「そう言えばヒッキーは頭いいの?」
サンドイッチを頬張り、紅茶を飲みつつ由比ヶ浜は唐突に切り出す。
「恐らくお前の頭いいってのは勉強ができるかどうかってことだよな?」
「そうそう。ヒッキー真面目に勉強してるし、きっと頭いいんだろうけど」
「・・・」
「まあ、目を見ればおおよそ見当はつくけれどね」
「お前は何もんなんだ一体・・・。ま、でも由比ヶ浜よりは確実にいいな。お前はばかだからな」
「な! バカじゃないし!」
「普通ならば総武高校に入学した時点である程度の才能を感じるはずなのだけれど、由比ヶ浜さんには全く感じない物ね・・・。裏口入学かしら?」
「うわー! ゆきのんまで酷い! ちゃんと筆記試験で入ったし!」
「では内申がよかったのかしら」
「あー、それはあるかも。私45だったし」
内申か。そういや俺は教師連中の評価も軒並み低かったし、内申も酷いもんだったな。道理で雪ノ下がトップ合格だったわけだ。
「それでもテストで最低八割は必要よね・・・。やはり裏口・・・?」
「もうその辺にしといてやれよ。由比ヶ浜涙目になってんぞ。まあ普段一緒にいてもとんちんかんなことは話すし、ものも知らないけど、そこまで言うことじゃないだろ。俺も筆記で入学したとは思えないけど」
「ヒッキーの方がひどいからね!?」
やんややんややりつつ、勉強を開始する。由比ヶ浜がごねるため、イヤホンはつけていないが、由比ヶ浜の唸り声がまじでうるさい。溜息を一息つくと、少しさまったコーヒー牛乳に口をつけ、再び溜息をつく。
既に雪ノ下は集中しきっている様子で、淀みなくペンを走らせている。由比ヶ浜は相変わらず一つの問題にてこずっている。マスターは並べてある瓶の手入れをしている。
由比ヶ浜に気を取られているのは集中しきっていない証拠だ。もう一度問題に向きなおり、思考を没入させる。この問題は平方完成して・・・。
~~
「一時間経ったわね。それじゃあ由比ヶ浜さんはどれだけできているかしら」
ん、もうそんな時間か。意外とこいつらいても集中できてたな。しかし由比ヶ浜の出来の悪さに雪ノ下が頭痛をこらえてんだが。こめかみに指当ててんだが。
「・・・まともに授業聞いていたとは思えない出来ね」
・・・あー、これは俺でも引くレベルでできてないな。何で中学レベルの因数分解しかできてないんだよ。
「いや~・・・あはは」
そこから懇切丁寧に雪ノ下が教えるも、由比ヶ浜が完全に理解できるには至らなかった。由比ヶ浜が当然悪いのだが、教える雪ノ下もある程度の問題があるだろう。こいつの説明はわかるやつには新たな視点での見方に繋がるのかもしれないが、由比ヶ浜のようなやつには無理だろう。
俺がさすがに助け舟を出そうかと思ったら、小町からのメールが来る。よし帰ろう。すぐに帰ろう。まあ由比ヶ浜のために何かしてやる義理もないしな。
「んじゃ、俺帰るわ」
「ああ、そう」
「えっ! ヒッキーもう帰っちゃうの?」
「ああ」
カバンを背に、お勘定を済ませてからドアを開ける。カランと入った時と同じ音がし、マスターの一声。
「またのお越しを」