誰が為に征く   作:駆華野 志想之介

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文章構成の本を漁っていたら時間が経ってしまいました。
挙句特に変わった点もないという始末……
それでは気を取り直して

くりっく?
くらっく!


鍛治士のトリック

鍛治士ネズハが行っている強化詐欺は《レジェンド・ブレイブス》リーダーであるオルランドの指示によるものだと、俺は思う。

アスナに聞いたところによると《ネズハのスミスショップ》がウルバスの街に現れてからまだ一週間は経っていないが詐欺で搾取した武器を数えれば相当に儲けているだろう。

そこまで話したところでアスナは勢いよく立ち上がった。先ほどまでフィールドボスとの戦闘が行われていた戦場を一睨みしてから、岩山を下る坂道へと向かおうとするので、慌ててレイが止めに入った。

アスナと同じ位には怒りを覚えているはずなのに冷静でいられるあたり、さすがだと思う。およそ一月を共に戦った彼女は戦友と呼べるものだろう。アルゴに二人して会った時は意味ありげにからかわれたが、俺もレイもそんなことはないと冷静に返した。二人とも(失礼とは思うが)異性というより気の合う友人、もしくは仲間という考えしか持っていなかったのだ。(異性として見てなかったと言われた時は膝から崩れ落ちかけたが)

話が逸れたけど、そろそろ目の前のがっぷりよっつを組みそうな勢いの二人を止めなければ。

咳払いを一つして俺はゆっくりと二人に近づいた。

「待った待った。気持ちは解るけど、まだ何の証拠もないんだ」

「だからって、このまま……」

「でも証拠もないままじゃ、武器強化の失敗を押し付けようとしてるようにしか見えないよ」

「少なくとも詐欺のトリックを見抜いてからじゃないとな」

俺たちからの説得を受けてようやくアスナは怒りを収めた。

ブルバス・バウを討伐した二パーティ+五人が、補給とメンテのために一度マロメの村に引き返していったタイミングで、俺たちは岩山を降りた。

 

 

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「嫌っ……来ないで……!近づかないで……‼︎」

両目を恐怖に見開き、震声を漏らす美少女に、のっしのっしと迫る逞しいシルエット。それを防ごうと二者の間に立ちはだかった美少女。

遠回しに言ってサスペンスかホラーものの映画バリのシーンだが、ここから先はシリアスから、かなり逸脱する。

「アスナに……近寄るな変態‼︎」

「来ないでって……言ってるでしょ‼︎」

少女たちは怒りの咆哮とともに走り出す。相手の攻撃よりも早く繰り出された槍とレイピアの突きが雷光のように閃く。

顔面と胸板に刺突を受けた襲撃者が半裸の肉体をぐらりと揺らす。

「ブ……モオオオオオッ‼︎」

槍が引き抜かれ、短いツノと金属の鼻輪を備えた頭が仰け反り、断末魔の悲鳴を撒き散らす。後退していく巨体がピタリと停止。滑らかだった筋肉が淡い色の硝子片となって爆散した。

牛頭人身のモンスター《レッサートーラス・ストライカー》を屠ったレイピア使いは、しばらくその場ではぁはぁ息を荒げ、それを槍使いが背中をさすって落ち着かせていた。

二人がやがてキッと顔を上げると、こちらを睨んで叫んだ。

「変態⁉︎変態なのこれの製作者⁉︎」

「牛じゃないでしょ、こんなの!」

 

俺たちトリオが第二層迷宮区に、おそらく最も早く足を踏み入れてからすでに二時間が経過している。

ここまで順調に進み、二階まで到達した。そこでようやく塔の主たる住人、トーラス族と初遭遇したーーのだが。

女性陣二人はかなりのご立腹のようだ。

確かにモンスターといえど、ほぼ全裸に近い上に人間に似た体躯とくれば怖がるのも当然である。

その後ミノタウロス系のモンスターの話に切り替えると、二人の剣呑な眼光が和らいだ。

なんとアスナ嬢によればミノタウロスのミノはミノス王のミノであり、ミノタウロスを《ミノ》と略すのは不適当らしい。

その後ボスが使ってくるであろう《ナミング》回避の練習にと四匹のトーラス族と戦闘し、各所の宝箱からのドロップアイテムなどでアイテムストレージをいっぱいにした俺たちは、他のプレイヤーに遭遇することなく迷宮区から出た。

