殺技である。

竜巻の影響でウォール街の建物の屋根がいくつか吹っ飛んでしまったが、状況が状況だけに気にしていられない。

 

「ギャボーッ!! こ、これは一体何事であるか………!?」

 

竜巻が上空のネオゲランダをとらえた。

刹那、髑髏坊の情けない悲鳴と共にネオゲランダの体に異変が訪れた。

何とゲランダの体が、突風に曝された箇所からみるみる内に分解されていくではないか。

その姿に、新次郎は自身の予想が的中していた事を確信した。

体は大きいのに、妖力自体は明らかに髑髏坊とそれに付随する程度しかない。

それはつまるところ、目の前の怪獣が一種のまやかしである事を示していた。

本当のネオゲランダは、恐らく昼間に死んだのだろう。

そして何らかの形で、妖力だけを身に纏った虚像として現れた。

その正体は分からないが、その媒体が怪獣の細胞を構成していると考えれば、あの恐ろしい能力の説明もできるし、対処もしやすい。

媒体が寄せ集まっているなら、それを無理やり引き剥がしてしまえばいい話だからである。

故にタロウの竜巻は、今のネオゲランダにはこの上なく有効極まりない戦法だった。

 

「今だリカッ!!」

 

「イェッサー!!」

 

気合いのこもった返事を新次郎に返し、リカはスターの霊力制御を解除する。

その直後、後方に待機していたエイハブから何かがシューティングスター目掛けて射出された。

それは、スター二台分はあろうかという巨大な銃口だった。

シューティングスターはそれに覆いかぶさるように連結する。

そして、竜巻に巻き込まれて剥きだしになった怪獣の核に狙いを定める。

銃口の先端に霊力が圧縮され、淡い緑の光を帯びた。

 

「受けてみろ、リカの必殺!! バッファロー・ゴー・ゴー!!」

 

激しい轟音が轟いた一瞬。

リカリッタ渾身の一撃が、邪悪な妖力の核をものの見事に打ち抜いた。

正義の怒りを体現するかのように、霊力はものすごい閃光を発し、妖力を包み込む。

 

「こ、この俺様が………、こんなガキに………、やられるとは………、無念である………!!」

 

さしもの髑髏坊も、そう言い残すもが精一杯だった。

直後、閃光はウォール街上空を昼間のように照らし出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは、真っ白な世界だった。

何も見えない、まぶしいだけの世界。

リカはその真ん中に、ふわふわと浮かんでいた。

 

「リカ………。」

 

そんなリカの耳に、心地よい声が聞こえたのは、その時だった。

小さい頃に何度も聞いた、優しい温もりのある声。

その正体に気付いて振り返ると、その人物がこちらに笑いかけていた。

 

「パパッ!!」

 

深めの帽子と赤いスカーフ。

そして、腰に下げた金の銃。

そこにいるのは間違いなく、リカの父親だった。

 

「リカ、少し見ない内に、大きくなったな。」

 

「パパ………、リカ、会いたかった………。ずっと………、ずっと会いたかった!!」

 

突然の再会に感極まり、父の胸に飛びつくリカ。

その胸は記憶と同じ、逞しく、暖かかった。

 

「リカ………、パパとの約束は覚えているか?」

 

「うん! リカ、ニューヨークに来た。一人で怖かったけど、泣かなかった!!」

 

父の問いに何度も頷き、リカは笑顔を見せた。

 

「それに、友達出来た。新次郎、サジータ、昴、ハワード、ラチェット、プラム、杏里、ついでにサニーサイド!! リカ、い~ぱい友達出来た!!」

 

「そうか、良かったな。リカ、本当によく頑張った。」

 

そう言って、父は優しく頭をなでる。

リカは嬉しさと恥ずかしさが混ざったなんともむずかゆい気持ちになり、赤い顔で俯く。

と、光が急にリカの体を包み始めた。

 

「それが分かれば充分だ。リカ、ありがとう。」

 

「パパ!?」

 

それと同時に、父はリカを降ろす。

すると、瞬く間に自分が父と離れていくではないか。

 

「やだ! パパ、行かないで!!」

 

先ほどまでの幸せな顔から一転して、悲痛な顔で叫ぶリカ。

しかし、父の姿はもう豆粒程度にしか見えなくなっていた。

 

「リカ、お友達を大切にしなさい………。そして、いつか素敵な家族を作りなさい………。」

 

完全に姿が見えなくなる一瞬、リカは確かにその言葉を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あ………。」

 

ふと目を開くと、そこには満点の星空が見えた。

いつか父と二人で見た星空。

いくつもの光が、あの時と変わらず自分を見下ろしている。

 

「………ウルトラマン………?」

 

ふと、リカは自分を支えている巨人に目を移した。

昼間と今、二回自分を助けてくれた真っ赤な光の巨人。

その手に抱かれた感覚が先ほどの真っ白な世界を想起させ、リカはこの上なく心地よい感覚を覚えた。

 

「ねぇ、リカ………、パパに会ったよ。」

 

ウルトラマンが、無言で頷いた。

 

「パパ、言ってた。友達を大切にしなさいって………。だからリカ、みんなと一緒にいる。みんなと一緒なら、怖くないから………。」

 

自分の言葉が聞こえているかなんて、どうでもいい。

リカはただ、今溢れんばかりのこの気持ちを、誰かに伝えたかった。

星組という家族が出来たという、何物にも代え難い喜びを。

 

「ねぇ、パパ………。リカ、幸せだよ………。」

 

ふと目を閉じ、浮かんだ父に語りかける。

その可愛らしい姿を、モニターに映った仲間達とスターを抱く紅の巨人が、優しく見守っていた。

 

<続く>




《次回予告》

命には必ず終わりがある。

それは逃れられぬ宿命。

命がみな生きなければならないのなら………、

私も、生きなければならないのですか?

次回、サクラ大戦5。

《Life time》

………や、やっぱりやるんですか?

摩天楼に………、バキューン!
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