「やっはろー・・・」
放課後になってから既に半刻。ようやく由比ヶ浜が現れた。緊張した面持ちで、しきりに自分の髪を弄っている。部分は言わずもがなお団子だ。
「こんにちは」
「うす」
普段通りのやり取りの中にも、少しいつもと違う様子が見て取れる辺り、今日が非日常だということを示している。
雪ノ下はどこかそわそわと落ち着きがないし、由比ヶ浜もちらちらと俺や雪ノ下を見やっている。
視線を雪ノ下に向けて、プレゼント渡しの開始を促すと、雪ノ下は目だけで返事をする。
雪ノ下が深呼吸して話し出そうとしたとき、由比ヶ浜が口を開く。
「やっぱり、そういうことだったんだね・・・」
「・・・気づいていたのね」
「・・・うん」
の割には嬉しくなさそうだな。泣きそうになっているとも見えるが、感動で? そこまであるか? まああの雪ノ下が友達にプレゼントを渡すようになったと聞いたら親とか喜ぶかもな。俺が親なら間違いなく熱計るか病院に連れていくかするが。
「・・・いつからなの?」
「・・・? 先々週くらいかしら。あなたとメールアドレスを交換したときに」
恐らく雪ノ下が言っているのは自分でプレゼントを贈ろうと思った日を答えている。計画開始の時期なんて知ってどうするのか。そのときに知っていたならもっと盛大に祝えと由比ヶ浜が言うとは思えない。
「そっか・・・全然気づかなかったな・・・」
何か元気なさそうだし、さっさと帰したほうがよさそうだな。
カバンをがさごそと探り、煌びやかに包装された首輪を取り出す。
「誕生日おめでとう」
「え?」
「ちょっと比企谷君? 一緒に渡そうって・・・」
「こいつ体調悪そうだし、早く済ませた方がいいだろ」
「そうね。今日の由比ヶ浜さんはいつもよりうるさくないものね」
こいつはいつでも辛辣なのな・・・。
「え、今日の話ってこれ?」
「・・・? あなた気づいていたのではないの?」
あー・・・何か話かみ合わないなと思ったら、やっぱ誤解があったか・・・。まあどうでもいいか。
「い、いや・・・あはは!」
「なんか急に元気になったな。現金な奴だ」
「ち、違うし!」
「由比ヶ浜さん、私からも、その・・・おめでとう」
「ありがとうゆきのん!」
「ちょっと由比ヶ浜さん!?」
由比ヶ浜の抱き付き攻撃に成す術なく雪ノ下は陥落。相変わらずゆるゆりしてやがる。いっそ部名もごらく部にするか。やること変わんねえだろうし。そしたら俺は場違いだから辞められるし。平塚先生バックに居る時点で絶対に無理だけど。
プレゼントを開けて、エプロンはおろか首輪までつけるというお約束までやったところで俺が罵倒される。できれば俺への罵りはお約束にしてほしくない物だ。
由比ヶ浜はこの後友達との食事会があるらしく、去って行った。由比ヶ浜も笑顔になってたし、成功と言えるのではないでしょうか? 雪ノ下も満足げだしな。