密林を抜ける石敷きの道を、戦闘をなるべく回避しつつ二十分程歩いて最寄りの村ーーボス攻略の拠点となる《タラン》の圏内に入り、ひと息ついた。

村の中にはかなりの数のプレイヤーがいる。フィールドボスを倒したことで、一つ手前のマロメの村を拠点にしていたプレイヤーがこぞって移動してきたのだろう。俺は抜かりなく黒革ロングコートを除装し、アスナとレイに不評のバンダナで顔の上半分を隠した。

二人も戦闘中は外していたフーデッドケープを目深に被った。

俺とアスナがアルゴに用があるので待ち合わせ場所である酒場に向かおうとした時。

規則的に響く金属が金属を叩く音を捉えた。

「ーーーーーー‼︎」

俺たちは同じタイミングで顔を合わせ、次の瞬間には音の聞こえてきた村の東へと体を向ける。

走るのを堪えてゆっくりと近づくと、そこには予期した通りの光景があり、俺たちはしばし立ち尽くした。

畳二枚分ほどのカーペットの上に広がる鍛冶道具、その中央で一心にハンマーを振る小柄な男性プレイヤー。

見間違えるはずはない。《レジェンド・ブレイブス》の一員にして、《強化詐欺師》ネズハだった。

 

 

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結果からして、俺たちはその場をすぐに離れた。

強化詐欺、前線攻略プレイヤー、アルゴと、話題を転々としていた時にアルゴとの約束の時間が間も無くだということに気づいて、急いで酒場に向かったのだ。

 

 

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「ふぅ〜ン」とアルゴ。

「違うぞ」と俺。

かなり省略された部分を補うと大体こういう話だ。

ーーふぅ〜ン。元ベータテスターのキリトが、レイだけでなくアスナにも手を出したカ。この情報は幾らになるかナ。

ーー違うぞ。なし崩し的に行動しているだけだ。レイはもう一人でも大丈夫なんだから。

もっとも、行動している事実は変わらない。レイとはなんだかんだでほぼ一ヶ月ほど共に行動しているが、それは効率を重視したまでだ。

ーーと、いうような一瞬の思考が伝わったかは定かではないが、俺は素知らぬ顔でアルゴの向かいの席に腰を下ろすと、隣に一時的なパーティメンバー二人が着席するまで待って黒エールを注文した。

続けてアスナとレイが果実酒ソーダ割をオーダーし、NPCウェイターが引っ込んですぐに飲み物が届く。

各自に飲み物が届いたところで俺はあることに気づいた。

アルゴの隣の席に置かれた果実酒ソーダ割、加えてこのテーブルは六人掛け。俺たちの人数なら四人席でもいいはず、なのにアルゴはワングレード上の六人席に座っていた。そして先日アルゴの隣にいた人物が今はいない。つまり。

「なぁアルゴ、もしかしてそのソーダって」

俺が言い終わるか終わらないかのその瞬間。古めかしい音を立てて酒場の木製扉が開かれた。反射的に扉の方を見やると赤いフード付きコートが目に入った。先日ミトと共に会ったセンその人だった。

ガタ、と音を立てて彼女の姿を見たレイが立ち上がり、次の瞬間には駆け出していた。

「ユキ!」

数年来の友人にするように飛びつくレイ、それを後退しながらも優しく受け止めたセン。ここがデスゲームなどというのが信じられないくらいの日常がそこにはあった。

「レイ、ここではセンって呼んでくれ。一応ゲームの中だし」

「わかった! これからもよろしくね!」

「おう!」

などとほのぼのとした会話が続いていく。

落ち着いた二人が席に着いてからアルゴがジョッキを持ち、こちらに視線を送ってくる。……俺にやれと?

