不良八幡の学校生活   作:雨雪 東吾

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今週からまた続けていこうと思います。よろしければお付き合いをお願いします。
今回に限って言えば前回の書き直しで、読む価値は殆どないです。なんなら前回の方がよかったかもしれませんが、消したのでもう見れません。
一部修正を行いましたが、話の大筋は変わりありませんので読み返す必要はありません。
長々と書きましたが、来週から再び宜しくお願いします。


テニス 7

 数度地面にボールを弾ませる。バウンドの感覚、投げる強さを確かめつつ、ボールをしっかり握る。神庭は俺を狙ってきていて庭木戸もそれに倣っている様子。つまり俺がしっかりしていれば負けることはない。しかし相手は腐ってもテニス部であり、更には二対一といって差支えない状況でもある。ではどうすればいいのか。正解は・・・一対一で勝つ。

 

 視界の色が変わった。実際に変わっている訳ではないが、目に映るものが今までとは違うので、その比喩だ。

 

 コース、速度をいくら高めても、俺のサーブでは彼らの虚をつくことはできなかった。だったら、回転とバウンドではどうだろうか。ここ数日は快晴でコートは十分に固い。特に神庭は背が低く、ボールを高く跳ねさせればさぞかし打ちにくかろう。

 

 ボールを高くあげ、サーブの態勢に移る。俺が狙うのは神庭の手前向かって左側。テニプリ最初期に使われてた・・・ツイストサーブ!

 

 可能な限りの球速、回転、コースを実現し、できるだけ跳ねるようにする。右打ちに対し、ツイストサーブは向かって来る球で、低身長の神庭にはかなり打ちにくい。何故なら自分の打ちたい場所で打てないからだ。

 

 まともに打てずにコート外でボールが転がる。あっけらかんとする彼らを前に、俺はただ場所を移った。

 

「材木座、今度は俺が左だぞ」

 

「ひゃい! す、すいませぬ」

 

 ボーっとしてるやつがこんなところにもいた。全部俺が打つつもりではあるからどうでもいいが。

 

 向こうからボールが投げられ、もう一度俺のサーブ。次はスライスサーブだ。神庭に比べ背の高い庭木戸には打ちにくくなるまでボールを上げにくい。確かにそれを差し引いても向かって来る球は打ちにくいが、ツイストは一度見せているため、向こうにしても心構えが可能だ。だからここはスライスサーブを打つ。スライスはツイストと逆回転で、右打ちに対して逃げていく。

 

 ツイストの時は跳ねるようにしたが、スライスは低い弾道にする。低い位置で打ち、球速を上げ、相手にツイストかスライスか攪乱できるかもしれない。打ち方でわかるかもしれないが、今見たツイストは頭に残っているだろう。

 

 それに、低い弾道と逃げていく球なので、庭木戸から球は遠くなる。力を込めて打たれるとこちらとしては困るため、背の高い庭木戸にはこちらが有効なはずだ。この場合相手が流し打ちする可能性が高いので、俺に返ってきやすい点もいい。

 

 30-30。俺の思惑通りにゲームを進んでいく。庭木戸には打ち返されるも、力は入っておらず前に出て打てばこちらのポイントだ。その次からは返されるも慣れてはいないのか、こちらに有利に進められるようなボールが返ってくる。広い視野で彼らの動きを観察し、次にどこに打つか、どう動くかを予測すれば俺であっても打ち返すことは可能。相手の動きをそのまま受け入れ、動く。感情を排し、情報をそのまま処理すれば行きつく境地は当に無我の境地と言ってもよいだろう。

 

 勝てる、勝てるよ。俺は勝たなければならない。考え、小手先で誤魔化す。今までもそうしてきた。ある程度の努力と思考を巡らし、的確な情報処理をすれば・・・俺の、勝利だ。

 

「・・・っと」

 

 気を抜くとすぐこれだ。疲れがどっと押し寄せる。アドレナリンの効果を実感しながらも形骸化した挨拶を交わす。

 

「お前強いな。どこ中だった?」

 

「・・・俺はテニス経験者じゃねえよ。体育でやったくらいだ。じゃあな」

 

「は?」

 

 庭木戸の問いに対する返答は余りにも衝撃的だったらしく、二人は顔を見合わせた。何やら考え込むような仕草の後、神庭は地面をけりつけ、次の試合のコートに移って行った。

 

「お疲れ。材木座、勝利報告に行くぞ」

 

「あ、師匠。お、お疲れ様です」

 

「・・・打たせてやれなくて悪かったな」

 

「あ、いや。それは別に構わんが・・・」

 

 おずおずとこちらを窺う材木座がうっとおしいので若干速めに俺は歩いた。




花粉症の季節となりました。マスクするだけでも大分変るので、マスクは偉大。

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