「あー……こほん、それでは、第二層迷宮区到達を祝って……乾杯!」

「カンパーイ!」

「……乾杯」

「乾杯!」

「か、乾杯」

各々がジョッキを掲げてから、それを口に含む。

迷宮区から帰った後のエールはなぜか美味く感じる。しかし大人のプレイヤーは、酔えない酒は美味くないと言っていたっけか。

そうなると、俺の目の前で美味そうにジョッキを一気飲みしている情報屋も、ティーンエイジャーなのかもしれない。

ちらりと隣を見れば、レイを仲介としてアスナとセンが互いの自己紹介をしている。

アルゴもそれを嬉しそうに眺め、空になったジョッキをテーブルに戻すと、即座にお代わりを注文してから言った。

「ゲート開通から五日で迷宮区到達カ。ずいぶん早かったナ」

「そりゃ、一層と比べればな、下で時間がかかった分、レベル10を超えたプレイヤーも多かったしな」

そこで言葉を切り、アルゴと俺がそれぞれの飲み物に口をつけたタイミングで、アスナがぽそりと俺に尋ねた。

「ベータテストの時、二層のボスって挑戦何回目で倒せたの?」

「ん……と、初挑戦からだと、俺が参加した戦闘だけでも十回は壊滅したかな……。まあ、レベル5とかで無謀なチャレンジしてたからさ」

そう言って俺はチラリと視界に表示されているパーティ用HPゲージを眺める。

俺のレベルは、迷宮でトーラス族狩りに奔走したおかげで14に。レイとアスナが13、12と、綺麗に並んでいる。

「そういや、二層のボスってなんか特徴とかあるのか?」

ソーダを空にしたセンが俺とアルゴに尋ねる。

アルゴはジョッキをテーブルに置くと腕組みをして唸った。

「ここのボスはナ、レベルよりも装備の強化ぎ重要ナンダ」

「そうなんだよなぁ……」

俺もため息まじりに頷く。二層ボスの操る《ナミング・デトネーション》はダメージを主眼に置いたものではなく、武器防具の強化ボーナスによって、阻害耐性を上げる必要がある。

その旨を場の全員に告げると、皆一様に頷いた。その中でレイが、頬杖をついてテーブルに乗り出す。

「武器防具の強化が必要ってことは、ネズハのお店が儲かっちゃうね」

「………………う……」

それを聞いた瞬間、俺は無意識に声を漏らしていた。

ネズハがタランに移ってきた理由が、最前線プレイヤーの強化需要を見越してのことだったら? もしそこでレア強化武器を詐取しまくったとしたら…………。

「……アルゴ」

二の腕に這い上がる悪寒を擦り落とし、テーブル上にウィンドウを開いた。

迷宮区のマップデータをスクロール化してアルゴに渡し、俺はそこで条件付きの依頼をアルゴに頼んだ。

コケティッシュな流し目を向け、こちらを見るアルゴに告げる。

「今朝の《ブルバス・バウ》討伐戦に参加してた、《レジェンド・ブレイブス》っていうチームの情報が欲しい。メンバー全員の名前と、結成の経緯だ。条件は…………誰にもこのことを知られたくないってことだ、彼らには特に」

散々悩んだアルゴだったが、最後は「ま、いっカ」と言った。ほっとしたのも束の間、にんまり笑って続ける。

「でも、これだけは憶えといてくれよナ。オネーサンが商売のルールよりキー坊への私情を優先させたってことをナ」

途端、左に座るレイのくすくすという笑い声と、反対側からのめらっという気配がした。

「んデ、アーちゃんも何かオイラに依頼があるのカ?」

 

十分後ーー。

俺とアスナは、酒場から再びタランの村・東広場に戻っていた。

広場の中は、周囲をぐるりと背の高い建物に囲まれている。しかしそのほとんどがプレイヤーハウスやNPCショップでもなんでもない空き家だった。

実際この空き家を宿代わりにしているプレイヤーは少なくない。部屋がシステム的に保護されていないという問題点は残るが、誰かに危害を加えられることはないだろうが。

宿代を節約するべく何度か夜を明かしてみたことがあるが、何か物音がするたびに飛び起きてしまい、熟睡などできはしなかった。

そんな理由で倹約を断念し、宿屋もしくはNPCハウスの貸し部屋に泊まっている。

なぜ突然こんなことを考え出したのか。一つはこの空き家、倹約意外にも活用方法がある。

ちょっとした打ち合わせやドロップの分配ーーあるいは、誰かの監視など。

そしてもう一つ。

その光景を目にした瞬間、俺もアスナも一瞬ぎょっとした。

なぜなら、通り過ぎようとしたその部屋をちらっと覗いたとき、中に人がおり、その人物と視線が合ったからだ。

柳葉色のフード付きコートに乳白色の胸当て、肩よりも伸びた髪と整った顔立ち。近くで見て純日本人ではないのだと気づけたその人は、先ほど行われたフィールドボス討伐戦にいたロノミアだった。

そしてその隣。マントを羽織り、壁にもたれかかるようにして眠っている銀髪のプレイヤーは、第一層ボス攻略を共にしたミトであった。

 

 

===================

 

 

俺だけが部屋の前に来たとき、急に背筋が凍るような感覚に陥った、まるでボス戦のような感覚。しかしそれよりも濃いような、言い表すなら殺気が、目の前のロノミアから向けられたような気がした。

そう、気がしたのだ。

なぜねら、アスナが俺の横から顔をのぞかせた瞬間に、殺気染みた何かは霧散していたのだから。

アスナを見つけて朗らかに笑うロノミアを見ていれば、先ほどの感覚は勘違いだったのだと思えた。

「昨日ぶりですね、アスナ」

「ええ、本戦おつかれさま。……急に出ないなんて言い出して、ごめんなさい」

「大丈夫ですよ、参加は強制ではないですし。自分の意思が主張できたんですから」

ね?と微笑んでみせるその笑顔はどこか包容力があった。

本戦を出ないと言っていたアスナはどこか後ろめたさを感じていたのかもしれないが、それもずいぶん和らいだようだ。

そのロノミアは、アスナを見ていた視線を俺へと向ける。やはり、柔和な眼差しだ。

「それで、あなたは?」

「え、あぁ。キリトだ」

互いによろしく、と頭を軽く下げる。

「立ち話もなんですし、入ったらどうです?」

ちょいちょいと手招きをし、四つある椅子を指して提案するロノミア。

俺とアスナは顔を見合わせる。

ここに来たのは鍛冶士ネズハを監視するためだ。タランの村から彼がいなくなる前に、トリックを見破らなければならない。

「せっかくの申し出だけど、わたしたちはこれからやることがあって……」

伏し目がちにそう切り出すアスナを見つめていたロノミアが、くすりと笑った。

「それでしたらこの部屋がおすすめですよ」

「「え?」」

俺とアスナは揃って疑問符を浮かべる。

ロノミアはゆっくりと立ち上がり、窓から少し離れた位置から外を覗き見た。

それからこちらを振り返り、俺たちにも見るよう促す。同じように窓から少し離れて外を見てハッとした。

ロノミアたちのいたこの部屋なら、ネズハの監視にもってこいの位置取りだ。

「アルゴからお前たちが強化詐欺を追ってるって聞いてな。見張るならここだろうと思って待ってみたんだ」

休憩も兼ねてな、そう言ってあくびを噛み殺しながらミトが起き上がる。

「アルゴから聞いたってことは、ミトもネズハのことは知ってるのか?」

「おおよそはな」

ミトはゆっくりと立ち上がると、四人掛けの椅子を引いて腰を下ろした。

その隣にロノミアが座り、俺とアスナはそれに対面するように座った。ちょうど窓を挟んだ形となり、双方からネズハのスミスショップが監視できる。

「確かに、ここならいいアングルね」

あまり窓に近づかないように広場を見下ろしたアスナが短く言った。

「真後ろだと、角度的にきつくて見えにくいからな……。晩メシ、ここに置くぞ」

酒場から移動する道すがらの屋台で買った中身不明の蒸し饅頭を一つ、テーブルの上に置いた。

対面に座るミトとロノミアに勧めるが、ロノミアが自前があると言って断った。

「俺もパスだ、さっき同じ物を食ったからな」

そう言ったミトは、なぜかイイ笑みを浮かべている。

「そうなのか。なぁ、この《タラン饅頭》の中身って」

なんだった?

そう言おうとしたその瞬間、俺の隣に座るフェンサーがあんぐり大口を開け、ほかほかの饅頭にかぶりついた、その刹那。

「うにぁあ!」

という奇声が耳に届いた。見れば、椅子に掛けるアスナが、両手で饅頭をホールドしたまま硬直している。饅頭には小さな歯型一つ分の体積が齧り取られていた。

続いて対面に座るミトが前かがみになって笑い出した。

そのミトをジト目で睨むロノミアがおり、なんとも言えない空間が出来上がってしまった。

その空間の中、泣きそうな顔になりながらも律儀に囓ったぶんを飲み込んだアスナは、か細い声で言った。

「この……あったかいカスタードクリームの中に、何か甘酸っぱい果物が入ってるっていうことを…………もし……もしあなたが、ベータテスト中にコレを食べてて、その中身を知ってて食べさせたんだとしたら……わたし、自分を抑えていられる自信が無いわ……」

「誓って知りませんでした。ホントに、絶対、アブソリュートリィ」

手渡したハンカチを、口の周りについたクリームを消し去って突き返してくるアスナは、続いてミトを睨むが、当のミトなんのことかと肩をすくめてみせる。

「俺とキリトが中身の話をしてるのを最後まで聞けばよかったんだ。聞かなかったお前が悪いぜ?」

すごくイイ笑みでそう指摘するミトをもう一睨みして、ぷいと顔を窓へと逸らした。

俺たちもそれに倣って窓の外。鍛冶屋ネズハへと視線を向けた。

その後、ほかほかだった饅頭が冷めた頃に再び食べ始めてみると、甘さ控えめのクリームは飛び出ることなく、ちょうど良い味を作り出していた。

おそらくはスタッフもしくはシステムの悪戯によって加熱販売されたのだろう。

考えが横道に逸れたが、この張り込みの主目的は鍛冶屋ネズハが、どんな手段で強化詐欺を行ったのかということだ。

手段は不明だが、あの時ウインドフルーレがなぜ一発で砕けたのか、それだけはすでに判明している。なぜならそれが、アスナがアルゴから買った情報だ。

アルゴ曰く、『厳密な失敗ペナルティとしてなら、武器破壊はまず間違いなく起きナイ、ただ、強化を試みようとして必ず結果が破壊になる場合はアル。それは、試行可能数が残っていない剣わ、更に強化しようとした場合ダ』

つまり、昨日の夜に、俺とアスナ、レイの眼の前で砕け散ったウインドフルーレは、やはり手順のどこかですり替えられていたということだ。今のアスナのウインドフルーレは、試行数を二回残しているので、武器破壊は起こりえない。

そう言えば、最初にネズハのスミスショップを見かけた時に、強化を三連続で失敗したアニールブレードを買い取ったのは次への仕込み…………

「––––みんな」

鋭い囁きが、俺の想念を停止させた。

それと同時、視界右側に紫色のアイコンが点滅した。

急ぎ表示された手紙マークをクリックすると差出人はレイだった。メールの内容は一文だけのシンプルなものだったが、俺はそれに目を見開くことになった。

【リンド隊、たぶん強化】

がばっと窓を向く。眼下の広場は、いつの間にかすっかりと夜のとばりに包まれていた。

そんな中をまっすぐに横切る一人のプレイヤーがいた。街灯を反射する金属鎧と、暗さでダークブルーに見える胴衣。確かにあれは最前線組の《リンド隊》の出で立ち––––。

彼はネズハのスミスショップに歩み寄ると、腰の留め具から剣を外した。

「形からして、恐らく片手用直剣です」

「ああ、レアリティで言えばそこそこ高い」

「……すり替えの標的としては充分ね」

ロノミアやレイ、隣のアスナが素早く囁いた。

彼らの素早い洞察力に少々驚かされながらも、最小限の動きで頷く。

ネズハは受け取った剣を抜き、右手をカーペットに並べられているいくつもの皮袋の一つに伸ばした。あの中には恐らく、目的別の素材アイテムがストックされているはずだ。つまり––––

「……強化だ!」

そして当初の予定通り、動いてる右手とは逆の左手に視線を固定し続ける。

強化の色を示す深紅の光が一瞬強く迸り、すぐに収束して待機状態へ移行……。

その瞬間、俺は全身をかすかに強張らせた。

赤い光が強く輝くと同時に、ネズハの左手で何かが起きたような気がしたのだ。同じことをアスナも感じたのか、触れ合う肩がぴくりと震える。

「今……」

「剣が……」

そしてネズハはゆっくりと、その刀身をスミスハンマーで叩き始めた。五回。八回。そして……十回。

鈍色の刃が儚く砕け、俺もアスナも目を逸らさずにはいられなかった。




長引いた分書き溜めていたので今までよりも文字が2倍程大きくなりました

はつかねずみがやってきた
はなしは、おしまい
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